JP2006307323A - 硬質皮膜被覆部材 - Google Patents

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Abstract

【課題】硬質皮膜全体の高硬度化と耐剥離性に優れ、剥離や異常摩耗が発生を著しく抑制することを可能とし、過酷な摩耗環境において、耐摩耗性を改善することができる硬質皮膜被覆部材を提供する。
【解決手段】基体表面から、最下層、中間積層部、最上層とからなる硬質皮膜被覆部材において、該中間積層部は、金属元素としてAl及びSiを含有し、残部Ti、Cr、Nb、Yから選択される1種以上の金属元素からなる酸窒化物、ホウ酸窒化物、炭酸窒化物からなる少なくとも2層以上の積層部であり、該中間積層部は層厚方向にAl及びSiの含有量が0.5nm以上、50nm未満の周期で変動していることを特徴とする硬質皮膜被覆部材。
【選択図】図1

Description

本願発明は、表面に硬質皮膜を被覆した部材に関する。該部材としては、切削工具、金型、軸受け、ダイス、ロールなど耐摩耗性が要求される工具等がある。
硬質皮膜被覆部材は、以下の特許文献1から10に中間積層部の構成が開示されている。
特開平8−118106号公報 特開2000−218407号公報 特開2000−334606号公報 特開2003−25113号公報 特開平7−205361号公報 特開2003−291005号公報 特開2004−42192号公報 特開2004−223619号公報 特開2004−306166号公報 特開平11−264066号公報
本願発明は、硬質皮膜全体の高硬度化と耐剥離性に優れ、剥離や異常摩耗が発生を著しく抑制することを可能とし、過酷な摩耗環境において、硬質皮膜被覆部材の耐摩耗性の改善を課題とする。
本願発明は、基体表面から、最下層、中間積層部、最上層とからなる硬質皮膜被覆部材において、該中間積層部は、金属元素としてAl及びSiを含有し、残部Ti、Cr、Nb、Yから選択される1種以上の金属元素からなる酸窒化物、ホウ酸窒化物、炭酸窒化物からなる少なくとも2層以上の積層部であり、該中間積層部は層厚方向にAl及びSiの含有量が0.5nm以上、50nm未満の周期で変動していることを特徴とする硬質皮膜被覆部材である。本願発明の構成によって中間積層部の高硬度化を図っている。更に、耐熱性改善に有効であるAlとSi含有皮膜を用い、酸素を必須成分とすることにより、硬質皮膜全体を高硬度化し、同時に積層する硬質皮膜が夫々優れた密着強度を有している。そのため、2層間の剥離が起こり難く、高硬度を有しながら耐剥離性、耐チッピング性に優れ、異常摩耗が発生し難く、優れた耐摩耗性を発揮することができる。本願発明により、皮膜の剥離や異常摩耗を抑制することを可能になり、優れた耐摩耗性を発揮する硬質皮膜被覆部材を提供することができる。
本願発明の中間積層部のAl及びSiの含有量の最小部と最大部とからなる変動を有し、第1の場合として金属元素のみの原子%で、最小部は35%未満、最大部は35%以上、65%未満であること、又は第2の場合として、最小部は30%以上、70%未満、最大部は70%以上、99%未満であることである。そして第1、第2の何れかの場合であることが好ましい。中間積層部の酸素含有量Xは、非金属元素のみの原子%で、0<X<14であることが好ましい。
本願発明は、硬質皮膜全体の耐熱性改善並びに高硬度化と同時に耐剥離性に関して優れ、剥離や異常摩耗が発生を著しく抑制することを可能とし、過酷な摩耗環境において、耐摩耗性の要求される部材等に最適な硬質皮膜を提供することが可能となった。例えば、過酷な摩耗環境において耐摩耗性の要求される高速切削加工等の工具部材に適用した場合、硬質皮膜全体の剥離が起こり難く、高硬度を有しながら耐剥離性、耐チッピング性に優れ異常摩耗が発生し難く、優れた耐摩耗性を発揮する硬質皮膜被覆工具部材を提供できた。
