JP4253184B2 - 密着性に優れた硬質皮膜およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、切削工具、摺動部材、金型等の部材の表面に被覆される硬質皮膜およびその製造方法に関するものであり、詳細には、超硬合金や高速度工具鋼などの基材表面に密着性良く形成することができる硬質皮膜、およびこうした硬質皮膜を製造するための有用な方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
BおよびCを含む皮膜(以下、「B−C系皮膜」と呼ぶことがある)は、炭化ホウ素(B4C)に代表されるように、高硬度(ビッカース硬さHVで3500程度)で耐熱性にも優れていることから、切削工具や高温環境下で使用される摺動部材、金型等への適用が検討されている。
【0003】
しかしながら炭化ホウ素等のB−C系皮膜は、切削工具等の素材として汎用されている超硬合金(WC基超硬合金)や高速度鋼に対する密着性が悪く、例えばこれらの素材表面に炭化ホウ素を被覆して切削工具に適用した場合には、工具使用中に早期に皮膜剥離が発生するという問題がある。こうしたことから、超硬合金や高速度鋼に対する密着性を向上させるという観点から、様々な技術が提案されている。
【0004】
こうした技術として、例えば高速度鋼を基材とし、この基材表面にTi層を中間層として形成した後、B4Cターゲットを使用してスパッタリング法によってB−C系皮膜を中間層上に形成する技術が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。この技術では、Tiを中間層として形成することによって、B−C系皮膜とTi層との間にTi−B結合を形成してB−C系皮膜の密着性を高めるものである。
【0005】
こうした技術の開発によって、B−C系皮膜を高速度鋼表面に直接形成した場合に比べて密着性向上が図れたのであるが、密着性に関与しているTi−B結合が界面のごく一部にしか形成されず、切削工具等の素材として適用できるほど十分な密着性が達成されているとはいえない。
【0006】
一方、超硬合金母材表面に、BxC(x=3.5〜4.5)の硬質層(外層)を形成するに際して、BxC(x=0.5〜2)のCリッチ傾斜組織層や、Ti,Zr,Hf等の窒化物、炭化物、炭窒化物からなる層を内層(中間層)として形成する皮膜構成についても提案されている(例えば、特許文献1、2)。
【0007】
しかしながら、これらの技術においても、中間層とBxC(x=3.5〜4.5)硬質層との結合領域は界面のごく一部であり、十分な密着性が達成されているとはいえない。
【0008】
【非特許文献1】
Hauzer Techno Coating News Letter 17-4-2001
【特許文献1】
特開平4−57604号公報、特許請求の範囲
【特許文献2】
特開平4−57605号公報、特許請求の範囲
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこうした状況の下でなされたものであって、その目的は、超高合金や高速度鋼等の基材へ密着性良く形成することのできる硬質皮膜、およびこうした硬質皮膜を製造するための有用な方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成することのできた本発明の硬質皮膜とは、基材上に形成される硬質皮膜であって、少なくとも下記(1)〜(4)の層を含んで積層されたものであり、且つ下記表面層中のBに対するCの比率がモル比で0.1〜0.3である点に要旨を有するものである。
(1)周期律表4A、5A、6A族の元素よりなる群から選ばれる1種以上の金属からなる基材側の第1層
(2)BおよびCからなる表面層、或いはBおよびCに、周期律表4A、5A、6A族の元素、Si、AlおよびNよりなる群から選ばれる1種以上の元素が0.02〜0.5モルの比率で含有された表面層
(3)前記第1層と表面層の間で表面層側に介在されてアンバランスドマグネトロンスパッタリング法によって形成されると共に、BおよびCと、下記(4)の窒化物および/または炭窒化物層を構成する元素からなり、窒化物および/または炭窒化物層側から表面層側になるにつれて、BおよびCの含有量が連続的または段階的に増加する傾斜組成層
