JP3914686B2 - 切削工具とその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ドリル、エンドミル、フライス加工用および旋削用刃先交換型チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップなどの切削工具に関するものである。特に、表面に平滑な耐摩耗性被膜を有する切削工具に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、耐摩耗性および表面保護機能改善のため、基材表面に硬質被膜層を形成した切削工具が知られている。その基材の具体例としては、WC基超硬合金、サーメット、セラミックス、高速度鋼等が挙げられる。また、硬質被覆層としては、PVD法やCVD法によりTi(チタン)、Hf(ハフニウム)、Zr(ジルコニウム)の炭化物、窒化物、炭窒化物あるいはAlの酸化物などが挙げられる。硬質被覆層は単層で用いられることもあれば、複層で利用されることもある。
【0003】
しかし、最近の切削工具の動向として、加工能率を一層向上させるため、切削速度がより高速になってきていることなどから、工具刃先温度はますます高温になる傾向があり、工具材料に要求される特性は厳しくなる一方である。特に、工具材料の要求特性として、高温での被膜の安定性(耐酸化特性や被膜の密着性)はもちろんのこと、切削工具寿命に関係する耐摩耗性、すなわち被膜硬度の向上が重要となっている。
【0004】
そこで、例えば特公平5-67705号公報に開示されているように、(TiXAl1-X)(NyC1- y)ただし、0.56≦x≦0.75、0.6≦y≦1のようなTiAl系の被膜が提案されている。通常のTiN膜では酸化開始温度が600℃程度であるが、このTiAl系被膜を用いると、酸化開始温度が850℃まで向上すると言われていることによる。
【0005】
さらに、このTiAlN膜の耐酸化性を向上させる手法として、例えば、Donohueらは、Surf.Coat.Technol.、94-95、226-231(1997)において、CrとYを添加することを提案している。Donohueらによれば、このCrとYの添加量を制御することで耐酸化特性が950℃まで向上させることができるらしい。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、これらの事例は従来のTi系の被膜、例えばTiN膜に対してAl、Cr、Yを添加することで耐酸化性が向上するといった被膜の耐酸化特性改善であって、被覆切削工具において非常に重要な被膜の高硬度化に関しての言及が少ない。
【0007】
そこで、瀬戸山らは特開平7-3432号公報において、周期律表4a、5a、6a族元素、Al、Bから選択される1種以上の元素の立方晶型の結晶構造を持つ主に金属結合性の1種以上の窒化物もしくは炭窒化物と、常温、常圧、平衡状態において立方晶以外の結晶構造を持つ主に共有結合性の1種以上の化合物を繰り返して積層する超薄膜積層構造を提案している。この超薄膜積層構造は、全体として立方晶型のX線回折パターンを持ち、それぞれの化合物の層厚を0.2〜20nmとしている。しかし、被膜硬度を一層向上させることができれば、さらに切削工具寿命を延長させることが可能となると考えられる。
【0008】
他方、ダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、アルミナなどは、Ti(チタン)、Hf(ハフニウム)、Zr(ジルコニウム)の炭化物、窒化物、炭窒化物をはるかに凌ぐ高硬度を持ち、耐熱性も優れる。そのため、上述の表面被覆に替わる被覆材料として非常に有望であると以前より言われている。しかし、これらの材料は従来の手法では合成が難しいことに加え、工具材料として使用に耐えうる密着力が得られないため(被膜がすぐに剥離してしまう)、実用化されていない。
【0009】
従って、本発明の主目的は、耐摩耗性、高滑り性、高焼き付き性、被削材の加工精度(表面仕上げ状態)を向上できる表面被覆切削工具とその製造方法、製造装置を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、耐摩耗性、滑り性、焼き付き性、被削材の加工精度(表面仕上げ状態)などの切削工具技術の問題を解決するため表面を被覆した切削工具について様々な研究を行なった。その結果、上述の全ての問題を解決するためには、低温でも被覆可能なPVD法によって耐酸化特性を持たせながら高硬度の超微粒子を分散させた耐摩耗性被膜を密着性よく切削工具表面に被覆することが有効であるとの知見を得た。
