JP5417650B2 - 表面被覆切削工具 - Google Patents
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Description
たとえば、特許文献1には、基体表面に周期律表のIVa、Va、VIa族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物、酸化物、炭酸化物、窒酸化物及び炭窒酸化物のいずれか1種の単層皮膜又は2種以上からなる多層皮膜並びに少なくとも1層の酸化アルミニウム膜が形成され、該酸化アルミニウム膜の結晶粒界にイットリウムが含有されている酸化被膜工具が開示されている。酸化アルミニウム膜は、α型の結晶構造を有し、CVDで被膜を形成し、引張り残留応力を付与したものである。Y含有量が2.5wt%を超えると固溶し始めるとあり、2.5wt%未満ではYは結晶粒界に粒子として存在していると考えられる。しかし、YはAl2O3結晶と反応(拡散・固溶)するため、かかる被膜に衝撃が加わると被膜が剥離するとともにチッピングや欠損を生じ靭性に劣るという問題点を有していた。
即ち、本発明は以下のとおりである。
(1)基材と、該基材上に形成された被膜とを備える表面被覆切削工具であって、前記被膜は、
Al2O3層を含み、
前記Al2O3層は金属粒子が分散した構造であり、
前記金属粒子は、周期表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、及びSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含み、
前記金属粒子の粒子サイズは10nm〜250nm
であることを特徴とする表面被覆切削工具。
(2)前記金属粒子が、Al2O3層中、Alに対して0.01〜20.00at%含有されることを特徴とする前記(1)記載の表面被覆切削工具。
(3)前記Al2O3層が、(Al1-xMex)2O3(但し、MeはAl 2 O 3 に固溶しており、MeはV,Cr,Y,Zr、Nb,Hf,Ta,B,Siの少なくとも1種であり、xは0〜0.20である。)層であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の表面被覆切削工具。
(4)前記Al2O3層が、(Al1-xMex)2O3(但し、MeはAl 2 O 3 に固溶しており、MeはV,Cr,Y,Zr、Nb,Hf,Ta,B,Siの少なくとも1種であり、x=0.001〜0.20である。)層であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具。
(5)前記被膜が、前記(Al1-xMex)2O3においてx=0のAl2O3層と、x=0.001〜0.20のAl2O3層とを含むことを特徴とする前記(3)又は(4)に記載の表面被覆切削工具。
(6)前記被膜は、Al2O3層以外に、周期表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al,及びSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素からなる金属、または、該元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素、及び硼素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物によって構成される硬質被膜層を、少なくとも1層有することを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具。
(7)前記硬質被膜層は、Cr、Al、Ti、及びSiから選ばれる少なくとも1種の元素からなる金属、または、該元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素、および硼素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物によって構成されることを特徴とする前記(6)に記載の表面被覆切削工具。
(8)前記被膜は、Al2O3層以外に、Cr、Al、Ti、及びSiから選ばれる少なくとも1種の元素からなる金属、または、該元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素、および硼素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物によって構成される硬質被膜層を2種以上、各層の厚みを1nm以上100nm以下の厚みとして積層されてなる積層被膜を1以上有しており、該積層被膜において2種以上の各硬質被膜層が周期的に積層されてなることを特徴とする前記(6)又は(7)に記載の表面被覆切削工具。
(9)前記基材が、超硬合金、サーメット、cBN、高速度鋼、セラミクス、またはダイヤモンド焼結体により構成されることを特徴とする前記(1)〜(8)のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具。
Al2O3層を含み、
前記Al2O3層は金属粒子が分散した構造であり、
