JP2010005744A - 硬質炭素膜被覆工具 - Google Patents
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Abstract
【課題】本願発明の課題は、硬質炭素膜が有する高硬度の特性を維持しつつ耐熱性を改善して、非鉄材料の切削工具表面やダイキャスト金型表面等、高温に曝される工具の耐久性を向上させることである。
【解決手段】本願発明は、基材上に固体カーボンターゲットを用いたフィルタードアーク蒸着により硬質炭素膜を被覆した被覆工具であって、該硬質炭素膜はSiを原子%で2%以上、10%以下含有し、X線光電子分光分析によりもとめたSiCピーク強度比は0.05以上、0.5以下であり、ナノインデンテーションによりもとめた硬度は40GPa以上、74GPa以下であり、該硬質炭素膜表面の凸部及び凹部の面積率をD(%)としたとき、D≦0.01であることを特徴とする硬質炭素膜被覆工具である。
【選択図】なし
【解決手段】本願発明は、基材上に固体カーボンターゲットを用いたフィルタードアーク蒸着により硬質炭素膜を被覆した被覆工具であって、該硬質炭素膜はSiを原子%で2%以上、10%以下含有し、X線光電子分光分析によりもとめたSiCピーク強度比は0.05以上、0.5以下であり、ナノインデンテーションによりもとめた硬度は40GPa以上、74GPa以下であり、該硬質炭素膜表面の凸部及び凹部の面積率をD(%)としたとき、D≦0.01であることを特徴とする硬質炭素膜被覆工具である。
【選択図】なし
Description
本願発明は、アルミニウムなどの非鉄金属材料やその合金材料、グラファイトなどの硬質粒子含有材料の加工時に使用する工具表面に、耐摩耗性、耐溶着性を維持しつつ更に耐熱性を改善した硬質炭素膜被覆工具に関する。
特許文献1、2には、硬質炭素膜にSiを添加することによって耐摩耗性や耐摺動特性を改善する技術が開示されている。特許文献1はSiを原子%で1%以上、20%以下含有する硬質炭素膜が、特許文献2はSiを含む硬質炭素膜にMoやWの硫化物を分散させた硬質炭素膜が開示されている。
本願発明の課題は、硬質炭素膜が有する高硬度の特性を維持しつつ耐熱性を更に改善して、非鉄材料の切削工具表面やダイキャスト金型表面等、高温に曝される工具の耐久性を向上させることである。
本願発明は、基材上に固体カーボンターゲットを用いたフィルタードアーク蒸着により、硬質炭素膜を被覆した被覆工具であって、該硬質炭素膜はSiを原子%で2%以上、10%以下含有し、X線光電子分光分析によりもとめたSiCピーク強度比は0.05以上、0.5以下であり、ナノインデンテーションによりもとめた硬度は40GPa以上、74GPa以下であり、該硬質炭素膜表面の凸部及び凹部の面積率をD(%)としたとき、D≦0.01であることを特徴とする硬質炭素膜被覆工具である。上記の構成を採用することによって、硬質炭素膜が有する高硬度の特性を維持しつつ耐熱性を更に改善して、非鉄材料の切削工具表面やダイキャスト金型表面等、高温に曝される工具の耐久性を向上させることができる。
本願発明の硬質炭素膜被覆工具において、該硬質炭素膜の残留圧縮応力は3GPa以上、10GPa以下であることが、硬質炭素膜の有する高硬度の維持にとって好ましい。また、該硬質皮膜のナノインデンテーションによりもとめた弾性回復率は40%以上、45%以下であることが、基材と硬質炭素膜との密着強度の向上に寄与して工具の耐久性向上にとって好ましい。
本願発明の硬質炭素膜被覆工具は、硬質炭素膜の高硬度の特性を維持しつつ耐熱性を更に改善して、非鉄材料の切削工具表面やダイキャスト金型表面等、高温に曝される工具の耐久性を向上させることができた。
