JP4340441B2 - 耐摩耗性部材 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐摩耗性部材とこの部材を用いた切削工具に関するものである。特に、フライス加工・旋削加工・穴あけ加工等に使用される切削工具の部材や、金型・軸受けなど高硬度が要求される部材に好適な耐摩耗性部材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、例えば超硬合金を基材とする切削工具では、TiN被膜やTiCN被膜など、ビッカース硬度で1800〜2500程度の高硬度な被膜を基材表面に被覆することで刃先の摩耗を抑え、工具寿命の向上が図られている。
【0003】
しかし、近年、切削加工が高速化・高能率化・無潤滑化されており、それに伴い、工具にはさらなる耐摩耗性の向上、耐熱性の向上が求められている。
【0004】
TiAlN被膜は、TiNやTiCN被膜に比較して被膜硬度が2500〜3000程度と硬度が高い。また、このTiAlN被膜は、特許文献1に記載されるように、耐熱性の指標である酸化開始温度がTiNやTiCN被膜の600℃に比較して800℃以上と高く優れている。そのため、近年、TiAlN被膜を基材に被覆した耐摩耗性部材の利用が拡大している。
【0005】
その他、特許文献2、特許文献3、特許文献4に示されるように、TiNやTiAlNにSiを添加することで、TiAlN膜よりもさらに高硬度・高耐熱化した耐摩耗性被膜を成膜した耐摩耗性部材が知られている。
【0006】
【特許文献1】
特許第2126424号公報
【特許文献2】
特開平8-118106号公報
【特許文献3】
特許第2793773号公報
【特許文献4】
特許第3248897号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、これらTiAlN膜などを被覆した耐摩耗性部材においても、最近の切削加工の傾向から耐摩耗性・耐熱性ともに十分とは言えなくなりつつある。さらに、環境に関する配慮から切削油を使用しない乾式の加工も拡大しつつあり、切削工具の使用環境はますます苛酷なものとなっている。
【0008】
同様に、機械部品においても高速摺動・高負荷摺動・無潤滑摺動などに対応するため、耐摩耗性・耐熱性・摺動性の向上が切に求められている。
【0009】
従って、本発明の主目的は、耐摩耗性・耐熱性・摺動性を改善することができる耐摩耗性部材を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、TiとSiおよびTiを除くIVa、Va、VIa族元素、BおよびAlから選択される少なくとも一つの元素を含む窒化物、炭窒化物、窒酸化物または炭窒酸化物からなる耐摩耗性被膜が耐摩耗性・耐熱性の向上に効果があるとの知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明耐摩耗性部材は、基材と、基材の上方に形成される耐摩耗性被膜とを具える耐摩耗性部材であって、この耐摩耗性被膜は、Siが10〜60atm%、Tiが5〜50atm%、Tiを除くIVa、Va、VIa族元素、BおよびAlから選択される少なくとも一つの元素が10〜60atm%含まれる金属の窒化物、炭窒化物、窒酸化物または炭窒酸化物からなることを特徴とする。
【0012】
金属中のSiが10atm%以上60atm%以下、Tiが5atm%以上50atm%以下、Tiを除くIVa、Va、VIa族元素、BおよびAlから選択される少なくとも一つの元素が10atm%以上60atm%以下とすることにより、これらの元素の複合化による効果が得られる。つまり、耐摩耗性被膜の化学安定性、耐熱性、摺動性、靭性を一定レベルに保ったまま、耐摩耗性の一つの要因である膜硬度を高硬度化することができ、耐摩耗性部材の寿命を向上させることができる。
【0013】
Siの組成が10atm%未満の場合は、十分な耐熱性が得られなくなり、60atm%を超えると膜の靭性が劣化して欠けやすい耐摩耗性被膜となってしまう。また、Tiの組成が5atm%未満の場合、化学的な安定性に乏しく耐熱性が十分ではない。Tiの組成が50atm%を超えると耐酸化性に乏しく耐熱性が十分でない。Tiを除くIVa、Va、VIa族元素、BおよびAlから選択される少なくとも一つの元素の組成が10%未満の場合は、これらの元素を添加した効果が十分に得られずに高硬度な耐摩耗性の十分な膜が得られない。逆に、この組成が60atm%を超える場合は、TiおよびSiとの複合によって得られる膜硬度の高硬度化の効果が得られず、やはり十分な耐摩耗性被膜を得ることができない。
