JP2016064470A - 耐チッピング性、耐摩耗性にすぐれた表面被覆切削工具 - Google Patents
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Abstract
【課題】高速切削加工においてすぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具を提供する。【解決手段】工具基体表面に、(Ti1−xAlx)(CyN1−y)(但し、x、yは原子比で、0.1≦x≦0.7、0.01≦y≦0.40)を満足する(Ti,Al)(C,N)層からなる硬質被覆層を形成した表面被覆切削工具であって、該層についてX線回折を行った場合、(220)面の回折ピーク強度が最大高さを示し、(220)面の回折ピークの半価幅は0.5〜3.0であり、回折ピーク強度をI(220)、I(111)は、1<I(220)/I(111)≦20を満足し、また、長径が1〜50nmであって、長径/短径の比が1〜2である(Ti,Al)(C,N)結晶粒の占める面積割合は60%以上であり、また、硬質被覆層と工具基体表面間に(Ti1−zAlz)N(但し、zは原子比で、0.45≦z≦0.65かつ(x+0.1)≦z)を満足する中間層を介在形成することができる。【選択図】 なし
Description
本発明は、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を備えた表面被覆切削工具に関し、さらに詳しくは、炭素鋼や合金鋼などの高速切削加工に供した場合においても、チッピング、欠損、剥離等の異常損傷を発生することなく、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関する。
一般に、被覆工具には、各種の鋼や鋳鉄などの被削材の旋削加工や平削り加工にバイトの先端部に着脱自在に取り付けて用いられるインサート、被削材の穴あけ切削加工などに用いられるドリルやミニチュアドリル、さらに被削材の面削加工や溝加工、肩加工などに用いられるソリッドタイプのエンドミルなどがあり、またインサートを着脱自在に取り付けてソリッドタイプのエンドミルと同様に切削加工を行うインサート式エンドミルなどが知られている。
従来から、被覆工具としては、例えば、WC基超硬合金、TiCN基サーメット、cBN焼結体を工具基体とし、これに硬質被覆層を形成した被覆工具が知られており、切削性能の改善を目的として種々の提案がなされている。
従来から、被覆工具としては、例えば、WC基超硬合金、TiCN基サーメット、cBN焼結体を工具基体とし、これに硬質被覆層を形成した被覆工具が知られており、切削性能の改善を目的として種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、重切削加工における耐欠損性を向上させるために、工具基体の表面に、組成式:(Ti1−xAlx)N(但し、xは原子比で、0.4≦x≦0.6)層からなる硬質被覆層を形成し、該層についてEBSDによる結晶方位解析を行った場合、表面研磨面の法線方向から0〜15度の範囲内に結晶方位<110>を有する結晶粒の面積割合を50%以上とし、また、隣り合う結晶粒同士のなす角を測定した場合に、小角粒界(0<θ≦15°)の割合を50%以上としたような結晶配列を構成した被覆工具が提案されている。
また、特許文献2には、硬質被覆層の靭性、硬度を高め、耐摩耗性、耐酸化性、耐熱衝撃性、耐欠損性、耐溶着性および耐剥離性を向上させるために、超硬合金、サーメット等からなる工具基体の表面に、TiとAlの原子比率が48〜75:52〜25であるTiとAlの窒化物、炭窒化物等を被覆し、該層についてX線回折により結晶面のピーク強度を求めた場合、(200)面に最大高さを示し、また、(200)面のピーク強度I(200)と(111)面のピーク強度I(111)は、2≦I(200)/I(111)≦100を満足するようにした被覆工具が提案されている。
前記従来技術で提案されているTiとAlの窒化物、炭窒化物からなる硬質被覆層は、硬さ、耐熱性とともにすぐれた耐摩耗性を期待できるが、高速切削加工のように切れ刃に高負荷が作用する切削条件においては、十分に満足できる耐チッピング性、耐摩耗性を発揮することはできなかった。
したがって、高速切削加工に供した場合であっても、耐チッピング性にすぐれ、長期にわたって安定した耐摩耗性を発揮するような被覆工具が求められている。
したがって、高速切削加工に供した場合であっても、耐チッピング性にすぐれ、長期にわたって安定した耐摩耗性を発揮するような被覆工具が求められている。
そこで、本発明者らは、前記課題を解決すべく硬質被覆層の構造について鋭意検討したところ、次のような知見を得た。
本発明者らは、工具基体表面に、例えば図1に示すアークイオンプレーティング装置を用いて硬質被覆層を蒸着成膜するにあたり、皮膜の核形成速度および核形成に供されるエネルギー、さらに、結晶粒の成長速度を操作することで、皮膜組織および結晶配向性を制御できることを見出した。
つまり、核形成に供されるエネルギーは、例えば、印加するバイアス電圧によって調整することができるが、(220)面は(111)面よりも等価な結晶面が多いため、皮膜の結晶成長の初期において皮膜成長速度を高め、核形成を促進することで(220)配向した核を相対的に多くすることができること、また、核形成に供されるエネルギーが小さいと安定面である(100)面が成長しやすくなるため、供給されるエネルギー量を多くすることで(220)面の形成を促進することができること、さらに、結晶核の形成速度と結晶粒の成長速度を調整することによって、硬質被覆層全体としての(220)面配向性を高めることができることを見出したのである。
つまり、核形成に供されるエネルギーは、例えば、印加するバイアス電圧によって調整することができるが、(220)面は(111)面よりも等価な結晶面が多いため、皮膜の結晶成長の初期において皮膜成長速度を高め、核形成を促進することで(220)配向した核を相対的に多くすることができること、また、核形成に供されるエネルギーが小さいと安定面である(100)面が成長しやすくなるため、供給されるエネルギー量を多くすることで(220)面の形成を促進することができること、さらに、結晶核の形成速度と結晶粒の成長速度を調整することによって、硬質被覆層全体としての(220)面配向性を高めることができることを見出したのである。
