JP5850393B2 - 表面被覆切削工具 - Google Patents
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そして、上記従来の被覆工具は、例えば、図1に示すように、物理蒸着装置の1種であるアークイオンプレーティング装置に上記の工具基体を装入し、ヒータで工具基体を500℃の温度に加熱した状態で、アノード電極と所定組成のAl−Cr合金がセットされたカソード電極との間に、電流:90Aの条件でアーク放電を発生させ、同時に装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して、2Paの反応雰囲気とし、一方、上記工具基体には、−100Vのバイアス電圧を印加した条件で、前記工具基体の表面に、上記(Al,Cr)N層を蒸着形成することにより製造し得ることも知られている。
例えば、特許文献2には、被覆工具の硬質被覆層の組織構造について、刃先稜線から逃げ面方向0.2mm以内の領域と、すくい面方向0.5mm以内の領域において、硬質被覆層を構成する結晶粒の成長軸線方向が基材に対して実質的に垂直であり、結晶粒の粒界の2等分線に対して±2°以内である被覆工具が記載されており、この被覆工具によれば、耐摩耗性と耐欠損性とを両立を図り得ることが記載されている。
また、例えば、特許文献3には、工具基体の表面に、第1被覆層と第2被覆層とを順次被覆した被覆工具において、第2被覆層を柱状結晶で構成するとともに該柱状結晶の成長軸線方向を工具基体表面の垂直方向に対して平均で1〜15°傾斜させた被覆工具が記載されており、この被覆工具によれば、硬質被覆層に衝撃がかかっても、第2被覆層によって、第1被覆層および工具基体への衝撃の伝播を緩和することができ、また、クラックの進展を抑制することができるため、耐チッピング性と耐欠損性とを改善できることが記載されている。
上記従来の被覆工具においては、ある程度の耐チッピング性、耐欠損性、耐摩耗性の改善は図り得るものの、これを炭素鋼、合金鋼などの、高熱発生を伴う高速切削加工に用いた場合には、溶着が生じやすく、また、特に、切削開始初期段階においては、結晶粒界でのすべりによるチッピング、摩耗が発生しやすく、これを原因として、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
「(1) 炭化タングステン基超硬合金で構成された工具基体の表面に、AlとCrの複合窒化物からなる硬質被覆層が形成された表面被覆切削工具において、
(a)上記硬質被覆層は柱状結晶組織を有し、刃先の柱状結晶組織の成長軸線方向は、工具基体表面の垂直方向に対して傾斜しており、
(b)刃先の逃げ面における柱状結晶組織の成長軸線方向の傾斜角度は、工具基体表面の垂直方向から、逃げ面延長線とすくい面延長線上の交点に向かって18±5°であり、
(c)刃先のすくい面における柱状結晶組織の成長軸線方向の傾斜角度は、工具基体表面の垂直方向から、逃げ面延長線とすくい面延長線上の交点に向かって30±5°であることを特徴とする表面被覆切削工具。
(2) 逃げ面における柱状結晶組織の成長軸線方向の傾斜角度は、刃先から50μmまでの範囲においては平均16.5±5°であり、かつ、その範囲内での傾斜角度の最大値と最小値との差は10±5°であり、また、すくい面における柱状結晶組織の成長軸線方向の傾斜角度は、刃先から50μmまでの範囲においては平均29±5°であり、かつ、その範囲内での傾斜角度の最大値と最小値との差は11±5°であることを特徴とする前記(1)に記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
硬質被覆層の種別、平均層厚:
この発明の硬質被覆層は、AlとCrの複合窒化物層((Al,Cr)N層)からなる。
上記(Al,Cr)N層は、Al成分が高温硬さと耐熱性を向上させ、Cr成分が高温強度を向上させ、さらにCrとAlの共存含有によって高温耐酸化性が向上することから、高温硬さ、耐熱性、高温強度及び高温耐酸化性にすぐれた硬質被覆層として既によく知られている。
本発明では、(Al,Cr)N層の成分割合は特に規定しないが、Alとの合量に占めるCrの含有割合(原子比、以下同じ)が0.2未満では、高速切削加工時の高温強度を確保することが困難となり、一方、Alとの合量に占めるCrの含有割合(原子比)が0.5を越えると、相対的にAlの含有割合が少なくなり、高温硬さの低下、耐熱性の低下を招き、その結果、偏摩耗の発生、熱塑性変形の発生等により耐摩耗性が劣化するようになることから、Alとの合量に占めるCrの含有割合(原子比)は、0.2〜0.5であることが好ましい。
