JP5392033B2 - 表面被覆切削工具 - Google Patents
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Description
例えば、特許文献1に示すように、ESC(Electrostatic Spray Coating)法によって、基体にcBN粒子を蒸着させた後、CVI(Chemical Vapor Infiltration)法により、cBN粒子間隙にTiNを充填することにより、cBNとTiNとの混合層を被覆形成した被覆工具が知られている。
AD法については、非特許文献1に紹介されているが、図1に示されるAD装置において、サブミクロンオーダーの原料微粒子をエアロゾル発生器に装填し、高圧ガスと混合、エアロゾル化し、中〜低真空に排気された成膜チャンバー内の基板に高速で吹き付けることで金属、セラミックス膜を成膜するコーティング手法である。
AD法の成膜の原理は、「常温衝撃固化現象」と命名されており、特にセラミックスの成膜においては、特定範囲のサイズを持つ微細な粒子がノズルからガスと共に送られた際に得る一定範囲の運動エネルギーを持って基板に衝突する際に、微細結晶に破砕し、この粒子同士が緻密に結合しながら膜を形成するというものである。
このAD法による成膜の特徴としては、
(イ)金属やセラミックス(酸化物、非酸化物)の成膜が可能である。
(ロ)高温の熱処理が不要なため、通常の焼結プロセスでは得られない原料粉組成を維持した熱非平衡なセラミックス組織が得られる。
(ハ)高速(条件によってはPVD、CVDの30倍以上)かつ大面積で緻密な微結晶組織を持つコーティングが可能である。
(ニ)基板は、硬度や弾性率などの機械特性に配慮すれば、Si,SUS304,樹脂,ガラスなど広く選択可能である。
等が挙げられる。
ALD法は、CVD法の一種であり、真空チャンバ内の基板に、原料化合物の分子を一層ごと反応させ、Arや窒素によるパージを繰り返し行うことで成膜する方法である。
また、PLD法は、PVD法の一種であり、真空チャンバ内へ集光したパルスレーザを照射し、ターゲットをアブレーションすることにより、放出されるフラグメント(イオン、クラスタ、分子、原子)をターゲットに対向配置した基板上に成膜する方法である。
本発明は上記問題点を解消し、長期の使用に亘りすぐれた切削性能を発揮する表面被覆切削工具を提供することを目的とする。
そこで、本発明者等はさらに研究を進め、上記AD法で用いるcBN粒子として、例えば、0.3〜1.2μm程度の粒子径のcBN(立方晶窒化ホウ素)粒子の表面に、ALD法あるいはPLD法で微細TiN(窒化チタン)を予め被覆した微細TiN被覆cBN粉を用意し、この微細TiN被覆cBN粉に、0.1〜2μm程度の粒子径の粗粒TiN粉を混合し、微細TiN被覆cBN粉と粗粒TiN粉との混合粉を原料粉末として用い、AD法によって、工具基体(超硬合金焼結体、cBN焼結体、サーメットあるいは高速度鋼等)表面に成膜すると、工具基体表面には、cBN相とTiN相との複相混合層からなり、さらに、TiN相は、微細TiN相と粗粒TiN相との混相からなり、しかも、cBN粒子の周囲は微細TiN相で被覆された構造の硬質被覆層が形成され、このような硬質被覆層を備えた被覆工具は、高硬度鋼の高速切削加工あるいは断続切削加工に用いた場合、すぐれた耐欠損性、耐摩耗性を示すことを見出したのである。
「 工具基体の表面に、立方晶窒化ホウ素相と窒化チタン相との複相混合層からなる硬質被覆層が形成された表面被覆切削工具において、上記立方晶窒化ホウ素相は、硬質被覆層中で40〜80%の面積割合を占め、残りは、平均粒径が5〜50nmの微細窒化チタン相と平均粒径が0.1〜2μmの粗粒窒化チタン相の混相からなり、さらに、上記混相に占める上記微細窒化チタン相の面積割合は30〜85%であって、上記微細窒化チタン相は、上記立方晶窒化ホウ素相を構成する立方晶窒化ホウ素粒子の表面を被覆していることを特徴とする表面被覆切削工具。」
