JP2013188834A - 表面被覆切削工具 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 WC基超硬合金からなる工具基体表面に、平均層厚が2〜10μmの硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、(a)硬質被覆層は、AlとCrの複合窒化物層からなり、かつ、該層においてAlとCrの合量に占めるCrの含有割合は0.2〜0.5(但し、原子比)であり、(b)上記表面被覆切削工具の逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの範囲においては、硬質被覆層は平均粒径0.2〜1μmの粒状結晶粒と平均粒径0.08μm以下の微細結晶粒との混合組織を有し、また、粒径0.1μm未満の微細結晶粒の結晶粒径長割合は、上記混合組織中の10〜50%を占め、(c)上記表面被覆切削工具の逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの範囲の工具基体と硬質被覆層の界面においては、粒径0.15μm以下の結晶粒の占める結晶粒径長割合は20%以下であり、好ましくは、クラック占有率は0.3〜1.0である。
【選択図】 図3
Description
そして、上記従来の被覆工具は、例えば、図1に示すように、物理蒸着装置の1種であるアークイオンプレーティング装置に上記の工具基体を装入し、ヒータで工具基体を500℃の温度に加熱した状態で、アノード電極と所定組成のAl−Cr合金がセットされたカソード電極との間に、電流:90Aの条件でアーク放電を発生させ、同時に装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して、2Paの反応雰囲気とし、一方、上記工具基体には、−100Vのバイアス電圧を印加した条件で、前記工具基体の表面に、上記(Al,Cr)N層を蒸着形成することにより製造し得ることも知られている。
例えば、特許文献2には、すくい面での被覆層の欠損を抑制して耐欠損性を向上させ、また、逃げ面における耐摩耗性を向上させた被覆工具として、被覆層を柱状結晶で構成し、すくい面における被覆層厚は逃げ面での被覆層厚よりも薄く、被覆層表面側の上層領域の平均結晶幅が、被覆層基体側の下層領域の平均結晶幅よりも大きい2つの層領域にて構成し、すくい面での被覆層厚に対する上層領域の厚みの比率が、逃げ面での被覆層厚に対する上層領域の厚みの比率よりも小さく、すくい面での柱状結晶の平均結晶幅が逃げ面での柱状結晶の平均結晶幅より小さい被覆工具(エンドミル)が記載されている。
また、例えば、特許文献3には、耐摩耗性と靭性とを両立させるとともに、基材との密着性にも優れた被膜を備えた被覆工具として、基材上に形成された被膜は、第1被膜層を含み、該第1被膜層は、微細組織領域と粗大組織領域とを含み、該微細組織領域は、それを構成する化合物の平均結晶粒径が10〜200nmであり、かつ該第1被膜層の表面側から該第1被膜層の全体の厚みに対して50%以上の厚みとなる範囲を占めて存在し、かつ−4GPa以上−2GPa以下の範囲の応力である平均圧縮応力を有し、該第1被膜層は、その厚み方向に応力分布を有しており、その応力分布において2つ以上の極大値または極小値を持ち、それらの極大値または極小値は厚み方向表面側に位置するものほど高い圧縮応力を有する被覆工具が記載されている。
上記従来の被覆工具においては、ある程度の耐チッピング性、耐欠損性、耐摩耗性の改善は図り得るものの、これをステンレス鋼等の一段と厳しい切削加工に用いた場合には、チッピングが発生しやすく、あるいは、摩耗損耗が大きくなり、これを原因として、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
「 (1)炭化タングステン基超硬合金で構成された工具基体の表面に、平均層厚が2〜10μmの硬質被覆層を蒸着形成した被覆工具において、
(a)硬質被覆層は、AlとCrの複合窒化物層からなり、かつ、該層においてAlとCrの合量に占めるCrの含有割合は0.2〜0.5(但し、原子比)であり、
(b)上記被覆工具の逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの範囲においては、硬質被覆層は平均粒径0.2〜1μmの粒状結晶粒と平均粒径0.08μm以下の微細結晶粒との混合組織を有し、また、粒径0.1μm未満の微細結晶粒の結晶粒径長割合は、上記混合組織中の10〜50%を占め、
(c)上記被覆工具の逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの範囲の工具基体と硬質被覆層の界面においては、粒径0.15μm以下の結晶粒の占める結晶粒径長割合は20%以下であることを特徴とする被覆工具。
