JP4417640B2 - 被覆摺動部材 - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明は、鍛造金型、プレス金型、粉末成形金型などの被覆摺動部材、軸受け、ロールなど高硬度が要求される耐摩耗部材の被覆摺動部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
AlCr系皮膜は、耐高温酸化特性に優れた硬質皮膜材として、下記に示す特許文献1から3が開示されている。
【特許文献1】
特許第3027502号公報(第6頁、図1)
【特許文献2】
特許第3039381号公報(第4頁、図1)
【特許文献3】
特開平2002−160129号公報(第3頁、図1)
【0003】
特許文献1は金属成分としてAlCrとC、N、Oの1種より選択されるAlCr系硬質膜において、高硬度を有する非晶質膜に関する事例が開示されている。しかし、この非晶質膜の硬度は最大でもヌープ硬さ21GPa程度であり、耐摩耗効果は期待できず、密着性に関しても十分ではない。特許文献2及び特許文献3に開示されている硬質皮膜はAlCrの窒化物であり、約1000℃の耐高温酸化特性を有しているが、1000℃以上の耐酸化特性の検討は行われていない。硬度はHV21GPa程度で硬度の改善が不十分であり耐摩耗性、皮膜の潤滑性に乏しい。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本願発明は上記の問題点を解決し、高硬度で耐摩耗特性に優れ、皮膜表面の潤滑性、耐焼付き性に優れ、基体との優れた密着性を有する被覆摺動部材を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するために手段】
本願発明は、被覆摺動部材において、該被覆はアーク放電式イオンプレーティング法により被覆された硬質皮膜であり、該硬質皮膜は(AlxCr1−x−ySiy)(N1−α−β−γBαCβOγ)、但し、x、y、α、β、γは夫々原子比率を示し、0.50<x<0.75、0≦y<0.2、0≦α<0.12、0≦β<0.2、0.01≦γ≦0.25、からなり、X線回折における(111)面の回折強度をI(111)、(200)面の回折強度をI(200)とした時、I(200)/I(111)の値が0.5以上、6以下からなり、X線光電子分光分析における525eVから535eVの範囲に、Crと酸素、Alと酸素、の結合エネルギーを有し、該摺動部材の基体は合金工具鋼からなり、VとCoの和が重量%で0.05≦(V+Co)≦7、Crが重量%で0.8≦Cr≦5.5、としたことを特徴とする被覆摺動部材である。上記構成を採用することにより、硬質皮膜を高硬度化することが可能となり耐摩耗性を改善し、また皮膜表面の潤滑性、耐焼付き性を向上させ、基体との密着性も改善し、本発明の被覆摺動部材を完成させた。
【0006】
本発明に用いる硬質皮膜は、更に、Siと酸素、の結合エネルギーを有する。X線回折における(200)面回折ピークの2θの半価幅が、0.5度以上、1度以下の広がりを有する。X線回折による、Crの立方晶系化合物の(200)面ピーク強度をQ1、Alの六方晶系化合物の(001)面ピーク強度をQ2とした時、ピーク強度比Q2/Q1の値が、0≦Q2/Q1≦0.3とする。また、該硬質皮膜の硬質皮膜表面の凸部を機械的処理により平滑にする。本発明に用いる合金工具鋼は、Cが重量%で0.2≦C≦0.6%、Siが重量%で1.2%以下、Mnが重量%で0.5%以下、硬さがHRC42以上、HRC60未満であることが好ましい。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明に用いる硬質皮膜を構成する金属元素の組成は、(AlxCr1−x−ySiy)においてxが0.45<x<0.75、yが0≦y<0.2を満足する必要がある。xの値が0.45以下では皮膜硬度並びに耐高温酸化特性の改善効果が十分ではなく、xの値が0.75以上、yの値が0.2以上では、残留圧縮応力が過大になり、被覆直後に自己破壊を誘発する場合がある。
