JP3871529B2 - 硬質炭素膜成膜方法 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明はセラミック硬質被覆膜と硬質炭素膜を連続して形成させることにより、密着性の優れた硬質炭素膜をセラミック被覆切削工具部材の表面に経済的に被覆する硬質炭素膜成膜方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
硬質炭素膜は、ダイヤモンドライクカーボン(Diamond Like Carbon) の略で通称DLCとも呼ばれているアモルファス状の炭素膜である。この硬質炭素膜は物性的にはダイヤモンド膜と炭素膜の中間に位置するものであり、高い膜硬度を有しており、平面平滑性に優れ、低摩擦係数であることから、近年その特性を利用した工業製品が市場に出始めている。例えば、硬質炭素膜の耐摩耗性を利用したプラスチック金型や絞り金型等の工具部材への適用や、高潤滑性を利用した磁気ヘッド、磁気テープなどの電気部品が挙げられる。また、特に硬質炭素膜は低摩擦係数であるためアルミ等の軟質金属の加工時に生じる凝着や溶着を防ぐことができることから切削工具への適用も考えられている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の工具部材でも特にドリルやエンドミルのような切削工具に適用する場合は、従来の硬質炭素膜だけでは耐溶着性には優れるものの耐摩耗性の点で従来のセラミック硬質膜より劣るため硬質炭素膜だけの被覆では十分な寿命が得られない。したがって切削工具に適用する場合は従来のセラミック硬質膜(TiN、TiC、TiAlN、CrN等)との複層化が重要な要素となり、特にセラミック硬質膜に対する硬質炭素膜の密着性が大きな問題となる。
本発明は、耐摩耗性のあるセラミック硬質被覆膜と高潤滑性を有する硬質炭素膜を連続して形成させることにより、密着性の優れた硬質炭素膜を工具部材に適用することによって切削工具の加工、特に軟質金属の加工においてその性能を飛躍的に向上させた硬質炭素膜成膜方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
このため本発明は、マグネトロンスパッタ法によってセラミック硬質被覆膜を工具部材に形成した後に、炭化水素系ガスを用いることによって同一装置内においてプラズマCVD法により連続して硬質炭素膜を成膜する硬質炭素膜成膜方法及び硬質炭素膜被覆工具部材としたものである。即ち、マグネトロンスパッタ法(MSP法)により、窒素ガス、炭化水素系ガス、酸素ガスのいずれか1種以上の反応性ガスを用いて金属ターゲットからの金属スパッタにより基板に装着した高速度工具鋼又は超硬合金鋼を母材とする工具部材表面に窒化物、炭化物、炭窒化物、酸化物の1種以上のセラミック被覆膜を形成した後に、同一装置内に炭化水素系ガスを導入して、前記金属ターゲットから金属スパッタされた金属粒子が前記基板に到達しない範囲に抑えることにより、金属ターゲットから放出された電子のみが炭化水素ガスのプラズマ放電をアシストするようにした、金属ターゲットからのプラズマアシストによるプラズマCVD法(Target Assist Plasma Chemical Vapour Deposition:TAPCVD法)により硬質炭素膜をセラミック硬質被覆膜の上に連続して形成させたことを特徴とする硬質炭素膜成膜方法としたものである。
【0005】
【発明の効果】
かかる構成により、本発明は、耐摩耗性のあるセラミック硬質被覆膜と高潤滑性を有する硬質炭素膜を連続して形成させることにより、密着性の優れた硬質炭素膜を工具部材に適用することによって切削工具の加工、特に軟質金属の加工においてその性能を飛躍的に向上させることが可能となった。
【0006】
マグネトロンスパッタ法は通常は複数の金属ターゲットを装備しており、金属ターゲット(例えばチタン)をアルゴン等の不活性ガスで金属表面をスパッタし、そこに反応ガス(例えば窒素ガス)を導入することによってセラミック硬質膜(例えばTiN)を成膜するが、硬質炭素膜を形成する場合は金属ターゲットの替わりにカーボンターゲットを用いる方法がある。その場合、▲1▼金属ターゲットでセラミック硬質膜を形成し、再度カーボンターゲットに替えて硬質炭素膜を成膜する方法と、▲2▼金属ターゲットとカーボンターゲットを同時に装備して金属ターゲットによるセラミック硬質膜成膜後、連続してカーボンターゲットで硬質炭素膜を成膜する方法が考えられる。
