JP2015009322A - 表面被覆切削工具 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】WC基超硬合金からなる工具基体表面に、平均層厚が2〜10μmの硬質被覆層を蒸着形成し、(a)硬質被覆層は、AlとCrの複合窒化物層を含み、かつ、該層におけるAlとCrの合量に占めるCrの含有割合は0.2〜0.5(但し、原子比)であり、(b)逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの範囲において、粒径0.15μm以下の結晶粒と粒径1μm以下の結晶粒の占める結晶粒径長割合がそれぞれ20〜70%、95%以上であり、(c)逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの範囲の工具基体と硬質被覆層の界面において、粒径0.15μm以下の結晶粒の占める結晶粒径長割合は20%以下であることにより、前記課題を解決する。
【選択図】図3
Description
(a)結晶粒の成長方向が、工具基体表面に対して実質的に垂直方向で、結晶粒の粒界の2等分線に対して±2°以内の角度を有する。
(b)結晶粒のアスペクト比が5以上である。
(c)結晶粒の成長方向が、結晶粒の粒界の2等分線に対して±2°超〜±40°以内の角度を有する。
(d)結晶粒のアスペクト比が5以上である。
従来被覆工具においては、ある程度の耐チッピング性、耐欠損性、耐摩耗性の改善は図り得るものの、これを炭素鋼などの一段と厳しい切削加工に用いた場合には、チッピングが発生しやすく、あるいは、摩耗損耗が大きくなり、これを原因として、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
(1)AIP法による硬質被覆層の成膜を所定強度の磁場中で行うことによって、硬質被覆層を構成する結晶粒の粒径、形成領域およびその分布を調整することができること、
(2)そして、逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの範囲において、硬質被覆層は、粒径0.15μm以下の結晶粒と粒径1.0μm以下の結晶粒の占める結晶粒径長割合がそれぞれ20〜70%、95%以上となるように調整すること、すなわち、逃げ面上の結晶粒の粒径分布を調整することにより、切削時に刃先の部位ごとに要求される硬度を満足させることができ、結果として工具寿命の長寿命化が可能になること、
(3)さらに、逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの範囲において、硬質被覆層と工具基体との界面における粒径0.15μm以下の結晶粒の占める結晶粒径長割合を所定の値以下にすることにより、硬質被覆層の耐剥離性が向上させることができ、工具寿命の一層の長寿命化が可能になること、
という新規な知見を得た。
「(1) 炭化タングステン基超硬合金で構成された工具基体の表面に、平均層厚が2〜10μmの硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
(a)前記硬質被覆層は、AlとCrの合量に占めるCrの含有割合が0.2〜0.5(但し、原子比)であるAlとCrの複合窒化物層を有し、
(b)前記複合窒化物層は、逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの範囲において、粒径0.15μm以下の結晶粒と粒径1.0μm以下の結晶粒の占める結晶粒径長割合がそれぞれ20〜70%、95%以上であり、
(c)前記逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの範囲の工具基体と複合窒化物層の界面において、粒径0.15μm以下の結晶粒の占める結晶粒径長割合が20%以下である、
ことを特徴とする表面被覆切削工具。
(2) 前記逃げ面上の刃先から100〜200μm離れた位置までの範囲の工具基体と複合窒化物層の界面において、粒径0.15μm以下の結晶粒と粒径1.0μm以下の結晶粒の占める結晶粒径長割合がそれぞれ20%以下、95%以上である、
ことを特徴とする(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3) 前記表面被覆切削工具の刃先角度をα度とし、該α度の角度範囲内の切れ刃先端部のコーナー部の硬質被覆層中に形成されている連続クラックの占有角度をβ度とした場合、クラック占有率β/αが0.3〜1.0であることを特徴とする(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