本願発明の硬質炭素膜は、Siを2%以上、10%以下含有し、該SiがSiCとして存在して、X線光電子分光分析によりもとめたSiCピーク強度比は0.05以上、0.5以下であること、ナノインデンテーションによりもとめた硬度は40GPa以上、74GPa以下であること、D値をD≦0.01に制御することが、硬質炭素膜を高硬度に維持しつつ耐熱性を向上させるために重要な構成である。硬質炭素膜に存在するSiCはsp3結合で熱的安定であることから耐熱性を向上させ、同時にSi添加による硬度低下を抑制する効果を有するためである。硬質炭素膜にSiを添加することにより耐熱性は向上するが、その一方で、Siを含有した硬質炭素膜は、例えばテトラメチルシラン(以下、TMSと記す。)というSi含有ガスを用いて被覆するため、水素とSiの状態で存在し膜硬度が急激に低下してしまい、硬質炭素膜の耐熱性改善と高硬度化は同時に達成されず、何れかの特性を優先して各用途に最適化して用いられていた。
そこで本願発明は、例えばTMSを用いて成膜したSi含有の硬質炭素膜において、高硬度の特性を維持しつつ耐熱性を更に改善した。そのために添加したSiをSiCとして存在させることにより硬度低下を抑制した。その結果、耐熱性改善と高硬度化を同時に達成させることができた。SiCピーク強度比が0.05未満では耐熱性の改善効果をえることができない。また50%を超えて多いときは、硬度低下を招くといった不都合がある。より好ましいSiCピーク強度比は0.15以上、0.5以下である。SiCピーク強度比を制御するには、硬質炭素膜を成膜する際、成膜装置に高周波電極を設置し、TMSを構成するSiと水素の結合を分解しながら成膜する。同時に高周波電極間に印加する電力により、SiCピーク強度比を制御するのである。高周波電極間に印加する電力は基材に印加するバイアス電圧とは別に独立して、周波数が13.56MHz、出力制御として50〜500Wの範囲にするとよい。この電力増加に伴い、SiC含有量は増加傾向にある。SiCピーク強度比は、X線光電子分光分析によりもとめたSiO、Si、SiCの結合スペクトルについて、ピーク分離を行うことによって定量的に測定できる。
本願発明の硬質炭素膜は、Si含有量を2%以上、10%以下とする。この理由は、硬質炭素膜に添加したSiをSiCとして存在させることより硬度低下は抑制されるものの、Si含有量が10%を超えて多くなると硬度低下が顕著になり、耐摩耗性が急激に劣化するからである。また、Si含有量が2%未満では耐熱性向上効果が十分に発揮できないからである。より好ましくは、4%以上、9%以下である。
本願発明の硬質炭素膜は、耐摩耗性を維持するためにナノインデンテーションによる硬度を40GPa以上とする必要がある。硬度が40GPa未満となると、耐摩耗性が急激に低下し、工具耐久性の向上に効果を発揮しないからである。一方、硬質炭素膜と基材との密着性の低下を回避するため、74GPa以下とする。
そこで本願発明は、例えばTMSを用いて成膜したSi含有の硬質炭素膜において、高硬度の特性を維持しつつ耐熱性を更に改善した。そのために添加したSiをSiCとして存在させることにより硬度低下を抑制した。その結果、耐熱性改善と高硬度化を同時に達成させることができた。SiCピーク強度比が0.05未満では耐熱性の改善効果をえることができない。また50%を超えて多いときは、硬度低下を招くといった不都合がある。より好ましいSiCピーク強度比は0.15以上、0.5以下である。SiCピーク強度比を制御するには、硬質炭素膜を成膜する際、成膜装置に高周波電極を設置し、TMSを構成するSiと水素の結合を分解しながら成膜する。同時に高周波電極間に印加する電力により、SiCピーク強度比を制御するのである。高周波電極間に印加する電力は基材に印加するバイアス電圧とは別に独立して、周波数が13.56MHz、出力制御として50〜500Wの範囲にするとよい。この電力増加に伴い、SiC含有量は増加傾向にある。SiCピーク強度比は、X線光電子分光分析によりもとめたSiO、Si、SiCの結合スペクトルについて、ピーク分離を行うことによって定量的に測定できる。
本願発明の硬質炭素膜は、Si含有量を2%以上、10%以下とする。この理由は、硬質炭素膜に添加したSiをSiCとして存在させることより硬度低下は抑制されるものの、Si含有量が10%を超えて多くなると硬度低下が顕著になり、耐摩耗性が急激に劣化するからである。また、Si含有量が2%未満では耐熱性向上効果が十分に発揮できないからである。より好ましくは、4%以上、9%以下である。
