JP2015020216A - 表面被覆切削工具 - Google Patents
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Abstract
【課題】耐ピッチング性、耐摩耗性にすぐれた表面被覆切削工具を提供する。
【解決手段】炭化タングステン基超硬合金工具基体14の表面に、平均層厚が2〜10μmの硬質被覆層15を蒸着形成した表面被覆切削工具において、(a)上記硬質被覆層は、AlとCrの複合窒化物層からなり、AlとCrの合量に占めるCrの含有割合は、0.2〜0.5(但し、原子比)であり、(b)工具基体の逃げ面上の刃先から、逃げ面上で逃げ面刃先16から反対側に向けて100μm離れた位置までの領域17上に蒸着形成された硬質被覆層20は、粒状結晶組織を有し、粒状結晶粒の平均粒径は0.2〜0.5μmであり、上記領域における工具基体と硬質被覆層の界面18における粒状結晶粒の平均粒径は、硬質被覆層表面の粒状結晶粒の平均粒径より0.02〜0.1μm小さく、粒径が0.15μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合は20%以下であることを特徴とする。
【選択図】図3B
【解決手段】炭化タングステン基超硬合金工具基体14の表面に、平均層厚が2〜10μmの硬質被覆層15を蒸着形成した表面被覆切削工具において、(a)上記硬質被覆層は、AlとCrの複合窒化物層からなり、AlとCrの合量に占めるCrの含有割合は、0.2〜0.5(但し、原子比)であり、(b)工具基体の逃げ面上の刃先から、逃げ面上で逃げ面刃先16から反対側に向けて100μm離れた位置までの領域17上に蒸着形成された硬質被覆層20は、粒状結晶組織を有し、粒状結晶粒の平均粒径は0.2〜0.5μmであり、上記領域における工具基体と硬質被覆層の界面18における粒状結晶粒の平均粒径は、硬質被覆層表面の粒状結晶粒の平均粒径より0.02〜0.1μm小さく、粒径が0.15μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合は20%以下であることを特徴とする。
【選択図】図3B
Description
この発明は、炭素鋼、合金鋼などの切削加工において、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関するものである。
一般に、被覆工具には、各種の鋼や鋳鉄などの被削材の旋削加工や平削り加工にバイトの先端部に着脱自在に取り付けて用いられるスローアウエイチップ、上記被削材の穴あけ切削加工などに用いられるドリル、さらに上記被削材の面削加工や溝加工、肩加工などに用いられるソリッドタイプのエンドミルなどがあり、また上記スローアウエイチップを着脱自在に取り付けて上記ソリッドタイプのエンドミルと同様に切削加工を行うスローアウエイエンドミル工具などが知られている。
例えば、特許文献1に示すように、被覆工具として、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金で構成された基体(以下、工具基体という)の表面に、AlとCrの複合窒化物[以下、(Al,Cr)Nで示す]層からなる硬質被覆層を蒸着形成してなる被覆工具が知られており、かかる従来の被覆工具においては、硬質被覆層を構成する上記(Al,Cr)N層が、すぐれた高温硬さ、耐熱性、高温強度、高温耐酸化性等を有することから、すぐれた切削性能を発揮することが知られている。
そして、上記従来の被覆工具は、例えば、図1Aおよび図1Bに示すように、物理蒸着装置の1種であるアークイオンプレーティング装置に上記の工具基体を装入し、ヒータで工具基体を500℃の温度に加熱した状態で、アノード電極と所定組成のAl−Cr合金がセットされたカソード電極との間に、電流:90Aの条件でアーク放電を発生させ、同時に装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して、2Paの反応雰囲気とし、一方、上記工具基体には、−100Vのバイアス電圧を印加した条件で、上記工具基体の表面に、上記(Al,Cr)N層を蒸着形成することにより製造し得ることも知られている。
そして、上記従来の被覆工具は、例えば、図1Aおよび図1Bに示すように、物理蒸着装置の1種であるアークイオンプレーティング装置に上記の工具基体を装入し、ヒータで工具基体を500℃の温度に加熱した状態で、アノード電極と所定組成のAl−Cr合金がセットされたカソード電極との間に、電流:90Aの条件でアーク放電を発生させ、同時に装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して、2Paの反応雰囲気とし、一方、上記工具基体には、−100Vのバイアス電圧を印加した条件で、上記工具基体の表面に、上記(Al,Cr)N層を蒸着形成することにより製造し得ることも知られている。
ところで、被覆工具においては、その切削性能、特に、耐チッピング性、耐摩耗性等、の改善を図るべく、硬質被覆層の組織構造について種々の提案がなされている。
例えば、特許文献2には、すくい面での被覆層の欠損を抑制して耐欠損性を向上させ、また、逃げ面における耐摩耗性を向上させた被覆工具として、被覆層を柱状結晶で構成し、すくい面における被覆層厚は逃げ面での被覆層厚よりも薄く、被覆層表面側の上層領域の平均結晶幅が、被覆層基体側の下層領域の平均結晶幅よりも大きい2つの層領域にて構成し、すくい面での被覆層厚に対する上層領域の厚みの比率が、逃げ面での被覆層厚に対する上層領域の厚みの比率よりも小さく、すくい面での柱状結晶の平均結晶幅が逃げ面での柱状結晶の平均結晶幅より小さい被覆工具(エンドミル)が記載されている。
また、例えば、特許文献3には、耐摩耗性と靭性とを両立させたとともに、基材との密着性にも優れた被膜を備えた被覆工具として、基材上に形成された被膜は、第1被膜層を含み、該第1被膜層は、微細組織領域と粗大組織領域とを含み、該微細組織領域は、それを構成する化合物の平均結晶粒径が10〜200nmであり、かつ該第1被膜層の表面側から該第1被膜層の全体の厚みに対して50%以上の厚みとなる範囲を占めて存在し、かつ−4GPa以上−2GPa以下の範囲の応力である平均圧縮応力を有し、該第1被膜層は、その厚み方向に応力分布を有しており、その応力分布において2つ以上の極大値または極小値を持ち、それらの極大値または極小値は厚み方向表面側に位置するものほど高い圧縮応力を有する被覆工具が記載されている。
例えば、特許文献2には、すくい面での被覆層の欠損を抑制して耐欠損性を向上させ、また、逃げ面における耐摩耗性を向上させた被覆工具として、被覆層を柱状結晶で構成し、すくい面における被覆層厚は逃げ面での被覆層厚よりも薄く、被覆層表面側の上層領域の平均結晶幅が、被覆層基体側の下層領域の平均結晶幅よりも大きい2つの層領域にて構成し、すくい面での被覆層厚に対する上層領域の厚みの比率が、逃げ面での被覆層厚に対する上層領域の厚みの比率よりも小さく、すくい面での柱状結晶の平均結晶幅が逃げ面での柱状結晶の平均結晶幅より小さい被覆工具(エンドミル)が記載されている。
また、例えば、特許文献3には、耐摩耗性と靭性とを両立させたとともに、基材との密着性にも優れた被膜を備えた被覆工具として、基材上に形成された被膜は、第1被膜層を含み、該第1被膜層は、微細組織領域と粗大組織領域とを含み、該微細組織領域は、それを構成する化合物の平均結晶粒径が10〜200nmであり、かつ該第1被膜層の表面側から該第1被膜層の全体の厚みに対して50%以上の厚みとなる範囲を占めて存在し、かつ−4GPa以上−2GPa以下の範囲の応力である平均圧縮応力を有し、該第1被膜層は、その厚み方向に応力分布を有しており、その応力分布において2つ以上の極大値または極小値を持ち、それらの極大値または極小値は厚み方向表面側に位置するものほど高い圧縮応力を有する被覆工具が記載されている。
近年の切削加工装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は一段と厳しい切削条件下で行われるようになってきている。
上記従来の被覆工具においては、ある程度の耐チッピング性、耐欠損性、耐摩耗性の改善は図り得るものの、これを炭素鋼、合金鋼などの一段と厳しい切削加工に用いた場合には、チッピングが発生しやすく、あるいは、摩耗損耗が大きくなり、これを原因として、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
上記従来の被覆工具においては、ある程度の耐チッピング性、耐欠損性、耐摩耗性の改善は図り得るものの、これを炭素鋼、合金鋼などの一段と厳しい切削加工に用いた場合には、チッピングが発生しやすく、あるいは、摩耗損耗が大きくなり、これを原因として、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
そこで、本発明者等は、炭素鋼、合金鋼などの切削加工において、耐チッピング性とともに耐摩耗性にもすぐれ、長期の使用に亘ってすぐれた切削性能を発揮する被覆工具を提供すべく、硬質被覆層の結晶組織構造について鋭意研究を行った結果、以下の知見を得た。
従来、被覆工具を作製するにあたり、硬質被覆層の形成手段としては、CVD法、PVD法等が一般的に採用されており、そして、例えば、PVD法の一種であるアークイオンプレーティング法(以下、AIP法という)により(Al,Cr)Nからなる硬質被覆層を成膜する際には、特許文献1として示したように、工具基体を装置内に装入し、所定のバイアス電圧を印加するとともに、装置内を所定温度に加熱した状態で、アノード電極と所定組成のAl−Cr合金ターゲットとの間にアーク放電を発生させ、同時に装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入し、所定圧の反応雰囲気中で蒸着することによって、硬質被覆層を成膜していた(図1Aおよび図1B参照)。
