JP3950385B2 - 表面被覆切削工具 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ドリル、エンドミル、フライス加工用および旋削用刃先交換型チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップなどの切削工具に関し、特にその表面に表面被覆膜を形成した切削工具に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
神戸製鋼技報Vo.41 No.3(1991)PlOに示されるように、切削工具や耐摩耗性工具の表面保護機能改善のため、被覆層としてTiAlの窒化物を単層または複層形成することはよく知られている。前記した工具は、WC基超硬合金、サーメット、高速度鋼等を基材とする。
【0003】
しかし、最近の切削工具の動向は、地球環境保護の観点から切削油剤を用いないドライ加工が求められていること、被削材が多様化していること、加工能率を一層向上させるため切削速度がより高速になってきていることなどである。従って、工具刃先温度はますます高温になる傾向にあり、工具材料に要求される特性は厳しくなる一方である。工具材料の要求特性として、高温での被覆膜安定性(耐酸化特性や被覆膜の密着性)は特に重要である。さらに、切削工具寿命に関係する耐摩耗性、すなわち被覆膜の高温における硬度の向上や、潤滑油剤に代わり被覆膜の潤滑特性が一段と重要となっている。
【0004】
例えば、特開平8-118106号公報によれば、(Ti1− xSix)(C1− yNy)z、ただし、0.01≦x≦0.45、0.01≦y≦0.1、0.5≦z≦1.34のようなTiSi系の被覆膜が提案されている。(Ti1-xSix)(C1-yNy)zは高速連続切削に用いた場合、耐摩耗性に優れ、使用寿命を延長できることが開示されている。しかし、この(Ti1-xSix)(C1-yNy)zは、高硬度ではあるけれども、Siが含有されることで非常に脆い性質があり、切削工具などに用いた場合、特に断続切削に用いた場合、刃先が欠けやすいという問題があった。
【0005】
また、被覆膜の硬度が高いために、内部に蓄積する圧縮の残留応力が高くなり、特にこのような切削工具に適用した場合、鋭利な刃先で膜が剥離してしまう問題もあった。しかし、ドライ加工時に問題となる被覆膜の潤滑特性を付与すれば更に切削性能が向上すると考えて、本発明をなすに至った。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は前記した問題点を解決するためになされたものである。即ち、まず第一に高温で耐酸化特性が高く、かつ被覆膜の密着性が高い被覆膜、すなわち高温で安定性の高い表面被覆切削工具を提供することである。次に、被覆膜の高温に於ける硬度の向上と潤滑特性の高い被覆膜を有する表面被覆切削工具を提供するものである。さらに、その工具は乾式下の切削にも利用できることを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
この発明の表面被覆切削工具は、Si以外の金属MがTi、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Alの1種又は2種以上の成分で構成されるSixMy(0原子%≦x≦80原子%、x+y=100原子%)の窒化物、炭窒化物、窒酸化物、炭窒酸化物からなる表面被覆膜が基材上に形成され、該表面被覆膜中のSi量が表面被覆膜中で1原子%以上80原子%未満の範囲で連続的または段階的に変化することを特徴としている。特に、 Si 量が段階的に変化する場合、表面被覆膜の厚みを 0.5 10 μ m とし、かつ表面被覆膜中の Si 量の変化を 4 段階以上とする。
【0008】
特に、表面被覆膜中のSi量が基材側から表面に向かって連続的又は段階的に変化し、基材表面側で最小となる場合には、工具表面での硬度が高くなるので耐摩耗性が向上する。しかし、従来法のように、この最表面の高硬度膜を一様に基材表面から被覆した場合には、鋭利な刃先において、圧縮残留応力の影響で被覆膜が剥離してしまうので表面被覆膜としては不十分である。
【0009】
また、表面被覆膜中のSi量が基材側から表面に向って連続的又は段階的に変化し、基材表面側で最大となるように被覆することもできる。この場合、表面での硬度が基材側に比べ低くなるものの、逆に靭性は向上するので、例えばミリング加工など断続切削用途のように刃先に衝撃のかかる場合に発生する刃先の膜剥離や欠けを抑制することができるので好ましい。