【0011】
すなわち,本発明切削工具は、基材と、その基材上に形成された4a、5a、6a族元素およびAlからなる群の中から選択される1種以上の元素の窒化物または炭窒化物を主成分とする耐摩耗性被膜とを具える。この基材は、WC基超硬合金、サーメット、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、アルミナ、炭化ホウ素、酸化アルミニウム−炭化チタン焼結体、高速度鋼、ダイス鋼およびステンレス鋼よりなる群から選択される少なくとも1種で構成する。そして、耐摩耗性被膜中に、B4C、BN、TiB2、TiB、TiC、WC、SiC、SiNX(X=0.5〜1.33)およびAl203よりなる群から選択される少なくとも1種の超微粒化合物を含み、前記超微粒化合物が非晶質構造を有することを特徴とする。特に、耐摩耗性被膜が TiN 、 TiAlN または TiCN で構成され、超微粒化合物が SiN X ( X = 0.5 〜 1.33 )で構成されていることが好ましい。
【0012】
ここで、耐摩耗性被膜の中に前記の超微粒化合物を含有させている理由は、これらの化合物が非常に高硬度であるため、被膜の硬度を向上させる働きがあることによる。また、超微粒化合物の粒径は0.5〜50nmが好ましい。0.5nm未満では、被膜の硬度の向上が見られず、また各元素の拡散によって各粒子の構造が非常に不安定になり、微粒子構造が消失したり、隣接する粒子との結合によって粒径が増大し、結局は粒径が0.5nmを越えることになるからである。逆に、50nmを越える場合、転位やクラックの抑制効果が低下することに加え、耐摩耗性被膜中に上手く混合させることができず、耐摩耗性被膜が剥離してしまうためである。
【0013】
また、4a、5a、6a族元素およびAlからなる群の中から選択される1種以上の元素の窒化物または炭窒化物を主成分とする耐摩耗性被膜の粒径も0.5〜50nmに調整すれば、結晶粒のナノメートルサイズ効果により、被膜の硬度上昇、転位・クラック抑制効果およびさらなる耐摩耗性向上が得られる。
【0014】
さらに、耐摩耗性被膜に分散させる超微粒化合物が非晶質である場合、被膜中の非晶質混合層によるエネルギー分散により、被膜中に進展するクラックの伝搬が抑えられるため、耐摩耗性が飛躍的に向上する。
【0015】
耐摩耗性被膜に分散させる超微粒化合物、すなわちB4C、BN、TiB2、TiB、TiC、WC、SiC、SiNX(X=0.5〜1.33)およびAl203よりなる群から選択される少なくとも1種は、原子数比がこれに限られるものではなく、前記のストイキオメトリーからずれるものであってもよい。
【0016】
次に、耐摩耗性被膜は、単層でも構わないが、複数層による積層構造であることが好ましい。
【0017】
また、耐摩耗性被膜の厚みは0.5〜10μmであることが好ましい。厚みが0.5μm未満では耐摩耗性の向上が見られず、逆に10μmを越えると被膜中の残留応力などの影響で基材との密着強度が低下する。
【0018】
さらに、基材表面と前記耐摩耗性被膜との間に中間層を形成することが好ましい。この中間層としては、チタンナイトライドまたはクロムナイトライドを含む層が好適である。チタンナイトライドは、基材表面と前記耐摩耗性被膜との両方に密着性が良いので、基材と耐摩耗性被膜の密着性を一層向上させることができる。そのため、耐摩耗性被膜が基材から剥がれることなく切削工具寿命をさらに向上することができる。中間層の厚みは0.05〜1.0μmであることが好ましい。0.05μm未満では密着強度の向上が見られず、逆に1.0μmを越えても密着強度の更なる向上は見られないからである。
【0019】
切削工具の具体的用途としては、ドリル、エンドミル、フライス加工用および旋削用刃先交換型チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップなどが挙げられる。
【0020】
上記の耐摩耗性被膜を基材表面に被覆するには、結晶性の高い化合物を形成できる成膜プロセスで作製することが重要である。種々の成膜方法を検討した結果、原料元素のイオン率が高いカソードアークイオンプレーティングが一番適していることがわかった。このカソードアークイオンプレーティングを用いると、耐摩耗性被膜を形成する前に、基材表面に対して金属のイオンボンバードメント処理が可能となるため、被膜の密着性が格段によくなる。