本発明者らは、上記従来のAIP法による(Al,Cr)Nからなる硬質被覆層の成膜に際し、工具基体とターゲット間に磁場をかけ、硬質被覆層の組織構造に及ぼす磁場の影響を調査検討した。その結果、以下を見出した。AIP法による硬質被覆層の成膜を所定強度の磁場中で行うことによって、硬質被覆層を構成する粒状結晶粒の結晶粒径を調整することができる。また、硬質被覆層内に形成される残留応力の値を制御することができる。さらに、切れ刃先端のコーナー部に形成される連続クラックのクラック占有率を調整することができる。そして、このようにして硬質被覆層の結晶粒径、残留応力値及びクラック占有率を適正化した(Al,Cr)Nからなる硬質被覆層を備えた被覆工具は、炭素鋼、合金鋼などの切削加工において、すぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する。その結果、この被覆工具は長期の使用に亘ってすぐれた切削性能を発揮する。
この発明は、上記の知見に基づいてなされたものであって、以下の態様を有する。
(1)炭化タングステン基超硬合金で構成された工具基体の表面に、平均層厚が2〜10μmの硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
(a)上記硬質被覆層は、AlとCrの複合窒化物層からなり、AlとCrの合量に占めるCrの含有割合は、0.2〜0.5(但し、原子比)であり、
(b)上記表面被覆切削工具の上記工具基体の逃げ面上の刃先から、上記逃げ面上で上記逃げ面刃先から反対側に向けて100μm離れた位置までの領域上に蒸着形成された硬質被覆層は、粒状結晶組織を有し、上記領域上に形成された上記硬質被覆層表面の粒状結晶粒の平均粒径は0.2〜0.5μmであり、上記領域における上記工具基体と上記硬質被覆層の界面における粒状結晶粒の平均粒径は、上記硬質被覆層表面の上記粒状結晶粒の平均粒径より0.02〜0.1μm小さく、粒径が0.15μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合は20%以下であることを特徴とする表面被覆切削工具。
(2)上記硬質被覆層中の圧縮残留応力は2.0〜2.7GPaであることを特徴とする上記(1)に記載の被覆工具。
(3)上記被覆工具の刃先角度をα度とし、該α度の角度範囲内の切れ刃先端のコーナー部の硬質被覆層中に形成されている連続クラックの占有角度をβ度とした場合、クラック占有率β/αが0.3〜1.0であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の被覆工具。
(4)上記粒状結晶組織に含まれる結晶粒のアスペクト比は1以上6以下であることを特徴とする上記(1)から(3)のいずれかひとつに記載の表面被覆切削工具。
(5)炭化タングステン基超硬合金で構成された工具基体の表面に、平均層厚が2〜10μmの硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具の製造方法であって、アノード電極と、Al−Cr合金からなるターゲットと、上記ターゲットの背面側に設けられた磁力発生源を備えるアークイオンプレーティング装置内に、炭化タングステン基超硬合金からなる工具基体を装入する基体装入工程と、上記工具基体上にAlとCrの複合窒化物層からなる硬質被覆層を蒸着形成する蒸着工程とを備え、上記蒸着工程は、上記アークイオンプレーティング装置内に窒素ガスを導入するガス導入工程と、上記ターゲットと上記工具基体の間に、上記磁力発生源により、積算磁力が140〜400mT×mmの範囲内となる磁場を印加する印加工程と、上記工具基体にバイアス電圧を印加しつつ、上記ターゲットと上記アノード電極との間にアーク放電を発生させる放電工程と、上記工具基体を上記アークイオンプレーティング装置内で自転および公転させる自公転工程とを有し、上記工具基体が上記ターゲットに最接近した際には、上記工具基体の逃げ面の一部又は全部と上記ターゲットの上記工具基体側の面が水平となるように上記工具基体は支持されることを特徴とする上記(1)から(4)のいずれかひとつに記載の表面被覆切削工具の製造方法。
(1)炭化タングステン基超硬合金で構成された工具基体の表面に、平均層厚が2〜10μmの硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
(a)上記硬質被覆層は、AlとCrの複合窒化物層からなり、AlとCrの合量に占めるCrの含有割合は、0.2〜0.5(但し、原子比)であり、
(b)上記表面被覆切削工具の上記工具基体の逃げ面上の刃先から、上記逃げ面上で上記逃げ面刃先から反対側に向けて100μm離れた位置までの領域上に蒸着形成された硬質被覆層は、粒状結晶組織を有し、上記領域上に形成された上記硬質被覆層表面の粒状結晶粒の平均粒径は0.2〜0.5μmであり、上記領域における上記工具基体と上記硬質被覆層の界面における粒状結晶粒の平均粒径は、上記硬質被覆層表面の上記粒状結晶粒の平均粒径より0.02〜0.1μm小さく、粒径が0.15μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合は20%以下であることを特徴とする表面被覆切削工具。
(2)上記硬質被覆層中の圧縮残留応力は2.0〜2.7GPaであることを特徴とする上記(1)に記載の被覆工具。
(3)上記被覆工具の刃先角度をα度とし、該α度の角度範囲内の切れ刃先端のコーナー部の硬質被覆層中に形成されている連続クラックの占有角度をβ度とした場合、クラック占有率β/αが0.3〜1.0であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の被覆工具。
(4)上記粒状結晶組織に含まれる結晶粒のアスペクト比は1以上6以下であることを特徴とする上記(1)から(3)のいずれかひとつに記載の表面被覆切削工具。
(5)炭化タングステン基超硬合金で構成された工具基体の表面に、平均層厚が2〜10μmの硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具の製造方法であって、アノード電極と、Al−Cr合金からなるターゲットと、上記ターゲットの背面側に設けられた磁力発生源を備えるアークイオンプレーティング装置内に、炭化タングステン基超硬合金からなる工具基体を装入する基体装入工程と、上記工具基体上にAlとCrの複合窒化物層からなる硬質被覆層を蒸着形成する蒸着工程とを備え、上記蒸着工程は、上記アークイオンプレーティング装置内に窒素ガスを導入するガス導入工程と、上記ターゲットと上記工具基体の間に、上記磁力発生源により、積算磁力が140〜400mT×mmの範囲内となる磁場を印加する印加工程と、上記工具基体にバイアス電圧を印加しつつ、上記ターゲットと上記アノード電極との間にアーク放電を発生させる放電工程と、上記工具基体を上記アークイオンプレーティング装置内で自転および公転させる自公転工程とを有し、上記工具基体が上記ターゲットに最接近した際には、上記工具基体の逃げ面の一部又は全部と上記ターゲットの上記工具基体側の面が水平となるように上記工具基体は支持されることを特徴とする上記(1)から(4)のいずれかひとつに記載の表面被覆切削工具の製造方法。
この発明の一態様である被覆工具(以下、本発明の被覆工具と称する)は、所定組成の(Al,Cr)N層からなる硬質被覆層が、刃先から100μm離れた位置までの範囲においては粒状結晶組織で構成され、しかも、表面粒径は0.2〜0.5μm、また、界面粒径は、表面粒径より0.02〜0.1μm小さく、また、逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの範囲においては、粒径が0.15μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合は20%以下であって、硬質被覆層中の圧縮残留応力は2.0〜2.7GPaであり、刃先のクラック占有率β/αが0.3〜1.0であることから、炭素鋼、合金鋼などの切削加工において、すぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮し、長期の使用に亘ってすぐれた切削性能を発揮する。
この発明の被覆工具の実施形態について、図を参照して詳細に説明する。
図3Aは、本発明の一態様の被覆工具の縦断面概略説明図を示す。図3Aに示されるように、本願発明の被覆工具13では基体14上に硬質被覆層15が形成されている。被覆工具13の逃げ面21およびすくい面22の間に、切れ刃部が形成される。
(a)硬質被覆層の種別、平均層厚:
本願発明の被覆工具13の硬質被覆層15は、AlとCrの複合窒化物層((Al,Cr)N層)からなる。
上記(Al,Cr)N層は、Al成分が高温硬さと耐熱性を向上させ、Cr成分が高温強度を向上させ、さらにCrとAlの共存含有によって高温耐酸化性が向上することから、高温硬さ、耐熱性、高温強度及び高温耐酸化性にすぐれた硬質被覆層として既によく知られている。
Alとの合量に占めるCrの含有割合(原子比、以下同じ)が0.2未満では、切削加工時の高温強度を確保することが困難となり、一方、Alとの合量に占めるCrの含有割合(原子比)が0.5を越えると、相対的にAlの含有割合が少なくなり、高温硬さの低下、耐熱性の低下を招く。その結果、偏摩耗の発生、熱塑性変形の発生等により耐摩耗性が劣化するようになる。以上から本願発明の被覆工具における硬質被覆層15では、Alとの合量に占めるCrの含有割合(原子比)は、0.2〜0.5としている。より好ましいCrの含有割合は0.22〜0.45である。さらにより好ましいCrの含有割合は0.25〜0.42である。
