JP2004298972A - 被覆インサート - Google Patents

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剛史 石川
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Abstract

【課題】Cr系皮膜の欠点である硬度を高めることにより耐摩耗性を改善し、その結果優れた寿命を発揮する被覆インサートを提供することを目的とする。
【解決手段】被覆インサートにおいて、該被覆はアーク放電式イオンプレーティング法により被覆された硬質皮膜であり、該硬質皮膜は、(AlxCr1−x−ySiy)(N1−α−β−γBαCβOγ)、但し、x、y、α、β、γは夫々原子比率を示し、0.45<x<0.75、0≦y<0.2、0≦α<0.12、0≦β<0.2、0.01≦γ≦0.25、からなり、X線回折強度I(200)/I(111)の値が4以下からなり、X線光電子分光分析における525eVから535eVの範囲に、少なくともCr、Al及び/又はSiと酸素との結合エネルギーを有し、該インサートの基体は炭化タングステン基超硬合金からなり、Ni及び/又はCoの和が重量%で4≦(Ni+Co)≦20、としたことを特徴とする被覆インサート。
【選択図】図1

Description

【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は、切削加工に使用されるインサートの表面被覆材として有用な硬質皮膜を被覆することにより、優れた耐摩耗性を発揮する硬質皮膜被覆インサートに関する。
【0002】
【従来の技術】
AlCr系皮膜は、耐高温酸化特性に優れた硬質皮膜材として、下記に示す特許文献1から4が開示されている。
【特許文献1】特許第3027502号公報(第6頁、図1)
【特許文献2】特許第3039381号公報(第4頁、図1)
【特許文献3】特開平2002−160129号公報(第3頁、図1)
【0003】
特許文献1は金属成分としてAlCrとC、N、Oの1種より選択されるAlCr系硬質膜において、高硬度を有する非晶質膜に関する事例が開示されている。しかしこの非晶質膜の硬度は最大でもヌープ硬さ21GPa程度であり、耐摩耗効果は期待できず、密着性に関しても十分ではない。特許文献2及び特許文献3に開示されている硬質皮膜はAlCrの窒化物であり、約1000℃の耐高温酸化特性を有しているが、1000℃以上の耐酸化特性の検討は行われていない。硬度はHV21GPa程度で硬度の改善が不十分であり耐摩耗性に乏しい。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本願発明は、上記の問題点を改善し、Cr系皮膜の欠点である硬度を高めることにより耐摩耗性を改善し、その結果優れた寿命を発揮する被覆インサートを提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するために手段】
本発明は、被覆インサートにおいて、該被覆はアーク放電式イオンプレーティング法により被覆された硬質皮膜であり、該硬質皮膜は、(AlCr1−x−ySi)(N1−α−β−γαβγ)、但し、x、y、α、β、γは夫々原子比率を示し、0.45<x<0.75、0≦y<0.2、0≦α<0.12、0≦β<0.2、0.01≦γ≦0.25、からなり、X線回折における(111)面の回折強度をI(111)、(200)面の回折強度をI(200)とした時、I(200)/I(111)の値が4以下からなり、X線光電子分光分析における525eVから535eVの範囲に、少なくともCr、Al及び/又はSiと酸素との結合エネルギーを有し、該インサートの基体は炭化タングステン基超硬合金からなり、Ni及び/又はCoの和が重量%で4≦(Ni+Co)≦20、としたことを特徴とする被覆インサートである。上記構成を採用することにより、基体と硬質皮膜との密着性に優れ、高硬度化することが可能となり、その結果、優れた耐摩耗性を発揮する本発明の被覆インサートを完成させた。
【0006】
本発明硬質皮膜は、X線回折における(200)面回折ピークの2θの半価幅が、0.5度以上、1度以下の広がりを有する場合、皮膜硬度並びに耐酸化性改善への寄与が大きい。また、ナノインデンテーションによる硬度測定法により接触深さと最大荷重時の最大変位量が求められる(W. C. Oliver and G. M. Pharr: J. Mater. Res., vol.7, No.6, June、1992、1564−1583)。この数値を用いて、