【0021】
また、耐摩耗性被膜に超微粒化合物を分散させるには、B4C、BN、TiB2、TiB、TiC、WC、SiC、SiNX(X=0.5〜1.33)およびAl203といった高融点材料でも容易に成膜することができ、非晶質成分も混在させることが可能なスパッタリング方法を用いることが好ましい。スパッタリング法は、DC、RF、マグネトロン、アンバランスドマグネトロンなど、どの様な手法であっても良い。カソードアークイオンプレーティング法においても、前記超微粒子化合物を生成することは可能であるが、特に材料が絶縁物である場合、直流アーク放電を成膜完了までの長時間にわたって持続させることは非常に困難なため、その合成は非常に難しい。
【0022】
そこで、本発明では、切削工具の製造装置として、カソードアークイオンプレーティング装置においてアーク式蒸発源とは独立に制御可能なスパッタリング蒸発源を用いた。すなわち、本発明切削工具を製造するための装置は、真空装置と、真空装置内で基材を保持する基材ホルダと、アーク放電によってカソード物質を溶解させるアーク式蒸発源と、真空装置内に反応ガスを導入するガス導入口と、基材にゼロまたは負のバイアス電圧を印加する直流電源と、アーク式蒸発源とは独立に制御可能なスパッタリング蒸発源とを具えることを特徴とする。
【0023】
また、本発明切削工具の製造方法は、基材上に耐摩耗性被膜を形成する切削工具の製造方法であって、真空装置内に反応ガスを導入し、基材にゼロまたは負のバイアス電圧を印加した状態で、アーク放電によってカソードを溶解させるアーク式蒸発源を用いて基材の表面に4a、5a、6a族元素およびAlからなる群の中から選択される1種以上の元素の窒化物または炭窒化物を主成分とする耐摩耗性被膜を形成する。その際、アーク式蒸発源とは独立に制御可能なスパッタリング蒸発源を用いてB4C、BN、TiB2、TiB、TiC、WC、SiC、SiNX(X=0.5〜1.33)およびAl203からなる群の中から選択される1種以上の超微粒化合物を非晶質構造の状態で耐摩耗性被膜中に含有させることを特徴とする。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。各実験例中の粒子の粒径は透過電子顕微鏡で観察し、組成は透過電子顕微鏡に併設の微小領域EDX(Energy-dispersive X-ray Spectroscopy)分析により行った。なお、組成はESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)またはSIMS(Secondary Ion Mass Spectroscopy)によっても確認できる。
【0025】
(実験例1)
(1)サンプルの作製
(i)本発明品の作製
基材として、グレードがJISP30の超硬合金、チップ形状はJIS規格のSDKN42のものを用意した。
【0026】
図1は本例で使用する成膜装置の模式図である。成膜装置1はチャンバー2と主テーブル3と支持棒4と、アーク式蒸発源5およびスパッタ式蒸発源6と、可変電源としての直流電源7および8と、RF電源9、ガスを供給するためのガス導入口10とを具える。
【0027】
チャンバー2は真空ポンプと連結されており、チャンバー2内の圧力を変化させることが可能である。チャンバー2内に設けられた支持棒4は主テーブル3を支持する。支持棒4内には回転軸が設けられており、この回転軸が主テーブル3を回転させる。主テーブル3上に基材11を保持するための基材ホルダ12が設けられている。支持棒4、主テーブル3および基材ホルダ12は直流電源8の負極と電気的に接続されている。直流電源8の正極はアースされている。
【0028】
チャンバー2の側壁には、アーク式蒸発源5と、その蒸発源5に対向するスパッタ式蒸発源6とが取り付けられている。
【0029】
アーク式蒸発源5は、直流電源7の負極と電気的に接続されている。直流電源7の正極はアースされ、かつチャンバー2と電気的に接続されている。スパッタ式蒸発源は、RF電源9と電気的に接続されている。
【0030】
アーク式蒸発源5とチャンバー2との間のアーク放電によって、アーク式蒸発源5を部分的に溶解させてカソード物質を基材方向に蒸発させるものである。アーク式蒸発源5とチャンバー2との間には数十V程度の電圧が印加される。また、スパッタ式蒸発源6には、RF電源9から数百〜数千Wの電力を印加してスパッタカソード物質を蒸発させる。
