JP4116382B2 - 被覆硬質工具 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、被覆硬質工具に関し、具体的には耐摩耗性の要求される切削工具やその他の耐摩工具として利用される被覆硬質合金工具のなかで、耐摩耗性、耐溶着性に優れる被覆硬質工具に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
耐摩耗性および表面保護機能改善のため、WC基超硬合金、サーメット、高速度鋼等の切削工具や耐摩耗工具などの硬質基材の表面に、硬質被覆層としてTiAlの窒化物を単層または複層形成することはよく知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
また、TiSi系の被覆膜である(Ti1 − xSix)(C1 − yNy)z(ただし、0.01≦x≦0.45、0.01≦y≦0.1、0.5≦z≦1.34)は、高速連続切削に用いた場合、耐摩耗性に優れ、使用寿命を延長できることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】
特開平8−118106号公報(第2頁)
【非特許文献1】
「神戸製鋼技報」Vol.41、No.3(1991)p.10
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
最近の切削工具の動向は、地球環境保全の観点から切削油剤を用いないドライ加工が求められていること、被削材が多様化していること、加工能率を一層向上させるため切削速度がより高速になってきていることなどである。従って、工具刃先温度はますます高温になる傾向にあり、工具材料に要求される特性は厳しくなる一方である。工具材料に要求される特性のうち、高温での被覆膜安定性、すなわち耐酸化特性や被覆膜の密着性は特に重要である。
【0006】
さらに、切削工具寿命に関係する耐摩耗性、すなわち被覆膜の高温における硬度の向上や、潤滑油剤(切削油剤)に代わり被覆膜の潤滑特性が一段と重要となっているが、前記の非特許文献1に記載のTiAlの窒化物では不十分である。また、前記の特許文献1に記載される(Ti1 − xSix)(C1 − yNy)zは、C量が少なければ高硬度ではあるが、摩擦係数が高く、被削材が工具表面に溶着し、工具が欠損するという問題があった。加えて、ドライ加工時に問題となる被覆膜の潤滑性は確認されていない。
【0007】
【課題を解決するための手段】
発明者らはTiSi系の被覆膜の耐摩耗性と潤滑性の両方を向上させるためには、耐摩耗性に優れた層の上に潤滑性を付与すれば、さらに切削性能が向上するという知見を得て本発明に至った。すなわち、本発明の被覆硬質工具は、基材と前記基材上に形成された被覆膜とを備え、前記被覆膜は(TixSiy)(CaNbOc)(ただし、0.1≦y≦0.5、x+y=1、0≦a≦0.6、0≦b≦1.0、0≦c≦0.5、a+b+c=1)の組成を有し、物理的蒸着法により形成された被覆膜であり、被覆膜中のC量が被覆膜中で基材側から表面側へかけて連続的または段階的に増加しているものである。但し、この工具の被覆膜は、Oを含むものに限る。
【0008】
ここで、被覆膜中のC量の変化のさせ方であるが、図1(1)、(2)に示す通り、被覆膜中で基材側から表面に向かって、連続的にまたは段階的に増加させることができる。但し、図1(1)に示したC量の変化は直線で表されているが、その直線を単調に増加する曲線で置き換えることが出来る。
【0009】
前記被覆膜中において、Siは被覆膜構成元素として不可欠である。要因は特定できていないが、Siを含有することで被覆膜硬度が向上するのでSi量(y)を0.1≦y≦0.8とすると良好である。被覆膜中にSi量(y)が0.1以上存在すると、被覆膜の硬度が向上するので好ましいが、0.8を超えて含有すると被覆膜が脆くなり逆に摩耗が促進される。
【0010】
また、TixSiyの合金ターゲットを熱間静水圧加圧処理で作製する場合、yが0.8を超えてSiを含有させると、ターゲットが作製中に割れてしまいコーティングに使用可能な材料強度が得られないことがわかった。さらに好ましくは、被覆膜中のSi量(y)は0.1を越え0.3以下であることが好ましい。
【0011】
また、(TixSiy)(CaNbOc)(ただし、0.1≦y≦0.8、x+y=1、0≦a≦0.6、0≦b≦1.0、0≦c≦0.5、a+b+c=1)のなかでC量が被覆膜中で基材側から表面側へかけて増加すると、以下の効果がある。すなわち、基材と接する部分のC量を低くして基材との密着性を向上させ、表面のC量の多い部分で潤滑機能を持たせることができ、密着性と潤滑性を共に高めることができる。