本願発明の硬質炭素膜は、耐摩耗性を維持するためにナノインデンテーションによる硬度を40GPa以上とする必要がある。硬度が40GPa未満となると、耐摩耗性が急激に低下し、工具耐久性の向上に効果を発揮しないからである。一方、硬質炭素膜と基材との密着性の低下を回避するため、74GPa以下とする。
物理的蒸着法の1つである真空アーク蒸着は、水素を含有しない硬質炭素膜を被覆することができ、硬質炭素膜は高硬度となる。しかし、sp2結合によるグラファイト構造の軟質なドロップレット粒子も多く含む。ドロップレット粒子はsp2結合を多く含む軟質粒子であるため、摩耗環境化において凝着の起点となる。また、ドロップレット粒子は、耐熱温度も500℃以下であり、耐熱性が十分ではなく、200℃以上の大気中で急激に軟化するため、凝着摩耗の起点にもなりうる。更に、ドロップレット粒子の脱落によって形成したピンホールと呼ばれる凹部も同様に凝着の起点となる。そこで本願発明は、D値を0.01%以下とする。この理由は、D値が0.01%を超えて大きいと、凸部及び凹部を起点とした部分的な凝着や酸化が進行し、工具の耐久性が急激に低下してしまうからである。ここで言う凸部とは、殆どがドロップレット粒子による凸部であり、また凹部の殆どはドロップレット粒子が脱落した凹部である。
本願発明の硬質炭素膜は、固体カーボンターゲットを用いたフィルタードアーク蒸着により工具基材表面に被覆することによって、ドロップレット粒子を低減させた。フィルタードアーク蒸着の採用により、硬質炭素膜に混入するドロップレット粒子が格段に低減し、その結果、D値を0.01%以下とすることができ、優れた耐熱性を維持することができる。フィルタードアーク蒸着とは、固体カーボンターゲットから昇華・イオン化した炭素イオンを磁場により収束し、基材に印加したバイアス電圧により炭素イオンを基材表面に加速させ、基材に硬質炭素膜を被覆する一方で、ドロップレット粒子を捕獲する機構を備え、ドロップレット粒子を成膜エリアに侵入させないようにしたものである。また、本願発明の硬質炭素膜におけるSiの添加方法は、TMSによる添加が有効であり、好ましい。
以上のように本願発明の硬質炭素膜は、Si含有量、SiCピーク強度比、硬度、D値のバランスが好適であるため、優れた耐熱性と耐摩耗性を有し、工具の耐久性を格段に向上させることができる。
以上のように本願発明の硬質炭素膜は、Si含有量、SiCピーク強度比、硬度、D値のバランスが好適であるため、優れた耐熱性と耐摩耗性を有し、工具の耐久性を格段に向上させることができる。
本願発明の硬質炭素膜は、残留圧縮応力が3GPa以上、10GPa以下であることが好ましい。この理由は、凝着の発生を抑制し、優れた耐熱性が付与されて工具の耐久性を向上させることができるからである。残留圧縮応力の上限値は耐剥離性を考慮して10GPa以下であることが好ましい。
本願発明の硬質炭素膜は、弾性回復率が40%以上、45%以下であることが好ましい。この理由は、上記範囲に制御することにより工具基材との密着性が高く、工具の耐久性を向上させることができるからである。また弾性回復率が40%未満では硬質炭素膜と基材の追従性が十分ではなく、硬質炭素膜と基材との密着性が低下し、耐摩耗性に乏しくなる。一方45%を超えて大きい場合は、硬質炭素膜が脆くなり過ぎてしまい、同様に密着性が低下し、耐摩耗性に乏しくなる。
本願発明の硬質炭素膜は、弾性回復率が40%以上、45%以下であることが好ましい。この理由は、上記範囲に制御することにより工具基材との密着性が高く、工具の耐久性を向上させることができるからである。また弾性回復率が40%未満では硬質炭素膜と基材の追従性が十分ではなく、硬質炭素膜と基材との密着性が低下し、耐摩耗性に乏しくなる。一方45%を超えて大きい場合は、硬質炭素膜が脆くなり過ぎてしまい、同様に密着性が低下し、耐摩耗性に乏しくなる。
本願発明の硬質炭素膜被覆工具は、耐熱性が要求される高能率なドリル、エンドミル、リーマ、刃先交換式切削工具のインサートやカッター、ナイフ、スリッターなどの工具、ダイキャスト型、プレス型の金型パンチなどの工具に適用することが好ましい。以下、本願発明の硬質炭素膜被覆工具を実施例により具体的に説明する。