また、(Al,Cr)N層からなる硬質被覆層の平均層厚は、2μm未満では、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮することができず、工具寿命短命の原因となる。一方、その平均層厚が10μmを越えると、刃先部にチッピングが発生し易くなる。以上から、本願発明の被覆工具13における硬質被覆層15の平均層厚は2〜10μmとしている。より好ましい硬質被覆層15の平均層厚は2.5〜9である。さらにより好ましい平均層厚は3〜8である。
図3Aは、本発明の一態様の被覆工具の縦断面概略説明図を示す。図3Aに示されるように、本願発明の被覆工具13では基体14上に硬質被覆層15が形成されている。被覆工具13の逃げ面21およびすくい面22の間に、切れ刃部が形成される。
(a)硬質被覆層の種別、平均層厚:
本願発明の被覆工具13の硬質被覆層15は、AlとCrの複合窒化物層((Al,Cr)N層)からなる。
上記(Al,Cr)N層は、Al成分が高温硬さと耐熱性を向上させ、Cr成分が高温強度を向上させ、さらにCrとAlの共存含有によって高温耐酸化性が向上することから、高温硬さ、耐熱性、高温強度及び高温耐酸化性にすぐれた硬質被覆層として既によく知られている。
Alとの合量に占めるCrの含有割合(原子比、以下同じ)が0.2未満では、切削加工時の高温強度を確保することが困難となり、一方、Alとの合量に占めるCrの含有割合(原子比)が0.5を越えると、相対的にAlの含有割合が少なくなり、高温硬さの低下、耐熱性の低下を招く。その結果、偏摩耗の発生、熱塑性変形の発生等により耐摩耗性が劣化するようになる。以上から本願発明の被覆工具における硬質被覆層15では、Alとの合量に占めるCrの含有割合(原子比)は、0.2〜0.5としている。より好ましいCrの含有割合は0.22〜0.45である。さらにより好ましいCrの含有割合は0.25〜0.42である。
また、(Al,Cr)N層からなる硬質被覆層の平均層厚は、2μm未満では、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮することができず、工具寿命短命の原因となる。一方、その平均層厚が10μmを越えると、刃先部にチッピングが発生し易くなる。以上から、本願発明の被覆工具13における硬質被覆層15の平均層厚は2〜10μmとしている。より好ましい硬質被覆層15の平均層厚は2.5〜9である。さらにより好ましい平均層厚は3〜8である。
(b)(Al,Cr)N層からなる硬質被覆層の層構造:
本願発明の被覆工具13では、逃げ面21の特定領域において、さらに特殊な性質を有する硬質被覆層を形成することで、硬質被覆層中の圧縮残留応力を低減させている。
上記の逃げ面特定領域とは、逃げ面上の刃先16から、逃げ面上で、逃げ面刃先16から反対側に向けて100μm離れた位置までの領域17のことである。この領域17上に形成された硬質被覆層20は、以下に説明する特徴を有する。
上記(Al,Cr)N層からなる硬質被覆層20は粒状結晶として成膜される。さらに、この硬質被覆層20の表面19における結晶粒の平均結晶粒径(以下、単に「表面粒径」という)は0.2〜0.5μmとされる。一方、工具基体14と硬質被覆層20との界面18における硬質被覆層20の結晶粒の平均結晶粒径(以下、単に「界面粒径」という)は、表面粒径より0.02〜0.1μm小さい値として成膜される。すなわち、この領域17上では、表面粒径と界面粒径とがそれぞれ異なる平均結晶粒径範囲となるように、硬質被覆層20の結晶組織構造が形成されている。これにより、硬質被覆層中に形成される圧縮残留応力が所定数値範囲内となるように成膜される。
ここで、「工具基体と硬質被覆層の界面における硬質被覆層の結晶粒」とは、硬質被覆層内における工具基体14と硬質被覆層20の界面から厚さ0.5μmの硬質被覆層内部の領域に形成されている結晶粒を意味する。また、「硬質被覆層表面における結晶粒」とは、硬質被覆層20の表面から深さ0.5μmの領域に形成されている結晶粒を意味する。
また、ここで「粒状結晶」とは、「柱状結晶」と区別するために使用している用語であり、具体的には、その結晶粒のアスペクト比が1以上6以下であることを意味する。アスペクト比は、結晶粒断面で最も長い直径(長辺)とそれに垂直な直径(短辺)の長さの比を、長辺を分子、短辺を分母として算出する。
本願発明の被覆工具13では、逃げ面21の特定領域において、さらに特殊な性質を有する硬質被覆層を形成することで、硬質被覆層中の圧縮残留応力を低減させている。
上記の逃げ面特定領域とは、逃げ面上の刃先16から、逃げ面上で、逃げ面刃先16から反対側に向けて100μm離れた位置までの領域17のことである。この領域17上に形成された硬質被覆層20は、以下に説明する特徴を有する。
上記(Al,Cr)N層からなる硬質被覆層20は粒状結晶として成膜される。さらに、この硬質被覆層20の表面19における結晶粒の平均結晶粒径(以下、単に「表面粒径」という)は0.2〜0.5μmとされる。一方、工具基体14と硬質被覆層20との界面18における硬質被覆層20の結晶粒の平均結晶粒径(以下、単に「界面粒径」という)は、表面粒径より0.02〜0.1μm小さい値として成膜される。すなわち、この領域17上では、表面粒径と界面粒径とがそれぞれ異なる平均結晶粒径範囲となるように、硬質被覆層20の結晶組織構造が形成されている。これにより、硬質被覆層中に形成される圧縮残留応力が所定数値範囲内となるように成膜される。
ここで、「工具基体と硬質被覆層の界面における硬質被覆層の結晶粒」とは、硬質被覆層内における工具基体14と硬質被覆層20の界面から厚さ0.5μmの硬質被覆層内部の領域に形成されている結晶粒を意味する。また、「硬質被覆層表面における結晶粒」とは、硬質被覆層20の表面から深さ0.5μmの領域に形成されている結晶粒を意味する。
また、ここで「粒状結晶」とは、「柱状結晶」と区別するために使用している用語であり、具体的には、その結晶粒のアスペクト比が1以上6以下であることを意味する。アスペクト比は、結晶粒断面で最も長い直径(長辺)とそれに垂直な直径(短辺)の長さの比を、長辺を分子、短辺を分母として算出する。
平均結晶粒径について、具体的に説明すれば、次のとおりである。
硬質被覆層表面19における結晶粒の平均結晶粒径(表面粒径)が0.2μm未満であると、硬質被覆層中の圧縮残留応力が大きくなるため、切削加工時にチッピングを発生しやすくなる。一方、表面粒径が0.5μmを超えると、圧縮残留応力が小さくなるため、切削加工時の摩耗量が増大し、長期の使用にわたって十分な耐摩耗性を発揮することができなくなる。以上から、本願発明の被覆工具13における硬質被覆層20では、表面粒径は0.2〜0.5μmと定めた。
工具基体14と硬質被覆層20の界面18における硬質被覆層20の結晶粒の平均結晶粒径(界面粒径)については、表面粒径よりも0.02〜0.1μmだけ小さい値とすることが必要である。その技術的な理由は、表面粒径より0.1μmを超えて界面粒径が小さい場合には、表面粒径と界面粒径の差が大きくなる事により、それぞれの部分での圧縮残留応力の差が大きくなり、膜全体で脆化してしまう。そのため、切削時に摩耗やチッピングがしやすくなり、切削性能が悪化する問題が生じる。
一方、界面粒径と表面粒径との差が0.02μm以内である場合には、表面と界面で圧縮残留応力の差が同等となり、切削を行った際に、耐摩耗性の向上の作用を付与できない、ということによる。
なお、本発明では、表面粒径よりも界面粒径を0.02〜0.1μm小さい値にする事で、膜全体が脆化しない程度に界面側での圧縮残留応力を大きくし、長時間切削を行った際に、膜表面が摩耗した後も界面側の摩耗を抑制させる作用を付与する。
粒径の測定方法を以下に図3Bを参照して記述する。工具基体刃先から逃げ面側の断面を切り出し、その断面をSEMにて観察する。硬質被覆層表面19から深さ0.5μmの領域に形成されている各結晶粒を用い、工具基体表面と平行に直線を引き、結晶粒界間の距離を粒径と定義する。なお、工具基体表面と平行に直線を引く位置は、各結晶粒において最長の結晶粒径となる位置とする。逃げ面上の刃先16から100μm離れた位置までの領域17において結晶粒径を測定し、その平均結晶粒径の平均値を表面粒径とする。より具体的にいえば、逃げ面上の刃先16及び逃げ面上において刃先から50μm離れた位置、及び刃先から100μm離れた位置の3箇所で、幅10μmの範囲内(図3Bにおいて、硬質被覆層20中に点線で示されている領域)に存在する結晶の平均結晶粒径を測定し、さらに、その3箇所での平均結晶粒径の平均値を表面粒径とする。また、硬質被覆層内における工具基体14と硬質被覆層20の界面18から厚さ0.5μmの領域に形成されている各結晶粒においても同様の方法にて界面粒径を算出する。
硬質被覆層表面19における結晶粒の平均結晶粒径(表面粒径)が0.2μm未満であると、硬質被覆層中の圧縮残留応力が大きくなるため、切削加工時にチッピングを発生しやすくなる。一方、表面粒径が0.5μmを超えると、圧縮残留応力が小さくなるため、切削加工時の摩耗量が増大し、長期の使用にわたって十分な耐摩耗性を発揮することができなくなる。以上から、本願発明の被覆工具13における硬質被覆層20では、表面粒径は0.2〜0.5μmと定めた。
工具基体14と硬質被覆層20の界面18における硬質被覆層20の結晶粒の平均結晶粒径(界面粒径)については、表面粒径よりも0.02〜0.1μmだけ小さい値とすることが必要である。その技術的な理由は、表面粒径より0.1μmを超えて界面粒径が小さい場合には、表面粒径と界面粒径の差が大きくなる事により、それぞれの部分での圧縮残留応力の差が大きくなり、膜全体で脆化してしまう。そのため、切削時に摩耗やチッピングがしやすくなり、切削性能が悪化する問題が生じる。
一方、界面粒径と表面粒径との差が0.02μm以内である場合には、表面と界面で圧縮残留応力の差が同等となり、切削を行った際に、耐摩耗性の向上の作用を付与できない、ということによる。