を特徴とするものである。
本発明では、上記工具基体表面に、AD(Aerosol Deposition)法により複相混合層からなる硬質被覆層を成膜するが、AD法に使用する原料粉末として、単にcBN粉末を用いるのではなく、予め、ALD法、PLD法等により作製した微細TiNでcBN粒子表面を被覆した微細TiN被覆cBN粉を用いることが大きな特徴点である。
例えば、ALD法によりTiN被覆cBN粉を作製する場合には、
流動層炉内にcBN粉末を装入し、10−1Torrの減圧下にて、450〜600℃程度に昇温し、TiCl4ガス流入工程、Arガスパージ工程、NH3ガス流入工程、Arガスパージ工程を1サイクルとして、目標層厚になるまでこのサイクルを繰り返す、
という条件で、cBN粒子表面に、層厚が15〜150nmのTiN層を被覆し、これをAD法における原料粉末の一つである微細TiN被覆cBN粉として使用する。
ここで、上記TiN層の層厚を15〜150nmと定めたのは、TiN層の層厚が15nm未満では、AD法で形成する複相混合層中のTiN相の含有体積割合が相対的に少なくなるとともに、工具基体と複相混合層との密着性が低下し、さらに、cBN粒子表面を被覆する微細TiN相の介在によるcBN粒子相互の結合強度を高める効果も低下するからであり、一方、微細TiN層の層厚が150nmを超えると、複相混合層の硬度および緻密性が低下し、所定の耐摩耗性と耐欠損性を確保できなくなるという理由による。
なお、この発明では、0.1〜2μm程度の粒子径のTiNを粗粒と称しているが、これは例えば、5〜50nmという微細TiNと区別するための相対的な表現であって、絶対的な粒子径を表現しているのではないことに留意されたい。
図1により、AD法による成膜の概要を説明する。
図1において、例えば、cBN粉末の表面に所定粒径、所定厚さの微細TiNが被覆された粒径が0.3〜2.0μmの微細TiN被覆cBN粉と、粒径が0.1〜2μmの粗粒TiN粉との混合粉からなる原料粉末をエアロゾル発生器内に充填し、これを高圧ガス(He,Ar,N2あるいは空気)と混合し、エアロゾル化し、中、低真空圧の成膜チャンバー内の工具基体に高速で吹き付けることで、cBN相とTiN相との複相混合層からなり、また、TiN相は、微細TiN相と粗粒TiN相との混相からなり、さらに、cBN粒子表面が微細TiN粒子で被覆された硬質被覆層を工具基体上に成膜することができる。
また、粗粒TiN粒子の平均粒径が0.1μm未満では、強度向上の効果がみられず、一方、粗粒TiN粒子の平均粒径が2μmを超えると、耐摩耗性が低下するようになることから、粗粒TiN粒子の平均粒径を0.1から2μmの範囲内にすることが必要である。
また、cBN相とTiN相との複相混合層からなる硬質被覆層における、cBN含有割合は、ALD法で作製された微細TiN被覆cBN粒子におけるTiN層の被覆厚さ、および、AD法で用いる原料粉末中の粗粒TiN粉末の混合割合によって影響されるが、ALD法におけるcBNの粒子径が大きいほど、また、TiN層厚が薄いほど、さらに、AD法における原料粉末中の粗粒TiN粉末の混合割合が少ないほど、cBN相の含有体積割合は大となる。
硬質被覆層中に占めるcBN相の面積割合が40%未満の場合には、硬質被覆層の硬さが十分でないため、高硬度鋼等の切削加工ですぐれた耐摩耗性を長期にわたって発揮することができず、一方、cBN相の面積割合が80%を超えると、相対的にTiN相の形成割合が少なくなり、緻密性、靭性、強度の低下によって欠損を生じやすくなるとともに、工具基体に対する硬質被覆層の密着性も低下することから、cBN相の面積割合は40〜80%と定めた。