(a)硬質被覆層の組成および平均層厚:
本発明の硬質被覆層は、AlとCrの複合窒化物層((Al,Cr)N層)を有する。
前記(Al,Cr)N層は、Al成分が高温硬さと耐熱性を向上させ、Cr成分が高温強度を向上させ、さらにCrとAlの共存含有によって高温耐酸化性が向上することから、高温硬さ、耐熱性、高温強度及び高温耐酸化性にすぐれた硬質被覆層として既によく知られている。
本発明の(Al,Cr)N層は、Alとの合量に占めるCrの含有割合(原子比、以下同じ)が0.2未満では、切削加工時の高温強度を確保することが困難となり、一方、Alとの合量に占めるCrの含有割合(原子比)が0.5を越えると、相対的にAlの含有割合が少なくなり、高温硬さの低下、耐熱性の低下を招き、その結果、偏摩耗の発生、熱塑性変形の発生等により耐摩耗性が劣化するようになることから、Alとの合量に占めるCrの含有割合(原子比)は、0.2〜0.5であることが必要である。
なお、本発明では平均層厚の測定は、以下のような方法で行った。
まず、工具基体刃先から逃げ面側の断面を切り出し、その断面をSEMで観察する。次いで、工具基体と硬質被覆層の界面から硬質被覆層表面までの距離を任意の5箇所で測定し、その平均値を平均層厚とした。
本発明では、逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの範囲においては、(Al,Cr)N層は粒径0.15μm以下、1μm以下の結晶粒の結晶粒径長割合が、それぞれ、20〜70%、95%以上とする。
また、逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの範囲における工具基体と硬質被覆層の界面においては、粒径0.15μm以下の結晶粒の占める結晶粒径長割合を20%以下とする。
また、ここで「粒径が0.15μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合」とは、複数の結晶粒の粒径を測定し、その全測定結晶粒径長の和に対する粒径0.15μm以下の結晶粒径長の和の割合を示し、同様に、「粒径が1μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合」とは、複数の結晶粒の粒径を測定し、その全測定結晶粒径長の和に対する粒径1μm以下の結晶粒径長の和の割合を示す。
本発明では、逃げ面上の刃先近傍、すなわち、刃先から100μm離れた位置までの範囲においては、(Al,Cr)N層は、粒径0.15μm以下の結晶粒の結晶粒径長割合が20〜70%であり、粒径1μm以下の結晶粒の結晶粒径長割合が95%以上となるように、結晶粒の粒径分布を調整する。その理由は、粒径0.15μm以下の結晶粒の結晶粒径長割合が組織中の20%未満、または、粒径1μm以下の結晶粒の結晶粒径長割合が95%未満になると、硬質被覆層中の平均結晶粒径が相対的に大きくなることを意味している。硬質被覆層の内部の残留応力が小さい場合に、結晶粒毎に蓄えられる応力(すなわち、エネルギー)が小さいため、粒界が少なく、すなわち結晶粒径が大きくなる。硬質被覆層中に形成される圧縮応力の値が小さくなるため、硬質被覆層の耐摩耗性が低下する。一方、粒径0.15μm以下の結晶粒の結晶粒径長割合が組織中の70%を超えると、硬質被覆層中の平均結晶粒径が相対的に小さくなることを意味している。硬質被覆層の内部の残留応力が大きい場合に、結晶粒毎に蓄えられる応力(すなわち、エネルギー)が大きいため、それらエネルギーを解放するために粒界部を多く形成し、すなわち結晶粒径が小さくなる。硬質被覆層中に形成される圧縮応力の値が大きくなりすぎて、切削加工時にチッピングを発生しやすくなる。
そのため、逃げ面上の刃先近傍は、粒径0.15μm以下の結晶粒の結晶粒径長割合を20〜70%、粒径1.0μm以下の結晶粒の結晶粒径長割合を95%以上とすることが必要である。
ここで、工具基体と硬質被覆層の界面における硬質被覆層の結晶粒は、硬質被覆層内における工具基体と硬質被覆層の界面から厚さ0.5μmの領域にて形成されている結晶粒を意味する。
本発明で、逃げ面上の刃先近傍の工具基体と硬質被覆層の界面における0.15μm以下の結晶粒の占める結晶粒径長割合を前述のとおり定めた理由は、刃先に被覆された硬質被覆層と工具基体との十分な耐剥離性を確保すると同時に、チッピングの発生を抑制するためでる。すなわち、粒径0.15μm以下の結晶粒の結晶粒径長割合が20%を超える場合には、硬質被覆層中の圧縮残留応力が大きくなり、炭素鋼等の切削加工においてチッピングを発生し易くなるため好ましくない。