(2) 上記被覆工具の刃先角度をα度とし、該α度の角度範囲内の切れ刃先端のコーナー部の硬質被覆層中に形成されている連続クラックの占有角度をβ度とした場合、クラック占有率β/αが0.3〜1.0であることを特徴とする前記(1)に記載の被覆工具。」
に特徴を有するものである。
(a)硬質被覆層の種別、平均層厚:
この発明の硬質被覆層は、AlとCrの複合窒化物層((Al,Cr)N層)からなる。
上記(Al,Cr)N層は、Al成分が高温硬さと耐熱性を向上させ、Cr成分が高温強度を向上させ、さらにCrとAlの共存含有によって高温耐酸化性が向上することから、高温硬さ、耐熱性、高温強度及び高温耐酸化性にすぐれた硬質被覆層として既によく知られている。
本発明の(Al,Cr)N層は、Alとの合量に占めるCrの含有割合(原子比、以下同じ)が0.2未満では、切削加工時の高温強度を確保することが困難となり、一方、Alとの合量に占めるCrの含有割合(原子比)が0.5を越えると、相対的にAlの含有割合が少なくなり、高温硬さの低下、耐熱性の低下を招き、その結果、偏摩耗の発生、熱塑性変形の発生等により耐摩耗性が劣化するようになることから、Alとの合量に占めるCrの含有割合(原子比)は、0.2〜0.5であることが必要である。
また、(Al,Cr)N層からなる硬質被覆層の平均層厚は、2μm未満では、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮することができず、工具寿命短命の原因となり、一方、その平均層厚が10μmを越えると、刃先部にチッピングが発生し易くなることから、その平均層厚は2〜10μmとすることが必要である。
なお、本発明では平均層厚の測定方法は、以下のように行った。工具基体刃先から逃げ面側の断面を切り出し、その断面をSEMにて、観察する。工具基体と硬質被覆層の界面から硬質被覆層表面までの距離を任意の5箇所で測定し、その平均値を平均層厚とした。
本発明では、逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの範囲においては、硬質被覆層は平均粒径0.2〜1μmの粒状結晶粒と平均粒径0.08μm以下の微細結晶粒との混合組織から構成し、そして、粒径0.1μm未満の微細結晶粒の結晶粒径長割合は、上記混合組織中の10〜50%を占める。
また、工具基体と硬質被覆層の界面においては、粒径0.15μm以下の結晶粒の占める結晶粒径長割合は20%以下とする。
なお、本発明でいう「刃先」とは、図3に示すように、「切れ刃先端のコーナー部の円錐形状となっている部分を除いた、直線状切れ刃の最も先端に近い部分」であると定義する。
また、ここで「粒状結晶」とはアスペクト比が1以上6以下であり、かつ、粒径0.1μm以上の結晶粒を意味する。「微細結晶」とは、アスペクト比が1以上6以下であり、かつ、粒径0.1μm未満の結晶粒を意味する。アスペクト比は、結晶粒断面で最も長い直径(長辺)とそれに垂直な直径(短辺)の長さの比を、長辺を分子、短辺を分母として算出するものとする。
また、ここで「粒径が0.1μm未満の微細結晶粒の結晶粒径長割合」とは、複数の結晶粒の粒径を測定し、その全測定結晶粒径長の和に対する粒径が0.1μm未満の結晶粒径長の和の割合を示し、また、「粒径が0.15μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合」とは、複数の結晶粒の粒径を測定し、その全測定結晶粒径長の和に対する粒径0.15μm以下の結晶粒径長の和の割合を示す。
本発明では、逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの範囲においては、硬質被覆層は、主として、平均粒径0.2〜1μmの粒状結晶粒と平均粒径0.08μm以下の微細結晶粒との混合組織として硬質被覆層を構成するが、粒径0.1μm未満の微細結晶粒の結晶粒径長割合が、混合組織中の10%未満になると硬質被覆層中に形成される圧縮応力の値が小さくなるため、硬質被覆層の耐摩耗性が低下し、一方、粒径0.1μm未満の微細結晶粒の結晶粒径長割合が混合組織中の50%を超えると、硬質被覆層中に形成される圧縮応力の値が大きくなりすぎて、切削加工時にチッピングを発生しやすくなることから、混合組織中に占める粒径0.1μm未満の微細結晶粒の結晶粒径長割合は、10〜50%とすることが必要である。
粒径0.1μm以上の粒状結晶粒の結晶粒径長割合は、50〜90%の割合で存在する必要がある。90%を超える場合、圧縮応力の値が小さくなり硬さが小さくなりすぎて、硬質被覆層の耐摩耗性が低下し、一方、50%未満である場合、圧縮応力の値が大きくなり硬さが大きくなりすぎて、切削加工時にチッピングを発生しやすくなることから、混合組織中に占める粒径0.1μm以上の粒状結晶粒の結晶粒径長割合は50〜90%とすることが必要である。