E=100−{(接触深さ)/(最大荷重時の最大変位量)}
の数式で、弾性回復率Eを定義し、30%≦E<40%とすることにより、耐摩耗性と密着性のバランスが最適となる。更に、X線回折によるCrの立方晶系化合物とAlの六方晶系化合物のピークが検出され、該Crの立方晶系化合物の(200)面ピーク強度をQ1、Alの六方晶系化合物の(001)面ピーク強度をQ2とした時、ピーク強度比Q2/Q1の値が、0≦Q2/Q1≦0.1とすることは、皮膜硬度を向上させることに有効である。また、本願発明の硬質皮膜は、硬質皮膜表面の凸部を機械的処理により平滑にすると、表面の摩擦係数が低減しこれによって切屑排出性が改善される。本発明に用いる炭化タングステン基超硬合金は、硬さがHRA88以上、HRC96未満であることが好ましい。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明の硬質皮膜を構成する金属元素の組成は、(AlCr1−x−ySi)において、xが0.45<x<0.75、yが0≦y<0.2を満足する必要がある。xの値が0.45以下では皮膜硬度並びに耐高温酸化特性の改善効果が十分ではなく、xの値が0.75以上、yの値が0.2以上では、残留圧縮応力が過大になり、被覆直後に自己破壊を誘発する場合がある。非金属元素の組成は、(N1−α−β−γBαCβOγ)において、αは0.12以上では皮膜が脆化し、好ましいαの上限値は0.08である。硼素の添加は被加工物との耐溶着性と高温環境下での摩擦係数を低減し、潤滑性を向上させる効果がある。次に、βは、0.2以上で皮膜は脆化する。好ましいβの上限値は0.16である。炭素の添加は硬質皮膜の硬度を高め、室温での摩擦係数の低減し、潤滑性を向上させる効果がある。γは0.01以上、0.25以下にすることが必要である。γが0.01未満では、添加効果を得ることができず、0.25を超えて大きくなると皮膜硬度は低下し、耐摩耗性に乏しくなる。好ましくは、γは、0.05以上0.2以下である。γの添加は、基体と皮膜との密着性向上、皮膜が緻密化することによる高硬度化、酸化物形成により耐高温酸化性の改善に効果的である。更に、金属元素のAl、Cr、Siに対する非金属元素のN、B、C、Oの比は、化学量論的に(N、B、C、O)/(Al、Cr、Si)>1.1がより好ましい。
【0008】
本発明のX線回折における(111)面の回折強度をI(111)、(200)面の回折強度をI(200)とした時、I(200)/I(111)の値が4以下としたのは、皮膜の密着性は残留圧縮応力に強く依存し、この残留圧縮応力は成膜条件であるイオンエネルギーに強く依存している。即ち、イオンエネルギーが低い条件下では皮膜の残留圧縮応力は低い結果となる。逆に、イオンエネルギーが高い条件下では皮膜の残留圧縮応力は高い結果となる。ここで、イオンエネルギーを決定する要素は、具体的には成膜条件であるバイアス電圧、反応ガス圧力であり、これによって制御することができる。本発明は、残留圧縮応力が高い場合、X線回折において皮膜は(111)面に強く配向し、皮膜の硬度も、この高い残留圧縮応力の影響を受けて高硬度とする事が可能となる。一方、皮膜の密着性に着目すると、硬質皮膜内の残留圧縮応力を高くすると、皮膜の高硬度化を達成できるが、基体と皮膜界面とのせん断応力が増大する方向に作用するため、密着性を損なうこととなり、好ましくない。従って、基体と皮膜との密着性及び皮膜硬度とのバランスを最適に制御することが重要となる。本発明では、I(200)/I(111)の値を4以下とすることにより、両者のバランスを最適に制御することを可能にした。I(200)/I(111)の値が4を超えて大きくなると、皮膜の硬度が急激に低下し、インサートに適用する硬質皮膜としては満足な性能を得ることが出来ないのである。そこで、4以下の値に限定した。
【0009】