そして、本発明者らは、上記方法によって、硬質被覆層の(220)面配向性を高めたときには、最密面である(111)面が層厚方向に揃うようになることから、このような硬質被覆層を備えた被覆工具を切れ刃に高負荷が作用する高速切削加工に供した場合には、硬質被覆層の耐チッピング性が向上するとともに、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮することを見出したのである。
本発明は、前記の知見に基づいてなされたものであって、
「(1) WC超硬合金、TiCN基サーメット、立方晶型窒化硼素焼結体のいずれかからなる工具基体の表面に、硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
(a)前記硬質被覆層は、
組成式:(Ti1−xAlx)(CyN1−y)(但し、x、yは原子比で、0.1≦x≦0.7、0.01≦y≦0.40)を満足する平均組成を有し、かつ、0.1〜3.0μmの平均層厚を有するTiとAlの複合炭窒化物層からなり、
(b)前記硬質被覆層についてX線回折を行った場合、(220)面の回折ピーク強度が最大高さを示し、また、(220)面の回折ピークの半値幅は0.5〜3.0°であり、さらに、(220)面の回折ピーク強度をI(220)、(111)面の回折ピーク強度をI(111)としたとき、1<I(220)/I(111)≦20を満足することを特徴とする表面被覆切削工具。
(2) 前記硬質被覆層の縦断面において、該硬質被覆層を構成するTiとAlの複合炭窒化物結晶粒の形状を長方形形状に近似した場合の長辺を長径、短辺を短径とした場合、長径が1〜50nmであって、かつ、長径/短径の比の値が1〜2である前記結晶粒が、硬質被覆層の縦断面面積の60%以上の面積割合を占めることを特徴とする前記(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3) 前記硬質被覆層は、
組成式:(Ti1−xAlx)(CyN1−y)(但し、x、yは原子比で、0.1≦x≦0.5、0.01≦y≦0.40)を満足する平均組成を有するTiとAlの複合炭窒化物層からなり、
該硬質被覆層と工具基体表面との間に中間層が介在形成され、該中間層は、
組成式:(Ti1−zAlz)N(但し、zは原子比で、0.45≦z≦0.65かつ(x+0.1)≦z)を満足する平均組成を有するTiとAlの複合窒化物層からなることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具。
(4) 前記硬質被覆層中には六方晶構造のTiとAlの複合炭窒化物結晶粒が存在し、該六方晶構造のTiとAlの複合炭窒化物結晶粒は、硬質被覆層の縦断面面積の5%以下の面積割合を占めることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具。」
を特徴とするものである。
「(1) WC超硬合金、TiCN基サーメット、立方晶型窒化硼素焼結体のいずれかからなる工具基体の表面に、硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
(a)前記硬質被覆層は、
組成式:(Ti1−xAlx)(CyN1−y)(但し、x、yは原子比で、0.1≦x≦0.7、0.01≦y≦0.40)を満足する平均組成を有し、かつ、0.1〜3.0μmの平均層厚を有するTiとAlの複合炭窒化物層からなり、
(b)前記硬質被覆層についてX線回折を行った場合、(220)面の回折ピーク強度が最大高さを示し、また、(220)面の回折ピークの半値幅は0.5〜3.0°であり、さらに、(220)面の回折ピーク強度をI(220)、(111)面の回折ピーク強度をI(111)としたとき、1<I(220)/I(111)≦20を満足することを特徴とする表面被覆切削工具。
(2) 前記硬質被覆層の縦断面において、該硬質被覆層を構成するTiとAlの複合炭窒化物結晶粒の形状を長方形形状に近似した場合の長辺を長径、短辺を短径とした場合、長径が1〜50nmであって、かつ、長径/短径の比の値が1〜2である前記結晶粒が、硬質被覆層の縦断面面積の60%以上の面積割合を占めることを特徴とする前記(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3) 前記硬質被覆層は、
組成式:(Ti1−xAlx)(CyN1−y)(但し、x、yは原子比で、0.1≦x≦0.5、0.01≦y≦0.40)を満足する平均組成を有するTiとAlの複合炭窒化物層からなり、
該硬質被覆層と工具基体表面との間に中間層が介在形成され、該中間層は、
組成式:(Ti1−zAlz)N(但し、zは原子比で、0.45≦z≦0.65かつ(x+0.1)≦z)を満足する平均組成を有するTiとAlの複合窒化物層からなることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具。
(4) 前記硬質被覆層中には六方晶構造のTiとAlの複合炭窒化物結晶粒が存在し、該六方晶構造のTiとAlの複合炭窒化物結晶粒は、硬質被覆層の縦断面面積の5%以下の面積割合を占めることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具。」
を特徴とするものである。
以下、本発明の被覆工具について、より詳しく説明する。
硬質被覆層(TiとAlの複合炭窒化物層)の組成と平均層厚:
本発明のTiとAlの複合炭窒化物(以下、単に、「(Ti,Al)(C,N)」で示す場合もある。)層は、組成式:(Ti1−xAlx)(CyN1−y)(但し、x,yはそれぞれ原子比で、0.1≦x≦0.7、0.01≦y≦0.40)で表される組成を有し、かつ、0.1〜3.0μmの平均層厚を有するが、Al成分の含有割合xが、Ti成分との合量に占める原子比で0.1未満であると、層の硬さが低くまた高温耐酸化性が十分ではなく、一方、0.7を超えると、層中に混在する六方晶構造の結晶粒が増加し、硬さが低下してくることから、Ti成分との合量に占めるAl成分の含有割合xは、0.1≦x≦0.7と定めた。
また、C成分については、N成分との合量に占めるC成分の原子比yが0.01未満であると、層の硬さが十分ではなく、一方、C成分の含有割合yが0.40を超えると靭性が低下することから、N成分との合量に占めるC成分の含有割合yは、0.01≦y≦0.40と定めた。
さらに、上記(Ti,Al)(C,N)層の平均層厚が0.1μm未満であると、十分な耐摩耗性向上の効果を発揮することができず、一方、平均層厚が3.0μmを超えると、(Ti,Al)(C,N)層内の歪が大きくなり、自壊しやすくなる。
したがって、この発明では、(Ti,Al)(C,N)層の平均層厚を、0.1〜3.0μmと定めた。