【0012】
本発明者らは、本発明の被覆硬質工具と鋼などの鉄系材料との焼きつき状態をピンオンディスク試験で評価したところ、被覆膜中のC量が多いほど被覆膜と鋼の焼きつきがなく、しかも摩擦係数が小さくなることを発見した。即ち、この被覆膜が工具に被覆されていると切削抵抗が小さく、工具寿命の延長が図れることがわかった。そこで前記被覆膜中のC量を基材側から表面に向かって連続的または段階的に増加させることにより、密着性と潤滑性の両方を高く維持でき、更なる工具の寿命延長が図れた。また、酸素を少量含有させることで、被覆膜の耐酸化性を向上することができる。高速切削では刃先温度が著しく高くなるため、酸素を含有していない被覆膜は酸化して体積変化し摩耗が進行するが、あらかじめ酸素を被覆膜中に含有させると、上記の現象が起こりにくく被覆膜を安定化することができる。
【0013】
また、被覆硬質工具は基材表面と耐摩耗性を持つ被覆膜との間に形成されたTiもしくはCrの金属またはTiもしくはCrの窒化物を含む中間層をさらに備えることが好ましい。この場合の中間層は、基材表面と耐摩耗性を持つ被覆膜との両方に密着性が良いので、基材と耐摩耗性を持つ被覆膜の密着性を一層向上させることができる。
【0014】
そのため、被覆膜が基材から剥がれることなく切削工具寿命をさらに向上させることができる。さらに、上記の中間層の厚みが0.05μm以上1μm以下であることが好ましい。0.05μm未満では密着強度の向上が見られず、逆に1μmを越えても密着強度の更なる向上は見られなかった。
【0015】
さらに、最表面層として(TixSiy)(CaNb)(ただし、x+y=1、0.1≦y≦0.8、a+b=1、0.1≦a≦0.6)で示される化合物層がさらに被覆されていることが望ましい。しかしながら、被覆膜と中間層と最表面層との合計厚み(被覆膜の総厚み)は0.5μm以上10μm以下であることが好ましい。総厚みが0.5μm未満では耐摩耗性の向上が見られず、逆に10μmを越えると被覆膜中の残留応力が大きくなり基材との密着強度が低下するので好ましくない。
【0016】
基材はWC基超硬合金、サーメット、高速度鋼、セラミックス(炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウムなど)、立方晶窒化硼素(cBN)焼結体、ダイヤモンド焼結体、窒化珪素焼結体、酸化アルミニウムと炭化チタンの焼結体からなる基材のいずれかであることが好ましい。
【0017】
本発明の被覆膜を基材表面に被覆するためには、結晶性の高い化合物を形成することができる成膜プロセスで作製されることが不可欠である。そこで、種々の成膜方法を検討した結果、物理的蒸着法を用いることが好ましい。
【0018】
物理的蒸着法には、スパッタリング法、イオンプレーティング法などがあるが、特に、原料元素のイオン化率が高いアーク式イオンプレーティング法が一番適していることがわかった。このアーク式イオンプレーティング法を用いると、被覆膜を形成する前に、基材表面に対して金属のイオンボンバードメント処理が可能となるため、被覆膜の密着性が格段によくなるので、密着性という意味からも好ましいプロセスである。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
(実施例1)
本発明と参考品と比較例のサンプルを以下に説明する方法で作製した。発明品と参考品の基材として、SDKN42形状のISO P30の超硬合金を用いた。
(i)本発明品と参考品の作製
図2はこの発明で用いた成膜装置の模式図である。成膜装置はチャンバー1とガスを供給するためのガス導入口2と、基板ホルダー4と、アーク式蒸発源6、7と、可変電源としての直流電源8、9と、基板バイアス直流電源10とを備える。
【0020】
チャンバー1は図示されない真空ポンプと連結されており、排気口3を通して、チャンバー1内の圧力を変化させることが可能である。チャンバー1内に基材5を保持するための基材ホルダー4が設けられている。基材ホルダー4には基板バイアス用の直流電源10の負極と電気的に接続されている。基板バイアス電源10の正極はアースされている。
【0021】
チャンバー1の側壁には、アーク式蒸発源6、7が取り付けられている。アーク式蒸発源6、7は、直流電源8、9の負極と電気的に接続されている。直流電源8、9の正極はアースされ、かつチャンバー1と電気的に接続されている。アーク式蒸発源6、7とチャンバー1との間のアーク放電によって、アーク式蒸発源6、7を部分的に溶解させて蒸発源物質を基材方向に蒸発させるものである。アーク式蒸発源6、7とチャンバー1との間には数十から数百V程度の電圧が印加される。
