JP5574277B2 - 耐剥離性に優れる表面被覆立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料製切削工具 - Google Patents
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Description
a) 硬質被覆層を構成するTiとAlの複合窒化物([Ti1−XAlX]N)層は、Alの含有割合X(原子比)の値が、0.30〜0.60の範囲内において所定の耐熱性、高温硬さおよび高温強度を有し、通常の切削加工条件下において必要とされる耐摩耗性は具備しているが、切刃部にきわめて大きな発熱を伴い、あるいは同時に、切刃部に断続的・衝撃的に大きな機械的負荷がかかる高硬度鋼の高速切削加工においては、TiとAlの複合窒化物([Ti1−XAlX]N)層からなる硬質被覆層は高温強度が不足するために、切刃の境界部分に境界異常損傷が生じ、そして、これが原因となり被削材の仕上げ面精度を維持することができず、比較的短時間で使用寿命に達してしまうこと。
(d)さらに上記硬質皮膜層表面に、表面処理技術、例えば、ウエットブラストやショットピーニング処理等を行うことにより、硬質被覆層の逃げ面、すくい面およびホーニング部における表面粗さ、残留応力、ナノインデンテーション硬さをそれぞれ所定の値にすることができ、これによりチッピングの発生が抑制され、その結果、耐摩耗性が向上する。
以上(a)〜(d)に示される研究結果を得たのである。
立方晶窒化ほう素の含有量が50〜85容量%の立方晶窒化ほう素基高圧焼結体からなる切削工具の表面に硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料製切削工具において、
前記硬質被覆層が、
(a)1.5〜3μmの平均層厚を有する組成式:[Ti1−XAlX]N(ただし、原子比で、Xは0.30〜0.60を示す)を満足するTiとAlの複合窒化物層からなる下部層と、
(b)組成式:[Ti1−XAlX]N(ただし、原子比で、Xは0.30〜0.60を示す)を満足するTiとAlの複合窒化物層とTi窒化物(TiN)層とをそれぞれの層厚を平均層厚で0.03〜0.3μmとして交互に積層させ、さらに最外層に0.3〜2μmの平均層厚を有する組成式:[Ti1−XAlX]N(ただし、原子比で、Xは0.30〜0.60を示す)を満足するTiとAlの複合窒化物層を形成させてなる合計平均層厚が0.5〜3μmの上部層とからなるとともに、
(c)硬質被覆層表面の表面粗さRaが、逃げ面とすくい面において0.08〜0.20μm、ホーニング部において、0.07〜0.10μmであり、
(d)硬質被覆層のTiAlNの残留応力が、逃げ面とすくい面において−1〜−2GPa、ホーニング部において、−1.5〜−3.0GPaであるとともに、残留応力(逃げ面、すくい面)>残留応力(ホーニング部)であり、
(e)最外層TiAlNの荷重100mgで測定したときのナノインデンテーション硬さが、逃げ面とすくい面において30〜38GPa、ホーニング部において33〜50GPaであるとともに、ナノインデンテーション硬さ(逃げ面、すくい面)<ナノインデンテーション硬さ(ホーニング部)であることを特徴とする耐剥離性、耐摩耗性を長期にわたって発揮する表面被覆立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料製切削工具に特徴を有するものである。
(a)切削チップ本体のcBN基焼結材料の配合組成
立方晶窒化ほう素の含有量が85容量%を超えると窒化ほう素基自体の焼結性が低下し、その結果、切れ刃にチッピングが発生しやすくなる。一方、50容量%未満だと所望の優れた耐摩耗性を確保することができない。したがって、立方晶窒化ほう素の含有量を50〜85容量%と定めた。
硬質被覆層の下部層を構成するTiとAlの複合窒化物([Ti1−XAlX]N)層におけるTi成分は高温強度の維持、Al成分は高温硬さと耐熱性の向上に寄与することから、硬質被覆層の下部層を構成するTiとAlの複合窒化物([Ti1−XAlX]N)層は、所定の高温強度、高温硬さおよび耐熱性を具備する層であって、焼入れ鋼等の高硬度鋼の高速切削加工時における切刃部の耐摩耗性を確保する役割を基本的に担う。ただ、Alの含有割合Xが60原子%を超えると下部層の高温硬さと耐熱性は向上するものの、Ti含有割合の相対的な減少によって、高温強度が低下しチッピングを発生しやすくなり、一方、Alの含有割合Xが30原子%未満になると、高温硬さと耐熱性が低下し、その結果、耐摩耗性の低下がみられるようになることから、Alの含有割合Xの値を0.30〜0.60と定めた。