本願発明においては、硬質皮膜の層構造が重要である。図1より、硬質皮膜の層構造は、基体に物理蒸着法により組成が異なる複数層の硬質皮膜を積層しており、硬質皮膜は基体表面に被覆される最下層と、硬質皮膜の最表面に被覆される最上層と、最下層と最上層とに接する中間積層部とから構成される。高硬度、耐熱性、潤滑性等の優れた機能を発揮する最上層が存在しない場合には、耐摩耗効果を発揮することができない。また、最下層が存在しない場合、その上層の中間積層部並びに最上層の残留応力を吸収することができず、剥離や異常摩耗が先行した摩耗状態となり、安定した耐摩耗性の改善には至らない。また、中間積層部が存在しない場合には、最上層の特性を十分に発揮することができない。本願発明の重要な点は、高硬度を有する硬質皮膜を最上層に被覆する場合において、最適な層構造を有していることである。
中間積層部は、金属元素としてAl及びSiを含有し、残部Ti、Cr、Nb、Yから選択される1種以上の金属元素からなる酸窒化物、ホウ酸窒化物又は炭酸窒化物からなる少なくとも2層以上の積層部であり、該中間積層部内に層厚方向にAl及びSiの含有量が0.5nm以上、50nm未満の周期で変動していることである。この条件を満たす事によって、本願発明の最下層と最上層との硬度、密着性、潤滑性、強度のバランスが最適となる。本願発明の中間積層部において、層厚方向にAl及びSiの含有量が0.5nm以上、50nm未満の周期で変動する場合とは、中間積層部が少なくともAl及びSiを含有する層であり、Al及びSi含有量の多い層と少ない層とが0.5nm以上、50nm未満の周期で交互に積層されることを意味する。これにより、優れた耐熱性並びに硬度を有した状態で積層され、本願発明の最上層の特性を改善することができる。
中間積層部が最上層の特性を更に改善することは、以下に示す第1から第4の機能によって実現される。
第1の機能は、残留圧縮応力の緩和機能である。最上層が極めて高硬度を有する硬質皮膜の場合、最上層は大きな残留応力を有する。そこで中間積層部はその残留圧縮応力の緩和機能により、最上層の剥離を回避し、耐摩耗性の改善に寄与することができる。
第2の機能は、耐熱性を有する機能である。最上層が優れた耐熱性を有する硬質皮膜の場合、その直下の中間積層部も耐熱性を有することによって、最上層の効果を十分に発揮することができる。
第3の機能は、皮膜強度を有する機能である。最上層が優れた潤滑特性を発揮する硬質皮膜の場合、その直下の中間積層部も皮膜強度を有することによって、最上層の効果を十分に発揮することができる。
第4の機能は、密着強度を有する機能である。中間積層部内の組成にAlとSiを必須成分とすることにより、耐熱性並びに皮膜硬度を著しく改善し、更に優れた密着強度を有している。
上記、第1から第4の機能によって、最上層の特性を改善できる。
一方、中間積層部が最下層構成成分と最上層構成成分とを単純に積層しただけの場合、耐摩耗性の改善効果は確認されない。むしろ耐摩耗性は劣化する。例えば、最下層と最上層との共通構成成分がAlとSiであった場合、中間積層部の結晶粒径が著しく微細化され、過剰な応力を有した状態となって耐剥離性に乏しくなる。そこで本願発明は、この欠点を補うための工夫を施している。即ち、中間積層部が金属元素としてAl及びSiを含有し、残部Ti、Cr、Nb、Yから選択される1種以上の金属元素からなる酸窒化物、ホウ酸窒化物、炭酸窒化物からなる少なくとも2層以上の積層部としたのである。この場合、中間積層部内の結晶粒が連続的に成長し易くなる。その結果として、中間積層部の残留圧縮応力の低減を図ることが出来る。また最下層並びに最上層との密着強度にも優れていることを確認した。上記のように、本願発明の最下層と中間積層部とから構成される硬質皮膜を被覆することにより、最上層に、例えば硬度Hが、40GPa≦H≦80GPaの高硬度な硬質皮膜を被覆しても、剥離や異常摩耗を著しく抑制することが可能である。
