JP4678589B2 - 合金鋼の高速歯切加工で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆超硬合金製歯切工具 - Google Patents
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Description
従来、一般に自動車や航空機、さらに各種駆動装置などの構造部材として各種歯車が用いられ、これら歯車の歯形の歯切加工に被覆超硬歯切工具(ソリッドホブ)が用いられている。
また、被覆超硬歯切工具としては、例えば図3に概略斜視図で示される通り、回転軸に対して放射状に、かつ長さ方向に沿って複数の歯溝が形成され、それぞれの歯溝間に、前記歯溝に面し、回転方向に対して前面がすくい面となる前後面と、逃げ面となる頂面(歯先歯面)および両側面(左右歯面)で構成された歯部が、長さ方向に沿って連続的に複数形成された形状に機械加工された炭化タングステン基超硬合金製歯切工具基体(以下、超硬歯切基体という)の表面に、各種の硬質被覆層を物理蒸着してなる被覆超硬歯切工具が知られている。
組成式:(Al1-(X+Y)CrX SiY)N(ただし、原子比で、Xは0.20〜0.75、Yは0.01〜0.30を示す)を満足するCr,Al及びSiを主成分とする複合窒化物[以下、(Cr,Al,Si)Nで示す]層からなる硬質被覆層を物理蒸着してなる被覆歯切工具が提案され、前記硬質被覆層を構成する複合窒化物層は、優れた耐摩耗性を備えることが知られている。
さらに、上記の被覆歯切工具が、例えば図2に概略説明図で示される物理蒸着装置の1種であるアークイオンプレーティング装置に上記の基体を装入し、ヒータで装置内を、例えば雰囲気を2Paの真空雰囲気として、500℃の温度に加熱した状態で、アノード電極と所定組成を有するCr−Al−Si合金がセットされたカソード電極(蒸発源)との間に、例えば電圧:35V、電流:90Aの条件でアーク放電を発生させ、同時に装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して、例えば2Paの反応雰囲気とし、一方上記基体には、例えば−200Vのバイアス電圧を印加した条件で、前記基体の表面に、上記(Cr,Al,Si)N層からなる硬質被覆層を蒸着することにより製造されることも知られている。
(a)上記従来の硬質被覆層を構成する(Cr,Al,Si)N層において、Si成分の含有割合を多くすれば硬質被覆層の耐熱塑性変形性は向上するようになるが、一方では、硬質被覆層に所定の高温硬さを持たせるためにAl成分を45〜65原子%程度含有させる必要があることから、Si成分の含有割合は精々1〜10原子%程度までであって、これ以上含有させると、Cr成分の含有割合が低下するようになり、上記従来の(Cr,Al,Si)N層の具備するすぐれた高温硬さ、高温強度、および高温耐酸化性のうち、特に高温強度が低下するようになるばかりでなく、この程度のSi含有割合では、上記の合金鋼の高速歯切加工に際して、熱塑性変形を十分満足に抑制することのできる高い耐熱塑性変形性を確保することはできないこと。
組成式:[Cr1-(A+B)AlASiB]N(ただし、原子比で、Aは0.01〜0.10、Bは0.35〜0.50を示す)を満足するものとし、もってAl成分の低含有によって高温硬さおよび高温耐酸化性は不十分となるが、高Si含有によって耐熱塑性変形性を一段と向上せしめた(Cr,Al,Si)N層(以下、薄層Aという)と、
上記薄層Aに比して、相対的にAl含有割合を相対的に高く、一方Si含有割合を相対的に低くして、
組成式:[Cr1-(C+D)AlCSiD]N(ただし、原子比で、Cは0.20〜0.35、Dは0.15〜0.30を示す)を満足するものとし、もって前記薄層Aに比して、低Si含有で相対的に耐熱塑性変形性は低いものとなるが、Al含有割合を相対的に高くした分高い高温硬さおよび高温耐酸化性を有する(Cr,Al,Si)N層(以下、薄層Bという)、
を、それぞれの一層平均層厚を5〜20nm(ナノメーター)の薄層とした状態で、交互積層すると、この結果の薄層Aおよび薄層Bの交互積層構造の(Cr,Al,Si)N層(この場合、前記薄層Aおよび薄層Bとも35原子%以上のCr成分を含有するので、高い高温強度を保持する)においては、上記の高Si含有の薄層Aによるすぐれた耐熱塑性変形性と、上記の相対的に高いAl含有の薄層Bによる高温硬さおよび高温耐酸化性を具備するようになること。