【0022】
チャンバー1にガスを供給するガス導入口2には、図示していないマスフローコントローラーを介して様々なガスが導入される。このガスの例として、アルゴン、窒素ガス、酸素ガスまたは、例えばメタン、アセチレン、ベンゼンなどの炭化水素ガスなどがある。
【0023】
上述した成膜装置で、発明品および参考品を製造する。発明品は、参考品の被覆膜の組成にさらに酸素(O)を含有させたものであるので、代表して表1の参考品1の製造方法を詳細に説明する。まず、図2の蒸発源6に金属チタン、蒸発源7に(Ti0.7Si0.3)を配置し、真空ポンプによりチャンバー1内を減圧するとともに、ヒーター(図示せず)により基材5を温度450℃に加熱し、チャンバー1内の圧力が1.0×10−3Paとなるまで真空引きを行なった。次に、ガス導入口2からアルゴンガスを導入してチャンバー内の圧力を3.0Paに保持し、基板バイアス電源10の電圧を徐々に上げながら、−1000Vとし、基材5の表面のクリーニングを15分間行なった。その後、アルゴンガスを排気した。
【0024】
次に、基板バイアス電源10の電圧を−1000Vに維持したまま、チャンバー1内にガス導入口2を通して100SCCMのアルゴンと、窒素の混合ガスを導入した。直流電源8から100Aのアーク電流を供給し、アーク式蒸発源6から金属イオンであるTiイオンを2分間発生させた。これにより、金属イオンが基材5の表面をスパッタクリーニングし、基材5の表面の強固な汚れや酸化膜が除去された。
【0025】
その後、チャンバー1内の圧力が2.7Paになるように、ガス導入口2から窒素ガスを導入し、基板バイアス電源10の電圧を−150Vとした。すると、基材5の表面において金属窒化膜の形成が始まった。TiNの金属窒化膜が、0.3μmの厚みに達するまでこの状態を維持した。これにより、中間層としてTiNの金属窒化膜を形成した。ここで、窒素ガスを導入しなければ、中間層としてTiなどの金属膜が得られる。また、参考品2のようにCrNを中間層とする場合は、蒸発源6に金属クロムを用いる。
【0026】
中間層としてTiNの金属窒化膜の形成が終了すると、直流電源9に通電しアーク式蒸発源7を構成するTiとSiの化合物を前方方向に蒸発させ、基材5の表面に所定の厚みの被覆膜を形成した。このようにして、表1に示す本発明の被覆硬質工具を作製した。また、発明品1は、蒸発源に(Ti0.5Si0.5)を用いて上記と同様にして製造できる。別の方法としては、蒸発源6、7を併用して作製することもできる。一般的には、基板バイアス電圧を−20〜−100V、圧力を1〜4Pa、アーク電流を100A程度の条件で被覆膜を形成する。
【0027】
一方非金属元素は、例えば表1の酸炭窒化物を製造する場合、酸素、炭素、窒素の各元素を供給するガスである酸素ガス、メタンガス、窒素ガスなどの混合ガスで供給する。目的とする被覆膜の組成にあわせたガス組成で混合ガスを供給するので、本発明のように膜の組成を厚さ方向に変える場合は被覆膜生成の間にガス組成を変えていく。本発明では炭素濃度を次第に増加させるので、メタン、アセチレンなどの炭化水素ガスの流量を連続的に増加させることにより図1(1)のように被覆膜中のC量が連続的に増加する被覆膜が得られる。また、図1(2)のような被覆膜を得るためには段階的に炭化水素ガスの流量を増加させればよい。
【0028】
(ii)比較品1の作製
比較品1の作製にあたっては、まず、本発明品と同じ基材を準備した。この基材を図2で示す基材ホルダー4にセットした。アーク式蒸発源6にチタン、アーク蒸発源7の材料をチタンアルミニウムの化合物(Ti0.5、Al0.5)とした。(Ti0.5、Al0.5)とは、TiとAlの原子%が50:50の化合物をいう。その他の成膜装置の構成については、本発明品の製造と同様にした。
【0029】
すなわち、本発明品を製造したのと同様の装置を用いて、同様の手法でアルゴンで基材5の表面をスパッタクリーニングし、その後、チタンでスパッタクリーニングした。さらに、本発明品を製造した工程と同様に基材5の表面に厚さが0.3μmのTiN膜による中間層を形成した。
【0030】
TiN膜の形成が終了すると、直流電源9からアーク式蒸発源7へ100Aの電流を供給して、アーク式蒸発源7からチタンイオン、アルミニウムイオンを発生させた。また、同時に上部ガス導入口2から窒素ガスを導入した。これらが基材5の表面で反応して基材5上の中間層であるTiN膜上に膜厚が3μmの(Ti0.5Al0.5)N膜が得られた。成膜中、基板バイアス電圧は60V一定とした。これにより、従来製法による、TiAlNの耐摩耗性を有する比較品1を得た。
【0031】
