JP2010194628A - 潤滑性に優れる耐摩耗性工具部材 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】工具基体上に、工具基体表面側から順に、TiN硬質膜、Si含有ダイヤモンドライクカーボン膜およびSiO2膜を形成した耐摩耗性工具部材において、Si含有ダイヤモンドライクカーボン膜におけるSi含有割合は、5〜30原子%であって、望ましくは、Si含有ダイヤモンドライクカーボン膜が、TiN硬質膜との界面部分では5〜15原子%、SiO2膜との界面部分では20〜30原子%のSiを含有し、さらに、該Si含有ダイヤモンドライクカーボン膜中におけるSi含有割合は、TiN硬質膜側からSiO2膜側へ向かうにしたがって次第に増加する傾斜組成を有する。
【選択図】 なし
Description
例えば、特許文献1においては、工具基体の上にTiN膜、TiCN膜、TiAlN膜を形成し、この上にDLC膜を単層で形成した工具部材が開示され、特許文献2においては、工具基体の上に、Si、Ge、SiC、SiO2、Al2O3のバッファ層を介して、DLC膜を交互に積層形成した耐摩耗性部材、摺動部材が開示されている。
また、特許文献3には、工具基体の上にTiN膜、TiCN膜を形成し、この上にDLC膜を形成するとともに、該DLC膜中には、酸化シリコンの微粒を含有させることにより、耐摩耗性の向上を図った工具部材が開示されている。
ところで、近年の切削加工技術の高性能化はめざましく、その一方で、切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は一段と過酷な条件下で行われる傾向にあり、同時に、各種の被削材の切削加工に対応できるような切削工具の汎用化も求められているが、上記従来の摺動部材、耐摩耗性部材を切削工具として用いたような場合には、DLC膜の耐熱温度が450℃程度であることから、Al合金等の軟質被削材の高送り、高切込みの重切削加工条件あるいは長時間切削条件下では、高熱負荷によりDLC膜の特性が失われ、摩耗が急激に進行するようになり、比較的短時間で使用寿命に至り、硬質皮膜としてのDLC膜の特性が十分に生かされていないのが現状である。
まず、耐摩耗性工具部材における基本的な膜構成を、工具基体(例えば、炭化タングステン基超硬合金等)上に形成したTiN硬質膜、この上に形成したSi含有DLC膜、さらにこの上に形成したSiO2膜としたところ、Si含有DLC膜の耐熱温度は500〜550℃前後となるため、熱負荷に対してもある程度の耐用性(耐摩耗性)を示すようになったが、例えば、これを軟質被削材の重切削あるいは長時間切削加工条件下で使用した場合には、切削加工時の高熱負荷によって、耐摩耗性も不十分であるばかりか、硬質膜の欠損等も生じやすくなるという問題が発生した。
「(1) 工具基体上に、工具基体表面側から順に、膜厚0.5〜5μmのTiN硬質膜、膜厚0.2〜10μmのSi含有ダイヤモンドライクカーボン膜および膜厚0.2〜2μmのSiO2膜を形成した耐摩耗性工具部材において、
上記Si含有ダイヤモンドライクカーボン膜におけるSi含有割合は、5〜30原子%であって、かつ、該Si含有ダイヤモンドライクカーボン膜におけるSi含有割合は、TiN硬質膜側からSiO2膜側へ向かうにしたがって次第に増加する傾斜組成を有することを特徴とする潤滑性に優れる耐摩耗性工具部材。
(2) 上記Si含有ダイヤモンドライクカーボン膜におけるSi含有割合は、TiN硬質膜との界面部分では5〜15原子%、また、上記SiO2膜との界面部分では20〜30原子%であって、かつ、TiN硬質膜側からSiO2膜側へ向かうにしたがってSi含有割合が次第に増加する傾斜組成を有することを特徴とする前記(1)に記載の潤滑性に優れる耐摩耗性工具部材。」
を特徴とするものである。
工具基体の表面に形成するTiN硬質膜は、それ自身の有する硬さにより、耐摩耗性工具部材の耐摩耗性向上に寄与すると同時に、Si含有DLC膜と工具基体間の密着接合性(耐剥離性)を確保する密着膜としての作用を有する。
TiN硬質膜は、例えば、図1に示される成膜装置において、スパッタリングターゲットとしてTiを使用し、Ar−N2混合ガス(例えば、Ar流量:40sccm,N2流量:40sccm)中、成膜圧力0.1Paの条件にて、スパッタリング法により成膜することができる。
ただ、TiN硬質膜の膜厚が0.5μm未満では、Si含有DLC膜と工具基体間の密着性確保が十分ではなく、一方、その膜厚が5μmあれば、Al合金等の軟質材の重切削、長時間切削においても、Si含有DLC膜と工具基体間での剥離等を招くことなく安定して密着性を確保し得ることから、TiN硬質膜の膜厚は、0.5〜5μmと定めた。
