JP2004238736A - 硬質皮膜及び硬質皮膜被覆工具 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 アーク放電式イオンプレーティング法により形成した硬質皮膜であって、AlxCr1−x又はAlxCr1−x−ySiyにより表される金属成分と、N1−α−β―γBαCβOγにより表される非金属成分とからなる組成を有し、(200)面又は(111)面に最大X線回折強度を有し、X線光電子分光分析における525〜535eVの範囲にAl及び/又はCrと酸素との結合エネルギーを有し、又はX線光電子分光分析における525〜535eVの範囲にAl、Cr及び/又はSiと酸素との結合エネルギーを有し、又は岩塩型の結晶構造を有し(111)面又は(200)面のX線回折ピークの2θの半価幅が0.5〜2度であり、酸素は前記硬質皮膜の結晶粒内より結晶粒界に多く存在することを特徴とする硬質皮膜。
【選択図】なし
Description
特許文献2は、真空チャンバー内に配置された25〜50原子%のAl及び75〜50原子%のCrからなるターゲットからアーク放電によりAlとCrの混合蒸気を発生させ、同時に窒素ガスを真空チャンバー内に導入して、前記混合蒸気と窒素ガスとの反応により800〜900度でも酸化されない耐高温酸化特性に優れたAl−Cr−N系複合硬質皮膜を基板上に形成させる方法を開示している。
特許文献3は、母材の表面にTi系、Cr系、Si系、又はAl系中間層を形成した後、中間層の表面にAlCrN系硬質皮膜をコーティングする工具の表面処理方法を開示している。これらの硬質皮膜はAlCrの窒化物であり、約1000度の耐高温酸化特性を有しているが、1000度を超える耐酸化性を有さない。更にこれらの硬質皮膜のHv硬度は21GPa程度と不十分であり、耐摩耗性に乏しい。
本発明の第2の硬質皮膜は、アーク放電式イオンプレーティング法により形成した硬質皮膜であって、AlxCr1−x−ySiy(但し、x及びyはそれぞれ原子比率で0.45≦x≦0.75、及びy≦0.35を満たす。)により表される金属成分と、N1−α−β―γBαCβOγ(但し、α、β及びγはそれぞれ原子比率で、0≦α≦0.15、0≦β≦0.35、及びγ≦0.25を満たす。)により表される非金属成分とからなる組成を有し、X線光電子分光分析における525〜535eVの範囲にAl、Cr及び/又はSiと酸素との結合エネルギーを有することを特徴とする。第2の硬質皮膜において、xは0.5〜0.7であるのが好ましい。yの上限は0.2であるのが好ましく、下限は0.005であるのが好ましく、0.01であるのがより好ましい。αは0〜0.12であるのが好ましく、0〜0.08であるのがより好ましい。βは0〜0.2であるのが好ましく、0〜0.1であるのがより好ましい。γは0.01〜0.25であるのが好ましく、0.01〜0.2であるのがより好ましい。第2の硬質皮膜において、Siは窒化物、酸化物及び金属の状態で存在し、X線光電子分光分析により求めたSi金属及びその窒化物及び酸化物の相対強度をそれぞれI(Si)、I(Si−N)及びI(Si−O)とすると(但し、I(Si)+I(Si−N)+I(Si−O)=100%)、I(Si−N)が52%以上であるのが好ましい。またこの硬質皮膜は(200)面又は(111)面に最大X線回折強度を有する結晶構造を有するのが好ましい。
本発明の第3の硬質皮膜は、アーク放電式イオンプレーティング法により形成した硬質皮膜であって、AlxCr1−x−ySiy(但し、x及びyはそれぞれ原子比率で0.45≦x≦0.75、及び0≦y≦0.35、及び0.5≦x+y<1を満たす。)により表される金属成分と、N1−α−β―γBαCβOγ(但し、α、β及びγはそれぞれ原子比率で、0≦α≦0.15、0≦β≦0.35、及び0.003≦γ≦0.25を満たす。)により表される非金属成分とからなる組成、及び岩塩型の結晶構造を有し、(111)面又は(200)面のX線回折ピークの2θの半価幅が0.5〜2度であり、酸素は前記硬質皮膜の結晶粒内より結晶粒界に多く存在することを特徴とする。第3の硬質皮膜において、xは0.5〜0.7であるのが好ましい。yは0〜0.2であるのが好ましく、0〜0.1であるのがより好ましい。αは0〜0.12であるのが好ましく、0〜0.08であるのがより好ましい。βは0〜0.2であるのが好ましく、0〜0.1であるのがより好ましい。γは0.01〜0.25であるのが好ましく、0.01〜0.2であるのがより好ましい。第3の硬質皮膜は、X線光電子分光分析における525〜535eVの範囲にAl、Cr及び/又はSiと酸素との結合エネルギーを有するのが好ましい。第3の硬質皮膜の最表面から500nm以内の深さ領域で酸素濃度が最大となるのが好ましい。またI(111)及びI(200)をそれぞれ(111)面及び(200)面のX線回折強度とすると、0.3≦I(200)/I(111)≦12であるのが好ましい。
第1〜第3の硬質皮膜において、耐摩耗性と密着性のバランスから、本発明の硬質皮膜のEは28〜42%であるのが好ましく、30〜40%であるのがより好ましい。特に、第1及び第2の硬質皮膜のEは30〜40%であるのが好ましく、第3の硬質皮膜のEは28%〜40%であるのが好ましい。ここでEは100−[(接触深さ)/(最大荷重時の最大変位量)]により求められる。接触深さ及び最大荷重時の最大変位量はナノインデンテーション法により求められる(W.C.Oliverand、G.m.Pharr:J.Mater.Res.、Vol.7、NO.6、June1992、pp.1564−1583)。