さらに、逃げ面上の刃先からの距離が100〜200μm離れた位置での工具基体と硬質被覆層においては、粒径0.15μm以下の結晶粒の結晶粒径長割合が20%以下、かつ、粒径1μm以下の結晶粒の結晶粒径長割合が95%以上とすることが必要である。その理由は、粒径0.15μm以下の結晶粒の結晶粒径長割合が組織中の20%を超える場合には、切削加工時に刃先にてクラックが発生した場合、硬質被覆層中に結晶粒界が占める割合が多く、亀裂が結晶粒界に沿って進展するため、チッピングが生じやすくなる。また、粒径1μm以下の結晶粒の結晶粒径長割合が95%未満である場合には、硬質被覆層中の残留応力値が小さいため、硬質被覆層の耐摩耗性が低下しやすくなる。
工具基体刃先から逃げ面側の断面を切り出し、その断面をSEMで観察する。「硬質被覆層表面から深さ0.5μmの領域(水平断面)」に形成されている結晶粒、「硬質被覆層内における工具基体と硬質被覆層の界面から厚さ0.5μmの領域(水平断面)」に形成されている結晶粒および「硬質被覆層表面と工具基体表面の中間の領域(水平断面)」に存在している結晶粒について、工具基体表面と平行に直線を引き、結晶粒界間の距離を粒径と定義する。
なお、工具基体表面と平行に直線を引く位置は、各結晶粒において最長の粒径となる位置とする。それぞれの領域において、図3に模式的に示したように、「逃げ面上の刃先から25μm離れた位置」および「逃げ面上で刃先から75μm離れた位置」および「刃先から125μm離れた位置」および「逃げ面上で刃先から175μm離れた位置」の4箇所に対して、それぞれ3箇所、全12箇所において幅10μmの範囲内に存在する結晶粒の粒径を測定した。
また、逃げ面上の刃先から100〜200μm離れた位置の範囲での「粒径が0.15μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合」および「粒径が1.0μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合」の測定方法は前記粒径を測定した、逃げ面上の刃先から125μm離れた位置および逃げ面上の刃先から175μm離れた位置にて、界面2箇所、表面2箇所および中間領域2箇所にて測定した結晶粒の粒径の全測定データを用いる。測定した全結晶粒の粒径の和に対する、粒径が0.15μm以下の結晶粒の粒径の和および粒径が1.0μm以下の結晶粒の粒径の和をそれぞれの結晶粒が占める結晶粒径長割合と定義した。
その理由は、次のとおりである。
しかし、本発明によれば、切れ刃先端のコーナー部の硬質被覆層中に予めクラックが形成されていることから、残留応力の集中が低減される。その結果、特に、切削開始初期に生じがちな結晶粒界に圧縮残留応力が集中することが回避され、チッピング発生等による切削性能の低下を抑制できる。
ただし、β/αが0.3未満である場合には、期待した圧縮残留応力の集中抑制効果が得られないため、β/αは0.3以上と定めた。一方、圧縮残留応力の集中抑制効果の観点からは、β/αの値に上限を設ける必要はない(即ち、β/αは、0.3〜1.0)が、β/αの値が1.0に近づくほど、硬質被覆層と工具基体界面での界面剥離が発生しやすくなる。そのため、切削工具として必要な耐剥離性を確保する点で、β/αの値は0.3〜0.9とすることがより好ましい。
図4に示すように、逃げ面上の刃先Aを通る逃げ面の垂線と、すくい面上の刃先Bを通るすくい面の垂線との交点を中心Oとした時、A−O−Bのなす角度を刃先角度α(度)という。
そして、(連続クラックの占有角度β)/(刃先角度α)の値を、クラック占有率であると定義する。図4(b)に、刃先角度α内における最大の角度βを示すクラックをクラックの端部C、Dとして示す。
なお、本発明被覆工具の硬質被覆層は、(Al,Cr)N層からなり、逃げ面上において所定の粒径分布を有する組織とする。そして、逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの界面においては、粒径が0.15μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合を20〜70%、1.0μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合を95%以上と定めることにより、クラック占有率β/αを再現性よく、0.3〜1.0とすることが出来る。