本発明では、TiN硬質膜上にSi含有DLC膜を形成するが、この際、Si含有DLC膜中に含有されるSi含有割合が5〜30原子%となるように原料ガス中のC2H2(アセチレン)とTMS(テトラメチルシラン)のモル比を調整して成膜すると同時に、成膜の進行とともに、原料ガス中のC2H2(アセチレン)とTMS(テトラメチルシラン)のモル比をさらに調整することによって、膜厚方向に沿って(即ち、TiN硬質膜側からSiO2膜側へ向かうにしたがって)、次第にSi含有割合が増加する傾斜組成構造を有するSi含有DLC膜を形成する。
好ましくは、TiN硬質膜側ではSi含有割合が5〜15原子%であり、SiO2膜側へ向かうにしたがってSi含有割合が増加し、SiO2膜と接する界面領域ではSi含有割合が20〜30原子%であるSi濃度傾斜組成構造を有するSi含有DLC膜を形成する。
具体的には、Si含有DLC膜のSi含有割合が5原子%未満であると、DLC膜がSiを含有したことによる耐熱性向上効果が少なく、特に、難削材の重切削、長時間切削等における高熱負荷に対して満足できる耐熱性を発揮することができず、その結果、耐摩耗性が不十分になり、一方、Si含有DLC膜のSi含有割合が30原子%を超えると、最表面のSiO2膜との密着性にはすぐれるものの、下地膜のTiN硬質膜との密着性が劣化し、Si含有DLC膜の剥離等が生じやすくなることから、Si含有DLC膜のSi含有割合は5〜30原子%と定めることが必要である。
前記した如く、Si含有割合が5%以上であれば、耐熱性向上効果を期待できるとともに、また、Si含有割合が5〜15%を大きく上回らなければ、下地膜であるTiN硬質膜との密着強度を確保できることから、TiN硬質膜との界面を形成する領域のSi含有DLC膜中のSi含有割合を5〜15原子%とし、一方、難削材の重切削、長時間切削等による高熱負荷に対しての十分な耐熱性を付与し、さらに、最表面のSiO2膜との密着性を高めるため、SiO2膜との界面を形成する領域のSi含有DLC膜中のSi含有割合を20〜30原子%とする傾斜組成構造を有するSi含有DLC膜を形成することが望ましい。
図1に示される成膜装置において、TiN硬質膜を形成した工具基体(図中、基板として示す)を装置内で自転公転可能に保持し、原料ガスとして、カーボン源はC2H2(アセチレン)、Si源はTMS(テトラメチルシラン)を使用し、ガス供給口から、所定比率となるように調整した原料ガスを導入し、タングステンフィラメント、アノード、電磁コイルに通電して、プラズマを発生させ、基板(TiN硬質膜を形成した工具基体)表面にSi含有DLC膜を蒸着する。
成膜初期段階では、
C2H2流量:200sccm,TMS流量:10sccmのモル比に調整した原料ガス(C2H2とTMSの流量合計は210sccm)を用い、成膜圧力:0.3Pa,成膜時基板温度:200℃で、5原子%Siを含有するSi含有DLC膜を、TiN硬質膜との界面近傍領域に成膜し、
成膜の進行とともに、相対的に、C2H2の比率を低下させ、一方、TMSの比率を増加させることにより、傾斜組成を形成し、
成膜終了段階では、
C2H2流量:150sccm,TMS流量:60sccmのモル比に調整した原料ガス(C2H2とTMSの流量合計は210sccm)を用い、成膜圧力:0.3Pa,成膜時基板温度:200℃で、30原子%Siを含有するSi含有DLC膜を成膜する。
Si含有DLC膜の上に形成されるSiO2膜は、潤滑性に優れるとともに耐熱性にも優れ、高熱負荷条件におけるSi含有DLC膜の耐熱性をより一層向上させる。
SiO2膜の成膜は、TiN硬質膜の成膜と同様、例えば、図1に示される成膜装置において、SiO2をスパッタリングターゲットとして用い、TiN硬質膜の上にSi含有DLC膜の形成された工具基体(図1では基板として示す)に対して、Ar雰囲気(Ar流量:80sccm)中、成膜圧力0.1Paでスパッタリングにより成膜することができる。
ただ、SiO2膜の膜厚が0.2μm未満では、SiO2膜の有する優れた潤滑性を十分に発揮できないばかりか、長時間使用による耐熱性向上の効果も少なく、一方、その膜厚が2μmを超えると、剥離等を生じやすくなることから、SiO2膜の膜厚は、0.2〜2μmと定めた。
ここでは、Al合金の重切削、長時間切削用のインサートとして用いた場合の例を示すが、本発明はこれに限定されるものではなく、エンドミル、ドリル等の各種の耐摩耗性工具部材に適用可能である。
(b)上記の超硬基体A−1〜A−10を、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、前記装置内に自転公転自在に支持装着する。
(c)ついで、装置内を真空排気して0.01Paの真空に保持しながら、ヒーターで装置内を300℃に加熱した後、Arガスを装置内に導入して0.5Paの圧力のAr雰囲気とし、この状態で前記回転テーブル上で自転しながら回転する前記超硬基体に−800Vのバイアス電圧を印加して前記超硬基体表面を20分間Arガスボンバード洗浄する。