非金属元素の組成は、(N1−α−β−γBαCβOγ)において、αは0.12以上では皮膜が脆化し、好ましいαの上限値は0.08である。硼素の添加は被加工物との耐溶着性と高温環境下での摩擦係数を低減し、潤滑性を向上させる効果があり好ましい。βは、0.2以上で皮膜は脆化する。好ましいβの上限値は0.16である。炭素の添加は硬質皮膜の硬度を高め、摩擦係数を低減し、潤滑性を向上させ、耐焼付き性に効果がある。γは0.01以上、0.25以下にすることが必要である。γが0.01未満では、添加効果を得ることができず、0.25を超えて大きくなると皮膜硬度は低下し、耐摩耗性に乏しくなる。好ましくは、γは、0.05以上0.2以下である。酸素の添加は、基体と皮膜との密着性向上、皮膜が緻密化することによる高硬度化、酸化物形成により耐高温酸化性の改善と、酸化物による表面潤滑性、耐焼付き性の改善に効果的である。金属元素のAl、Cr、Siに対する非金属元素のN、B、C、Oの比は、化学量論的に(N、B、C、O)/(Al、Cr、Si)>1.1がより好ましい。
【0008】
本発明に用いる硬質皮膜のX線回折における(111)面の回折強度をI(111)、(200)面の回折強度をI(200)とした時に、I(200)/I(111)の値が0.5以上、6以下としたのは、皮膜の密着性は残留圧縮応力に強く依存し、この残留圧縮応力は成膜条件であるイオンエネルギーに強く依存している。即ち、イオンエネルギーが低い条件下では皮膜の残留圧縮応力は低い結果となる。逆に、イオンエネルギーが高い条件下では皮膜の残留圧縮応力は高い結果となる。ここで、イオンエネルギーを決定する要素は、具体的には成膜条件であるバイアス電圧、反応ガス圧力であり、これによって制御することができる。本発明の皮膜は、残留圧縮応力が高い場合、X線回折において皮膜は(111)面に強く配向し、皮膜の硬度も、この高い残留圧縮応力の影響を受けて高硬度とする事が可能となる。一方、硬質皮膜内の残留圧縮応力を高くすると、皮膜の高硬度化を達成できるが、基体と皮膜界面とのせん断応力が増大する方向に作用するため、密着性を損なうこととなり、好ましくない。従って、基体と皮膜との密着性、及び皮膜硬度とのバランスを最適に制御することが重要となる。I(200)/I(111)の値が0.5未満となると、皮膜の残留圧縮応力が大きくなりすぎて、密着性が急激に低下し、摺動部材に適用する硬質皮膜としては満足な性能を得ることが出来ないのである。I(200)/I(111)の値が6を超えて大きくなると、皮膜の硬度が急激に低下し、摺動部材に適用する硬質皮膜としては満足な性能を得ることが出来ないのである。更に、皮膜の潤滑性に影響を与える皮膜表面の面粗さに着目すると、面粗さが小さいことが好ましい。そのため、皮膜を可能な限り(111)面に結晶配向させ、柱状結晶構造における結晶粒を膜厚方向に細長い構造とすることによって皮膜表面の面粗さを低減させることが、皮膜の潤滑性能を増加させる事に効果的である。皮膜の潤滑性の改善に有効な結晶粒の構造を考慮して、I(200)/I(111)の値が6以下とすることにより、適正に維持することを可能にした。そこで、0.5以上、6以下の値に限定した。
【0009】