中間積層部の層厚方向におけるAl及びSiの含有量の最小部と最大部とからなる変動を有し、金属元素のみの原子%で、最小部は35%未満、最大部は35%以上、65%未満となる場合、特に最上層に40GPa以上の高硬度層を被覆にとって好適である。この場合は、硬質皮膜被覆部材の中でも例えば、刃数が少なく断続性が強い切削工具として、特にボールエンドミルに好適である。また、最上層を更に高硬度化でき、最下層並びに最上層との密着強度にも優れ、硬質皮膜全体の強度のバランスが最適となり好ましい。
中間積層部の層厚方向におけるAl及びSiの含有量の最小部と最大部とからなる変動を有し、金属元素のみの原子%で、最小部は30%以上、70%未満、最大部は70%以上、99%未満より構成される場合、特に耐熱性が優れ、残留圧縮応力の低い硬質皮膜となるため好ましい。硬質皮膜被覆部材のなかでも耐剥離性と耐熱性が重視される切削工具として、スクエアエンドミル、ドリルに好適である。ここで、中間積層部の各層の組成は、透過電子顕微鏡(以下、TEMと言う。)による観察並びに各層のエネルギー分散型X線分光分析(以下、EDSと言う。)により確認した。
中間積層部は酸素を含有することによって、耐高温酸化性おび耐摩耗性、並びに密着性を向上させる効果を有する。酸素が結晶粒内より結晶粒界に多く存在するように制御することによって、外部からの皮膜内への酸素の拡散を制御して耐酸化性を改善し、高硬度でありながら残留圧縮応力を低減させ、密着性を改善する。中間積層部の酸素含有量Xが、非金属元素のみの原子%で、0<X<14である場合が好ましい。X値が14%以上の場合は積層部の硬度が低下し、耐摩耗性に乏しくなるからである。この範囲に制御することにより、中間積層部の結晶連続性と残留圧縮応力の低減に有効であり、最下層と中間積層部との層間、中間積層部と最上層との層間や、中間積層部内の層間の密着強度が大幅に改善される。更に、残留圧縮応力の低減に有効であり、最上層の皮膜硬度を一段と高めることができる。ここで、中間積層部の非金属元素の定性分析について、酸素、硼素、炭素、硫黄等の定性分析は、PHI社製1600S型X線光電子分光分析装置を用い、X線源をマグネシウムKα、出力:400Wとし、分析を行った。
最下層は、Al、Ti、Cr、Si、Nb、Yから選択される1種以上の金属元素からなる窒化物主体の硬質皮膜とすることが好ましい。これより、硬質皮膜全体の応力緩和層として有効に作用することと伴に、中間積層部との密着強度に優れる。
最上層は、Ti、Al、Si、Cr、Nb、Y、Moの何れか1種以上の窒化物又は炭窒化物を有する硬質皮膜であることが好ましい。更に、最上層は、金属元素のみの原子%で、Ti含有量をα、Si含有量をβ、Mo含有量をγ、とした時、α≧50、0≦β<40、0≦γ<40、を含有する炭窒化物又は硫窒化物又は硼窒化物が主体であり、層厚が0.01μm以上、3μm未満であることが好ましい。特に、高硬度を有する硬質皮膜の場合は、βを10≦β≦30、の場合が好ましい。また最上層の硬質皮膜が非晶質相を含む場合、更に高硬度を有する硬質皮膜が得られる。潤滑性に優れた硬質皮膜の組合せとしては、Crを最上層に含むことが好ましい。この場合、Crの含有量としては、30%以上含有することが好ましい。最上層の硬度Hが、ナノインデンテーションによる硬度測定において、40GPa≦H≦80GPa未満であることが好ましい。40GPa未満では耐摩耗性の効果が発揮されず、また80GPaを超えると耐剥離性が急激に低下するからである。例えば最上層が切削工具に使用され、特に耐摩耗性の要求される高硬度材の高速切削加工に使用される場合は、優れた耐摩耗性の改善効果を発揮する。最上層は酸素を含有し、最表面から膜厚方向に100nm以内の深さ領域で酸素濃度の最大値を有することが好ましい。これにより、硬質皮膜表面への被加工物の凝着抑制に効果的である。上記範囲における好ましい最上層の組成は、Ti(CN)、(TiSi)N、(TiSi)CN、(TiSi)(BN)、(TiMoSi)(SN)、(TiMo)(SN)、Ti(BN)である。