(4)前記第1層と前記傾斜組成層の間に介在され、周期律表4A、5A、6A族の元素よりなる群から選ばれる1種以上の金属の窒化物および/または炭窒化物層
【0011】
また、本発明の目的は、少なくとも下記(1)〜(3)の層を含んで積層され、且つ下記表面層中のBに対するCの比率がモル比で0.1〜0.3である皮膜構成を採用することによっても達成される。
(1)周期律表4A、5A、6A族の元素よりなる群から選ばれる1種以上の金属の窒化物および/または炭化物層からなる基材側の第1層
(2)BおよびCからなる表面層、或いはBおよびCに、周期律表4A、5A、6A族の元素、Si、AlおよびNよりなる群から選ばれる1種以上の元素が0.02〜0.5モルの比率で含有された表面層
(3)前記第1層と表面層の間に介在されてアンバランスドマグネトロンスパッタリング法によって形成されると共に、BおよびCと、第1層を構成する元素からなり、第1層側から表面層側になるにつれて、BおよびCの含有量が連続的または段階的に変化する傾斜組成層
これらの硬質皮膜においては、前記傾斜組成層内には、周期律表4A、5A、6A族の元素よりなる群から選ばれる1種以上の元素と、B、CおよびNの少なくともいずれかとの結合が含まれたものであることが好ましく、こうした結合を有することによって、硬質皮膜の密着性が更に向上したものとなる。
【0012】
基材側の第1層として、周期律表4A、5A、6A族の元素よりなる群から選ばれる1種以上の金属からなる層を有する硬質皮膜を製造するに当たっては、周期律表4A、5A、6A族の元素よりなる群から選ばれる1種以上の金属または合金のターゲットと、BおよびCを含有するターゲットを、同一真空容器内に夫々少なくとも1つずつ配置して、基材を回転しながらアンバランスドマグネトロンスパッタリング法を適用し、且つ第1層をArガス中で形成した後、Arと窒素の混合ガス中で、またはAr、窒素およびメタンの混合ガス中で、BおよびCを含有するターゲットへの電力を傾斜的に増加し、前記金属または合金のターゲットへの電力を傾斜的に減少させて前記傾斜組成層を形成し、基材表面に硬質皮膜を形成するようにすればよい。
【0013】
また、基材側の第1層として、周期律表4A、5A、6A族の元素よりなる群から選ばれる1種以上の金属の窒化物および/または炭窒化物からなる層を有する硬質皮膜を製造するに当たっては、周期律表4A、5A、6A族の元素よりなる群から選ばれる1種以上の金属または合金のターゲットと、BおよびCを含有するターゲットを、同一真空容器内に夫々少なくとも1つずつ配置して、基材を回転しながらアンバランスドマグネトロンスパッタリング法を適用し、且つ前記金属または合金のターゲットへの電力を減少させると共に、Arに対する窒素ガスの割合またはArに対するメタンガスの割合を傾斜的に減少させて前記傾斜組成層を形成し、基材表面に硬質皮膜を形成するようにすればよい。
【0014】
【発明の実施の形態】
これまで提案されている中間層では、表面層として形成されるB−C系皮膜との密着性が十分とはならない理由は、中間層と表面層における機械的特性の違いが大きく原因しているものと考えることができた。本発明者らは、こうした機械的特性の違いを是正すれば密着性の良好な硬質皮膜が実現できるのではないかという観点から検討を重ねた。
【0015】
その結果、周期律表4A、5A、6A族の元素(Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,MoおよびW)よりなる群から選ばれる1種以上の金属からなる基材側の第1層と、BおよびCを含有する表面層との間に、BおよびCを含有する層を形成し、且つこの層中のBおよびCの含有量を第1層側から表面層側になるにつれて、連続的または段階的に変化する傾斜組成として表面側になるにつれて表面層の組成に近づくように制御することで、高密着性が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0016】
金属Ti中間層上に直接炭化ホウ素膜を形成した場合には、金属Tiと炭化ホウ素膜では硬度やヤング率等の機械的特性が大きく異なることから、摺動時などに外部応力が加わったときの上下層での変形挙動が大きく異なってしまい、界面での剥離が生じやすい。これに対して、本発明のように表面層と金属層(第1層)の間に傾斜組成層を介在させ、上記機械的特性が連続的または段階的に変化するように制御することによって、界面が実質上存在しないために外部応力負荷時の変形挙動に対して追随し易くなって皮膜の剥離が生じにくくなるのである。