【0014】
Tiを除くIVa、Va、VIa族元素、BおよびAlから選択される少なくとも一つの元素を所定の組成でTiおよびSiと複合化した窒化物、炭窒化物、窒酸化物、炭窒酸化物は、Tiを除くIVa、Va、VIa族元素、BおよびAlから選択される少なくとも一つの元素のうちいずれにおいても、高硬度化による耐摩耗性の向上が期待できる。さらに、下記の個々の元素を選択した場合に、それぞれ後述する特性を向上させることができる。
【0015】
例えば、Al、Cr、NbまたはTaを選択することにより、さらに耐酸化性の向上が得られる。Alは高温酸化雰囲気では、安定な酸化物を形成するため、膜の耐酸化性を向上させる効果が得られる。一方、一般にAlは、Alの酸化物の下層にもろいTiの酸化物層を生じさせてしまうが、Cr、Nb、Taは、この欠点がなく、被膜全体に緻密な酸化層を形成するので、結果として耐摩耗性部材の耐熱性を向上させる。
【0016】
また、Cr、Zr、Mo、HfまたはBを選択することにより耐食性を向上しつつも、より硬度の高い耐摩耗性に優れた被膜が得られる。ZrもしくはHfの選択は特に鉄に対する化学的な安定性を向上させる。さらに、B、VまたはWを選択すれば溶着性や摩擦係数を向上し、摺動性とより優れた耐摩耗性の向上が可能となる。
【0017】
これらの特性向上効果は適量のTiとSiとの複合した窒化物、炭窒化物、窒酸化物、炭窒酸化物により得られる効果である。
【0018】
上記の耐摩耗性被膜は、単層であっても良いし、組成の異なる複層からなる積層構造であっても良い。
【0019】
耐摩耗性被膜の膜厚は0.5μm以上10μm以下が望ましい。この膜厚が0.5μm未満であれば十分な耐摩耗性の効果は得られず、10μmを超える場合は密着性の安定に悪影響を及ぼし、剥離しやすい被膜となってしまう。この膜厚は、耐摩耗性被膜が単層の場合は単層の厚さを、複層の場合は複層全体の合計厚さをいう。
【0020】
また、耐摩耗性被膜の上方にTil-xSixCl-yNy(x=0.1-0.6、y=0.05-1.00)からなる最表面被膜を形成することが好ましい。この最表面被膜を設けることで、部材における最表面の摺動特性を向上することができる。
【0021】
最表面被膜の膜厚は、0.05μm以上2.0μm以下が望ましい。この下限値を下回ると耐摩耗性部材の摺動特性の向上効果が少なく、逆に上限値を超えても摺動特性の向上効果が飽和するためである。
【0022】
さらに、基材表面と耐摩耗性被膜との間に、TiとCrの少なくとも一方を含む材料の窒化物または炭窒化物からなる中間被膜を具えることも好ましい。この中間層の形成により、耐摩耗性被膜と基材との密着性を向上させることができる。中間被膜のより具体的な組成としては、Tiの窒化物または炭窒化物、Crの窒化物または炭窒化物、TiとCrの化合物の窒化物または炭窒化物が挙げられる。
【0023】
中間被膜の膜厚は0.05μm以上1.0μm以下であることが望ましい。中間被膜の膜厚が0.05μm未満では、十分な密着性向上の効果が得られない。また、膜厚が1.0μmを超えると、中間被膜は耐摩耗性被膜に較べて耐摩耗性に劣るため、相対的に中間被膜の割合が高くなり、耐摩耗性部材は全体としての耐摩耗性を低下させることになるからである。
【0024】
この耐摩耗性被膜を基材上に形成するには、物理的蒸着法を利用することが好ましい。特に、アーク式イオンプレーティング法あるいはスパッタ法が好ましい。TiおよびSiともう1種以上の他の元素を含む金属蒸発源を所定の雰囲気中で蒸発させてイオン化することにより、負のバイアス電圧をかけた基材表面に蒸発源元素を含む化合物からなる耐摩耗性被膜が得られる。この雰囲気ガスは、窒素、炭化水素、酸素、酸化炭素、および窒化酸素の1種以上から選択することで窒化物膜、炭窒化物膜、窒酸化物膜、炭窒酸化物膜が得られる。また、雰囲気ガスとして、SiH4やTEOS(テトラエトキシシラン:Si(OC2H5)4)、あるいは各種金属の塩化物ガスなど、金属成分を含むガスを用いることで、Ti蒸発源などのより単純な組成の金属蒸発源で耐摩耗性被膜を得ることも可能である。
【0025】