なお、上記(Ti,Al)(C,N)の組成、平均層厚については、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy:SEM)、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)、エネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X−ray Spectroscopy:EDS)、オージェ電子分光法(Auger Electron Spectroscopy:AES)を用いた断面測定により、測定することができる。ここで層厚とは、工具基体表面に垂直な方向の層の厚みとし、工具基体表面とは、基体の硬質被覆層と接する面の面方向に垂直な断面の観察像における、基体と硬質被覆層の界面粗さの基準線とする。
本発明のTiとAlの複合炭窒化物(以下、単に、「(Ti,Al)(C,N)」で示す場合もある。)層は、組成式:(Ti1−xAlx)(CyN1−y)(但し、x,yはそれぞれ原子比で、0.1≦x≦0.7、0.01≦y≦0.40)で表される組成を有し、かつ、0.1〜3.0μmの平均層厚を有するが、Al成分の含有割合xが、Ti成分との合量に占める原子比で0.1未満であると、層の硬さが低くまた高温耐酸化性が十分ではなく、一方、0.7を超えると、層中に混在する六方晶構造の結晶粒が増加し、硬さが低下してくることから、Ti成分との合量に占めるAl成分の含有割合xは、0.1≦x≦0.7と定めた。
また、C成分については、N成分との合量に占めるC成分の原子比yが0.01未満であると、層の硬さが十分ではなく、一方、C成分の含有割合yが0.40を超えると靭性が低下することから、N成分との合量に占めるC成分の含有割合yは、0.01≦y≦0.40と定めた。
さらに、上記(Ti,Al)(C,N)層の平均層厚が0.1μm未満であると、十分な耐摩耗性向上の効果を発揮することができず、一方、平均層厚が3.0μmを超えると、(Ti,Al)(C,N)層内の歪が大きくなり、自壊しやすくなる。
したがって、この発明では、(Ti,Al)(C,N)層の平均層厚を、0.1〜3.0μmと定めた。
なお、上記(Ti,Al)(C,N)の組成、平均層厚については、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy:SEM)、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)、エネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X−ray Spectroscopy:EDS)、オージェ電子分光法(Auger Electron Spectroscopy:AES)を用いた断面測定により、測定することができる。ここで層厚とは、工具基体表面に垂直な方向の層の厚みとし、工具基体表面とは、基体の硬質被覆層と接する面の面方向に垂直な断面の観察像における、基体と硬質被覆層の界面粗さの基準線とする。
硬質被覆層(TiとAlの複合炭窒化物層)中に混在する六方晶構造の(Ti,Al)(C,N)結晶粒:
本発明では、硬質被覆層中に少量の六方晶構造の(Ti,Al)(C,N)結晶粒が混在することを妨げるものではないが、六方晶構造の(Ti,Al)(C,N)結晶粒の含有割合が増加すると、硬質被覆層の硬さが低下し耐摩耗性も低下することから、六方晶構造の(Ti,Al)(C,N)結晶粒の含有割合の上限は5面積%とすることが望ましい。
本発明では、硬質被覆層中に少量の六方晶構造の(Ti,Al)(C,N)結晶粒が混在することを妨げるものではないが、六方晶構造の(Ti,Al)(C,N)結晶粒の含有割合が増加すると、硬質被覆層の硬さが低下し耐摩耗性も低下することから、六方晶構造の(Ti,Al)(C,N)結晶粒の含有割合の上限は5面積%とすることが望ましい。
硬質被覆層((Ti,Al)(C,N)層)についてX線回折により求めた(220)面の回折ピークの半値幅とピーク強度比:
本発明では、硬質被覆層を蒸着形成するに際し、例えば、図1に示すアークイオンプレーティング装置を用いて成膜するが、アークイオンプレーティングに際してのアーク電流、バイアス電圧および成膜速度を調整し、皮膜初期における結晶核の形成速度と結晶粒の成長速度を制御することによって、硬質被覆層全体としての(220)面配向性を高めることができる。
そして、硬質被覆層((Ti,Al)(C,N)層)についてX線回折を行い、(220)面の回折ピーク強度をI(220)、(111)面の回折ピーク強度をI(111)とした場合、図2に例示するように、(220)面の回折ピークI(220)が最大高さを示すとともに、(220)面の回折ピークの半値幅は、0.5〜3.0°の範囲内とする。
さらに、I(220)とI(111)の回折ピーク強度比I(220)/I(111)の値は、1<I(220)/I(111)≦20とする。
これは、次のような理由による。
(220)面の回折ピークI(220)が最大高さを示さない場合、(220)面の回折ピークの半値幅が3.0°を超える場合、或いは、I(220)/I(111)が1以下である場合には、硬質被覆層の(220)配向度が低いため、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を十分に発揮できないという理由による。
一方、(220)面の回折ピークの半値幅が0.5°未満である場合、または、I(220)/I(111)が20を超える場合には、結晶粒が粗大化しやすくなり、その結果、皮膜中の結晶粒界が少なくなり、切削時に硬質被覆層中に生じたクラックが硬質被覆層を貫きやすく、すぐれた耐チッピング性が得られなくなるためである。
本発明では、硬質被覆層を蒸着形成するに際し、例えば、図1に示すアークイオンプレーティング装置を用いて成膜するが、アークイオンプレーティングに際してのアーク電流、バイアス電圧および成膜速度を調整し、皮膜初期における結晶核の形成速度と結晶粒の成長速度を制御することによって、硬質被覆層全体としての(220)面配向性を高めることができる。
そして、硬質被覆層((Ti,Al)(C,N)層)についてX線回折を行い、(220)面の回折ピーク強度をI(220)、(111)面の回折ピーク強度をI(111)とした場合、図2に例示するように、(220)面の回折ピークI(220)が最大高さを示すとともに、(220)面の回折ピークの半値幅は、0.5〜3.0°の範囲内とする。
さらに、I(220)とI(111)の回折ピーク強度比I(220)/I(111)の値は、1<I(220)/I(111)≦20とする。
これは、次のような理由による。
