JP2004306228A - 硬質皮膜 - Google Patents
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Abstract
【課題】(AlCr)N系皮膜の耐高温酸化特性、密着性及び耐摩耗性を改良し、高硬度を有する硬質皮膜を提供することを目的とする。
【解決手段】アーク放電式イオンプレーティング法により被覆された硬質皮膜であって、該硬質皮膜は、(AlxCr1−x−y−zSiyMz)(N1−α−β−γBαCβOγ)、但し、x、y、z、α、β、γは夫々原子比率を示し、0.45<x<0.85、0≦y<0.35、0.50≦x+y+z<1.0、0<z<0.20、0≦α<0.15、0≦β<0.65、0<γ<0.65、0<α+β+γ≦1.0、MはCa、Mn、Sr、Y、Zr、Ce、Nd、Sm、Tb、Dy、Er、Ybのいずれか1種又は2種以上の元素から選択され、X線回折で岩塩構造型の(200)面に回折強度を有し、その半価幅が、0.5度以上、2.0度以下、X線光電子分光分析における525eVから535eVの範囲に、少なくともAl、Cr、M及び/又はSiと酸素との結合エネルギーを有する。
【選択図】図1
【解決手段】アーク放電式イオンプレーティング法により被覆された硬質皮膜であって、該硬質皮膜は、(AlxCr1−x−y−zSiyMz)(N1−α−β−γBαCβOγ)、但し、x、y、z、α、β、γは夫々原子比率を示し、0.45<x<0.85、0≦y<0.35、0.50≦x+y+z<1.0、0<z<0.20、0≦α<0.15、0≦β<0.65、0<γ<0.65、0<α+β+γ≦1.0、MはCa、Mn、Sr、Y、Zr、Ce、Nd、Sm、Tb、Dy、Er、Ybのいずれか1種又は2種以上の元素から選択され、X線回折で岩塩構造型の(200)面に回折強度を有し、その半価幅が、0.5度以上、2.0度以下、X線光電子分光分析における525eVから535eVの範囲に、少なくともAl、Cr、M及び/又はSiと酸素との結合エネルギーを有する。
【選択図】図1
Description
【0001】
【発明が属する技術分野】
本願発明は、超硬合金、高速度鋼、ダイス鋼等に被覆する耐摩耗性、密着性及び耐高温酸化特性に優れた硬質皮膜に関する。
【0002】
【従来の技術】
AlCr系皮膜は、耐高温酸化特性に優れた硬質皮膜材として、下記に示す特許文献1から3が開示されている。
【特許文献1】特許第3027502号公報(第6頁、図1)
【特許文献2】特許第3039381号公報(第4頁、図1)
【特許文献3】特開平2002−160129号公報(第3頁、図1)
【0003】
特許文献1は金属成分としてAlCrとC、N、Oの1種より選択されるAlCr系硬質膜において、高硬度を有する非晶質膜に関する事例が開示されている。しかしこの非晶質膜の硬度は最大でもヌープ硬さ21GPa程度であり、超硬エンドミルとして、耐摩耗効果は改善されず、密着性に関しても十分ではない。特許文献2及び特許文献3に開示されている硬質皮膜はAlCrの窒化物であり、約1000℃の耐高温酸化特性を有しているが、1000℃以上の耐酸化特性の検討は行われていない。また硬度はビッカ−ス硬さ21GPa程度で硬度の改善が不十分であり耐摩耗性に乏しい。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本願発明は、上記の問題点を改善し、(AlCr)N系皮膜の欠点である硬度を高めることにより耐摩耗性を著しく改善し、耐酸化性を更に改善し、その結果優れた工具寿命を発揮する硬質皮膜を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、アーク放電式イオンプレーティング法により被覆される硬質皮膜であって、該硬質皮膜は、(AlxCr1−x−y−zSiyMz)(N1−α−β−γBαCβOγ)、但し、x、y、z、α、β、γは夫々原子比率を示し、0.45<x<0.85、0≦y<0.35、0.50≦x+y+z<1.0、0<z<0.20、0≦α<0.15、0≦β<0.65、0<γ<0.65、0<α+β+γ≦1.0で示される少なくとも1層以上からなり、MはCa、Mn、Sr、Y、Zr、Ce、Nd、Sm、Tb、Dy、Er、Ybのいずれか1種又は2種以上の元素から選択され、θ−2θ法によるX線回折において測定される岩塩構造型の(200)面に回折強度を有し、その回折ピークの2θの半価幅が、0.5度以上、2.0度以下であり、X線光電子分光分析における525eVから535eVの範囲に、少なくともAl、Cr、M及び/又はSiと酸素との結合エネルギーを有することを特徴とする硬質皮膜である。上記構成を採用することにより、基体と硬質皮膜との密着性に優れ、高硬度化することが可能となり、耐酸化性を更に改善し、その結果、優れた耐摩耗性を発揮する本発明の硬質皮膜を完成させた。
【0006】
本発明硬質皮膜は、θ−2θ法によるX線回折で測定される岩塩構造型の(111)面の回折強度をI(111)、(200)面の回折強度をI(200)とした時、0.3<I(200)/I(111)<12である場合、硬質皮膜内に残留する圧縮応力が低減され、基体との密着性に優れるとともに、皮膜硬度並びに耐酸化性改善への寄与が大きい。また、ナノインデンテーションによる硬度測定法により接触深さと最大荷重時の最大変位量が求められる(W. C. Oliver and G. M. Pharr: J. Mater. Res., Vol.7, No.6, June、1992、1564−1583)。この数値を用いて、