【0031】
チャンバー2にガスを供給するガス導入口10には、図示していないマスフローコントローラーを介して様々なガスが導入される。このガスの例として、アルゴン、窒素ガス、酸素またはメタン、アセチレン、ベンゼンなどの炭化水素ガスなどがある。
【0032】
まず、図1で示すような装置を用いて、主テーブル3を回転させながら、真空ポンプによりチャンバー2内を減圧すると共に、ヒーター(図示せず)により基材11を温度500℃に加熱し、チャンバー2内の圧力が1.3×10‐ 3Paとなるまで真空引きを行なった。次に、ガス導入口10からアルゴンガスを導入してチャンバー内の圧力を2.7Paに保持し、直流電源8の電圧を徐々に上げながら、−1000Vとし、基材11の表面のクリーニングを10分間行なった。その後、アルゴンガスを排気した。
【0033】
次に、直流電源8の電圧を−1000Vに維持したまま、チャンバー2内にガス導入口10を通して100SCCMのアルゴンと、窒素の混合ガスを導入した。直流電源7から80Aのアーク電流を供給し、アーク式蒸発源5から金属イオンを発生させた。これにより、金属イオンが基材11の表面をスパッタクリーニングし、基材11の表面の強固な汚れや酸化膜が除去された。アーク式蒸発源には、Ti、TiAl、Zr、Hf、Cr、V、Nb、Ta、W、Moを用いた。
【0034】
その後、チャンバー2内の圧力が4Paになるように、ガス導入口10から窒素ガスを導入し、直流電源8の電圧を−200Vとした。すると、基材11の表面において金属窒化膜の形成が始まった。金属窒化膜(例えばTiN)が所定の厚みに(0.3μm)に達するまでこの状態を維持した。これにより、中間層としての金属窒化膜(TiN膜)を形成した。
【0035】
中間層の金属窒化膜(例えばTiN膜)の形成が終了すると、この状態のまま、アーク式蒸発源5に95Aの電流を供給すると同時にスパッタ式蒸発源6にRF電源9から1kWの電力を投入した。これにより、アーク式蒸発源を構成する金属が基材方向に蒸発し、かつスパッタ蒸発源を構成する化合物が基材方向に蒸発して、基材11の表面に厚さが約3μmの超微粒子分散耐摩耗性被膜が形成された。スパッタ蒸発源にはSi、Si3N4、SiN、SiC、BN、B4C、TiB、TiB2、TiC、W、WC、Al2O3を用いた。
【0036】
(ii)従来品1の作製
従来品1の作製にあたっては、まず、本発明品と同じ基材を準備した。この基材を図1で示す基材ホルダ12にセットした。また、装置1において、ガス導入口10をチャンバー2の上部に配置した。アーク式蒸発源5に対向するスパッタ式蒸発源6をアーク蒸発源5に変更し、一方の蒸発源をチタンで、他方の蒸発源をチタンアルミニウムの化合物(Ti0.5、Al0.5)で構成した。(Ti0.5、Al0.5)とは、TiとAlの原子数比が0.5:0.5の化合物をいう。その他の成膜装置1の構成については、本発明品の製造と同様にした。
【0037】
このような装置10を用いて、基材11の表面に本発明品を製造したのと同様の手法でアルゴンでスパッタクリーニングし、その後、チタンでスパッタクリーニングした。さらに、本発明品を製造した工程と同様に基材11の表面に厚さが0.3μmのTiN膜による中間層を形成した。
【0038】
TiN膜の形成が終了すると、直流電源7からアーク式蒸発源5へ−30V、95Aの電力を供給して、アーク式蒸発源5からチタンイオン、チタンアルミニウムイオン、アルミニウムイオンを発生させた。また、上部ガス導入口10から窒素ガスを導入した。これらが基材11の表面で反応して中間層であるTiN膜上に膜厚が3μmの(Ti0.5、Al0.5)N膜が得られた。これにより、従来製法による、TiAlN耐摩耗性を有する従来品1を得た。
【0039】
(iii)従来品2の作製
従来品2の作製に当たっては、アーク式蒸発源5に対向するスパッタ式蒸発源6をアーク蒸発源5に変更して、両蒸発源5をチタンで構成した。その他の成膜装置1の構成については従来品1の場合と同様とした。このような成膜装置1において、まず、基材ホルダ12に基材11を取り付け、本発明品を製造したのと同様にこれらを回転させた。次に、本発明品を製造したのと同様の工程で基材11の表面をアルゴンでスパッタクリーニングし、その後、チタンでスパッタクリーニングし、さらに中間層となるTiN膜を厚さ0.3μmに形成した。
【0040】