【0010】
ここで、表面被覆膜中のSi量の変化のさせ方であるが、図1に示す通り、表面被覆膜中で基材側から表面に向かって、連続的にまたは段階的に増加または減少させることが可能である。但し、図1に示したSi量の変化は直線で表されているが、その直線を単調に増加又は減少する曲線で置き換えることが出来る。
【0011】
前記表面被覆膜中において、Siは被覆膜構成元素として不可欠である。要因は特定できていないが、Siを含有することで被覆膜硬度が向上するのでSi量xを0原子%≦x≦80原子%と規定した。被覆膜中にSiが存在すると、被覆膜の硬度が向上するので好ましいが、原子%で80%を超えて含有すると被覆膜が脆くなり逆に摩擦は促進された。また、SixMyの合金ターゲットを熱間静水圧加圧処理で作製する場合、80%を超えてSiを含有させると、ターゲットが作製中に割れてしまいコーティングに使用可能な材料強度が得られないことがわかったためである。
【0012】
さらに好ましくは、被覆膜中のSi最大量は原子%で10%を越え30%以下であることが好ましい。
【0013】
Si以外の金属MはTi、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Alの1種または2種以上の成分で構成されることが好ましい。このうち、より耐酸化性を向上させるためにはTi、Cr、Alが、高硬度化のためにはZr、Nb、Mo、Ta、Wが、潤滑性向上のためにはV、Crが有効であることがわかってきた。また、金属MはTiAl、TiCr、AlCr、TiZr、ZrCr、TiAlCr、TiAlZr、TiAlCrZrなどの合金であってもよい。
【0014】
表面被覆膜の厚みが0.5〜10μmであることが好ましい。厚みが0.5μm未満では耐摩耗性の向上が見られず、逆に10μmを越えると表面被覆膜中の残留応力が大きくなり基材との密着強度が低下するので好ましくない。
【0015】
また、表面被覆切削工具は基材表面と前記表面被覆膜との間に形成されたTiもしくはCrの金属またはTiもしくはCrの窒化物を含む中間層をさらに備えることが好ましい。この場合の中間層は、基材表面と前記表面被覆膜との両方に密着性が良いので、基材と表面被覆膜の密着性を一層向上させることができる。
【0016】
そのため、表面被覆膜が基材から剥がれることなく切削工具寿命をさらに向上させることができる。さらに、上記の中間層の厚みが0.05〜1.0μmであることが好ましい。0.05μm未満では密着強度の向上が見られず、逆に1μmを越えても密着強度の更なる向上は見られなかった。
【0017】
基材はWC基超硬合金、サーメット、高速度鋼、セラミックス(炭化硅素、窒化硅素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウムなど)、立方晶型窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体、窒化硅素焼結体、酸化アルミニウムと炭化チタンからなる基材のいずれかであることが好ましい。特に、被覆切削工具は、ドリル、エンドミル、フライス加工用および旋削用刃先交換型チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップなどであることが好ましい。
【0018】
本発明の表面被覆膜を基材表面に被覆するためには、結晶性の高い化合物を形成することができる成膜プロセスで作製されることが不可欠である。そこで、種々の成膜方法を検討した結果、物理的蒸着法を用いることが好ましい。
【0019】
物理的蒸着法には、スパッタリング法、イオンプレーティング法などがあるが、特に、原料元素のイオン化率が高いカソードアークイオンプレーティングが一番適していることがわかった。このカソードアークイオンプレーティングを用いると、表面被覆膜を形成する前に、基材表面に対して金属のイオンボンバードメント処理が可能となるため、被覆膜の密着性が格段によくなるので、密着性という意味からも好ましいプロセスである。
【0020】
最表面層として、(Ti1-xSix)(C1-yNy)(ただし、xの範囲は0.1〜0.6、yの範囲は0.05〜1.00)で示される化合物層がさらに被覆されていることが好ましい。
【0021】