本発明の第1〜第3のいずれかの硬質皮膜をA層と称し、該A層とは別の少なくとも硬質皮膜であるB層とからなり、該B層は、Ti1−zSiz(但し、zは原子比率で0≦z<0.35を満たす。)により表される金属成分と、NfBhCvOw(但し、f、h、v、wはそれぞれ原子比率で、0≦f≦1、0≦h<1、0≦v<1、0≦w<1を満たす。)により表される非金属成分とからなる組成で示され、該B層は該A層の直上及び/又は最表層に被覆されることを特徴とする。これにより、硬質皮膜を高硬度化することが可能となり、また基体との密着性を改善した。更に、A層とB層とにおける2層間の塑性変形性の差を改善することによって2層間に生じる歪を低減し、この結果、特に密着性においても優れ、耐摩耗性も大幅に改善することを可能にした。該B層はw>0を満たし、X線光電子分光分析における525eV〜535eVの範囲にピーク強度を示すことは、酸素を添加、更に酸化物結合を有する場合、特に皮膜が高硬度化され好ましい。該B層はz≧0.02、f>0.5、w>0を満たし、X線光電子分光分析において95〜105eVの範囲にピーク強度を示し、B層に少なくともSi窒化物、Si酸化物及びSi金属の結合状態が存在し、Siの窒化物の強度比率をI(Si−N)、Siの酸化物の強度比率をI(Si−O)、Siの金属の強度比率をI(Si)、但し、I(Si−N)+I(Si−O)+I(Si)=100%とした時、I(Si−N)の比率が55%以上、85%未満であることが、皮膜の高硬度化に有効に作用し好ましい。該A層の厚さが0.1μm以上、6μm以下、該B層の厚さが0.01μm以上、4μm以下であり、硬質皮膜全体の厚さが10μm未満であることが、耐摩耗性と密着性のバランスが最適であり好ましい。
本発明の第1〜第3の硬質皮膜において、金属元素の合計量(Al+Cr又はAl+Cr+Si)に対する非金属元素の合計量(N+B+C+O)の比は化学量論的に1超であり、1.1以上であるのが好ましい。またこの比の上限は1.7であるのが好ましい。この比が1.7を超えると、硬質皮膜の耐剥離性が低下する。
Alの含有量xが0.45未満では、硬度及び耐高温酸化特性の改善効果が十分でなく、また0.75超では、残留圧縮応力が過大になり、被覆直後に皮膜の自己破壊を誘発し、強度が急激に低下する。xの好ましい範囲は0.5〜0.7である。硼素の添加により、硬質皮膜と相手材との耐溶着性が向上するとともに、高温下での摩擦係数が低減するので好ましい。しかしながら、硼素の含有量αが0.15超では皮膜が脆化する。αの上限値は好ましくは0.12であり、より好ましくは0.08である。炭素の添加は硬質皮膜の硬度を高め、室温での摩擦係数の低減に効果的である。炭素の含有量βが0.35超では硬質皮膜は脆い。βの上限値は好ましくは0.2であり、より好ましくは0.1である。酸素は硬質皮膜の硬度、耐高温酸化性及び耐摩耗性、並びに硬質皮膜と基体との密着性を向上させる効果を有する。このような効果を得るためには、酸素の含有量γは0.01〜0.25にすることが必要である。γが0.01未満では酸素の十分な添加効果が得られず、また0.25を超えると皮膜硬度が著しく低下し、耐摩耗性に乏しくなる。γは好ましくは0.01〜0.2、特に0.02〜0.2である。金属元素の合計量(Al+Cr)に対する非金属元素の合計量(N+B+C+O)の比は化学量論的に1超であり、1.1以上であるのが好ましい。この比の上限は1.7であるのが好ましい。
1)A層が従来の(AlTi)N系皮膜又はCrとAlを主成分にした従来の皮膜と比較して、高硬度で、耐高温酸化特性が極めて優れるためである。
2)A層が耐塑性変形性に優れ、(TiSi)N系皮膜との差が改善された事により2層間の密着性に優れ、更に基体との密着性も優れることである。従来の硬質皮膜は、CrとAlを主成分とする硬質皮膜と(TiSi)N系皮膜を2層以上積層している。しかし、(CrAl)N系皮膜の硬度並びに耐高温酸化特性、耐摩耗性が十分ではない。これは(CrAl)N系皮膜の最適組成並びに被覆方法に関する詳細な検討が成されておらず、皮膜硬度が十分ではなく、2層間の耐塑性変形性能の差が大きく、2層間の密着性が十分でないためである。従来の(CrAl)N系皮膜を下層膜とし、(TiSi)N系皮膜を上層膜では、硬質皮膜全体に応力場が作用した際に、上層の(TiSi)N系皮膜は塑性変形量が小さく、下層の(CrAl)N系皮膜は塑性変形量が大きいため、上層膜と下層膜との間に歪が生じ、その結果、(TiSi)N系皮膜にクラックが入り、2層間の密着性が不安定となり剥離や異常摩耗を誘発する。これを改善したのが本発明の硬質皮膜であり、A層は従来の(CrAl)N系皮膜に比べて高硬度であり、しかも耐塑性変形性に優れるため、B層の(TiSi)N系皮膜との間に歪を生じ難く、クラックが発生せず、優れた特性を発揮することを可能にした。