前記金属粒子は、周期表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、及びSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含み、
前記金属粒子の粒子サイズは10nm〜250nm
である。
本発明の表面被覆切削工具は、基材と、該基材上に形成された被膜とを備えるものである。このような基本的構成を有する本発明の表面被覆切削工具は、たとえばドリル、エンドミル、フライス加工用または旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ、またはクランクシャフトのピンミーリング加工用チップ等として極めて有用である。
本発明の表面被覆切削工具の基材としては、このような切削工具の基材として知られる従来公知のものを特に限定なく使用することができる。たとえば、超硬合金(たとえばWC基超硬合金、WCの他、Coを含み、あるいはさらにTi、Ta、Nb等の炭窒化物等を添加したものも含む)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの)、高速度鋼、セラミックス(炭化チタン、炭化硅素、窒化硅素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、およびこれらの混合体など)、立方晶型窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体等をこのような基材の例として挙げることができる。このような基材として超硬合金を使用する場合、そのような超硬合金は、組織中に遊離炭素やη相と呼ばれる異常相を含んでいても本発明の効果は示される。
本発明の表面被覆切削工具の上記基材上に形成される被膜は、少なくとも1層の特定のAl2O3層を含むものである。
また、このような被膜は、さらに硬質被膜を含むことができ、この硬質皮膜は、周期表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、及びSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素からなる金属、または、該元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素、及び硼素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物によって構成される硬質被膜層を、少なくとも1層有することができるとともに、さらに他の組成の被膜を含むこともできる。
本発明の被膜は、少なくとも1層のAl2O3層を含み、前記Al2O3層は金属粒子が分散した構造であり、前記金属粒子は、周期表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、及びSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含み、該金属粒子の粒子サイズは10nm〜250nmである。
金属粒子の粒子サイズは10〜250nmであることが重要であり、30〜150nmが好ましく、50〜100nmがより好ましい。10nm未満では成膜中にAl2O3結晶との界面において金属粒子とAl2O3結晶間での反応が起こり、靭性向上効果が得られない。一方、250nmを超えるとAl2O3結晶との界面において空隙が発生し、被膜硬度が低下するとともに空隙から結晶粒子が脱落してしまい靭性が低下する。
金属粒子の粒子サイズは、膜断面をTEMで観察し、任意の3μm長さの線分上で金属粒子のサイズを測定した。3線分における金属粒子のサイズを測定し、平均を粒子サイズとした。
尚、本発明においては、Siは構造によらず金属とする。
また、Al2O3層における金属粒子の割合は、Al2O3のAlに対して0.01〜20.00at%含有されることが好ましく、1.0〜16at%がより好ましく、4〜13at%が特に好ましい。0.01at%未満では金属粒子による靭性向上効果が不十分であり、20.00at%を超えると金属粒子同士が隣接して粗大化してしまうという事象が発生してしまい靭性が低下する。
Al2O3層における金属粒子の割合は、XPSで測定することにより求めることができる。
前記Al2O3層がMeを上記の含有量で含有することによって、硬度・耐熱性・高温安定性・潤滑性が向上する。
また、前記被膜は、前記(Al1-xMex)2O3においてx=0のAl2O3層(Me含有しないAl2O3層)と、x=0.001〜0.20のAl2O3層(Meを含有するAl2O3層)とを有していてもよい。
Al2O3の結晶構造はα、γ、アモルファス、またはそれらが混在してもよいが、γ型の結晶構造を含むことが好ましい。
前記膜厚は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いてAl2O3層の基材に対する垂直方向の断面を観察し、測定することができる。
また、このような切削工具自体のメリットばかりではなく、この工具により加工された被削材は、その仕上り面が極めて美麗なものになるという優れた効果が示される。
また、α型の結晶構造の酸化アルミニウムとγ型の結晶構造の酸化アルミニウムとが混在するとは、X線回折法で上記α型とγ型の双方に起因する回折スペクトルを有するものをいう。
金属添加量はスパッタ出力とICB法の出力との比で制御することができる。