要因を解明した訳ではないが、本発明者らがSUS304やSUJ2などの鉄系材料に対する焼き付き状態をピンオンディスク試験で評価したところ、上記組成の被覆膜のみ鋼の焼き付きがなく、摩擦係数が小さくなったことから、この被覆膜が工具の最表面にあると切削抵抗が小さく、工具寿命延長が図れることがわかった。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
実施例を用いて表面被覆切削工具の耐摩耗性がいかに改善されるかを具体的に説明する。実施例中の組成はXPS((X‐ray Photo-electronic Spectroscopy)X線光電子分光法)よって確認した。なお、表面被覆膜の形成は以下のカソードアークイオンプレーティング法以外の例えばスパッタリング法によっても成膜することは可能である。
【0023】
(実施例1)
本発明と比較例のサンプルを以下に説明する方法で作製した。
(i)本発明品の作製
基材として、グレードがJISP30の超硬合金を用い、チップ形状はJIS規格のSPGN120308のものを用意した。図2はこの発明で用いた成膜装置の模式図である。図2を参照して、成膜装置はチャンバー1とガスを供給するためのガス導入口2と、基板ホルダー4と、アーク式蒸発源6、7と、可変電源としての直流電源8、9、基板バイアス直流電源10とを備える。蒸発源6の金属はTiとし、蒸発源7はSiを含む金属として話を進める。
【0024】
チャンバー1は図示されない真空ポンプと連結されており、排気口3を通して、チャンバー1内の圧力を変化させることが可能である。チャンバー1内に基材5を保持するための基材ホルダー4が設けられている。基材ホルダー4には基板バイアス用の直流電源10の負極と電気的に接続されている。基板バイアス電源10の正極はアースされている。
【0025】
チャンバー1の側壁には、アーク式蒸発源6、7が取り付けられている。アーク式蒸発源6、7は、直流電源8、9の負極と電気的に接続されている。直流電源8、9の正極はアースされ、かつチャンバー1と電気的に接続されている。アーク式蒸発源6、7とチャンバー1との間のアーク放電によって、アーク式蒸発源6、7を部分的に溶解させて蒸発源物質を基材方向に蒸発させるものである。アーク式蒸発源6、7とチャンバー1との間には数十から数百V程度の電圧が印加される。
【0026】
チャンバー1にガスを供給するガス導入口2には、図示していないマスフローコントローラーを介して様々なガスが導入される。このガスの例として、アルゴン、窒素ガス、酸素ガスまたは、例えばメタン、アセチレン、ベンゼンなどの炭化水素ガスなどがある。
【0027】
まず、図2で示すような装置を用いて、真空ポンプによりチャンバー1内を減圧するとともに、ヒーター(図示せず)により基材5を温度450℃に加熱し、チャンバー1内の圧力が1.0×10 3Paとなるまで真空引きを行なった。次に、ガス導入口2からアルゴンガスを導入してチャンバー内の圧力を3.0Paに保持し、基板バイアス電源10の電圧を徐々に上げながら、−1000Vとし、基材5の表面のクリーニングを15分間行なった。その後、アルゴンガスを排気した。
【0028】
次に、基板バイアス電源10の電圧を−1000Vに維持したまま、チャンバー1内にガス導入口2を通して100SCCMのアルゴンと、窒素の混合ガスを導入した。直流電源8から100Aのアーク電流を供給し、アーク式蒸発源6から金属イオンを2分間発生させた。これにより、金属イオンが基材5の表面をスパッタクリーニングし、基材5の表面の強固な汚れや酸化膜が除去された。
【0029】
その後、チャンバー1内の圧力が2.7Paになるように、ガス導入口2から窒素ガスを導入し、基板バイアス電源10の電圧を−150Vとした。すると、基材5の表面において金属窒化膜の形成が始まった。例えばTiNの金属窒化膜が、例えば0.3μmの厚みに達するまでこの状態を維持した。これにより、中間層として例えばTiNの金属窒化膜を形成した。ここで、窒素ガスを導入しなければ、中間層としてTiなどの金属膜が得られる。
【0030】
中間層の金属窒化膜の形成が終了すると、この状態のままアーク式蒸発源6を構成する金属Mが前方方向に蒸発する。同時に、アーク式蒸発源7を構成するSiを含む金属が蒸発し金属MとSiの化合物が前方方向に蒸発して、基材5の表面に所定の厚みの表面被覆膜を形成した。このようにして本発明の表面被覆切削工具を作製した。
【0031】