また、粒状結晶粒の平均粒径が1μmを超える場合、硬質被覆層中に形成される圧縮応力の値が小さくなるため、硬質被覆層の耐摩耗性が低下するため、粒状結晶粒の平均粒径の上限値を1μmとすることが必要である。
ここで、工具基体と硬質被覆層の界面における硬質被覆層の結晶粒は、硬質被覆層内における工具基体と硬質被覆層の界面から厚さ0.5μmの領域にて形成されている結晶粒を意味する。
本発明で、0.15μm以下の結晶粒の分布を上記のとおり定めたのは、刃先に被覆された硬質被覆層で十分な耐摩耗性を確保すると同時に、チッピングの発生を抑制するためであって、粒径0.15μm以下の結晶粒の結晶粒径長割合が20%を超える場合には、硬質被覆層中の圧縮残留応力が大きくなり、ステンレス鋼等の難削材の切削加工においてチッピングを発生しやすくなるという理由による。
なお、本発明では、逃げ面上の硬質被覆層の結晶粒径の測定、また、平均結晶粒径の算出は、以下のように行った。
工具基体刃先から逃げ面側の断面を切り出し、その断面をSEMにて、観察する。硬質被覆層表面から深さ0.5μmの領域に形成されている結晶粒、硬質被覆層内における工具基体と硬質被覆層の界面から厚さ0.5μmの領域に形成されている結晶粒、及び硬質被覆層表面と工具基体表面の中間の領域に存在する結晶粒にて、工具基体表面と平行に直線を引き、結晶粒界間の距離を粒径と定義する。なお、工具基体表面と平行に直線を引く位置は、各結晶粒において最長の結晶粒径となる位置とする。それぞれの領域において、逃げ面上刃先、及び逃げ面上にて刃先から50μm離れた位置、及び刃先から100μm離れた位置の3箇所、計9箇所にて幅10μmの範囲内に存在する結晶の平均結晶粒径を測定する。幅10μmの粒径を測定するにあたり、各測定箇所を中心に刃先側5μm、刃先と逆側5μmの測定データを用いた。ただし、逃げ面上の刃先の箇所においては、刃先から5μm離れた位置を中心として、刃先側5μm、刃先と逆側5μmの幅10μmの範囲内で測定した。全9箇所の領域で、粒径が0.1μm以上の結晶粒の平均値を「粒状結晶粒の平均粒径」と定義する。また、粒径が0.1μm未満の結晶粒の平均値を「微細結晶粒の平均粒径」と定義する。
また、粒径が0.1μm未満の結晶粒が占める結晶粒径長割合の測定方法は、上記粒径を測定した界面3箇所、表面3箇所、及び中間領域3箇所にて測定した結晶粒径の全測定データを用いる。測定した全結晶粒径の和に対する、粒径が0.1μm未満の結晶粒径の和を「微細結晶粒が占める結晶粒径長割合」とした。
また、界面にて粒径が0.15μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合の測定方法は、上記粒径を測定した界面3箇所の全測定データを用いる。測定した全結晶粒径の和に対する、粒径が0.15μm以下の結晶粒径の和を「粒径0.15μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合」とした。
その理由は、次のとおりである。
工具基体表面に、アークイオンプレーティング装置(AIP装置)を用いて硬質被覆層を形成する場合、層中には圧縮残留応力が蓄積され、特に、結晶粒径の大きな層にあっては、結晶粒界に圧縮残留応力が集中し、亀裂の起点となりやすい。
しかし、本発明によれば、切れ刃先端のコーナー部の硬質被覆層中に予めクラックが形成されていることから、残留応力の集中が低減されるため、特に、切削開始初期のチッピング発生等による切削性能の低下を抑制することができる。
ただし、β/αが0.3未満である場合には、圧縮残留応力の集中抑制効果を期待することはできないので、β/αは0.3以上と定めた。
圧縮残留応力の集中抑制効果の観点からは、β/αの値に上限を設ける必要はない(即ち、β/αは、0.3〜1.0)が、β/αの値が1.0に近づくほど、硬質被覆層と工具基体界面での界面剥離が発生しやすくなるので、β/αの値は、0.3〜0.9であることが好ましい。
図4に示すように、逃げ面上の刃先Aを通る逃げ面の垂線と、すくい面上の刃先Bを通るすくい面の垂線との交点を中心Oとした時、A−O−Bのなす角度を刃先角度α(度)という。
また、切れ刃先端のコーナー部の硬質被覆層中に形成されている連続クラックについては、前記中心Oから、連続する一つのクラックの端部C,Dに接する線を引いた時、C−O−Dのなす角度を連続クラックの占有角度β(度)とする。切れ刃先端のコーナー部の硬質被覆層中に複数のクラックが存在する場合、最大の占有角度を示す連続クラックを用いるものとする。
そして、(連続クラックの占有角度β)/(刃先角度α)の値を、クラック占有率であると定義する。