E=100−{(接触深さ)/(最大荷重時の最大変位量)}
の数式で、弾性回復率Eを定義し、28%≦E≦40%とすることにより、耐摩耗性と密着性のバランスが最適となる。更に、該硬質皮膜の最表面から深さ方向に500nm以内の深さ領域で酸素濃度が最大となる場合、耐高温酸化特性並びに耐摩耗特性改善に極めて有効である。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明硬質皮膜を構成する金属元素の組成は、(AlxCr1−x−y−zSiyMz)において、xが0.45<x<0.85、yが0≦y<0.35、0.50≦x+y+z<1.0、0<z<0.20を満足する必要がある。xの値が0.45以下、またx+y+zの値が0.5よりも少なくなる場合では皮膜硬度並びに耐高温酸化特性の改善効果が十分ではなく、xの値が0.85以上またはx+y+zの値が1の場合、皮膜硬度の著しい低下を招き耐摩耗性に劣る。またyの値が0.35以上では、硬質皮膜内に残留する圧縮応力が過大になり、被覆直後に自己破壊を誘発するなどの基体密着強度を著しく低下させる場合がある。zの値が0であると耐酸化性を向上させるのに十分な効果を得ることができない。またzの値が0.20を超えて大きい場合は、皮膜の硬さが著しく低下して、耐摩耗性が劣化する傾向にあるため、0<z<0.20、の範囲とした。AlCr系皮膜の中にMで示されるCa、Mn、Sr、Y、Zr、Ce、Nd、Sm、Tb、Dy、Er、Ybのいずれか1種又は2種以上の元素から選択され、上記の値の量で添加することにより、硬質皮膜の耐酸化性を向上させることが可能である。これらの元素の添加により皮膜構造内に非常に緻密な酸化物が形成される。この酸化物の存在によって皮膜全体の酸化の進行が、該酸化物内の酸素拡散律速により進行するため、皮膜の酸化速度が著しく抑制されることになる。従って、例えば切削工具の場合の様に、高速切削の条件において、皮膜温度が1000℃程度の高温となり、非常に酸化進行が早い状態にあっても、皮膜の酸化の進行は皮膜表面のみに留まり、皮膜内部にまで酸化が進行することを妨げることができるのである。この保護効果により、工具の寿命を延ばすことが可能となった。非金属元素の組成は、(N1−α−β−γBαCβOγ)において、αは0.15以上では皮膜が脆化し、好ましいαの上限値は0.07である。硼素の添加は被加工物との耐溶着性と高温環境下での摩擦係数を低減し、潤滑性を向上させる効果がある。βは0.65以上で皮膜が著しく脆化する。炭素の含有量の上限値は、炭素を含有する層厚に依存する。炭素を含有する層厚が0.5μm未満であれば、βの上限値は0.5である。炭素の添加は硬質皮膜の硬度を高めると同時に、摩擦係数を低減し、潤滑性を向上させる効果がある。γは0を超えて大きく、0.65未満にすることが必要である。γが0の場合、耐高温酸化特性並びに皮膜硬度が充分ではなく耐摩耗性に乏しい。0.65以上でも皮膜硬度が低下する。好ましいγの値は、酸素を含有する層厚に依存するが、0.5μm未満であれば、γの上限値は0.3である。酸素の添加は、硬質皮膜内に残留する圧縮応力を低減し、基体と皮膜との密着性を向上させる作用に加え、皮膜が緻密化することによる高硬度化と酸素の拡散経路である基体と垂直方向の結晶粒界を減少させることより、耐高温酸化性の改善に効果的である。更に、金属元素のAl、Cr、Si、Mに対する非金属元素のN、B、C、Oの比は、化学量論的に(N、B、C、O)/(Al、Cr、Si、M)>1.0がより好ましい。
【0008】
本発明の硬質皮膜はθ−2θ法によるX線回折において測定される岩塩構造型の(200)面に回折強度を有し、その回折ピークの2θの半価幅が、0.5度以上、2.0度以下とした。その理由は、0.5未満の場合は結晶粒が粗大化し、皮膜硬度並びに高温酸化特性が充分ではなく、耐摩耗性に乏しく、2.0を超えると皮膜が脆化し、基体密着強度を著しく劣化させるためである。
【0009】
硬質皮膜はX線光電子分光分析にて、525eVから535eVの範囲に少なくともAl、Cr、M及び/又はSiと酸素との結合エネルギーを有することが必要である。これは、これら金属元素が酸素との結合を有することにより、皮膜が緻密化し高硬度化され、さらに酸化雰囲気において酸素の拡散経路となる基体に対して垂直方向の結晶粒界が減少し、酸素の内向拡散を抑制する機能を有することによるものである。本発明皮膜の特徴である、Cr、Al、M及び/又はSiと酸素との結合状態を形成するには、最適な被覆条件と一定以上の酸素を硬質皮膜内に含有させることが必要である。
【0010】