ナノインデンテーションによる硬度測定により求めた最上層、中間積層、最下層の夫々の弾性係数をTEL、MEL、BELとすると、TEL≦MEL≦BELの関係を満足し、且つ500GPa≦MEL≦550GPaの範囲である場合、特に優れた耐摩耗性を発揮する。MEL値が500GPa未満となる場合、最上層の耐剥離性が低下する場合が確認され、550GPaを超える場合、最上層の皮膜硬度が低下し、耐摩耗性が劣化する場合が確認される。この傾向は、例えば耐摩耗性の要求される高硬度材の高速切削加工に使用される切削工具において顕著である。上記の規定範囲であれば、硬質層全体の強度のバランスが最適となり、耐摩耗性が飛躍的に改善する。
ナノインデンテーションによる硬度測定により求めた、最上層、中間積層、最下層の夫々の弾性回復率をTR、MR、BRとすると、TR≧MR≧BR関係を満足し、且つ30%≦MR≦38%であることが好ましい。MR値が30%未満となる場合、最上層の皮膜硬度が低下し、耐摩耗性が劣化する場合が確認さる。一方、38%を超える場合、最上層の耐剥離性が低下する場合が確認される。この傾向は、例えば耐摩耗性の要求される高硬度材の高速切削加工に使用される切削工具において顕著である。上記の規定範囲であれば、硬質層全体の強度のバランスが最適となり、耐摩耗性が飛躍的に改善する。
ここで硬質皮膜の硬度、弾性係数TEL、MEL、BEL、の測定方法は、ナノインデンテーションによる硬度測定法により求められる。また、弾性回復率は100−[(接触深さ)/(最大荷重時の最大変位量)]により求められる。接触深さ及び最大荷重時の最大変位量はナノインデンテーション法により求められる(W.C. Oliver and、 G. m. Pharr: J.Mater. Res.、 Vol.7、 NO.6、June1992、pp.1564−1583)。
本願発明の硬質皮膜被覆部材において、対象部材をエンドミル又はドリルとし、これに硬質皮膜を被覆した場合、特に耐摩耗性改善効果が顕著であり、工具摩耗を著しく低減させることができるため、好ましい。
本願発明の硬質皮膜を物理蒸着法により被覆する場合は、スパッタリング法及び/又はアーク放電式イオンプレーティング(以下、AIPと言う。)法により被覆した硬質皮膜被覆部材は、特に硬質皮膜が高硬度で密着強度に優れ、剥離及び異常摩耗抑制に優れ、本願発明の効果が得られ易い。
上記硬質皮膜をスパッタリング法及び/又はAIP法により被覆し、被覆方法において、硬質皮膜の被覆時に使用する金属製ターゲット材の組成は、最上層被覆用と最下層被覆用とが異なり、中間積層部の被覆時は最上層被覆用のターゲット材を装着した蒸着源と、最下層被覆用のターゲット材を装着した蒸着源とを同時に稼動して被覆することである。この被覆方法を採用することにより、比較的容易に優れた耐摩耗性を発揮することができる硬質皮膜被覆部材を得ることができる。上記被覆方法の1例として、まず最下層の被覆について、最下層構成元素からなる金属製ターゲット1による被覆を行い、次に最上層構成元素からなる金属製ターゲット2による放電を開始し、金属ターゲット1と金属ターゲット2とにより同時に中間積層部を被覆する。次に、金属ターゲット1による被覆を停止し、金属ターゲット2により最上層を被覆するのである。以下、本願発明を実施例に基づいて説明するが、本願発明は実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