なお、本発明被覆工具は、(Al,Cr)N層からなる硬質被覆層は粒状結晶粒と微細結晶粒の混合組織を有し、微細結晶粒の結晶粒径長割合を10〜50%を占め、また、逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの界面においては、粒径が0.15μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合を20%以下と定めることにより、自ずとクラック占有率β/αが0.3〜1となる。
この発明の硬質被覆層は、図2(a)、(b)に示すようなアークイオンプレーティング装置(AIP装置)を用い、工具基体の温度を370〜450℃に維持しつつ、工具基体をAIP装置内で自公転させ、ターゲット表面中心とターゲットに最近接した工具基体間に所定の磁場(積算磁力が45〜100mT×mm)を印加しながら蒸着することによって、形成することができる。
例えば、AIP装置の一方には基体洗浄用のTi電極からなるカソード電極、他方には70at%Al−30at%Cr合金からなるターゲット(カソード電極)を設け、
まず、炭化タングステン(WC)基超硬合金からなる工具基体を洗浄・乾燥し、AIP装置内の回転テーブル上に装着し、真空中で基体洗浄用のTi電極とアノード電極との間に100Aのアーク放電を発生させて、工具基体に−1000Vのバイアス電圧を印加しつつ工具基体表面をボンバード洗浄し、
ついで、Al−Cr合金ターゲットの表面中心からターゲットに最近接した工具基体までの積算磁力が45〜100mT×mmなる磁場を印加し、
ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入し9.3Paの雰囲気圧力とし、工具基体の温度を370〜450℃に維持し、工具基体に−50Vのバイアス電圧を印加しつつ、Al−Cr合金ターゲット(カソード電極)とアノード電極との間に100Aのアーク放電を発生させ、工具基体がターゲットに最接近した際には、逃げ面の一部又は全部とターゲット面が水平となるように工具基体を支持して自公転させつつ蒸着することによって、本発明の層構造と圧縮残留応力を有する(Al,Cr)N層からなる硬質被覆層を蒸着形成することができる。
なお、上記のAl−Cr合金ターゲットと工具基体間での磁場の印加は、例えば、カソード周辺に磁場発生源である電磁コイル又は永久磁石を設置する、あるいは、AIP装置の内部、中心部に永久磁石を配置する等、任意の手段で磁場を形成することができる。
(b)まず、装置内を排気して真空に保持しながら、ヒータで工具基体を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ、Tiカソード電極とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって工具基体表面をボンバード洗浄し、
(c)ついで、上記Al−Cr合金ターゲットの表面中心から工具基体までの積算磁力が45〜100mT×mmの範囲内となるように種々の磁場を印加し、
(d)ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して9.3Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体の温度を370〜450℃の範囲内に維持するとともに−50Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ前記Al−Cr合金ターゲットとアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記工具基体の表面に、表2に示される組成および目標平均層厚の(Al,Cr)N層からなる硬質被覆層を蒸着形成することにより、
本発明被覆工具としての表面被覆エンドミル1〜5(以下、本発明1〜5という)をそれぞれ製造した。
なお、図2に示すAIP装置では、工具基体がAl−Cr合金ターゲットに最接近する際に、逃げ面の一部又は全部とAl−Cr合金ターゲット面が水平となるように装着支持されている。
比較の目的で、上記実施例1における(c)の条件を変更し(即ち、Al−Cr合金ターゲットの表面中心から工具基体までの積算磁力を45〜100mT×mmの範囲外)、また、(d)の条件を変更し(即ち、工具基体が370℃未満、あるいは450℃を超える温度に維持し)て、その他は実施例1と同一の条件で、比較例被覆工具としての表面被覆エンドミル1〜5(以下、比較例1〜5という)をそれぞれ製造した。さらに、実施例1から被覆層中のAlとCrの合量に占めるCrの含有割合が0.2〜0.5(但し、原子比)の範囲外、または、被覆層の平均層厚が2〜10μmの範囲外の表面被覆エンドミル6〜10(以下、比較例6〜10という)をそれぞれ製造した。
