JP5459498B2 - 表面被覆切削工具 - Google Patents
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Description
近年、硬質薄膜の他の成膜法としてエアロゾルデポジション(Aerosol Deposition。以下、ADで示す)法が開発され、このAD法を利用して、工具基体表面に硬質膜を成膜する表面被覆切削工具について注目されている。
AD法については、非特許文献1に紹介されているが、図1に示されるAD装置において、サブミクロンオーダーの原料超微粒子をエアロゾル発生器に装填し、高圧ガスと混合、エアロゾル化し、中〜低真空に排気された成膜チャンバー内の基板に高速で吹き付けることで金属、セラミックス膜を成膜するコーティング手法である。
AD法の成膜の原理は、「常温衝撃固化現象」と命名されており、特にセラミックスの成膜においては、特定範囲のサイズを持つ微細な粒子がノズルからガスと共に送られた際に得る一定範囲の運動エネルギーを持って基板に衝突する際に、微細結晶に破砕し、この粒子同士が緻密に結合しながら膜を形成するというものである。
このAD法による成膜の特徴としては、
(イ)金属やセラミックス(酸化物、非酸化物)の成膜が可能である。
(ロ)高温の熱処理が不要なため、通常の焼結プロセスでは得られない原料粉組成を維持した熱非平衡なセラミックス組織が得られる。
(ハ)高速(条件によってはPVD、CVDの30倍以上)かつ大面積で緻密な微結晶組織を持つコーティングが可能である。
(ニ)基板は、硬度や弾性率などの機械特性に配慮すれば、Si,SUS304,樹脂,ガラスなど広く選択可能である。
等が挙げられる。
また、特許文献2には、ダイヤモンド微粒子とセラミック(例えば、Al2O3,TiO2,SiO2,AlSiNO,SiC,TaC,B4C,BN,SiN,Y2O3,ZrO2,MgO)粒子との複合膜をAD法によって形成することにより、密着性にすぐれ、Al合金の切削ですぐれた耐摩耗性を示す表面被覆切削工具が得られることが述べられている。
また、特許文献3には、AD法によってダイヤモンド膜を形成したダイヤモンド被覆工具が示され、このダイヤモンド被覆工具は摩擦係数が小さく耐摩耗性に優れることが述べられている。
しかし、特許文献1に示される表面被覆切削工具は基板との密着性及び耐摩耗性が十分とはいえず、また、特許文献2、3に示されるものは、硬質膜成分がダイヤモンドであり、このダイヤモンドが鉄系材料と反応を起こすため、鋼、鋳鉄等の鉄系材料の切削工具として用いることはできない。
「(1) 炭化タングステン基超硬合金からなる工具基体の表面に、中間層と上部層からなる硬質被覆層が被覆形成された表面被覆切削工具において、
(a)上記中間層は、0.5〜2.0μmの平均層厚の炭化タングステンと窒化チタンの複合硬質膜、
(b)上記上部層は、1.0〜15μmの平均層厚の窒化チタンと立方晶窒化ホウ素の複合硬質膜、
からなることを特徴とする表面被覆切削工具。
(2) 中間層を構成する複合硬質膜は、工具基体側では炭化タングステンの含有比率が高く、また、上部層側では窒化チタンの含有比率が高くなる組成傾斜構造を備えていることを特徴とする前記(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3) 中間層の組成傾斜構造は、工具基体と中間層との界面より中間層側に0.2μmの領域では、炭化タングステンと窒化チタンの合量に占める炭化タングステンの含有比率は0.6〜0.9(但し、体積比)であり、また、上部層と中間層の界面より中間層側に0.2μmの領域では、炭化タングステンと窒化チタンの合量に占める窒化チタンの含有比率は0.7〜0.9(但し、体積比)であることを特徴とする前記(2)に記載の表面被覆切削工具。
(4) 上部層を構成する複合硬質膜は、中間層側では窒化チタン含有比率が高く、また、表層側では立方晶窒化ホウ素の含有比率が高くなる組成傾斜構造を備えていることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
(5) 少なくともすくい面における上部層の組成傾斜構造は、中間層と上部層との界面より上部層側に0.2μmの領域では、窒化チタンと立方晶窒化ホウ素の合量に占める窒化チタンの含有比率が0.7〜0.9(但し、体積比)、また、上部層の表層より0.2μmの領域では、窒化チタンと立方晶窒化ホウ素の合量に占める立方晶窒化ホウ素の含有比率が0.6〜0.8(但し、体積比)であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