本願発明の硬質皮膜の被覆には、AIP装置を用いた。図2に装置の概略図を示す。図2より、装置構成は、減圧容器3と絶縁された複数のAIP蒸発源4、5、6、7、基体ホルダー8よりなる。蒸発源4から7に硬質皮膜の金属成分となるターゲット1及び2を装着し、各蒸発源に所定の電流を供給してターゲット1及び2上でアーク放電を行い、金属ターゲット成分を蒸発しイオン化させ、減圧容器3と基体ホルダー8との間に負に印加したバイアス電圧により、基体9に被覆した。基体9は回転機構10を有しており、1回転/分から15回転/分の範囲で回転させた。即ち、ターゲット1の前面に基体9が対向した場合にターゲット1を含有した硬質皮膜が被覆され、ターゲット2の前面に基体9が対向した場合にターゲット2を含有した硬質皮膜が被覆される。この時、夫々のターゲット材成分を含有した窒化物を形成する場合は、窒素ガスを導入しながら放電した。ここで、ダーゲット材種はAIP蒸着源毎に夫々設定される。
本願発明の硬質皮膜の特性を評価するために、基体組成が質量%で、Co含有量13.5%、残りWC及び不可避不純物からなる超硬合金とし、JIS規格SNGA432の基体を用いた。この基体を脱脂洗浄し、基体ホルダー8に装填した。減圧容器3に設置された加熱用ヒーターにより、基体は550℃に加熱され、この状態を30分間保持することにより加熱及び脱ガス処理を行った。次に、減圧容器3にArガスを導入し、減圧容器3に設置された熱フィラメントにより、Arのイオン化を行った。基体に印加したバイアス電圧により、基体をArイオンによるクリーニング処理を30分間行った。ここで、硬質皮膜への炭素、酸素、窒素、硼素成分の添加方法は、反応ガスであるNガス、CHガス、Cガス、Arガス、Oガス、COガス等から目的の皮膜組成が得られるようにガス種を選択し、被覆工程時に減圧容器3へ導入することによって可能である。また予め金属ターゲットに添加することによっても可能である。
本発明例1の硬質皮膜は、使用したターゲット材は、粉末法で作成した金属製ターゲット材を用いた。本発明例1は、最下層被覆用ターゲット材1として、組成が原子%で、Al55Ti45のターゲット材1をAIP蒸発源4、6に装着し、最上層被覆用ターゲット材2として、Ti75Si25のターゲット材2をAIP蒸発源5、7に装着した。最下層は、ターゲット材1を装着した蒸発源に25V、100Aの電力を供給し、負バイアス電圧を50V、反応ガス圧力を5Pa、被覆基体温度を500℃とし、基体ホルダー8を3回転/分とし、基体表面に約200nmの窒化物膜を被覆した。この時のターゲット材1の組成がAl55Ti45であるのに対し、硬質皮膜組成における金属成分の組成は、Al52Ti48の窒化物であった。この硬質皮膜はである。中間積層部は、ターゲット材1を装着した蒸発源に25V、100Aの電力を供給し、ターゲット材2を装着した蒸発源に20V、60Aの電力を供給した。この状態で、ターゲット材1、2を装着した蒸着源を同時に稼動させ窒化膜の被覆を開始した。そして、窒化膜の成膜条件を連続的に変化させていった。即ち、ターゲット材2を装着した蒸発源に供給する電流を被覆時間の経過と伴に60Aから段階的に100Aまで増加させ、同時にターゲット材1を装着した蒸発源の電流を被覆時間の経過と伴に100Aから段階的に60Aまで変化させて被覆を行った。被覆の間は、基体にはパルスバイアス電圧を印加した。その条件は負バイアス電圧を60V、正バイアス電圧を10V、周波数を20kHz、振幅を負側に80%、正側に20%、とした。全圧力は7Pa、基体温度は525℃とし、被覆基体を保持する冶具は、6回転/分で回転させ、ターゲット材1、2の2種のターゲットから放出される夫々の窒化物の中間積層部を約1300nm被覆した。最上層は、ターゲット材1を装着した蒸発源への電力供給を止め、成膜条件を段階的に変化させた。パルスバイアス電圧の条件は、負バイアス電圧を80V、正バイアス電圧を0V、周波数を10kHz、振幅を負側に95%、正側に5%、とした。全圧力を5Pa、基体温度を500℃、基体回転数を3回転/分に設定変更し、ターゲット材2による窒化物ベースの皮膜を約1500nm被覆した。第1から第3の工程により得られた試料を本発明例1とした。
また、上記と同様な製造成膜方法でターゲット材2として、Al75Si25ターゲット材をAIP蒸発源5、7に装着し、被覆した場合を本発明例2とした。