(220)面の回折ピークI(220)が最大高さを示さない場合、(220)面の回折ピークの半値幅が3.0°を超える場合、或いは、I(220)/I(111)が1以下である場合には、硬質被覆層の(220)配向度が低いため、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を十分に発揮できないという理由による。
一方、(220)面の回折ピークの半値幅が0.5°未満である場合、または、I(220)/I(111)が20を超える場合には、結晶粒が粗大化しやすくなり、その結果、皮膜中の結晶粒界が少なくなり、切削時に硬質被覆層中に生じたクラックが硬質被覆層を貫きやすく、すぐれた耐チッピング性が得られなくなるためである。
硬質被覆層((Ti,Al)(C,N)層)を構成する(Ti,Al)(C,N)結晶粒の長径、長径/短径、面積割合:
本発明では、図3に示すように、硬質被覆層((Ti,Al)(C,N)層)を構成する(Ti,Al)(C,N)結晶粒について、その形状を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察測定し、長方形形状に近似した場合の長辺を長径、短辺を短径とした場合、長径が1〜50nmであって、かつ、長径/短径の比の値が1〜2である(Ti,Al)(C,N)結晶粒が、硬質被覆層の縦断面面積の60%以上の面積割合を占める場合に、硬質被覆層は、よりすぐれた耐チッピング性を示す。
これは、硬質被覆層を形成する結晶粒の長径が1〜50nmであって、かつ、長径/短径の比の値が1〜2であることにより、硬質被覆層内の結晶粒界が増加するため、切削時に硬質被覆層中に生じたクラックの進展方向が分散され、硬質被覆層を貫きにくくなるという理由による。
本発明では、図3に示すように、硬質被覆層((Ti,Al)(C,N)層)を構成する(Ti,Al)(C,N)結晶粒について、その形状を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察測定し、長方形形状に近似した場合の長辺を長径、短辺を短径とした場合、長径が1〜50nmであって、かつ、長径/短径の比の値が1〜2である(Ti,Al)(C,N)結晶粒が、硬質被覆層の縦断面面積の60%以上の面積割合を占める場合に、硬質被覆層は、よりすぐれた耐チッピング性を示す。
これは、硬質被覆層を形成する結晶粒の長径が1〜50nmであって、かつ、長径/短径の比の値が1〜2であることにより、硬質被覆層内の結晶粒界が増加するため、切削時に硬質被覆層中に生じたクラックの進展方向が分散され、硬質被覆層を貫きにくくなるという理由による。
中間層(TiとAlの複合窒化物層)の組成:
本発明では、前記硬質被覆層((Ti,Al)(C,N)層)と工具基体表面との間に、組成式:(Ti1−zAlz)N(但し、zは原子比で、0.45≦z≦0.65かつ(x+0.1)≦z)で表される組成を有するTiとAlの複合窒化物(以下、単に、「(Ti,Al)N」で示す場合もある。)層を中間層として介在形成することによって、(Ti,Al)(C,N)層と工具基体との密着性を高めることができる。
ここで、(Ti,Al)Nからなる中間層におけるAlの含有割合zが、Ti成分との合量に占める割合で0.45未満になると結晶粒が粗大化しやすくなり、一方、Ti成分との合量に占める割合で0.65を超えると、硬さが低下する。
また、(Ti,Al)Nからなる中間層におけるAlの含有割合zと、前記硬質被覆層((Ti,Al)(C,N)層)におけるAlの含有割合xとを比較した場合、(x+0.1)≦zとすることが望ましい。
これは、(Ti,Al)N層におけるAlの含有割合が(Ti,Al)(C,N)層におけるAlの含有割合に対して小さいと、(Ti,Al)N層の結晶粒径が(Ti,Al)(C,N)層の結晶粒径に対して相対的に粗大になりやすいため、(Ti,Al)(C,N)層の結晶粒径の制御が困難になるという理由による。
以上のことから、中間層におけるTi成分との合量に占めるAl成分の含有割合zは、0.45≦z≦0.65かつ(x+0.1)≦zとすることが望ましい。
なお、上記中間層の平均層厚が0.1μm未満であると、クラックの発生および進展を抑制する効果が十分でなく、一方、中間層の平均層厚が1.0μmを超えると、中間層の(Ti,Al)N結晶粒が粗大化しやすくなり、耐チッピング性向上効果が得られなくなることから、中間層の平均層厚は0.1〜1.0μmとすることが望ましい。
なお、上記中間層((Ti,Al)N層)の組成、平均層厚についても、(Ti,Al)(C,N)層の場合と同様に、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy:SEM)、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)、エネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X−ray Spectroscopy:EDS)、オージェ電子分光法(Auger Electron Spectroscopy:AES)を用いた断面測定により、測定することができる。
本発明では、前記硬質被覆層((Ti,Al)(C,N)層)と工具基体表面との間に、組成式:(Ti1−zAlz)N(但し、zは原子比で、0.45≦z≦0.65かつ(x+0.1)≦z)で表される組成を有するTiとAlの複合窒化物(以下、単に、「(Ti,Al)N」で示す場合もある。)層を中間層として介在形成することによって、(Ti,Al)(C,N)層と工具基体との密着性を高めることができる。
ここで、(Ti,Al)Nからなる中間層におけるAlの含有割合zが、Ti成分との合量に占める割合で0.45未満になると結晶粒が粗大化しやすくなり、一方、Ti成分との合量に占める割合で0.65を超えると、硬さが低下する。
また、(Ti,Al)Nからなる中間層におけるAlの含有割合zと、前記硬質被覆層((Ti,Al)(C,N)層)におけるAlの含有割合xとを比較した場合、(x+0.1)≦zとすることが望ましい。
これは、(Ti,Al)N層におけるAlの含有割合が(Ti,Al)(C,N)層におけるAlの含有割合に対して小さいと、(Ti,Al)N層の結晶粒径が(Ti,Al)(C,N)層の結晶粒径に対して相対的に粗大になりやすいため、(Ti,Al)(C,N)層の結晶粒径の制御が困難になるという理由による。
以上のことから、中間層におけるTi成分との合量に占めるAl成分の含有割合zは、0.45≦z≦0.65かつ(x+0.1)≦zとすることが望ましい。