3)耐高温酸化特性も改善し、AlもしくはAlとSiの含有量並びに被覆条件の最適化により、従来の(CrAl)N系皮膜に対して、酸素の拡散を著しく抑制することが可能にした。これらの改善により、密着性、耐摩耗性に優れるとともに、耐塑性変形性にも優れた事により、上層膜である(TiSi)N系皮膜の硬度を向上させることができ、優れた耐摩耗性を得ることを可能にした。
B層は、A層の直上及び/又は硬質皮膜最表層に被覆される。好ましい層構造は、基体表面にA層を被覆し、該A層の直上にf<0.5からなる第1のB層を被覆し、最表面にf≧0.7からなる第2のB層を被覆する構造である。本発明のB層中のSiが酸素との結合を有する場合と、B層中にSiと金属との結合が存在する場合、硬質皮膜が緻密化され、硬質皮膜の高靭性化に有効であり好ましい。硬質皮膜中のSiがNと結合する場合、高硬度化に有効である。特にI(Si−N)の比率が55%以上且つ85%未満である場合、高硬度であり好ましい。I(Si−N)が85%以上になると硬質皮膜の靭性が急激に劣化し、剥離し易くなる。I(Si−N)が55%よりも小さくなる場合は、皮膜硬度が十分ではなく耐摩耗性に欠け好ましくない。好ましい強度比率は、I(Si−O)が8%以上、20%未満、I(Si−N)が58%以上、77%未満、I(Si)が15以上、30未満である。但し、I(Si−N)+I(Si−O)+I(Si)=100%である。
1)Ti、Cr、Al及びSiからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属元素と、N、又はNとC、O及びBからなる群から選ばれた少なくとも1種の非金属元素とからなる硬質皮膜、
2)硬質炭素皮膜、
3)硬質窒化硼素皮膜、
が挙げられる。これらの硬質皮膜は任意に組合せて積層しても良い。他の硬質皮膜中のAl、Ti及び/又はCrは酸化物(TiO2、Al2O3、Cr2O3)を形成するため、層分離が起こりにくくなる。このため、高温での動的な摩耗環境下でも、硬質皮膜は優れた耐摩耗性を発揮できる。
硬質皮膜被覆工具の表面を研磨等の機械加工により平滑にすることにより、切削加工時に切屑の排出、切れ刃のチッピング抑制に効果があり、更に切削寿命が改善される。硬質皮膜表面をより平滑にするための機械的な手段としては、例えばSiC粉末を付着させたプラスチックブラシで硬質皮膜表面を全体的にブラッシング処理する方法、硬質粒子と軟質粒子を混合した投射材を吹き付け処理する方法、磁性粒子を用いた磁気研磨による方法、又はダイヤモンド砥粒等を用いたブラスト処理による方法がある。これらの処理法によって切刃エッジ部へ初期摩耗を与え、なじみ効果も確認され、チッピング等の異常摩耗も抑制する効果を発揮する。
本発明の硬質皮膜を被覆する方法としては、AIP法の他に、非平衡マグネトロンスパッタリング法(以下、UMS法と記す。)、プラズマ化学蒸着法の何れか、もしくはこれらの組み合わせにより被覆することにより、優れた耐摩耗性を示す被覆部材が得られ、好ましい。本発明皮膜の被覆条件は以下に示す条件が好ましく被覆基体により使い分けることが可能である。
本発明硬質皮膜の金属成分の4原子%未満を4a、5a、6a族の金属成分の1種以上で置き換えた場合、また本発明に関わる上記組成範囲内での複層構造のおいても同様な効果が確認され好ましく、本発明の技術的範囲に含まれるものである。本発明を以下の実施例により更に詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。各実施例及び比較例の硬質皮膜の組成は、電子線プローブマイクロアナライザーにより金属成分の測定電流を0.5μAとし、非金属成分の測定電流を0.1μAとして、分析した。従って、金属成分と非金属成分との比を求めていない。各実施例及び比較例では硬質皮膜組成として金属成分と非金属成分を便宜上1つの式で表しているが、金属成分:非金属成分が1:1を意味するものではない。
真空チャンバ内に13.5質量%のCoを含有する超硬合金からなる基体、3100ppmの酸素を含有するAlCrB合金ターゲットを載置し、N2及びC2H2からなる反応ガスを真空チャンバ内に導入してチャンバ内の全圧を3.0Paとし、バイアス電圧を−100Vとし、基体温度を450度として、基体上に膜厚が約5μmの(Al0.6Cr0.4)(N0.80C0.08O0.10B0.02)からなる本発明例1の硬質皮膜を形成した。硬質皮膜の組成は、電子プローブX線マイクロアナリシス及びオージェ電子分光法により決定した。PHI社製1600S型X線光電子分光分析装置を用いて、硬質皮膜のX線光電子分光分析を行った。結果を図1〜3に示す。図1は、金属−酸素の結合エネルギーが530eV近傍にあることを示し、図2はCr−N及びCr−Oの結合の存在を示し、図3はAl−N及びAl−Oの結合の存在を示す。図4のX線回折パターンは、皮膜が(200)面に最も強く配向していることを示す。