【0017】
外部応力がさらに過酷な条件下にある場合には、基材表面に、基材よりも硬質な金属窒化物や炭化物層(周期律表4A、5A、6A族の元素よりなる群から選ばれる1種以上の金属の窒化物層または炭化物層:以下「窒化物・炭化物層」と呼ぶことがある)を形成してやる(即ち、金属第1層の代わりに、窒化物・炭化物層を設ける)ことで、機械的特性がより近く、連続的に変化するために外部応力に対する耐久性が増すことになる。また金属窒化物等と基材の密着性が悪いときには、前記金属第1層と傾斜組成層の間に、窒化物および/または炭窒化物層(以下「窒化物・炭窒化物層」と呼ぶことがある)を介在させる構成を採用することも有用である。
【0018】
本発明の硬質皮膜においては、金属層(前記第1層)や傾斜組成層には実質的に金属元素とBおよびC(窒化物・炭窒化物層を形成した場合にはB、CおよびN)が含まれているわけであるが、金属元素は単体の金属状態で存在するのではなく、BやC(またはB、CおよびNの少なくともいずれか)と化学結合を有していることが望ましい。
【0019】
上記化学結合の割合は、傾斜層中における任意の点の金属元素とB,C,Nの組成を比較して、各金属元素が形成するB,C,N化合物の組成比から金属元素或はB,C,Nが余るかを計算する。そして金属元素が余る場合には、含有するB,C,Nのうち金属元素と結合している割合、逆に金属元素が足りない場合には、含有する金属元素のうちB,C,Nと結合している割合で定義される。例えば、後記図4に示した皮膜組成では、TiはTiB2、TiCの量論化合物を形成するので、Ti2(B2C)の組成(金属:B,C=2:3)に対してTiが少なければ、結合の割合をTiで、それ以上のTi量ではB、Cの結合割合で定義される。B、Cリッチ部分はB、Cの組成比によっては軟質な皮膜となることがあり、傾斜層部の硬度低下即ち密着性に悪影響を与えることから、特に上記に定義した部分のうち、B、Cリッチ部分に添加された金属元素が各々B、C(或はN)と結合を生じ、当該部分の硬度上昇をもたらす方が望ましい。尚、この化学結合の割合は、50%以上であることが好ましく、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上とするのが良い(この結合を形成する方法については、後述する)。
【0020】
周期律表4A、5A、6A族の元素は、全てB、C、N等と結合して硬質の化合物を生成する元素であり、これらの結合が傾斜組成層内に析出することによって、傾斜組成層部分の硬度が上昇して強度が増加し、剥離しにくくなる。また傾斜組成層中のBやCの含有量が増加するに従って、金属元素量は低下するので、上記結合の割合は基材より表面方向に向かって連続的に減少する。尚、周期律表4A、5A、6A族の元素のうち、より高硬度の化合物(炭化物、硼化物および窒化物)を形成するという観点からして、Ti,Nb,TaおよびWが好ましい。
【0021】
BおよびCを含有する表面層は、基本的には最上層となる部分であるが、この層中のBに対するCの比率はモル比で0.1〜0.3であることが好ましい。Bに対するCの比率が上記の範囲内で表面層の硬度が最大となり、切削工具や耐摩耗摺動部材に好適な膜となる。この比率がモル比で0.1未満になると、Cと結合しない非晶質Bが析出し、硬度が低下する。またモル比が0.3を超えると、Bと結合しない非晶質Cが析出し、硬度低下および耐熱性が劣化(Cは酸化され易い)する。より好ましいモル比は、0.15〜0.25の範囲である。
【0022】
上記表面層には、上記した周期律表4A、5A、6A族の元素の他、Si、AlおよびNよりなる群から選ばれる1種以上の元素を0.02〜0.5モルの比で含有することも有用であり、こうした元素を表面層に含有することにより、これらの元素とBやCとの化合物が形成され、より高硬度で耐摩耗性に優れる皮膜を形成することができる。特に、Nを含有させることによって、硬度が非常に高い立方晶窒化ホウ素(cBN)を形成することができるので有効である。これらの元素の含有量がモル比で0.02未満では上記の効果が発揮されず、0.5を超えるとBやCと結合しない金属成分が析出して、硬度が低下することになる。
【0023】