(iii)比較品2の作製
比較品2の作製の場合も、本発明品と同じ基材を準備した。この基材を図2で示す基材ホルダー4にセットした。アーク式蒸発源6にチタン、アーク式蒸発源7の材料をチタンシリコンの化合物(Ti0.7Si0.3)とした。(Ti0.7Si0.3)とは、TiとSiの原子%が70:30の化合物をいう。その他の成膜装置の構成については本発明品の製造と同様にした。
【0032】
図2に示す装置を用いて、本発明品を製造したのと同様の手法でアルゴンで基材5の表面をスパッタクリーニングし、その後、チタンでスパッタクリーニングした。さらに、本発明品を製造した工程と同様に基材5の表面に厚さが0.3μmのTiN膜による中間層を形成した。
【0033】
TiN膜の形成が終了すると、直流電源9からアーク式蒸発源7へ100Aの電流を供給して、アーク式蒸発源7からチタンイオン、シリコンイオンを発生させた。また、同時に上部ガス導入口2から窒素ガスを導入した。これらが基材5の表面で反応して基材5上の中間層であるTiN膜上に膜厚が3μmの(Ti0.7 、Si0.3)N膜が得られた。成膜中、基板バイアス電圧は60V一定とした。これにより、従来製法によるTiSiNの耐摩耗性を有する比較品2を得た。
【0034】
(iv)比較品3の作製
比較品3は、比較品1と中間層形成までは全く同じ方法で製造した。その後、TiN膜の形成が終了すると、直流電源9からアーク式蒸発源7へ100Aの電流を供給して、アーク式蒸発源7からチタンイオン、シリコンイオンを発生させると同時に、上部ガス導入口2から窒素ガスおよびメタンガスを導入した。これらが基材5の表面で反応して基材5上の中間層であるTiN膜上に膜厚が3μmの(Ti0. 7Si0.3)(C0.5N0.5)膜が得られた。成膜中基板バイアス電圧は100V一定とした。これにより、従来製法によるTiSiCNの耐摩耗性を有する比較品3を得た。
【0035】
(2)被覆硬質工具の寿命評価
上述の工程で製造したサンプルである本発明品1−4、参考品1−5、比較品1、2、3のそれぞれについて、実際に表2の条件による乾式の連続切削試験および断続切削試験を行い、刃先の逃げ面摩耗幅を測定した。寿命評価結果を表3に示す。表3から明らかなように本発明において切削工具の寿命が大きく向上したことが確認された。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
(実施例2)
実施例1と全く同じ方法により、リーマー(JIS K10 超硬合金)にそれぞれコーティングした。試料は、表1に示す本発明品4、参考品1、3および比較品1、2、3の膜を基材にコーティングして作製した。次に、これらのサンプルを用いて、実際に鋳鉄の穴開け加工を行いその寿命評価を行なった。
【0040】
切削条件は、リーマー径20mm、切削速度5m/min、送り0.4mm/刃、切り込み0.15mm、湿式切削とした。なお寿命の判定は、被加工材の寸法精度が規定の範囲をはずれるまでに切削した個数で判定した。その寿命評価結果を表4に示す。その結果、本発明のリーマーの寿命が大きく向上していることが確認された。
【0041】
【表4】
【0042】
(実施例3)
実施例1に示した方法を用いて、エンドミル(JIS KlO 超硬合金)にそれぞれにコーティングした。試料は、表1に示す本発明品4、参考品1、3および比較品1、2、3の膜を基材にコーティングして作製した。次に、これらのサンプルを用いて、実際に鋳鉄のエンドミル側面削り(切削幅15mm)加工を行いその寿命評価を行なった。
【0043】
被削材はSKD61、切削条件は、切削速度200m/min、送り0.07mm/刃、切り込みAd=10mm,Rd=0.2mm、湿式切削とし10分間加工後の逃げ面摩耗量を測定した。その寿命評価結果を表4に示す。その結果、本発明のエンドミルの寿命が大きく向上していることが確認された。
【0044】
(実施例4)
実施例1と全く同じ方法により、旋削用刃先交換型チップ(JIS P10 超硬合金、刃先形状はスクイ角8°、逃げ角6°である)にそれぞれにコーティングした。試料は、表1に示す本発明品4、参考品1、3および比較品1、2、3の膜を基材にコーティングして作製した。次に、これらのサンプルを用いて、実際に鋼の中仕上げ旋削加工を行いその寿命評価を行なった。
【0045】
被削材はSCM435、切削条件は、切削速度100m/min、送り0.08mm/rev、切り込み2mm、湿式切削とし、30分切削後の逃げ面摩耗量を測定した。その評価結果を表4に示す。その結果、本発明の旋削用刃先交換型チップの寿命が大きく向上していることが確認された。
【0046】
(参考例1)