本発明例1、2の中間積層部の層厚、皮膜構造、組成、結晶構造を確認した。
オージェ電子分光(以下、AESと言う。)分析により、マクロ領域における膜厚深さ方向の組成分析と、透過電子顕微鏡(以下、TEMと言う。)によるナノ領域の解析を行った。AES分析によるマクロ領域の膜厚深さ方向の組成分析方法に使用した装置は、PHI社製670Xi型、走査型AES装置であり、加速電圧10kV、試料電流15nA、電子線プローブ径を0.1μm以下に設定し、Arイオン銃により試料をエッチングしながら、マクロ領域の膜厚深さ方向の組成分析を行った。図3に、本発明例1の硬質皮膜について、AES分析によるマクロ領域の膜厚深さ方向の組成分析結果を示す。図3より、本発明例1の中間積層部のSi含有量が層厚方向に異なり、中間積層部に約50nmから100nmの層厚で組成が異なっていた。このような比較的大きな組成の異なる層厚の変化は、成膜装置におけるターゲット配置に影響を受けるものである。本発明例1は表面側になる程Si含有量が多くなっていた。特に本発明において制約するものではないが、本発明を達成するための好ましい構造である。これは、中間積層部の密着強度、硬度、強度の膜厚方向の傾向が、硬質皮膜全体の密着強度、耐摩耗性の改善に有効となるからである。
TEMによるナノ領域分析方法について説明する。組織観察に用いる試料準備の方法は、試料とダミー基板とをエポキシ樹脂を用いて接着し、切断、補強リング接着、研磨、ディンプリング、Arイオンミーリングを行った。試料厚さが原子層厚さになる領域において、組織観察、格子像観察、φ1nm程度の微小部のEDS分析、微小部の電子線回折等を行い、組成及び組織構造を決定した。中間積層部の観察位置は、層厚方向における中央付近を観察した。分析装置は、日本電子製JEM−2010F型の電解放射型TEMを用い、加速電圧200kVで組織観察を行った。微小部のEDS分析には、装置付属のノーラン製UTW型Si(Li)半導体検出器を用いて、ナノメートルオーダーの積層膜の組成を決定した。このとき、半値幅1nmの電子プローブを使用した。微小部電子線回折は、カメラ長を50cm、ビーム径をφ1nmに収束させ、ナノメートルオーダーの積層膜の結晶構造を同定した。
図4に本発明例1の走査透過電子顕微鏡法(以下、STEMと言う。)による硬質皮膜組織の観察像を示す。STEM像は、組成によるコントラストの相違が明確に現れることから、結晶構造よりも組成の影響を考察することができる。図4より、本発明例1の中間積層部は、数ナノの一定周期構造が確認され、各層の厚みが15nm未満の積層構造となっていた。具体的な積層周期は、約4nmから8nmであることが確認できた。図4中の分析位置1から4に対応した、EDS組成分析結果を表1に示す。
図4の分析位置1と3とが同一層であり、分析位置2と4とが同一層である。表1より、図4の分析位置1と3とを含む層には、Si含有量が多かった。図4の分析位置2と4とを含む層には、分析位置1と3に比べ、Si含有量が少なかった。これより、本発明において重要な中間積層部内に、層厚方向にAl及びSiの含有量が0.5nm以上、50nm未満の周期で変動していることを確認した。中間積層部のAl及びSiの含有量は最小部と最大部とからなる変動を有し、この変動について、表1より、本発明例1の分析位置1と3のAlとSiの含有量の和を計算した値は原子%で、26%から29%の範囲であった。分析位置2と4のAlとSiの含有量の和は、40%から48%であった。これは、中間積層部のAl及びSiの含有量の変動が、最小部で35%未満、最大部で35%以上、65%未満の場合に相当する。基体は回転機構を有した基体ホルダーに設置されているため、ターゲット材1の前面に基体ホルダーが近付いたときに、ターゲット材1を主成分とした硬質皮膜が被覆され、ターゲット材2前面に基体ホルダーが近付いたときに、ターゲット材2成分を主成分とした硬質皮膜が被覆されるべきである。