該硬質皮膜は、X線光電子分光分析にて、525eVから535eVにCrと酸素、Alと酸素との結合エネルギーを有することが必要であり、皮膜が緻密化し、酸化雰囲気において酸素の拡散経路となる結晶粒界が不明瞭となり、内向拡散し難くする機能を有する。Cr、Alが窒化物、酸化物もしくは酸窒化物の状態で存在しているため、硬質皮膜に潤滑性を付与する効果を示し、更に緻密化し高硬度を有する。
更に、Siを含有する場合には、Siと酸素との結合エネルギーを有することが必要であり、前記作用を高める。
本発明の硬質皮膜の特徴である、Crと酸素、Alと酸素、Siと酸素との結合状態を形成するには、一定以上の酸素を含有させることが必要である。基体にバイアス電圧を印加すると、密着性を一段と高めることができる。成膜条件は、ガス圧を1.5〜5.0Pa、被覆基体温度を350〜700℃、バイアス電圧を−15〜−300Vのバイアス電圧とすることが好ましく、この範囲において皮膜の高硬度化、摩擦係数低減による潤滑性の改善、密着性の改善に効果的であり、優れた緻密な硬質皮膜が得られる。
【0010】
本発明の被覆摺動部材に用いる合金工具鋼は、VとCoの和が、重量%で0.05≦(V+Co)≦7、Crが重量%で0.8≦Cr≦5.5の範囲とする。合金工具鋼中のV及びCoは、硬度及び耐熱強度を決定する添加元素であると同時に靭性と耐摩耗性を決定する添加元素でもある。0.05重量%未満の場合は、高温環境下における基体強度が十分ではなく、摺動部材の寿命は不安定であった。これは、使用過程において摺動部材に塑性変形を生じるためである。一方、7重量%を越える場合は、硬質皮膜内に発生する残留圧縮応力の緩和が不十分であり、密着性が十分ではなく、微細な皮膜剥離が発生する場合があり、摺動部材の1部にチッピングや欠けが発生してしまい短寿命を招いた。Crは、合金工具鋼の熱処理性を高め、硬さを充分に高めるため上記の範囲とした。基体中のV、Co及びCrが上記範囲を満足する場合、合金工具鋼中のマトリックスの耐熱強度も優れる。本発明の硬質皮膜の密着性に及ぼす影響を考慮した結果、基体中のV、CoとCrの含有量を上記範囲内に決定した。この範囲内であれば、上記硬質皮膜内に発生する残留圧縮応力に対して、基体内部で緩和することが可能であり密着性に優れ、該硬質皮膜の優れた潤滑性、耐焼き付き性と高硬度である特性を充分に発揮することができる。これらの構成により、摺動部材の潤滑性、耐焼付き性を改善し、長寿命化を達成することが可能となる。
【0011】
本発明に用いる硬質皮膜の結晶粒のアスペクト比について、硬質皮膜の柱状結晶構造をした皮膜破断面の膜厚Tについて、Tの25%から50%の厚みであるT1に相当する上下膜厚方向の上端位置と下端位置を求める。この時、上端位置と下端位置は、T/2に相当する基準位置より上下膜厚方向に略均等となる様に割り振る。各上下端位置における水平方向の上端側粒径Kと下端側粒径Lを求める。そこで、アスペクト比をT1/((K+L)/2)とすると、柱状結晶構造からなる該硬質皮膜の結晶粒のアスペクト比が、1.2から5であることが好ましい。アスペクト比が5を超えて大きくなると、結晶粒が膜厚方向に細長くなり、皮膜の靭性が低下し好ましくない。1.2未満では粒状結晶が増加する傾向となり、皮膜硬度が低下して好ましくない。更に、該硬質皮膜に残留する残留圧縮応力が、1GPa以上、5GPa以下であることが、硬質皮膜に靭性を持たせ、皮膜硬度と基体密着性とのバランスに適した範囲となり、性能の改善に効果的である。
【0012】
本発明に用いる硬質皮膜のCrの立方晶系化合物ピーク強度をQ1、Alの六方晶系化合物のピーク強度をQ2とした時、ピーク強度比Q2/Q1の値が0.3を超えて大きくなると、硬度が急激に低下するとともに、潤滑性を有するCrの立方晶系化合物が減少し、皮膜のもつ潤滑性が低下する。そこで、Q2/Q1の値が0.3以下とすることは、必要な皮膜硬度を得ることと、潤滑性を維持することに有効であり好ましい。