組成式:[Cr1-(E+F)AlESiF]N(ただし、原子比で、Eは0.45〜0.65、Fは0.01〜0.10を示す)を満足する単一相構造の(Cr,Al,Si)N層は、合金鋼の高速歯切加工で要求される十分な耐熱塑性変形性を具備するものではないが、Al成分の高含有によってすぐれた高温硬さおよび高温耐酸化性を具備するので、これを上記の薄層Aと薄層Bの交互積層構造を有する(Cr,Al,Si)N層の下部層として硬質被覆層を構成すると、この結果の硬質被覆層は、すぐれた耐熱塑性変形性および高温強度、さらにすぐれた高温硬さおよび高温耐酸化性を備えたものとなるので、この硬質被覆層を蒸着形成してなる被覆超硬工具は、上記の高熱発生を伴う合金鋼の高速歯切加工でも、偏摩耗の原因となる熱塑性変形の発生なく、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮すること。
以上(a)〜(c)に示される研究結果を得たのである。
(a)いずれも(Cr,Al,Si)Nからなる上部層と下部層で構成し、前記上部層は0.5〜1.5μm、前記下部層は2〜6μmの平均層厚をそれぞれ有し、
(b)上記上部層は、いずれも一層平均層厚が5〜20nm(ナノメ−タ−)の薄層Aと薄層Bの交互積層構造を有し、
上記薄層Aは、
組成式:[Cr1-(A+B)AlASiB]N(ただし、原子比で、Aは0.01〜0.10、Bは0.35〜0.50を示す)を満足する(Cr,Al,Si)N層、
上記薄層Bは、
組成式:[Cr1-(C+D)AlCSiD]N(ただし、原子比で、Cは0.20〜0.35、Dは0.15〜0.30を示す)を満足する(Cr,Al,Si)N層、からなり、
(c)上記下部層は、単一相構造を有し、
組成式:[Cr1-(E+F)AlESiF]N(ただし、原子比で、Eは0.45〜0.65、Fは0.01〜0.10を示す)を満足する(Cr,Al,Si)N層、
からなる硬質被覆層を蒸着形成してなる、合金鋼の高速歯切加工で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する被覆超硬歯切工具(表面被覆超硬合金製歯切工具)に特徴を有するものである。
(a)下部層の組成式および平均層厚
上記の通り、硬質被覆層を構成する(Cr,Al,Si)N層におけるAl成分には高温硬さ、同Cr成分には高温強度を向上させると共に、AlおよびCrが共存含有した状態で高温耐酸化性を向上させ、さらに同Si成分には耐熱塑性変形性を向上させる作用があり、下部層ではAl成分の含有割合を相対的に多くして、高い高温硬さおよび高温耐酸化性を維持するが、Alの含有割合を示すE値がCrとSiとの合量に占める割合(原子比、以下同じ)で0.45未満では、所望のすぐれた高温硬さおよび高温耐酸化性を確保することができず、摩耗進行が急激に促進するようになり、一方Alの割合を示す同E値が同0.65を越えると、高温強度が急激に低下し、この結果チッピング(微少欠け)などが発生し易くなることから、E値を0.45〜0.65と定めた。
また、Siの割合を示すF値がCrとAlの合量に占める割合で、0.01未満では、所定の耐熱塑性変形性向上効果を確保することができず、一方同F値が0.10を超えると、高温強度に明確な低下傾向が現れるようになることから、F値を0.01〜0.10と定めた。
さらに、その平均層厚が2μm未満では、自身のもつすぐれた高温硬さおよび耐熱塑性変形性を硬質被覆層に長期に亘って付与できず、工具寿命短命の原因となり、一方その平均層厚が6μmを越えると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を2〜6μmと定めた。
上部層の薄層Aの(Cr,Al,Si)NにおけるSi成分には、上記の通り相対的にその含有割合を高くして、耐熱塑性変形性を向上させ、もって高熱発生を伴う合金鋼の高速歯切加工で偏摩耗の原因となる熱塑性変形の発生を防止する作用があるが、その含有割合を示すB値がCrとAlの合量に占める割合で、0.35未満では前記作用に所望のすぐれた効果を確保することができず、一方同B値が0.50を越えると、隣接して相対的に高温硬さおよび高温耐酸化性のすぐれた薄層Bが存在しても、上部層の高温硬さおよび高温耐酸化性の低下は避けられず、摩耗が促進するようになることから、B値を0.35〜0.50と定めた。
また、Alの割合を示すA値がCrとSiの合量に占める割合で、0.01未満では、最低限の高温硬さおよび高温耐酸化性を確保することができず、摩耗促進の原因となり、一方同A値が0.10を超えると、高温強度が低下するようになり、チッピング発生の原因となることから、A値を0.01〜0.10と定めた。