まず本発明例1の作成方法について述べる。本発明例1は下記に述べる成膜装置と成膜プロセスにより基材表面に硬質炭素膜を被覆した。本願発明に用いた成膜装置は、フィルタードアーク蒸着法を採用している。従って、グラファイトターゲットから発生したカーボンイオン、ドロップレット粒子のうち、固体状のドロップレット粒子はダクト内を反射し、捕集部により捕獲して、基材に到達する量を大幅に低減することができる構造となっている。この捕集部はドロップレット粒子が再度ダクト内に反射しないような袋小路構造となっている。一方、カーボンイオンはダクトバイアス電圧により加速され、スキャナーコイルで収束され、回転ホルダーに印加されたバイアス電圧により加速され基材に到達して硬質炭素膜を被覆できる構造となっている。また真空容器内のアーク蒸発源にはグラファイトターゲットを装填し、ガスは供給ポートより導入した。容器内に導入するガスには、Ar、TMSが接続され、ガスボンベからマスフローコントローラーを介し、圧力制御又は流量制御で容器内に導入できる。基材には負のDCバイアス電圧を印加でき、基材の回転機構は、プラネタリー上に3枚のプレート状治具、プレート状治具上に8本のパイプ状治具が取り付けられ、プレート状治具、パイプ状治具は夫々自公転できる。
使用した基材は、切削工具用基材として超硬合金組成がJIS規格K10相当を使用した日立ツール株式会社製の刃先交換式エンドミル用のインサートを準備した。また面粗さ測定、硬度測定、耐熱試験、弾性回復率測定、D値測定などの特性評価用基材として、超硬合金組成がJIS規格K10相当のSNMN120408型のインサートを鏡面加工研摩し、Ra<0.01μm、Ry<0.1μmとして用いた。また残留応力測定用の基材として、超硬合金製の縦25mm、縦8mm、厚さ1mmの短冊状試験片を鏡面研摩して用いた。インサートのすくい面に相当する面には鏡面加工を施したが、実際の工具表面は研削うねりや研削痕が残留していた。基材は鏡面研摩部がイオン入射方向に対し垂直となるよう基材ホルダーに固定した。この鏡面研摩部は、インサートのときすくい面である。
本発明例1の成膜プロセスを説明する。基材をプラネタリーで毎分3回転の速度で回転させ、真空排気と同時に基材加熱を行った。基材加熱はヒーターにより基材温度を100℃として90分間行った。真空容器内圧力が3×10−3Paに達した後、Arガスを真空容器内に導入した。次に高周波電極の放電を開始し、基材にバイアス電圧を−500から−2000Vへと段階的に印加しながら、Arイオンのグロー放電を発生させ、基材のクリーニングを−2000Vで60分間行った。次にArガスと高周波放電を停止し、基材のバイアス電圧を−100Vに再設定し、ダクトバイアス電圧を−15V、スキャナーコイル電流を1A、基材温度を80℃以下、真空容器内圧力を1×10−3Pa以下とし、高密度グラファイトターゲットに50Aのアーク電流を供給することにより、硬質炭素膜の成膜を開始した。硬質炭素膜を100nm成膜後、再度高周波電極に50Wの電力を供給、TMSガスを流量制御で0.4sccmに設定し、TMSガスを分解しながらSi含有硬質炭素膜を被覆し、総膜厚が約500nmに達した後、すべての電力供給を止め、その後真空容器内から基材を取り出した。上記の条件によって本発明例1を作成した。
また、本発明例2〜8、比較例9〜15は、表1に記載したTMSガス流量、成膜中の高周波電力値以外は本発明例1の成膜プロセスに準拠して作成した。
使用した基材は、切削工具用基材として超硬合金組成がJIS規格K10相当を使用した日立ツール株式会社製の刃先交換式エンドミル用のインサートを準備した。また面粗さ測定、硬度測定、耐熱試験、弾性回復率測定、D値測定などの特性評価用基材として、超硬合金組成がJIS規格K10相当のSNMN120408型のインサートを鏡面加工研摩し、Ra<0.01μm、Ry<0.1μmとして用いた。また残留応力測定用の基材として、超硬合金製の縦25mm、縦8mm、厚さ1mmの短冊状試験片を鏡面研摩して用いた。インサートのすくい面に相当する面には鏡面加工を施したが、実際の工具表面は研削うねりや研削痕が残留していた。基材は鏡面研摩部がイオン入射方向に対し垂直となるよう基材ホルダーに固定した。この鏡面研摩部は、インサートのときすくい面である。