実施例1と同様に、(AlxCr1−x)(N0.95O0.05)の組成を有する硬質皮膜を形成した。x=0.2は比較例2であり、x=0.3は比較例3であり、x=0.5は本発明例4であり、x=0.6は本発明例5であり、x=0.7は本発明例6であり、x=0.8は比較例7であった。同様にして、(AlxCr1−x)N系の組成を有する硬質皮膜を形成した。x=0.2は比較例8であり、x=0.5は比較例9であり、x=0.7は比較例10であった。対稜角115度のダイヤモンド製三角錐圧子を有する微小押込み硬さ試験機を用い、49mNの最大荷重及び4.9mN/secの荷重負荷ステップの条件で、最大荷重の保持時間を1秒として、各硬質皮膜の押込硬さを測定した。結果を図5に示す。図5に示す押込硬さは10点の測定値の平均値である。図5は、45〜75原子%のAl含有量の範囲(本発明例4〜6)で、硬質皮膜は40GPa超と高硬度を示すとが分かった。本発明の硬質皮膜の好ましい硬度は45〜52GPaである。本発明例4〜6の硬質皮膜は基体との密着性及び耐摩耗性に優れていた。
実施例1と同様に、超硬合金、高速度鋼及びダイス鋼からなる基体に、表1に示す組成の硬質皮膜を形成した。表1は、各硬質皮膜の酸化層の厚さ、押込み硬さ、残留圧縮応力及びEを示す。酸化層の厚さは、各硬質皮膜を大気中でそれぞれ1時間及び9時間、温度1100℃に保持した後に測定した。押込み硬さは実施例2同様に測定した。残留圧縮応力は薄板の変形量より算出した。Eはナノインデンテーション法により求めた。
目標組成となるよう粉末冶金法により作製した酸素含有量が3300ppmのAlCrSi合金ターゲットを用い、Co含有量が13.5質量%の微粒超硬合金からなる鏡面加工した基体に、AIP法により、窒素ガス、酸素ガス及び必要に応じてアセチレンガスからなる活性ガスを真空チャンバ内に導入しながら全体のガス圧を3.0Paとし、−100Vのバイアス電圧及び450度の成膜温度で、約5μmの厚さの(Al0.60Cr0.36Si0.04)(N0.8C0.1O0.1)からなる本発明例16の硬質皮膜を形成した。酸素含有量が1800ppmである以外本発明例16と同じターゲットを使用し、本発明例16と同じ成膜条件で、比較例17の硬質皮膜を形成した。各硬質皮膜の表面に付着した汚染物質等を除去するために5分間Arイオンガンを用いて表面をエッチングした後にX線光電子分光分析を行って、ワイドスペクトルを求め、次いで30秒間エッチングした後にX線光電子分光分析を行って、ナロースペクトルを求めた。各X線光電子分光分析は、PHI社製1600S型X線光電子分光分析装置を用い、X線源としてMgKαを用い、400Wで直径0.4mmの円形の領域に対して行った。ArイオンガンによるエッチングレートはSiO2換算で1.9nm/分であった。得られた硬質皮膜の組成は、電子プローブX線マイクロアナリシス及びオージェ電子分光法により決定した。本発明例16の硬質皮膜のワイドスペクトルを図7に示す。図7は、本発明例16の硬質皮膜でのSiとOの存在を示し、Si−Oの結合エネルギーの存在を示す。また図8に示すX線回折パターンから、本発明例16の硬質皮膜は(200)面に最も強く配向した結晶構造を有することが分かる。これに対して、比較例17の硬質皮膜には530eV近傍に酸素との結合を示すピークがなかった。
目標の皮膜組成を形成するための金属組成を有する酸素含有量が3300ppmのターゲットと、13.5質量%Coを含有する微粒超硬合金からなる鏡面加工した基体を用い、AIP法により表2に示す成膜条件で、表2に示す組成を有する硬質皮膜を形成した。X線光電子分光分析により、各硬質皮膜のSi−N、Si−O及びSiの各強度を求めた。結果を表2に示す。
13.5質量%のCoを含有する超硬合金からなる鏡面加工したSNMN432の基体に、実施例4と同じ成膜条件で、表3に示す組成を有する硬質皮膜を形成した。各硬質皮膜を大気中でそれぞれ1時間及び9時間1100度に保持し、酸化層の厚さを測定した。結果を比較例9とともに表3に示す。
被覆切削工具等では、切削加工時に切刃及びその近傍が切削応力方向にミクロに塑性変形する。切刃が塑性変形すると硬質皮膜に剥離やクラックが起こり、異常摩耗や切刃の欠損が生じることがある。即ち、塑性変形を伴う動的環境下では、硬質皮膜の耐塑性変形性は重要である。このため、実施例4と同じ成膜条件で作製した本発明例26〜30及び比較例31〜33の硬質皮膜に対して、上記と同じナノインデンテーション法により、荷重変位曲線を求めた。荷重変位曲線から各硬質皮膜のEを求めた。結果を比較例9とともに表3に併記する。表3から、本発明例26〜30の硬質皮膜は比較例9及び31〜33の硬質皮膜より弾性回復特性が優れていることが分かる。弾性回復率が高いと、摩耗が起こる動的環境下で硬質皮膜の剥離やクラックの発生が低減し、基体に対する密着性が良い。本発明例26〜30から、Eはより好ましくは30〜40%、特に32〜40%であることが分かる。本発明例26及び比較例9の荷重変位曲線を図11示す。図11から、本発明例26の硬質皮膜では、最大荷重時における最大変位量が大きく、永久歪である塑性変形量が小さく、同一応力が作用した場合の弾性回復率が大きいことが分かる。高温安定性を調べるために、実施例4と同じ方法で上記超硬合金の基体に表3に示す組成を有する硬質皮膜を形成し、真空中でそれぞれ室温、1100度及び1200度で4時間保持した後、上記と同様にして微小押込み硬さを測定した。結果を表3に示す。本発明例26〜30の硬質皮膜では高温環境下でも著しい硬度低下がなかった。これに対して、1100度で4時間保持した後の比較例9の硬質皮膜の押込み硬さは35.5GPaであり、TiN皮膜とほぼ同じレベルまで硬度低下が認められた。また比較例9では、1200度で4時間保持した後、基体からCやCoが硬質皮膜内に拡散していた。
