JP6090034B2 - 表面被覆切削工具 - Google Patents
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Description
この発明は、焼入れ鋼等の高硬度鋼の切削加工において、硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関するものである。
一般に、被覆工具には、各種の鋼や鋳鉄などの被削材の旋削加工や平削り加工にバイトの先端部に着脱自在に取り付けて用いられるインサート、前記被削材の穴あけ切削加工などに用いられるドリル、さらに前記被削材の面削加工や溝加工、肩加工などに用いられるソリッドタイプのエンドミルなどがあり、また前記インサートを着脱自在に取り付けて前記ソリッドタイプのエンドミルと同様に切削加工を行う刃先交換式エンドミル工具などが知られている。
例えば、特許文献1に示すように、被覆工具として、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金で構成された基体(以下、工具基体という)の表面に、AlとCrとSiの複合窒化物層からなる硬質被覆層を蒸着形成してなる被覆工具が知られており、かかる従来の被覆工具においては、硬質被覆層を構成する前記AlとCrとSiの複合窒化物層が、密着性、耐高温酸化特性、耐摩耗性にすぐれることから、すぐれた切削性能を発揮することが知られている。
そして、上記従来の被覆工具は、イオンプレーティング法やスパッタリング法により成膜することが知られているが、例えば、アークイオンプレーティングによる成膜としては、図1に示すように、アークイオンプレーティング装置に工具基体を装入し、ヒータで工具基体を500℃の温度に加熱した状態で、アノード電極と所定組成のAl−Cr−Si合金がセットされたカソード電極との間に、電流:90Aの条件でアーク放電を発生させ、同時に装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して、2Paの反応雰囲気とし、一方、上記工具基体には、−100Vのバイアス電圧を印加した条件で、前記工具基体の表面に、上記AlとCrとSiの複合窒化物を蒸着形成することにより製造し得ることも知られている。
そして、上記従来の被覆工具は、イオンプレーティング法やスパッタリング法により成膜することが知られているが、例えば、アークイオンプレーティングによる成膜としては、図1に示すように、アークイオンプレーティング装置に工具基体を装入し、ヒータで工具基体を500℃の温度に加熱した状態で、アノード電極と所定組成のAl−Cr−Si合金がセットされたカソード電極との間に、電流:90Aの条件でアーク放電を発生させ、同時に装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して、2Paの反応雰囲気とし、一方、上記工具基体には、−100Vのバイアス電圧を印加した条件で、前記工具基体の表面に、上記AlとCrとSiの複合窒化物を蒸着形成することにより製造し得ることも知られている。
ところで、被覆工具においては、その切削性能、特に、耐チッピング性、耐摩耗性等、のより一層の改善を図るべく、硬質被覆層の組織構造について種々の提案がなされている。
例えば、特許文献2には、すくい面での被覆層の欠損を抑制して耐欠損性を向上させ、また、逃げ面における耐摩耗性を向上させた被覆工具として、被覆層を柱状結晶で構成し、すくい面における被覆層厚は逃げ面での被覆層厚よりも薄く、被覆層表面側の上層領域の平均結晶幅が、被覆層基体側の下層領域の平均結晶幅よりも大きい2つの層領域にて構成し、すくい面での被覆層厚に対する上層領域の厚みの比率が、逃げ面での被覆層厚に対する上層領域の厚みの比率よりも小さく、すくい面での柱状結晶の平均結晶幅が逃げ面での柱状結晶の平均結晶幅より小さい被覆工具(エンドミル)が記載されている。
また、例えば、特許文献3には、耐摩耗性と靭性とを両立させたとともに、基材との密着性にも優れた被膜を備えた被覆工具として、基材上に形成された被膜は、第1被膜層を含み、該第1被膜層は、微細組織領域と粗大組織領域とを含み、該微細組織領域は、それを構成する化合物の平均結晶粒径が10〜200nmであり、かつ該第1被膜層の表面側から該第1被膜層の全体の厚みに対して50%以上の厚みとなる範囲を占めて存在し、かつ−4GPa以上−2GPa以下の範囲の応力である平均圧縮応力を有し、該第1被膜層は、その厚み方向に応力分布を有しており、その応力分布において2つ以上の極大値または極小値を持ち、それらの極大値または極小値は厚み方向表面側に位置するものほど高い圧縮応力を有する被覆工具が記載されている。
例えば、特許文献2には、すくい面での被覆層の欠損を抑制して耐欠損性を向上させ、また、逃げ面における耐摩耗性を向上させた被覆工具として、被覆層を柱状結晶で構成し、すくい面における被覆層厚は逃げ面での被覆層厚よりも薄く、被覆層表面側の上層領域の平均結晶幅が、被覆層基体側の下層領域の平均結晶幅よりも大きい2つの層領域にて構成し、すくい面での被覆層厚に対する上層領域の厚みの比率が、逃げ面での被覆層厚に対する上層領域の厚みの比率よりも小さく、すくい面での柱状結晶の平均結晶幅が逃げ面での柱状結晶の平均結晶幅より小さい被覆工具(エンドミル)が記載されている。
また、例えば、特許文献3には、耐摩耗性と靭性とを両立させたとともに、基材との密着性にも優れた被膜を備えた被覆工具として、基材上に形成された被膜は、第1被膜層を含み、該第1被膜層は、微細組織領域と粗大組織領域とを含み、該微細組織領域は、それを構成する化合物の平均結晶粒径が10〜200nmであり、かつ該第1被膜層の表面側から該第1被膜層の全体の厚みに対して50%以上の厚みとなる範囲を占めて存在し、かつ−4GPa以上−2GPa以下の範囲の応力である平均圧縮応力を有し、該第1被膜層は、その厚み方向に応力分布を有しており、その応力分布において2つ以上の極大値または極小値を持ち、それらの極大値または極小値は厚み方向表面側に位置するものほど高い圧縮応力を有する被覆工具が記載されている。
近年の切削加工装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は一段と厳しい切削条件下で行われるようになってきている。