本発明の硬質皮膜において、該硬質皮膜のθ−2θ法によるX線回折で測定される岩塩構造型の(111)面の回折強度をI(111)、(200)面の回折強度をI(200)とした時、0.3<I(200)/I(111)<12とすることが好ましい。皮膜の密着性は残留圧縮応力に強く依存し、この残留圧縮応力は被覆条件であるイオンエネルギーに強く依存している。即ち、イオンエネルギーが低い条件下では皮膜の残留圧縮応力は低い結果となる。逆に、イオンエネルギーが高い条件下では皮膜の残留圧縮応力は高い結果となる。ここで、イオンエネルギーを決定する要素は、具体的には成膜条件であるバイアス電圧、反応ガス圧力であり、これによって制御することができる。本発明は、残留圧縮応力が高い場合、X線回折において皮膜は(111)面に強く配向し、皮膜の硬度も、この高い残留圧縮応力の影響を受けて高硬度とする事が可能となる。一方、皮膜の密着性に着目すると、硬質皮膜内の残留圧縮応力を高くすると、皮膜の高硬度化を達成できるが、基体と皮膜界面近傍においてせん断応力が増大する方向に作用するため、密着性を損なうこととなり、好ましくない。従って、基体と皮膜との密着性及び皮膜硬度とのバランスを最適に制御することが重要となる。本発明では、0.3<I(200)/I(111)<12とすることにより、両者のバランスを最適に制御することを可能にした。
【0011】
ナノインデンテーションによる硬度測定法によるEは、28%≦E≦40%であり、皮膜の成膜条件であるバイアス電圧、反応ガス圧やその分圧比、成膜時の基体温度を最適に制御することにより達成でき好ましい。Eが40%を超える場合、硬質皮膜内に残留圧縮応力が高くなり過ぎて靭性に乏しくなり密着性を劣化させる場合がある。30%よりも小さくなる場合は強度不足による異常摩耗等により耐摩耗性が十分でない場合が確認された。さらに好ましいEの値は30%〜35%である。
【0012】
更に、該硬質皮膜の最表面から深さ方向に500nm以内の深さ領域で酸素濃度が最大となる場合、例えば切削工具に適用すると、特に切削寿命に優れ好ましい。切削過程における硬質皮膜の酸化は硬質皮膜最表面からの酸素の拡散が支配的である。従って、硬質皮膜表面を酸素リッチにすることにより、結晶が緻密化し酸素の拡散経路となる基体と垂直方向成分の結晶粒界を減少させることができ、より耐高温酸化特性に優れ切削寿命が向上する。また、硬質皮膜最表面を酸素リッチにすることにより、切り屑流れを助長する効果も確認され、潤滑特性を改善することが可能となり好ましい。
【0013】
本発明である該硬質皮膜は、アークイオンプレーティング法による被覆により、基体との密着性に特に優れ、緻密で耐高温酸化特性、高硬度を有する極めて長寿命を有する硬質皮膜が得られる。
【0014】
硬質皮膜の結晶粒のアスペクト比について、本発明の皮膜破断面の膜厚Tについて、膜厚Tの25%から50%の厚みであるT1に相当する上下膜厚方向の上端位置と下端位置とを求める。この時、上端位置と下端位置は、T/2に相当する基準位置より上下膜厚方向に略均等となる様に割り振る。各上下端位置における水平方向の上端側粒径Kと下端側粒径Lを求める。そこで、アスペクト比をT1/((K+L)/2)とすると、柱状結晶構造からなる該硬質皮膜の結晶粒のアスペクト比が、0.2から12である。アスペクト比が12を超えて大きくなると、結晶粒が膜厚方向に細長くなり、皮膜の靭性が低下し好ましくない。0.2未満では粒状結晶が増加する傾向となり、皮膜硬度が低下し好ましくない。更に、該硬質皮膜の残留圧縮応力が、0.5GPa以上、4.0GPa以下であることが、硬質皮膜に靭性を持たせ、皮膜硬度と基体密着性とのバランスに適した範囲となり、性能の改善に効果的である。
【0015】
更に、本発明の硬質皮膜において金属成分の10原子%未満を周期律表の4a、5a、6a族、の金属成分、M以外の希土類元素の少なくとも1種以上で置き換えた場合、また本発明に関わる硬質皮膜を1層以上含有する複層構造においても、同様な効果が確認され好ましく、本発明の技術的範囲に含まれるものである。以下、実施例に基づき、本発明を具体的に説明する。
【0016】
【実施例】
(実施例1)
成膜には酸素を3200ppm含有した粉末法により作成した合金ターゲットを用い、基本となる被覆条件は、反応ガスを真空装置内に導入後、全圧を10Pa、バイアス電圧を−120V、被覆温度を450℃、膜厚を約3.5μmとし、(Al0.650Cr0.345Y0.005)(N0.80C0.08O0.10B0.02)からなる硬質皮膜を被覆し、本発明例1とした。皮膜組成は、電子プローブX線マイクロアナリシス及びオージェ電子分光法により決定した。硬質皮膜の酸素との結合状態を解析するためのX線光電子分光分析は、PHI社製1600S型X線光電子分光分析装置を用い、X線源はMgKαを用い400Wとし、分析領域を直径0.4mmの円内部を分析した。十分に脱脂洗浄した後、真空装置内で硬質皮膜表面に付着した汚染物質等を除去するために5分間Arイオンガンを用いて表面をエッチングした後、ワイドスペクトルを測定し、更に30秒間エッチングした後、ナロースペクトルを測定した。ArイオンガンによるエッチングレートはSiO2換算で1.9nm/分であった。本発明例1のX線光電子分光分析結果を図1に示す。図1は結合エネルギーが530eV近傍のナロースペクトル示し、Cr−O及びAl−Oの結合の存在を示す。図2はCr−N及びCr−Oの結合の存在を示す。図3はAl−N及びAl−Oの結合の存在を示す。図4は、本発明例1のθ−2θ法によるX線回折結果を示す。
【0017】
(実施例2)