実施例4と同じ成膜条件で、それぞれ(AlxCr0.95−xSi0.05)(NO)及び(AlxCr1−x)Nの組成を有する硬質皮膜を形成した。(AlxCr0.95−xSi0.05)(NO)の硬質皮膜では、x=0.2は比較例37であり、x=0.3は比較例38であり、x=0.5は本発明例34であり、x=0.6は本発明例35であり、x=0.7は本発明例36であり、x=0.8は比較例39であった。また(AlxCr1−x)Nの硬質皮膜では、x=0.2は比較例8であり、x=0.5は比較例9であり、x=0.7は比較例10であった。各硬質皮膜に対して、実施例6と同じ方法で、押込硬さを測定した。結果を図12に示す。Al含有量が45〜75原子%の範囲内の実施例34〜36の硬質皮膜は、Si及び酸素を含有することにより、40GPa超と高い硬度を有した。より好ましい硬度は45〜55GPaである。このように高い硬度により、基体に対する密着性及び耐摩耗性に優れた硬質皮膜が得られる。
脱脂洗浄した基体をAIP装置の真空チャンバ内に設置し、基体を500℃に30分間保持した後、Arイオンを基体に照射して基体をクリーニングした。次いでいずれも酸素含有量が3200ppmの(Al0.7Cr0.3)合金ターゲット及び(Al0.68Cr0.27Si0.05)合金ターゲットを真空チャンバ内に設置し、反応ガスとしてN2ガス及び目的に応じてCH4ガス、C2H2ガス、Arガス、O2ガス、COガス及びB3N3H6ガスから選択した反応ガスを真空チャンバ内に導入し、全圧力を7.5Paとした。パルスバイアス電圧(バイアス電圧:−120V、正バイアス電圧:+10V、周波数:20kHz、パルス幅:負パルス:正パルス=80%:20%)より各ターゲットに対してアーク放電を行い、成膜温度を450℃として、Co含有量が7質量%の超微粒子超硬合金からなる鏡面加工したSNMN432の基体に、厚さが約3.5μmの硬質皮膜を形成した。(Al0.7Cr0.3)合金ターゲットを用いて本発明例40、41、44〜51、比較例52〜54を形成し、(Al0.68Cr00.27Si0.05)合金ターゲットを用いて本発明例42、43を形成した。比較例の成膜条件は、一定の負バイアス電圧を印加した以外は特にことわりのない限り、本発明例と同じであった。得られた各硬質皮膜に対して、直径50μmの領域を対象とし、電子線プローブマイクロアナライザーにより組成分析をした。分析結果を表4に示す。
(切削条件)
切削方法:側面粗加工
被削材:SCM440(HRC31)
切り込み:径方向6mm、軸方向12mm
切削速度:70m/min
送り:0.07mm/刃
切削油:なし(エアーブローによる乾式)
表4から、本発明例40〜51はいずれも結晶粒内の酸素濃度より結晶粒界の酸素濃度が高いことが確認された。本発明例40〜51は比較例52〜56より高硬度でかつ密着性が良好であった。本発明例40〜51ではX線回折における最大強度の面指数の2θの半価幅が0.5〜2度の範囲内であるのに対し、比較例53では0.3度であり、比較例54では2.1度であった。このため比較例53及び54の硬質皮膜は低い硬度を有し、密着性も劣っていた。耐高温酸化特性に関しても、本発明例40〜51では酸化の進行が遅かった。表4から明らかなように、本発明例40〜51の硬質皮膜は比較例52〜56の硬質皮膜より切削寿命が長く、耐摩耗性に優れていた。特に本発明例42、43の(AlCrSi)(NO)系硬質皮膜は切削寿命が長く、耐摩耗性に優れていた。本発明例46の(AlCr)(NOB)系硬質皮膜皮膜は、Bの含有により耐摩耗性に優れていた。525〜535eVの範囲に酸素結合が明瞭に認められなかった本発明例47より、酸素結合が認められる他の本発明例の方が高い硬度を有し、切削長が長く、耐摩耗性に優れていた。I(200)/I(111)の比が15である本発明例48より、0.3≦I(200)/I(111)≦12の条件を満たす他の本発明例の方が高硬度を示し、切削寿命が長く、耐摩耗性に優れていた。ナノインデンテーション法により求めたEが27である本発明例49より、28≦E≦42の条件を満たす他の本発明例の方が高硬度で、密着性も高く、切削長が長く耐摩耗性に優れていた。表面から500nm以内の深さに酸素濃度のピークがある本発明例50は、耐高温酸化特性に優れており、切削寿命が最も長かった。X線回折において岩塩型の結晶構造の他に六方晶(AlNと考えられる)を有する本発明例51の硬質皮膜より、岩塩構造のみ有する他の本発明例の硬質皮膜の方が高硬度で、切削寿命が長く、耐摩耗性に優れていた。0.3Paの反応ガス圧で硬質皮膜を形成した比較例52では、結晶粒内の酸素濃度と、結晶粒界の酸素濃度との差が認められず、硬度及び密着性が不十分であった。そのため、耐摩耗性は改善されず、短寿命であった。2θの半価幅がそれぞれ0.3度、2.1度の比較例53及び54では、硬度及び密着性の改善が不十分なため、耐摩耗性改善されず、短寿命であった。
実施例8と同じ工具に表5に示す硬質皮膜を被覆した後、表5に示す別の皮膜を約1μmの厚さに形成し、実施例8と同じ条件で切削試験を行った。各工具の皮膜の構成及び最大寿命を表5に示す。