本発明の硬質皮膜の構造を実現するに当たっては、周期律表4A、5A、6A族の元素よりなる群から選ばれる1種以上の金属または合金のターゲットと、BおよびCを含有するターゲットを、同一真空容器内に少なくとも1つずつ配置して、基材を回転しながらスパッタリング法を適用し、基材表面に硬質皮膜を形成するようにすればよい。こうした構成を採用することによって、真空を破ることなく第1層/(金属窒化物・炭窒化物層)/傾斜組成層/表面層や、第1層/傾斜組成層/(金属窒化物・炭窒化物層)/表面層の皮膜構造の成膜が可能であり、より密着性に優れた硬質皮膜が実現できる。
【0024】
また上記製造方法において、適用する方法は基本的にスパッタリング法であるが、周期律表4A、5A、6A族の元素よりなる群から選ばれる1種以上の元素と、B、CおよびNの少なくともいずれかとの結合を形成するという観点からして、アンバランスドマグネトロンスパッタリング法(UBMS法)を適用することが好ましい。このUBMS法では、ターゲットに印加する磁場のバランスを意図的に崩して、基材に入射するイオン量を増加させており、こうした方法では基材にイオンした元素が多く入射して上記のような結合を形成し易くなるのである。
【0025】
本発明の硬質皮膜における第1層(金属層)、窒化物・炭窒化物層および傾斜組成層等の厚さは、0.05〜1μmの範囲にあることが好ましい。これらの層の厚さが0.05μm未満では、密着性向上効果が達成されにくく、1μmを超えても密着性向上効果が飽和するばかりではなく、プロセス時間が長くなるなど実施上の不利がある。これらの層のより好ましい厚さは、0.1〜0.5μm程度である。
【0026】
尚、本発明の硬質皮膜においては、必要によって、表面層の上に更にBN皮膜を形成することも可能であり、高硬度のcBN(立方晶)皮膜を形成した場合には優れた耐摩耗性および耐酸化性が得られ、hBN(六方晶)皮膜を形成した場合には優れた潤滑性(低摩擦係数)および耐酸化性が得られる。また、本発明に係るBおよびCを含有する表面層(若しくは、必要によって形成されるBN皮膜)は、周期律表4A、5A、6A族の元素、およびAl,Siよりなる群から選ばれる1種以上の元素と、B、C、NおよびOの1種以上より選択される化合物からなる層上(即ち、化合物層を下地層として)に形成することも有用であり、これによって耐摩耗性の更なる向上が図れ、切削工具等の耐摩耗性用途に好適となる。
【0027】
本発明で用いる基材としては、上記超硬合金や高速度鋼に限らず、例えばサーメットやセラミックス等にも適用でき、こうした素材に対しても本発明の硬質皮膜は密着性良く形成することができるものである。
【0028】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例に限定されるものでなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲に適当に変更を加えて実施することも可能であり、これらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0029】
【実施例】
図1は、スパッタリング成膜装置の概要を模式的に示した平面図である。この成膜装置では、2つのスパッタリング用電源を有し、周期律表4A、5A、6A族の元素よりなる群から選ばれる1種以上の金属ターゲット1と、炭化ホウ素(B4C)ターゲット2を設置し、基材(被処理物)をテーブルにて回転させつつ、真空容器内にスパッタガスを導入して成膜を行なうものである。
【0030】
図1に示した成膜装置を用いて各種の硬質皮膜を形成した。このとき、成膜用の基材には鏡面研磨した超硬合金基材を用い、金属層(第1層)成膜時にはスパッタガスとしてArを、窒化物、炭窒化物層形成時には夫々Arと窒素の混合ガスおよびAr、窒素、メタンの混合ガスを使用した。
【0031】
金属層を形成した後、炭化ホウ素ターゲット2への電力を傾斜的に増加させ、金属ターゲット2への電力を傾斜的に減少させることで、傾斜組成層を作製した。また窒化層上に傾斜組成層を作製する場合には、金属ターゲット1の電力を減少させると共に、Arガスに対する窒素ガスの割合も傾斜的に減少させた。各々のターゲット1、2に入力した電力は最大で1.5kWとし、成膜時の圧力は全圧で0.6Paである。
【0032】