また、下部層の平均層厚が1.5μm未満では、自身のもつ耐熱性、高温硬さおよび高温強度を硬質被覆層に長期に亘って付与できず、工具寿命短命の原因となり、一方、その平均層厚が3μmを越えると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1.5〜3μmと定めた。
(イ)上部層の薄層A
上部層の薄層Aを構成するTiとAlの複合窒化物([Ti1−XAlX]N)層(ただし、原子比で、Xは0.30〜0.60を示す)は、下部層と実質同様の層であって、所定の耐熱性、高温硬さおよび高温強度を具備し、焼入れ鋼等の高硬度鋼の高速切削加工時における切刃部の耐摩耗性を確保する作用を有する。
Ti窒化物(TiN)層からなる薄層Bは、薄層Aと薄層Bの交互積層構造からなる上部層において、いわば、薄層Aに不足する特性(高温強度、耐衝撃強さ)を補うことを主たる目的とするものである。
すでに述べたように、上部層の薄層Aは、所定の耐熱性、高温硬さと高温強度を有する層であるが、大きな機械的負荷が加わるとともに高熱発生を伴う高硬度鋼の高速切削加工では、その高温強度、耐衝撃強さが十分とはいえず、そのため、これらが原因となり切刃の刃先の境界部分に境界異常損傷を生じることになる。
そこで、優れた高温強度と耐衝撃強さを有するTi窒化物(TiN)層からなる薄層Bを、薄層Aと交互に配し交互積層構造を構成することで、隣接する薄層Aの高温強度不足、耐衝撃強さ不足を補い、上部層全体として、前記薄層Aのもつすぐれた耐熱性、高温硬さ、高温強度を何ら損なうことなく、前記薄層Bのもつより一段とすぐれた高温強度と耐衝撃強さを備えた上部層を形成する。
Ti窒化物(TiN)層は、すぐれた高温強度と耐衝撃強さを備え、大きな機械的負荷が加わるとともに高熱発生を伴う焼入れ鋼等の高硬度鋼の高速切削加工において、切刃の刃先の境界部分に生じる境界異常損傷の発生を防止する作用を有する。
上部層の薄層Aと薄層B、それぞれの一層平均層厚が0.03μm未満ではそれぞれの薄層の備えるすぐれた特性を発揮することができず、この結果、上部層にすぐれた高温硬さ、高温強度および耐熱性と、より一段とすぐれた高温強度と耐衝撃強さを確保することができなくなり、また、それぞれの一層平均層厚が0.3μmを越えるとそれぞれの薄層がもつ欠点、すなわち、薄層Aであれば高温強度、耐衝撃強さの不足、薄層Bであれば耐熱性、高温硬さの不足が層内に局部的に現れるようになり、これが原因で、切刃刃先の剥離が発生したり、摩耗が急速に進行するようになることから、それぞれの一層平均層厚は0.03〜0.3μmと定めた。
すなわち、薄層Bは、上部層により一段とすぐれた高温強度と耐衝撃強さを付与するために設けたものであるが、薄層A、薄層Bそれぞれの一層平均層厚が0.03〜0.3μmの範囲内であれば、薄層Aと薄層Bの交互積層構造からなる上部層は、すぐれた耐熱性、高温硬さと、より一段とすぐれた高温強度、耐衝撃強さを具備したあたかも一つの層であるかのように作用するが、薄層A、薄層Bそれぞれの一層平均層厚が0.3μmを越えると、薄層Aの高温強度、耐衝撃強さの不足、あるいは、薄層Bの耐熱性、高温硬さ不足が層内に局部的に現れるようになり、上部層が全体として一つの層としての良好な特性を呈することができなくなるため、薄層A、薄層Bそれぞれの一層平均層厚を0.03〜0.3μmと定めた。
薄層Aと薄層Bの一層平均層厚を0.03〜0.3μmの範囲内とした交互積層構造からなる上部層を下部層表面に形成することにより、優れた耐熱性、高温硬さとともに、より一段とすぐれた高温強度と耐衝撃強さを兼ね備えた硬質被覆層が得られ、その結果、焼入れ鋼等の高硬度鋼の高速連続切削加工あるいは高速断続切削加工において、切刃の刃先の境界部分に生じる異常損傷の発生を防止することができる。
(ニ)上部層の最外層とその平均層厚
本発明の被覆cBN基焼結工具では、最外層TiAlNの層厚が0.3μm未満であると所望の耐摩耗性が得られない。また最外表面の被覆層の層厚の違いによって、それぞれ微妙に異なる干渉色を生じ、工具外観が不揃いとなることがある。このような場合には、上部層の最外層として、TiとAlの複合窒化物(TiAlN)層を厚く蒸着形成することによって、工具外観の不揃いを防止することができる。そしてそれは2μmまでの平均層厚があれば外観の不揃いを十分防止できることから、TiとAlの複合窒化物(TiAlN)層の平均層厚は0.3〜2μmと定める。