該硬質皮膜はX線光電子分光分析にて、525eVから535eVにCr、Al及び/又はSiと酸素との結合エネルギーを有することが必要であり、皮膜が緻密化し、酸化雰囲気において酸素の拡散経路となる結晶粒界が不明瞭となり、内向拡散し難くする機能を有する。Cr、Al及び/又はSiが窒化物、酸化物もしくは酸窒化物の状態で存在しているため、硬質皮膜が緻密化し高硬度を有する。本発明皮膜の特徴である、Cr、Al及び/又はSiと酸素との結合状態を形成するには、一定以上の酸素を含有させることが必要である。基体にバイアス電圧を印加すると、密着性を一段と高めることができる。成膜条件は、ガス圧を1.5〜5.0Pa、被覆基体温度を350〜700℃、バイアス電圧を−15〜−300Vのバイアス電圧とすることが好ましく、この範囲において皮膜の密着性と皮膜硬度とのバランスが最適となり、耐高温酸化特性並びに耐摩耗性の優れた緻密な硬質皮膜が得られる。
【0010】
本発明の被覆インサートに用いる炭化タングステン基超硬合金は、Ni及び/又はCoの和が、重量%で4≦(Ni+Co)≦20、の範囲とする。炭化タングステン基超硬合金中のNi及びCoは、焼結性を向上させ、結合相を形成することにより硬度に影響を及ぼす添加元素である。また、工具の耐折損性を制御する効果がある。4重量%未満の場合は、上記硬質皮膜内に発生する残留圧縮応力に対して基体強度が十分ではなく、工具寿命は不安定である。これは、硬質皮膜内に発生する残留圧縮応力により、皮膜剥離が発生する場合があるためである。15重量%を越える場合は基体の硬さが低くなる傾向となり、20重量%を越える場合は、基体の硬さが低くなり過ぎてしまい、耐摩耗性が劣化し、短寿命を招く。本発明の硬質皮膜の密着性に及ぼす影響を考慮した結果、基体中のNi、Coの含有量を上記範囲内に決定した。この範囲内であれば、上記硬質皮膜内に発生する残留圧縮応力に対して、基体内部で緩和することが可能であり密着性に優れ、該硬質皮膜の優れた耐酸化性と高硬度である特性を充分に発揮することができる。これらの構成により、インサートによる切削加工の高速化並びに長寿命化を達成することが可能となる。
【0011】
該硬質皮膜の結晶粒のアスペクト比について、本発明の柱状結晶構造をした皮膜破断面の膜厚Tについて、膜厚Tの25%から50%の厚みであるT1に相当する上下膜厚方向の上端位置と下端位置とを求める。この時、上端位置と下端位置は、T/2に相当する基準位置より上下膜厚方向に略均等となる様に割り振る。各上下端位置における水平方向の上端側粒径Kと下端側粒径Lを求める。そこで、アスペクト比をT1/((K+L)/2)とすると、柱状結晶構造からなる該硬質皮膜の結晶粒のアスペクト比が、1.2から5である。アスペクト比が5を超えて大きくなると、結晶粒が膜厚方向に細長くなり、皮膜の靭性が低下し好ましくない。1.2未満では粒状結晶が増加する傾向となり、皮膜硬度が低下し好ましくない。更に、該硬質皮膜の残留圧縮応力が、1GPa以上、5GPa以下であることが、硬質皮膜に靭性を持たせ、皮膜硬度と基体密着性とのバランスに適した範囲となり、性能の改善に効果的である。
【0012】
ナノインデンテーションによる硬度測定法によるEは、30%≦E<40%であり、皮膜の成膜条件であるバイアス電圧、反応ガス圧やその分圧比、成膜時の基体温度を最適に制御することにより達成できる。Eが40%以上の場合、硬質皮膜内に残留圧縮応力が高くなり過ぎて靭性に乏しくなり密着性を劣化させる。30%未満の場合は強度不足による異常摩耗等により耐摩耗性が十分でない。好ましいEの値は32%〜38%である。
【0013】
該硬質皮膜のCrの立方晶系化合物ピーク強度をQ1、Alの六方晶系化合物のピーク強度をQ2とした時、ピーク強度比Q2/Q1の値が0.1を超えて大きくなると、硬度が急激に低下する。そこで、Q2/Q1の値が0.1以下とすることは、必要な皮膜硬度を得ることに有効であり好ましい。Crの立方晶系化合物に対するAlの六方晶系化合物の割合が増加する。
【0014】
本発明の皮膜を被覆し被覆基体表面の研磨面や研削面に沿った硬質皮膜表面の凸部や、被覆中に発生したマクロ粒子等の付着により凸部が形成される場合があるため、その凸部を機械的処理により平滑にすることにより、切屑除去効果に更に優れ望ましい。更に、被覆後に切刃エッジに機械的処理を施すことにより、なじみ効果も確認され、耐欠損、耐チッピング特性を改善することができ、より好ましい硬質皮膜を得ることができる。
【0015】
