JP5975338B2 - 表面被覆切削工具 - Google Patents
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Description
すなわち、チタン合金、ステンレス鋼等の難削材の高速切削加工において、切刃部が高温になったとしても、CrN層に不足する耐溶着性を、これに積層される(Al,Cr)N薄層が補完し、硬質被覆層全体として被削材との耐摩耗性も改善され、その結果、切刃部におけるチッピング(微少欠け)の発生が防止され、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性が発揮されるという新規な知見を得た。
さらに、本発明者らは、下部層の(Al,Ti)N層および中間層の(Al,Cr)N層のヤング率に着目して詳細に研究を行ったところ、下部層の(Al,Ti)N層については、下部層に期待される耐摩耗性、耐熱性、耐欠損性を十分に発揮させるためには、被削材や切削条件に限らず、ヤング率が400〜550GPaのヤング率であるとき(Al,Ti)N層の有する耐摩耗性、耐熱性、耐欠損性がより有効に発揮される。一方、中間層の(Al,Cr)N層については、ヤング率が150〜300GPaの下部層に比べて低ヤング率であるとき、(Al,Cr)N層の耐欠損性が強化されるため、チタン合金、ステンレス鋼等の損傷形態が溶着チッピング等の異常損傷で寿命となりやすい、すなわち、加工時に刃先への溶着が激しい難削材の高速切削加工において、特にすぐれた切削性能を発揮することを見出した。
「(1) 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に硬質被覆層を形成してなる表面被覆切削工具において、
前記硬質被覆層が、
(a)0.5〜5.0μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Al1−xTix)N(ここで、xはAlとTiの合量に占めるTiの含有割合を示し、原子比で、0.25≦x≦0.55である)を満足し、ヤング率Eが400GPa≦E≦550GPaであるするAlとTiとの複合窒化物層からなる下部層と、
(b)0.5〜5.0μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Al1−yCry)N(ここで、yはAlとCrの合量に占めるCrの含有割合を示し、原子比で、0.25≦y≦0.50である)を満足し、ヤング率Eが150GPa≦E≦300GPaであるAlとCrとの複合窒化物層からなる中間層、
(c)0.5〜5.0μmの平均層厚を有するCrの窒化物層からまる上部層、
前記下部層、中間層、上部層の積層構造からなることを特徴とする表面被覆切削工具。」
を特徴とするものである。
下部層を構成する(Al,Ti)N層の構成成分であるAl成分には硬質被覆層における高温硬さを向上させ、同Ti成分には高温強度を向上させる作用があるが、Tiの含有割合を示すx値がAlとの合量に占める割合(原子比、以下同じ)で0.25未満になると、所定の高温強度を確保することができず、これが耐摩耗性低下の原因となり、一方、Tiの含有割合を示すx値が同0.55を越えると、相対的にAlの含有割合が減少し、高速切削加工で必要とされる高温硬さを確保することができず、チッピングの発生を防止することが困難になることからx値を0.25〜0.55と定めた。
また、下部層を構成する(Al,Ti)N層の平均層厚が0.5μm未満では、自身の持つすぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するには不十分であり、一方、その平均層厚が5.0μmを越えると、前記の高速切削では切刃部にチッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を0.5〜5.0μmと定めた。
中間層を構成するAlとCrの複合窒化物からなる(Al,Cr)N層は、すぐれた耐酸化性、耐熱性を有するとともに、その構成成分であるCr成分によって、すぐれた潤滑性を備えるようになり、また、Al成分によって、高温硬さを補完する。そのため、高温切削条件下でも低摩擦係数が維持され、すぐれた耐熱性を発揮するようになるが、Crの含有割合を示すy値がAlとの合量に占める割合(原子比、以下同じ)で0.25未満になると、潤滑性を確保することができないために耐溶着性を期待することはできず、一方、Crの含有割合を示すy値が同0.50を越えると、相対的にAlの含有割合が減少し、難削材の高速切削加工で必要とされる高温硬さ確保することができないばかりか、耐摩耗性も低下し、チッピング発生を防止することが困難になることから、y値を0.25〜0.50(原子比、以下同じ)と定めた。
また、中間層を構成する(Al,Cr)N層の平均層厚が0.5μm未満では、自身のもつすぐれた耐酸化性、耐熱性を長期に亘って発揮するには不十分であり、一方、その平均層厚が5.0μmを越えると、高速切削では、耐熱性の不足が顕在化し、切刃部にチッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を0.5〜5.0μmと定めた。
上部層を構成するCrN層は、すぐれた耐溶着性を有するとともに、その構成成分であるCr成分によって、すぐれた潤滑性を備えるようになるが、平均層厚が0.5μm未満では、自身のもつすぐれた耐溶着性を長期に亘って発揮するには不十分であり、一方、その平均層厚が5.0μmを越えると、高速切削では、耐溶着性の不足が顕在化し、切刃部にチッピングが発生し易くなることから、その一層平均層厚を0.5〜5.0μmと定めた。