上部層の薄層Bにおいては、Si成分の含有割合を相対的に低くし、Al成分の含有割合を高く維持することで、相対的に高い高温硬さおよび高温耐酸化性を具備せしめ、隣接する薄層Aの高温硬さおよび高温耐酸化性の不足を補強し、もって、前記薄層Aの有するすぐれた耐熱塑性変形性と、前記薄層Bの有する高温硬さおよび高温耐酸化性を具備した上部層を形成するものであるが、組成式におけるAlの含有割合を示すC値が0.20未満では、所望の高温硬さおよび高温耐酸化性を確保することができず、摩耗進行が促進するようになり、一方同C値が0.35を越えると、上部層全体の高温強度が低下するようになり、チッピング発生の原因となることから、C値を0.20〜0.35と定めた。
また、Siの割合を示すD値がCrとAlの合量に占める割合で、0.15未満になると、上部層全体の耐熱塑性変形性低下が避けられず、一方同D値が0.30を超えると、高温強度が急激に低下するようになることから、D値を0.15〜0.30と定めた。
それぞれの一層平均層厚が5nm未満ではそれぞれの薄層を上記の組成で明確に形成することが困難であり、この結果上部層に所望のすぐれた耐熱塑性変形性および所定の高温硬さおよび高温耐酸化性を確保することができなくなり、またそれぞれの一層平均層厚が20nmを越えるとそれぞれの薄層がもつ欠点、すなわち薄層Aであれば高温硬さおよび高温耐酸化性不足、薄層Bであれば耐熱塑性変形性不足が層内に局部的に現れ、これが原因でチッピングが発生し易くなったり、摩耗進行が促進されるようになることから、それぞれの一層平均層厚を5〜20nmと定めた。
その平均層厚が0.5μm未満では、自身のもつすぐれた耐熱塑性変形性および高温硬さを硬質被覆層に長期に亘って付与できず、工具寿命短命の原因となり、一方その平均層厚が1.5μmを越えると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を0.5〜1.5μmと定めた。
(b)まず、装置内を排気して0.1Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する超硬歯切基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ前記下部層形成用Cr−Al−Si合金とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって超硬歯切基体表面を前記Cr−Al−Si合金によってボンバード洗浄し、
(c)装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して3Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する超硬歯切基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ前記下部層形成用Cr−Al−Si合金とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記超硬歯切基体の表面に、表2に示される目標組成および目標層厚の単一相構造を有する(Cr,Al,Si)N層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成し、
(d)ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して2Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する超硬歯切基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加した状態で、前記薄層A形成用Cr−Al−Si合金のカソード電極とアノード電極との間に50〜200Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させて、前記超硬歯切基体の表面に所定層厚の薄層Aを形成し、前記薄層A形成後、アーク放電を停止し、代って前記薄層B形成用Cr−Al−Si合金のカソード電極とアノード電極間に同じく50〜200Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させて、所定層厚の薄層Bを形成した後、アーク放電を停止し(この場合薄層Bの形成から開始してもよい)、再び前記薄層A形成用Cr−Al−Si合金のカソード電極とアノード電極間のアーク放電による薄層Aの形成と、前記薄層B形成用Cr−Al−Si合金のカソード電極とアノード電極間のアーク放電による薄層Bの形成を交互に繰り返し行い、もって前記超硬歯切基体の表面に、層厚方向に沿って表2に示される目標組成および一層目標層厚の薄層Aと薄層Bの交互積層からなる上部層を同じく表2に示される全体目標層厚で蒸着形成することにより、本発明被覆超硬歯切工具1〜10をそれぞれ製造した。