更には、本発明に用いる硬質皮膜を被覆した被覆基体表面を、研磨面や研削面に沿った硬質皮膜表面の凸部や、被覆中に発生したマクロ粒子等の付着により凸部が形成される場合があるため、その凸部を機械的処理により平滑にすることにより、潤滑性や耐焼付き性に更に優れ望ましい。
【0013】
本発明被覆摺動部材の基体として用いる合金工具鋼中のCは、硬質皮膜が基体表面の炭化物よりエピタキシャルに成長する為、優れた密着性を有するのに効果がある。Cが0.2%未満ではその密着性向上の効果が得られず、またCの量が多きすぎると基体の靭性が低下する。そこで、0.2≦C≦0.6%であることが好ましい。合金工具鋼中のSi及びMnは脱酸剤として添加するが、Si及びMnの量があまりに多いと靭性が低下する。そこで、Siを重量%で1.2%以下、Mnを重量%で0.5%以下であることが好ましい。合金工具鋼の硬さは、HRC42以上、HRC60未満であることが好ましい。基体がHRC42未満となる場合、過酷な使用環境下において摺動部材が塑性変形を伴った摩耗進行も確認され、強度が十分ではなく好ましくない。また、HRC60以上となる場合は、摺動部材のチッピングや欠けを生じる場合があり、好ましくない。更に、本発明に用いる硬質皮膜において、金属成分の4原子%未満を周期律表の4a、5a、6a族の金属成分の1種以上で置き換えた場合も同様な効果が確認されている。以下、実施例に基づき、本発明を具体的に説明する。
【0014】
【実施例】
(実施例1)
成膜には酸素含有の合金ターゲットを用い、反応ガスを真空装置内に導入し全圧を3.0Pa、バイアス電圧を−100V、被覆温度を450℃とし、膜厚を約5μmとし、(Al0.6Cr0.4)(N0.80B0.02C0.08O0.10)を成膜し、本発明例1とした。皮膜組成は、電子プローブX線マイクロアナリシス及びオージェ電子分光法により決定した。X線光電子分光分析は、PHI社製1600S型X線光電子分光分析装置を用いて分析した。本発明例1のX線光電子分光分析結果を図1に示す。図1は結合エネルギーが530eV近傍のナロースペクトル示し、Cr−O及びAl−Oの結合の存在を示す。図2はCr−N及びCr−Oの結合の存在を示す。図3はAl−N及びAl−Oの結合の存在を示す。図4のX線回折結果は、強度比I(200)/I(111)の値が0.5以上、6以下からからなっていることを示す。
【0015】
(実施例2)
実施例1と同様に、(AlxCr1−x)(N0.92C0.03O0.05)を成膜し、比較例2、x=0.20、比較例3、x=0.30、比較例4、x=0.50、本発明例5、x=0.60、本発明例6、x=0.70、比較例7、x=0.80及び(AlxCr1−x)N系の従来例8、x=0.20、従来例9、x=0.50、従来例10、x=0.70、を製作し、押込硬さを測定した。試験機は微小押込み硬さ試験機を用い、圧子はダイヤモンド製の対稜角115度の三角錐圧子を用い、最大荷重を49mN、荷重負荷ステップ4.9mN/sec、最大荷重時の保持時間は1秒とした。測定値は10点測定の平均値を示した。図5より、本発明例5、6、Al添加量、60〜75原子%の範囲で、酸素を含有しない系より高硬度を示した。本発明に用いる硬質皮膜は、酸素を含有することにより高硬度となり、40GPa以上を得ることが出来る。これによって密着性並びに耐摩耗性に優れた硬質皮膜が得られる。
【0016】
(実施例3)
合金工具鋼を基体に用い、表1に示す皮膜組成の、従来例10、本発明例11〜20及び比較例21〜29を製作した。アークイオンプレーティング法による被覆条件は、被覆基体温度450℃、反応圧は3.5Paでバイアス電圧を−150Vの条件で被覆処理を行なった。