次に、cBN焼結体からなる基材を用いた試料を作製し、切削性能を調べてみた。試料は、以下のようにして得た。まず、超硬合金製ポットおよびボールを用いて、重量で40%のTiNと10%のAlからなる結合材粉末と50%の平均粒径2.5μmのcBN粉末を混ぜ合わせ、超硬合金製容器に充填し、圧力5GPa、温度1400℃で60分焼結した。このcBN焼結体を加工し、ISO規格SNGA120408の形状の切削用チップを得た。そのチップに、実施例1と全く同じ方法により、表1に示す参考品1の膜を成膜した。
【0047】
この切削チップを用い、焼入鋼の1種であるSUJ2の丸棒(HRC62)の外周切削を行った。切削速度100m/min、切り込み0.2mm、送り0.1mm/rev、乾式で40分間の条件で切削を行い、逃げ面摩耗量を調べた。比較として、基材表面に被覆膜を成膜していない試料についても、同様の切削試験を行い、逃げ面摩耗量を調べた。その結果、表1に示す参考品1の膜を成膜した試料は、摩耗量が0.089mmであったのに対し、表面に硬質膜が被覆されていないcBN焼結体チップの摩耗量は0.221mmであった。
【0048】
【発明の効果】
この発明に従えば、ドリル、エンドミル、フライス加工用および旋削用刃先交換型チップ、メタルソー、歯切工具、リーマー、タップなどの切削工具における耐摩耗性の向上が図れる。このため、寿命の長い被覆硬質工具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】基材表面から被覆膜表面に向かってC量の変化を示すグラフであり、(1)は、被覆膜中のC量が基材から膜表面に向かって連続的に増える場合、(2)は、被覆膜中のC量が基材から膜表面に向かって段階的に増える場合である。
【図2】本発明で用いた成膜装置の模式図である。
【符号の説明】
1 チャンバー
2 ガス導入口
3 排気口
4 基材ホルダー
5 基材
6、7 蒸発源
8、9 直流電源
10 基板バイアス電源
Claims (8)
- 基材と前記基材上に形成された被覆膜とを備え、前記被覆膜は(TixSiy)(CaNbOc)(ただし、0.1≦y≦0.5、x+y=1、0≦a≦0.6、0≦b≦1.0、0≦c≦0.5、a+b+c=1)の組成であり、被覆膜中のC量が被覆膜中で基材側から表面側へかけて連続的に増加し、
前記被覆膜が物理的蒸着法で形成されていることを特徴とする被覆硬質工具。
但し、前記被覆膜は、Oを含むものに限定する。 - 基材と前記基材上に形成された被覆膜とを備え、前記被覆膜は(TixSiy)(CaNbOc)(ただし、0.1≦y≦0.5、x+y=1、0≦a≦0.6、0≦b≦1.0、0≦c≦0.5、a+b+c=1)の組成であり、被覆膜中のC量が被覆膜中で基材側から表面側へかけて段階的に増加し、
前記被覆膜が物理的蒸着法で形成されていることを特徴とする被覆硬質工具。
但し、前記被覆膜は、Oを含むものに限定する。 - 前記被覆膜は、アーク式イオンプレーティング法により被覆されたことを特徴とする請求項1または2に記載の被覆硬質工具。
- 前記被覆膜の最下層に、0.05μm以上1.0μm以下の厚みのTiもしくはCrの金属またはTiもしくはCrの窒化物からなる中間層を備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の被覆硬質工具。
- 前記被覆膜の表面に(TixSiy)(CaNb)(ただしx+y=1,0.1≦y≦0.8、a+b=1、0.1≦a≦0.6)の組成である最表面層を備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の被覆硬質工具。
- 前記被覆膜の総厚みが0.5μm以上10μm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の被覆硬質工具。
- 前記基材が、WC基超硬合金、サーメット、高速度鋼、セラミックス、立方晶窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体、窒化珪素焼結体、酸化アルミニウムと炭化チタンからなる基材のいずれかであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の被覆硬質工具。
- 前記被覆硬質工具は、ドリル、エンドミル、フライス加工用および旋削用刃先交換型チップ、メタルソー、歯切工具、リーマー、タップのいずれかであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の被覆硬質工具。
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