また、(Al,Cr)N層からなる硬質被覆層の平均層厚は、1μm未満では、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮することができず、工具寿命短命の原因となり、一方、その平均層厚が10μmを越えると、刃先部にチッピングが発生し易くなることから、その平均層厚は1〜10μmとすることが好ましい。
本発明では、上記(Al,Cr)N層からなる硬質被覆層を柱状結晶として成膜し、さらに、逃げ面、すくい面では、それぞれの柱状結晶の成長軸線方向が、工具基体表面の垂直方向に対して所定の傾斜角度範囲内となるように成膜する。
逃げ面の刃先においては、硬質被覆層の柱状結晶の成長軸線方向が、工具基体表面の垂直方向から、逃げ面延長線とすくい面延長線上の交点に向かって18±5°傾斜するように成膜し、また、すくい面の刃先においては、硬質被覆層の柱状結晶の成長軸線方向が、工具基体表面の垂直方向から、逃げ面延長線とすくい面延長線上の交点に向かって30±5°傾斜するように成膜するが、その理由は、以下のとおりである。
上記傾斜角度は、磁場中でのAIP法による空間磁場の大きさによって影響される(磁場中でのAIP法による成膜については後記する)が、基体表面の垂直方向に対する、逃げ面の刃先における硬質被覆層の柱状結晶の成長軸線方向の傾斜角度が18−5°未満(即ち、13°未満)、または、すくい面の刃先における硬質被覆層の柱状結晶の成長軸線方向の傾斜角度が30−5°未満(即ち、25°未満)であると、磁場中AIP法による成膜時、プラズマ中のイオンの価数の上昇が起こり、工具基体に付加したバイアスによるイオンの引き込み効果が高くなるため、硬質被覆層中の圧縮残留応力が高くなりチッピングを発生しやすくなる。
一方、基体表面の垂直方向に対する、逃げ面の刃先における硬質被覆層の柱状結晶の成長軸線方向の傾斜角度が18+5°を超える(即ち、23°を超える)場合、または、すくい面の刃先における硬質被覆層の柱状結晶の成長軸線方向の傾斜角度が30+5°を超える(即ち、35°を超える)場合には、磁場中AIP法による成膜時、プラズマ中のイオンの価数の低下が起こり、工具基体に付加したバイアスによるイオンの引き込み効果が低下し、結晶粒成長軸線方向が刃先で一様になるため、難削材の高速切削加工時に、結晶粒界に沿って剥離が発生し、その結果、摩耗量が多くなる。
以上の理由から、逃げ面の刃先における柱状結晶の成長軸線方向は、工具基体表面の垂直方向から、逃げ面延長線とすくい面延長線上の交点向かって18±5°と、また、すくい面の刃先における柱状結晶の成長軸線方向は、工具基体表面の垂直方向から、逃げ面延長線とすくい面延長線上の交点に向かって30±5°と定めた。
なお、本発明でいう「刃先」とは、「切れ刃先端のコーナー部の円錐形状となっている部分を除いた、直線状切れ刃の最も先端に近い部分」であると定義する。
本発明では、刃先から50μmの範囲における逃げ面の硬質被覆層の柱状結晶の成長軸線方向の平均傾斜角度が16.5±5°になるように、また、刃先から50μmの範囲におけるすくい面の硬質被覆層の柱状結晶の成長軸線方向の平均傾斜角度が29±5°になるように硬質被覆層を成膜するが、その理由は、以下のとおりである。
すなわち、刃先から50μmの範囲における逃げ面の硬質被覆層の柱状結晶の成長軸線方向の平均傾斜角度が16.5−5°(即ち、11.5°)未満になると、あるいは、刃先から50μmの範囲におけるすくい面の硬質被覆層の柱状結晶の成長軸線方向の平均傾斜角度が29−5°(即ち、24°)未満になると、前記(a)の場合と同様に、硬質被覆層中の圧縮残留応力が高くなりチッピングを発生しやすくなる。
一方、刃先から50μmの範囲における逃げ面の硬質被覆層の柱状結晶の成長軸線方向の平均傾斜角度が16.5+5°(即ち、21.5°)を超える場合、あるいは、刃先から50μmの範囲におけるすくい面の硬質被覆層の柱状結晶の成長軸線方向の平均傾斜角度が29+5°(即ち、34°)を超える場合には、前記(b)の場合と同様に、工具基体に付加したバイアスによるイオンの引き込み効果が低下し、逃げ面、すくい面共に刃先では結晶粒成長軸線方向が刃先の方に傾斜し、刃先から離れるにてれバイアスの効果により、結晶粒の成長軸線方向が工具基体表面に対して垂直方向になるため、傾斜角度の最大値と最小値との差が大きくなり、硬質被覆層の特性にばらつきが生じる。
したがって、この発明では、刃先から50μmの範囲における逃げ面の硬質被覆層の柱状結晶の成長軸線方向の平均傾斜角度が16.5±5°になるように、また、刃先から50μmの範囲におけるすくい面の硬質被覆層の柱状結晶の成長軸線方向の平均傾斜角度が29±5°になるように硬質被覆層を成膜する。