(ホ)上部層の合計平均層厚
また、上部層の合計平均層厚(即ち、交互積層構造を構成する薄層Aと薄層Bの各層の平均層厚を合計した層厚と最外層の平均層厚とを合計した層厚)は、0.5μm未満では、焼入れ鋼等の高硬度鋼の高速切削加工で必要とされる十分な耐熱性、高温硬さ、高温強度および耐衝撃強さを上部層に付与することができず、工具寿命短命の原因となり、一方その平均層厚が3μmを越えると、チッピングが発生し易くなることから、その合計平均層厚は0.5〜3μmとすることが好ましい。
硬質被覆層表面の表面粗さRaは、逃げ面およびすくい面においては、0.08μm未満とすることは製造コストの上昇につながるため好ましくなく、0.20μmを超えると皮膜表面の切削抵抗が大きくなりチッピングが発生しやすくなるため、0.08〜0.20μmと定めた。また、ホーニング部においては、0.07μm未満とすることは製造コストの上昇につながるため好ましくなく、0.10μmを超えると皮膜表面の切削抵抗が大きくなりチッピングが発生しやすくなるため、0.07〜0.10μmと定めた。
(ト)硬質被覆層のTiAlNの残留応力
硬質被覆層のTiAlNの残留応力は、逃げ面およびすくい面においては、−1GPa未満だと所望の硬さが得られず耐摩耗性が低下するため好ましくなく、−2GPaを超えると高負荷切削では皮膜内部あるいは皮膜と基体の界面にクラックが発生しチッピングしやすくなる。したがって、−1〜−2GPaと定めた。また、ホーニング部においては、−1.5GPa未満だと所望の硬さが得られず耐摩耗性が低下するため好ましくなく、−3.0GPaを超えると高負荷切削では皮膜内部あるいは皮膜と基体の界面にクラックが発生しチッピングしやすくなる。したがって、−1.5〜−3.0GPaと定めた。さらに、−1〜−2GPa、−1.5〜−3.0GPaであるとともに、逃げ面およびすくい面の残留応力の方が、ホーニング部の残留応力よりも小さいとホーニング部のチッピングが生じやすくなるため、残留応力(逃げ面、すくい面)>残留応力(ホーニング部)と定めた。逃げ面、すくい面とホーニング部の残留応力を上記の関係とすることにより、切削時に発生するホーニング部での応力を緩和することができ、切削時に最も切削抵抗が大きくなるホーニング部での剥離を抑制することができる。
最外層TiAlNの荷重100mgで測定したときのナノインデンテーション硬さは、逃げ面およびすくい面においては、30GPa未満では耐摩耗性向上効果が得られないため好ましくなく、38GPaを超えると耐摩耗性は向上するがチッピングが発生しやすくなる。したがって、30〜38GPaと定めた。また、ホーニング部においては、33GPa未満では耐摩耗性向上効果が得られないため好ましくなく、50GPaを超えると耐摩耗性は向上するがチッピングが発生しやすくなる。したがって、33〜50GPaと定めた。さらに、30〜38GPa、33〜50GPaであるとともに、逃げ面およびすくい面のナノインデンテーション硬さの方が、ホーニング部のナノインデンテーション硬さよりも大きいとホーニング部のチッピングが生じやすくなるため、ナノインデンテーション硬さ(逃げ面、すくい面)<ナノインデンテーション硬さ(ホーニング部)と定めた。逃げ面、すくい面とホーニング部のナノインデンテーション硬さを上記の関係とすることにより、切削時のホーニング部での衝撃を緩和することができ、切削時に最も切削抵抗が大きくなるホーニング部での剥離を抑制することができる。
ブラストの噴射圧力を0.1〜0.15MPa、噴射時間を1〜5secとし、これを3〜10回繰り返す。圧力が0.1MPa未満、時間が1sec未満、あるいは繰り返し回数が2回以下だと、ブラストの効果が弱く、硬質被覆層の逃げ面、すくい面およびホーニング部における耐剥離性向上効果が得られず、また、圧力が0.15MPaより大きく、時間が5secより長く、繰り返し回数が10回を超えると、硬質被覆層の逃げ面、すくい面およびホーニング部における表面粗さ、残留応力、ナノインデンテーション硬さが所定の関係を得られないために耐剥離性向上効果が得られない。なお、ブラストに使用したスラリーは、アルミナ粒子を使用しており、粒子径が220〜1500番、スラリー濃度は15〜60wt%である。
(b)まず、装置内を排気して0.1Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、Arガスを導入して、0.7Paの雰囲気とすると共に、前記テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−200Vの直流バイアス電圧を印加し、もって工具基体表面をアルゴンイオンによってボンバード洗浄し、