基体は鏡面加工したCo含有量8.0質量%の粉末高速度鋼を用い、AIP法により成膜した。使用するターゲット材料は、粉末法により作成した。硬質皮膜への金属元素添加方法としては、酸素を含有した(AlCr)合金ターゲットもしくは(AlCrSi)合金ターゲットと(TiSi)合金ターゲットを用いた。硬質皮膜への気体元素添加方法としては、必要に応じて窒素ガス、酸素ガス、アセチレンガス、硼素含有ガスを真空装置内に導入しながら被覆した。基体を500℃に加熱し、イオン化した金属もしくは不活性ガスにより基体をボンバード処理し、(AlCrSi)N系皮膜を被覆した。被覆条件は、全体の反応ガス圧を15Pa、負のバイアス電圧を240V、正バイアス電圧を0Vとし、その周波数を20kHz、負バイアス電圧を80%、正バイアス電圧を20%の比率で基体にバイアス電圧を印加した。基体温度を450℃とし、基体に約5.0μmの膜厚で成膜した。更にその直上に(TiSi)N系皮膜を全体のガス圧を5.0Pa、負バイアス電圧を90V、正バイアス電圧を0Vとし、その周波数を20kHz、負バイアス電圧を80%、正バイアス電圧を20%の比率で基体にバイアス電圧を印加し、約0.5μm被覆し、全膜厚を約5.5μmとした。上記の被覆条件で、本発明例76の硬質皮膜を被覆した。A層の皮膜組成は(Al0.60Cr0.36Si0.04)(N0.8C0.1O0.1)、B層の組成は(Ti0.77Si0.23)(N0.9O0.1)とした。従来例77として、同様に(AlCr)合金ターゲット、(TiSi)合金ターゲットを配置したAIP装置で、(AlCr)N系皮膜の直上に(TiSi)N系皮膜を被覆した。被覆条件は、負バイアス電圧を50V、反応ガス圧力を3Pa、基体温度を450℃で(AlCr)Nを約5.0μm被覆し、その直上に(TiSi)N系硬質皮膜を、負バイアス電圧を130V、反応ガス圧力を3Pa、基体温度を450℃で約0.5μm被覆した。従来例77の皮膜組成は下層膜を(Al0.50Cr0.50)N、上層膜を(Ti0.75Si0.25)(N0.97B0.03)とした。上記2試料を電子プローブX線マイクロアナリシス及びオージェ電子分光法により決定した。本発明例76のA層と従来例77の下層膜の押込み硬度測定を実施し、その結果を図19に示す。図19より、本発明例76のA層は、従来例77の下層膜に比べ塑性変形量が少なく耐塑性変形性に優れていることが明らかである。また皮膜硬度に関しても、本発明例76のA層が62GPaで、従来例77の下層膜は47GPaであり、本発明例76の方が高硬度を示した。硬度測定は、ナノインデンテーション法により、荷重49mNで0.49mN/secの負荷速度で荷重負荷ならびに荷重除去を行い、最大荷重時の保持時間を1secとした。試料は、斜め方向に5度傾斜させて鏡面研磨したものを用い、基体から膜厚方向に4.0μmの位置を10点測定し、その平均値とした。更に、上記と同一バッチで処理した試料を用い、耐高温酸化特性の評価を行なった。評価は環状炉を用い、大気中で1100℃、3時間保持した時の、膜表面から膜厚方向への酸化深さを走査型電子顕微鏡で観察し、測定した。その結果、本発明例76の酸化層の厚さが0.7μmであったのに対して、従来例77は3.2μmであり、本発明例76の方が耐高温酸化特性に関しても大幅に優れていた。
本発明例76のB層に含まれる元素の結合状態を調べるために、X線光電子分光分析を行なった。分析装置は、PHI社製1600S型X線光電子分光分析装置を用い、X線源はMgKαを用い400Wとし、分析領域は直径0.4mmの円内部を分析した。分析前に、硬質皮膜表面に付着した汚染物質等を除去するために5分間Arイオンガンを用いて表面をエッチングした後、測定を実施した。ArイオンガンによるエッチングレートはSiO2換算で1.9nm/分であった。本発明例76のX線光電子分光分析結果による525eV乃至535eV近傍のスペクトルを図20に示す。図20より本発明例76は525eV乃至535eVの範囲にピーク強度を示すことが認められる。
本発明例78〜83のB層に含まれるSi元素の結合状態を調べるため、鏡面加工したCo含有量8.0質量%の粉末高速度鋼の基体を用い、AIP法により、表6に示す本発明例78〜83及び比較例84、85を成膜した。X線光電子分光分析を実施例11と同一条件で行なった。X線光電子分光分析によりSi窒化物、Si酸化物、Si金属の各強度比率を算出した結果を表6に併記する。
本発明の硬質皮膜の密着性を評価するために、実施例10と同様な被覆条件で硬質皮膜を被覆した試料を用いて、硬質皮膜表面からロックウェル硬度計により荷重1470Nで硬度測定を行い、その圧痕周辺部の剥離状態を光学顕微鏡により観察した。表7に剥離状況を示す。表7に示す通り、従来例91〜93は基体の塑性変形に追従することができず、圧痕周辺部に膜剥離が発生した。特に、基体の硬度低下により塑性変形量が大きくなるため、その傾向は著しい。一方、本発明例86、87は、何れの基体においても剥離が発生せず優れた密着性を示した。