上記従来の被覆工具においては、ある程度の耐チッピング性、耐欠損性、耐摩耗性の改善は図り得るものの、これを焼入れ鋼等の高硬度鋼の一段と厳しい切削加工に用いた場合には、チッピングの異常損傷が発生しやすく、また、摩耗が激しく、これを原因として、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
上記従来の被覆工具においては、ある程度の耐チッピング性、耐欠損性、耐摩耗性の改善は図り得るものの、これを焼入れ鋼等の高硬度鋼の一段と厳しい切削加工に用いた場合には、チッピングの異常損傷が発生しやすく、また、摩耗が激しく、これを原因として、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
そこで、本発明者等は、焼入れ鋼等の高硬度鋼の切削加工において、異常損傷を発生することなく耐摩耗性にもすぐれ、長期の使用に亘ってすぐれた切削性能を発揮する被覆工具を提供すべく、硬質被覆層の結晶組織構造について鋭意研究を行った結果、以下の知見を得た。
従来、被覆工具を作製するにあたり、硬質被覆層の形成手段としては、CVD法、PVD法等が一般的に採用されており、そして、例えば、PVD法の一種であるアークイオンプレーティング法(以下、AIP法という)によりAlとCrとBの複合窒化物[以下、(Al,Cr,B)Nで示す]からなる硬質被覆層を成膜する際には、工具基体を装置内に装入し、所定のバイアス電圧を印加するとともに、装置内を所定温度に加熱した状態で、アノード電極と所定組成のAl−Cr−Si合金ターゲットとの間にアーク放電を発生させ、同時に装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入し、所定圧の反応雰囲気中で蒸着することによって、硬質被覆層を成膜していた(図1参照)。
本発明者らは、上記従来のAIP法による(Al,Cr,Si)Nからなる硬質被覆層の成膜に際し、工具基体とターゲット間に磁場をかけ、硬質被覆層の組織構造に及ぼす磁場の影響を調査検討したところ、AIP法による硬質被覆層の成膜を所定強度の磁場中で行うことによって、硬質被覆層を構成する粒状結晶粒の結晶粒径を調整することができ、そして、このようにして硬質被覆層の結晶粒径を適正化した(Al,Cr,Si)Nからなる硬質被覆層を備えた被覆工具は、焼入れ鋼等の高硬度鋼の切削加工において、すぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮し、長期の使用に亘ってすぐれた切削性能を発揮することを見出したのである。
この発明は、上記の知見に基づいてなされたものであって、
「 炭化タングステン基超硬合金で構成された工具基体の表面に、平均層厚が2〜10μmの硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
(a)硬質被覆層は、AlとCrとSiの複合窒化物層からなり、かつ、該層においてAlとCrとSiの合量に占めるCrの含有割合は0.2〜0.45(但し、原子比)、Siの占める含有割合は0.01〜0.15(但し、原子比)であり、
(b)上記被覆工具の逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの範囲においては、硬質被覆層は粒状結晶組織を有し、さらに、硬質被覆層表面の粒状結晶粒の平均粒径は0.1〜0.4μmであり、また、工具基体と硬質被覆層の界面における粒状結晶粒の平均粒径は、硬質被覆層表面の粒状結晶粒の平均粒径より0.02〜0.1μm小さく、しかも、粒径が0.1μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合は20%以下であることを特徴とする表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
「 炭化タングステン基超硬合金で構成された工具基体の表面に、平均層厚が2〜10μmの硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
(a)硬質被覆層は、AlとCrとSiの複合窒化物層からなり、かつ、該層においてAlとCrとSiの合量に占めるCrの含有割合は0.2〜0.45(但し、原子比)、Siの占める含有割合は0.01〜0.15(但し、原子比)であり、
(b)上記被覆工具の逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの範囲においては、硬質被覆層は粒状結晶組織を有し、さらに、硬質被覆層表面の粒状結晶粒の平均粒径は0.1〜0.4μmであり、また、工具基体と硬質被覆層の界面における粒状結晶粒の平均粒径は、硬質被覆層表面の粒状結晶粒の平均粒径より0.02〜0.1μm小さく、しかも、粒径が0.1μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合は20%以下であることを特徴とする表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
つぎに、この発明の被覆工具について詳細に説明する。
硬質被覆層の種別、平均層厚:
この発明の硬質被覆層は、AlとCrとSiの複合窒化物層((Al,Cr,Si)N層)からなる。
上記(Al,Cr,Si)N層は、Al成分が高温硬さと耐熱性を向上させ、Cr成分には高温強度を向上させ、また、CrとAlの共存含有によって高温耐酸化性を向上させる作用があり、さらにSi成分には硬質被覆層の耐塑性変形性を向上させる作用があることから、高温硬さ、耐熱性、高温強度にすぐれた硬質被覆層として既によく知られている。
本発明では、AlとCrとSiの合量に占めるCrの含有割合は0.2〜0.45(但し、原子比)、Siの占める含有割合は0.01〜0.15(但し、原子比)としているが、Crの含有割合が0.2未満では、六方晶結晶構造の割合が増加するため硬さが低下し、一方、Crの含有割合(原子比)が0.45を越えると、相対的にAlの含有割合が少なくなり、耐熱性の低下を招き、その結果、偏摩耗の発生、熱塑性変形の発生等により耐摩耗性が劣化するようになることから、Alとの合量に占めるCrの含有割合(原子比)は、0.2〜0.45であることが必要である。