【0007】
しかしながら上記の方法では▲1▼の場合は再度処理を行うため処理時間が長くなることと、ターゲットの取り替えに際し真空状態から大気状態にしなければならず、セラミック硬質膜が大気で汚染されるために硬質炭素膜との密着不良の原因となる。また▲2▼の場合は連続して処理を行うことができるが、金属ターゲットの数が少なくなり蒸発源の数が半減することにより所定の膜厚のセラミック硬質膜を成膜する時間は2倍になる。いずれの場合もセラミック硬質膜上に硬質炭素膜を形成する場合は、従来のカーボンターゲットを使用する方法では時間がかかりすぎ所定の膜厚を得るためには経済的に採算が取れないという問題が生じる。
そこで上記問題を解決するために、本発明であるセラミック硬質膜と硬質炭素膜を同一装置内で、かつカーボンターゲットを使用しないで連続的に処理をする方法としたものである。
【0008】
好ましくは、形成されたセラミック硬質膜の膜厚は0.1〜10μm 、硬質炭素膜の膜厚は0.1〜2μm の範囲が好ましい。セラミック硬質膜は工具の目的に応じて決定されるべきものであるが、一般的に0.1μm 未満では耐摩耗性の効果が得られず、10μm 以上では膜の内部応力が高くなるため密着不良を引き起こす場合があるので上記範囲に限定した。また硬質炭素膜は0.1μm 未満では耐溶着性の効果が期待できず、2μm 以上ではセラミック硬質膜との層間剥離を生じるため上記に限定した。
【0009】
セラミック硬質膜と硬質炭素膜の密着性の評価は、現在簡便な方法として定着しているロックウェル硬度計を用いた剥離試験法で確認を行うことができる。この方法は工具部材上に形成されたセラミック硬質被覆膜と硬質炭素膜を積層した工具表面にロックウェル硬度計のダイヤモンド圧子(先端角120・、半径0.2mm)を押圧することでできる圧痕跡の円周部の状態を、光学顕微鏡で100倍に拡大して膜の剥離状態を観察するものである。この観察により周囲に1mm以上の剥離が認められる場合は密着が良い状態とはいえず、セラミック硬質膜の耐摩耗性や硬質炭素膜の耐溶着性が期待できない。従って成膜された工具部材に対して請求項3の条件が必要不可欠となるため成膜された膜の検査方法として上記請求項に加えた。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態について詳細に述べる。硬質炭素膜の形成は一般には炭化水素系ガスを利用したプラズマCVD法で行われる。プラズマ励起にはマイクロ波、アーク、直流、高周波等の電源を用い、原料ガスとしてプラズマで分解しやすいアセチレンガス、メタンガス、エタンガスなどの炭化水素系ガスが使われる。
本発明はこれらのプラズマCVD法を、マグネトロンスパッタ法でセラミック硬質膜を形成した後に、連続して同装置内で行うことを目的としており、さらに装備されている金属ターゲットからのプラズマアシストにより高密度のプラズマ領域を生成するターゲットアシストプラズマCVD法(TAPCVD法)により、密着性の優れた硬質炭化膜をセラミック硬質膜上に形成させるものである。
【0011】
硬質炭素膜形成時の金属ターゲットの出力は、金属ターゲットからスパッタされた金属粒子が基板に到達しない範囲に抑えることにより、金属ターゲットから放出された電子のみが炭化水素ガスのプラズマ放電をアシストするために、ガスの分解が促進されて良質な硬質炭素膜を高い成膜速度速で得ることができる。
【0012】
また硬質炭素膜の特性はダイヤモンドとグラファイトの中間に位置するものであり成膜条件によりさまざまな特性の膜を得ることができるが、耐溶着効果を十分に引き出すには、押し込み硬度計による2gf荷重で測定した時に塑性硬さが10000N/mm2以上のものであることが必要である。それ未満の硬さでは高潤滑効果はあるが、特にアルミのような軟質金属を切削加工した時にアルミの溶着が激しく、切り粉詰まりによって工具が折損する場合がある。
【0013】