また、Al2O3マトリクス、金属粒子の添加は、特に以下のような条件を採用することが好ましい。すなわち、Al2O3マトリクスは、スパッタリング法としてパルス化スパッタ法を採用し、圧力は0.1〜1.0Pa、単位面積あたりのスパッタ出力を3.0〜10.0W/cm2、スパッタ周波数を50〜350kHz、基材へのバイアス電圧を20〜120V、バイアス周波数を30〜100kHzの条件で成膜することが好ましい。
金属粒子は、イオンクラスタービーム法において、圧力0.01〜0.1Pa、加速電圧0.1〜1kV、エミッション電流100〜500mAの条件で添加することが好ましい。
本発明の被膜は、上記で説明したAl2O3層以外に、さらに周期律表のIVa族元素(Ti、Zr、Hf等)、Va族元素(V、Nb、Ta等)、VIa族元素(Cr、Mo、W等)、Al、およびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素からなる金属、または、該元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素、および硼素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物によって構成される硬質被膜層を、少なくとも1層含むことができる。
本発明の被膜は、上記のAl2O3層、硬質被膜以外にさらに補助酸化物被膜を含むことができる。そして、このような補助酸化物被膜は、Al2O3以外の酸化物を含むものであり、上記Al2O3層に接する下層として形成されていることが好ましい。ここで、Al2O3以外の酸化物を含むとは、そのような酸化物を主成分として含むことを意味し、不可避不純物が包含されていても差し支えない。
<表面被覆切削工具の作製>
まず、以下の基材を準備した。
すなわち、グレードがJIS規格K20のWC基超硬合金であって、切削チップとしての形状がJIS規格CNMG120408であるもの(後述の旋削加工試験及び断続切削試験に使用するもの)を準備した(上記のJIS規格は1998年度版のものである)。
すなわち、まず上記基材をカソードにパルスDC電源を用いたパルス化スパッタリング装置(成膜装置)に装着した。図1は、その成膜装置の概略構成を示す模式図である。図1に示す成膜装置内にパルススパッタ源とイオンクラスタービーム源を配置し、中心点Cを中心とし上記スパッタ源およびICB源に各対向するようにして回転する基材テーブルに基材である上記切削チップを装着した。なお、スパッタ内にはアルゴン等の希ガスと酸素を、ICB内にはアルゴン等の希ガスを投入した。
本実施例では、スパッタ源に表1のAl2O3層の組成の欄の金属組成をもつターゲットをセットし、ICB源に金属組成の欄の原料(例えばSi、Cr、Ta、Nb、Y、Zrなど)をセットした。すなわち、スパッタ源によりAl2O3マトリックスを形成し、ICB源により金属粒子を添加した。
また、硬質被覆層は、アークイオンプレーティング(AIP)装置を用いて成膜した。
上記基材表面に形成される被膜として、化学組成および積層構成(膜厚、金属サイズ、添加量等)が以下の表1に示したものとなるように上記蒸発源に上記原料(すなわちターゲット)を各々セットした。成膜の順序は、表1において左側に記載されているものから順に基材上に形成した。
次に、アルゴンガスを導入してチャンバー内の圧力を1.0Paに保持し、基板バイアス電源の電圧を徐々に上げながら−1000Vとし、基材の表面のクリーニングを15分間行なった。その後、アルゴンガスを排気した。
次いで、上記基材表面に形成される被膜として、化学組成および積層構成(膜厚、残留応力等)が以下の表1に示したものとなるように上記蒸発源に上記原料(すなわちターゲット)を各々セットした。成膜の順序は、表1において左側に記載されているものから順に基材上に形成した。
表1中のNo.1〜20のAl2O3層については、成膜初期(膜厚が0.1μm以下の範囲)において基材温度を550℃とし、さらに成膜中期(膜厚が0.1〜0.3μmの範囲)においては基材温度を徐々に680℃まで上げた。反応ガスとしてパルススパッタ内にはArと酸素、ICB内にはArガスを導入させながら成膜した。
スパッタカソードに印加するパルス周波数を100kHz以下と300kHz以上を交互に印加した(20〜70nm成膜毎)。交互に印加することでターゲットから飛来する粒子のエネルギーを調整し、結晶の成長を制御できる。更に基材に印加するバイアス周波数、電圧を調整することで被膜の緻密さを制御できる。
300kHz以上のパルスを印加する割合を高くすると結晶成長が促進され、結晶が3次元的に成長し(=結晶粒子径が大きく)結晶性が高くなる。逆に100kHz以下のパルスを印加する割合を高くすると結晶性が悪くなる。適切に制御することで結晶性を高くたもったまま結晶成長を抑制でき、粒子径が均一なAl2O3被膜を得ることができる。
更にカソードのパルス周波数を300kHz以上にする間に、基材に印加するバイアスを周波数50kHz以下、且つ電圧50Vより小さく、カソードのパルス周波数を100kHz以下にする間に基材に印加するバイアスを周波数50kHz以上、50V以上とすることで被膜を緻密にすることができる。