実施例1と同様に、(AlxCr1−x−y−zSiyYz)(N0.95O0.05)を成膜し、比較例2、x=0.20、y=0、z=0.005、比較例3、x=0.30、y=0、z=0.005、本発明例4、x=0.50、y=0、z=0.005、本発明例5、x=0.60、y=0、z=0.005、本発明例6、x=0.70、y=0、z=0.005、本発明例7、x=0.80、y=0、z=0.005及び(AlxCr1−x)N系の比較例8、x=90、y=0、従来例9、x=0.20、従来例10、x=0.50、従来例11、x=0.70、を製作し、押込硬さを測定した。試験機は微小押込み硬さ試験機を用い、圧子はダイヤモンド製の対稜角115度の三角錐圧子を用い、最大荷重を49mN、荷重負荷ステップ4.9mN/sec、最大荷重時の保持時間は1秒とした。測定試料は、硬質皮膜断面を5度で傾斜させ鏡面加工したものを用い、膜厚が2〜3μmになる測定位置において、10点測定しその平均値を求めた。尚、本発明皮例4〜7のX線光電子分光分析結果から525eVから535eVの範囲に、Al、Cr及び/又はSiと酸素との結合エネルギーが存在することを確認した。図5より、本発明例4〜7、Al添加量、45〜85原子%の範囲で、酸素を含有しない従来例より著しい硬化が確認された。本発明の硬質皮膜は、酸素を含有し、且つ金属元素と酸素の結合を形成する事により、高硬度となり、40GPa以上の硬度を得ることが出来る。これによって密着性並びに耐摩耗性に優れた硬質皮膜が得られる。
【0018】
(実施例3)
実施例1と同様に、超硬合金(10%Co)、粉末高速度鋼(8%Co、HRC67.5)及びダイス鋼(HRC51.8)を基体に用い、表1に示す皮膜組成の、本発明例12〜33、比較例34〜41及び従来例10を製作した。表1に皮膜の組成等を示す。
【0019】
【表1】
【0020】
表1の試料を用いて、大気中1100℃の酸化条件で処理した皮膜の酸化層の厚さ、実施例2同様に微小押込み硬さ、薄板の変形量より算出した残留圧縮応力、弾性回復率を測定した。表1より、酸化層厚さは、本発明例12〜33は、殆ど酸化進行が無く、耐高温酸化特性に優れていることが確認された。従来例10は酸化進行が著しく、硬質皮膜は殆ど酸化物となり、酸素の内向拡散が激しく、酸化層は基体まで到達していた。押込み硬さも炭素、硼素を含有させることにより、更に高硬度となる。残留圧縮応力は、本発明例12〜33は低く、更に、図6に示す、本発明例12及び従来例10の荷重変位曲線より、本発明例12は、最大荷重時における最大変位量が大きいにもかかわらず、塑性変形量が小さい。すなわち、同一応力が硬質皮膜に作用した際、弾性回復する割合が大きく、被覆基体の塑性変形に追従し易く、また塑性変形し難いことを示すものである。この荷重変位曲線より弾性回復率Eを求めた。Eが大きい程、弾性回復特性に優れる。表1より、本発明例12〜33は弾性回復特性に優れ、硬質皮膜の剥離やクラックの低減が可能となり、密着性に優れた硬質皮膜を得ることができる。これは、皮膜硬度差よりも大きな効果がある。
【0021】
次に、表1の本発明例及び比較例を用いて圧痕試験による皮膜剥離状況を併記する。測定はロックウェル硬度計により1470Nの荷重で圧痕を形成し、光学顕微鏡により圧痕周辺部の剥離状況を観察した。本発明例12〜33は剥離が無く、優れた密着性を示した。これは本発明例が適正なE値の範囲内にあるためである。比較例34〜41、従来例10は被覆基体の塑性変形に追従することができず、圧痕周辺部に膜剥離が発生した。
【0022】
表1より、本発明例32は硬質皮膜最表面の酸素濃度が高く、硬質皮膜内部が硬質皮膜最表面に比べ、低い場合の発明例を示すが、極めて耐酸化性に優れている。比較例34は被覆条件をバイアス電圧−500Vで被覆した硬質皮膜でありX線回折による(200)面の半価幅が2.1と大きく、最強強度面指数が(220)面を示し、I(200)/I(111)の値が0.2となり、半価幅が2.0以下の本発明例の方が耐酸化性及び密着性に優れている。比較例35はターゲットに含有する酸素濃度が1200ppmからなるターゲットを使用した場合を示すが、X線光電子分光分析により酸化物としての結合状態が確認されていない。従って、酸素の結合状態が確認される本発明例の方が、耐酸化性及び密着性に優っている。比較例36、37は、Mの成分元素を含まない為、M元素を含む本発明例の方が、耐酸化性及び密着性に優っている。比較例38はAl含有量が20原子%の場合であり、弾性回復率が28よりも低くなっおり、一方、Al含有量が45原子%を超えて大きく、85原子%未満の範囲にある本発明例の方が、耐酸化性及び密着性に優っている。比較例39はAl含有量が90原子%の場合であり、比較例40は酸素含有量が68原子%の場合であり、比較例41はAl含有量が43原子%の場合であるが、何れも本発明例の数値限定範囲外となっている事から、本発明例の方が、耐酸化性及び密着性に優っている。
【0023】
【発明の効果】
本願発明を適用することにより、耐高温酸化特性を向上させることが出来、エンドミル、ドリル等の切削工具や耐摩耗工具に用いても充分な皮膜の硬さによって耐摩耗性を有し、密着性に優れた硬質皮膜を得ることが出来た。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明例のCr−O及びAl−Oの結合エネルギーを示す。
【図2】図2は、本発明例のCr−N及びCr−Oの結合エネルギーを示す。
【図3】図3は、本発明例のAl−N及びAl−Oの結合エネルギーを示す。
【図4】図4は、本発明例のX線回折結果を示す。