また、AlとCrとSiの合量に占めるSiの含有割合が0.01未満の場合には、耐塑性変形性の向上を期待することはできず、一方、Siの含有割合が0.15を超えるような場合には、層の硬さが向上するものの脆化傾向を示すようになるので、Siの含有割合(原子比)は0.01〜0.15とすることが必要である。
さらに、(Al,Cr,Si)N層からなる硬質被覆層の平均層厚は、2μm未満では、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮することができず、工具寿命短命の原因となり、一方、その平均層厚が10μmを越えると、膜が自己破壊し易くなることから、その平均層厚は2〜10μmとすることが必要である。
この発明の硬質被覆層は、AlとCrとSiの複合窒化物層((Al,Cr,Si)N層)からなる。
上記(Al,Cr,Si)N層は、Al成分が高温硬さと耐熱性を向上させ、Cr成分には高温強度を向上させ、また、CrとAlの共存含有によって高温耐酸化性を向上させる作用があり、さらにSi成分には硬質被覆層の耐塑性変形性を向上させる作用があることから、高温硬さ、耐熱性、高温強度にすぐれた硬質被覆層として既によく知られている。
本発明では、AlとCrとSiの合量に占めるCrの含有割合は0.2〜0.45(但し、原子比)、Siの占める含有割合は0.01〜0.15(但し、原子比)としているが、Crの含有割合が0.2未満では、六方晶結晶構造の割合が増加するため硬さが低下し、一方、Crの含有割合(原子比)が0.45を越えると、相対的にAlの含有割合が少なくなり、耐熱性の低下を招き、その結果、偏摩耗の発生、熱塑性変形の発生等により耐摩耗性が劣化するようになることから、Alとの合量に占めるCrの含有割合(原子比)は、0.2〜0.45であることが必要である。
また、AlとCrとSiの合量に占めるSiの含有割合が0.01未満の場合には、耐塑性変形性の向上を期待することはできず、一方、Siの含有割合が0.15を超えるような場合には、層の硬さが向上するものの脆化傾向を示すようになるので、Siの含有割合(原子比)は0.01〜0.15とすることが必要である。
さらに、(Al,Cr,Si)N層からなる硬質被覆層の平均層厚は、2μm未満では、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮することができず、工具寿命短命の原因となり、一方、その平均層厚が10μmを越えると、膜が自己破壊し易くなることから、その平均層厚は2〜10μmとすることが必要である。
(Al,Cr,Si)N層からなる硬質被覆層の層構造:
本発明では、上記(Al,Cr,Si)N層からなる硬質被覆層を粒状結晶として成膜し、さらに、硬質被覆層表面における結晶粒の平均結晶粒径(以下、単に「表面粒径」という)を0.1〜0.4μmとし、一方、工具基体と硬質被覆層の界面における硬質被覆層の結晶粒の平均結晶粒径(以下、単に「界面粒径」という)を、表面粒径より0.02〜0.1μm小さい値として成膜し、表面粒径と界面粒径とがそれぞれ異なる平均結晶粒径範囲となるように硬質被覆層の結晶組織構造を形成するように成膜する。
ここで、「工具基体と硬質被覆層の界面における硬質被覆層の結晶粒」とは、硬質被覆層内における工具基体と硬質被覆層の界面から厚さ0.5μmの硬質被覆層内部の領域に形成されている結晶粒を意味し、また、「硬質被覆層表面における結晶粒」とは、硬質被覆層の表面から深さ0.5μmの領域に形成されている結晶粒を意味する。
また、ここで「粒状結晶」とはアスペクト比が1以上6以下の結晶粒を意味する。アスペクト比は、結晶粒断面で最も長い直径(長辺)とそれに垂直な直径(短辺)の長さの比を、長辺を分子、短辺を分母として算出するものとする。
本発明では、上記(Al,Cr,Si)N層からなる硬質被覆層を粒状結晶として成膜し、さらに、硬質被覆層表面における結晶粒の平均結晶粒径(以下、単に「表面粒径」という)を0.1〜0.4μmとし、一方、工具基体と硬質被覆層の界面における硬質被覆層の結晶粒の平均結晶粒径(以下、単に「界面粒径」という)を、表面粒径より0.02〜0.1μm小さい値として成膜し、表面粒径と界面粒径とがそれぞれ異なる平均結晶粒径範囲となるように硬質被覆層の結晶組織構造を形成するように成膜する。
ここで、「工具基体と硬質被覆層の界面における硬質被覆層の結晶粒」とは、硬質被覆層内における工具基体と硬質被覆層の界面から厚さ0.5μmの硬質被覆層内部の領域に形成されている結晶粒を意味し、また、「硬質被覆層表面における結晶粒」とは、硬質被覆層の表面から深さ0.5μmの領域に形成されている結晶粒を意味する。
また、ここで「粒状結晶」とはアスペクト比が1以上6以下の結晶粒を意味する。アスペクト比は、結晶粒断面で最も長い直径(長辺)とそれに垂直な直径(短辺)の長さの比を、長辺を分子、短辺を分母として算出するものとする。
平均結晶粒径について、具体的に説明すれば、次のとおりである。
硬質被覆層表面における結晶粒の平均結晶粒径(表面粒径)が0.1μm未満であると、層中に含有する粒界が多くなるため、切削加工時に相対的に粒内よりも脆い粒界部分での破壊が生じやすく、耐摩耗性が悪化する。一方、表面粒径が0.4μmを超えると、層中に含有する粒界が少ないために、切削加工時に局所的に粒界に負荷がかかりやすくクラックが発生した場合に進展しやすく、耐チッピング性が悪化する。そのため、切削加工時に長期の使用にわたって十分な耐摩耗性、または耐チッピング性を発揮することができなくなることから、表面粒径は0.1〜0.4μmと定めた。
工具基体と硬質被覆層の界面における硬質被覆層の結晶粒の平均結晶粒径(界面粒径)については、表面粒径よりも0.02〜0.1μmだけ小さい値とすることが必要であるが、その技術的な理由は、表面粒径より0.1μmを超えて界面粒径が小さい場合には、硬質被覆層表面と界面の領域の平均粒径の差に起因して、切削加工時に表面と界面の領域での耐摩耗性の差が反映して、切削加工時に摩耗やチッピングを発生しやすくなり、切削性能が悪化する問題が生じる。
一方、界面粒径と表面粒径との差が0.02μm以内である場合には、表面と界面で粒径が同等であることに起因して耐摩耗性が同等となり、切削を行った際に、耐摩耗性の向上の作用を付与できない、ということによる。