この粒径分布とクラック占有率の関係も本発明に関する研究過程で知得した新規な知見である。
本発明の硬質被覆層は、図2(a)、(b)に示すようなAIP装置を用い、工具基体の温度を370〜450℃に維持しつつ、工具基体をAIP装置内で自公転させ、ターゲット表面中心とターゲットに最近接した工具基体間に所定の磁場(積算磁力が45〜100mT×mm)を印加しながら蒸着することによって、形成することができる。
まず、炭化タングステン(WC)基超硬合金からなる工具基体をアセトン中で超音波洗浄・乾燥し、AIP装置内の回転テーブル上に装着し、真空中で基体洗浄用のTi電極とアノード電極との間に100Aのアーク放電を発生させて、工具基体に−1000Vのバイアス電圧を印加しつつ工具基体表面をボンバード洗浄する。
ついで、Al−Cr合金ターゲットの表面中心からターゲットに最近接した工具基体までの積算磁力が45〜100mT×mmなる磁場を印加する。
そして、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入し9.3Paの雰囲気圧力とし、工具基体の温度を370〜450℃に維持し、工具基体に−50Vのバイアス電圧を印加しつつ、Al−Cr合金ターゲット(カソード電極)とアノード電極との間に100Aのアーク放電を発生させ、工具基体がターゲットに最接近した際に、逃げ面の一部または全部とターゲット面が水平となるように工具基体を支持して自公転させつつ蒸着することによって、本発明の層構造を有する(Al,Cr)N層からなる硬質被覆層を蒸着形成することができる。
ここで本発明における積算磁力は、以下の算出方法により算出する。
磁束計にて、Al−Cr合金ターゲット中心から工具基体の位置までの直線上を10mm間隔で磁束密度を測定する。磁束密度は単位mT(ミリテスラ)で表し、ターゲット表面から工具基体の位置までの距離は単位mm(ミリメートル)で表す。さらに、ターゲット表面から工具基体の位置までの距離を横軸とし、磁束密度を縦軸のグラフで表現した場合、面積に相当する値を積算磁力(mT×mm)と定義する。
ここで工具基体の位置は、Al−Cr合金ターゲットに最近接する位置とする。なお、磁束密度の測定は磁場を形成している状態であれば、放電中でなくても良く、例えば大気圧下にて放電させていない状態で測定しても良い。
また、本発明の必須構成要件の定義に特に関係するわけではないが、本発明において結晶粒のアスペクト比は1以上6以下である。ここでアスペクト比は、結晶粒の水平断面で最も長い直径(長辺)とそれに垂直な直径(短辺)の長さの比を、長辺を分子、短辺を分母として算出するものとする。
(b)まず、装置内を排気して真空に保持しながら、ヒータで工具基体を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ、Tiカソード電極とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させることによって、工具基体表面をボンバード洗浄する。
(c)ついで、前記Al−Cr合金ターゲットの表面中心から工具基体までの積算磁力が45〜100mT×mmの範囲内となるように種々の磁場を印加する。
ここで積算磁力の算出方法を以下に記述する。磁束計にて、Al−Cr合金ターゲット中心から工具基体の位置までの直線上を10mm間隔で磁束密度を測定する。磁束密度は単位mT(ミリテスラ)で表し、ターゲット表面から工具基体の位置までの距離は単位mm(ミリメートル)で表す。さらに、ターゲット表面から工具基体の位置までの距離を横軸とし、磁束密度を縦軸のグラフで表現した場合、面積に相当する値を積算磁力(mT×mm)と定義する。ここで工具基体の位置は、Al−Cr合金ターゲットに最近接する位置とする。なお、磁束密度の測定は、磁場を形成している状態で大気圧下にて事前に放電させていない状態で測定した。
(d)ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して9.3Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体の温度を370〜450℃の範囲内に維持するとともに−50Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ前記Al−Cr合金ターゲットとアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記工具基体の表面に、表2に示される組成および目標平均層厚の(Al,Cr)N層からなる硬質被覆層を蒸着形成することにより、本発明被覆工具としての表面被覆エンドミル1〜5(以下、本発明1〜5という)をそれぞれ製造した。
