JP5850400B2 - 表面被覆切削工具 - Google Patents
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Description
そして、上記従来の被覆工具は、例えば、物理蒸着装置の1種であるアークイオンプレーティング(AIP)装置に上記の工具基体を装入し、ヒータで工具基体を500℃の温度に加熱した状態で、アノード電極と所定組成のAl−Cr合金がセットされたカソード電極との間に、電流:90Aの条件でアーク放電を発生させ、同時に装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して、2Paの反応雰囲気とし、一方、上記工具基体には、−100Vのバイアス電圧を印加した条件で、前記工具基体の表面に、上記(Al,Cr)N層を蒸着形成することにより製造し得ることが知られている。
そして、上記被覆工具は、プラズマ電流150A、Arガス流量50cc/min、N2ガス流量100cc/min、C2H2ガス流量10cc/min、成膜圧力0.53〜0.8Pa、バイアス電圧−150〜−200Vという物理蒸着法で作製し得ることが示されている。
上記従来の被覆工具においては、ある程度の耐欠損性、耐摩耗性の向上は望み得るものの、これを炭素鋼、合金鋼などの、高熱発生を伴う高速切削加工に用いた場合には、依然として、欠損が発生しやすく、あるいは、摩耗損耗が大きくなり、これらを原因として、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
「炭化タングステン基超硬合金で構成された工具基体の表面に、AlとCrの複合窒化物層からなる硬質被覆層が形成されている表面被覆切削工具において、
上記硬質被覆層は、平均膜厚が1〜10μm、AlとCrの合量に占めるCrの含有割合は0.2〜0.5(但し、原子比)であり、すくい面と逃げ面の交差稜線部から50μmの位置を中心位置とした半径50μmの範囲内の逃げ面のAlとCrの複合窒化物層について、2D法(2次元X線回折/フルデバイリングフィッティング法)により残留応力を測定した場合、
(a)上記交差稜線部と平行な方向の圧縮残留応力σ11は、0.5GPa≦σ11≦4.5GPaの関係を満足し、
(b)上記σ11と直交する方向の圧縮残留応力σ22は、0GPa≦σ22≦4.0GPaの関係を満足し、
(c)さらに、上記σ11と上記σ22は、σ11−σ22≧0.5GPaの関係を満足することを特徴とする表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
(a)硬質被覆層の種別、平均層厚:
この発明の硬質被覆層は、AlとCrの複合窒化物層((Al,Cr)N層)からなる。
上記(Al,Cr)N層は、Al成分が高温硬さと耐熱性を向上させ、Cr成分が高温強度を向上させ、さらにCrとAlの共存含有によって高温耐酸化性が向上することから、高温硬さ、耐熱性、高温強度及び高温耐酸化性にすぐれた硬質被覆層として既によく知られている。
本発明では、Alとの合量に占めるCrの含有割合(原子比、以下同じ)が0.2未満では、高速切削加工時の高温強度を確保することが困難となり、一方、Alとの合量に占めるCrの含有割合(原子比)が0.5を越えると、相対的にAlの含有割合が少なくなり、高温硬さの低下、耐熱性の低下を招き、その結果、偏摩耗の発生、熱塑性変形の発生等により耐摩耗性が劣化するようになることから、Alとの合量に占めるCrの含有割合(原子比)は、0.2〜0.5と定めた。
また、(Al,Cr)N層からなる硬質被覆層の平均層厚は、1μm未満では、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮することができず、工具寿命短命の原因となり、一方、その平均層厚が10μmを越えると、刃先部にチッピングが発生し易くなることから、その平均層厚は1〜10μmと定めた。
本発明では、上記(Al,Cr)N層からなる硬質被覆層の逃げ面、特に、少なくとも、すくい面と逃げ面の交差稜線部(以下、「切れ刃稜線部」という)から50μmの位置を中心位置とした半径50μmの範囲内の逃げ面、において測定される圧縮残留応力の値σ11、σ22を所定の数値範囲に定め、かつ、σ11とσ22の相互の関係を規定することによって、耐欠損性、耐摩耗性の改善を図っている。
図1(b)、図2(b)において、切れ刃稜線部と1点で接した半径50μmの範囲内の逃げ面のAlとCrの複合窒化物層において、2D法(2次元X線回折/フルデバイリングフィッティング法)により2方向の圧縮残留応力σ11、σ22を測定した。σ11は、測定範囲の円の中心から切れ刃稜線部との接点の方向、σ22は上記σ11と直交する方向の圧縮残留応力である。なお測定範囲は全て逃げ面の領域を含み、逃げ面の領域からはみ出さないものとする。
本発明によれば、σ11は、0.5GPa≦σ11≦4.5GPaの関係を満足し、σ22は、0GPa≦σ22≦4.0GPaの関係を満足し、さらに、上記σ11、σ22は、σ11−σ22≧0.5GPaの関係を満足することが必要である。
さらに、本発明では、σ11、σ22相互の関係について、σ11−σ22≧0.5GPaと定めたが、これは次のような理由による。
即ち、切削加工時にチッピング、欠損、摩耗を起こす力の方向(σ22の方向)に対して直交する方向(σ11の方向)に大きな圧縮残留応力が存在することで、このσ11が、チッピング、欠損、摩耗を発生させる力に対して抵抗する役割を果たすことによって、チッピング、欠損、摩耗の発生・進展を抑制する。
ただ、σ22が大きくなり、σ11とσ22の関係が、σ11−σ22<0.5GPaとなったような場合には、切れ刃稜線部に対して残留応力が集中することになるので、チッピング、欠損が発生しやすくなる。
したがって、本発明では、σ11、σ22相互の関係について、σ11−σ22≧0.5GPaと定めた。
この発明の硬質被覆層は、例えば、図3(a)、(b)に示すようなアークイオンプレーティング装置(AIP装置)を用い、工具基体の温度を370〜450℃に維持しつつ、工具基体をAIP装置内で自公転させ、ターゲット表面中心とターゲットに最近接した工具基体の逃げ面が平行となるように姿勢制御をしながら、ターゲットと工具基体間に所定の磁場を印加しながら蒸着することによって、形成することができる。