【図5】図5は、本発明例と従来例のAl添加量と皮膜硬度の関係を示す。
【図6】図6は、本発明例12及び従来例10の荷重変位曲線を示す。
【発明が属する技術分野】
本願発明は、超硬合金、高速度鋼、ダイス鋼等に被覆する耐摩耗性、密着性及び耐高温酸化特性に優れた硬質皮膜に関する。
【0002】
【従来の技術】
AlCr系皮膜は、耐高温酸化特性に優れた硬質皮膜材として、下記に示す特許文献1から3が開示されている。
【特許文献1】特許第3027502号公報(第6頁、図1)
【特許文献2】特許第3039381号公報(第4頁、図1)
【特許文献3】特開平2002−160129号公報(第3頁、図1)
【0003】
特許文献1は金属成分としてAlCrとC、N、Oの1種より選択されるAlCr系硬質膜において、高硬度を有する非晶質膜に関する事例が開示されている。しかしこの非晶質膜の硬度は最大でもヌープ硬さ21GPa程度であり、超硬エンドミルとして、耐摩耗効果は改善されず、密着性に関しても十分ではない。特許文献2及び特許文献3に開示されている硬質皮膜はAlCrの窒化物であり、約1000℃の耐高温酸化特性を有しているが、1000℃以上の耐酸化特性の検討は行われていない。また硬度はビッカ−ス硬さ21GPa程度で硬度の改善が不十分であり耐摩耗性に乏しい。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本願発明は、上記の問題点を改善し、(AlCr)N系皮膜の欠点である硬度を高めることにより耐摩耗性を著しく改善し、耐酸化性を更に改善し、その結果優れた工具寿命を発揮する硬質皮膜を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、アーク放電式イオンプレーティング法により被覆される硬質皮膜であって、該硬質皮膜は、(AlxCr1−x−y−zSiyMz)(N1−α−β−γBαCβOγ)、但し、x、y、z、α、β、γは夫々原子比率を示し、0.45<x<0.85、0≦y<0.35、0.50≦x+y+z<1.0、0<z<0.20、0≦α<0.15、0≦β<0.65、0<γ<0.65、0<α+β+γ≦1.0で示される少なくとも1層以上からなり、MはCa、Mn、Sr、Y、Zr、Ce、Nd、Sm、Tb、Dy、Er、Ybのいずれか1種又は2種以上の元素から選択され、θ−2θ法によるX線回折において測定される岩塩構造型の(200)面に回折強度を有し、その回折ピークの2θの半価幅が、0.5度以上、2.0度以下であり、X線光電子分光分析における525eVから535eVの範囲に、少なくともAl、Cr、M及び/又はSiと酸素との結合エネルギーを有することを特徴とする硬質皮膜である。上記構成を採用することにより、基体と硬質皮膜との密着性に優れ、高硬度化することが可能となり、耐酸化性を更に改善し、その結果、優れた耐摩耗性を発揮する本発明の硬質皮膜を完成させた。
【0006】
本発明硬質皮膜は、θ−2θ法によるX線回折で測定される岩塩構造型の(111)面の回折強度をI(111)、(200)面の回折強度をI(200)とした時、0.3<I(200)/I(111)<12である場合、硬質皮膜内に残留する圧縮応力が低減され、基体との密着性に優れるとともに、皮膜硬度並びに耐酸化性改善への寄与が大きい。また、ナノインデンテーションによる硬度測定法により接触深さと最大荷重時の最大変位量が求められる(W. C. Oliver and G. M. Pharr: J. Mater. Res., Vol.7, No.6, June、1992、1564−1583)。この数値を用いて、
E=100−{(接触深さ)/(最大荷重時の最大変位量)}
の数式で、弾性回復率Eを定義し、28%≦E≦40%とすることにより、耐摩耗性と密着性のバランスが最適となる。更に、該硬質皮膜の最表面から深さ方向に500nm以内の深さ領域で酸素濃度が最大となる場合、耐高温酸化特性並びに耐摩耗特性改善に極めて有効である。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明硬質皮膜を構成する金属元素の組成は、(AlxCr1−x−y−zSiyMz)において、xが0.45<x<0.85、yが0≦y<0.35、0.50≦x+y+z<1.0、0<z<0.20を満足する必要がある。xの値が0.45以下、またx+y+zの値が0.5よりも少なくなる場合では皮膜硬度並びに耐高温酸化特性の改善効果が十分ではなく、xの値が0.85以上またはx+y+zの値が1の場合、皮膜硬度の著しい低下を招き耐摩耗性に劣る。またyの値が0.35以上では、硬質皮膜内に残留する圧縮応力が過大になり、被覆直後に自己破壊を誘発するなどの基体密着強度を著しく低下させる場合がある。zの値が0であると耐酸化性を向上させるのに十分な効果を得ることができない。またzの値が0.20を超えて大きい場合は、皮膜の硬さが著しく低下して、耐摩耗性が劣化する傾向にあるため、0<z<0.20、の範囲とした。AlCr系皮膜の中にMで示されるCa、Mn、Sr、Y、Zr、Ce、Nd、Sm、Tb、Dy、Er、Ybのいずれか1種又は2種以上の元素から選択され、上記の値の量で添加することにより、硬質皮膜の耐酸化性を向上させることが可能である。これらの元素の添加により皮膜構造内に非常に緻密な酸化物が形成される。