JP5182501B2 - 硬質被覆層がすぐれた耐欠損性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents
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Description
(a)上記の従来被覆工具は、例えば図3に概略説明図で示される物理蒸着装置の1種であるアークイオンプレーティング(AIP)装置に上記の工具基体を装着し、
装置内加熱温度:300〜500℃、
超硬基体に印加する直流バイアス電圧:−60〜−100V、
カソード電極:Al−Ti合金、
上記カソード電極とアノード電極間のアーク放電電流:60〜100A、
装置内窒素ガス圧力:1〜6Pa、
の条件(以下、通常条件という)で、硬質被覆層として上記の組成式:(Al1−X TiX )N(ただし、原子比で、Xは0.40〜0.60)を満足(Al,Ti)N層[以下、従来(Al,Ti)N層という]を形成することにより製造される。
しかし、前記(Al,Ti)N層の形成を、例えば図2に概略説明図で示される物理蒸着装置の1種である圧力勾配型Arプラズマガンを利用したイオンプレーティング装置に上記の工具基体を装着し、
工具基体温度: 350〜500 ℃、
蒸発源:金属Al−Ti合金、
プラズマガン放電電力: 3〜8 kW、
窒素ガス流量: 50〜70 sccm、
装置内ガス圧力: 0.04〜0.08 Pa、
工具基体に印加する直流バイアス電圧: +5〜+10 V
の条件で、かつ、プラズマアシスト用のArプラズマガン放電電力を2〜4.5kWとし、基板にプラズマを照射して蒸着粒子のイオン化率を上げて蒸着を行うと、この結果形成された(Al,Ti)N層[以下、改質(Al,Ti)N層という]は、前記従来(Al,Ti)N層に比し、高切り込み、高送りという厳しい切削条件の重切削加工において、すぐれた耐欠損性を示すこと。
さらに、前記表面研磨面の法線方向に対して0〜15度の範囲内に、結晶方位<110>が存在する結晶粒の面積割合、また、結晶粒界の角度分布における小角粒界の割合は、基体の温度、バイアス電圧、窒素ガス流量、プラズマアシスト条件によって変化すること。
基体の温度: 350〜500 ℃
バイアス電圧: +5〜+10 V
窒素ガス流量: 50〜70 sccm
プラズマガン放電電力: 3〜8 kW
プラズマアシスト条件:Arプラズマガンの放電電力 2〜4.5kW
のように調整すると、表面研磨面の法線に対して0〜15度の範囲内に結晶方位<110>が存在する結晶粒の面積割合が結晶粒全面積の50%以上を占め、また、結晶粒界の角度分布において、0<θ≦15°の割合が全粒界の50%以上を占めるという結晶配列を示すようになり、このような結晶配列を示す改質(Al,Ti)N層を硬質被覆層として形成してなる被覆工具は、重切削加工において長期に亘ってすぐれた耐欠損性、耐摩耗性を発揮するようになること。
以上(a)〜(c)に示される研究結果を得たのである。
「 超硬合金、サーメットあるいは立方晶窒化ほう素基超高圧焼結体からなる切削工具基体の表面に、1〜10μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Al1−X TiX )N
で表した場合、Xは0.40〜0.60(ただし、原子比)を満足するAlとTiの複合窒化物層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
上記Tiの炭窒化物層について、電子線後方散乱回折装置を用いて個々の結晶粒の結晶方位を解析した場合、
(a)表面研磨面の法線方向に対する前記結晶粒の結晶方位<110>がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、法線方向に対して0〜55度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計したとき、0〜15度の範囲内の傾斜角区分に結晶方位<110>が存在する結晶粒の面積割合が結晶粒全面積の50%以上である結晶配向を示し、
(b)結晶粒界を構成する隣り合う結晶粒同士のなす角を測定した場合、前記なす角が0度を超え15度以下である小角粒界の割合が全粒界の50%以上を示し、
上記(a)、(b)を同時に満たすAlとTiの複合窒化物層からなる硬質被覆層を蒸着形成したことを特徴とする表面被覆切削工具(被覆工具)。」
に特徴を有するものである。
基体の温度: 350〜500 ℃
バイアス電圧: +5〜+10 V
窒素ガス流量: 50〜70 sccm
プラズマアシスト条件:Arプラズマガンの放電電力 2〜4.5 kW
とすることによって、改質(Al,Ti)N層の表面研磨面の法線に対して0〜15度の範囲内に結晶方位<110>が存在する結晶粒の面積割合が結晶粒全面積の50%以上を占め、また、結晶粒界の角度分布において、0°<θ≦15°の割合が全粒界の50%以上を占めるという結晶配列を示す改質(Al,Ti)N層を得られる、という結論に達したものであり、したがって、法線に対して0〜15度の範囲内に結晶方位<110>が存在する結晶粒の面積割合が50%未満、あるいは、結晶粒界の角度分布において、0°<θ≦15°の割合が全粒界の50%未満となった場合には、(Al,Ti)N層に前記の結晶配列を付与することはできず、その結果、被覆工具にすぐれた耐欠損性を期待することはできない。