そして、上記のように成膜した場合、硬質被覆層の結晶粒の成長軸線方向に大きなばらつきは生じることもないから、均一な特性の硬質被覆層を成膜することができる。
より具体的にいえば、刃先から50μmまでの範囲においては、逃げ面における柱状結晶組織の成長軸線方向の傾斜角度の最大値と最小値との差は10±5°であり、また、刃先から50μmまでの範囲においては、すくい面における柱状結晶組織の成長軸線方向の傾斜角度の最大値と最小値との差は11±5°である。
この発明の硬質被覆層は、図4(a)、(b)に示すようなアークイオンプレーティング装置(AIP装置)を用い、工具基体をAIP装置内で自公転させ、ターゲット表面中心とターゲットに最近接した工具基体間に所定の磁場(積算磁力が65〜270mT×mm)を印加し、かつ、工具基体がターゲットに最接近した際には、逃げ面の一部又は全部とターゲット面が水平となるように工具基体を支持して蒸着することによって、形成することができる。
例えば、AIP装置の一方には基体洗浄用のTi電極からなるカソード電極、他方には70at%Al−30at%Cr合金からなるターゲット(カソード電極)を設け、
まず、炭化タングステン(WC)基超硬合金からなる工具基体を洗浄・乾燥し、AIP装置内の回転テーブル上に装着し、真空中で基体洗浄用のTi電極とアノード電極との間に100Aのアーク放電を発生させて、工具基体に−1000Vのバイアス電圧を印加しつつ工具基体表面をボンバード洗浄し、
ついで、Al−Cr合金ターゲットの表面中心からターゲットに最近接した工具基体までの積算磁力が65〜270mT×mmなる磁場を印加し、
ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入し9.3Paの雰囲気圧力とし、工具基体に−50Vのバイアス電圧を印加しつつ、Al−Cr合金ターゲット(カソード電極)とアノード電極との間に100Aのアーク放電を発生させ、工具基体がターゲットに最接近した際には、逃げ面の一部又は全部とターゲット面が水平となるように工具基体を支持して自公転させつつ蒸着することによって、本発明の結晶成長組織構造を有する(Al,Cr)N層からなる硬質被覆層を蒸着形成することができる。
なお、上記のAl−Cr合金ターゲットと工具基体間での磁場の印加は、例えば、カソード周辺に磁場発生源である電磁コイル又は永久磁石を設置する、あるいは、AIP装置の内部に永久磁石を配置する等、任意の手段で磁場を形成することができる。
(b)まず、装置内を排気して真空に保持しながら、ヒーターで工具基体を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ、Tiカソード電極とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって工具基体表面をボンバード洗浄し、
(c)ついで、上記Al−Cr合金ターゲットの表面中心から工具基体までの積算磁力が65〜270mT×mmの範囲内となるように種々の磁場を印加し、
(d)ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して9.3Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−50Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ前記Al−Cr合金ターゲットとアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記工具基体の表面に、表2に示される組成および目標平均層厚の(Al,Cr)N層からなる硬質被覆層を蒸着形成することにより、
本発明被覆工具としての表面被覆インサート1〜5(以下、本発明1〜5という)をそれぞれ製造した。
なお、図4に示すAIP装置では、工具基体がAl−Cr合金ターゲットに最接近する際に、逃げ面の一部又は全部とAl−Cr合金ターゲット面が水平となるように装着支持されている。
比較の目的で、上記実施例1における(c)の条件を変更し(即ち、Al−Cr合金ターゲットの表面中心から工具基体までの積算磁力を65〜270mT×mmの範囲外として)、それ以外の条件(即ち、上記(a)、(b)、(d))については実施例1と同一の条件で、比較例被覆工具としての表面被覆インサート1〜5(以下、比較例1〜5という)をそれぞれ製造した。
即ち、刃先の逃げ面における柱状結晶組織の成長軸線方向の傾斜角度、刃先のすくい面における柱状結晶組織の成長軸線方向の傾斜角度を測定し、さらに、それぞれの面の刃先から50μmの範囲において、刃先から10μm毎に傾斜角度を測定し、最大傾斜角度、最小傾斜角度を抽出し、その平均傾斜角度を算出した。