なお、本発明では、表面粒径よりも界面粒径を0.02〜0.1μm小さい値にする事で、切削加工時に硬質被覆層表面での耐摩耗性向上効果と、界面領域での耐チッピング性向上効果を相乗させ、長期の使用にわたって十分な耐摩耗性、または耐チッピング性を発揮させることが可能となる。
硬質被覆層表面における結晶粒の平均結晶粒径(表面粒径)が0.1μm未満であると、層中に含有する粒界が多くなるため、切削加工時に相対的に粒内よりも脆い粒界部分での破壊が生じやすく、耐摩耗性が悪化する。一方、表面粒径が0.4μmを超えると、層中に含有する粒界が少ないために、切削加工時に局所的に粒界に負荷がかかりやすくクラックが発生した場合に進展しやすく、耐チッピング性が悪化する。そのため、切削加工時に長期の使用にわたって十分な耐摩耗性、または耐チッピング性を発揮することができなくなることから、表面粒径は0.1〜0.4μmと定めた。
工具基体と硬質被覆層の界面における硬質被覆層の結晶粒の平均結晶粒径(界面粒径)については、表面粒径よりも0.02〜0.1μmだけ小さい値とすることが必要であるが、その技術的な理由は、表面粒径より0.1μmを超えて界面粒径が小さい場合には、硬質被覆層表面と界面の領域の平均粒径の差に起因して、切削加工時に表面と界面の領域での耐摩耗性の差が反映して、切削加工時に摩耗やチッピングを発生しやすくなり、切削性能が悪化する問題が生じる。
一方、界面粒径と表面粒径との差が0.02μm以内である場合には、表面と界面で粒径が同等であることに起因して耐摩耗性が同等となり、切削を行った際に、耐摩耗性の向上の作用を付与できない、ということによる。
なお、本発明では、表面粒径よりも界面粒径を0.02〜0.1μm小さい値にする事で、切削加工時に硬質被覆層表面での耐摩耗性向上効果と、界面領域での耐チッピング性向上効果を相乗させ、長期の使用にわたって十分な耐摩耗性、または耐チッピング性を発揮させることが可能となる。
粒径の測定方法を以下に記述する。
工具基体刃先から逃げ面側の断面を切り出し、その断面をSEMにて、観察する。硬質被覆層表面から深さ0.5μmの領域に形成されている各結晶粒を用い、工具基体表面と平行に直線を引き、結晶粒界間の距離を粒径と定義する。なお、工具基体表面と平行に直線を引く位置は、各結晶粒において最長の結晶粒径となる位置とする。逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの範囲において結晶粒径を測定し、その平均結晶粒径の平均値を表面粒径とする。より具体的にいえば、逃げ面上の刃先及び逃げ面上において刃先から50μm離れた位置、及び刃先から100μm離れた位置の3箇所で、幅10μmの範囲内に存在する結晶の結晶粒径を測定し、さらに、その3箇所での全結晶粒径の平均値を表面粒径とする。また、硬質被覆層内における工具基体と硬質被覆層の界面から厚さ0.5μmの領域に形成されている各結晶粒においても同様の方法にて界面粒径を算出した。
工具基体刃先から逃げ面側の断面を切り出し、その断面をSEMにて、観察する。硬質被覆層表面から深さ0.5μmの領域に形成されている各結晶粒を用い、工具基体表面と平行に直線を引き、結晶粒界間の距離を粒径と定義する。なお、工具基体表面と平行に直線を引く位置は、各結晶粒において最長の結晶粒径となる位置とする。逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの範囲において結晶粒径を測定し、その平均結晶粒径の平均値を表面粒径とする。より具体的にいえば、逃げ面上の刃先及び逃げ面上において刃先から50μm離れた位置、及び刃先から100μm離れた位置の3箇所で、幅10μmの範囲内に存在する結晶の結晶粒径を測定し、さらに、その3箇所での全結晶粒径の平均値を表面粒径とする。また、硬質被覆層内における工具基体と硬質被覆層の界面から厚さ0.5μmの領域に形成されている各結晶粒においても同様の方法にて界面粒径を算出した。
また、逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの範囲(具体的に測定するのは、逃げ面上の刃先、及び逃げ面上において刃先から50μm離れた位置、及び刃先から100μm離れた位置の3箇所)においては、表面粒径および界面粒径のいずれについても、粒径が0.1μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合は20%以下であることが必要であるが、これは、粒径が0.1μm以下の微細結晶粒が20%を超えて形成されている場合には、層中に含有する粒界が多くなるため、切削加工時に相対的に粒内よりも脆い粒界部分での破壊が生じやすく、耐摩耗性が悪化するという理由による。
ここで「粒径が0.1μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合」とは、複数の結晶粒の粒径を測定し、その全測定結晶粒径長の和に対する粒径0.1μm以下の結晶粒径長の和の割合を示す。
図3に示すように、点線部に存在する結晶粒を用いて、各結晶粒径を測定後、表面粒径、界面粒径、粒径0.1μm以下の結晶粒径長割合を算出する。なお、点線部の幅は各10μmとする。また、「刃先」とは、図3に示すように、「切れ刃先端のコーナー部の円錐形状となっている部分を除いた、直線状切れ刃の最も先端に近い部分」であると、本発明では定義する。
ここで「粒径が0.1μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合」とは、複数の結晶粒の粒径を測定し、その全測定結晶粒径長の和に対する粒径0.1μm以下の結晶粒径長の和の割合を示す。
図3に示すように、点線部に存在する結晶粒を用いて、各結晶粒径を測定後、表面粒径、界面粒径、粒径0.1μm以下の結晶粒径長割合を算出する。なお、点線部の幅は各10μmとする。また、「刃先」とは、図3に示すように、「切れ刃先端のコーナー部の円錐形状となっている部分を除いた、直線状切れ刃の最も先端に近い部分」であると、本発明では定義する。
硬質被覆層の蒸着形成:
この発明の硬質被覆層は、図2(a)、(b)に示すようなアークイオンプレーティング装置(AIP装置)を用い、工具基体の温度を370〜450℃に維持しつつ、工具基体をAIP装置内で自公転させ、ターゲット表面中心とターゲットに最近接した工具基体間に所定の磁場(積算磁力が40〜150mT×mm)を印加しながら蒸着することによって、形成することができる。
例えば、AIP装置の一方には基体洗浄用のTi電極からなるカソード電極、他方にはAl−Cr−Si合金からなるターゲット(カソード電極)を設け、
まず、炭化タングステン(WC)基超硬合金からなる工具基体を洗浄・乾燥し、AIP装置内の回転テーブル上に装着し、真空中で基体洗浄用のTi電極とアノード電極との間に100Aのアーク放電を発生させて、工具基体に−1000Vのバイアス電圧を印加しつつ工具基体表面をボンバード洗浄し、
ついで、Al−Cr−Si合金ターゲットの表面中心からターゲットに最近接した工具基体までの積算磁力が40〜150mT×mmなる磁場を印加し、
ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入し6Paの雰囲気圧力とし、工具基体の温度を370〜450℃に維持し、工具基体に−50Vのバイアス電圧を印加しつつ、Al−Cr−Si合金ターゲット(カソード電極)とアノード電極との間に100Aのアーク放電を発生させ、工具基体がターゲットに最接近した際には、逃げ面の一部又は全部とターゲット面が水平となるように工具基体を支持して自公転させつつ蒸着することによって、本発明の層構造を有する(Al,Cr,Si)N層からなる硬質被覆層を蒸着形成することができる。
なお、上記のAl−Cr−Si合金ターゲットと工具基体間での磁場の印加は、例えば、カソード周辺に磁場発生源である電磁コイル又は永久磁石を設置する、あるいは、AIP装置の内部、中心部に永久磁石を配置する等、任意の手段で磁場を形成することができる。
ここで本発明における積算磁力は、以下の算出方法により算出する。
磁束密度計にて、Al−Cr−Si合金ターゲット中心から工具基体の位置までの直線上を10mm間隔で磁束密度を測定する。磁束密度は単位mT(ミリテスラ)で表し、ターゲット表面から工具基体の位置までの距離は単位mm(ミリメートル)で表す。さらに、ターゲット表面から工具基体の位置までの距離を横軸とし、磁束密度を縦軸のグラフで表現した場合、面積に相当する値を積算磁力(mT×mm)と定義する。
ここで工具基体の位置は、Al−Cr−Si合金ターゲットに最近接する位置とする。なお、磁束密度の測定は磁場を形成している状態であれば、放電中でなくても良く、例えば大気圧下にて放電させていない状態で測定しても良い。
この発明の硬質被覆層は、図2(a)、(b)に示すようなアークイオンプレーティング装置(AIP装置)を用い、工具基体の温度を370〜450℃に維持しつつ、工具基体をAIP装置内で自公転させ、ターゲット表面中心とターゲットに最近接した工具基体間に所定の磁場(積算磁力が40〜150mT×mm)を印加しながら蒸着することによって、形成することができる。
例えば、AIP装置の一方には基体洗浄用のTi電極からなるカソード電極、他方にはAl−Cr−Si合金からなるターゲット(カソード電極)を設け、
まず、炭化タングステン(WC)基超硬合金からなる工具基体を洗浄・乾燥し、AIP装置内の回転テーブル上に装着し、真空中で基体洗浄用のTi電極とアノード電極との間に100Aのアーク放電を発生させて、工具基体に−1000Vのバイアス電圧を印加しつつ工具基体表面をボンバード洗浄し、
ついで、Al−Cr−Si合金ターゲットの表面中心からターゲットに最近接した工具基体までの積算磁力が40〜150mT×mmなる磁場を印加し、
ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入し6Paの雰囲気圧力とし、工具基体の温度を370〜450℃に維持し、工具基体に−50Vのバイアス電圧を印加しつつ、Al−Cr−Si合金ターゲット(カソード電極)とアノード電極との間に100Aのアーク放電を発生させ、工具基体がターゲットに最接近した際には、逃げ面の一部又は全部とターゲット面が水平となるように工具基体を支持して自公転させつつ蒸着することによって、本発明の層構造を有する(Al,Cr,Si)N層からなる硬質被覆層を蒸着形成することができる。
なお、上記のAl−Cr−Si合金ターゲットと工具基体間での磁場の印加は、例えば、カソード周辺に磁場発生源である電磁コイル又は永久磁石を設置する、あるいは、AIP装置の内部、中心部に永久磁石を配置する等、任意の手段で磁場を形成することができる。
ここで本発明における積算磁力は、以下の算出方法により算出する。
磁束密度計にて、Al−Cr−Si合金ターゲット中心から工具基体の位置までの直線上を10mm間隔で磁束密度を測定する。磁束密度は単位mT(ミリテスラ)で表し、ターゲット表面から工具基体の位置までの距離は単位mm(ミリメートル)で表す。さらに、ターゲット表面から工具基体の位置までの距離を横軸とし、磁束密度を縦軸のグラフで表現した場合、面積に相当する値を積算磁力(mT×mm)と定義する。
ここで工具基体の位置は、Al−Cr−Si合金ターゲットに最近接する位置とする。なお、磁束密度の測定は磁場を形成している状態であれば、放電中でなくても良く、例えば大気圧下にて放電させていない状態で測定しても良い。
この発明の被覆工具は、所定組成の(Al,Cr,Si)N層からなる硬質被覆層が、刃先から100μm離れた位置までの範囲においては粒状結晶組織で構成され、しかも、表面粒径は0.1〜0.4μm、また、界面粒径は、表面粒径より0.02〜0.1μm小さく、また、逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの範囲においては、粒径が0.1μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合は20%以下であることから、焼入れ鋼等の高硬度鋼の切削加工において、すぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮し、長期の使用に亘ってすぐれた切削性能を発揮するものである。
