JP4725770B2 - 高反応性被削材の高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆超硬合金製切削工具 - Google Patents
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Description
組成式:(Ti1-XAlX)N(ただし、原子比で、Xは0.45〜0.75を示す)、
を満足するTiとAlの複合窒化物[以下、(Ti,Al)Nで示す]層からなる硬質被覆層を0.8〜10μmの平均層厚で物理蒸着してなる被覆超硬工具が知られており、前記(Ti,Al)N層が、構成成分であるAlによって高温硬さと耐熱性、同Tiによって高温強度を具備することから、前記被覆超硬工具を各種の鋼や鋳鉄などの連続切削や断続切削加工に用いた場合にすぐれた切削性能を発揮することも知られている。
(a)上記従来被覆超硬工具の硬質被覆層である(Ti,Al)N層を下部層とし、これの上に上部層として、硼化タングステン(以下、WBで示す)層を形成すると、前記WB層はすぐれた熱伝導性を有することから、高速切削時に発生した高熱で硬質被覆層が過熱されても、前記WB層によるすぐれた抜熱効果によって、前記硬質被覆層の温度上昇が著しく抑制され、摩耗進行が抑制されるようになるが、前記WB層は前記(Ti,Al)N層の下部層と同様に上記のTi合金や高Si含有Al合金、さらに軟鋼などの高反応性被削材との反応性が高いために、反応摩耗も発生し、長期に亘ってすぐれた熱伝導性を発揮することは困難であること。
組成式:(W1-YTaY)B(ただし、原子比で、Yは0.10〜0.40を示す)、
を満足するWとTaの複合硼化物[以下、(W,Ta)Bで示す]層とすると、前記(W,Ta)B層においては、すぐれた熱伝導性を保持したままで、Ta成分の作用で層自体の高反応性被削材との反応性が著しく抑制されるようになることから、硬質被覆層の下部層が上記の(Ti,Al)N層、同上部層が前記(W,Ta)B層で構成された被覆超硬工具は、前記(W,Ta)B層の有する一段とすぐれた熱伝導性によって、高速切削時に発生した高熱で硬質被覆層が過熱されても、すぐれた抜熱効果を発揮し、前記硬質被覆層の温度上昇が著しく抑制され、かつ(W,Ta)B層自身もTaの作用で前記高反応性被削材との反応性のきわめて低いものとなっており、反応摩耗が著しく低減されるので、前記下部層である(Ti,Al)N層は高熱発生環境下で、自身の具備するすぐれた高温硬さと耐熱性、さらにすぐれた高温強度を長期に亘って十分に発揮することが可能となること。
以上(a)〜(c)に示される研究結果を得たのである。
(a)0.8〜5μmの平均層厚を有し、かつ、組成式:(Ti1-XAlX)N(ただし、原子比で、Xは0.45〜0.75を示す)を満足する(Ti,Al)N層からなる下部層、
(b)0.8〜5μmの平均層厚を有し、かつ、組成式:(W1-YTaY)B(ただし、原子比で、Yは0.10〜0.40を示す)を満足する(W,Ta)B層からなる上部層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる、特に高反応性被削材の高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する被覆超硬工具に特徴を有するものである。
(a)下部層の組成式のX値および平均層厚
硬質被覆層の下部層を構成する(Ti,Al)N層におけるAl成分には高温硬さと耐熱性を向上させ、一方同Ti成分には、高温強度を向上させる作用があるが、Alの割合を示すX値がTiとの合量に占める割合(原子比、以下同じ)で0.45未満になると、相対的にTiの割合が多くなり過ぎて、高速切削に要求されるすぐれた高温硬さと耐熱性を確保することができなくなり、摩耗進行が急激に促進するようになり、一方同X値が同0.75を越えると、相対的にTiの割合が少なくなり過ぎて、高温強度が急激に低下し、この結果切刃部にチッピング(微少欠け)などが発生し易くなり、摩耗進行が急激に促進するようになることから、X値を0.45〜0.75と定めた。
また、その平均層厚が0.8μm未満では、自身のもつすぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するには不十分であり、一方その平均層厚が5μmを越えると、上部層を構成する(W,Ta)B層の層厚を上記の範囲内で厚い方に定めた場合に、切刃部にチッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を0.8〜5μmと定めた。
上部層を構成する(W,Ta)B層は、上記の通り熱伝導性のすぐれたWBに、自身の高反応性被削材との反応性を低下させ、もって前記高反応性被削材との反応による摩耗促進を抑制する目的でTa成分を固溶含有するものであり、したがって特に熱発生が著しい耐熱合金の高速切削加工で、硬質被覆層の抜熱を促進して、硬質被覆層の下部層である(Ti,Al)N層の過熱を著しく抑制し、もって前記(Ti,Al)N層が熱塑性変形せず、正常摩耗形態で、上記の具備するすぐれた特性を十分に発揮できるようにする作用を有し、さらにTa成分の作用で前記(Ti,Al)N層および(W,Ta)B層自身の高反応性被削材との反応を抑制し、前記(Ti,Al)N層による作用効果を長期に亘って持続させる作用があるが、Taの割合を示すY値がWとの合量に占める割合(原子比、以下同じ)で0.10未満では、前記作用に所望の向上効果を確保することができないので、反応による摩耗が進行するようになることから、長期に亘って前記(W,Ta)B層によるすぐれた熱伝導性を保持することができなくなり、一方同Y値が同0.40を越えると、相対的にWの割合が少なくなり過ぎて、熱伝導性に低下傾向が現れるようになることから、Y値を0.10〜0.40と定めた。
また、その平均層厚が0.8μm未満では、上記(W,Ta)B層の有する作用効果を十分に、かつ長期に亘って発揮することができず、一方その平均層厚が5μmを越えると、同じく下部層である(Ti,Al)N層の層厚を上記の範囲内で厚い方に定めた場合に、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を0.8〜5μmと定めた。
(b)まず、装置内を排気して0.1Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する超硬基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつカソード電極の前記Ti−Al合金とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって超硬基体表面を前記Ti−Al合金によってボンバード洗浄し、