また、No.19、20の第2層は、2種の層が周期的に積層されてなる被膜であることを示している。このような周期的な積層は、上記成膜装置において基材テーブルの回転速度を調節することにより形成することができる。
なお、比較例のNo.23は、金属粒子となるAlSiをAlSi合金ターゲットを用いてスパッタ成膜した。TEM観察では、Al2O3層中に700nmサイズのAlSiドロップレットを確認した。
また、比較例のNo.24のAl2O3層は、Al2O3粉末と金属Cr粉末混合ターゲットを用いてスパッタで成膜した。TEM観察では、Al2O3層中にCr金属粒子は確認できなかった。
インコネル丸棒旋削加工においては、逃げ面摩耗量0.2mmとなる、又は工具が欠損するまでの時間を測定し、SCM435断続加工においては、工具が欠損するまでの時間を測定した。その時間が長いもの程耐欠損性(靭性)に優れていることを示している。
その結果を以下の表2および3に示す。
<加工条件>
材質 インコネル718丸棒
切削チップ JIS K20超硬 CNMG120408
速度 70m/min
送り 0.15mm/rev
切り込み 0.5mm
寿命判定 逃げ面摩耗量0.2mm or 欠損まで
<加工条件>
材質 SCM435溝付き丸棒
切削チップ JIS K20超硬 CNMG120408
速度 100m/min
送り 0.22mm/rev
切り込み 1.5mm
寿命判定 欠損までの時間
Claims (9)
- 基材と、該基材上に形成された被膜とを備える表面被覆切削工具であって、前記被膜は、
Al2O3層を含み、
前記Al2O3層は金属粒子が分散した構造であり、
前記金属粒子は、周期表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、及びSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含み、
前記金属粒子の粒子サイズは10nm〜250nm
であることを特徴とする表面被覆切削工具。 - 前記金属粒子が、Al2O3層中、Alに対して0.01〜20.00at%含有されることを特徴とする請求項1記載の表面被覆切削工具。
- 前記Al2O3層が、(Al1-xMex)2O3(但し、MeはAl 2 O 3 に固溶しており、MeはV,Cr,Y,Zr、Nb,Hf,Ta,B,Siの少なくとも1種であり、xは0〜0.20である。)層であることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面被覆切削工具。
- 前記Al2O3層が、(Al1-xMex)2O3(但し、MeはAl 2 O 3 に固溶しており、MeはV,Cr,Y,Zr、Nb,Hf,Ta,B,Siの少なくとも1種であり、x=0.001〜0.20である。)層であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具。
- 前記被膜が、前記(Al1-xMex)2O3においてx=0のAl2O3層と、x=0.001〜0.20のAl2O3層とを含むことを特徴とする請求項3又は4に記載の表面被覆切削工具。
- 前記被膜は、Al2O3層以外に、周期表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al,及びSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素からなる金属、または、該元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素、及び硼素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物によって構成される硬質被膜層を、少なくとも1層有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具。
- 前記硬質被膜層は、Cr、Al、Ti、及びSiから選ばれる少なくとも1種の元素からなる金属、または、該元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素、および硼素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物によって構成されることを特徴とする請求項6に記載の表面被覆切削工具。
- 前記被膜は、Al2O3層以外に、Cr、Al、Ti、及びSiから選ばれる少なくとも1種の元素からなる金属、または、該元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素、および硼素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物によって構成される硬質被膜層を2種以上、各層の厚みを1nm以上100nm以下の厚みとして積層されてなる積層被膜を1以上有しており、該積層被膜において2種以上の各硬質被膜層が周期的に積層されてなることを特徴とする請求項6又は7に記載の表面被覆切削工具。
- 前記基材が、超硬合金、サーメット、cBN、高速度鋼、セラミクス、またはダイヤモンド焼結体により構成されることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具。
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