モジュール:2、圧力角:20度、歯数:47、ねじれ角:30度右捩れ、歯幅:25mmの寸法および形状をもった歯車の加工を、
切削速度(回転速度): 450m/min、
送り: 2.0mm/rev、
加工形態:クライム、シフトなし、ドライ(エアーブロー)、
の高速歯切加工条件(上記JIS・SCr420Hの合金鋼歯車の加工の場合の切削速度は通常 350 m/min)で行い、
逃げ面摩耗幅が 0.1 mmに至るまでの歯車加工数を測定した。
この測定結果を表2、3にそれぞれに示した。
この結果得られた本発明被覆超硬歯切工具1〜10の(Cr,Al,Si)Nからなる硬質被覆層を構成する上部層の薄層Aおよび薄層B、さらに同下部層の組成、並びに比較被覆超硬歯切工具1〜10の(Cr,Al,Si)Nからなる硬質被覆層の組成を、透過型電子顕微鏡を用いてのエネルギー分散型X線分析法により測定したところ、それぞれ目標組成と実質的に同じ組成を示した。
また、上記の硬質被覆層の構成層の平均層厚を透過型電子顕微鏡を用いて断面測定したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均値(5ヶ所の平均値)を示した。
表2、3に示される結果から、本発明被覆超硬歯切工具は、いずれも硬質被覆層がそれぞれ組成の異なる、(Cr,Al,Si)Nからなる単一相構造の下部層と、層厚がそれぞれ5〜20nmの薄層Aと薄層Bの交互積層構造を有する上部層で構成され、前記下部層がすぐれた高温硬さおよび高温耐酸化性、さらに高温強度を有し、さらに前記上部層がすぐれた耐熱塑性変形性と所定の高温硬さおよび高温耐酸化性、さらに高温強度を有し、硬質被覆層はこれらのすぐれた特性を兼ね備えたものとなるので、合金鋼製歯車の歯切加工を、高い発熱を伴う高速歯切加工条件で行なった場合にも、切刃部に偏摩耗の原因となる熱塑性変形の発生がなく正常摩耗形態をとり、すぐれた耐摩耗性を発揮するのに対して、硬質被覆層が単一相構造の(Cr,Al,Si)N層からなる比較被覆超硬歯切工具は、前記高速歯切加工条件では、特に硬質被覆層の耐熱塑性変形性不足が原因で切刃部に熱塑性変形が発生し、これによって摩耗形態が偏摩耗形態をとるようになることから、摩耗の進行が速くなり、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
上述のように、この発明の表面被覆超硬合金製歯切工具(本発明被覆超硬歯切工具)は、通常の条件での歯切加工は勿論のこと、特に各種の合金鋼製歯車などの歯切加工を、高い発熱を伴う高速歯切加工条件で行なった場合にも、硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮し、長期に亘ってすぐれた性能を示すものであるから、歯切加工装置の高性能化、並びに歯切加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金製歯切工具基体の表面に、
(a)いずれもCrとAlとSiの複合窒化物からなる上部層と下部層で構成し、前記上部層は0.5〜1.5μm、前記下部層は2〜6μmの平均層厚をそれぞれ有し、
(b)上記上部層は、いずれも一層平均層厚がそれぞれ5〜20nm(ナノメ−タ−)の薄層Aと薄層Bの交互積層構造を有し、
上記薄層Aは、
組成式:[Cr1-(A+B)AlASiB]N(ただし、原子比で、Aは0.01〜0.10、Bは0.35〜0.50を示す)を満足するCrとAlとSiの複合窒化物層、
上記薄層Bは、
組成式:[Cr1-(C+D)AlCSiD]N(ただし、原子比で、Cは0.20〜0.35、Dは0.15〜0.30を示す)を満足するCrとAlとSiの複合窒化物層、からなり、
(c)上記下部層は、単一相構造を有し、
組成式:[Cr1-(E+F)AlESiF]N(ただし、原子比で、Eは0.45〜0.65、Fは0.01〜0.10を示す)を満足するCrとAlとSiの複合窒化物層、
からなる硬質被覆層を蒸着形成してなることを特徴とする合金鋼の高速歯切加工で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆超硬合金製歯切工具。
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