実施例1:表1に示すように、試料 No.3〜10を、基材として超硬合金(高速度工具鋼でも同様な成果を得ることができる)からなる工具部材を図1のようなチタンターゲット1、2を装備したマグネトロンスパッタリング装置の基板装着台4に装着する。つぎに真空容器3の内部を真空排気ポンプ10で1.33×10-2 Pa(10-4Torr) の圧力まで真空排気した後に加熱用シースヒーター9で400℃の温度まで加熱する。加熱状態を60分間保持した後に反応ガスであるアルコンガスを反応ガス導入口7より導入して6.65Pa(0.05Torr)の圧力に設定し基板電源5を直流(DC)電源に接続して200Vに印加する。そしてプラズマ放電を維持させながらアルゴンイオンを基材表面に衝突させて基材表面を15分間ボンバードクリーニングした。
【0014】
【表1】
【0015】
ついでチタンターゲットに直流(DC)電源を印加してアルゴンガスによるスパッタリングでターゲットからTi(チタン)元素をイオン化した状態で叩きだし、反応ガス導入口7にアセチレンガス(C2H2)を流し、真空度 0.133〜0.40Pa (1〜3×10-3Torr) の状態でさらに基板装着台4に基板電源5を直流(DC)電源に接続して50〜100Vに印加し基板表面にセラミック硬質膜であるTiCを形成した。
【0016】
その後、チタン元素が基板装着台に到達しない状態までチタンターゲットの出力を低下(約10〜30%出力)させ、真空度 0.133 Pa ( 1×10-3Torr) のアセチレンガス雰囲気中で基板電源を13.56MHz の高周波(RF)電源6に切り替えて100〜500Wに印加し、基板装着台4の工具部材のセラミック硬質膜上に連続して硬質炭素膜を形成した。
【0017】
ロックウェル圧痕剥離試験:工具部材上に形成されたセラミック硬質被覆膜と硬質炭素膜の積層膜の密着評価として、同時に処理をした角型試験片(高速度工具鋼6mm×6mm×40mm)の表面にロックウェル硬度計のダイヤモンド圧子で押圧し、圧痕周囲の剥離状態を観察した。ロックウェル圧痕剥離試験の結果は被膜の剥離の状態に応じて図2のような基準を基にして判定を行った。
【0018】
結果:本発明品(表1の試料6,7,8,9,10)に見られるように、マグネトロンスパッッタリング法でTiC膜形成後に、DLC膜を同一装置の真空状態でターゲットからの電子照射でプラズマアシストしながら連続的にプラズマCVD法によって形成することにより、密着性の優れたセラミック硬質膜と硬質炭素膜の積層膜を経済的に得ることができた。セラミック硬質膜はTiC、(試料6,7,8)、TiAlN(試料9)、TiN(試料10)を形成し、その後連続的にDLCを成膜したがセラミック膜種を問わずDLCの圧痕剥離試験の結果(表1)は良好であった。
表1の試料10のボールオンディスク摩擦試験による摩擦係数の測定結果を図3に示す。この試験は一定荷重でボールを押さえながら試験片を一定速度で回転させ、その時の摩擦係数を評価するものである。ボールにはベアリングボールφ6を、ディスクには高速度工具鋼にコーティングした上記試験片を取り付け、擦過速度6.3m/min、垂直荷重10Nでボールを試験片上で擦過させて、経時的な摩擦係数の変化を測定した。比較としてTiN単層膜とDLC単層膜の摩擦係数も示す。TiN単層膜の摩擦係数が0.6〜0.7であるのに対して、本発明品である試料10(TiN+DLC)は摩擦係数0.2以下の非常に低い値である。またこの試験片の硬さは、押し込み硬度計による塑性硬さでで2gf荷重で測定したところ 15126 N/mm2であった。
【0019】
次に表1の比較試料について説明する。試料1,2は角型試料片に直接硬質炭素膜を成膜したもの(試料1はカーボンターゲットによるMSP法で、試料2はターゲットからのプラズマアシストのないPCVD法で形成したもの)であるが、いずれも圧痕剥離試験の結果では剥離が生じた。試料2は膜厚が0.2μmしか成膜されず、プラズマアシストのない状態では反応ガスの分解が促進されていないことが推定される。試料3は片側チタンターゲット(A)のみでTiCを形成した後、片側カーボンターゲット(B)でDLCを成膜したものであり剥離の程度は少ないが、所定の膜厚(TiCが1μm、DLCが1μm)を得るには通常の2倍の処理時間を要する。試料4は両ターゲットをチタンターゲットにしてTiCを形成後、真空容器内を大気にしてカーボンターゲットに交換し再度DLC膜を成膜したが、一度大気にすることによってTiC表面が酸化したためにDLCは大きく剥離した。試料5はTiC形成後ターゲットからのプラズマアシストのない状態でDLCを成膜したが、高周波電源による印加が不安定であり成膜したDLCの密着は良好なものではなかった。