質量%で、Co:8%、V:2%、Mo:6%、W:6%、Cr:4%、C:1%、残部がFeからなる外径12mmの高速度鋼製4枚刃の波状切刃を有する粗加工用エンドミルに被覆を行い、これを用いて切削試験を行なった。被覆前の処理として、研削加工時に発生した切れ刃近傍のバリやカエリをダイヤモンド粒子とゴム状樹脂の混合材を切れ刃のすくい面側から投射することにより除去した。工具表面を脱脂するためにアルカリ洗浄液中で6分間洗浄し、純水で中和洗浄した。被覆は、AIP装置内に工具をセットし、真空中450度で1時間の脱ガス加熱工程と、Arイオンによる被覆基体のクリーニング処理を行なった。表8に皮膜の夫々の組成を示し、A層を約3μm、B層を約1μmの厚さで被覆した。この時、AIP装置とスパッタリング装置を別に設けて被覆することも可能である。硬質皮膜の被覆方法を表8に併記する。
(切削条件)
切削方法:エンドミルのよる粗加工
被削材:SKD11(硬さHB219)
切り込み:Rd6mm、Ad12mm
切削速度:25m/min
送り量:0.05mm/刃(テーブル送り量:107mm/min)
切削油:なし(乾式によるエアーブロー)
表8より、本発明の硬質皮膜をエンドミルに被覆した本発明例94〜99は、従来例103、104と比較して切削不能に至るまでの切削時間が長く、耐摩耗性に優れている。本発明例95は525〜535eVの範囲に結合強度ピークが確認されず、またSiの結合のうちI(Si−N)の比率が55%未満であるが、従来例に比べ切削時間が長く耐摩耗性に優れている。本発明例99は、TiとSiを夫々独立したスパッタリングカソードでUMS法により被覆したものであるが、従来例103、104に比べ切削時間が長い。比較例100は、下層膜のxの値が0.2の場合であるが、本発明例94〜99に比べ耐摩耗性に劣る。比較例101は、下層膜のyの値が0.3の場合であるが、本発明例94〜99に比べて耐摩耗性に劣る。
質量%で、Co:8%、V:1.6%、Mo:6.5%、W:5.5%、Cr:4.2%、C:1.0%、残部がFeからなる高速度鋼製の外径6mmのドリルを用い、実施例14と同じ方法でドリル表面に表8に示す組成からなる硬質皮膜を形成した。得られた硬質皮膜被覆ドリルを用いて、下記条件の切削試験を行い、切削不能に至るまでの平均穴あけ数を併記する。平均穴あけ個数は3本の平均値を示す。結果を表8に併記する。
(切削条件)
切削方法:穴あけ加工(各3本切削)
被削材:SCM440(HRC30)
切削速度:35m/min
送り量:0.15mm/rev
穴深さ:30mm(止まり穴)
切削油:水溶性エマルジョン型切削油
表8より、本発明例94〜99は、従来例103、104と比較して平均穴あけ数多く、切削寿命が長い。
質量%で、Co:6%、TaC:0.2%及びその固溶体、残部が平均粒径0.4μmのWCからなる超微粒超硬合金製の外径8mmのエンドミルを用い、実施例14と同じ方法でエンドミル表面に表8に示す組成からなる硬質皮膜を形成した。得られた硬質皮膜被覆エンドミルを用いて、下記条件の切削試験を行い、切削不能に至るまでの時間を併記する。結果を表8に示す。
(切削条件)
切削方法:エンドミルによる側面切削
被削材:SKD11(HRC63)
切削速度:200m/min
テーブル送り量:2000m/mim
切り込み:Rd0.1mm、Ad12mm
切削油:なし(乾式によるエアーブロー)
表8より、本発明例94〜99は、従来例103、104と比較して切削不能に至るまでの切削長が長く、耐摩耗性に優れている。本発明例は、基体並びに2層間の密着性に極めて優れ、同時に耐高温酸化特性及び皮膜硬度改善により、大幅に切削寿命が向上した。
質量%で、Co:8%、V:3%、Mo:5%、W:5%、Cr:4%、C:1.2%、残部がFeからなる粉末高速度鋼、HRC64からなる冷間加工用プレス金型に被覆を行い、プレス試験を行なった。被覆前の処理として、バリ、カエリ及び機械加工面をダイヤモンド粒子もしくはアルミナ粒子等を投射することにより研磨加工した。工具表面を脱脂するためにアルカリ洗浄液中で8分間洗浄し、純水で中和洗浄した。被覆は、アークイオンプレーティング装置内に工具をセットし、真空中300℃で1時間の脱ガス加熱工程と、Arイオンによる被覆基体のクリーニング処理を行なった。表9に皮膜の夫々の組成を示した。この時、必要に応じ、AIP法による被覆後、スパッタリング装置に挿入することによりスパッタリングによる被覆処理も可能である。また被覆前にプラズマ窒化法等により、窒化層を形成し、その上層に本発明皮膜を被覆することも可能であり好ましい。冷間加工用プレス金型表面に表9に示す組成からなる硬質皮膜を形成し、被加工材の寸法誤差が±0.05mmの範囲を越えた寸法変化が生じた時のショット数を表9に併記する。
(プレス条件)
方法:冷間成形プレスダイ
被加工材:SUS系(肉厚0.1mm)
以上詳述した通り、(AlCr)N系硬質皮膜に酸素又は酸素とSiを含有させることにより、硬度、密着性、耐摩耗性、及び耐高温酸化特性を向上させることができる。このような硬質皮膜をエンドミル、ドリル等の切削工具や耐摩耗工具に形成すると、切削寿命を著しく向上させることができる。これらの改善により、上記特性が要求される部材の製造コストを大幅に低減させることができる。
Claims (18)
- アーク放電式イオンプレーティング法により形成した硬質皮膜であって、AlxCr1−x(但し、xは原子比率で0.45≦x≦0.75を満たす。)により表される金属成分と、N1−α−β―γBαCβOγ(但し、α、β及びγはそれぞれ原子比率で、0≦α≦0.15、0≦β≦0.35、及び0.01≦γ≦0.25を満たす。)により表される非金属成分とからなる組成を有し、(200)面又は(111)面に最大X線回折強度を有し、X線光電子分光分析における525〜535eVの範囲にAl及び/又はCrと酸素との結合エネルギーを有することを特徴とする硬質皮膜。