(c)装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して3Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ前記薄層Aおよび下部層形成用Ti−Al合金とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記工具基体の表面に、表3に示される目標組成および目標層厚の[Ti,Al]N層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成し、
(d)ついで装置内に導入する反応ガスとしての窒素ガスの流量を調整して2Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−10〜−100Vの範囲内の所定の直流バイアス電圧を印加した状態で、前記薄層B形成用金属Tiのカソード電極とアノード電極との間に50〜200Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させて、前記工具基体の表面に所定層厚の薄層Bを形成し、前記薄層B形成後、アーク放電を停止し、代って前記薄層Aおよび下部層形成用Ti−Al合金のカソード電極とアノード電極間に同じく50〜200Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させて、所定層厚の薄層Aを形成した後、アーク放電を停止し、再び前記薄層B形成用金属Tiのカソード電極とアノード電極間のアーク放電による薄層Bの形成と、前記薄層Aおよび下部層形成用Ti−Al合金のカソード電極とアノード電極間のアーク放電による薄層Aの形成を交互に繰り返し行い、もって前記工具基体の表面に、層厚方向に沿って表3に示される目標組成および一層目標層厚の薄層Aと薄層Bの交互積層からなる上部層を同じく表3に示される合計層厚(平均層厚)で蒸着形成する。
(e)さらに、ブラスト圧力:0.1〜0.15MPa、ブラスト時間:2〜5秒、繰り返し回数:5〜10回、入射角:すくい面に対して40〜50°、粒子径:220〜1500番、スラリー濃度:15〜60質量%、粒の種類:Al2O3のブラスト条件で断続的にブラスト処理を行うことにより、本発明被覆cBN基焼結工具1〜10をそれぞれ製造した。ブラスト条件を表2に示す。このような断続的なブラスト処理を行うことにより、皮膜内部および積層部の各層間に疲労が蓄積せず、その結果、クラックが存在しない状態で、皮膜表面の平滑性が高く、かつ、硬質皮膜であるTiAlNの残留応力を増加させることで硬さが向上した皮膜を作成することができる。表3に皮膜表面の表面粗さRa、皮膜のTiAlNの残留応力、最外層TiAlNの荷重100mgで測定したときのナノインデンテーション硬さを、逃げ面、すくい面およびホーニング部のそれぞれについて示す。
(b)まず、装置内を排気して0.1Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、Arガスを導入して、0.7Paの雰囲気とすると共に、前記テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−200Vの直流バイアス電圧を印加し、もって工具基体表面をアルゴンイオンによってボンバード洗浄し、
(c)装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して3Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ前記薄層Aおよび下部層形成用Ti−Al合金とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記工具基体の表面に、表4に示される目標組成および目標層厚の[Ti,Al]N層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成し、