なお、上記でいう傾斜角度とは、工具基体表面の垂直方向に対して、硬質被覆層の結晶粒の成長軸線方向が、逃げ面延長線とすくい面延長線上の交点に向かってなす傾斜角度である。
表2、表3に、上記で測定・算出したそれぞれの値を示す。
断面SEM像から、結晶の配向の違いによりコントラストが現れるため、各結晶粒が判別できるため、結晶粒界に沿って線を引く。その線と工具基体表面の垂直方向との傾斜角を算出する。
被削材:JIS・SCM440の丸棒、
切削速度:120m/min.、
切り込み:1.5mm、
送り:0.3mm/rev.、
切削時間:3分、
の条件(切削条件Aという)での合金鋼(クロムモリブデン鋼)の乾式連続高速切削加工試験を実施し、切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
この測定結果を表4に示した。
本発明被覆工具としての本発明被覆超硬エンドミル(以下、本発明6〜10という)をそれぞれ製造した。
比較の目的で、上記の工具基体(エンドミル)6−10に対して、上記比較例1と同一の条件で、表7に示される組成および目標平均層厚の(Al,Cr)N層からなる硬質被覆層を形成することにより、
比較例被覆工具としての比較例被覆超硬エンドミル(以下、比較例6〜10という)をそれぞれ製造した。
また、上記で作製した本発明6〜10および比較例6〜10について、本発明1〜5、比較例1〜5の場合と同様に結晶粒の成長軸線方向を求めた。
即ち、逃げ面の刃先の傾斜角度、すくい面の刃先の傾斜角度、それぞれの面の刃先から50μmの範囲における最大傾斜角度、最小傾斜角度を測定し、その平均傾斜角度を算出した。
表6、表7に、上記で測定・算出したそれぞれの値を示す。
本発明6〜8および比較例6〜8については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S55Cの板材、
切削速度: 284 m/min.、
溝深さ(切り込み): 2.0 mm、
切削幅: 0.3 mm
送り: 2000 mm/min.、
切削長:340m、
の条件(切削条件Bという)での炭素鋼の高速溝切削加工試験を実施し、
また、本発明9,10および比較例9,10については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmの
JIS・S55Cの板材、
切削速度:100m/min.、
溝深さ(切り込み):10mm、
切削幅:1mm
送り:450mm/min.、
切削長:90m、
の条件(切削条件Cという)での炭素鋼の高速溝切削加工試験を実施し、
いずれの高速溝切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
この測定結果を表8にそれぞれ示した。
これに対して、硬質被覆層の柱状結晶粒が特定の成長軸線方向を有していない比較例被覆工具では、難削材の高速切削加工で切削初期段階でチッピングを発生し、また、その際の摩耗量も大きいため、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
Claims (2)
- 炭化タングステン基超硬合金で構成された工具基体の表面に、AlとCrの複合窒化物からなる硬質被覆層が形成された表面被覆切削工具において、
(a)上記硬質被覆層は柱状結晶組織を有し、刃先の柱状結晶組織の成長軸線方向は、工具基体表面の垂直方向に対して傾斜しており、
(b)刃先の逃げ面における柱状結晶組織の成長軸線方向の傾斜角度は、工具基体表面の垂直方向から、逃げ面延長線とすくい面延長線上の交点に向かって18±5°であり、
(c)刃先のすくい面における柱状結晶組織の成長軸線方向の傾斜角度は、工具基体表面の垂直方向から、逃げ面延長線とすくい面延長線上の交点に向かって30±5°であることを特徴とする表面被覆切削工具。 - 逃げ面における柱状結晶組織の成長軸線方向の傾斜角度は、刃先から50μmまでの範囲においては平均16.5±5°であり、かつ、その範囲内での傾斜角度の最大値と最小値との差は10±5°であり、また、すくい面における柱状結晶組織の成長軸線方向の傾斜角度は、刃先から50μmまでの範囲においては平均29±5°であり、かつ、その範囲内での傾斜角度の最大値と最小値との差は11±5°であることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
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