このとき、アーク式蒸発源6に供給する電流を30分間かけながら100Aから連続的に 0A 変化させるのと同期して、アーク式蒸発源7に供給する電流を30分間かけながらOAから連続的に 100A 変化させると、 1(1)のように被覆膜中でSiが連続的に増加し膜最表面でSi量が最大となる被覆膜が得られる。また、図1(2)のような被覆膜を得るためには、上記の電流印加の仕方を逆転させればよい。また、Siを段階的に変化させるには供給する電流値を例えば、0A→20A→40A→60A→80A→100Aのように段階的に上げればよい。
【0032】
(ii)比較品1の作製
比較品1の作製にあたっては、まず、本発明品と同じ基材を準備した。この基材を図2で示す基材ホルダー4にセットした。アーク式蒸発源6にチタン、アーク蒸発源7の材料をチタンアルミニウムの化合物(Ti0.5、Al0.5)とした。(Ti0.5、Al0.5)とは、TiとAlの原子%が50:50の化合物をいう。その他の成膜装置の構成については、本発明品の製造と同様にした。
【0033】
すなわち、本発明品を製造したのと同様の装置を用いて、同様の手法でアルゴンで基材5の表面をスパッタクリーニングし、その後、チタンでスパッタクリーニングした。さらに、本発明品を製造した工程と同様に基材5の表面に厚さが0.3μmのTiN膜による中間層を形成した。
【0034】
TiN膜の形成が終了すると、直流電源9からアーク式蒸発源7へ100Aの電流を供給して、アーク式蒸発源7からチタンイオン、アルミニウムイオンを発生させた。また、同時に上部ガス導入口2から窒素ガスを導入した。これらが基材5の表面で反応して基材5上の中間層であるTiN膜上に膜厚が3μmの(Ti0.5、Al0.5)N膜が得られた。これにより、従来製法による、TiAlN耐摩耗性を有する比較品1を得た。
【0035】
(iii)比較品2の作製
比較品2の作製の場合も、本発明品と同じ基材を準備した。この基材を図2で示す基材ホルダー4にセットした。アーク式蒸発源6にチタン、アーク式蒸発源7の材料をチタンシリコンの化合物(Ti0.7、Si0.3)とした。(Ti0.7、Si0.3)とは、TiとSiの原子%が70:30の化合物をいう。その他の成膜装置の構成については、本発明品の製造と同様にした。
【0036】
このような装置1をもちいて、本発明品を製造したのと同様の手法でアルゴンで基材5の表面をスパッタクリーニングし、その後、チタンでスパッタクリーニングした。さらに、本発明品を製造した工程と同様に基材5の表面に厚さが0.3μmのTiN膜による中間層を形成した。
【0037】
TiN膜の形成が終了すると、直流電源9からアーク式蒸発源7へ100Aの電流を供給して、アーク式蒸発源7からチタンイオン、Siイオンを発生させた。また、同時に上部ガス導入口2から窒素ガスを導入した。これらが基材5の表面で反応して基材5上の中間層であるTiN膜上に膜厚が3μmの(Ti0.7 Si0.3)N膜が得られた。これにより、従来製法によるTiSiN耐摩耗性を有する比較品2を得た。
【0038】
(iv)比較品3の作製
比較品3は、比較品1と中間層形成までは全く同じ方法で製造した。その後、TiN膜の形成が終了すると、直流電源9からアーク式蒸発源7へ100Aの電流を供給して、アーク式蒸発源7からチタンイオン、Alイオンを発生させると同時に、上部ガス導入口2から窒素ガスおよびメタンガスを導入した。これらが基材5の表面で反応して基材5上の中間層であるTiN膜上に膜厚が3μmの(Ti0.5Al0.5)(C0.5N0.5)膜が得られた。これにより、従来製法によるTiAlCN耐摩耗性を有する比較品3を得た。
【0039】
(v)被覆切削工具寿命評価
上述の工程で製造したサンプルである本発明品、比較品1、2、3のそれぞれについて、実際に表3の条件による乾式の連続切削試験および断続切削試験を行い、刃先の逃げ面摩耗幅を測定した。各試料の特性を表1に示し、寿命評価結果を表2に示す。
【0040】
【表1】
Figure 0003950385
【0041】
【表2】
Figure 0003950385
【0042】
【表3】
Figure 0003950385
【0043】
表2から明らかなように、本発明において、切削工具寿命が大きく向上したことが確認された。なお、それぞれの被覆膜のヌープ硬度(荷重10g)と「PVD・CVD被覆膜の基礎と応用」P156に記載の方法により、X線回折を用いて被覆膜の残留応力測定結果も表2に追記した。
【0044】