被削材:JIS・SNCM439の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 185 m/min.、
切り込み: 3.2 mm、
送り: 0.34 mm/rev.、
切削時間: 3 分、
の条件(切削条件A1という)での合金鋼の乾式断続重切削加工試験(通常の切り込み及び送りは、それぞれ、1.2mm、0.20mm/rev.)、
被削材:JIS・S45Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 245 m/min.、
切り込み: 3.2 mm、
送り: 0.34 mm/rev.、
切削時間: 3 分、
の条件(切削条件A2という)での炭素鋼の乾式断続重切削加工試験(通常の切り込み及び送りは、それぞれ、1.2mm、0.18mm/rev.)、
被削材:JIS・SUS304の丸棒、
切削速度: 185 m/min.、
切り込み: 2.6 mm、
送り: 0.25 mm/rev.、
切削時間: 8 分、
の条件(切削条件A3という)でのステンレス鋼の乾式連続重切削加工試験(通常の切り込み及び送りは、それぞれ、2.0mm、0.20mm/rev.)、
を行い、いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
被削材:JIS・SNCM439の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 215 m/min.、
切り込み: 1.6 mm、
送り: 0.23 mm/rev.、
切削時間: 2 分、
の条件(切削条件A4という)での合金鋼の乾式断続重切削加工試験(通常の切り込み及び送りは、それぞれ、1.0mm、0.12mm/rev.)、
被削材:JIS・S45Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 235 m/min.、
切り込み: 1.5 mm、
送り: 0.23 mm/rev.、
切削時間: 2 分、
の条件(切削条件A5という)での炭素鋼の乾式断続重切削加工試験(通常の切り込み及び送りは、それぞれ、1.0mm、0.10mm/rev.)、
被削材:JIS・SUS304の丸棒、
切削速度: 215 m/min.、
切り込み: 2 mm、
送り: 0.32 mm/rev.、
切削時間: 8 分、
の条件(切削条件A6という)でのステンレス鋼の乾式連続重切削加工試験(通常の切り込み及び送りは、それぞれ、1.2mm、0.15mm/rev.)、
を行い、いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
上記切削加工試験A1〜A6の測定結果を表5に示した。
[切削条件B1]
被削材:JIS・SCr420の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 180 m/min.、
切り込み: 0.32 mm、
送り: 0.23 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件でのクロム鋼の焼入れ材の乾式断続重切削加工試験(通常の切り込み及び送りは、それぞれ、0.10mm、0.10mm/rev.)、
[切削条件B2]
被削材:JIS・SUJ2の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 145 m/min.、
切り込み: 0.23 mm、
送り: 0.21 mm/rev.、
切削時間: 4 分、
の条件での軸受鋼の焼入れ材の乾式断続重切削加工試験(通常の切り込み及び送りは、それぞれ、0.15mm、0.10mm/rev.)、
[切削条件B3]
被削材:JIS・SKD61の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 170 m/min.、
切り込み: 0.21 mm、
送り: 0.22 mm/rev.、
切削時間: 4 分、
の条件でのダイス鋼の焼入れ材の乾式断続重切削加工試験(通常の切り込み及び送りは、それぞれ、0.12mm、0.10mm/rev.)、
[切削条件C1]
被削材:JIS・SCr420の丸棒、
切削速度: 220 m/min.、
切り込み: 0.32 mm、
送り: 0.27 mm/rev.、
切削時間: 10 分、
の条件でのクロム鋼の焼入れ材の乾式連続重切削加工試験(通常の切り込み及び送りは、それぞれ、0.15mm、0.15mm/rev.)、
[切削条件C2]
被削材:JIS・SUJ2の丸棒、
切削速度: 195 m/min.、
切り込み: 0.32 mm、
送り: 0.22 mm/rev.、
切削時間: 10 分、
の条件での軸受鋼の焼入れ材の乾式連続重切削加工試験(通常の切り込み及び送りは、それぞれ、0.15mm、0.12mm/rev.)、
[切削条件C3]
被削材:JIS・SKD61の丸棒、
切削速度: 210 m/min.、
切り込み: 0.32 mm、
送り: 0.21 mm/rev.、
切削時間: 8 分、
の条件でのダイス鋼の焼入れ材の乾式連続高速重切削加工試験(通常の切り込み及び送りは、それぞれ、0.15mm、0.12mm/rev.)、
を行い、いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅(mm)を測定した。この測定結果を表9に示した。