なお、本発明では、表面粒径よりも界面粒径を0.02〜0.1μm小さい値にする事で、膜全体が脆化しない程度に界面側での圧縮残留応力を大きくし、長時間切削を行った際に、膜表面が摩耗した後も界面側の摩耗を抑制させる作用を付与する。
粒径の測定方法を以下に図3Bを参照して記述する。工具基体刃先から逃げ面側の断面を切り出し、その断面をSEMにて観察する。硬質被覆層表面19から深さ0.5μmの領域に形成されている各結晶粒を用い、工具基体表面と平行に直線を引き、結晶粒界間の距離を粒径と定義する。なお、工具基体表面と平行に直線を引く位置は、各結晶粒において最長の結晶粒径となる位置とする。逃げ面上の刃先16から100μm離れた位置までの領域17において結晶粒径を測定し、その平均結晶粒径の平均値を表面粒径とする。より具体的にいえば、逃げ面上の刃先16及び逃げ面上において刃先から50μm離れた位置、及び刃先から100μm離れた位置の3箇所で、幅10μmの範囲内(図3Bにおいて、硬質被覆層20中に点線で示されている領域)に存在する結晶の平均結晶粒径を測定し、さらに、その3箇所での平均結晶粒径の平均値を表面粒径とする。また、硬質被覆層内における工具基体14と硬質被覆層20の界面18から厚さ0.5μmの領域に形成されている各結晶粒においても同様の方法にて界面粒径を算出する。
また、逃げ面上の刃先16から100μm離れた位置までの領域17(具体的に測定するのは、逃げ面上の刃先、及び逃げ面上において刃先から50μm離れた位置、及び刃先から100μm離れた位置の3箇所)においては、表面粒径および界面粒径のいずれについても、粒径が0.15μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合は20%以下であることが必要である。これは、粒径が0.15μm以下の微細結晶粒が20%を超えて形成されている場合には、硬質被覆層中の圧縮残留応力が大きくなり、チッピングを発生しやすくなるという理由による。
ここで「粒径が0.15μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合」とは、複数の結晶粒の粒径を測定し、その全測定結晶粒径長の和に対する粒径0.15μm以下の結晶粒径長の和の割合を示す。
また、「刃先」とは、図3Aから図3Cに示すように、「切れ刃先端のコーナー部の円錐形状となっている部分を除いた、直線状切れ刃の最も先端に近い部分」であると、本発明では定義する。
図3は、本発明の一態様の被覆工具の縦断面概略説明図を示し、基体逃げ面及び基体すくい面の仮想延長線の交点と、逃げ面上の刃先との位置関係を示す図である。図3では、基体のみが示され、硬質被覆層は示されていない。
図3Cに示すように、基体逃げ面21および基体すくい面22の仮想延長線の交点23と、逃げ面上の刃先16との距離L(μm)には以下の関係がある。
距離L、コーナー部の円弧の半径r(μm)、および基体逃げ面21と基体すくい面22の仮想延長線がなす角度θ(度)には、「L=r/tan(0.5×θ)」の関係が成立する。
ここで「粒径が0.15μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合」とは、複数の結晶粒の粒径を測定し、その全測定結晶粒径長の和に対する粒径0.15μm以下の結晶粒径長の和の割合を示す。
また、「刃先」とは、図3Aから図3Cに示すように、「切れ刃先端のコーナー部の円錐形状となっている部分を除いた、直線状切れ刃の最も先端に近い部分」であると、本発明では定義する。
図3は、本発明の一態様の被覆工具の縦断面概略説明図を示し、基体逃げ面及び基体すくい面の仮想延長線の交点と、逃げ面上の刃先との位置関係を示す図である。図3では、基体のみが示され、硬質被覆層は示されていない。
図3Cに示すように、基体逃げ面21および基体すくい面22の仮想延長線の交点23と、逃げ面上の刃先16との距離L(μm)には以下の関係がある。
距離L、コーナー部の円弧の半径r(μm)、および基体逃げ面21と基体すくい面22の仮想延長線がなす角度θ(度)には、「L=r/tan(0.5×θ)」の関係が成立する。
本発明では、上記(b)の層構造からなる(Al,Cr)N層を、領域17上に硬質被覆層20として形成することにより、硬質被覆層中には、2.0〜2.7GPaの圧縮残留応力を生成することができる。圧縮残留応力の値が、2.0GPa未満であると、耐摩耗性の向上が期待できず、一方、この値が2.7GPaを超えると、チッピングが発生しやすくなることから、本発明では、硬質被覆層中の圧縮残留応力の値を、2.0〜2.7GPaとすることが望ましい。
本願発明の被覆工具13では、さらに、図4Aおよび図4Bに示すように、被覆工具の刃先角度をα度とし、該α度の角度範囲内の硬質被覆層中に形成されている連続クラックの占有角度をβ度とした場合に、切れ刃先端のコーナー部のクラック占有率β/αを0.3〜1.0とすることが好ましく、さらに、β/αが0.3〜0.9であることがより好ましい。
その理由は、次のとおりである。
工具基体表面に、アークイオンプレーティング装置(AIP装置)を用いて硬質被覆層を形成する場合、層中には圧縮残留応力が蓄積され、特に、結晶粒径の大きな層にあっては、結晶粒界に圧縮残留応力が集中し、亀裂の起点となりやすい。
しかし、本願発明の被覆工具13によれば、切れ刃先端のコーナー部の硬質被覆層中に予めクラックCが形成されていることから、残留応力の集中が低減されるため、特に、切削開始初期のチッピング発生等による切削性能の低下を抑制することができる。
ただし、β/αが0.3未満である場合には、圧縮残留応力の集中抑制効果を期待することはできないので、β/αは0.3以上と定めた。
圧縮残留応力の集中抑制効果の観点からは、β/αの値に上限を設ける必要はない(即ち、β/αは、0.3〜1.0)が、β/αの値が1.0に近づくほど、硬質被覆層と工具基体界面での界面剥離が発生しやすくなるので、β/αの値は、0.3〜0.9であることが好ましい。さらに好ましいβ/αの範囲は、0.4〜0.85である。
その理由は、次のとおりである。
工具基体表面に、アークイオンプレーティング装置(AIP装置)を用いて硬質被覆層を形成する場合、層中には圧縮残留応力が蓄積され、特に、結晶粒径の大きな層にあっては、結晶粒界に圧縮残留応力が集中し、亀裂の起点となりやすい。
しかし、本願発明の被覆工具13によれば、切れ刃先端のコーナー部の硬質被覆層中に予めクラックCが形成されていることから、残留応力の集中が低減されるため、特に、切削開始初期のチッピング発生等による切削性能の低下を抑制することができる。
ただし、β/αが0.3未満である場合には、圧縮残留応力の集中抑制効果を期待することはできないので、β/αは0.3以上と定めた。
圧縮残留応力の集中抑制効果の観点からは、β/αの値に上限を設ける必要はない(即ち、β/αは、0.3〜1.0)が、β/αの値が1.0に近づくほど、硬質被覆層と工具基体界面での界面剥離が発生しやすくなるので、β/αの値は、0.3〜0.9であることが好ましい。さらに好ましいβ/αの範囲は、0.4〜0.85である。
ここで、先ず本願発明におけるクラックの定義について説明する。
本願発明におけるクラックとは、切れ刃先端のコーナー部を含む硬質被覆層中に形成された亀裂を意味する。このクラックは例えば被覆工具の断面SEM写真を例えば10000倍の倍率で観察することで確認することができる。本願発明におけるクラックは、幅が30nm以上の亀裂を意味している。クラックの幅が端部で先細りしてゆき、クラックの幅が30nm未満となった点をクラックの端部と規定する。
ここで、クラック占有率とは、本発明で、以下のように定義する。
図4Aおよび図4Bに示すように、逃げ面上の刃先Aを通る逃げ面の垂線と、すくい面上の刃先Bを通るすくい面の垂線との交点を中心Oとした時、A−O−Bのなす角度を刃先角度α(度)という。
また、切れ刃先端のコーナー部の硬質被覆層中に形成されている連続クラックについては、上記中心Oから、連続する一つのクラックの端部C,Dに接する線を引いた時、C−O−Dのなす角度を連続クラックの占有角度β(度)とする。切れ刃先端のコーナー部の硬質被覆層中に複数のクラックが存在する場合、最大の占有角度を示す連続クラックを用いるものとする。
そして、(連続クラックの占有角度β)/(刃先角度α)の値を、クラック占有率であると定義する。
なお、本発明被覆工具は、(Al,Cr)N層からなる硬質被覆層の平均層厚を2〜10μm、AlとCrの合量に占めるCrの含有割合は0.2〜0.5(但し、原子比)、粒状結晶粒の表面粒径、界面粒径を特定の数値範囲に定め、また、逃げ面上の刃先16から100μm離れた位置までの領域17における粒径が0.15μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合を20%以下と定めることにより、硬質被覆層中の圧縮残留応力の値が2.0〜2.7GPaであり、さらに刃先のクラック占有率β/αが0.3〜1である被覆切削工具を効率良く製造することができる。
本願発明におけるクラックとは、切れ刃先端のコーナー部を含む硬質被覆層中に形成された亀裂を意味する。このクラックは例えば被覆工具の断面SEM写真を例えば10000倍の倍率で観察することで確認することができる。本願発明におけるクラックは、幅が30nm以上の亀裂を意味している。クラックの幅が端部で先細りしてゆき、クラックの幅が30nm未満となった点をクラックの端部と規定する。
ここで、クラック占有率とは、本発明で、以下のように定義する。
図4Aおよび図4Bに示すように、逃げ面上の刃先Aを通る逃げ面の垂線と、すくい面上の刃先Bを通るすくい面の垂線との交点を中心Oとした時、A−O−Bのなす角度を刃先角度α(度)という。
また、切れ刃先端のコーナー部の硬質被覆層中に形成されている連続クラックについては、上記中心Oから、連続する一つのクラックの端部C,Dに接する線を引いた時、C−O−Dのなす角度を連続クラックの占有角度β(度)とする。切れ刃先端のコーナー部の硬質被覆層中に複数のクラックが存在する場合、最大の占有角度を示す連続クラックを用いるものとする。