つぎに、この発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、平均粒径:5.5μmを有する中粗粒WC粉末、同0.8μmの微粒WC粉末、同1.3μmのTaC粉末、同1.2μmのNbC粉末、同1.2μmのZrC粉末、同2.3μmのCr3C2粉末、同1.5μmのVC粉末、同1.0μmの(Ti,W)C[質量比で、TiC/WC=50/50]粉末、および同1.8μmのCo粉末を用意し、これら原料粉末をそれぞれ表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、100MPaの圧力で所定形状の各種の圧粉体に押出しプレス成形し、これらの圧粉体を、6Paの真空雰囲気中、7℃/分の昇温速度で1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に昇温し、この温度に1時間保持後、炉冷の条件で焼結して、直径が10mmの工具基体形成用丸棒焼結体を形成し、さらに前記丸棒焼結体から、研削加工にて、切刃部の直径×長さが6mm×6mmの寸法で、ねじれ角30度の2枚刃ボール形状をもったWC基超硬合金製の工具基体(エンドミル)1〜3および切刃部の直径×長さが6mm×12mmの寸法で、ねじれ角30度の2枚刃ボール形状をもったWC基超硬合金製の工具基体(エンドミル)4〜6をそれぞれ製造した。
(a)上記の工具基体1〜6のそれぞれを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、図2に示すAIP装置の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部にそって装着し、AIP装置の一方にボンバード洗浄用のTiカソード電極を、他方側に所定組成のAl−Cr−Si合金からなるターゲット(カソード電極)を配置し、
(b)まず、装置内を排気して真空に保持しながら、ヒータで工具基体を400℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ、Tiカソード電極とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって工具基体表面をボンバード洗浄し、
(c)ついで、上記Al−Cr−Si合金ターゲットの表面中心から工具基体までの積算磁力が40〜150mT×mmの範囲内となるように種々の磁場を印加する。
ここで積算磁力の算出方法を以下に記述する。磁束密度計にて、Al−Cr−Si合金ターゲット中心から工具基体の位置までの直線上を10mm間隔で磁束密度を測定する。磁束密度は単位mT(ミリテスラ)で表し、ターゲット表面から工具基体の位置までの距離は単位mm(ミリメートル)で表す。さらに、ターゲット表面から工具基体の位置までの距離を横軸とし、磁束密度を縦軸のグラフで表現した場合、面積に相当する値を積算磁力(mT×mm)と定義する。ここで工具基体の位置は、Al−Cr−Si合金ターゲットに最近接する位置とする。なお、磁束密度の測定は、磁場を形成している状態で大気圧下にて事前に放電させていない状態で測定した。
(d)ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して6Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体の温度を370〜450℃の範囲内に維持するとともに−50Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ前記Al−Cr−Si合金ターゲットとアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記工具基体の表面に、表2に示される組成および目標平均層厚の(Al,Cr,Si)N層からなる硬質被覆層を蒸着形成することにより、
本発明被覆工具としての表面被覆エンドミル1〜10(以下、本発明1〜10という)をそれぞれ製造した。
(b)まず、装置内を排気して真空に保持しながら、ヒータで工具基体を400℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ、Tiカソード電極とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって工具基体表面をボンバード洗浄し、
(c)ついで、上記Al−Cr−Si合金ターゲットの表面中心から工具基体までの積算磁力が40〜150mT×mmの範囲内となるように種々の磁場を印加する。
ここで積算磁力の算出方法を以下に記述する。磁束密度計にて、Al−Cr−Si合金ターゲット中心から工具基体の位置までの直線上を10mm間隔で磁束密度を測定する。磁束密度は単位mT(ミリテスラ)で表し、ターゲット表面から工具基体の位置までの距離は単位mm(ミリメートル)で表す。さらに、ターゲット表面から工具基体の位置までの距離を横軸とし、磁束密度を縦軸のグラフで表現した場合、面積に相当する値を積算磁力(mT×mm)と定義する。ここで工具基体の位置は、Al−Cr−Si合金ターゲットに最近接する位置とする。なお、磁束密度の測定は、磁場を形成している状態で大気圧下にて事前に放電させていない状態で測定した。
(d)ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して6Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体の温度を370〜450℃の範囲内に維持するとともに−50Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ前記Al−Cr−Si合金ターゲットとアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記工具基体の表面に、表2に示される組成および目標平均層厚の(Al,Cr,Si)N層からなる硬質被覆層を蒸着形成することにより、
本発明被覆工具としての表面被覆エンドミル1〜10(以下、本発明1〜10という)をそれぞれ製造した。
[比較例]
比較の目的で、上記実施例における(c)の条件を変更し(即ち、Al−Cr−Si合金ターゲットの表面中心から工具基体までの積算磁力が40mT×mm未満、あるいは150mT×mmを超える)、また、(d)の条件を変更し(即ち、工具基体が370℃未満、あるいは450℃を超える温度に維持し)て、その他は実施例と同一の条件で、比較例被覆工具としての表面被覆エンドミル1〜5(以下、比較例1〜5という)をそれぞれ製造した。