スパッタ法の場合は、さらに蒸発源エッチング用として、雰囲気ガスにArを添加することで耐摩耗性被膜を得ることができる。スパッタ蒸発源には、平衡磁場型のマグネトロンスパッタ源と非平衡磁場型のアンバランストマグネトロンスパッタ源のいずれも用いることができる。特に、非平衡磁場型のアンバランストマグネトロンスパッタ源を用いると、金属がよりイオン化され、緻密な被膜を形成できる。さらには、金属蒸発源と導入ガスの組み合わせで形成される化合物のうち、絶縁性の被膜が形成される場合は、スパッタ電源に動作周波数20〜500kHzのパルスDC電源を用いることが望ましい。
【0026】
この耐摩耗性部材は切削工具としての利用が好適である。例えば、ドリル、エンドミル、フライス加工用または旋削用刃先交換型チップ、メタルソー、歯切工具、リーマまたはタップとして用いることで、これらの工具寿命を大幅に延長することができる。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
(1)成膜装置の構成
まず、本発明部材を得るために用いた成膜装置の構成から説明する。図1は、同装置の模式図である。この成膜装置は容器状のチャンバー1と、チャンバー1内にガスを給排気するためのガス導入口2・排気口3と、基材ホルダー4と、アーク式蒸発源6、7、8と、可変電源としての直流電源9、10、11、基材バイアス直流電源12とを具える。
【0028】
チャンバー1は図示されない真空ポンプと連結されており、排気口3を通してチャンバー1内の圧力を変化させることが可能である。チャンバー1内において、基材5は基材ホルダー4に保持されている。基材ホルダー4には基材バイアス用の直流電源12の負極と電気的に接続されている。直流電源12の正極はアースされている。
【0029】
チャンバー1の側壁にはアーク式蒸発源6、7、8が取り付けられている。アーク式蒸発源6、7、8は直流電源9、10、11の負極と電気的に接続されている。直流電源9、10、11の正極はアースされ、かつチャンバー1と電気的に接続されている。アーク式蒸発源6、7、8は、膜を形成する金属成分からなる金属ターゲットからなっている。このアーク式蒸発源6、7、8とチャンバー1との間のアーク放電によってアーク式蒸発源6、7、8を部分的に溶解させて金属ターゲットを基材5に向かって蒸発させる。アーク式蒸発源6、7、8とチャンバー1との間には数十から数百V程度の電圧が印加される。
【0030】
チャンバー1にガスを供給するガス導入口2には、図示していないマスフローコントローラーを介して様々なガスが導入される。このガスの例として、アルゴン、窒素ガス、酸素ガス、炭化水素ガス、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス、窒化酸素ガスなどがある。炭化水素ガスの具体例としては、メタン、アセチレン、ベンゼンなどがある。
【0031】
(2)サンプルの作製
i) 発明品の作製
このような成膜装置を用い、発明品1を作製した。まず、基材としてSDKN42形状のISO P30超硬合金を用意した。蒸発源6にTi蒸発源を、蒸発源7に20atm%Si-40atm%Ti-40atm%Cr蒸発源を、蒸発源8に70atm%Ti-30atm%Si蒸発源をセットし、基材を基材ホルダーに保持して、蒸発源6に正対するようにセットした。その後、真空ポンプによりチャンバー1内を減圧するとともに、ヒーター(図示せず)により基材温度を500℃に加熱し、チャンバー1内の圧力が1.0×10- Paとなるまで真空引きを行った。
【0032】
次に、ガス導入口2からアルゴンガスを導入してチャンバー内の圧力を5.0Paに保持し、基材バイアス電源12の電圧を1000Vとし、基材5の表面クリーニングを15分間行った。その後、アルゴンガスを排気した。
【0033】
続いて、基材バイアス電源12の電圧を1000Vに維持したまま、チャンバー1内にガス導入口2を通して100CCMのアルゴンと窒素の混合ガスを導入した。直流電源9から100Aのアーク電流を供給しアーク式蒸発源6から金属イオンを10分間発生させた。これにより、金属イオンが基材5の表面をスパッタクリーニングし基材5の表面の強固な汚れや酸化膜が除去された。
【0034】
その後、チャンバー1内の圧力が3.0Paとなるようにガス導入口2から窒素ガスを導入し、基材バイアス電源12の電圧を200Vとし、基材5の表面に中間被膜となるTiN膜を形成した。TiN膜が所定の厚みに(0.3μm)に達するまでこの状態を維持した。ここで窒素ガスを導入しなければ中間被膜としてTiなどの金属膜が得られる。
【0035】