本発明のインサート基体の硬さは、HRA88以上、HRA96未満である。基体がHRA88未満となる場合、過酷な切削環境下において切刃が塑性変形を伴った摩耗進行も確認され、刃先強度が十分ではなく好ましくない。また、HRA96以上となる場合は、切刃のチッピングや欠けを生じる場合があり、好ましくない。更に、本発明の硬質皮膜において金属成分の4原子%未満を周期律表の4a、5a、6a族の金属成分の1種以上で置き換えた場合、また本発明に関わる硬質皮膜を1層以上含有する複層構造においても、同様な効果が確認され好ましく、本発明の技術的範囲に含まれるものである。以下、実施例に基づき、本発明を具体的に説明する。
【0016】
【実施例】
(実施例1)
成膜には酸素含有の合金ターゲットを用い、反応ガスを真空装置内に導入し全圧を3.0Pa、バイアス電圧を−100V、被覆温度を450℃とし、膜厚を約5μmとし、(Al0.6Cr0.4)(N0.800.080.100.02)を成膜し、本発明例1とした。皮膜組成は、電子プローブX線マイクロアナリシス及びオージェ電子分光法により決定した。X線光電子分光分析は、PHI社製1600S型X線光電子分光分析装置を用いて分析した。本発明例1のX線光電子分光分析結果を図1に示す。図1は結合エネルギーが530eV近傍のナロースペクトル示し、Cr−O及びAl−Oの結合の存在を示す。図2はCr−N及びCr−Oの結合の存在を示す。図3はAl−N及びAl−Oの結合の存在を示す。図4のX線回折結果は、硬質皮膜のX線回折における(111)面の回折強度をI(111)、(200)面の回折強度をI(200)とした時に、I(200)/I(111)の値が4以下であることを示す。
【0017】
(実施例2)
実施例1と同様に、(AlCr1−x−ySi)(N0.950.05)を成膜し、比較例2、x=0.20、y=0、比較例3、x=0.30、y=0、本発明例4、x=0.50、y=0、本発明例5、x=0.60、y=0、本発明例6、x=0.70、y=0、比較例7、x=0.80、y=0及び(AlxCr1−x)N系の従来例9、x=0.20、従来例10、x=0.50、従来例11、x=0.70、を製作し、押込硬さを測定した。試験機は微小押込み硬さ試験機を用い、圧子はダイヤモンド製の対稜角115度の三角錐圧子を用い、最大荷重を49mN、荷重負荷ステップ4.9mN/sec、最大荷重時の保持時間は1秒とした。測定値は10点測定の平均値を示した。図5より、本発明例4〜6、Al添加量、45〜75原子%の範囲で、酸素を含有しない系より高硬度を示した。本発明の硬質皮膜は、酸素を含有することにより高硬度となり、40GPa以上を得ることが出来る。これによって密着性並びに耐摩耗性に優れた硬質皮膜が得られる。
【0018】
(実施例3)
JISB4053で規定されているP40相当の組成からなり、形状がSEE42TNの炭化タングステン基超硬合金を基体に用い、表1に示す皮膜組成の、本発明例12〜22、比較例23〜30及び従来例10を製作した。アークイオンプレーティング法による被覆条件は、被覆基体温度450℃、反応圧は3.5Paでバイアス電圧を−150Vの条件で被覆処理を行なった。表1に皮膜の組成等を示す。
【0019】
【表1】
Figure 2004298972
【0020】
表1の試料を用いて、大気中1100℃の酸化条件で処理した皮膜の酸化層、実施例2同様に微小押込み硬さ、薄板の変形量より算出した残留圧縮応力、弾性回復率を測定した。表1より、酸化層厚さは、本発明例12〜22は、殆ど酸化進行が無く、耐高温酸化特性に優れていることが確認された。従来例10は酸化進行が著しく硬質皮膜は殆ど酸化物となり、酸素の内向拡散が基体まで達していた。押込み硬さもC、Bを含有させることにより、更に高硬度となる。残留圧縮応力は、本発明例12〜20は低く、更に、図6に示す、本発明例12及び従来例10の荷重変位曲線より、本発明例12は、最大荷重時における最大変位量が大きく、塑性変形量が小さく、同一応力が硬質皮膜に作用した際、弾性回復する割合が大きく塑性変形し難いことを示す。この荷重変位曲線よりEを求めた。Eが大きい程弾性回復特性に優れる。表1より、本発明例12〜22は弾性回復特性に優れ、硬質皮膜の剥離やクラックの低減が可能となり、密着性に優れた硬質皮膜を得ることができる。これは、皮膜硬度差よりも大きな効果がある。
【0021】
次に、表1の本発明例及び比較例を用いて圧痕試験による皮膜剥離状況を併記する。測定はロックウェル硬度計により1470Nの荷重で圧痕を形成し、光学顕微鏡により観察した。本発明例12〜22は剥離が無く、優れた密着性を示した。これは本発明例が適正なE値の範囲内にあるためである。比較例23〜30、従来例10は被覆基体の塑性変形に追従することができず、圧痕周辺部に膜剥離が発生した。