なお、上記中間層の平均層厚が0.1μm未満であると、クラックの発生および進展を抑制する効果が十分でなく、一方、中間層の平均層厚が1.0μmを超えると、中間層の(Ti,Al)N結晶粒が粗大化しやすくなり、耐チッピング性向上効果が得られなくなることから、中間層の平均層厚は0.1〜1.0μmとすることが望ましい。
なお、上記中間層((Ti,Al)N層)の組成、平均層厚についても、(Ti,Al)(C,N)層の場合と同様に、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy:SEM)、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)、エネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X−ray Spectroscopy:EDS)、オージェ電子分光法(Auger Electron Spectroscopy:AES)を用いた断面測定により、測定することができる。
本発明の被覆工具は、工具基体表面に、(220)面配向性を高めた(Ti,Al)(C,N)層からなる硬質被覆層を形成し、該硬質被覆層についてX線回折を行った場合、(220)面の回折ピーク強度が最大高さを示し、また、(220)面の回折ピークの半値幅は0.5〜3.0°であり、さらに、(220)面の回折ピーク強度I(220)と(111)面の回折ピーク強度I(111)について、1<I(220)/I(111)≦20を満足する回折ピーク強度比を有することから、炭素鋼、合金鋼等の切れ刃に高負荷が作用する高速切削加工において、チッピング、欠損、剥離等の異常損傷の発生を招くことなく、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮するのである。
つぎに、本発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
なお、具体的な説明としては、cBN基体からなる被覆工具、超硬合金基体からなる被覆工具について説明するが、TiCN基サーメットを工具基体とする被覆工具についても同様である。
なお、具体的な説明としては、cBN基体からなる被覆工具、超硬合金基体からなる被覆工具について説明するが、TiCN基サーメットを工具基体とする被覆工具についても同様である。
工具基体の作製:
原料粉末として、平均粒径が1〜4μmのcBN粒子を硬質相形成用原料粉末として、また、TiN粉末、TiCN粉末、Al粉末、AlN粉末、Al2O3粉末を結合相形成用原料粉末として用意する。
これら中からいくつかの原料粉末とcBN粉末の合量を100体積%としたときのcBN粒子の含有割合が50容量%となるように表1に示される配合比で配合する。
次いで、この原料粉末をボールミルで72時間湿式混合し、乾燥した後、成形圧100MPaで直径:50mm×厚さ:1.5mmの寸法にプレス成形し、ついでこの成形体を、圧力:1Pa以下の真空雰囲気中、900〜1300℃の範囲内の所定温度に保持して仮焼結し、その後、超高圧焼結装置に装入して、圧力:5GPa、温度:1200〜1400℃の範囲内の所定の温度で焼結することにより、cBN基焼結体を作製する。
この焼結体をワイヤー放電加工機で所定寸法に切断し、Co:5質量%、TaC:5質量%、WC:残りの組成およびISO規格CNGA120408のインサート形状をもったWC基超硬合金製インサート本体のろう付け部(コーナー部)に、質量%で、Cu:26%、Ti:5%、Ag:残りからなる組成を有するAg系ろう材を用いてろう付けし、上下面および外周研磨、ホーニング処理を施すことによりISO規格CNGA120408のインサート形状をもったcBN工具基体1〜3を製造した。
原料粉末として、平均粒径が1〜4μmのcBN粒子を硬質相形成用原料粉末として、また、TiN粉末、TiCN粉末、Al粉末、AlN粉末、Al2O3粉末を結合相形成用原料粉末として用意する。
これら中からいくつかの原料粉末とcBN粉末の合量を100体積%としたときのcBN粒子の含有割合が50容量%となるように表1に示される配合比で配合する。
次いで、この原料粉末をボールミルで72時間湿式混合し、乾燥した後、成形圧100MPaで直径:50mm×厚さ:1.5mmの寸法にプレス成形し、ついでこの成形体を、圧力:1Pa以下の真空雰囲気中、900〜1300℃の範囲内の所定温度に保持して仮焼結し、その後、超高圧焼結装置に装入して、圧力:5GPa、温度:1200〜1400℃の範囲内の所定の温度で焼結することにより、cBN基焼結体を作製する。
この焼結体をワイヤー放電加工機で所定寸法に切断し、Co:5質量%、TaC:5質量%、WC:残りの組成およびISO規格CNGA120408のインサート形状をもったWC基超硬合金製インサート本体のろう付け部(コーナー部)に、質量%で、Cu:26%、Ti:5%、Ag:残りからなる組成を有するAg系ろう材を用いてろう付けし、上下面および外周研磨、ホーニング処理を施すことによりISO規格CNGA120408のインサート形状をもったcBN工具基体1〜3を製造した。
中間層、硬質被覆層の成膜:
前記工具基体1〜3に対して、図1に示すアークイオンプレーティング装置を用いて、中間層、硬質被覆層を形成した。
なお、図1のTi−Al合金ターゲットとしては、目標とする(Ti,Al)N層に応じて、組成の異なる複数のTi−Al合金ターゲットを装置内に配備する。
(a)工具基体1〜3を、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、アークイオンプレーティング装置内の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部にそって装着する。また、カソード電極(蒸発源)として、所定組成のTi−Al合金ターゲットを配置する。
(b)まず、装置内を排気して10−2Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、0.5〜2.0PaのArガス雰囲気に設定し、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−200〜−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、もって工具基体表面をアルゴンイオンによって5〜30分間ボンバード処理する。
(c)ついで、中間層((Ti,Al)N層)の成膜を、次のとおり行う。