そして、(連続クラックの占有角度β)/(刃先角度α)の値を、クラック占有率であると定義する。
なお、本発明被覆工具は、(Al,Cr)N層からなる硬質被覆層の平均層厚を2〜10μm、AlとCrの合量に占めるCrの含有割合は0.2〜0.5(但し、原子比)、粒状結晶粒の表面粒径、界面粒径を特定の数値範囲に定め、また、逃げ面上の刃先16から100μm離れた位置までの領域17における粒径が0.15μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合を20%以下と定めることにより、硬質被覆層中の圧縮残留応力の値が2.0〜2.7GPaであり、さらに刃先のクラック占有率β/αが0.3〜1である被覆切削工具を効率良く製造することができる。
(c)硬質被覆層の蒸着形成
この発明の硬質被覆層は、図2Aおよび図2Bに示すようなアークイオンプレーティング装置(AIP装置)を用い、工具基体の温度を370〜450℃に維持しつつ、工具基体をAIP装置内で自転および公転させ、ターゲット表面中心とターゲットに最近接した工具基体間に所定の磁場(積算磁力が140〜400mT×mm)を印加しながら蒸着することによって、形成することができる。
例えば、AIP装置の一方には基体洗浄用のTi電極からなるカソード電極、他方にはAl−Cr合金からなるターゲット(カソード電極)を設ける。このAl−Cr合金中のAl含量は55at%Al〜78at%Alが好ましい。Cr含量は、上記Al含量に対応して、22at%Cr〜45at%Crが好ましい。例えば、70at%Al−30at%Cr合金からなるターゲット(カソード電極)を設ける。
まず、炭化タングステン(WC)基超硬合金からなる工具基体を洗浄・乾燥し、AIP装置内の回転テーブル上に装着し、真空中で基体洗浄用のTi電極とアノード電極との間に100Aのアーク放電を発生させて、工具基体に−1000Vのバイアス電圧を印加しつつ工具基体表面をボンバード洗浄する。
ついで、Al−Cr合金ターゲットの表面中心からターゲットに最近接した工具基体までの積算磁力が140〜400mT×mmなる磁場を印加する。
ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入する。これにより装置内の雰囲気圧力は、9.0Pa〜9.6Paの範囲内に保たれる。例えば、9.3Paの雰囲気圧力とされる。さらに、工具基体の温度を370〜450℃に維持し、工具基体に−50Vのバイアス電圧を印加しつつ、Al−Cr合金ターゲット(カソード電極)とアノード電極との間に100Aのアーク放電を発生させる。工具基体がターゲットに最接近した際には、逃げ面の一部又は全部とターゲット面が水平となるように工具基体を支持して自公転させつつ蒸着することによって、本願発明の被覆工具13の有する硬質被覆層を蒸着形成することができる。
なお、上記のAl−Cr合金ターゲットと工具基体間での磁場の印加は、例えば、カソード周辺に磁場発生源である電磁コイル又は永久磁石を設置する、あるいは、AIP装置の内部、中心部に永久磁石を配置する等、任意の手段で磁場を形成することができる。
ここで本発明における積算磁力は、以下の算出方法により算出する。
磁束密度計にて、Al−Cr合金ターゲット中心から工具基体の位置までの直線上を10mm間隔で磁束密度を測定する。磁束密度は単位mT(ミリテスラ)で表し、ターゲット表面から工具基体の位置までの距離は単位mm(ミリメートル)で表す。さらに、ターゲット表面から工具基体の位置までの距離を横軸とし、磁束密度を縦軸のグラフで表現した場合、面積に相当する値を積算磁力(mT×mm)と定義する。
ここで工具基体の位置は、Al−Cr合金ターゲットに最近接する位置とする。なお、磁束密度の測定は磁場を形成している状態であれば、放電中でなくても良く、例えば大気圧下にて放電させていない状態で測定しても良い。
この発明の硬質被覆層は、図2Aおよび図2Bに示すようなアークイオンプレーティング装置(AIP装置)を用い、工具基体の温度を370〜450℃に維持しつつ、工具基体をAIP装置内で自転および公転させ、ターゲット表面中心とターゲットに最近接した工具基体間に所定の磁場(積算磁力が140〜400mT×mm)を印加しながら蒸着することによって、形成することができる。
例えば、AIP装置の一方には基体洗浄用のTi電極からなるカソード電極、他方にはAl−Cr合金からなるターゲット(カソード電極)を設ける。このAl−Cr合金中のAl含量は55at%Al〜78at%Alが好ましい。Cr含量は、上記Al含量に対応して、22at%Cr〜45at%Crが好ましい。例えば、70at%Al−30at%Cr合金からなるターゲット(カソード電極)を設ける。
まず、炭化タングステン(WC)基超硬合金からなる工具基体を洗浄・乾燥し、AIP装置内の回転テーブル上に装着し、真空中で基体洗浄用のTi電極とアノード電極との間に100Aのアーク放電を発生させて、工具基体に−1000Vのバイアス電圧を印加しつつ工具基体表面をボンバード洗浄する。
ついで、Al−Cr合金ターゲットの表面中心からターゲットに最近接した工具基体までの積算磁力が140〜400mT×mmなる磁場を印加する。
ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入する。これにより装置内の雰囲気圧力は、9.0Pa〜9.6Paの範囲内に保たれる。例えば、9.3Paの雰囲気圧力とされる。さらに、工具基体の温度を370〜450℃に維持し、工具基体に−50Vのバイアス電圧を印加しつつ、Al−Cr合金ターゲット(カソード電極)とアノード電極との間に100Aのアーク放電を発生させる。工具基体がターゲットに最接近した際には、逃げ面の一部又は全部とターゲット面が水平となるように工具基体を支持して自公転させつつ蒸着することによって、本願発明の被覆工具13の有する硬質被覆層を蒸着形成することができる。
なお、上記のAl−Cr合金ターゲットと工具基体間での磁場の印加は、例えば、カソード周辺に磁場発生源である電磁コイル又は永久磁石を設置する、あるいは、AIP装置の内部、中心部に永久磁石を配置する等、任意の手段で磁場を形成することができる。
ここで本発明における積算磁力は、以下の算出方法により算出する。
磁束密度計にて、Al−Cr合金ターゲット中心から工具基体の位置までの直線上を10mm間隔で磁束密度を測定する。磁束密度は単位mT(ミリテスラ)で表し、ターゲット表面から工具基体の位置までの距離は単位mm(ミリメートル)で表す。さらに、ターゲット表面から工具基体の位置までの距離を横軸とし、磁束密度を縦軸のグラフで表現した場合、面積に相当する値を積算磁力(mT×mm)と定義する。
ここで工具基体の位置は、Al−Cr合金ターゲットに最近接する位置とする。なお、磁束密度の測定は磁場を形成している状態であれば、放電中でなくても良く、例えば大気圧下にて放電させていない状態で測定しても良い。
つぎに、この発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、平均粒径:5.5μmを有する中粗粒WC粉末、同0.8μmの微粒WC粉末、同1.3μmのTaC粉末、同1.2μmのNbC粉末、同1.2μmのZrC粉末、同2.3μmのCr3C2粉末、同1.5μmのVC粉末、同1.0μmの(Ti,W)C[質量比で、TiC/WC=50/50]粉末、および同1.8μmのCo粉末を用意した。これら原料粉末をそれぞれ表5に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した。その後、100MPaの圧力で所定形状の各種の圧粉体に押出しプレス成形し、得られた圧粉体を、6Paの真空雰囲気中、7℃/分の昇温速度で1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に昇温した。さらに、この温度で1時間保持した後、炉冷の条件で焼結して、直径が10mmの工具基体形成用丸棒焼結体を形成した。さらに上記丸棒焼結体から、研削加工にて、切刃部の直径×長さが6mm×13mmの寸法で、ねじれ角30度の2枚刃ボール形状をもったWC基超硬合金製の工具基体(エンドミル)1〜3及び、並びに切刃部の直径×長さが10mm×22mmの寸法で2枚刃スクエア形状をもったWC基超硬合金製の工具基体(エンドミル)4、5をそれぞれ製造した。
(a)上記の工具基体1〜5のそれぞれを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、図2Aおよび図2Bに示すAIP装置の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部にそって装着した。そして、AIP装置の一方にボンバード洗浄用のTiカソード電極を、他方側に70at%Al−30at%Cr合金からなるターゲット(カソード電極)を配置した。
(b)次に、装置内を排気して真空に保持しながら、ヒータで工具基体を400℃に加熱した後、上記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ、Tiカソード電極とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させた。上記の手順により、工具基体表面はボンバード洗浄される。
(c)ついで、上記Al−Cr合金ターゲットの表面中心から工具基体までの積算磁力が140〜400mT×mmの範囲内となるように種々の磁場を印加する。