(実施例2)
実施例1と全く同じ方法により、リーマー(JISK10超硬合金)にそれぞれコーティングした。試料として、本発明品1、11(TiSiN膜を1μmコーティングした上に本発明品1をさらにコーティングした)、12(TiAlN膜を1μmコーティングした上に本発明品1をさらにコーティングした)、および比較品1、2、3を作製した。次に、これらのサンプルを用いて、実際にFC250の穴開け加工を行いその寿命評価を行なった。
【0045】
切削条件は、リーマー径20mm、切削速度50m/min、送り0.4mm/刃、切り込み0.15mm、湿式切削とした。なお、寿命は、被加工材の寸法精度が規定の範囲をはずれるまでに切削した個数で判定した。その寿命評価結果を表4に示す。その結果、本発明のリーマーの寿命が大きく向上していることが確認された。
【0046】
【表4】
Figure 0003950385
【0047】
(実施例3)
実施例1に示した方法を用いて、エンドミル(JISKlO超硬合金)それぞれにコーティングした。試料として、本発明品1、11(TiSiN膜を1μmコーティングした上に本発明品1をさらにコーティングした)、12(TiAlN膜を1μmコーティングした上に本発明品1をさらにコーティングした)、および比較品1、2、3を作製した。次に、これらのサンプルを用いて、実際にFC250のエンドミル側面削り(切削幅15mm)加工を行いその寿命評価を行なった。
【0048】
切削条件は、切削速度180m/min、送り0.12mm/刃、切り込み2mm、乾式切削とした。なお、寿命は、被加工材の寸法精度が規定の範囲をはずれるまでに切削した被削材の長さで判定した。その寿命評価結果を表5に示す。その結果、本発明のエンドミルの寿命が大きく向上していることが確認された。
【0049】
【表5】
Figure 0003950385
【0050】
(実施例4)
実施例1と全く同じ方法により、旋削用刃先交換型チップ(JISPlO超硬合金、刃先形状はスクイ角8°、逃げ角6°である)にそれぞれにコーティングした。試料として、本発明品1、11(TiSiN膜を1μmコーティングした上に本発明品1をさらにコーティングした)、12(TiAl膜を1μmコーティングした上に本発明品1をさらにコーティングした)、および比較品1、2、3を作製した。次に、これらのサンプルを用いて、実際にSUS304の中仕上げ旋削加工を行いその寿命評価を行なった。
【0051】
切削条件は、切削速度150m/min、送り0.2mm/刃、切込み2mm、乾式切削とした。なお、寿命は、被加工材の寸法精度が規定の範囲をはずれるまでに切削した時間によって判定した。その寿命評価結果を表6に示す。その結果、本発明の旋削用刃先交換型チップの寿命が大きく向上していることが確認された。
【0052】
【表6】
Figure 0003950385
【0053】
(実施例5)
まず、超硬合金製ポットおよびボールを用いて、重量で40%のTiNと10%のAlからなる結合材粉末と50%の平均粒径2.5μmのcBN粉末を混ぜ合わせ、超硬製容器に充填し、圧力5GPa 温度1400℃で60分焼結した。このcBN焼結体を加工し、ISO規格SNGA120408の形状の切削用チップを得た。そのチップに、実施例1と全く同じ方法により、本発明品1を成膜した。
【0054】
この切削チップを用い、焼入鋼の1種であるSUJ2の丸棒(HRC62)の外周切削を行った。切削速度100m/min、切り込み0.2mm、送り0.1mm/rev.で乾式で40分間の条件で切削を行い、逃げ面摩耗量を調べた。その結果、本発明品1の摩耗量が0.076mmであったのに対し、表面に硬質膜が被覆されていないcBN焼結体チップの摩耗量は0.265mmであった。
【0055】
【発明の効果】
この発明に従えば、ドリル、エンドミル、フライス加工用および旋削用刃先交換型チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップなどの切削工具における耐摩耗性の向上が図れた。このため、寿命の長い表面被覆切削工具を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1の(1)は、表面被覆膜の中のSi量が基材から膜表面に向かって連続的に増える場合、図1の(2)は、表面被覆膜の中のSi量が基材から膜表面に向かって連続的に減少する場合、図1の(3)は、表面被覆膜の中のSi量が基材から膜表面に向かって段階的に増える場合、図1の(4)は、表面被覆膜の中のSi量が基材から膜表面に向かって段階的に減少する場合を示すグラフである。