装置内に反応ガスを導入して表2に示す所定の反応雰囲気とすると共に、同じく表2に示す装置内温度に維持し、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に表2に示す所定の直流バイアス電圧を印加し、かつ、前記所定組成のTi−Al合金ターゲットからなるカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間に表2に示す所定の電流を同時に所定時間流してアーク放電を発生させ、前記工具基体の表面に、表4に示される目標組成、目標平均層厚の(Ti,Al)N層からなる中間層を蒸着形成した。
(d)次に、硬質被覆層((Ti,Al)(C,N)層)の成膜を、次のとおり行う。
装置内に反応ガスとして窒素ガスとメタンガスの混合ガスを使用し、流量比を制御した窒素ガスとメタンガスを導入して表2に示す所定の反応雰囲気とすると共に、同じく表2に示す装置内温度に維持し、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に表2に示す所定の直流バイアス電圧を印加し、かつ、前記所定組成のTi−Al合金ターゲットからなるカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間に表2に示す所定の電流を同時に所定時間流してアーク放電を発生させ、前記工具基体の表面に、表4に示される目標組成、目標平均層厚の(Ti,Al)(C,N)層を蒸着形成した。本発明の硬質被覆層を形成するにあたっては、結晶成長の初期において成長速度を高め、核形成を促進することで(220)配向した核を相対的に多くし、かつ核形成に供給されるエネルギー量を多くして(220)面の形成を促進し、さらに、結晶核の形成速度と結晶粒の成長速度を調整することで硬質被覆層全体として(220)面配向性を高めることができる。ここで、核形成に供給されるエネルギーおよび結晶核の形成速度、結晶粒の成長速度は、例えば成膜時のバイアス電圧やアーク電流などによって制御できる。一定の成膜条件でも本発明の硬質被覆層を形成することは可能であるが、表2に示すように、例えば成膜中にアーク電流を変化させ、硬質被覆層の形成中に結晶成長速度を調整することでより(220)面配向性を高めることができる。また、中間層を形成する場合には、硬質被覆層の形成中に結晶成長速度を調整する代わりに、中間層と硬質被覆層の結晶成長速度を調整することで、同様に硬質被覆層の(220)面配向性を高めることが可能である。
上記の(a)〜(d)によって、(Ti,Al)N層からなる中間層を介在形成し、或いは、介在させることなく、(Ti,Al)(C,N)層からなる硬質被覆層を蒸着形成し、表4に示す本発明被覆工具(以下、「本発明工具」という)1〜10を作製した。
なお、中間層の形成は、本発明工具7〜10について行った。
前記工具基体1〜3に対して、図1に示すアークイオンプレーティング装置を用いて、中間層、硬質被覆層を形成した。
なお、図1のTi−Al合金ターゲットとしては、目標とする(Ti,Al)N層に応じて、組成の異なる複数のTi−Al合金ターゲットを装置内に配備する。
(a)工具基体1〜3を、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、アークイオンプレーティング装置内の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部にそって装着する。また、カソード電極(蒸発源)として、所定組成のTi−Al合金ターゲットを配置する。
(b)まず、装置内を排気して10−2Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、0.5〜2.0PaのArガス雰囲気に設定し、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−200〜−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、もって工具基体表面をアルゴンイオンによって5〜30分間ボンバード処理する。
(c)ついで、中間層((Ti,Al)N層)の成膜を、次のとおり行う。
装置内に反応ガスを導入して表2に示す所定の反応雰囲気とすると共に、同じく表2に示す装置内温度に維持し、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に表2に示す所定の直流バイアス電圧を印加し、かつ、前記所定組成のTi−Al合金ターゲットからなるカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間に表2に示す所定の電流を同時に所定時間流してアーク放電を発生させ、前記工具基体の表面に、表4に示される目標組成、目標平均層厚の(Ti,Al)N層からなる中間層を蒸着形成した。
(d)次に、硬質被覆層((Ti,Al)(C,N)層)の成膜を、次のとおり行う。
装置内に反応ガスとして窒素ガスとメタンガスの混合ガスを使用し、流量比を制御した窒素ガスとメタンガスを導入して表2に示す所定の反応雰囲気とすると共に、同じく表2に示す装置内温度に維持し、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に表2に示す所定の直流バイアス電圧を印加し、かつ、前記所定組成のTi−Al合金ターゲットからなるカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間に表2に示す所定の電流を同時に所定時間流してアーク放電を発生させ、前記工具基体の表面に、表4に示される目標組成、目標平均層厚の(Ti,Al)(C,N)層を蒸着形成した。本発明の硬質被覆層を形成するにあたっては、結晶成長の初期において成長速度を高め、核形成を促進することで(220)配向した核を相対的に多くし、かつ核形成に供給されるエネルギー量を多くして(220)面の形成を促進し、さらに、結晶核の形成速度と結晶粒の成長速度を調整することで硬質被覆層全体として(220)面配向性を高めることができる。ここで、核形成に供給されるエネルギーおよび結晶核の形成速度、結晶粒の成長速度は、例えば成膜時のバイアス電圧やアーク電流などによって制御できる。一定の成膜条件でも本発明の硬質被覆層を形成することは可能であるが、表2に示すように、例えば成膜中にアーク電流を変化させ、硬質被覆層の形成中に結晶成長速度を調整することでより(220)面配向性を高めることができる。また、中間層を形成する場合には、硬質被覆層の形成中に結晶成長速度を調整する代わりに、中間層と硬質被覆層の結晶成長速度を調整することで、同様に硬質被覆層の(220)面配向性を高めることが可能である。