次に、中間層TiN膜の成膜が終了すると、直流電源7からアーク式蒸発源5ヘ−30V、95Aの電力を供給して、アーク式蒸発源5からチタンイオンを発生させた。また、上部ガス導入口10からメタンガス(CH4)と窒素ガスを導入した。これらが反応して基材11の表面のTiN膜上に膜厚が3μmのTi(C0.5、N0.5)膜を形成した。Ti(C0.5、N0.5)とは、TiとCとNの原子数比が1:0.5:0.5の化合物をいう。
【0041】
(2)切削工具寿命評価
上述の工程で製造したサンプルである本発明品、従来品1および従来品2のそれぞれについて、実際に表3の条件による連続切削試験および断続切削試験を行い、刃先の逃げ面摩耗幅を測定した。連続切削では丸棒を、断続切削では4本の溝付き棒を被削材とした。寿命評価結果を表1に示す。
【0042】
なお、表2では本発明品のうち、耐摩耗性膜における硬質超微粒子の粒径が極端に小さいものを比較品1、大きいものを比較品2、耐摩耗性膜の膜厚の極端に薄いものを比較品3、厚いものを比較品4、耐摩耗性膜の結晶粒径が極端に小さいものを比較品5、大いものを比較品6、7と表示している。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【0046】
表1、2から明らかなように、本発明品において切削工具寿命が大きく向上したことが確認された。また、中間層の厚みとしては、0.1μm以上、1μm以下であることが好ましいことがわかる。さらに、超微粒子分散耐摩耗性被膜の厚みとしては、0.5μm以上10μm以下であることが好ましいことがわかる。超微粒子分散耐摩耗性被膜の厚さが0.5μm未満であれば、被膜自体の強度が低下し、被膜の耐摩耗性が低下する。また、10μmを越える膜厚とした場合、被膜の残留内部応力が高くなり、膜の剥離が発生する。
【0047】
(実験例2)
実験例1と全く同じ方法により、リーマー(JISK10超硬合金)にそれぞれにコーティングを行い、サンプルである本発明品2、比較品2、従来品1および従来品2を得た。次に、これらのサンプルを用いて、実際に鋳鉄の穴開け加工を行い、その寿命評価を行なった。切削条件は、リーマー径20mm、切削速度5m/min、送り0.4mm/刃、切り込み0.15mm、ウェット条件とした。なお、寿命の判定は、被加工材の寸法精度が規定の範囲をはずれた時点とした。その寿命評価結果を表4に示す。
【0048】
【表4】
【0049】
その結果、本発明のリーマーの寿命が大きく向上していることが確認された。
【0050】
(実験例3)
実験例1と全く同じ方法により、エンドミル(JISK10超硬合金)にそれぞれにコーティングを行い、サンプルである本発明品2、比較品2、従来品1および従来品2を得た。次に、これらのサンプルを用いて、実際に鋳鉄のエンドミル側面削り(切削幅15mm)加工を行い、その寿命評価を行なった。切削条件は、切削速度75m/min、送り0.02mm/刃、切り込み2mm、ウェット条件とした。なお、寿命の判定は、被加工材の寸法精度が規定の範囲をはずれた時点とした。その寿命評価結果を表5に示す。
【0051】
【表5】
【0052】
その結果、本発明エンドミルの寿命が大きく向上していることが確認された。
【0053】
(実験例4)
実験例1と全く同じ方法により、旋削用刃先交換型チップ(JISP10超硬合金、刃先形状はスクイ角8°、逃げ角6°である)にそれぞれにコーティングを行い、サンプルである本発明品2、比較品2、従来品1および従来品2を得た。次に、これらのサンプルを用いて、実際に鋼の中仕上げ旋削加工を行い、その寿命評価を行なった。切削条件は、切削速度100m/min、送り0.09mm/刃とした。なお、寿命の判定は、被加工材の寸法精度が規定の範囲をはずれた時点とした。その寿命評価結果を表6に示す。
【0054】
【表6】
【0055】
その結果、本発明の旋削用刃先交換型チップの寿命が大きく向上していることが確認された。
【0056】
上記の各実験例から明らかなように、本発明切削工具によれば、ドリル、エンドミル、フライス加工用および旋削用刃先交換型チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップなどにおける耐摩耗性、高滑り性、高焼き付き性、被削材の加工精度(表面仕上げ状態)などの向上が図れるため、工具寿命を改善することができる。
【0057】