この酸化物の存在によって皮膜全体の酸化の進行が、該酸化物内の酸素拡散律速により進行するため、皮膜の酸化速度が著しく抑制されることになる。従って、例えば切削工具の場合の様に、高速切削の条件において、皮膜温度が1000℃程度の高温となり、非常に酸化進行が早い状態にあっても、皮膜の酸化の進行は皮膜表面のみに留まり、皮膜内部にまで酸化が進行することを妨げることができるのである。この保護効果により、工具の寿命を延ばすことが可能となった。非金属元素の組成は、(N1−α−β−γBαCβOγ)において、αは0.15以上では皮膜が脆化し、好ましいαの上限値は0.07である。硼素の添加は被加工物との耐溶着性と高温環境下での摩擦係数を低減し、潤滑性を向上させる効果がある。βは0.65以上で皮膜が著しく脆化する。炭素の含有量の上限値は、炭素を含有する層厚に依存する。炭素を含有する層厚が0.5μm未満であれば、βの上限値は0.5である。炭素の添加は硬質皮膜の硬度を高めると同時に、摩擦係数を低減し、潤滑性を向上させる効果がある。γは0を超えて大きく、0.65未満にすることが必要である。γが0の場合、耐高温酸化特性並びに皮膜硬度が充分ではなく耐摩耗性に乏しい。0.65以上でも皮膜硬度が低下する。好ましいγの値は、酸素を含有する層厚に依存するが、0.5μm未満であれば、γの上限値は0.3である。酸素の添加は、硬質皮膜内に残留する圧縮応力を低減し、基体と皮膜との密着性を向上させる作用に加え、皮膜が緻密化することによる高硬度化と酸素の拡散経路である基体と垂直方向の結晶粒界を減少させることより、耐高温酸化性の改善に効果的である。更に、金属元素のAl、Cr、Si、Mに対する非金属元素のN、B、C、Oの比は、化学量論的に(N、B、C、O)/(Al、Cr、Si、M)>1.0がより好ましい。
【0008】
本発明の硬質皮膜はθ−2θ法によるX線回折において測定される岩塩構造型の(200)面に回折強度を有し、その回折ピークの2θの半価幅が、0.5度以上、2.0度以下とした。その理由は、0.5未満の場合は結晶粒が粗大化し、皮膜硬度並びに高温酸化特性が充分ではなく、耐摩耗性に乏しく、2.0を超えると皮膜が脆化し、基体密着強度を著しく劣化させるためである。
【0009】
硬質皮膜はX線光電子分光分析にて、525eVから535eVの範囲に少なくともAl、Cr、M及び/又はSiと酸素との結合エネルギーを有することが必要である。これは、これら金属元素が酸素との結合を有することにより、皮膜が緻密化し高硬度化され、さらに酸化雰囲気において酸素の拡散経路となる基体に対して垂直方向の結晶粒界が減少し、酸素の内向拡散を抑制する機能を有することによるものである。本発明皮膜の特徴である、Cr、Al、M及び/又はSiと酸素との結合状態を形成するには、最適な被覆条件と一定以上の酸素を硬質皮膜内に含有させることが必要である。
【0010】
本発明の硬質皮膜において、該硬質皮膜のθ−2θ法によるX線回折で測定される岩塩構造型の(111)面の回折強度をI(111)、(200)面の回折強度をI(200)とした時、0.3<I(200)/I(111)<12とすることが好ましい。皮膜の密着性は残留圧縮応力に強く依存し、この残留圧縮応力は被覆条件であるイオンエネルギーに強く依存している。即ち、イオンエネルギーが低い条件下では皮膜の残留圧縮応力は低い結果となる。逆に、イオンエネルギーが高い条件下では皮膜の残留圧縮応力は高い結果となる。ここで、イオンエネルギーを決定する要素は、具体的には成膜条件であるバイアス電圧、反応ガス圧力であり、これによって制御することができる。本発明は、残留圧縮応力が高い場合、X線回折において皮膜は(111)面に強く配向し、皮膜の硬度も、この高い残留圧縮応力の影響を受けて高硬度とする事が可能となる。一方、皮膜の密着性に着目すると、硬質皮膜内の残留圧縮応力を高くすると、皮膜の高硬度化を達成できるが、基体と皮膜界面近傍においてせん断応力が増大する方向に作用するため、密着性を損なうこととなり、好ましくない。従って、基体と皮膜との密着性及び皮膜硬度とのバランスを最適に制御することが重要となる。本発明では、0.3<I(200)/I(111)<12とすることにより、両者のバランスを最適に制御することを可能にした。
【0011】
ナノインデンテーションによる硬度測定法によるEは、28%≦E≦40%であり、皮膜の成膜条件であるバイアス電圧、反応ガス圧やその分圧比、成膜時の基体温度を最適に制御することにより達成でき好ましい。Eが40%を超える場合、硬質皮膜内に残留圧縮応力が高くなり過ぎて靭性に乏しくなり密着性を劣化させる場合がある。30%よりも小さくなる場合は強度不足による異常摩耗等により耐摩耗性が十分でない場合が確認された。さらに好ましいEの値は30%〜35%である。
【0012】
更に、該硬質皮膜の最表面から深さ方向に500nm以内の深さ領域で酸素濃度が最大となる場合、例えば切削工具に適用すると、特に切削寿命に優れ好ましい。切削過程における硬質皮膜の酸化は硬質皮膜最表面からの酸素の拡散が支配的である。従って、硬質皮膜表面を酸素リッチにすることにより、結晶が緻密化し酸素の拡散経路となる基体と垂直方向成分の結晶粒界を減少させることができ、より耐高温酸化特性に優れ切削寿命が向上する。また、硬質皮膜最表面を酸素リッチにすることにより、切り屑流れを助長する効果も確認され、潤滑特性を改善することが可能となり好ましい。