- アーク放電式イオンプレーティング法により形成した硬質皮膜であって、AlxCr1−x−ySiy(但し、x及びyはそれぞれ原子比率で0.45≦x≦0.75、及びy≦0.35を満たす。)により表される金属成分と、N1−α−β―γBαCβOγ(但し、α、β及びγはそれぞれ原子比率で、0≦α≦0.15、0≦β≦0.35、及びγ≦0.25を満たす。)により表される非金属成分とからなる組成を有し、X線光電子分光分析における525〜535eVの範囲にAl、Cr及び/又はSiと酸素との結合エネルギーを有することを特徴とする硬質皮膜。
- 請求項2記載の硬質皮膜において、Siは窒化物、酸化物及び金属の状態で存在し、X線光電子分光分析により求めたSi金属及びその窒化物及び酸化物の相対強度をそれぞれI(Si)、I(Si−N)及びI(Si−O)とすると(但し、I(Si)+I(Si−N)+I(Si−O)=100%)、I(Si−N)が52%以上であることを特徴とする硬質皮膜。
- 請求項2又は3記載の硬質皮膜において、該硬質皮膜の(200)面又は(111)面に最大X線回折強度を有する結晶構造としたことを特徴とする硬質皮膜。
- アーク放電式イオンプレーティング法により形成した硬質皮膜であって、AlxCr1−x−ySiy(但し、x及びyはそれぞれ原子比率で0.45≦x≦0.75、及び0≦y≦0.35、及び0.5≦x+y<1を満たす。)により表される金属成分と、N1−α−β―γBαCβOγ(但し、α、β及びγはそれぞれ原子比率で、0≦α≦0.15、0≦β≦0.35、及び0.003≦γ≦0.25を満たす。)により表される非金属成分とからなる組成、及び岩塩型の結晶構造を有し、(111)面又は(200)面のX線回折ピークの2θの半価幅が0.5〜2度であり、酸素は前記硬質皮膜の結晶粒内より結晶粒界に多く存在することを特徴とする硬質皮膜。
- 請求項5に記載の硬質皮膜において、該硬質皮膜のX線光電子分光分析における525〜535eVの範囲にAl、Cr及び/又はSiと酸素との結合エネルギーを有することを特徴とする硬質皮膜。
- 請求項5又は6記載の硬質皮膜において、該硬質皮膜の最表面から500nm以内の深さ領域で酸素濃度が最大となることを特徴とする硬質皮膜。
- 請求項5〜7のいずれかに記載の硬質皮膜において、該硬質皮膜のI(111)及びI(200)をそれぞれ(111)面及び(200)面のX線回折強度とすると、0.3≦I(200)/I(111)≦12であることを特徴とする硬質皮膜。
- 請求項1〜8のいずれかに記載の硬質皮膜において、該硬質皮膜のナノインデンテーション法により求めた弾性回復率Eが28〜42%であることを特徴とする硬質皮膜。
- 請求項9記載の硬質皮膜において、該弾性回復率Eが30〜40%であることを特徴とする硬質皮膜。
- 請求項1〜10のいずれかに記載の硬質皮膜において、前記非金属成分と前記金属成分との比が1.1以上であることを特徴とする硬質皮膜。
- 請求項1、2及び5のいずれかに記載の硬質皮膜において、該硬質皮膜をA層とし、該A層とは別の少なくとも硬質皮膜であるB層とからなり、該B層は、Ti1−zSiz(但し、zは原子比率で0≦z<0.35を満たす。)により表される金属成分と、NfBhCvOw(但し、f、h、v、wはそれぞれ原子比率で、0≦f≦1、0≦h<1、0≦v<1、0≦w<1を満たす。)により表される非金属成分とからなる組成で示され、該B層は該A層の直上及び/又は最表層に被覆されることを特徴とする硬質皮膜。
- 請求項12記載の硬質皮膜において、該B層はw>0を満たし、X線光電子分光分析における525eV〜535eVの範囲にピーク強度を示すことを特徴とする硬質皮膜。
- 請求項12記載の硬質皮膜において、該B層はz≧0.02、f>0.5、w>0を満たし、X線光電子分光分析において95〜105eVの範囲にピーク強度を示し、該硬質皮膜のB層に少なくともSi窒化物、Si酸化物及びSi金属の結合状態が存在し、Siの窒化物の強度比率をI(Si−N)、Siの酸化物の強度比率をI(Si−O)、Siの金属の強度比率をI(Si)、但し、I(Si−N)+I(Si−O)+I(Si)=100%とした時、I(Si−N)の比率が55%以上、85%未満であることを特徴とする硬質皮膜。
- 請求項12〜14のいずれかに記載の硬質皮膜において、該A層の厚さが0.1μm以上、6μm以下、該B層の厚さが0.01μm以上、4μm以下であり、膜全体の厚さが10μm未満であることを特徴とする硬質皮膜。
- 請求項1〜15のいずれかに記載の硬質皮膜において、該硬質皮膜表面を機械加工により平滑化したことを特徴とする硬質皮膜。
- 請求項1〜16のいずれかに記載の硬質皮膜で被覆されていることを特徴とする工具。
- 請求項17に記載の硬質皮膜被覆工具において、前記硬質皮膜の直上に他の硬質皮膜が形成されていることを特徴とする硬質皮膜被覆工具。
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