【0022】
(実施例4)
表1に示す本発明例12から22、比較例23から30及び従来例10の硬質皮膜を、表1に示す(Ni+Co)の組成と硬度をもつ炭化タングステン基超硬合金を基体として、炭化タングステン基超硬合金製インサートに、各組成からなるターゲットを配置したアークイオンプレーティング装置内に工具をセットし、真空中450℃で1時間の脱ガス加熱工程を実施し、Arイオンによる被覆基体のクリーニング処理を行なった。実施例3と同じ方法でインサート表面に、硬質皮膜を3μmの厚さで被覆した。表1に示す本発明例12から22、比較例23から30及び従来例10の被覆インサートを用いて、下記条件の切削試験を行い被覆インサートが切削不能に至るまでの切削長を表1に併記する。
(切削諸元)
被削材:SKD11(硬さHB219)
切り込み:2mm
切削速度:120m/min
送り:0.2mm/刃
切削油:なし(エアーブロー)
【0023】
表1より、本発明例12〜22の炭化タングステン基超硬合金を基体とした硬質皮膜被覆インサートは、従来例10と比較して切削不能に至るまでの切削長が長く、耐摩耗性に優れている。本発明例20は本発明皮膜被覆後にダイヤモンド粒子を含有した粒子を工具すくい面に投射することにより、硬質皮膜表面を平滑にしたが、本発明例12と比較しても、より切削寿命が延長している。比較例23は被覆条件をバイアス電圧−500Vで被覆した硬質皮膜のX線回折による最強強度面指数が(220)面を示し、I(200)/I(111)の値が4.5となり、本発明例に比べて切削寿命が短い。比較例26はターゲットに含有する酸素濃度が1800ppmからなるターゲットを使用した場合を示すが、X線光電子分光分析により酸化物としての結合状態が確認されない場合を示し、本発明例に比べて切削寿命が短い。比較例27はAl含有量が20原子%の場合であり、弾性回復率は30%以下となり、切削寿命が短く、耐摩耗性が十分ではない。比較例28はAl含有量が80原子%の場合であり、切削寿命が短く耐摩耗性に劣る。比較例29は酸素含有量が55原子%の場合であるが、耐摩耗性が十分ではない。比較例30はSi含有量が34原子%の場合であるが耐摩耗性が十分ではない。
【0024】
本発明例12、13、14はそれぞれ基体の(Ni+Co)値が異なる場合の本発明例であるが従来例に比べ、切削寿命が長い。一方、比較例24、25に基体中の(Ni+Co)値が3.5重量%の場合と21.1重量%の場合を示す。基体中の(Ni+Co)値が22.1重量%の場合、切刃の逃げ面側へ塑性変形を生じ、基体強度が十分ではなく、チッピングが多発した。基体中の(Ni+Co)値が3.5重量%の場合は、微小な欠けや硬質皮膜剥離が観察され、高硬度を有する該硬質皮膜との密着性が悪く、不安定な摩耗状態であり、本発明である硬質皮膜の特性を十分に発揮できなかった。従って、被覆インサートによる切削加工においては硬質皮膜により、被覆基体の影響がかなり大きいことが明らかである。本発明例15は基体の硬度がHRA87.5であるが従来例に比べ切削寿命が長い。更に、比較例28、30は半価幅が1度以上となり、また、結晶粒径のアスペクト比についても5を超えて大きくなっていて、耐摩耗性が十分ではなく、工具寿命が短い。これらは、皮膜の(111)面配向が強い為、残留圧縮応力も高くなって皮膜の密着性が低下したことが短寿命となった原因と考えられる。更に比較例28はピーク強度比Q2/Q1の値が、0.1を超えて大きい値を示した。このことは、膜組成におけるAl含有量の多いため、Alの六方晶系化合物の含有割合が増加したためである。これによって、皮膜の硬度が低下し、十分な耐摩耗性が得られなかった。
【0025】
(実施例5)
JIS B4053で規定されているP40相当の組成(HRA89.5)からなり、形状がSEE42TNの炭化タングステン基超硬合金を基体に用い、表2に示す被膜を3μmの厚さで被覆した。但し、本発明例31、42、43と比較例50においては、同一の被膜とし、被覆条件を調整することにより、I(200)/I(111)の強度比を調整した。表2に示す本発明例31から43、比較例44から50の被覆インサートを用いて、下記条件の切削試験を行い被覆インサートが切削不能に至るまでの切削長を表2に併記する。