尚、本発明の切削工具とその製造方法は、上述の具体例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0058】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明切削工具によれば、耐摩耗性、高滑り性、高焼き付き性、被削材の加工精度(表面仕上げ状態)などの向上が図れるため、切削工具の寿命を改善することができる。特に、ドリル、エンドミル、フライス加工用および旋削用刃先交換型チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップなどの切削工具としての利用に最適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 成膜装置の模式図である。
【符号の説明】
1 成膜装置
2 チヤンバー
3 主テーブル
4 支持棒
5 アーク式蒸発源
6 スバッタ式蒸発源
7、8 直流電源
9 RF電源
10 ガス導入口
11 基材
12 基材ホルダ
Claims (10)
- 基材と、その基材上に形成された4a、5a、6a族元素およびAlからなる群の中から選択される1種以上の元素の窒化物または炭窒化物を主成分とする耐摩耗性被膜とを具える切削工具であって、
前記基材は、WC基超硬合金、サーメット、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、アルミナ、炭化ホウ素、酸化アルミニウム−炭化チタン焼結体、高速度鋼、ダイス鋼およびステンレス鋼よりなる群から選択される少なくとも1種を主体とし、
前記耐摩耗性被膜中に、B4C、BN、TiB2、TiB、TiC、WC、SiC、SiNX(X=0.5〜1.33)およびAl203よりなる群から選択される少なくとも1種の超微粒化合物を含み、
前記超微粒化合物が非晶質構造を有することを特徴とする切削工具。 - 前記4a、5a、6a族元素およびAlからなる群の中から選択される1種以上の元素の窒化物または炭窒化物の粒径が0.5〜50nmであることを特徴とする請求項1に記載の切削工具。
- 前記超微粒化合物の粒径が0.5〜50nmであることを特徴とする請求項1または2に記載の切削工具。
- 前記耐摩耗性被膜は、複数層で構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の切削工具。
- 前記耐摩耗性被膜の厚みが0.5〜10μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の切削工具。
- 前記基材表面と前記耐摩耗性被膜との間に、チタンナイトライドまたはクロムナイトライドを含む中間層を具えることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の切削工具。
- 中間層の厚みが0.05〜1.0μmであることを特徴とする請求項6に記載の切削工具。
- 耐摩耗性被膜は、 TiN 、 TiAlN または TiCN であり、超微粒化合物は、 SiN X ( X = 0.5 〜 1.33 )であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の切削工具。
- 前記切削工具は、ドリル、エンドミル、フライス加工用および旋削用刃先交換型チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップのいずれかであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の切削工具。
- 基材上に耐摩耗性被膜を形成する切削工具の製造方法であって、
真空装置内に反応ガスを導入し、基材にゼロまたは負のバイアス電圧を印加した状態で、アーク放電によってカソードを溶解させるアーク式蒸発源を用いて基材の表面に4a、5a、6a族元素およびAlからなる群の中から選択される1種以上の元素の窒化物または炭窒化物を主成分とする耐摩耗性被膜を形成し、
同時にアーク式蒸発源とは独立に制御可能なスパッタリング蒸発源を用いてB4C、BN、TiB2、TiB、TiC、WC、SiC、SiNX(X=0.5〜1.33)およびAl203からなる群の中から選択される1種以上の超微粒化合物を非晶質構造の状態で耐摩耗性被膜中に含有させることを特徴とする切削工具の製造方法。
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