ここで積算磁力の算出方法を以下に記述する。磁束密度計にて、Al−Cr合金ターゲット中心から工具基体の位置までの直線上を10mm間隔で磁束密度を測定する。磁束密度は単位mT(ミリテスラ)で表し、ターゲット表面から工具基体の位置までの距離は単位mm(ミリメートル)で表す。さらに、ターゲット表面から工具基体の位置までの距離を横軸とし、磁束密度を縦軸のグラフで表現した場合、面積に相当する値を積算磁力(mT×mm)と定義する。ここで工具基体の位置は、Al−Cr合金ターゲットに最近接する位置とする。なお、磁束密度の測定は、磁場を形成している状態で大気圧下にて事前に放電させていない状態で測定した。
(d)ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して9.3Paの反応雰囲気とした。上記手順と同時に、上記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体の温度を370〜450℃の範囲内に維持するとともに−50Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ上記Al−Cr合金ターゲットとアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させた。上記の手順により、上記工具基体の表面に、表2に示される組成および目標平均層厚の(Al,Cr)N層からなる硬質被覆層を蒸着形成した。
上記の工程(a)から(d)を経て、本発明の被覆工具としての表面被覆エンドミル1〜7(以下、本発明1〜7という)をそれぞれ製造した。
なお、図2Aおよび図2Bに示すAIP装置では、工具基体がAl−Cr合金ターゲットに最接近する際に、逃げ面の一部又は全部とAl−Cr合金ターゲット面が水平となるように装着支持した。
(b)次に、装置内を排気して真空に保持しながら、ヒータで工具基体を400℃に加熱した後、上記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ、Tiカソード電極とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させた。上記の手順により、工具基体表面はボンバード洗浄される。
(c)ついで、上記Al−Cr合金ターゲットの表面中心から工具基体までの積算磁力が140〜400mT×mmの範囲内となるように種々の磁場を印加する。
ここで積算磁力の算出方法を以下に記述する。磁束密度計にて、Al−Cr合金ターゲット中心から工具基体の位置までの直線上を10mm間隔で磁束密度を測定する。磁束密度は単位mT(ミリテスラ)で表し、ターゲット表面から工具基体の位置までの距離は単位mm(ミリメートル)で表す。さらに、ターゲット表面から工具基体の位置までの距離を横軸とし、磁束密度を縦軸のグラフで表現した場合、面積に相当する値を積算磁力(mT×mm)と定義する。ここで工具基体の位置は、Al−Cr合金ターゲットに最近接する位置とする。なお、磁束密度の測定は、磁場を形成している状態で大気圧下にて事前に放電させていない状態で測定した。
(d)ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して9.3Paの反応雰囲気とした。上記手順と同時に、上記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体の温度を370〜450℃の範囲内に維持するとともに−50Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ上記Al−Cr合金ターゲットとアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させた。上記の手順により、上記工具基体の表面に、表2に示される組成および目標平均層厚の(Al,Cr)N層からなる硬質被覆層を蒸着形成した。
上記の工程(a)から(d)を経て、本発明の被覆工具としての表面被覆エンドミル1〜7(以下、本発明1〜7という)をそれぞれ製造した。
なお、図2Aおよび図2Bに示すAIP装置では、工具基体がAl−Cr合金ターゲットに最接近する際に、逃げ面の一部又は全部とAl−Cr合金ターゲット面が水平となるように装着支持した。
比較例1:
比較の目的で、上記実施例1における(c)の条件を変更し(即ち、Al−Cr合金ターゲットの表面中心から工具基体までの積算磁力を140mT×mm未満、あるいは400mT×mmを超える)、また、(d)の条件を変更し(即ち、工具基体が370℃未満、あるいは450℃を超える温度に維持し)て、その他は実施例1と同一の条件で、比較例被覆工具としての表面被覆エンドミル1〜5(以下、比較例1〜5という)をそれぞれ製造した。さらに、実施例1から被覆層中のAlとCrの合量に占めるCrの含有割合が0.2〜0.5の範囲外、被覆層の平均層厚が2〜10μmの範囲外の表面被覆エンドミル6〜10をそれぞれ製造した。
比較の目的で、上記実施例1における(c)の条件を変更し(即ち、Al−Cr合金ターゲットの表面中心から工具基体までの積算磁力を140mT×mm未満、あるいは400mT×mmを超える)、また、(d)の条件を変更し(即ち、工具基体が370℃未満、あるいは450℃を超える温度に維持し)て、その他は実施例1と同一の条件で、比較例被覆工具としての表面被覆エンドミル1〜5(以下、比較例1〜5という)をそれぞれ製造した。さらに、実施例1から被覆層中のAlとCrの合量に占めるCrの含有割合が0.2〜0.5の範囲外、被覆層の平均層厚が2〜10μmの範囲外の表面被覆エンドミル6〜10をそれぞれ製造した。
上記で作製した本発明1〜7および比較例1〜10について、その縦断面の硬質被覆層の結晶粒形態を観察したところ、いずれもアスペクト比が1以上6以下の粒状結晶組織から構成されていた。アスペクト比は、結晶粒断面で最も長い直径(長辺)とそれに垂直な直径(短辺)の長さの比を、長辺を分子、短辺を分母として算出するものとする。
さらに、該粒状結晶の結晶粒径を走査型電子顕微鏡(SEM)で測定し、逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの領域における表面粒径、界面粒径を求めた。具体的には、逃げ面上の刃先、及び逃げ面上において刃先から50μm離れた位置、及び刃先から100μm離れた位置の3箇所にて、幅10μmの範囲内に存在する結晶の平均粒径を算出し、3箇所の位置での平均値を算出することから求めた。
また、同様にして、逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの領域において、粒径が0.15μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合を、逃げ面上の刃先、及び逃げ面上において刃先から50μm離れた位置、及び刃先から100μm離れた位置での界面及び表面の計6箇所にて測定することにより求めた。
表2、表3に、上記で測定・算出したそれぞれの値を示す。
さらに、該粒状結晶の結晶粒径を走査型電子顕微鏡(SEM)で測定し、逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの領域における表面粒径、界面粒径を求めた。具体的には、逃げ面上の刃先、及び逃げ面上において刃先から50μm離れた位置、及び刃先から100μm離れた位置の3箇所にて、幅10μmの範囲内に存在する結晶の平均粒径を算出し、3箇所の位置での平均値を算出することから求めた。
また、同様にして、逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの領域において、粒径が0.15μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合を、逃げ面上の刃先、及び逃げ面上において刃先から50μm離れた位置、及び刃先から100μm離れた位置での界面及び表面の計6箇所にて測定することにより求めた。
表2、表3に、上記で測定・算出したそれぞれの値を示す。
なお、上記結晶粒径の測定法、粒径が0.15μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合の測定法をより具体的にいえば、以下のとおりである。
被覆工具の切れ刃先端のコーナー部を含み、逃げ面の断面を研磨加工した後、その断面をSEM像にて、観察する。測定条件として、観察倍率:10000倍、加速電圧:3kVの条件を使用した。硬質被覆層表面から深さ0.5μmの領域に形成されている各結晶粒を用い、工具基体表面と平行に直線を引き、結晶粒界間の距離を粒径と定義する。なお、工具基体表面と平行に直線を引く位置は、各結晶粒において最長の結晶粒径となる位置とする。逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの領域、具体的な測定点としては、逃げ面上の刃先、及び逃げ面上において刃先から50μm離れた位置、及び刃先から100μm離れた位置の3箇所で、幅10μmの範囲内に存在する結晶の結晶粒径を測定し、さらに、その3箇所での平均結晶粒径の平均値を表面粒径とした。幅10μmの粒径を測定するにあたり、各測定箇所を中心に刃先側5μm、刃先と逆側5μmの測定データを用いた。ただし、逃げ面上の刃先の箇所においては、刃先から5μm離れた位置を中心として、刃先側5μm、刃先と逆側5μmの幅10μmの範囲内で測定した。また、硬質被覆層内における工具基体と硬質被覆層の界面から厚さ0.5μmの領域に形成されている各結晶粒においても同様の方法にて界面粒径を算出した。
また、粒径が0.15μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合の測定方法は、上記粒径を測定した界面3箇所、及び表面3箇所にて測定した結晶粒径の全測定データを用いる。測定した全結晶粒径の和に対する、粒径が0.15μm以下の結晶粒径の和を粒径が0.15μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合とした。
