JP6471546B2 - 表面被覆切削工具 - Google Patents
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Description
そして、耐摩耗性に優れるという点から、炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメット等からなる工具基体の表面に、物理蒸着の一種であるアークイオンプレーティング法により、AlとCrの複合窒化物(以下、(Al,Cr)Nで示す)を硬質被覆層として被覆形成した被覆工具が従来から知られている。
しかし、(Al,Cr)N層を、
組成式:(AlbCr1−b)N
で表した時、Al含有割合を示すbの値(但し、原子比)が0.75以上になると、通常は、六方晶構造の(Al,Cr)N結晶粒が形成されるようになる(例えば、前記特許文献1,2参照)ため、(Al,Cr)N層全体としての硬度が低下し、その結果、耐摩耗性が低下する。
そこで、本発明者は、Al含有割合を示すbの値(但し、原子比)が0.75以上である(Al,Cr)N層(以下、「B層」という場合もある)を単層として形成するのではなく、B層よりもAl含有割合が少ない立方晶構造を有する(Al,Cr)N層(以下、「A層」という場合もある)との交互積層構造として形成し、しかも、上記A層およびB層の層厚を、それぞれ適正範囲にコントロールすることによって、B層の結晶構造を六方晶ではなく立方晶構造に維持し得ることを見出したのである。
つまり、Al含有割合を高めた場合でも、(Al,Cr)N層全体を立方晶構造とすることができるため、得られた硬質被覆層は高硬度を有すると同時に耐熱性にすぐれ、これを工具基体表面に被覆形成した被覆工具は、炭素鋼、合金鋼、高硬度鋼等の高熱発生を伴う高速切削加工ですぐれた耐摩耗性を発揮することを見出したのである。
「(1) 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に総層厚0.5〜10μmの硬質被覆層を蒸着形成してなる表面被覆切削工具において、
(a)前記硬質被覆層は、A層とB層の交互積層構造からなり、
(b)前記A層は、組成式:(AlaCr1−a)N(ただし、aは原子比)で表した場合に、0.50≦a≦0.70を満足し、
(c)前記B層は、組成式:(AlbCr1−b)N(ただし、bは原子比)で表した場合に、0.75≦b≦0.99を満足し、
(d)前記A層の一層当たりの層厚をx(nm)、前記B層の一層当たりの層厚をy(nm)としたとき、5y≧x≧3y、かつ、250(nm)≧x+y≧130(nm)を満足することを特徴とする表面被覆切削工具。」
を特徴とする。
硬質被覆層のA層を構成する(Al,Cr)N層は、組成式:(AlaCr1−a)N(ただし、aは原子比)で表した場合に、Alの含有割合を示すaの値が0.50未満では、相対的にCrの割合が多くなって、すぐれた耐溶着性と高温強度は得られるものの十分な硬さを確保することができなくなり、一方、aの値が0.70を超えると、六方晶構造の(Al,Cr)N結晶粒が形成されるようになるため、高温硬さが低下し、すぐれた耐摩耗性を発揮することができなくなる。
したがって、本発明では、A層を構成する(AlaCr1−a)Nにおけるaの値を0.50≦a≦0.70と定めた。
上記B層におけるbの値を0.75以上とすることによって、硬質被覆層が高Al含有量となるため耐熱性が向上する。しかし、bの値が0.99を超えると、Cr含有量の相対的な減少によって高温強度が低下するとともに、層中に六方晶構造の(Al,Cr)N結晶粒が増加するため、硬さも低下し、耐摩耗性が低下傾向を示すようになる。
したがって、本発明では、B層を構成する(AlbCr1−b)Nにおけるbの値を、0.75≦b≦0.99と定めた。
しかし、本発明では、上記A層とB層の層厚をそれぞれ適正範囲となるように定めて交互積層構造とすることによって、B層のAl含有割合を0.75以上0.99以下と高めた場合であっても、B層を六方晶ではなく立方晶構造のものとして形成することができる。
交互積層構造を構成するA層の一層の平均層厚をx(nm)、また、同じく交互積層構造を構成するB層の一層の平均層厚をy(nm)とした場合に、5y≧x≧3yとする。
xが3y未満であると、硬質被覆層中に占めるAlの含有割合が高いB層の占める割合が大きくなり、硬さの低い六方晶結晶構造の結晶粒が生成しやすくなって硬質被覆層の硬度が低下し、一方、xが5yを超えると、Alの含有割合が高いB層の占める割合が低下し、十分な耐熱性を発揮することができなくなる。
したがって、本発明では、A層の一層平均層厚xとB層の一層平均層厚yとの関係が、5y≧x≧3yを満足するように定める。
上記ユニット厚さが130(nm)未満である場合には、相対的にB層の一層平均層厚yが小さくなり、硬質被覆層の耐熱性向上効果が少なくなり、一方、ユニット厚さが250(nm)を超えるようになると、B層において六方晶構造の結晶粒が生成しやすくなり、その結果、硬質被覆層の硬度低下を招くようになるためである。
したがって、本発明では、A層とB層のユニット厚さx+yを、250(nm)≧x+y≧130(nm)を満足するように定める。
前記交互積層構造からなる硬質被覆層の総層厚が0.5μm未満であると、長期の使用にわたって十分な耐摩耗性を発揮することができず、一方、総層厚が10μmを超えると、切削加工時にチッピング、欠損、剥離等の異常損傷を発生しやすくなることから、硬質被覆層の総層厚は、0.5〜10μmと定めた。
なお、ここでは、炭化タングステン(WC)基超硬合金を工具基体とする被覆工具について述べるが、炭窒化チタン(TiCN)基サーメットを工具基体とした場合も同様である。
(b)まず、装置内を排気して0.1 Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を600℃に加熱した後、回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ、Al−Cr合金(カソード電極)とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって工具基体表面をボンバード洗浄し、