(c)装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して3Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する超硬基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加し、かつカソード電極の前記Ti−Al合金とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記超硬基体の表面に、表3に示される目標組成および目標層厚の(Ti,Al)N層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成し、
(d)上記の下部層形成用Ti−Al合金のカソード電極とアノード電極との間のアーク放電を停止し、超硬基体への直流バイアス電圧(−100V)は同じくしたままで、前記SP装置のカソード電極(蒸発源)として配置したWB−TaB複合焼結体に、スパッタ出力:3kWの条件でスパッタリングを開始し、同時に前記蒸着装置内の雰囲気を、窒素雰囲気に代って、Arと窒素の混合ガス雰囲気とするが、経時的にArの導入割合を漸次増加させ、一方窒素の導入割合は漸次減少させ、最終的にAr雰囲気として、同じく表3に示される目標組成および目標層厚の(W,Ta)B層を硬質被覆層の上部層として蒸着形成することにより、本発明被覆超硬工具としての本発明表面被覆超硬製スローアウエイチップ(以下、本発明被覆チップと云う)1〜16をそれぞれ製造した。
被削材:JIS・TAP6400(組成、質量%で、Ti−6%Al−4%V)の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:90m/min.、
切り込み:1.5mm、
送り:0.1mm/rev.、
切削時間:5分、
の条件(切削条件Aという)でのTi合金の乾式断続高速切削加工試験(通常の切削速度は50m/min.)、
被削材:JIS・A4032(組成、質量%で、Al−13%Si)の丸棒、
切削速度:350m/min.、
切り込み:2mm、
送り:0.2mm/rev.、
切削時間:6分、
の条件(切削条件Bという)での高Si含有Al合金の乾式連続高速切削加工試験(通常の切削速度は180m/min.)、
被削材:JIS・S10Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:150m/min.、
切り込み:2mm、
送り:0.15mm/rev.、
切削時間:5分、
の条件(切削条件Cという)での軟鋼の乾式断続高速切削加工試験(通常の切削速度は70m/min.)を行い、いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表5に示した。
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法をもったJIS・S10Cの板材、
切削速度:200m/min.、
溝深さ(切り込み):3mm、
テーブル送り:1250mm/分、
の条件での軟鋼の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は100m/min.)、本発明被覆エンドミル4〜6および従来被覆エンドミル4〜6については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法をもった上記組成のTAP6400の板材、
切削速度:150m/min.、
溝深さ(切り込み):5mm、
テーブル送り:900mm/分、
の条件でのTi合金の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は80m/min.)、本発明被覆エンドミル7,8および従来被覆エンドミル7,8については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法をもった上記組成のJIS・A4032の板材、
切削速度:280m/min.、
溝深さ(切り込み):8mm、
テーブル送り:1300mm/分、
の条件での高Si含有Al合金の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は150m/min.)をそれぞれ行い、いずれの溝切削加工試験でも切刃部の外周刃の逃げ面摩耗幅が使用寿命の目安とされる0.1mmに至るまでの切削溝長を測定した。この測定結果を表7にそれぞれ示した。
被削材−平面:100mm×250、厚さ:50mmの寸法をもった上記組成のJIS・A4032の板材、
切削速度:60m/min.、
送り:0.12mm/rev、
穴深さ:10mm、
の条件での高Si含有Al合金の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は30m/min.)、本発明被覆ドリル4〜6および従来被覆ドリル4〜6については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法をもったJIS・S10Cの板材、
切削速度:100m/min.、
送り:0.2mm/rev、
穴深さ:12mm、
の条件での軟鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は50m/min.)、本発明被覆ドリル7,8および従来被覆ドリル7,8については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法をもった上記組成のJIS・TAP6400の板材、
切削速度:100m/min.、
送り:0.35mm/rev、
穴深さ:16mm、
の条件でのTi合金の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は50m/min.)、をそれぞれ行い、いずれの湿式高速穴あけ切削加工試験(水溶性切削油使用)でも先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまでの穴あけ加工数を測定した。この測定結果を表8にそれぞれ示した。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された超硬基体の表面に、
(a)0.8〜5μmの平均層厚を有し、かつ、組成式:(Ti1-XAlX)N(ただし、原子比で、Xは0.45〜0.75を示す)を満足するTiとAlの複合窒化物層からなる下部層、
(b)0.8〜5μmの平均層厚を有し、かつ、組成式:(W1-YTaY)B(ただし、原子比で、Yは0.10〜0.40を示す)を満足するWとTaの複合硼化物層からなる上部層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる、高反応性被削材の高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆超硬合金製切削工具。
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