【0020】
実施例2:超硬合金を母材とするドリルに、無処理のままのもの、表1の試料3、試料7の製法でTiC膜とDLC膜を連続的に成膜し、それぞれアルミ合金 (A5052)の穴明けドライ加工を行った。
切削条件:切削速度V=150m/min、送り量0.08mm/rev、
穴深さ16.5mm(止まり穴)、切削油剤ドライ(エアブロー)
工具:超硬ドリル 寸法:φ5.5
切削穴数
無処理 26穴
試料3 1344穴
試料7(本発明品) 3567穴
本発明品のドリルは無処理品の 137倍の寿命であり、またカーボンターゲットによる硬質炭素膜を被覆したドリルと比較して 2.7倍の寿命であった。
【0021】
実施例3:超硬合金を母材とするダイヤモンドコーティングドリルにDLC無処理のままのもの、表1の試料3、試料7の製法でTiC膜とDLC膜を連続的に成膜し、それぞれアルミ合金(ADC12: Al-12 %Si) の穴明けドライ加工を行った。
切削速度V=100m/min、送り量0.083mm/rev、
穴深さ15mm(止まり穴)、切削油剤ドライ(エアブロー)
工具:ダイヤモンドコーティング超硬ドリル 寸法:φ5.0
切削穴数
DLC無処理 40穴
試料3 67穴
試料7(本発明品) 129穴、126穴
本発明品のドリルはDLC無処理品の約3倍で、カーボンターゲットによる硬質炭素膜を被覆したドリルの1.9倍の寿命であった。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は本発明に使用される硬質炭素膜形成装置であるマグネトロンスパッタリング装置の概略側面模式図、(b)は(a)の概略平面模式図。
【図2】剥離試験方法による剥離判定基準を示す説明図。
【図3】ボールオンディスク摩擦試験による、本発明品である表1の試料No10の摩擦係数μを示すグラフである。
【符号の説明】
1 金属ターゲット(A)
2 金属ターゲット(B)
3 真空容器
4 基板装着台
5 基板印加用直流(DC)電源
6 基板印加用高周波(RF)電源
7 反応ガス導入口
8 ターゲット印加用直流(DC)電源
9 加熱用シースヒータ
10 真空排気ポンプ
Claims (3)
- マグネトロンスパッタ法(MSP法)により、窒素ガス、炭化水素系ガス、酸素ガスのいずれか1種以上の反応性ガスを用いて金属ターゲットからの金属スパッタにより基板に装着した高速度工具鋼又は超硬合金鋼を母材とする工具部材表面に窒化物、炭化物、炭窒化物、酸化物の1種以上のセラミック被覆膜を形成した後に、同一装置内に炭化水素系ガスを導入して、前記金属ターゲットから金属スパッタされた金属粒子が前記基板に到達しない範囲に抑えることにより、前記金属ターゲットから放出された電子のみが炭化水素ガスのプラズマ放電をアシストするようにした、金属ターゲットからのプラズマアシストによるプラズマCVD法(Target Assist Plasma Chemical Vapour Deposition:TAPCVD法)により硬質炭素膜をセラミック硬質被覆膜の上に連続して形成させたことを特徴とする硬質炭素膜成膜方法。
- 前記工具部材上に形成された前記セラミック硬質被覆膜の膜厚が0.1〜10μmの範囲であり、前記セラミック硬質被覆膜の表面に連続的に形成された前記硬質炭素膜の膜厚が0.1〜2μmの範囲であることを特徴とする請求項1記載の硬質炭素膜成膜方法。
- 前記工具部材上に形成された前記セラミック硬質被覆膜と硬質炭素膜がロックウェル硬度計を用いたダイヤモンド圧子の押圧による打痕の円周境界において100倍の拡大観察で膜の剥離が観られないことを特徴とする請求項2記載の硬質炭素膜成膜方法。
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