本発明被覆エンドミル1〜3および従来被覆エンドミル1〜3については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SKD61の板材、
切削速度: 109 m/min.、
溝深さ(切り込み): 3 mm、
テーブル送り: 980 mm/min.、
の条件でのダイス鋼の乾式高送り溝切削加工試験(通常の切り込みおよび送りは、それぞれ、2.0mm、330mm/min.)、
本発明被覆エンドミル4〜6および従来被覆エンドミル4〜6については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SUS304の板材、
切削速度: 90 m/min.、
溝深さ(切り込み): 5 mm、
テーブル送り: 780 mm/min.、
の条件でのステンレス鋼の乾式高送り溝切削加工試験(通常の切り込みおよび送りは、それぞれ、4.0mm、270mm/min.)、
本発明被覆エンドミル7,8および従来被覆エンドミル7,8については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SNCM439の板材、
切削速度: 168 m/min.、
溝深さ(切り込み): 10 mm、
テーブル送り: 860 mm/min.、
の条件での合金鋼の乾式高送り溝切削加工試験(通常の切り込みおよび送りは、それぞれ、8.0mm、360mm/min.)、
をそれぞれ行い、いずれの溝切削加工試験でも切刃部の外周刃の逃げ面摩耗幅が使用寿命の目安とされる0.1mmに至るまでの切削溝長を測定した。この測定結果を表11にそれぞれ示した。
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SS400の板材、
切削速度: 115 m/min.、
送り: 0.23 mm/rev.、
穴深さ: 6 mm
の条件での軟鋼の湿式高送り穴あけ切削加工試験(通常の送りは、0.12mm/rev.)、
本発明被覆ドリル4〜6および従来被覆ドリル4〜6については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SUS316の板材、
切削速度: 55 m/min.、
送り: 0.14 mm/rev.、
穴深さ: 10 mm
の条件でのステンレス鋼の湿式高送り穴あけ切削加工試験(通常の送りは、0.10mm/rev.)、
本発明被覆ドリル7,8および従来被覆ドリル7,8については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SCMnH2の板材、
切削速度: 58 m/min.、
送り: 0.16 mm/rev、
穴深さ: 20 mm
の条件での高マンガン鋳鋼の湿式高送り穴あけ切削加工試験(通常の送りは、0.10mm/rev.)、
をそれぞれ行い、いずれの湿式穴あけ切削加工試験(水溶性切削油使用)でも先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまでの穴あけ加工数を測定した。この測定結果を表12に示した。
また、これらの本発明被覆工具および従来被覆工具の改質(Al,Ti)N層および従来(Al,Ti)N層の厚さを、走査型電子顕微鏡を用いて断面測定したところ、いずれも目標値と実質的に同じ平均層厚(5点測定の平均値)を示した。
また、図5には、従来被覆工具1の従来(Al,Ti)N層の結晶粒界の角度分布を示す。
上記図4と図5との比較からも明らかなように、改質(Al,Ti)N層では(110)面の高配向性と小角粒界比率の高い結晶組織を示すのに対して、従来(Al,Ti)N層では、結晶粒界性格において、特段の特徴あるものとなっていない結晶組織を有していることが明らかである。
Claims (1)
- 超硬合金、サーメットあるいは立方晶窒化ほう素基超高圧焼結体からなる切削工具基体の表面に、1〜10μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Al1−X TiX )N
で表した場合、Xは0.40〜0.60(ただし、原子比)を満足するAlとTiの複合窒化物層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
上記AlとTiの複合窒化物層について、電子線後方散乱回折装置を用いて個々の結晶粒の結晶方位を解析した場合、
(a)表面研磨面の法線方向に対する前記結晶粒の結晶方位<110>がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、法線方向に対して0〜55度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計したとき、0〜15度の範囲内の傾斜角区分に結晶方位<110>が存在する結晶粒の面積割合が結晶粒全面積の50%以上である結晶配向を示し、
(b)結晶粒界を構成する隣り合う結晶粒同士のなす角を測定した場合、前記なす角が0度を超え15度以下である小角粒界の割合が全粒界の50%以上を示し、
上記(a)、(b)を同時に満たすAlとTiの複合窒化物層からなる硬質被覆層を蒸着形成したことを特徴とする表面被覆切削工具。
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