中間被膜の形成が終了すると、この状態のままアーク式蒸発源6の放電を停止し、次に蒸発源7にアーク電流100A供給し、アーク放電を発生させた。基材を回転させて蒸発源7に正対させ、バイアス電圧を−100Vとした。蒸発源7を構成するSi、Ti、Crの蒸気が前方方向に蒸発して中間被膜の表面に所定の厚みの耐摩耗性被膜を形成した。
【0036】
さらに、蒸発源7を停止し、次に蒸発源8にアーク電流80Aを供給してアーク放電を発生させ、基材を蒸発源8に正対させ、導入口2から窒素ガスに加えてメタンガスを同量導入し、バイアス電圧を−100Vとし、耐摩耗性被膜の上に所定の膜厚の最表面被膜を形成した。
【0037】
使用した金属ターゲットを表1に、雰囲気ガスの成分と流量を表2に、中間被膜の膜種と膜厚を表3に、耐摩耗性被膜の膜種と膜厚を表4に、最表面被膜の膜種と膜厚を表5に示す。
【0038】
さらに、上記と同様な作業を繰り返して発明品2〜14を作製した。その際、蒸発源6、7、8の金属ターゲットを表1に示すように交換したのち、雰囲気ガスを表2に示す成分と流量とした。発明品2〜14の中間被膜、耐摩耗性被膜、最表面被膜の有無と膜種ならびに膜厚も表3〜表5に示す。
【0039】
ii) 従来品1の作製
従来品1の作製にあたっては、まず、発明品と同じ基材を準備した。この基材を図1で示す成膜装置の基材ホルダー4にセットした。アーク式蒸発源6にチタン、アーク蒸発源7にチタンとアルミニウムの焼結体(組成比:Ti50atm%、Al50atm%)を用いた。その他の成膜装置の構成については、発明品の製造と同様にした。
【0040】
このような装置を用いて、発明品を製造したのと同様の手法によりアルゴンで基材5の表面をスパッタクリーニングし、その後、チタンでスパッタクリーニングした。さらに、発明品を製造した工程と同様に基材5の表面に厚さが0.4μmのTiN膜による中間被膜を形成した。
【0041】
TiN膜の形成が終了すると直流電源10からアーク式蒸発源7へ100Aの電流を供給して、アーク式蒸発源7からチタン、アルミニウム蒸気を発生させた。また、同時に上部ガス導入口2から窒素ガスを導入した。これらが基材5の表面で反応して基材5上の中間被膜であるTiN膜上に膜厚が3μmの(Ti0.5、Al0.5)N膜が得られた。成膜中、基材バイアス電圧は100V一定とした。これにより、従来製法によるTiAlN耐摩耗性を有する従来品1を得た。従来品1の中間被膜、耐摩耗性被膜の金属ターゲット、雰囲気ガスの成分と流量、膜種と膜厚も表1〜表4に示す。
【0042】
iii) 従来品2の作製
従来品2の作製にあたっては、従来品1と同様の方法で、アーク蒸発源7の材料をチタンとシリコンの焼結体(Ti95atm%、Si5atm%)に変えて耐摩耗性被膜の成膜を行った。従来品2の中間被膜、耐摩耗性被膜の金属ターゲット、雰囲気ガスの成分と流量、膜種と膜厚も表1〜表4に示す。
【0043】
【表1】
Figure 0004340441
【0044】
【表2】
Figure 0004340441
【0045】
【表3】
Figure 0004340441
【0046】
【表4】
Figure 0004340441
【0047】
【表5】
Figure 0004340441
【0048】
(3)被覆硬質工具寿命評価
上述の工程で製造したサンプルである発明品1〜14、従来品1、2のそれぞれについて、表6の条件による乾式の連続切削試験および断続切削試験を行い、刃先の逃げ面摩耗幅を測定した。連続切削試験では丸棒を被削材とし、断続切削試験では溝付きの丸棒を被削材とした。さらに、各サンプルの被膜のヌープ硬度も測定した。この硬度測定はナノインデンターにより行った。寿命評価結果および硬度測定結果を表7に示す。
【0049】
【表6】
Figure 0004340441
【0050】
【表7】
Figure 0004340441
【0051】
表7から明らかなように、発明品において逃げ面摩耗量が小さく、切削工具寿命が大きく向上したことが確認された。また、発明品の被膜では高硬度化が実現できていることが確認された。
【0052】
(実施例2)
実施例1と全く同じ方法により、エンドミル(JIS K10超硬合金)にそれぞれコーティングを行い、サンプルである発明品1、3、5および従来品1、2を得た。次に、これらのサンプルを用いて実際にエンドミル側面削り加工を行い、その寿命評価を行った。被削材はSKD61、切削条件は切削速度250m/min、送り0.05mm/刃、切り込みAd=12mm、Rd=0.2mm、ウエット条件とし、10分加工後の逃げ面摩耗量を測定し、評価を行った。その評価結果を表8に示す。
【0053】