さらに、被覆層中のAlとCrとSiの合量に占めるCrあるいはSiの含有割合が、本発明で規定する範囲外のもの、また、被覆層の平均層厚が2〜10μmの範囲外の表面被覆エンドミル6〜10をそれぞれ製造した。
比較の目的で、上記実施例における(c)の条件を変更し(即ち、Al−Cr−Si合金ターゲットの表面中心から工具基体までの積算磁力が40mT×mm未満、あるいは150mT×mmを超える)、また、(d)の条件を変更し(即ち、工具基体が370℃未満、あるいは450℃を超える温度に維持し)て、その他は実施例と同一の条件で、比較例被覆工具としての表面被覆エンドミル1〜5(以下、比較例1〜5という)をそれぞれ製造した。
さらに、被覆層中のAlとCrとSiの合量に占めるCrあるいはSiの含有割合が、本発明で規定する範囲外のもの、また、被覆層の平均層厚が2〜10μmの範囲外の表面被覆エンドミル6〜10をそれぞれ製造した。
上記で作製した本発明1〜10および比較例1〜10について、その縦断面の硬質被覆層の結晶粒形態を観察したところ、いずれもアスペクト比が1以上6以下の粒状結晶組織から構成されていた。アスペクト比は、結晶粒断面で最も長い直径(長辺)とそれに垂直な直径(短辺)の長さの比を、長辺を分子、短辺を分母として算出するものとする。
さらに、該粒状結晶の結晶粒径を走査型電子顕微鏡(SEM)で測定し、逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの範囲における表面粒径、界面粒径を求めた。具体的には、逃げ面上の刃先、及び逃げ面上において刃先から50μm離れた位置、及び刃先から100μm離れた位置の3箇所にて、幅10μmの範囲内に存在する結晶の全結晶粒径を算出し、3箇所の位置での平均値を算出することから求めた。
また、同様にして、逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの範囲において、粒径が0.1μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合を、逃げ面上の刃先、及び逃げ面上において刃先から50μm離れた位置、及び刃先から100μm離れた位置での界面及び表面の計6箇所にて測定することにより求めた。
表2、表3に、上記で測定・算出したそれぞれの値を示す。
さらに、該粒状結晶の結晶粒径を走査型電子顕微鏡(SEM)で測定し、逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの範囲における表面粒径、界面粒径を求めた。具体的には、逃げ面上の刃先、及び逃げ面上において刃先から50μm離れた位置、及び刃先から100μm離れた位置の3箇所にて、幅10μmの範囲内に存在する結晶の全結晶粒径を算出し、3箇所の位置での平均値を算出することから求めた。
また、同様にして、逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの範囲において、粒径が0.1μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合を、逃げ面上の刃先、及び逃げ面上において刃先から50μm離れた位置、及び刃先から100μm離れた位置での界面及び表面の計6箇所にて測定することにより求めた。
表2、表3に、上記で測定・算出したそれぞれの値を示す。
なお、上記結晶粒径の測定法、粒径が0.1μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合の測定法をより具体的にいえば、以下のとおりである。
被覆工具の切れ刃先端のコーナー部を含み、逃げ面の断面を研磨加工した後、その断面をSEM像にて、観察する。測定条件として、観察倍率:10000倍、加速電圧:3kVの条件を使用した。硬質被覆層表面から深さ0.5μmの領域に形成されている各結晶粒を用い、工具基体表面と平行に直線を引き、結晶粒界間の距離を粒径と定義する。なお、工具基体表面と平行に直線を引く位置は、各結晶粒において最長の結晶粒径となる位置とする。逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの範囲、具体的な測定点としては、逃げ面上の刃先、及び逃げ面上において刃先から50μm離れた位置、及び刃先から100μm離れた位置の3箇所で、幅10μmの範囲内に存在する結晶の結晶粒径を測定し、さらに、その3箇所での平均結晶粒径の平均値を表面粒径とした。幅10μmの粒径を測定するにあたり、各測定箇所を中心に刃先側5μm、刃先と逆側5μmの各結晶粒を用いた。ただし、逃げ面上の刃先の箇所においては、刃先から5μm離れた位置を中心として、刃先側5μm、刃先と逆側5μmの幅10μmの範囲内で測定した。また、硬質被覆層内における工具基体と硬質被覆層の界面から厚さ0.5μmの領域に形成されている各結晶粒においても同様の方法にて界面粒径を算出した。
また、粒径が0.1μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合の測定方法は、上記粒径を測定した界面3箇所、及び表面3箇所にて測定した結晶粒径の全測定データを用いる。測定した全結晶粒径の和に対する、粒径が0.1μm以下の結晶粒径の和を粒径が0.1μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合とした。
被覆工具の切れ刃先端のコーナー部を含み、逃げ面の断面を研磨加工した後、その断面をSEM像にて、観察する。測定条件として、観察倍率:10000倍、加速電圧:3kVの条件を使用した。硬質被覆層表面から深さ0.5μmの領域に形成されている各結晶粒を用い、工具基体表面と平行に直線を引き、結晶粒界間の距離を粒径と定義する。なお、工具基体表面と平行に直線を引く位置は、各結晶粒において最長の結晶粒径となる位置とする。逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの範囲、具体的な測定点としては、逃げ面上の刃先、及び逃げ面上において刃先から50μm離れた位置、及び刃先から100μm離れた位置の3箇所で、幅10μmの範囲内に存在する結晶の結晶粒径を測定し、さらに、その3箇所での平均結晶粒径の平均値を表面粒径とした。幅10μmの粒径を測定するにあたり、各測定箇所を中心に刃先側5μm、刃先と逆側5μmの各結晶粒を用いた。ただし、逃げ面上の刃先の箇所においては、刃先から5μm離れた位置を中心として、刃先側5μm、刃先と逆側5μmの幅10μmの範囲内で測定した。また、硬質被覆層内における工具基体と硬質被覆層の界面から厚さ0.5μmの領域に形成されている各結晶粒においても同様の方法にて界面粒径を算出した。