上記の(a)〜(d)によって、(Ti,Al)N層からなる中間層を介在形成し、或いは、介在させることなく、(Ti,Al)(C,N)層からなる硬質被覆層を蒸着形成し、表4に示す本発明被覆工具(以下、「本発明工具」という)1〜10を作製した。
なお、中間層の形成は、本発明工具7〜10について行った。
比較のため、前記工具基体1〜3に対して、表3に示す条件で(Ti,Al)N層を蒸着形成し、あるいは、蒸着形成せず、表3に示す条件で(Ti,Al)(C,N)層を蒸着することにより、表5に示す比較例被覆工具(以下、「比較例工具」という)1〜10を作製した。
なお、中間層の形成は、比較例工具7〜10について行った。
なお、中間層の形成は、比較例工具7〜10について行った。
上記で作製した本発明工具1〜10および比較例工具1〜10の工具基体表面に垂直な硬質被覆層の縦断面について、工具基体表面に平行な方向の幅が10μmであり、硬質被覆層の厚み領域が全て含まれるよう設定された視野について、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いた断面測定により、(Ti,Al)(C,N)層の組成、層厚を複数箇所で測定し、これを平均することにより、平均組成、平均層厚を算出した。
また、中間層を介在形成した本発明工具7〜10および比較例工具7〜10については、(Ti,Al)Nからなる中間層の平均組成、平均層厚を、上記と同様にして算出した。
また、中間層を介在形成した本発明工具7〜10および比較例工具7〜10については、(Ti,Al)Nからなる中間層の平均組成、平均層厚を、上記と同様にして算出した。
次に、硬質被覆層の回折ピーク強度I(220)、I(111)を、Cr管球を用いたX線回折によって測定し、(220)面の回折ピークの半値幅を算出するとともに、I(220)とI(111)の比の値(I(220)/I(111))を求めた。
なお、図2に、本発明工具1について測定したX線回折チャートを示す。
なお、図2に、本発明工具1について測定したX線回折チャートを示す。
次に、硬質被覆層の(Ti,Al)(C,N)結晶粒の形状を長方形形状に近似し、長径の値、長径と短径の比の値、および長径が1〜50nmであって、かつ、長径/短径の比の値が1〜2である結晶粒が、硬質被覆層の縦断面面積に占める面積割合を測定した。ここで、硬質被覆層の(Ti,Al)(C,N)結晶粒の形状を長方形形状に近似する方法について以下に記す。まず、走査型電子顕微鏡(SEM)および透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた断面観察により、視野内の全粒子の形状を決定した。次に各粒子の形状における最大長さを決定し、これを長径とした。そして各結晶粒の形状を、前述する長径を長辺とし、かつ面積が等価となるような長方形形状に近似し、長方形形状に近似した時の短辺を短径と定めた。以上の手順により、硬質被覆層の(Ti,Al)(C,N)結晶粒の長径の値、長径と短径の比の値、および長径が1〜50nmであって、かつ、長径/短径の比の値が1〜2である結晶粒が、硬質被覆層の縦断面面積に占める面積割合を測定した。また、視野内の各結晶粒子に関して透過型電子顕微鏡(TEM)による電子線回折から結晶構造を同定し、六方晶構造のTiとAlの複合炭窒化物結晶粒の占める面積割合を算出した。
表4、表5に、上記で求めた各種の値を示す。
次いで、本発明工具1〜10および比較例工具1〜10について、
切削条件A:
被削材:JIS・SCr420の浸炭焼入れ材(HRC60)の長さ方向等間隔8本縦溝入り丸棒、
切削速度:150 m/min.、
切り込み:0.2 mm、
送り:0.15 mm、
の乾式連続切削条件で切削試験を行い、切削長450mまで切削し、刃先チッピングの有無を確認し、逃げ面摩耗幅を測定した。
表6にその結果を示す。
切削条件A:
被削材:JIS・SCr420の浸炭焼入れ材(HRC60)の長さ方向等間隔8本縦溝入り丸棒、
切削速度:150 m/min.、
切り込み:0.2 mm、
送り:0.15 mm、
の乾式連続切削条件で切削試験を行い、切削長450mまで切削し、刃先チッピングの有無を確認し、逃げ面摩耗幅を測定した。
表6にその結果を示す。
工具基体の作製::
原料粉末として、Co粉末、VC粉末、Cr3C2粉末、TiC粉末、TaC粉末、NbC粉末、WC粉末を用意し、これら原料粉末を、表7に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてボールミルで72時間湿式混合し、減圧乾燥した後、100MPaの圧力でプレス成形し、これらの圧粉成形体を焼結し、所定寸法となるように加工して、ISO規格SEEN1203AFTN1のインサート形状をもったWC基超硬合金工具基体11〜13を
製造した。
原料粉末として、Co粉末、VC粉末、Cr3C2粉末、TiC粉末、TaC粉末、NbC粉末、WC粉末を用意し、これら原料粉末を、表7に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてボールミルで72時間湿式混合し、減圧乾燥した後、100MPaの圧力でプレス成形し、これらの圧粉成形体を焼結し、所定寸法となるように加工して、ISO規格SEEN1203AFTN1のインサート形状をもったWC基超硬合金工具基体11〜13を
製造した。
成膜工程:
前記WC基超硬合金工具基体11〜13に対して、図1に示したようなアークイオンプレーティング装置を用いて、実施例1の場合と同様にして、表8示す条件で(Ti,Al)N層からなる中間層、同じく表8に示す条件で(Ti,Al)(C,N)層からなる硬質被覆層を蒸着形成することにより、表10に示す本発明被覆工具(「本発明工具」という)11〜20を作製した。
なお、中間層の形成は、本発明工具17〜20について行った。
前記WC基超硬合金工具基体11〜13に対して、図1に示したようなアークイオンプレーティング装置を用いて、実施例1の場合と同様にして、表8示す条件で(Ti,Al)N層からなる中間層、同じく表8に示す条件で(Ti,Al)(C,N)層からなる硬質被覆層を蒸着形成することにより、表10に示す本発明被覆工具(「本発明工具」という)11〜20を作製した。
なお、中間層の形成は、本発明工具17〜20について行った。
比較のため、上記工具基体11〜13に対して、比較例工具1〜10と同様に、表9に示す条件で(Ti,Al)N層からなる中間層、同じく表9に示す条件で(Ti,Al)(C,N)層からなる硬質被覆層を蒸着形成することにより、表11に示す比較例被覆工具(「比較例工具」という)11〜20を作製した。
なお、中間層の形成は、比較例工具17〜20について行った。