(d)ついで装置内に導入する反応ガスとしての窒素ガスの流量を調整して2Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−10〜−100Vの範囲内の所定の直流バイアス電圧を印加した状態で、前記薄層B形成用金属Tiのカソード電極とアノード電極との間に50〜200Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させて、前記工具基体の表面に所定層厚の薄層Bを形成し、前記薄層B形成後、アーク放電を停止し、代って前記薄層Aおよび下部層形成用Ti−Al合金のカソード電極とアノード電極間に同じく50〜200Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させて、所定層厚の薄層Aを形成した後、アーク放電を停止し、再び前記薄層B形成用金属Tiのカソード電極とアノード電極間のアーク放電による薄層Bの形成と、前記薄層Aおよび下部層形成用Ti−Al合金のカソード電極とアノード電極間のアーク放電による薄層Aの形成を交互に繰り返し行い、もって前記工具基体の表面に、層厚方向に沿って表4に示される目標組成および一層目標層厚の薄層Aと薄層Bの交互積層からなる上部層を同じく表4に示される合計層厚(平均層厚)で蒸着形成することにより、従来被覆cBN基焼結工具1〜10をそれぞれ製造した。従来被覆cBN基焼結工具の硬質被覆層は、いずれも[Ti,Al]N層とTiN層の積層構造からなっており、本発明品と異なり、表面粗さ、残留応力、硬さが制御されていない。
[切削条件A]
被削材:JIS・SCM415の浸炭焼入れ材(硬さ:HRC61)の丸棒、
切削速度: 295m/min.、
切り込み: 0.23mm、
送り: 0.13mm/rev.、
切削時間: 6分、
の条件での合金鋼の乾式連続高速切削加工試験(通常の切削速度は200m/min.)、
[切削条件B]
被削材:JIS・SCr420の浸炭焼入れ材(硬さ:HRC60)の丸棒、
切削速度: 270m/min.、
切り込み: 0.23mm、
送り: 0.13m/rev.、
切削時間: 6分、
の条件でのクロム鋼の乾式連続高速切削加工試験(通常の切削速度は160m/min.)、
[切削条件C]
被削材:JIS・SUJ2の焼入れ材(硬さ:HRC61)の丸棒、
切削速度: 240m/min.、
切り込み: 0.23mm、
送り: 0.13mm/rev.、
切削時間: 6分、
の条件での軸受鋼の乾式連続高速切削加工試験(通常の切削速度は150m/min.)、
を行い、いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅(mm)と被削材の仕上げ面精度(JIS B0601−2001による算術平均粗さ(Raμm)を測定した。この測定結果を表5に示した。
Claims (1)
- 立方晶窒化ほう素の含有量が50〜85容量%の立方晶窒化ほう素基高圧焼結体からなる切削工具の表面に硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料製切削工具において、
前記硬質被覆層が、
(a)1.5〜3μmの平均層厚を有する組成式:[Ti1−XAlX]N(ただし、原子比で、Xは0.30〜0.60を示す)を満足するTiとAlの複合窒化物層からなる下部層と、
(b)組成式:[Ti1−XAlX]N(ただし、原子比で、Xは0.30〜0.60を示す)を満足するTiとAlの複合窒化物層とTi窒化物(TiN)層とをそれぞれの層厚を平均層厚で0.03〜0.3μmとして交互に積層させ、さらに最外層に0.3〜2μmの平均層厚を有する組成式:[Ti1−XAlX]N(ただし、原子比で、Xは0.30〜0.60を示す)を満足するTiとAlの複合窒化物層を形成させてなる合計平均層厚が0.5〜3μmの上部層とからなるとともに、
(c)硬質被覆層表面の表面粗さRaが、逃げ面とすくい面において0.08〜0.20μm、ホーニング部において0.07〜0.10μmであり、
(d)硬質被覆層のTiAlNの残留応力が、逃げ面とすくい面において−1〜−2GPa、ホーニング部において−1.5〜−3.0GPaであるとともに、残留応力(逃げ面、すくい面)>残留応力(ホーニング部)であり、
(e)最外層TiAlNの荷重100mgで測定したときのナノインデンテーション硬さが、逃げ面とすくい面において30〜38GPa、ホーニング部において33〜50GPaであるとともに、ナノインデンテーション硬さ(逃げ面、すくい面)<ナノインデンテーション硬さ(ホーニング部)であることを特徴とする耐剥離性、耐摩耗性を長期にわたって発揮する表面被覆立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料製切削工具。
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