また、TiN相は、微細TiN相と粗粒TiN相との混相からなるが、微細TiN相が混相に占める面積割合で30%未満となると微細TiN粒子の介在によるcBN粒子相互の結合強度を高める効果が低減し、一方、微細TiN相が混相に占める面積割合が85%を超えると、粗粒TiN相による強度向上効果が現れなくなり、特に、断続切削などの重切削において欠損が生じやすくなることから、TiNの混相に占める微細TiN相の面積割合は30〜85%と定めた。
また、硬質被覆層の層厚については、これが1μm未満の場合には、耐摩耗性を確保するのに不十分であり、一方、層厚が10μmを超える場合には、被覆層の剥離が生じやすくなり、短寿命となってしまうため、硬質被覆層の層厚は1〜10μmとすることが望ましい。
なお、ここでは工具基体材料として超硬合金焼結体、サーメットを使用したが、工具基体としては、高速度鋼、cBN焼結体等通常用いられる工具基体を使用することが可能である。
さらに、粗粒TiN粉を用意した。
上記微細TiN被覆cBN粉と粗粒TiN粉とを混合した混合粉を調整し、これを、AD法で用いる原料粉末イ〜ホとして作製した。
表3に、微細TiN被覆cBN粉についてのALD法による被覆条件、配合量等を、また、粗粒TiN粉についてのサイズ、配合量等を示す。
(a)ALD法で作製した上記原料粉末イ〜ホをエアロゾル発生器に装入し、高圧ガスとしてArガス、ガス搬入速度3〜6L/minで原料微粒子イ〜ホをエアロゾル化し、成膜チャンバー内の工具基体A〜E,a〜eに所定時間ノズルから吹きつけ、かつ、工具基体表面に沿ってノズルを1〜5mm/secで移動させることにより、工具基体表面に、表4に示される所定の面積割合、所定粒径のcBN相と、所定粒径の微細TiN相,粗粒TiN相,所定面積割合の微細TiN相からなる混相とからなる所定膜厚の複相混合層からなる硬質被覆層を成膜することにより、ISO規格CNGA120408に規定する表4に示されるスローアウエイチップ形状の本発明表面被覆切削工具1〜10(以下、本発明工具1〜10という)を作製した。
なお、各相の面積割合については、透過型電子顕微鏡像を基に、画像処理解析により求め、また、各粒子の平均粒径についても同様の像を基に、直線交差線分法によって求めた。
表4に、これらの測定値を示す。
また、本発明工具1〜10の硬質被覆層の層厚は、刃先断面を走査型電子顕微鏡にて観察することにより求めた。
《切削条件1》
被削材:SCr420(HRC:61)の丸棒、
切削速度:230m/min、
送り:0.24mm/rev、
切込み:0.3mm、
切削時間:10分
の条件での、焼入れクロム鋼の乾式連続切削加工試験、
《切削条件2》
被削材:SCM415(HRC:60)の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:190m/min、
送り:0.21mm/rev、
切込み:0.22mm、
切削時間:5分
の条件での、焼入れ合金鋼の乾式断続切削加工試験、
を行い、切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
上記切削条件1,2による切削加工試験の測定結果を表6に示した。
これに対して、比較例工具ア〜ウにおいては、欠損発生、強度不足、耐摩耗性不足等により、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
Claims (1)
- 工具基体の表面に、立方晶窒化ホウ素相と窒化チタン相との複相混合層からなる硬質被覆層が形成された表面被覆切削工具において、上記立方晶窒化ホウ素相は、硬質被覆層中で40〜80%の面積割合を占め、残りは、平均粒径が5〜50nmの微細窒化チタン相と平均粒径が0.1〜2μmの粗粒窒化チタン相の混相からなり、さらに、上記混相に占める上記微細窒化チタン相の面積割合は30〜85%であって、上記微細窒化チタン相は、上記立方晶窒化ホウ素相を構成する立方晶窒化ホウ素粒子の表面を被覆していることを特徴とする表面被覆切削工具。
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