また、刃先から100μm離れた位置までの範囲における硬質被覆層に占める微細結晶粒の結晶粒径長割合を測定したところ、微細結晶粒は、混合組織中の10〜50%を占めることを確認した。
さらに、刃先から100μm離れた位置までの範囲における工具基体と硬質被覆層の界面における粒径0.15μm以下の結晶粒の占める結晶粒径長割合を測定したところ、20%以下であることも確認した。
一方、比較例1〜10について、本発明と同様な観察、測定を行ったところ、被覆層の平均層厚が2〜10μmの範囲外の表面被覆エンドミル(比較例9,10)以外では、微細結晶粒の結晶粒径長割合は混合組織中の10〜50%の範囲外、あるいは、工具基体と硬質被覆層の界面における粒径0.15μm以下の結晶粒の占める結晶粒径長割合を測定したところ、20%以上であった。
表2、表3に、上記で測定・算出したそれぞれの値を示す。
被覆工具の切れ刃先端のコーナー部を含み、逃げ面の断面を研磨加工した後、その断面をSEMにて、観察する。
工具基体と硬質被覆層の界面から硬質被覆層表面までの距離を5箇所で測定し、その平均値を平均層厚とした。なお、測定する箇所は、逃げ面上刃先から、逃げ面上にて刃先から100μm離れた位置までの間にて任意の5箇所とする。
硬質被覆層表面から深さ0.5μmの領域にて形成されている結晶粒、硬質被覆層内における工具基体と硬質被覆層の界面から厚さ0.5μmの領域にて形成されている結晶粒、及び硬質被覆層表面と工具基体表面の中間の領域に存在する結晶粒にて、工具基体表面と平行に直線を引き、結晶粒界間の距離を粒径と定義する。それぞれの領域において、逃げ面上刃先、及び逃げ面上にて刃先から50μm離れた位置、及び刃先から100μm離れた位置の3箇所、計9箇所にて幅10μmの範囲内に存在する結晶の平均結晶粒径を測定する。幅10μmの粒径を測定するにあたり、各測定箇所を中心に刃先側5μm、刃先と逆側5μmの測定データを用いた。ただし、逃げ面上の刃先の箇所においては、刃先から5μm離れた位置を中心として、刃先側5μm、刃先と逆側5μmの幅10μmの範囲内で測定した。全9箇所の領域で、粒径が0.1μm以上の結晶粒の平均値を「粒状結晶粒の平均粒径」と定義する。また、粒径が0.1μm未満の結晶粒の平均値を「微細結晶粒の平均粒径」と定義する。
また、粒径が0.1μm未満の結晶粒が占める結晶粒径長割合の測定方法は、上記粒径を測定した界面3箇所、表面3箇所、及び中間領域3箇所にて測定した結晶粒径の全測定データを用いる。測定した全結晶粒径の和に対する、粒径が0.1μm未満の結晶粒径の和を「粒径0.1μm未満の結晶粒が占める結晶粒径長割合」とした。
また、界面にて粒径が0.15μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合の測定方法は、上記粒径を測定した界面3箇所の全測定データを用いる。測定した全結晶粒径の和に対する、粒径が0.15μm以下の結晶粒径の和を「粒径0.15μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合」とした。
表2、表3に、これらの値を示す。
なお、上記刃先角度α、連続クラックの占有角度βの測定法をより具体的にいえば、以下のとおりである。
結晶粒径を測定するために観察したSEM像のうち、切れ刃先端部の断面SEM像を用いる。測定条件は、観察倍率:10000倍、加速電圧:3kVの条件を使用した。本発明2の切れ刃先端部の断面SEM像(a)及び模式図(b)を図4に示す。図4(b)を用いて説明する。逃げ面上の刃先をA、すくい面上の刃先をBとする。Aを通る逃げ面の垂線、Bを通るすくい面の垂線を引き、双方の垂線の交点を中心Oとする。刃先角度α(度)はA−O−Bのなす角度とする。
また、切れ刃先端のコーナー部の硬質被覆層中に形成されている連続クラックについて、前記中心Oから該クラックを投影させた場合、Aを通る逃げ面の垂線に最も近い箇所をCとし、Bを通るすくい面の垂線に最も近い箇所をDとする。連続クラックの占有角度β(度)はC−O−Dのなす角度とする。なお、切れ刃先端のコーナー部の硬質被覆層中に複数のクラックが存在する場合、最大値を示す連続クラックにて算出した値を連続クラックの占有角度βと定義する。
そして、(連続クラックの占有角度β)/(刃先角度α)の値を、クラック占有率であると定義する。
本発明1〜3および比較例1〜3、6〜8については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SUS304の板材、
回転速度: 16000 min.−1、
横方向切り込み: 2.0 mm、
縦方向切り込み: 0.3 mm、
送り速度(1刃当り): 0.06 mm/tooth、