【図2】本発明で用いた成膜装置の模式図である。
【符号の説明】
1 チャンバー
2 ガス導入口
3 排気口
4 基材ホルダー
5 基材
6、7 蒸発源
8、9 直流電源
10 基板バイアス電源

Claims (14)

  1. Si以外の金属MがTi、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Alの1種以上の成分で構成されるSixMy(0原子%≦x≦80原子%、x+y=100原子%)の窒化物、炭窒化物、窒酸化物、炭窒酸化物からなる表面被覆膜が基材上に形成され、該表面被覆膜中のSi量が表面被覆膜中で1原子%以上80原子%未満の範囲で連続的に変化することを特徴とする表面被覆切削工具。
  2. 表面被覆膜中のSi量が基材側から表面に向かって連続的に変化し、基材側で最大となることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
  3. 表面被覆膜中のSi量が基材側から表面に向って連続的に変化し、基材側で最小となることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
  4. Si以外の金属MがTi、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Alの1種以上の成分で構成されるSixMy(0原子%≦x≦80原子%、x+y=100原子%)の窒化物、炭窒化物、窒酸化物、炭窒酸化物からなる表面被覆膜が基材上に形成され、該表面被覆膜中のSi量が表面被覆膜中で1原子%以上80原子%未満の範囲で段階的に変化しており、
    前記表面被覆膜の厚みが 0.5 10 μ m であり、かつ前記表面被覆膜中の Si 量の変化が 4 段階以上であることを特徴とする表面被覆切削工具。
  5. 表面被覆膜中のSi量が基材側から表面に向って段階的に変化し、基材側で最大となることを特徴とする請求項4に記載の表面被覆切削工具。
  6. 表面被覆膜中のSi量が基材側から表面に向って段階的に変化し、基材側で最小となることを特徴とする請求項4に記載の表面被覆切削工具。
  7. 前記表面被覆膜の厚みが0.5〜10μmであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  8. 前記基材表面と前記表面被覆膜との間に形成されたTiもしくはCrの金属またはそれらの窒化物からなる中間層をさらに備えてなることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  9. 前記中間層の厚みが0.05〜1.0μmであることを特徴とする請求項 8 記載の表面被覆切削工具。
  10. 最表面層として、(Ti1− xSix)(C1− yNy)(但し、x=0.1-0.6、y=0.05-1.00)で示される化合物層がさらに被覆されていることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  11. 前記基材がWC基超硬合金、サーメット、高速度鋼、セラミックス、立方晶型窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体、窒化硅素焼結体、酸化アルミニウムと炭化チタンからなる基材のいずれかであることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  12. 前記表面被覆膜は、 SixMy の窒化物、炭窒化物、窒酸化物、及び炭窒酸化物のうち、いずれか一種の化合物からなり、 Si と金属 M の原子%のみが変化することを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  13. 前記表面被覆膜は物理的蒸着法により被覆されたことを特徴とする請求項1から12のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  14. 前記物理的蒸着法はアーク式イオンプレーティング法であることを特徴とする請求項13に記載の表面被覆切削工具。
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