なお、図2に示すAIP装置では、工具基体がAl−Cr合金ターゲットに最接近する際に、逃げ面の一部または全部とAl−Cr合金ターゲット面が水平となるように装着支持されている。
比較の目的で、実施例1における(c)の条件を変更し(即ち、Al−Cr合金ターゲットの表面中心から工具基体までの積算磁力を45〜100mT×mmの範囲外)、また、(d)の条件を変更し(即ち、工具基体が370℃未満、あるいは450℃を超える温度に維持し)て、その他は実施例1と同一の条件で、比較例被覆工具としての表面被覆エンドミル1〜5(以下、比較例1〜5という)をそれぞれ製造した。
さらに、Al−Cr合金ターゲットの組成を変えることによって、実施例1から被覆層中のAlとCrの合量に占めるCrの含有割合が0.2〜0.5(但し、原子比)の範囲外、または、蒸着時間を変えることによって硬質被覆層の平均層厚が2〜10μmの範囲外の表面被覆エンドミル6〜10(以下、比較例6〜10という)をそれぞれ製造した。
また、刃先から100μm離れた位置までの範囲における工具基体と硬質被覆層の界面における粒径0.15μm以下の結晶粒の占める結晶粒径長割合を測定したところ、20%以下であることも確認した。
表2、表3に、前述の測定・算出したそれぞれの値を示す。
工具基体と硬質被覆層の界面から硬質被覆層表面までの距離を5箇所で測定し、その平均値を平均層厚とした。なお、測定する箇所は、逃げ面上刃先から、逃げ面上にて刃先から100μm離れた位置までの間の任意の5箇所とする。
また、刃先から100μm離れた位置までの範囲における界面で粒径が0.15μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合の測定方法は、前記粒径を測定した界面2箇所の全測定データを用いる。測定した全結晶粒径の和に対する、粒径が0.15μm以下の結晶粒径の和を「刃先から100μm離れた位置の範囲における界面の粒径0.15μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合」とした。
また、刃先から100〜200μm離れた位置の範囲における粒径0.15μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合および粒径1μm以下結晶粒が占める結晶粒径長割合の測定方法は、前記粒径を測定した逃げ面上にて刃先から125μm離れた位置および刃先から175μm離れた位置の界面2箇所、表面2箇所および中間領域2箇所で測定した結晶粒径の全測定データを用いる。測定した全結晶粒径の和に対する、粒径が0.15μm以下および1μm以下の結晶粒径の和を「刃先から100〜200μm離れた位置までの範囲における粒径0.15μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合」および「刃先から100〜200μm離れた位置までの範囲における粒径1μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合」とした。
表2、表3に、これらの値を示す。
なお、前記刃先角度α、連続クラックの占有角度βの測定法をより具体的にいえば、以下のとおりである。
結晶粒径を測定するために観察したSEM像のうち、切れ刃先端部の断面SEM像を用いる。測定条件は、観察倍率:10000倍、加速電圧:3kVの条件を使用した。本発明2の切れ刃先端部の断面SEM像(a)及び模式図(b)を図4に示す。図4(b)を用いて説明する。逃げ面上の刃先をA、すくい面上の刃先をBとする。Aを通る逃げ面の垂線、Bを通るすくい面の垂線を引き、双方の垂線の交点を中心Oとする。刃先角度α(度)はA−O−Bのなす角度とする。
また、切れ刃先端のコーナー部の硬質被覆層中に形成されている連続クラックについて、前記中心Oから該クラックを投影させた場合、Aを通る逃げ面の垂線に最も近い箇所をCとし、Bを通るすくい面の垂線に最も近い箇所をDとする。連続クラックの占有角度β(度)はC−O−Dのなす角度とする。なお、切れ刃先端のコーナー部の硬質被覆層中に複数のクラックが存在する場合、最大値を示す連続クラックにて算出した値を連続クラックの占有角度βと定義する。
そして、(連続クラックの占有角度β)/(刃先角度α)の値を、クラック占有率であると定義する。
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S55Cの板材、