なお、中間層の形成は、比較例工具17〜20について行った。
上記で作製した本発明工具11〜20および比較例工具11〜20について、実施例1と同様にして、(Ti,Al)N層からなる中間層、(Ti,Al)(C,N)層からなる硬質被覆層の平均組成、平均層厚を算出した。
さらに、(Ti,Al)(C,N)層からなる硬質被覆層について、実施例1と同様にして、回折ピーク強度比I(220)、I(111)を測定し、(220)面の回折ピークの半値幅を算出するとともに、I(220)とI(111)の比の値(I(220)/I(111))を求めた。
また、硬質被覆層の(Ti,Al)(C,N)結晶粒について、実施例1と同様にして、長径の値、長径と短径の比の値(長径/短径)を求め、次いで、長径が1〜50nmであって、かつ、長径/短径の比の値が1〜2である結晶粒が、硬質被覆層の縦断面面積に占める面積割合を測定した。
表10、表11に、上記で求めた各種の値を示す。
さらに、(Ti,Al)(C,N)層からなる硬質被覆層について、実施例1と同様にして、回折ピーク強度比I(220)、I(111)を測定し、(220)面の回折ピークの半値幅を算出するとともに、I(220)とI(111)の比の値(I(220)/I(111))を求めた。
また、硬質被覆層の(Ti,Al)(C,N)結晶粒について、実施例1と同様にして、長径の値、長径と短径の比の値(長径/短径)を求め、次いで、長径が1〜50nmであって、かつ、長径/短径の比の値が1〜2である結晶粒が、硬質被覆層の縦断面面積に占める面積割合を測定した。
表10、表11に、上記で求めた各種の値を示す。
次いで、本発明工具11〜20および比較例工具11〜20について、以下の切削条件Bで、単刃の高速正面フライス切削試験を実施した。
切削条件B:
被削材:JIS・S45Cのブロック材(幅60mm×長さ300mm)、
切削速度:280 m/min.、
回転速度:713 rev/min、
切り込み:1.6 mm、
送り:0.10 mm/刃、
切削幅:60 mm
の条件で、切削長1300mまで切削し、逃げ面摩耗幅を測定した。
表12にその結果を示す。
切削条件B:
被削材:JIS・S45Cのブロック材(幅60mm×長さ300mm)、
切削速度:280 m/min.、
回転速度:713 rev/min、
切り込み:1.6 mm、
送り:0.10 mm/刃、
切削幅:60 mm
の条件で、切削長1300mまで切削し、逃げ面摩耗幅を測定した。
表12にその結果を示す。
表6の結果によれば、本発明工具1〜10の逃げ面摩耗幅の平均は約0.11mm、また、表12の結果によれば、本発明工具11〜20の逃げ面摩耗幅の平均は約0.15 mmであるのに対して、比較例工具1〜10、11〜20は逃げ面摩耗が進行し、また、短時間でチッピング発生を原因とする寿命となるものも生じた。
この結果から、本発明工具は、比較例工具に比して、耐チッピング性とともに耐摩耗性においてもすぐれていることが分かる。
この結果から、本発明工具は、比較例工具に比して、耐チッピング性とともに耐摩耗性においてもすぐれていることが分かる。
本発明の表面被覆切削工具は、各種の鋼などの通常の切削条件での切削加工は勿論のこと、特に高熱発生を伴うとともに、切刃部に対して大きな負荷がかかる炭素鋼、合金鋼などの高速切削加工においても、すぐれた耐チッピング性および耐摩耗性を発揮し、長期に亘ってすぐれた切削性能を示すものであるから、切削加工装置の高性能化、並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
Claims (4)
- WC超硬合金、TiCN基サーメット、立方晶型窒化硼素焼結体のいずれかからなる工具基体の表面に、硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
(a)前記硬質被覆層は、
組成式:(Ti1−xAlx)(CyN1−y)(但し、x、yは原子比で、0.1≦x≦0.7、0.01≦y≦0.40)を満足する平均組成を有し、かつ、0.1〜3.0μmの平均層厚を有するTiとAlの複合炭窒化物層からなり、
(b)前記硬質被覆層についてX線回折を行った場合、(220)面の回折ピーク強度が最大高さを示し、また、(220)面の回折ピークの半値幅は0.5〜3.0°であり、さらに、(220)面の回折ピーク強度をI(220)、(111)面の回折ピーク強度をI(111)としたとき、1<I(220)/I(111)≦20を満足することを特徴とする表面被覆切削工具。 - 前記硬質被覆層の縦断面において、該硬質被覆層を構成するTiとAlの複合炭窒化物結晶粒の形状を測定し、長方形形状に近似した場合の長辺を長径、短辺を短径とした場合、長径が1〜50nmであって、かつ、長径/短径の比の値が1〜2である前記結晶粒が、硬質被覆層の縦断面面積の60%以上の面積割合を占めることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
- 前記硬質被覆層は、
組成式:(Ti1−xAlx)(CyN1−y)(但し、x、yは原子比で、0.1≦x≦0.5、0.01≦y≦0.40)を満足する平均組成を有するTiとAlの複合炭窒化物層からなり、
該硬質被覆層と工具基体表面との間に中間層が介在形成され、該中間層は、
組成式:(Ti1−zAlz)N(但し、zは原子比で、0.45≦z≦0.65かつ(x+0.1)≦z)を満足する平均組成を有するTiとAlの複合窒化物層からなることを特徴とする請求項1または2に記載の表面被覆切削工具。 - 前記硬質被覆層中には六方晶構造のTiとAlの複合炭窒化物結晶粒が存在し、該六方晶構造のTiとAlの複合炭窒化物結晶粒は、硬質被覆層の縦断面面積の5%以下の面積割合を占めることを特徴とする請求項1または2に記載の表面被覆切削工具。
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-
2014
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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CN109975339A (zh) * | 2017-12-28 | 2019-07-05 | 厦门钨业股份有限公司 | 一种TiCN基金属陶瓷性能的评估方法 |
CN109975339B (zh) * | 2017-12-28 | 2023-08-15 | 厦门钨业股份有限公司 | 一种TiCN基金属陶瓷性能的评估方法 |
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