まず、炭化タングステン(WC)基超硬合金からなる工具基体を洗浄・乾燥し、AIP装置内の回転テーブル上に装着し、真空中で基体洗浄用のTi電極とアノード電極との間に100Aのアーク放電を発生させて、工具基体に−1000Vのバイアス電圧を印加しつつ工具基体表面をボンバード洗浄し、
ついで、Al−Cr合金ターゲットの表面最大磁場が2.5mT以上であって、かつ、アークスポットがターゲット外側に移動することで発生する異常放電発生を防止するように磁場を印加し、
ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入し9.3Paの雰囲気圧力とし、工具基体の温度を370〜450℃に維持し、工具基体に−50Vのバイアス電圧を印加しつつ、Al−Cr合金ターゲット(カソード電極)とアノード電極との間に100Aのアーク放電を発生させ、工具基体がターゲットに最接近した際には、逃げ面とターゲット面が平行となるように工具基体を支持して自公転させつつ蒸着することによって、本発明の圧縮残留応力を有する(Al,Cr)N層からなる硬質被覆層を蒸着形成することができる。
ここでは、エンドミルに適用した場合について説明するが、これに限られるものではなく、インサート、ドリル等に対しても当然に適用できるものであることは言うまでもない。
(b)まず、装置内を排気して真空に保持しながら、ヒーターで工具基体を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ、Tiカソード電極とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって工具基体表面をボンバード洗浄し、
(c)ついで、図4に示すように、ターゲットの背面に電磁コイルを配置するとともに、ターゲット周側にフェライト磁石を配置した上記Al−Cr合金ターゲットに、表面最大磁場が2.5〜7.0mTの範囲内となるように表2に示す種々の磁場を印加し、
(d)ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して9.3Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体の温度を370〜450℃の範囲内に維持するとともに−50Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ前記Al−Cr合金ターゲットとアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記工具基体の表面に、表1に示される組成および目標平均層厚の(Al,Cr)N層からなる硬質被覆層を蒸着形成することにより、
本発明被覆工具としての表面被覆エンドミル1〜10(以下、本発明1〜10という)をそれぞれ製造した。硬質被覆層の組成は、EPMAを用いて逃げ面の切れ刃稜線部から50μmの位置で5点測定を行い、それらの平均値から算出した。
なお、図3に示すAIP装置では、工具基体がAl−Cr合金ターゲットに最接近する際に、逃げ面とAl−Cr合金ターゲット面が平行となるように装着支持されている。
比較の目的で、上記の工具基体(エンドミル)A〜Eに対して、上記実施例における(c)の条件を変更し(例えば、磁場を形成しないもの、ターゲット周側にフェライト磁石を配置しないで磁場を形成したもの、磁場の大きさが2.5mT未満であるもの等)て、その他は実施例と同一の条件で、比較例被覆工具としての表面被覆エンドミル(以下、比較例1〜10という)をそれぞれ製造した。
2D法(2次元X線回折/フルデバイリングフィッティング法)とは、2次元に広がる回折線全体を同時に検出することでデバイリング全体の歪みから全応力成分を算出する方法である。
σ11、σ22については、それぞれ5点測定を行い、その測定値の平均値をσ11、σ22とした。
表2、表3に、上記で測定・算出したσ11,σ22,σ11−σ22の値を示す。
解析法:2D法(2次元X線回折/フルデバイリングフィッティング法)
X線源:Cu−Kα線 出力=50kV,22mA
X線回折ピーク:2θ=80°(220)面のピークを使用
なお、(Al,Cr)Nのポアソン比=0.200、ヤング率=300000MPaを用いて残留応力を算出した。
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S55Cの板材、
切削速度: 284 m/min.、
溝深さ(切り込み): 2.0 mm、
切削幅: 0.3 mm
送り: 2000 mm/min.、
切削長:340m、
の条件(切削条件Aという)での炭素鋼の高速溝切削加工試験を実施し、切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。なお逃げ面摩耗幅が0.2mmを超えた場合は寿命とみなし、その時の切削長を記録した。
この測定結果を表4に示した。
これに対して、硬質被覆層の残留圧縮応力の値が本発明で規定する範囲を外れた比較例被覆工具では、チッピング、欠損の発生あるいは耐摩耗性の低下によって、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金で構成された工具基体の表面に、AlとCrの複合窒化物層からなる硬質被覆層が形成されている表面被覆切削工具において、上記硬質被覆層は、平均膜厚が1〜10μm、AlとCrの合量に占めるCrの含有割合は0.2〜0.5(但し、原子比)であり、すくい面と逃げ面の交差稜線部から50μmの位置を中心位置とした半径50μmの範囲内の逃げ面のAlとCrの複合窒化物層について、2D法により残留応力を測定した場合、
(a)上記交差稜線部と平行な方向の圧縮残留応力σ11は、0.5GPa≦σ11≦4.5GPaの関係を満足し、
(b)上記σ11と直交する方向の圧縮残留応力σ22は、0GPa≦σ22≦4.0GPaの関係を満足し、
(c)さらに、上記σ11と上記σ22は、σ11−σ22≧0.5GPaの関係を満足することを特徴とする表面被覆切削工具。
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