【0013】
本発明である該硬質皮膜は、アークイオンプレーティング法による被覆により、基体との密着性に特に優れ、緻密で耐高温酸化特性、高硬度を有する極めて長寿命を有する硬質皮膜が得られる。
【0014】
硬質皮膜の結晶粒のアスペクト比について、本発明の皮膜破断面の膜厚Tについて、膜厚Tの25%から50%の厚みであるT1に相当する上下膜厚方向の上端位置と下端位置とを求める。この時、上端位置と下端位置は、T/2に相当する基準位置より上下膜厚方向に略均等となる様に割り振る。各上下端位置における水平方向の上端側粒径Kと下端側粒径Lを求める。そこで、アスペクト比をT1/((K+L)/2)とすると、柱状結晶構造からなる該硬質皮膜の結晶粒のアスペクト比が、0.2から12である。アスペクト比が12を超えて大きくなると、結晶粒が膜厚方向に細長くなり、皮膜の靭性が低下し好ましくない。0.2未満では粒状結晶が増加する傾向となり、皮膜硬度が低下し好ましくない。更に、該硬質皮膜の残留圧縮応力が、0.5GPa以上、4.0GPa以下であることが、硬質皮膜に靭性を持たせ、皮膜硬度と基体密着性とのバランスに適した範囲となり、性能の改善に効果的である。
【0015】
更に、本発明の硬質皮膜において金属成分の10原子%未満を周期律表の4a、5a、6a族、の金属成分、M以外の希土類元素の少なくとも1種以上で置き換えた場合、また本発明に関わる硬質皮膜を1層以上含有する複層構造においても、同様な効果が確認され好ましく、本発明の技術的範囲に含まれるものである。以下、実施例に基づき、本発明を具体的に説明する。
【0016】
【実施例】
(実施例1)
成膜には酸素を3200ppm含有した粉末法により作成した合金ターゲットを用い、基本となる被覆条件は、反応ガスを真空装置内に導入後、全圧を10Pa、バイアス電圧を−120V、被覆温度を450℃、膜厚を約3.5μmとし、(Al0.650Cr0.345Y0.005)(N0.80C0.08O0.10B0.02)からなる硬質皮膜を被覆し、本発明例1とした。皮膜組成は、電子プローブX線マイクロアナリシス及びオージェ電子分光法により決定した。硬質皮膜の酸素との結合状態を解析するためのX線光電子分光分析は、PHI社製1600S型X線光電子分光分析装置を用い、X線源はMgKαを用い400Wとし、分析領域を直径0.4mmの円内部を分析した。十分に脱脂洗浄した後、真空装置内で硬質皮膜表面に付着した汚染物質等を除去するために5分間Arイオンガンを用いて表面をエッチングした後、ワイドスペクトルを測定し、更に30秒間エッチングした後、ナロースペクトルを測定した。ArイオンガンによるエッチングレートはSiO2換算で1.9nm/分であった。本発明例1のX線光電子分光分析結果を図1に示す。図1は結合エネルギーが530eV近傍のナロースペクトル示し、Cr−O及びAl−Oの結合の存在を示す。図2はCr−N及びCr−Oの結合の存在を示す。図3はAl−N及びAl−Oの結合の存在を示す。図4は、本発明例1のθ−2θ法によるX線回折結果を示す。
【0017】
(実施例2)
実施例1と同様に、(AlxCr1−x−y−zSiyYz)(N0.95O0.05)を成膜し、比較例2、x=0.20、y=0、z=0.005、比較例3、x=0.30、y=0、z=0.005、本発明例4、x=0.50、y=0、z=0.005、本発明例5、x=0.60、y=0、z=0.005、本発明例6、x=0.70、y=0、z=0.005、本発明例7、x=0.80、y=0、z=0.005及び(AlxCr1−x)N系の比較例8、x=90、y=0、従来例9、x=0.20、従来例10、x=0.50、従来例11、x=0.70、を製作し、押込硬さを測定した。試験機は微小押込み硬さ試験機を用い、圧子はダイヤモンド製の対稜角115度の三角錐圧子を用い、最大荷重を49mN、荷重負荷ステップ4.9mN/sec、最大荷重時の保持時間は1秒とした。測定試料は、硬質皮膜断面を5度で傾斜させ鏡面加工したものを用い、膜厚が2〜3μmになる測定位置において、10点測定しその平均値を求めた。尚、本発明皮例4〜7のX線光電子分光分析結果から525eVから535eVの範囲に、Al、Cr及び/又はSiと酸素との結合エネルギーが存在することを確認した。図5より、本発明例4〜7、Al添加量、45〜85原子%の範囲で、酸素を含有しない従来例より著しい硬化が確認された。本発明の硬質皮膜は、酸素を含有し、且つ金属元素と酸素の結合を形成する事により、高硬度となり、40GPa以上の硬度を得ることが出来る。これによって密着性並びに耐摩耗性に優れた硬質皮膜が得られる。
【0018】
(実施例3)
実施例1と同様に、超硬合金(10%Co)、粉末高速度鋼(8%Co、HRC67.5)及びダイス鋼(HRC51.8)を基体に用い、表1に示す皮膜組成の、本発明例12〜33、比較例34〜41及び従来例10を製作した。表1に皮膜の組成等を示す。
【0019】
【表1】
【0020】