本発明例1の成膜プロセスを説明する。基材をプラネタリーで毎分3回転の速度で回転させ、真空排気と同時に基材加熱を行った。基材加熱はヒーターにより基材温度を100℃として90分間行った。真空容器内圧力が3×10−3Paに達した後、Arガスを真空容器内に導入した。次に高周波電極の放電を開始し、基材にバイアス電圧を−500から−2000Vへと段階的に印加しながら、Arイオンのグロー放電を発生させ、基材のクリーニングを−2000Vで60分間行った。次にArガスと高周波放電を停止し、基材のバイアス電圧を−100Vに再設定し、ダクトバイアス電圧を−15V、スキャナーコイル電流を1A、基材温度を80℃以下、真空容器内圧力を1×10−3Pa以下とし、高密度グラファイトターゲットに50Aのアーク電流を供給することにより、硬質炭素膜の成膜を開始した。硬質炭素膜を100nm成膜後、再度高周波電極に50Wの電力を供給、TMSガスを流量制御で0.4sccmに設定し、TMSガスを分解しながらSi含有硬質炭素膜を被覆し、総膜厚が約500nmに達した後、すべての電力供給を止め、その後真空容器内から基材を取り出した。上記の条件によって本発明例1を作成した。
また、本発明例2〜8、比較例9〜15は、表1に記載したTMSガス流量、成膜中の高周波電力値以外は本発明例1の成膜プロセスに準拠して作成した。
得られた硬質炭素膜に対し、組成、硬度、弾性回復率、D値、残留圧縮応力の評価を行った。まず硬質炭素膜の組成は、波長分散型電子線プローブ微小分析(WDS−EPMA)により決定した。分析条件は、加速電圧10kV、試料電流5×10−8A、取り込み時間10秒、分析領域直径1μm、分析深さ略1μm、測定数5点で実施し、平均値を求めた。数値は、原子比で全体を100として示した。硬質炭素膜の水素はC、Siの含有量を定量し、残部を水素とした。
皮膜の硬度測定は、ナノインデンテーション装置を用いて行った。皮膜表面で最大押し込み深さが膜厚の略1/5でも基材の影響はなかったため、最大押し込み荷重を9.8mN、最大荷重保持時間1秒、荷重負荷後の除去速度0.98mN/秒の測定条件で10点測定し、その平均値を求めた。一般的に本測定方法における皮膜硬さは、圧子の微細形状、測定時の温度、湿度、試料の表面状態に左右され易く、得られる硬度はビッカース硬さによる硬度換算値と一致しない。そこで、単結晶Siを同時に測定した。そのときの単結晶Siの皮膜硬さが12GPaであった。本測定結果をもとに相対比較することができる。ナノインデンテーションによる硬質炭素膜の硬度測定法は、次の論文に開示されている。(W.C.Oliver and、G.m.Pharr:J.Mater.Res.、Vol.7、No.6、June 1992、pp.1564−1583)。また、ナノインデンテーションによる弾性回復率は、(化1)により算出した。ここで、接触深さ及び最大荷重時の最大変位量はナノインデンテーションにより求めた。
皮膜の硬度測定は、ナノインデンテーション装置を用いて行った。皮膜表面で最大押し込み深さが膜厚の略1/5でも基材の影響はなかったため、最大押し込み荷重を9.8mN、最大荷重保持時間1秒、荷重負荷後の除去速度0.98mN/秒の測定条件で10点測定し、その平均値を求めた。一般的に本測定方法における皮膜硬さは、圧子の微細形状、測定時の温度、湿度、試料の表面状態に左右され易く、得られる硬度はビッカース硬さによる硬度換算値と一致しない。そこで、単結晶Siを同時に測定した。そのときの単結晶Siの皮膜硬さが12GPaであった。本測定結果をもとに相対比較することができる。ナノインデンテーションによる硬質炭素膜の硬度測定法は、次の論文に開示されている。(W.C.Oliver and、G.m.Pharr:J.Mater.Res.、Vol.7、No.6、June 1992、pp.1564−1583)。また、ナノインデンテーションによる弾性回復率は、(化1)により算出した。ここで、接触深さ及び最大荷重時の最大変位量はナノインデンテーションにより求めた。