すなわち、前述した中間層を構成する(Al,Cr)N層は、硬質被覆層に耐酸化性、耐熱性を付与し、上部層を構成するCrN層は、耐溶着性、潤滑性を付与するために設けたものであるが、それぞれの平均層厚が0.5〜5.0μmの範囲内であれば、中間層および上部層からなる積層構造は、すぐれた耐酸化性、耐熱性、耐溶着性、潤滑性を具備したあたかも一つの層であるかのように作用するが、それぞれの平均層厚が5.0μmを超えると、(Al,Cr)N層の耐酸化性、耐熱性不足、あるいは、CrN層の耐溶着性、潤滑性不足が層内に局所的に現れるようになり、中間層と上部層が全体として一つの層としての良好な特性を呈することができなくなるため、それぞれの層の平均層厚を0.5〜5.0μmと定めた。
中間層の(Al,Cr)N層は、ヤング率が150〜300GPaの範囲に含まれるような下部層に比べて低ヤング率であるとき、外部応力が加わった際の皮膜の変形量が増加し、クラック等の発生を阻止するため、耐欠損性を向上させることができる。そのため、チタン合金、ステンレス鋼等の損傷形態が溶着チッピング等の異常損傷で寿命となりやすい難削材の高速切削加工において、特にすぐれた切削性能を発揮する。一方、中間層の(Al,Cr)N層のヤング率が、150GPaよりも低下すると、耐摩耗性の低下が著しいため好ましくなく、一方、300GPaより高くなると、皮膜靭性の低下による耐欠損性が低下してしまうため、皮膜の崩壊や剥離が起こりやすくなる。そのため、チタン合金鋼、ステンレス鋼等の難削材の高速切削加工においては好ましくない。したがって、本発明においては、中間層の(Al,Cr)N層のヤング率は150〜300GPaと定めた。
なお、下部層と中間層のヤング率の差と耐摩耗性、耐熱性、耐欠損性との関係について、数多くの切削試験を行って検証したところ、前記のヤング率の差が100GPa以上であるとき、より、すぐれた耐摩耗性、耐熱性、耐欠損性を示すことが確認された。したがって、下部層と中間層のヤング率の差は100GPa以上とすることが、好ましい。前述の切削試験の結果の一部について、後に実施例として詳述する。
(b)まず、装置内を排気して0.1 Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつAl−Ti合金(カソード電極)とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって工具基体表面をボンバード洗浄し、
(c)次に、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して表3に示される反応雰囲気とすると共に、回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に表3に示される直流バイアス電圧を印加し、かつ、カソード電極の前記Al−Ti合金とアノード電極との間に120Aの電流を流してアーク放電を発生させ、工具基体の表面に、表3に示される目標組成、目標層厚、ヤング率の下部層としての(Al,Ti)N層を蒸着形成した後、カソード電極(蒸発源)とアノード電極との間のアーク放電を停止し、
(d)引き続いて装置内雰囲気を表3に示される窒素雰囲気に保持して、回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に表3に示される直流バイアス電圧を印加し、カソード電極(蒸発源)であるAl−Cr合金電極と、アノード電極との間に120Aの電流を交互に流してアーク放電を発生させて、表3に示される目標組成、目標層厚、ヤング率の中間層としての(Al,Cr)N層を蒸着形成した後、
(e)引き続いて装置内雰囲気を1.0Paの窒素雰囲気に保持したままで、回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−30Vの直流バイアス電圧を印加し、カソード電極(蒸発源)である金属Cr電極と、アノード電極との間に120Aの電流を交互に流してアーク放電を発生させて、表3に示される目標層厚の上部層としてのCrN層を蒸着形成した。
前記(a)〜(e)により工具基体上に図3に模式的に示したような硬質被覆層を蒸着形成し、本発明被覆工具としての表面被覆インサート(以下、本発明被覆インサートと云う)1〜16をそれぞれ製造した。
中間層の(Al,Cr)N層のヤング率の制御は、前述のようにバイアス電圧と窒素分圧を制御することにより行った。すなわち、低バイアス電圧、低窒素分圧とすることで、(Al,Cr)N層のヤング率を低ヤング率の150〜300GPaに制御することができる。また、下部層の(Al,Ti)N層のヤング率の制御は、前述のようにバイアス電圧と窒素分圧を制御することにより行った。すなわち、−20〜150V、かつ0.5〜9.0Paの範囲で成膜することで高ヤング率の400〜550GPaに制御することができる。
各層の形成条件(バイアス電圧、窒素分圧)を同じく表3に示す。
また、ヤング率の測定は、ナノインデンター(MTSシステムズ社の商標)を用いてナノインデンテーション法による測定を行った。その結果を同じく表3に示した。
被削材:JIS・SUS304(HB200)の丸棒、
切削速度: 135m/min.、
切り込み: 3.0mm、
送り: 0.2mm/rev.、
切削時間: 5分、
の条件(切削条件A)でのステンレス鋼の湿式連続高速切削加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、125m/min.、0.2 mm/rev.)、
被削材:Ti−6Al−4V合金(HB240)の丸棒、
切削速度: 65m/min.、