【表8】
Figure 0004340441
【0054】
その結果、本発明のエンドミルの摩耗幅が小さく、工具寿命が大きく向上していることが確認された。
【0055】
(実施例3)
まず、超硬合金製ポットおよびボールを用いて、TiN粉末:35重量%、Alからなる結合材粉末:10重量%、平均粒径2.5μmのcBN粉末:55重量%を混ぜ合わせて混合粉末を得た。この混合粉末を超硬製容器に充填し、圧力5GPa、温度1400℃で60分焼結し、cBN焼結体を得た。そして、このcBN焼結体を加工し、ISO規格SNGA120408の形状の切削用チップを作製した。
【0056】
その切削用チップに、実施例1の発明品1と全く同じ方法により中間被膜、耐摩耗性被膜、最表面被膜を成膜した。この被覆切削チップを用い、焼入鋼の1種であるSUJ2の丸棒(HRC62)の外周切削を行った。切削条件は、切削速度200m/min、切り込み0.25mm、送り0.1mm/rev、乾式で30分間である。そして、切削後に被覆切削チップの逃げ面摩耗量を調べた。
【0057】
その結果、発明品1の摩耗量が0.056mmであったのに対し、表面に中間被膜、耐摩耗性被膜および最表面被膜が被覆されていないcBN焼結体チップの摩耗量は0.320mmであった。
【0058】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、SiとTiならびにTiを除くIVa、Va、VIa族元素、BおよびAlから選択される少なくとも一つの元素を所定量含有する耐摩耗性被膜を形成することにより、これらの元素の複合化による膜硬度の高硬度化を実現することができる。また、これらの元素の複合化効果として、耐摩耗性被膜の化学安定性、耐熱性、摺動性、靭性をも保持することができる。従って、ドリル、エンドミル、フライス加工用および旋削用刃先交換型チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップなどの切削工具における耐摩耗性の向上が図れ、寿命の長い表面被覆切削工具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明部材の成膜装置の概略図である。
【符号の説明】
1 チャンバー
2 ガス導入口
3 排気口
4 基材ホルダー
5 基材
6 アーク式蒸発源
7 アーク式蒸発源
8 アーク式蒸発源
9 直流電源
10 直流電源
11 直流電源
12 基材バイアス直流電源

Claims (8)

  1. 基材と、基材の上方に形成される耐摩耗性被膜とを具える耐摩耗性部材であって、
    この耐摩耗性被膜は、Siが10〜60atm%、Tiが5〜50atm%、Tiを除くIVa、Va、VIa族元素、BおよびAlから選択される少なくとも一つの元素が10〜60atm%含まれる金属の窒化物、炭窒化物、窒酸化物または炭窒酸化物からなり、
    前記耐摩耗性被膜の上方に、Ti 1 x Si x C 1 y N y (ただし、x=0.1〜0.6、y=0.05〜1.00)からなる最表面被膜を有することを特徴とする耐摩耗性部材。
  2. 耐摩耗性被膜の膜厚が0.5〜10μmであることを特徴とする請求項1に記載の耐摩耗性部材。
  3. 基材は高速度鋼、超硬合金、サーメット、立方晶窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体、セラミックスのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の耐摩耗性部材。
  4. 最表面被膜の厚みが0.05〜2.0μmであることを特徴とする請求項1に記載の耐摩耗性部材。
  5. 基材表面と耐摩耗性被膜との間に中間被膜を有し、
    この中間被膜は、TiとCrの少なくとも一方を含む材料の窒化物または炭窒化物からなることを特徴とする請求項1に記載の耐摩耗性部材。
  6. 中間被膜の厚みが0.05〜1.0μmであることを特徴とする請求項5に記載の耐摩耗性部材。
  7. 耐摩耗性被膜が物理的蒸着法で形成されたことを特徴とする請求項1に記載の耐摩耗性部材。
  8. 請求項1に記載の耐摩耗性部材からなる切削工具で、
    この切削工具がドリル、エンドミル、フライス加工用または旋削用刃先交換型チップ、メタルソー、歯切工具、リーマまたはタップであることを特徴とする切削工具。
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