また窒素/Ar、メタン/Arの比は0〜0.5の範囲で目的に応じて制御した。基材に印可する電圧は、−100Vの一定とした。基材温度は200〜400℃の間で制御した。膜厚は、金属層および炭窒化物層で0.4μm程度、傾斜組成層で0.4μm、表面層で2〜3μmとした。
【0033】
下記表1に示す各サンプルを作製し、密着性をスクラッチ試験にて評価した。このときのスクラッチ試験条件は下記の通りである。またXPS(X線光電子分析法)にて、傾斜組成層中の金属元素の結合状態を検出した。このとき、XPSスペクトルのB,C(或はN)リッチ部分の金属元素の添加した量に占めるB、C、Nとの結合を生じている割合(スペクトルの面積比率)で結合割合を測定した。また、この結合割合は、B/Cリッチ層における任意の3点の測定値の平均である。これらの結果を、下記表1に一括して示す。尚、傾斜組成層の形成に関して、表1中、No.3、12はバランストマグネトロンスパッタリング法(BMS法)とし、それ以外はアンバランストマグネトロンスパッタリング法(UBMS法)とした。
【0034】
(スクラッチ試験条件)
圧子 :ダイヤモンド(先端径:200μmR)
荷重増加速度:100N/分
ひっかき速度:10mm/分
荷重範囲 :0〜100N
【0035】
【表1】
【0036】
表1に示した各積層皮膜の構造をSIMS(二次イオン質量分析法)にて検出し、深さ方向の組成分布を検出した。その結果を、模式的に図2〜9に夫々示す。尚、図2〜9にて「深さ」とは、基材表面から0.2μmに位置を基準(深さ:0μm)とした表面層側への距離を示す。
【0037】
これらの結果から、次のように考察できる。まず、No.3〜13のものは、本発明で規定する要件を満足する実施例のものであり、スクラッチ試験においていずれも45N以上という、優れた密着性が達成されていることが分かる。
【0038】
これに対して、No.1、2のものでは、本発明で規定する要件のいずれかを欠くものであり、密着性が劣化していることが分かる。
【0039】
尚、前記図1に示した装置構成では、金属ターゲット1と炭化ホウ素(B4C)ターゲット2を夫々一つずつ配置したものであるが、本発明で適用する装置はこうした構成に限らず、各ターゲット1、2を同一真空容器内に夫々複数個配置することもでき、こうした装置を使用して成膜することによって、より緻密な積層膜構造を実現することができる。
【0040】
また、上記装置構成では、テーブルを回転させつつ成膜を行ったが、こうした構成は金属元素と、BおよびCを含有するターゲットを用いて本発明の構成の皮膜(例えば、金属層/傾斜組成層/B,C含有層)を形成する上で有効である。本発明では、傾斜組成層を形成する方法として、異なる蒸発源(ターゲット1、2)を同時に放電させ、基材を回転させながら形成を行うものであるが、こうした構成では、基材が金属ターゲット1の正面を通過するときは薄い金属層が、BおよびCを含有するターゲット2の正面を通過するときにはB、C含有膜が形成され、見かけ上多層膜となるのであるが、一般にスパッタリングなどのPVD法による蒸着粒子はエネルギーを有していることから、上記金属層とB、C含有層間にて界面ミキシングが生じ、深さ方向にほぼ均一な膜となる。但し、界面のミキシング効果にはエネルギーに応じた限界があることから、蒸発減前を通過するときに形成される皮膜の膜厚を正確にコントロールする必要がある。この膜厚は、使用するプロセス、基材に印加する電圧(入射粒子のエネルギーを決定する)にも依存するが、概ね10nm以下となるように制御することが好ましい。より好ましくは、5nm以下に制御するのが良い。
【0041】
【発明の効果】
本発明は以上の様に構成されており、超硬合金や高速度鋼等の基材へ密着性良く形成することのできる硬質皮膜が実現できた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で用いたスパッタリング成膜装置の概要を模式的に示した平面図である。
【図2】表1のNo.1の硬質皮膜におけるSIMS分析結果を模式的に示すプロファイルである。
【図3】表1のNo.2の硬質皮膜におけるSIMS分析結果を模式的に示すプロファイルである。
【図4】表1のNo.3〜5の硬質皮膜におけるSIMS分析結果を模式的に示すプロファイルである。
【図5】表1のNo.6、7の硬質皮膜におけるSIMS分析結果を模式的に示すプロファイルである。