また、粒径が0.1μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合の測定方法は、上記粒径を測定した界面3箇所、及び表面3箇所にて測定した結晶粒径の全測定データを用いる。測定した全結晶粒径の和に対する、粒径が0.1μm以下の結晶粒径の和を粒径が0.1μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合とした。
つぎに、上記本発明1〜10および比較例1〜10のエンドミルについて、下記の条件(切削条件Aという)での高硬度鋼(SKD61(HRC52))の側面切削加工試験を実施した。
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SKD61(HRC52)の板材、
回転速度: 17000 min.−1、
縦方向切り込み: 2.0 mm、
横方向切り込み: 0.3 mm
送り速度(1刃当り): 0.05 mm/tooth、
切削長: 250 m、
切削方式:エアブロー、
さらに、下記の条件(切削条件Bという)での高硬度鋼(SKD11(HRC60))の側面切削加工試験を実施した。
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SKD11(HRC60)の板材、
回転速度: 5400 min.−1、
縦方向切り込み: 2.0 mm、
横方向切り込み: 0.2 mm
送り速度(1刃当り): 0.05 mm/tooth、
切削長: 30 m、
切削方式:エアブロー。
そして、いずれの側面切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
この測定結果を表4に示した。
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SKD61(HRC52)の板材、
回転速度: 17000 min.−1、
縦方向切り込み: 2.0 mm、
横方向切り込み: 0.3 mm
送り速度(1刃当り): 0.05 mm/tooth、
切削長: 250 m、
切削方式:エアブロー、
さらに、下記の条件(切削条件Bという)での高硬度鋼(SKD11(HRC60))の側面切削加工試験を実施した。
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SKD11(HRC60)の板材、
回転速度: 5400 min.−1、
縦方向切り込み: 2.0 mm、
横方向切り込み: 0.2 mm
送り速度(1刃当り): 0.05 mm/tooth、
切削長: 30 m、
切削方式:エアブロー。
そして、いずれの側面切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
この測定結果を表4に示した。
表4に示される結果から、本発明被覆工具は、(Al,Cr,Si)N層からなる硬質被覆層の粒状結晶粒の表面粒径、界面粒径を特定の数値範囲に定め、また、逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの範囲における粒径が0.1μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合を20%以下と定めることにより、焼入れ鋼等の高硬度鋼の切削加工においてすぐれた耐チッピング性とともにすぐれた耐摩耗性を発揮するものである。
これに対して、硬質被覆層の構造が本発明で規定する範囲を外れる比較例被覆工具では、チッピング発生あるいは耐摩耗性の低下によって、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
これに対して、硬質被覆層の構造が本発明で規定する範囲を外れる比較例被覆工具では、チッピング発生あるいは耐摩耗性の低下によって、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
上述のように、この発明の被覆工具は、焼入れ鋼等の高硬度鋼の切削加工に供した場合に長期に亘ってすぐれた切削性能を示すものであるから、切削加工装置のFA化、並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金で構成された工具基体の表面に、平均層厚が2〜10μmの硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
(a)硬質被覆層は、AlとCrとSiの複合窒化物層からなり、かつ、該層においてAlとCrとSiの合量に占めるCrの含有割合は0.2〜0.45(但し、原子比)、Siの占める含有割合は0.01〜0.15(但し、原子比)であり、
(b)上記被覆工具の逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの範囲においては、硬質被覆層は粒状結晶組織を有し、さらに、硬質被覆層表面の粒状結晶粒の平均粒径は0.1〜0.4μmであり、また、工具基体と硬質被覆層の界面における粒状結晶粒の平均粒径は、硬質被覆層表面の粒状結晶粒の平均粒径より0.02〜0.1μm小さく、しかも、粒径が0.1μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合は20%以下であることを特徴とする表面被覆切削工具。
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---|---|---|---|
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