被覆工具の切れ刃先端のコーナー部を含み、逃げ面の断面を研磨加工した後、その断面をSEM像にて、観察する。測定条件として、観察倍率:10000倍、加速電圧:3kVの条件を使用した。硬質被覆層表面から深さ0.5μmの領域に形成されている各結晶粒を用い、工具基体表面と平行に直線を引き、結晶粒界間の距離を粒径と定義する。なお、工具基体表面と平行に直線を引く位置は、各結晶粒において最長の結晶粒径となる位置とする。逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの領域、具体的な測定点としては、逃げ面上の刃先、及び逃げ面上において刃先から50μm離れた位置、及び刃先から100μm離れた位置の3箇所で、幅10μmの範囲内に存在する結晶の結晶粒径を測定し、さらに、その3箇所での平均結晶粒径の平均値を表面粒径とした。幅10μmの粒径を測定するにあたり、各測定箇所を中心に刃先側5μm、刃先と逆側5μmの測定データを用いた。ただし、逃げ面上の刃先の箇所においては、刃先から5μm離れた位置を中心として、刃先側5μm、刃先と逆側5μmの幅10μmの範囲内で測定した。また、硬質被覆層内における工具基体と硬質被覆層の界面から厚さ0.5μmの領域に形成されている各結晶粒においても同様の方法にて界面粒径を算出した。
また、粒径が0.15μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合の測定方法は、上記粒径を測定した界面3箇所、及び表面3箇所にて測定した結晶粒径の全測定データを用いる。測定した全結晶粒径の和に対する、粒径が0.15μm以下の結晶粒径の和を粒径が0.15μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合とした。
さらに、硬質被覆層中の圧縮残留応力の値は、X線回折を利用した2θ―sin2φ法により、AlCrN(420)面のピークを利用して算出した。
表2、表3に、上記で測定した圧縮残留応力値を示す。
表2、表3に、上記で測定した圧縮残留応力値を示す。
さらに、本発明1〜7および比較例1〜10の刃先角度αを測定するとともに、切れ刃先端のコーナー部の硬質被覆層の中の連続クラックの占有角度βを測定し、クラック占有率β/αの値を算出した。
表2、表3に、これらの値を示す。
なお、上記刃先角度α、連続クラックの占有角度βの測定法をより具体的にいえば、以下のとおりである。
結晶粒径を測定するために観察したSEM像のうち、切れ刃先端部の断面SEM像を用いる。測定条件は、観察倍率:10000倍、加速電圧:3kVの条件を使用した。本発明3の切れ刃先端部の断面SEM像を図4Aに、模式図を図4Bに示す。以下、図4Bを用いて説明する。ここでは、逃げ面上の刃先をA、すくい面上の刃先をBとする。Aを通る逃げ面の垂線、Bを通るすくい面の垂線を引き、双方の垂線の交点を中心Oとする。刃先角度α(度)はA−O−Bのなす角度とする。
また、切れ刃先端のコーナー部の硬質被覆層中に形成されている連続クラックについて、上記中心Oから該クラックを投影させた場合、Aを通る逃げ面の垂線に最も近い箇所をCとし、Bを通るすくい面の垂線に最も近い箇所をDとする。連続クラックの占有角度β(度)はC−O−Dのなす角度とする。なお、切れ刃先端のコーナー部の硬質被覆層中に複数のクラックが存在する場合、最大値を示す連続クラックにて算出した値を連続クラックの占有角度βと定義する。
そして、(連続クラックの占有角度β)/(刃先角度α)の値を、クラック占有率であると定義する。
表2、表3に、これらの値を示す。
なお、上記刃先角度α、連続クラックの占有角度βの測定法をより具体的にいえば、以下のとおりである。
結晶粒径を測定するために観察したSEM像のうち、切れ刃先端部の断面SEM像を用いる。測定条件は、観察倍率:10000倍、加速電圧:3kVの条件を使用した。本発明3の切れ刃先端部の断面SEM像を図4Aに、模式図を図4Bに示す。以下、図4Bを用いて説明する。ここでは、逃げ面上の刃先をA、すくい面上の刃先をBとする。Aを通る逃げ面の垂線、Bを通るすくい面の垂線を引き、双方の垂線の交点を中心Oとする。刃先角度α(度)はA−O−Bのなす角度とする。
また、切れ刃先端のコーナー部の硬質被覆層中に形成されている連続クラックについて、上記中心Oから該クラックを投影させた場合、Aを通る逃げ面の垂線に最も近い箇所をCとし、Bを通るすくい面の垂線に最も近い箇所をDとする。連続クラックの占有角度β(度)はC−O−Dのなす角度とする。なお、切れ刃先端のコーナー部の硬質被覆層中に複数のクラックが存在する場合、最大値を示す連続クラックにて算出した値を連続クラックの占有角度βと定義する。
そして、(連続クラックの占有角度β)/(刃先角度α)の値を、クラック占有率であると定義する。
つぎに、上記本発明1〜7および比較例1〜10のエンドミルのうち、
本発明1〜3、6、7および比較例1〜3、6〜8については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S55Cの板材、
回転速度: 16000 min.−1、
縦方向切り込み: 2.0 mm、
横方向切り込み: 0.3 mm
送り速度(1刃当り): 0.06 mm/tooth、
切削長:340m、
の条件(切削条件Aという)での炭素鋼の溝切削加工試験を実施し、また、本発明4、5および比較例4、5、9、10については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmの
JIS・S55Cの板材、
回転速度: 3200 min.−1、
縦方向切り込み: 10mm、
横方向切り込み: 1mm
送り速度(1刃当り): 0.07 mm/tooth、
切削長:90m、
の条件(切削条件Bという)での炭素鋼の溝切削加工試験を実施し、
いずれの溝切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
この測定結果を表4に示した。
本発明1〜3、6、7および比較例1〜3、6〜8については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S55Cの板材、
回転速度: 16000 min.−1、
縦方向切り込み: 2.0 mm、
横方向切り込み: 0.3 mm
送り速度(1刃当り): 0.06 mm/tooth、
切削長:340m、
の条件(切削条件Aという)での炭素鋼の溝切削加工試験を実施し、また、本発明4、5および比較例4、5、9、10については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmの
JIS・S55Cの板材、
回転速度: 3200 min.−1、
縦方向切り込み: 10mm、
横方向切り込み: 1mm
送り速度(1刃当り): 0.07 mm/tooth、
切削長:90m、
の条件(切削条件Bという)での炭素鋼の溝切削加工試験を実施し、
いずれの溝切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
この測定結果を表4に示した。
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr3C2粉末、TiN粉末、TaN粉末、およびCo粉末を用意した。これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、ボールミルで72時間湿式混合し、乾燥した後、100MPaの圧力で圧粉体にプレス成形した。得られた圧粉体を6Paの真空中、温度:1400℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、刃先部分にR:0.03のホーニング加工を施し、さらに仕上げ研磨を施すことにより、ISO規格・SNGA120408のインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体6〜10を形成した。
ついで、これらの工具基体(インサート)6〜10の表面をアセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図2Aおよび図2Bに示すAIP装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、表6に示される組成および目標平均層厚の(Al,Cr)N層からなる硬質被覆層を形成することにより、本発明被覆工具としての本発明表面被覆インサート(以下、本発明8〜14という)をそれぞれ製造した。
比較例2:
比較の目的で、上記の工具基体(インサート)6−10に対して、上記比較例1と同一の条件で、表7に示される組成および目標平均層厚の(Al,Cr)N層からなる硬質被覆層を形成することにより、比較例被覆工具としての比較例表面被覆インサート(以下、比較例11〜20という)をそれぞれ製造した。
比較の目的で、上記の工具基体(インサート)6−10に対して、上記比較例1と同一の条件で、表7に示される組成および目標平均層厚の(Al,Cr)N層からなる硬質被覆層を形成することにより、比較例被覆工具としての比較例表面被覆インサート(以下、比較例11〜20という)をそれぞれ製造した。
上記で作製した本発明8〜14および比較例11〜20について、その縦断面の硬質被覆層の結晶粒形態を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、いずれも、アスペクト比が1以上6以下の粒状結晶組織から構成されていた。
また、上記で作製した本発明8〜14および比較例11〜20について、本発明1〜7、比較例1〜10の場合と同様に結晶粒の表面粒径、界面粒径を求めた。