切り込み: 1.5 mm、
送り: 0.2mm/rev.、
切削時間: 5分、
の条件(切削条件B)でのTi合金の湿式連続高速切削加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、45m/min.、0.2mm/rev.)、
被削材:JIS・G4901(HB200)の丸棒、
切削速度: 70m/min.、
切り込み: 2.5mm、
送り: 0.2mm/rev.、
切削時間: 5分、
の条件(切削条件C)でのニッケル合金の湿式連続高速切削加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、45m/min.、0.2 mm/rev.)、
を行い、いずれの高速切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表5、表6に示した。
つぎに、本発明被覆エンドミル1〜10および比較被覆エンドミル1〜5について、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SUS304(HB220)の板材、
切削速度: 130m/min.、
溝深さ(切り込み):15mm、
テーブル送り: 300mm/min.、
の条件(切削条件D)でのステンレス鋼の湿式高速溝切削加工試験(通常の切削速度およびテーブル送りは、それぞれ、85m/min.、280mm/分)、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのTi−6Al−4V合金(HB200)の板材、
切削速度: 100m/min.、
溝深さ(切り込み):15mm、
テーブル送り: 120mm/min.、
の条件(切削条件E)でのTi合金の湿式高速溝切削加工試験(通常の切削速度およびテーブル送りは、それぞれ、40m/min.、95mm/min.)、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・G4901(HB230)の板材、
切削速度: 50m/min.、
溝深さ(切り込み):15mm、
テーブル送り: 110mm/min.、
の条件(切削条件F)でのニッケル合金の湿式高速溝切削加工試験(通常の切削速度およびテーブル送りは、それぞれ、30m/min.、85mm/min.)、
をそれぞれ行い、いずれの高速溝切削加工試験でも切刃部の外周刃の逃げ面摩耗幅が使用寿命の目安とされる0.1mmに至るまでの切削溝長を測定した。この測定結果を同じく表7、表8にそれぞれ示した。
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SUS304(HB180)の板材、
切削速度: 120m/min.、
送り: 0.25mm/rev.、
穴深さ: 5mm、
の条件(切削条件G)でのステンレス鋼の湿式高速穴あけ加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、75m/min.、0.2mm/rev.)、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのTi−6Al−4V合金(HB250)の板材、
切削速度: 75m/min.、
送り: 0.2mm/rev.、
穴深さ: 5mm、
の条件(切削条件H)でのTi合金の湿式高速穴あけ加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、45m/min.、0.15mm/rev.)、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・G4901(HB200)の板材、
切削速度: 65m/min.、
送り: 0.25mm/rev.、
穴深さ: 5mm、
の条件(切削条件I)でのニッケル合金の湿式高速穴あけ加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、50m/min.、0.1mm/rev.)、
をそれぞれ行い、いずれの湿式高速穴あけ加工試験(水溶性切削油使用)でも先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまでの穴あけ加工数を測定した。この測定結果を同じく表9、表10にそれぞれ示した。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に硬質被覆層を形成してなる表面被覆切削工具において、
前記硬質被覆層が、
(a)0.5〜5.0μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Al1−xTix)N(ここで、xはAlとTiの合量に占めるTiの含有割合を示し、原子比で、0.25≦x≦0.55である)を満足し、ヤング率Eが400GPa≦E≦550GPaであるAlとTiとの複合窒化物層からなる下部層、
(b)0.5〜5.0μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Al1−yCry)N(ここで、yはAlとCrの合量に占めるCrの含有割合を示し、原子比で、0.25≦y≦0.50である)を満足し、ヤング率Eが150GPa≦E≦300GPaであるAlとCrとの複合窒化物層からなる中間層、
(c)0.5〜5.0μmの平均層厚を有するCrの窒化物層からなる上部層、
前記下部層、中間層、上部層の積層からなることを特徴とする表面被覆切削工具。
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