(d)ついで、前記装置内の基板温度を300℃とした状態で、反応ガスとしてN2とArを、N2:40sccm、Ar:40sccmの割合で導入して、0.1の成膜圧力とし、Tiターゲットのカソード電極(蒸発源)には出力:12kW(周波数:40kHz)のスパッタ電力を印加し、一方上記超硬基体には、−100Vのバイアス電圧を印加した条件でグロー放電を発生させることにより、前記超硬基体の表面に表2に示される目標膜厚のTiN硬質膜を形成する。
(e)ついで、カーボン源としてのC2H2およびSi源としてのTMSを、Si含有DLC膜の成膜段階に応じた比率に調整して装置内に導入し、前記電磁コイル、タングステンフィラメント、アノードに通電してプラズマを発生させ、傾斜組成のSi含有割合となるように、表2に示される目標膜厚のSi含有DLC膜を成膜する。
(f)ついで、前記装置内の基板温度を200℃とした状態で、雰囲気ガスとしてArを、Ar:80sccmの割合で導入して、0.1の成膜圧力とし、SiO2(焼結体)ターゲットのカソード電極(蒸発源)には出力:12kW(周波数:40kHz)のスパッタ電力を印加し、一方上記超硬基体には、−100Vのバイアス電圧を印加した条件でグロー放電を発生させることにより、前記超硬基体の表面に表2に示される目標膜厚のSiO2膜を形成する。
以上、(a)〜(f)により、本発明耐摩耗工具部材としての本発明インサ−ト1〜10を製造した。
また、本発明インサ−トと同様なTiN硬質膜、SiO2膜を備え、かつ、Si含有DLC膜のSi含有割合は5〜30原子%であるが、膜中のSi含有割合が均一組成であって、傾斜組成構造を持たないものを比較例インサート5〜8として製造した。
さらに、本発明インサ−トと同様なTiN硬質膜、傾斜組成構造を有するSi含有DLC膜を備えるものの、Si含有DLC膜の上にSiO2膜を形成しなかったものを比較例インサート9、10として製造した。
表3に、比較例インサート1〜10の膜構成を一覧にして示す。
さらに、上記の各膜の膜厚を、走査型電子顕微鏡を用いて測定(縦断面測定)したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均層厚(5点測定の平均値)を示した。
被削材:JIS・A7075(組成は、質量%で、Si:0.25%、Fe:0.35%、Cu:1.52%、Mn:0.18%、Mg:2.45%、Cr:0.23%、Alおよび不純物:残り)の丸棒、
切削速度:600m/min.、
切り込み:1.5mm、
送り: 0.45 mm/rev.、
切削時間:90分、
の条件(切削条件Aという)でのAl合金の乾式連続高送り切削加工試験(通常の送り量は0.2mm/rev.)、
被削材:JIS・ADC14(組成は、質量%で、Cu:4.05%、Si:17.2%、Mg:0.48%、Zn:1.31%、Fe:0.80%、Mn:0.18%、Ni:0.21%、Sn:0.11%、Alおよび不純物:残り)の丸棒、
切削速度:400m/min.、
切り込み:1.0mm、
送り:0.35mm/rev.、
切削時間:90分、
の条件(切削条件Bという)でのAl合金の乾式連続高送り切削加工試験(通常の送り量は0.2mm/rev.)、
を行なった。
いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
この測定結果を表4に示した。
これに対して、比較例の工具部材(比較例インサート1〜10)は、耐摩耗性が劣るものであり、また、被膜の剥離が生じたり、長時間切削に耐えることができず、耐摩耗性工具部材としては満足できる特性を備えるものであるといえないことは明らかである。
Claims (2)
- 工具基体上に、工具基体表面側から順に、膜厚0.5〜5μmのTiN硬質膜、膜厚0.2〜10μmのSi含有ダイヤモンドライクカーボン膜および膜厚0.2〜2μmのSiO2膜を形成した耐摩耗性工具部材において、
上記Si含有ダイヤモンドライクカーボン膜におけるSi含有割合は、5〜30原子%であって、かつ、該Si含有ダイヤモンドライクカーボン膜におけるSi含有割合は、TiN硬質膜側からSiO2膜側へ向かうにしたがって次第に増加する傾斜組成を有することを特徴とする潤滑性に優れる耐摩耗性工具部材。 - 上記Si含有ダイヤモンドライクカーボン膜におけるSi含有割合は、TiN硬質膜との界面部分では5〜15原子%、また、上記SiO2膜との界面部分では20〜30原子%であって、かつ、TiN硬質膜側からSiO2膜側へ向かうにしたがってSi含有割合が次第に増加する傾斜組成を有することを特徴とする請求項1に記載の潤滑性に優れる耐摩耗性工具部材。
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