(切削諸元)
切削方法:粗加工
被削材:NAK80、HRC40(巾:150mm、長さ:250mm)
切り込み:2mm
切削速度:120m/min
送り:0.2mm/刃
切削油:なし(エアーブロー)
カッター径:φ160mm、8枚刃
【0026】
【表2】
Figure 2004298972
【0027】
表2から明らかなように、本発明例31から43は全体に切削寿命が長い。本発明例31、32、比較例45はAl含有量の影響を示す。Al含有量の多い比較例45は六方晶系化合物のピークも確認され寿命は短い結果である。本発明例33はSi添加なくしても十分な効果が確認された例である。本発明例35、36、比較例47は酸素添加効果の比較を示すが、酸素添加なくしては、十分な性能が得られないことが確認された。本発明例37、38、39、比較例48は炭素添加の影響である。炭素添加が多すぎると皮膜に剥離が発生し、極端に短寿命である。本発明例36、40、41、比較例49は硼素添加量の比較である。硼素添加が多すぎても同様に、短寿命である。本発明例31、42、43と比較例50においては、同一組成の被膜の時、I(200)/I(111)の強度比の効果を示す。比較例50はI(200)/I(111)の値が5.2を示し、工具寿命が短くなっている。
【0028】
【発明の効果】
本願発明の硬質皮膜被覆インサートを適用することにより、切削加工に用いても十分な耐摩耗性を有し、基体表面とその直上の硬質皮膜とが密着性の改善を図り、更に耐高温酸化特性に優れた硬質皮膜被覆インサートを得ることが出来た。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明例のCr−O及びAl−Oの結合エネルギーを示す。
【図2】図2は、本発明例のCr−N及びCr−Oの結合エネルギーを示す。
【図3】図3は、本発明例のAl−N及びAl−Oの結合エネルギーを示す。
【図4】図4は、本発明例のX線回折結果を示す。
【図5】図5は、本発明例と従来例のAl添加量と皮膜硬度の関係を示す。
【図6】図6は、本発明例12及び従来例10の荷重変位曲線を示す。

Claims (6)

  1. 被覆インサートにおいて、該被覆はアーク放電式イオンプレーティング法により被覆された硬質皮膜であり、該硬質皮膜は、(AlCr1−x−ySi)(N1−α−β−γαβγ)、但し、x、y、α、β、γは夫々原子比率を示し、0.45<x<0.75、0≦y<0.2、0≦α<0.12、0≦β<0.2、0.01≦γ≦0.25、からなり、X線回折における(111)面の回折強度をI(111)、(200)面の回折強度をI(200)とした時、I(200)/I(111)の値が4以下からなり、X線光電子分光分析における525eVから535eVの範囲に、少なくともCr、Al及び/又はSiと酸素との結合エネルギーを有し、該インサートの基体は炭化タングステン基超硬合金からなり、Ni及び/又はCoの和が重量%で4≦(Ni+Co)≦20、としたことを特徴とする被覆インサート。
  2. 請求項1記載の被覆インサートにおいて、該硬質皮膜のX線回折における(200)面回折ピークの2θの半価幅が、0.5度以上、1度以下であることを特徴とする被覆インサート。
  3. 請求項1又は請求項2記載の被覆インサートにおいて、該硬質皮膜はナノインデンテーションによる硬度測定により求められる弾性回復率Eが、30%≦E<40%であることを特徴とする被覆インサート。
  4. 請求項1乃至請求項3いずれかに記載の被覆インサートにおいて、該硬質皮膜のX線回折により、Crの立方晶系化合物とAlの六方晶系化合物のピークが検出され、該Crの立方晶系化合物の(200)面ピーク強度をQ1、Alの六方晶系化合物の(001)面ピーク強度をQ2とした時、ピーク強度比Q2/Q1の値が、0≦Q2/Q1≦0.1となることを特徴とする被覆インサート。
  5. 請求項1乃至請求項4いずれかに記載の被覆インサートにおいて、該硬質皮膜表面の凸部を機械的処理により平滑にしたことを特徴とする硬質皮膜被覆インサート。
  6. 請求項1記載の硬質皮膜被覆インサートにおいて、該炭化タングステン基超硬合金の硬さがHRA88以上、HRA96未満であることを特徴とする硬質皮膜被覆インサート。
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