【0017】
【表1】
【0018】
表1の試料を用いて、大気中1100℃の酸化条件で処理した皮膜の酸化層、実施例2同様に微小押込み硬さ、薄板の変形量より算出した残留圧縮応力を測定した。先ず、酸化層厚さは、本発明例11〜20は、殆ど酸化進行が無く、耐高温酸化特性に優れていることが確認された。従来例10は酸化進行が著しく硬質皮膜は殆ど酸化物となり、酸素の内向拡散が基体まで達していた。残留応力は、本発明例11〜20は低い。
表1より、本発明例11〜20は、硬質皮膜の剥離やクラックの低減が可能となり、密着性に優れた硬質皮膜を得ることができる。これは、皮膜硬度差よりも大きな効果がある。次に、圧痕試験による皮膜剥離状況も表1に併記する。測定はロックウェル硬度計により1470Nの荷重で圧痕を形成し、光学顕微鏡により観察した。本発明例11〜20は剥離が無く、優れた密着性を示した。比較例21〜28、従来例10は被覆基体の塑性変形に追従することができず、圧痕周辺部に膜剥離が発生した。
【0019】
(実施例4)
熱間鍛造加工用金型として、表2の各種合金工具鋼−(V+Co)量、Cr量及び硬さ、を基体としたを用い、製作した。
【0020】
【表2】
【0021】
被覆前にバリ、カエリ及び機械加工面をダイヤモンド粒子もしくはアルミナ粒子等を投射することにより研磨加工し、表面を脱脂するためにアルカリ洗浄液中で8分間洗浄し、純水で中和洗浄した。アークイオンプレーティング装置内にセットし、真空中450℃で1時間の脱ガス加熱工程を実施し、Arイオンによる被覆基体のクリーニング処理を行った。表1、本発明例11〜20、比較例21〜28及び従来例10の組成からなる皮膜を1.3μmの厚さで被覆した。本発明例、従来例の被覆条件は、被覆基体温度430℃、反応ガス圧は1.5Paでバイアス電圧を−40Vの条件で被覆処理を行った。得られた被覆金型を用いて、被加工材の寸法誤差が±0.05mmの範囲を越えた寸法変化が生じた時のショット回数を表2に併記する。
(成形条件)
方法:熱間鍛造金型加工
被加工材:SCM415(肉厚25mm)
加熱温度:1100℃
仕上温度:850℃
【0022】
表2より、本発明例11〜20の合金工具鋼を基体とした被覆金型は、従来例10と比較して、被加工材の寸法誤差が±0.05mmの範囲を外れるに至るまでのショット数が多く、耐摩耗性に優れている。本発明例19は被覆後にダイヤモンド粒子を含有した粒子を工具すくい面に投射することにより、皮膜表面を平滑にしたが、本発明例11と比較しても、より金型寿命が延長している。比較例22は被覆条件をバイアス電圧−500Vで被覆した硬質皮膜のX線回折による最強強度面指数が(220)面を示し、I(200)/I(111)の値が6.2となり、本発明例に比べて金型寿命が短い。比較例25はターゲットに含有する酸素濃度が1800ppmからなるターゲットを使用した例で、X線光電子分光分析により酸化物としての結合状態が確認されない場合を示し、本発明例に比べて金型寿命が短い。比較例26は皮膜のAl含有量が20原子%の場合であり、弾性回復率は30%以下となり、ショット数が少なく、金型寿命が短い。比較例27は皮膜の酸素含有量が55原子%の場合であるがショット数が少なく、金型寿命が短い。比較例28は皮膜のSi含有量が34原子%の場合であるが耐摩耗性が十分ではない。本発明例11、12、13はそれぞれ基体の(V+Co)の値が異なる場合であるが、従来例10に比べ、工具寿命が長い。比較例23の基体中の(V+Co)の値が0.03重量%の場合は金型の1部に塑性変形を生じ、基体強度が十分ではなく、チッピングが多発した。比較例24の基体中の(V+Co)の値が7.2重量%の場合は微小な皮膜剥離が観察され、高硬度を有する硬質皮膜との密着性が悪く、不安定な摩耗状態であり、十分に発揮できなかった。