切削長:340m、
の条件(切削条件Aという)でのステンレス鋼の溝切削加工試験を実施し、
また、本発明4,5および比較例4,5,9,10については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SUS304の板材、
回転速度: 3200 min.−1、
横方向切り込み: 10 mm、
縦方向切り込み: 1 mm、
送り速度(1刃当り): 0.07 mm/tooth、
切削長:90m、
の条件(切削条件Bという)のステンレス鋼の溝切削加工試験を実施し、
いずれの溝切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
この測定結果を表4に示した。
本発明被覆工具としての本発明被覆超硬インサート(以下、本発明6〜10という)をそれぞれ製造した。
比較の目的で、上記の工具基体(インサート)6−10に対して、上記比較例1と同一の条件で、表7に示される組成および目標平均層厚の(Al,Cr)N層からなる硬質被覆層を形成することにより、
比較例被覆工具としての比較例被覆超硬インサート(以下、比較例11〜20という)をそれぞれ製造した。
また、硬質被覆層に占める微細結晶粒の結晶粒径長割合を測定したところ、微細結晶粒の結晶粒径長割合は、混合組織中の10〜50%を占めることを確認した。
さらに、工具基体と硬質被覆層の界面における粒径0.15μm以下の結晶粒の占める結晶粒径長割合を測定したところ、20%以下であることも確認した。
一方、比較例11〜20について、本発明と同様な観察、測定を行ったところ、被覆層の平均層厚が2〜10μmの範囲外の表面被覆インサート(比較例19,20)以外では、微細結晶粒の結晶粒径長割合は混合組織中の10〜50%の範囲外、あるいは、工具基体と硬質被覆層の界面における粒径0.15μm以下の結晶粒の占める結晶粒径長割合を測定したところ、20%以上であった。
また、本発明6〜10、比較例11〜20について、刃先角度α、連続クラックの占有角度β、クラック占有率β/αの値についても測定・算出した。
表6、表7に、上記で測定・算出したそれぞれの値を示す。
被削材:JIS・SCM440の丸棒、
切削速度:100m/min.、
切り込み:1.5mm、
送り:0.3mm/rev.、
切削時間:3分、
の条件(切削条件Cという)での合金鋼(クロムモリブデン鋼)の乾式連続切削加工試験を実施し、切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
この測定結果を表8に示した。
これに対して、硬質被覆層の構造が本発明で規定する範囲を外れる比較例被覆工具では、チッピング発生あるいは耐摩耗性の低下によって、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
Claims (2)
- 炭化タングステン基超硬合金で構成された工具基体の表面に、平均層厚が2〜10μmの硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
(a)硬質被覆層は、AlとCrの複合窒化物層からなり、かつ、該層においてAlとCrの合量に占めるCrの含有割合は0.2〜0.5(但し、原子比)であり、
(b)上記表面被覆切削工具の逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの範囲においては、硬質被覆層は平均粒径0.2〜1μmの粒状結晶粒と平均粒径0.08μm以下の微細結晶粒との混合組織を有し、また、粒径0.1μm未満の微細結晶粒の結晶粒径長割合は、上記混合組織中の10〜50%を占め、
(c)上記表面被覆切削工具の逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの範囲の工具基体と硬質被覆層の界面においては、粒径0.15μm以下の結晶粒の占める結晶粒径長割合は20%以下であることを特徴とする表面被覆切削工具。 - 上記表面被覆切削工具の刃先角度をα度とし、該α度の角度範囲内の切れ刃先端部のコーナー部の硬質被覆層中に形成されている連続クラックの占有角度をβ度とした場合、クラック占有率β/αが0.3〜1.0であることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
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-
2012
- 2012-03-14 JP JP2012056662A patent/JP5831708B2/ja active Active
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