硬質炭素膜表面のD値の測定は、皮膜表面のSEM像から測定した。任意の4視野において撮影した倍率3000倍のSEM像を用い、画像処理により凸部及び凹部の面積率を求めた。1視野のサイズは、縦30μm、横40μmであった。
硬質炭素膜の残留圧縮応力値の測定は、被覆処理前後の変形量の差から被覆処理におけるたわみ量δ、膜厚d、試験片厚さD、測定長さlを測定した。残留圧縮応力測定に用いた試験片の弾性係数Eは517.54GPa、ポアソン比vは0.238とした。残留圧縮応力σは、(化2)から算出した。
硬質炭素膜の残留圧縮応力値の測定は、被覆処理前後の変形量の差から被覆処理におけるたわみ量δ、膜厚d、試験片厚さD、測定長さlを測定した。残留圧縮応力測定に用いた試験片の弾性係数Eは517.54GPa、ポアソン比vは0.238とした。残留圧縮応力σは、(化2)から算出した。
硬質炭素膜のSiCピーク強度比を求めるために走査型X線光電子分光装置(PHI社製Quantum2000型)を用いた。測定条件は、X線源AlKα(モノクロ)、分析領域直径100μm、電子中和銃を使用した。得られたSi2pのスペクトルのうちSiO、Si、SiCのピーク分離を行い、SiO、Si、SiC夫々の結合強度比を1とし、そのうちのSiCピーク強度比を算出した。上記したこれらの測定結果を表2に示す。
表1、2より、本発明例1〜5、比較例11〜15においてSi添加が及ぼす硬質炭素膜の特性を比較した。TMSガスの流量増加に伴い、硬質炭素膜内のSi含有量は比例的に増加し、本発明例1〜5のSi含有量は、2%以上、10%以下の範囲となり耐熱性が向上した。ここで耐熱性の評価は、皮膜の熱処理前後におけるRa値の変化量により判断した。熱処理は大気中650℃、1時間の条件で実施し、熱処理前後で本発明例1〜5のRa値は殆ど変化が見られなかったのに対し、比較例11のSi添加無しの場合は、Ra値の変化が見られたことから、本発明例1〜5は耐熱性が向上したと判断した。これは、Si添加によって熱的安定であるSiCを形成したことから耐熱性が向上したものと考えられる。また、本発明例1〜5はD値が0.01%以下であることから、面粗さも向上した影響もあり、膜表面にドロップレット粒子による凸部及びドロップレット粒子が脱落した凹部が減少したことも耐熱性向上に効果的であった。一方、Si含有量の増加に伴い硬度は低下傾向を示した。
比較例12はTMSガス流量が0.2sccmの場合であり、Si含有量が1%未満の場合は熱処理前後でRa値の変化が見られたことから、耐熱性向上などの効果が確認できなかった。比較例13〜15は、TMSガスの流量が8sccm以上の条件のためSi含有量が11%以上となり、残留圧縮応力が減少して硬度が低下した。また、弾性回復率が40%以下となり、硬質炭素膜と基材との密着性が低下した。更に比較例14、15はTMSガスの流量が12sccm以上の条件のため、Si含有量は夫々13%、15%となり、その結果としてD値が0.02%以上となってしまった。
次に、高周波電力の影響を本発明例4、6〜8、比較例9、10により比較した。高周波電力の増加に伴いSiCピーク強度比が増加し、基材バイアス電圧とは別に高周波電力を印加することにより、SiCピーク強度比の制御が可能であった。高周波電力の増加に伴い硬質炭素膜の水素含有量が減少してSi含有量が増加しており、その結果、同じTMSガス流量でも高周波電力を供給することにより高硬度となった。本発明例4と比較例9とを比較すると、比較例9は高周波電力が600WでありSiCピーク強度比が0.5を超え、硬度が低下した。本発明例3と比較例10とを比較すると、高周波電力を供給した本発明例3に対して、供給しなかった比較例10はSiCの含有を確認できなかったことから、高周波電力を供給する効果は明らかであり、本発明例3の方が同じSi含有量でも高硬度を示した。
比較例12はTMSガス流量が0.2sccmの場合であり、Si含有量が1%未満の場合は熱処理前後でRa値の変化が見られたことから、耐熱性向上などの効果が確認できなかった。比較例13〜15は、TMSガスの流量が8sccm以上の条件のためSi含有量が11%以上となり、残留圧縮応力が減少して硬度が低下した。また、弾性回復率が40%以下となり、硬質炭素膜と基材との密着性が低下した。更に比較例14、15はTMSガスの流量が12sccm以上の条件のため、Si含有量は夫々13%、15%となり、その結果としてD値が0.02%以上となってしまった。