(6) 少なくとも逃げ面における上部層の組成傾斜構造は、中間層と上部層との界面より上部層側に0.2μmの領域では、窒化チタンと立方晶窒化ホウ素の合量に占める窒化チタンの含有比率が0.7〜0.9(但し、体積比)、また、上部層の表層より0.2μmの領域では、窒化チタンと立方晶窒化ホウ素の合量に占める立方晶窒化ホウ素の含有比率が0.4〜0.6(但し、体積比)であることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
」
を特徴とするものである。
まず、本発明の複合硬質膜のAD法による成膜の概要を図1により説明する。
図1において、例えば、粒径がそれぞれ0.1〜1.0μmのWC粉末、TiN粉末、cBN粉末を、それぞれエアロゾル発生器内に充填し、これを高圧ガス(He,Ar,N2あるいは空気)と混合し、エアロゾル化し、中、低真空圧の成膜チャンバー内の基板に高速で吹き付けることで、工具基体表面にWCとTiNとの所望の含有比率からなる複合膜(中間層に相当)およびTiNとcBNとの所望の含有比率からなる複合膜(上部層に相当)を成膜することができる。
一方、中間層の表層側(上部層側)では、TiN含有比率が高く、WC含有比率が低くなっているため、上部層(中間層側ではTiN含有比率が高くなっている)との密着性、付着強度にもすぐれている。
ただ、中間層の工具基体側のWC含有比率WC/(WC+TiN)が0.6未満では、工具基体との密着性、付着強度が十分ではなく、一方、WC/(WC+TiN)が0.9を超えると、中間層中のTiN粒子とWC粒子との界面の強度が低下し、中間層自体が脆化することから、中間層の工具基体側におけるWC含有比率WC/(WC+TiN)は0.6〜0.9(但し、体積比)とすることが望ましい。
また、中間層の表層側(上部層側)のTiN含有比率TiN/(WC+TiN)が0.7未満では、上部層との密着性、付着強度が十分ではなく、一方、TiN/(WC+TiN)が0.9を超えると、中間層では靭性低下が生じることから、中間層の表層側(上部層側)におけるTiN含有比率TiN/(WC+TiN)は0.7〜0.9(但し、体積比)とすることが望ましい。
さらに、本発明の中間層は、その膜厚が0.5μm未満であると、工具基体との十分な密着性、付着強度を確保することができず、一方、その膜厚が2μmを超えると、耐摩耗性が低下するため、中間層の膜厚は、0.5〜2μmと定めた。
上部層の中間層側でTiN含有比率が高くなっていることにより、中間層と上部層の密着性、付着強度が向上する。
上記TiNとcBNとの複合硬質膜からなる上部層は、中間層との密着性、付着強度に優れるため、前述のWCとTiNとの複合硬質膜からなる中間層と上記上部層とからなる硬質被覆層を被覆形成した本発明の表面被覆切削工具は、結果として、工具基体との密着性、付着強度にすぐれ、かつ、靭性、耐衝撃性、耐摩耗性にすぐれるという特性を備えたものとなり、長期間の使用に亘って、すぐれた切削性能を発揮する。
特に、中間層、上部層が、前述の組成傾斜構造を有する場合には、一段とすぐれた切削性能を発揮する。
しかも、AD法によれば、上記中間層の組成傾斜構造を、中間層成膜初期あるいは後期のWCとTiNの吹き付けを、所望の含有比率になるように調整(例えば、エアロゾル容器内のガス圧を調整)することによって、容易に形成することができる。
同様に、上記上部層のすくい面および逃げ面におけるそれぞれの組成傾斜構造についても、上部層成膜初期あるいは後期のすくい面あるいは逃げ面へのTiNとcBNの吹き付けを、所望の含有比率になるように調整(例えば、エアロゾル容器内のガス圧を調整)することによって、容易に形成することができる。
粒径が0.1〜1.0μmのWC粉末と、粒径が0.1〜1.0μmのTiN粉末、粒径が0.1〜1.0μmのcBN粉末との原料微粒子を用意し、
それぞれを、エアロゾル発生器に装入し、粉末の凝集を防ぐため、エアロゾル容器の下の振動機を振動させながらエアロゾル発生器にガスを流し、原料微粒子をエアロゾル化し、
まず、エアロゾル化したWC粉末と、エアロゾル化したTiN粉末とを混合し、Heガスを用いて、ガス圧力:200Pa、ガス搬入速度:5L/min、ノズル移動速度:1mm/sec、成膜温度:常温の成膜条件で、上記の超硬合金基体表面に、WCとTiNとの複合硬質膜からなる所定層厚の中間層を成膜した。
なお、中間層の組成傾斜構造は、各エアロゾル容器の圧力を時間とともに制御することにより形成した。
次いで、エアロゾル化したTiN粉末と、エアロゾル化したcBN粉末とを混合し、前記と同様な成膜条件で成膜し、中間層の上に、TiNとcBNとの複合硬質膜からなる所定層厚の上部層を成膜した。
なお、すくい面、逃げ面のそれぞれに応じた上部層の組成傾斜構造は、各エアロゾル容器の圧力を時間およびノズル位置に対応させて制御することにより形成した。