回転速度: 15000 min.−1、
横方向切り込み: 2.0 mm、
縦方向切り込み: 0.3 mm、
送り速度(1刃当り): 0.06 mm/tooth、
切削長:340m、
の条件(切削条件Aという)での炭素鋼の溝切削加工試験を実施し、
また、本発明4,5および比較例4,5,9,10については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S55Cの板材、
回転速度: 3000 min.−1、
横方向切り込み: 10 mm、
縦方向切り込み: 1 mm、
送り速度(1刃当り): 0.07 mm/tooth、
切削長:90m、
の条件(切削条件Bという)の炭素鋼の溝切削加工試験を実施し、
いずれの溝切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
この測定結果を表4に示した。
比較の目的で、前記の工具基体(インサート)6−10に対して、前述した比較例1と同一の条件で、表7に示される組成および目標平均層厚の(Al,Cr)N層からなる硬質被覆層を形成することにより、比較例被覆工具としての比較例被覆超硬インサート(以下、比較例11〜20という)をそれぞれ製造した。
また、刃先から100μm離れた位置までの範囲における工具基体と硬質被覆層の界面における粒径0.15μm以下の結晶粒の占める結晶粒径長割合を測定したところ、20%以下であることも確認した。
また、本発明6〜10、比較例11〜20について、刃先角度α、連続クラックの占有角度β、クラック占有率β/αの値についても測定・算出した。
表6、表7に、前記で測定・算出したそれぞれの値を示す。
被削材:JIS・SCM440の丸棒、
切削速度:90m/min.、
切り込み:1.5mm、
送り:0.3mm/rev.、
切削時間:3分、
の条件(切削条件Cという)での合金鋼(クロムモリブデン鋼)の乾式連続切削加工試験を実施し、切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
この測定結果を表8に示した。
これに対して、硬質被覆層の構造が本発明で規定する範囲を外れる比較例被覆工具では、チッピング発生あるいは耐摩耗性の低下によって、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
比較の目的で、前記の工具基体(インサート)6〜10に対して、前述した比較例1と同一の条件で、表7に示される組成および目標平均層厚の(Al,Cr)N層からなる硬質被覆層を形成することにより、比較例被覆工具としての比較例被覆超硬インサート(以下、比較例11〜20という)をそれぞれ製造した。
Claims (3)
- 炭化タングステン基超硬合金で構成された工具基体の表面に、平均層厚が2〜10μmの硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
(a)前記硬質被覆層は、AlとCrの合量に占めるCrの含有割合が0.2〜0.5(但し、原子比)であるAlとCrの複合窒化物層を有し、
(b)前記複合窒化物層は、逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの範囲において、粒径0.15μm以下の結晶粒と粒径1μm以下の結晶粒の占める結晶粒径長割合がそれぞれ20〜70%、95%以上であり、
(c)前記逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの範囲の工具基体と複合窒化物層の界面において、粒径0.15μm以下の結晶粒の占める結晶粒径長割合が20%以下である、
ことを特徴とする表面被覆切削工具。 - 前記逃げ面上の刃先から100〜200μm離れた位置までの範囲の工具基体と複合窒化物層の界面において、粒径0.15μm以下の結晶粒と粒径1μm以下の結晶粒の占める結晶粒径長割合がそれぞれ20%以下、95%以上である、
ことを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。 - 前記表面被覆切削工具の刃先角度をα度とし、該α度の角度範囲内の切れ刃先端部のコーナー部の硬質被覆層中に形成されている連続クラックの占有角度をβ度とした場合、クラック占有率β/αが0.3〜1.0であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の表面被覆切削工具。
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