【図6】表1のNo.8の硬質皮膜におけるSIMS分析結果を示すプロファイルである。
【図7】表1のNo.9の硬質皮膜におけるSIMS分析結果を模式的に示すプロファイルである。
【図8】表1のNo.10の硬質皮膜におけるSIMS分析結果を模式的に示すプロファイルである。
【図9】表1のNo.11の硬質皮膜におけるSIMS分析結果を模式的に示すプロファイルである。
Claims (6)
- 基材上に形成される硬質皮膜であって、少なくとも下記(1)〜(4)の層を含んで積層されたものであり、且つ下記表面層中のBに対するCの比率がモル比で0.1〜0.3であることを特徴とする密着性に優れた硬質皮膜。
(1)周期律表4A、5A、6A族の元素よりなる群から選ばれる1種以上の金属からなる基材側の第1層
(2)BおよびCからなる表面層、或いはBおよびCに、周期律表4A、5A、6A族の元素、Si、AlおよびNよりなる群から選ばれる1種以上の元素が0.02〜0.5モルの比率で含有された表面層
(3)前記第1層と表面層の間で表面層側に介在されてアンバランスドマグネトロンスパッタリング法によって形成されると共に、BおよびCと、下記(4)の窒化物および/または炭窒化物層を構成する元素からなり、窒化物および/または炭窒化物層側から表面層側になるにつれて、BおよびCの含有量が連続的または段階的に増加する傾斜組成層
(4)前記第1層と前記傾斜組成層の間に介在され、周期律表4A、5A、6A族の元素よりなる群から選ばれる1種以上の金属の窒化物および/または炭窒化物層 - 基材上に形成される硬質皮膜であって、少なくとも下記(1)〜(3)の層を含んで積層されたものであり、且つ下記表面層中のBに対するCの比率がモル比で0.1〜0.3であることを特徴とする密着性に優れた硬質皮膜。
(1)周期律表4A、5A、6A族の元素よりなる群から選ばれる1種以上の金属の窒化物または炭化物層からなる基材側の第1層
(2)BおよびCからなる表面層、或いはBおよびCに、周期律表4A、5A、6A族の元素、Si、AlおよびNよりなる群から選ばれる1種以上の元素が0.02〜0.5モルの比率で含有された表面層
(3)前記第1層と表面層の間に介在されてアンバランスドマグネトロンスパッタリング法によって形成されると共に、BおよびCと、第1層を構成する元素からなり、第1層側から表面層側になるにつれて、BおよびCの含有量が連続的または段階的に変化する傾斜組成層 - 前記傾斜組成層内には、周期律表4A、5A、6A族の元素よりなる群から選ばれる1種以上の元素と、B、CおよびNの少なくともいずれかとの結合が含まれたものである請求項1に記載の硬質皮膜。
- 前記傾斜組成層内には、周期律表4A、5A、6A族の元素よりなる群から選ばれる1種以上の元素と、B、CおよびNの少なくともいずれかとの結合が含まれたものである請求項2に記載の硬質皮膜。
- 請求項1または3に記載の硬質皮膜を製造するに当たり、周期律表4A、5A、6A族の元素よりなる群から選ばれる1種以上の金属または合金のターゲットと、BおよびCを含有するターゲットを、同一真空容器内に夫々少なくとも1つずつ配置して、基材を回転しながらアンバランスドマグネトロンスパッタリング法を適用し、且つ第1層を A rガス中で形成した後、 A rと窒素の混合ガス中で、または A r、窒素およびメタンの混合ガス中で、BおよびCを含有するターゲットへの電力を傾斜的に増加し、前記金属または合金のターゲットへの電力を傾斜的に減少させて、前記傾斜組成層を形成し、基材表面に硬質皮膜を形成することを特徴とする密着性に優れた積層型硬質皮膜の製造方法。
- 請求項2または4に記載の硬質皮膜を製造するに当たり、周期律表4A、5A、6A族の元素よりなる群から選ばれる1種以上の金属または合金のターゲットと、BおよびCを含有するターゲットを、同一真空容器内に夫々少なくとも1つずつ配置して、基材を回転しながらアンバランスドマグネトロンスパッタリング法を適用し、且つ前記金属または合金のターゲットへの電力を減少させると共に、Arに対する窒素ガスの割合またはArに対するメタンガスの割合を傾斜的に減少させて前記傾斜組成層を形成し、基材表面に硬質皮膜を形成することを特徴とする密着性に優れた積層型硬質皮膜の製造方法。
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