また、逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの領域(即ち、逃げ面上の刃先、及び逃げ面上において刃先から50μm離れた位置、及び刃先から100μm離れた位置の3箇所)における、粒径が0.15μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合を測定した。
さらに、硬質被覆層中の圧縮残留応力の値を測定した。
また、刃先角度α、連続クラックの占有角度β、クラック占有率β/αの値についても測定・算出した。
表6、表7に、上記で測定・算出したそれぞれの値を示す。
また、上記で作製した本発明8〜14および比較例11〜20について、本発明1〜7、比較例1〜10の場合と同様に結晶粒の表面粒径、界面粒径を求めた。
また、逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの領域(即ち、逃げ面上の刃先、及び逃げ面上において刃先から50μm離れた位置、及び刃先から100μm離れた位置の3箇所)における、粒径が0.15μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合を測定した。
さらに、硬質被覆層中の圧縮残留応力の値を測定した。
また、刃先角度α、連続クラックの占有角度β、クラック占有率β/αの値についても測定・算出した。
表6、表7に、上記で測定・算出したそれぞれの値を示す。
つぎに、上記本発明8〜14、比較例11〜20の被覆インサートを、いずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、
被削材:JIS・SCM440の丸棒、
切削速度:150m/min.、
切り込み:1.5mm、
送り:0.3mm/rev.、
切削時間:3分、
の条件(切削条件Cという)での合金鋼(クロムモリブデン鋼)の乾式連続切削加工試験を実施し、切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
この測定結果を表8に示した。
被削材:JIS・SCM440の丸棒、
切削速度:150m/min.、
切り込み:1.5mm、
送り:0.3mm/rev.、
切削時間:3分、
の条件(切削条件Cという)での合金鋼(クロムモリブデン鋼)の乾式連続切削加工試験を実施し、切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
この測定結果を表8に示した。
表4,8に示される結果から、本発明被覆工具は、(Al,Cr)N層からなる硬質被覆層の粒状結晶粒の表面粒径、界面粒径を特定の数値範囲に定め、また、逃げ面上の刃先から100μm離れた位置までの領域における粒径が0.15μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合を20%以下と定めることにより、また、硬質被覆層中の圧縮残留応力を2.0〜2.7GPaと定めることにより、さらに、クラック占有率を0.3〜1.0と定めることにより、炭素鋼、合金鋼などの切削加工においてすぐれた耐チッピング性とともにすぐれた耐摩耗性を発揮するものである。
これに対して、硬質被覆層の構造が本発明で規定する範囲を外れる比較例被覆工具では、チッピング発生あるいは耐摩耗性の低下によって、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
これに対して、硬質被覆層の構造が本発明で規定する範囲を外れる比較例被覆工具では、チッピング発生あるいは耐摩耗性の低下によって、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
上述のように、この発明の被覆工具は、炭素鋼、合金鋼などの切削加工に供した場合に長期に亘ってすぐれた切削性能を示すものであるから、切削加工装置のFA化、並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
1 アークイオンプレーティング装置
2 チャンバー
3 回転テーブル
4 超硬基体
5 ヒーター
6 アノード電極
7 カソード電極
8 磁力発生源
9 反応ガス導入口
10 排ガス口
11 バイアス電源
12 アーク電源
13 被覆切削工具
14 工具基体
15 硬質被覆層
16、A 逃げ面刃先
B すくい面刃先
17 逃げ面刃先15から100μm離れた位置までの領域
18 領域16における工具基体と硬質被覆層との界面
19 領域16上に形成された硬質被覆層表面
20 領域16上に形成された硬質被覆層
21A 基体逃げ面
21B 被覆工具逃げ面
22A 基体すくい面
22B 被覆工具すくい面
23 基体逃げ面21および基体すくい面22の仮想延長線の交点23
L 交点23から逃げ面刃先16までの距離(μm)
r コーナー部の曲率半径(μm)
θ 基体逃げ面21および基体すくい面22の延長線のなす角度(度)
α 被覆工具の刃先角度(度)
β α度の角度範囲内の硬質被覆層中に形成されている連続クラックの占有角度(度)
O 中心
A 逃げ面刃先
B すくい面刃先
C、D クラックの端部
CR1 刃先角度α内における最大角度βを示すクラック
CR2、CR3 クラック
2 チャンバー
3 回転テーブル
4 超硬基体
5 ヒーター
6 アノード電極
7 カソード電極
8 磁力発生源
9 反応ガス導入口
10 排ガス口
11 バイアス電源
12 アーク電源
13 被覆切削工具
14 工具基体
15 硬質被覆層
16、A 逃げ面刃先
B すくい面刃先
17 逃げ面刃先15から100μm離れた位置までの領域
18 領域16における工具基体と硬質被覆層との界面
19 領域16上に形成された硬質被覆層表面
20 領域16上に形成された硬質被覆層
21A 基体逃げ面
21B 被覆工具逃げ面
22A 基体すくい面
22B 被覆工具すくい面
23 基体逃げ面21および基体すくい面22の仮想延長線の交点23
L 交点23から逃げ面刃先16までの距離(μm)
r コーナー部の曲率半径(μm)
θ 基体逃げ面21および基体すくい面22の延長線のなす角度(度)
α 被覆工具の刃先角度(度)
β α度の角度範囲内の硬質被覆層中に形成されている連続クラックの占有角度(度)
O 中心
A 逃げ面刃先
B すくい面刃先
C、D クラックの端部
CR1 刃先角度α内における最大角度βを示すクラック
CR2、CR3 クラック
Claims (5)
- 炭化タングステン基超硬合金で構成された工具基体の表面に、平均層厚が2〜10μmの硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
(a)上記硬質被覆層は、AlとCrの複合窒化物層からなり、AlとCrの合量に占めるCrの含有割合は、0.2〜0.5(但し、原子比)であり、
(b)上記表面被覆切削工具の上記工具基体の逃げ面上の刃先から、上記逃げ面上で上記逃げ面刃先から反対側に向けて100μm離れた位置までの領域上に蒸着形成された硬質被覆層は、粒状結晶組織を有し、上記領域上に形成された上記硬質被覆層表面の粒状結晶粒の平均粒径は0.2〜0.5μmであり、上記領域における上記工具基体と上記硬質被覆層の界面における粒状結晶粒の平均粒径は、上記硬質被覆層表面の上記粒状結晶粒の平均粒径より0.02〜0.1μm小さく、粒径が0.15μm以下の結晶粒が占める結晶粒径長割合は20%以下であることを特徴とする表面被覆切削工具。 - 上記硬質被覆層中の圧縮残留応力は2.0〜2.7GPaであることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
- 上記表面被覆切削工具の刃先角度をα度とし、該α度の角度範囲内の切れ刃先端のコーナー部の硬質被覆層中に形成されている連続クラックの占有角度をβ度とした場合、クラック占有率β/αが0.3〜1.0であることを特徴とする請求項1または2に記載の表面被覆切削工具。
- 上記粒状結晶組織に含まれる結晶粒のアスペクト比は1以上6以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具。
- 炭化タングステン基超硬合金で構成された工具基体の表面に、平均層厚が2〜10μmの硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具の製造方法であって、
アノード電極と、Al−Cr合金からなるターゲットと、上記ターゲットの背面側に設けられた磁力発生源を備えるアークイオンプレーティング装置内に、炭化タングステン基超硬合金からなる工具基体を装入する基体装入工程と、
上記工具基体上にAlとCrの複合窒化物層からなる硬質被覆層を蒸着形成する蒸着工程とを備え、
上記蒸着工程は、
上記アークイオンプレーティング装置内に窒素ガスを導入するガス導入工程と、
上記ターゲットと上記工具基体の間に、上記磁力発生源により、積算磁力が140〜400mT×mmの範囲内となる磁場を印加する印加工程と、
上記工具基体にバイアス電圧を印加しつつ、上記ターゲットと上記アノード電極との間にアーク放電を発生させる放電工程と、
上記工具基体を上記アークイオンプレーティング装置内で自転および公転させる自公転工程とを有し、
上記工具基体が上記ターゲットに最接近した際には、上記工具基体の逃げ面の一部又は全部と上記ターゲットの上記工具基体側の面が水平となるように上記工具基体は支持されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具の製造方法。
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Legal Events
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A02 | Decision of refusal |
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