表1の試料を用いて、大気中1100℃の酸化条件で処理した皮膜の酸化層の厚さ、実施例2同様に微小押込み硬さ、薄板の変形量より算出した残留圧縮応力、弾性回復率を測定した。表1より、酸化層厚さは、本発明例12〜33は、殆ど酸化進行が無く、耐高温酸化特性に優れていることが確認された。従来例10は酸化進行が著しく、硬質皮膜は殆ど酸化物となり、酸素の内向拡散が激しく、酸化層は基体まで到達していた。押込み硬さも炭素、硼素を含有させることにより、更に高硬度となる。残留圧縮応力は、本発明例12〜33は低く、更に、図6に示す、本発明例12及び従来例10の荷重変位曲線より、本発明例12は、最大荷重時における最大変位量が大きいにもかかわらず、塑性変形量が小さい。すなわち、同一応力が硬質皮膜に作用した際、弾性回復する割合が大きく、被覆基体の塑性変形に追従し易く、また塑性変形し難いことを示すものである。この荷重変位曲線より弾性回復率Eを求めた。Eが大きい程、弾性回復特性に優れる。表1より、本発明例12〜33は弾性回復特性に優れ、硬質皮膜の剥離やクラックの低減が可能となり、密着性に優れた硬質皮膜を得ることができる。これは、皮膜硬度差よりも大きな効果がある。
【0021】
次に、表1の本発明例及び比較例を用いて圧痕試験による皮膜剥離状況を併記する。測定はロックウェル硬度計により1470Nの荷重で圧痕を形成し、光学顕微鏡により圧痕周辺部の剥離状況を観察した。本発明例12〜33は剥離が無く、優れた密着性を示した。これは本発明例が適正なE値の範囲内にあるためである。比較例34〜41、従来例10は被覆基体の塑性変形に追従することができず、圧痕周辺部に膜剥離が発生した。
【0022】
表1より、本発明例32は硬質皮膜最表面の酸素濃度が高く、硬質皮膜内部が硬質皮膜最表面に比べ、低い場合の発明例を示すが、極めて耐酸化性に優れている。比較例34は被覆条件をバイアス電圧−500Vで被覆した硬質皮膜でありX線回折による(200)面の半価幅が2.1と大きく、最強強度面指数が(220)面を示し、I(200)/I(111)の値が0.2となり、半価幅が2.0以下の本発明例の方が耐酸化性及び密着性に優れている。比較例35はターゲットに含有する酸素濃度が1200ppmからなるターゲットを使用した場合を示すが、X線光電子分光分析により酸化物としての結合状態が確認されていない。従って、酸素の結合状態が確認される本発明例の方が、耐酸化性及び密着性に優っている。比較例36、37は、Mの成分元素を含まない為、M元素を含む本発明例の方が、耐酸化性及び密着性に優っている。比較例38はAl含有量が20原子%の場合であり、弾性回復率が28よりも低くなっおり、一方、Al含有量が45原子%を超えて大きく、85原子%未満の範囲にある本発明例の方が、耐酸化性及び密着性に優っている。比較例39はAl含有量が90原子%の場合であり、比較例40は酸素含有量が68原子%の場合であり、比較例41はAl含有量が43原子%の場合であるが、何れも本発明例の数値限定範囲外となっている事から、本発明例の方が、耐酸化性及び密着性に優っている。
【0023】
【発明の効果】
本願発明を適用することにより、耐高温酸化特性を向上させることが出来、エンドミル、ドリル等の切削工具や耐摩耗工具に用いても充分な皮膜の硬さによって耐摩耗性を有し、密着性に優れた硬質皮膜を得ることが出来た。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明例のCr−O及びAl−Oの結合エネルギーを示す。
【図2】図2は、本発明例のCr−N及びCr−Oの結合エネルギーを示す。
【図3】図3は、本発明例のAl−N及びAl−Oの結合エネルギーを示す。
【図4】図4は、本発明例のX線回折結果を示す。
【図5】図5は、本発明例と従来例のAl添加量と皮膜硬度の関係を示す。
【図6】図6は、本発明例12及び従来例10の荷重変位曲線を示す。
Claims (4)
- アーク放電式イオンプレーティング法により被覆される硬質皮膜であって、該硬質皮膜は、(AlxCr1−x−y−zSiyMz)(N1−α−β−γBαCβOγ)、但し、x、y、z、α、β、γは夫々原子比率を示し、0.45<x<0.85、0≦y<0.35、0.50≦x+y+z<1.0、0<z<0.20、0≦α<0.15、0≦β<0.65、0<γ<0.65、0<α+β+γ≦1.0で示される少なくとも1層以上からなり、MはCa、Mn、Sr、Y、Zr、Ce、Nd、Sm、Tb、Dy、Er、Ybのいずれか1種又は2種以上の元素から選択され、θ−2θ法によるX線回折において測定される岩塩構造型の(200)面に回折強度を有し、その回折ピークの2θの半価幅が、0.5度以上、2.0度以下であり、X線光電子分光分析における525eVから535eVの範囲に、少なくともAl、Cr、M及び/又はSiと酸素との結合エネルギーを有することを特徴とする硬質皮膜。
- 請求項1記載の硬質皮膜において、該硬質皮膜のθ−2θ法によるX線回折で測定される岩塩構造型の(111)面の回折強度をI(111)、(200)面の回折強度をI(200)とした時、0.3<I(200)/I(111)<12であることを特徴とする硬質皮膜。
- 請求項1又は2記載の硬質皮膜において、該硬質皮膜はナノインデンテーションによる硬度測定により求められる弾性回復率Eが、28%≦E≦40%であることを特徴とする硬質皮膜。
- 請求項1乃至3のいずれかに記載の硬質皮膜において、該硬質皮膜の最表面から深さ方向に500nm以内の深さ領域で酸素濃度が最大となることを特徴とする硬質皮膜。
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