本発明例14は基体の硬度がHRC41.8であるが従来例10に比べ工具寿命が長い。更に、比較例28は半価幅が1度以上となり、耐摩耗性が十分ではなく、金型寿命が短い。また、結晶粒径のアスペクト比についても、比較例28が5を超えて大きくなっている。これらは、皮膜の(111)面配向が強い為、残留圧縮応力も高くなって皮膜の密着性が低下したことが短寿命となった原因と考えられる。被覆前にプラズマ窒化し、その後の本発明皮膜を被覆した本発明例20は、未処理の本発明例18に比べ著しく耐久性が向上した。上述のように、被覆金型による熱間鍛造加工においては、被覆基体の影響がかなり大きいことが明らかである。
【0023】
【発明の効果】
本発明を適用することにより、金型を用いた成形加工において優れた耐摩耗性が得られ、皮膜も潤滑性を発揮することから、飛躍的にその耐久性を向上させることが可能となり、優れた被覆摺動部材を得ることができた。これより、上記特性が要求される産業上の各分野において大幅な製造コスト低減が可能となった。
【0024】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明例のCr−O及びAl−Oの結合エネルギーを示す。
【図2】図2は、本発明例のCr−N及びCr−Oの結合エネルギーを示す。
【図3】図3は、本発明例のAl−N及びAl−Oの結合エネルギーを示す。
【図4】図4は、本発明例のX線回折結果を示す。
【図5】図5は、本発明例と従来例のAl添加量と皮膜硬度の関係を示す。
Claims (6)
- 被覆摺動部材において、該被覆はアーク放電式イオンプレーティング法により被覆された硬質皮膜であり、該硬質皮膜は(AlxCr 1−x−y Siy)(N 1−α−β−γ BαCβOγ)、但し、x、y、α、β、γは夫々原子比率を示し、0.50<x<0.75、0≦y<0.2、0≦α<0.12、0≦β<0.2、0.01≦γ≦0.25、からなり、X線回折における(111)面の回折強度をI(111)、(200)面の回折強度をI(200)とした時、I(200)/I(111)の値が0.5以上、6以下からなり、X線光電子分光分析における525eVから535eVの範囲に、Crと酸素、Alと酸素、の結合エネルギーを有し、該摺動部材の基体は合金工具鋼からなり、VとCoの和が重量%で0.05≦(V+Co)≦7、Crが重量%で0.8≦Cr≦5.5、としたことを特徴とする被覆摺動部材。
- 請求項1記載の被覆摺動部材において、該硬質皮膜は、更に、Siと酸素、の結合エネルギーを有することを特徴とする被覆摺動部材。
- 請求項1又は2記載の被覆摺動部材において、該硬質皮膜のX線回折における(200)面回折ピークの2θの半価幅が、0.5度以上、1度以下であることを特徴とする被覆摺動部材。
- 請求項1乃至請求項3いずれかに記載の被覆摺動部材において、該硬質皮膜のX線回折により、Crの立方晶系化合物の(200)面ピーク強度をQ1、Alの六方晶系化合物の(001)面ピーク強度をQ2とした時、ピーク強度比Q2/Q1の値が、0≦Q2/Q1≦0.3となることを特徴とする被覆摺動部材。
- 請求項1乃至請求項4いずれかに記載の被覆摺動部材において、該硬質皮膜表面の凸部を機械的処理により、平滑にしたことを特徴とする被覆摺動部材。
- 請求項1記載の被覆摺動部材において、該被覆摺動部材の基体の合金工具鋼は、Cが重量%で0.2≦C≦0.6%、Siが重量%で1.2%以下、Mnが重量%で0.5%以下、硬さがHRC42以上、HRC60未満であることを特徴とする被覆摺動部材。
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