上記AD法により、超硬合金基体1〜10の表面に、所定の成分含有比率、傾斜構造、膜厚からなる中間層、上部層を形成することにより、表2に示すISO規格SNGA120412に規定するスローアウエイチップ形状の本発明表面被覆切削工具1〜10(以下、本発明1〜10という)を作製した。
なお、比較例1〜10は、成分含有比率、膜厚、層構造のうちの少なくともいずれかが、本発明で規定する範囲外のものである。
また、上記本発明1〜10、比較例1〜10の各層の層厚は、走査型電子顕微鏡を用いて断面測定し、5ヶ所の測定値の平均を平均層厚とし、その値を、表2、表3に示した。
《切削条件A》
被削材: JIS・SCr420(硬さHRC:62)の丸棒、
切削速度: 210 m/min、
送り: 0.15 mm/rev、
切込み:0.20 mm、
切削時間:5分
の条件での、クロム鋼の浸炭焼入材の乾式連続切削加工試験、
《切削条件B》
被削材: JIS・SUJ2(硬さHRC:60 )の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 150 m/min、
送り: 0.20 mm/rev、
切込み: 0.15 mm、
切削時間:5分
の条件での、軸受鋼の浸炭焼入材の乾式断続切削加工試験、
を行い、切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
上記切削条件A,Bによる切削加工試験の測定結果を表4に示した。
さらに、上記の層構造に加えて、中間層が組成傾斜構造を有する本発明の表面被覆切削工具、あるいは、さらに上部層がすくい面、逃げ面のそれぞれに応じた組成傾斜構造を有する本発明の表面被覆切削工具においては、より一段とすぐれた密着性、付着強度を備え、クレータ摩耗、すきとり摩耗の発生も全く見られず、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮するものである。
これに対して、比較例の表面被覆切削工具においては、チッピング、欠損、剥離等の発生、あるいは、耐摩耗性不足により、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
Claims (6)
- 炭化タングステン基超硬合金からなる工具基体の表面に、中間層と上部層からなる硬質被覆層が被覆形成された表面被覆切削工具において、
(a)上記中間層は、0.5〜2.0μmの平均層厚の炭化タングステンと窒化チタンの複合硬質膜、
(b)上記上部層は、1.0〜15μmの平均層厚の窒化チタンと立方晶窒化ホウ素の複合硬質膜、
からなることを特徴とする表面被覆切削工具。 - 中間層を構成する複合硬質膜は、工具基体側では炭化タングステンの含有比率が高く、また、上部層側では窒化チタンの含有比率が高くなる組成傾斜構造を備えていることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
- 中間層の組成傾斜構造は、工具基体と中間層との界面より中間層側に0.2μmの領域では、炭化タングステンと窒化チタンの合量に占める炭化タングステンの含有比率は0.6〜0.9(但し、体積比)であり、また、上部層と中間層の界面より中間層側に0.2μmの領域では、炭化タングステンと窒化チタンの合量に占める窒化チタンの含有比率は0.7〜0.9(但し、体積比)であることを特徴とする請求項2に記載の表面被覆切削工具。
- 上部層を構成する複合硬質膜は、中間層側では窒化チタン含有比率が高く、また、表層側では立方晶窒化ホウ素の含有比率が高くなる組成傾斜構造を備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具。
- 少なくともすくい面における上部層の組成傾斜構造は、中間層と上部層との界面より上部層側に0.2μmの領域では、窒化チタンと立方晶窒化ホウ素の合量に占める窒化チタンの含有比率が0.7〜0.9(但し、体積比)、また、上部層の表層より0.2μmの領域では、窒化チタンと立方晶窒化ホウ素の合量に占める立方晶窒化ホウ素の含有比率が0.6〜0.8(但し、体積比)であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具。
- 少なくとも逃げ面における上部層の組成傾斜構造は、中間層と上部層との界面より上部層側に0.2μmの領域では、窒化チタンと立方晶窒化ホウ素の合量に占める窒化チタンの含有比率が0.7〜0.9(但し、体積比)、また、上部層の表層より0.2μmの領域では、窒化チタンと立方晶窒化ホウ素の合量に占める立方晶窒化ホウ素の含有比率が0.4〜0.6(但し、体積比)であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具。
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