(c)次に装置内雰囲気を0.5〜9.0Paの窒素雰囲気に保持して、回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−20〜−150Vの直流バイアス電圧を印加し、カソード電極(蒸発源)であるA層形成用のAl−Cr合金電極とアノード電極との間に50〜250Aの電流を流してアーク放電を発生させて所定層厚のA層を形成し、次いで、B層形成用のAl−Cr合金電極とアノード電極との間に50〜250Aの電流を流してアーク放電を発生させて所定層厚のB層を形成し、これを交互に繰り返し行うことにより、表3に示される目標組成、目標層厚のA層とB層の交互積層構造からなる硬質被覆層を蒸着形成することにより、
本発明被覆工具としての表面被覆インサート(以下、本発明被覆インサートと云う)1〜6を製造した。
(a)前記工具基体A−1〜A−3、B−1〜B−3のそれぞれを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、図1に示されるアークイオンプレーティング装置内の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部に沿って装着し、前記回転テーブルを挟んで対向する位置に、カソード電極として異なる組成を有するAl−Cr合金(以下、それぞれを、C層形成用Al−Cr合金,D層形成用Al−Cr合金)を配置し、
(b)まず、装置内を排気して0.1 Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を600℃に加熱した後、回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ、Al−Cr合金(カソード電極)とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって工具基体表面をボンバード洗浄し、
(c)次に装置内雰囲気を0.5〜9.0Paの窒素雰囲気に保持して、回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−20〜−150Vの直流バイアス電圧を印加し、カソード電極(蒸発源)であるC層形成用Al−Cr合金電極とアノード電極との間に50〜250Aの電流を流してアーク放電を発生させて所定組成のC層を蒸着形成し、次いで、D層形成用Al−Cr合金電極とアノード電極との間に50〜250Aの電流を流してアーク放電を発生させて所定組成のD層を蒸着形成することにより、表4に示される目標組成、目標層厚の交互積層からなる硬質被覆層を蒸着形成し、
比較被覆工具としての表面被覆インサート(以下、比較被覆インサートと云う)1〜5を製造した。
また、上記の硬質被覆層の交互積層構造を示す各層の平均層厚を、透過型電子顕微鏡を用いて断面測定したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均値(5ヶ所の平均値)を示した。
表3、表4に、これらの測定値を示す。
切削条件A:
被削材:JIS・SCM420(HB300)の丸棒、
切削速度: 230m/min.、
切り込み: 0.25mm、
送り: 0.3mm/rev.、
切削時間: 5分、
の条件での合金鋼の連続高速切削加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、180m/min.、0.25 mm/rev.)。
切削条件B:
被削材:JIS・S50C(HB190)の丸棒、
切削速度: 260 m/min.、
切り込み: 0.2 mm、
送り: 0.35 mm/rev.、
切削時間: 5分、
の条件での炭素鋼の連続高速切削加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、190 m/min.、0.30 mm/rev.)。
切削条件C:
被削材:JIS・SKD11(HRC61)の丸棒、
切削速度: 100 m/min.、
切り込み: 0.2 mm、
送り: 0.25 mm/rev.、
切削時間: 3分、
の条件での高硬度鋼の連続高速切削加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、65 m/min.、0.1 mm/rev.)。
表5に、この測定結果を示す。
また、上記の硬質被覆層の交互積層構造を示す各層の平均層厚を、透過型電子顕微鏡を用いて断面測定したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均値(5ヶ所の平均値)を示した。
表6、表7に、これらの測定値を示す。
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmの、JIS・SCM420(HB300)の板材、
切削速度: 250m/min.、
溝深さ(切り込み):15mm、
テーブル送り: 830mm/min.、
の条件(切削条件D)での合金鋼の湿式高速溝切削加工試験(通常の切削速度およびテーブル送りは、それぞれ、195m/min.、660mm/min.)、
を行い、切刃部の外周刃の逃げ面摩耗幅が使用寿命の目安とされる0.1mmに至るまでの切削溝長を測定した。
この測定結果を表6、表7にそれぞれ示した。
これに対して、硬質被覆層を構成する層のいずれかが本発明で規定した組成、層厚等から外れる比較被覆工具においては、耐摩耗性が十分でなく、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に総層厚0.5〜10μmの硬質被覆層を蒸着形成してなる表面被覆切削工具において、
(a)前記硬質被覆層は、A層とB層の交互積層構造からなり、
(b)前記A層は、組成式:(AlaCr1−a)N(ただし、aは原子比)で表した場合に、0.50≦a≦0.70を満足し、
(c)前記B層は、組成式:(AlbCr1−b)N(ただし、bは原子比)で表した場合に、0.75≦b≦0.99を満足し、
(d)前記A層の一層当たりの層厚をx(nm)、前記B層の一層当たりの層厚をy(nm)としたとき、5y≧x≧3y、かつ、250(nm)≧x+y≧130(nm)を満足することを特徴とする表面被覆切削工具。
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