次に、高周波電力の影響を本発明例4、6〜8、比較例9、10により比較した。高周波電力の増加に伴いSiCピーク強度比が増加し、基材バイアス電圧とは別に高周波電力を印加することにより、SiCピーク強度比の制御が可能であった。高周波電力の増加に伴い硬質炭素膜の水素含有量が減少してSi含有量が増加しており、その結果、同じTMSガス流量でも高周波電力を供給することにより高硬度となった。本発明例4と比較例9とを比較すると、比較例9は高周波電力が600WでありSiCピーク強度比が0.5を超え、硬度が低下した。本発明例3と比較例10とを比較すると、高周波電力を供給した本発明例3に対して、供給しなかった比較例10はSiCの含有を確認できなかったことから、高周波電力を供給する効果は明らかであり、本発明例3の方が同じSi含有量でも高硬度を示した。
本願発明の硬質炭素膜を被覆した切削工具の耐摩耗性を評価するために、工具径32mmの2枚刃の刃先交換型エンドミルによる耐摩耗性の評価を次の試験条件で実施した。耐摩耗性の評価は、切刃エッジに凝着が発生し、刃先のチッピング又は切削加工面に白濁が発生したときの切削距離を寿命と判断した。10m以下は切り捨てて示した。
(試験条件)
被削材:アルミニウム合金材料、A7075材
切削方法:側面切削
切り込み:軸方向、5mm、径方向、5mm
切削速度:500m/min
1刃送り量:0.2mm/刃
切削油:なし、エアブロー
(試験条件)
被削材:アルミニウム合金材料、A7075材
切削方法:側面切削
切り込み:軸方向、5mm、径方向、5mm
切削速度:500m/min
1刃送り量:0.2mm/刃
切削油:なし、エアブロー
本発明例1〜8は、比較例9〜15に対して、2倍以上の切削寿命を示し耐久性が向上した。特に、本発明例2〜4、6〜8は、切削寿命が3倍以上に向上し、優れた耐久性を示した。これは、硬質炭素膜の高硬度の特性を維持しつつ、耐熱性が向上したことによるものと考えられる。比較例12は、Si含有量が1%未満のため切削工具の耐久性向上が確認できなかった。比較例13〜15は、硬度が40GPa以下になり、硬質炭素膜の耐摩耗性と密着性が低下したため、耐久性が劣化したと考えられる。比較例9、10は硬質炭素膜の硬度が低いことから、本発明例に比較して摩耗の進行が早い結果であった。
以上のように、硬質炭素膜に、本願発明が規定する範囲のSiを含有させ、同時にSiCピーク強度比を制御することにより、高硬度を維持しながら同時に耐熱性を向上させ、またD値を小さくして切削温度が上昇するような苛酷な切削環境下でも、硬質炭素膜の特性劣化が抑制され、工具の耐久性向上に有効であった。
以上のように、硬質炭素膜に、本願発明が規定する範囲のSiを含有させ、同時にSiCピーク強度比を制御することにより、高硬度を維持しながら同時に耐熱性を向上させ、またD値を小さくして切削温度が上昇するような苛酷な切削環境下でも、硬質炭素膜の特性劣化が抑制され、工具の耐久性向上に有効であった。
Claims (3)
- 基材上に固体カーボンターゲットを用いたフィルタードアーク蒸着により硬質炭素膜を被覆した被覆工具であって、該硬質炭素膜はSiを原子%で2%以上、10%以下含有し、X線光電子分光分析によりもとめたSiCピーク強度比は0.05以上、0.5以下であり、ナノインデンテーションによりもとめた硬度は40GPa以上、74GPa以下であり、該硬質炭素膜表面の凸部及び凹部の面積率をD(%)としたとき、D≦0.01であることを特徴とする硬質炭素膜被覆工具。
- 請求項1に記載の該硬質炭素膜の残留圧縮応力は3GPa以上、10GPa以下であることを特徴とする硬質炭素膜被覆工具。
- 請求項1または請求項2に記載の該硬質皮膜のナノインデンテーションによりもとめた弾性回復率は40%以上、45%以下であることを特徴とする硬質炭素膜被覆工具。
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