しかし実際には、ターゲット材成分とは異なる組成となっていた。これは、数ナノレベルの層厚で基体に被覆された皮膜は、次の数ナノレベル層が成膜された後、若しくはその成膜中に、層間で両金属成分の混合が起こり、これが層間の結合強度をもたらし、中間積層部が高硬度化を有した状態で被覆されるため、その直上に最上層となる高硬度を有するSi含有皮膜を被覆することを可能にし、優れた耐摩耗性を発揮すると考えられる。EDS分析は、実際には試料を透過する際にビームが広がり、X線が発生する領域は更に広がると考えられるが、結果として得られている情報は2nm未満であると考えられ、2nm以上の層厚であればEDS分析による組成定量分析は可能である。また、膜厚深さ方向の情報はすべて含まれるものと考えられるが、試料厚さが原子層厚さであることより、粒子そのものの情報であると考えられる。また、一般的に試料が薄くなると得られるX線のカウント数が少なくなるため、定量精度は悪くなると考えられるが、精々2%未満のバラツキ範囲であった。
図5は、図4と同一視野のTEMによる観察像であり、数ナノ層厚の界面において格子が連続していた。この時、中間積層部の各層間の密着強度、最下層や最上層との密着強度が優れる。中間積層部の硬度を向上させ、硬質皮膜全体の強度のバランスが最適となり、好ましい層構造である。図6、図7は、図5の分析位置1及び2に対応した微小部電子線回折結果を示す。図6は図5の分析位置1に相当する位置の層微小部電子線回折結果を示す。図7は、図5の分析位置2に相当する位置の微小部電子線回折結果を示す。各領域の結晶構造は、fcc構造であり、2層間で全く同じ結晶構造を示した。図8に本発明例2のSTEMによる皮膜組織の観察像を示す。図8より、本発明例2の中間積層部は、本発明例1と同様に数ナノの一定周期構造が確認され、各層の厚みが6nmから20nm未満の積層構造となっていた。図8中の分析位置1から4に対応した、EDS組成分析結果を表2に示す。
図8の分析位置1と3とが同一層であり、分析位置2と4がと同一層である。表2より、図8の分析位置1と3とを含む層には、Si含有量が多かった。図8の分析位置2と4とを含む層には、分析位置1と3に比べ、Si含有量が少なかった。これより、本発明において重要な中間積層部内に、層厚方向にAl及びSiの含有量が0.5nm以上、50nm未満の周期で変動していることを確認した。また中間積層部のAl及びSiの含有量の変動について考察する。表2に示すように、本発明例2の分析位置1と3のAl及びSiの含有量の和を計算した値は原子%で、63%から65%の範囲であった。これに対し、分析位置2と4のAl及びSiの含有量の和は、79%から84%であった。これは、中間積層部のAl及びSiの含有量の変動が、最小部で30%以上、70%未満、最大部で70%以上、99%未満の場合に相当する。
中間積層部の非金属元素である酸素、硼素、炭素、硫黄等の定性分析の測定試料は、本発明例1を用いた。試料の前処理は、最上層をArイオンミーリングにより除去するか、もしくは断面を斜め方向に研摩したものを用いた。分析結果を図9、図10に示す。図9はO1sに相当するピークプロファイルを示し、酸素の含有を確認した。図10は、N1sに相当するピークプロファイルを示し、窒素の含有を確認した。更にピーク強度比より、非金属元素のみの原子%で窒素が88%、酸素が12%であった。
本発明例1の皮膜について、最上層、中間積層部及び最下層の夫々の層のTHA、MHA、BHA、TEL、MEL、BEL、及びTR、MR、BRを各10箇所測定した。測定結果を図11、12に示す。図11及び図12に示すように、縦軸の硬度は、THA≧MHA≧BHAの関係を示した。図11では横軸の弾性係数TEL、MEL、BELは、TEL≦MEL≦BELの関係を示し、図12では横軸の弾性回復率TR、MR、BRが、TR≧MR≧BRの関係を示した。上記の様な場合、硬質皮膜の構造として最適である。この理由は、Si含有皮膜の高硬度化でき、しかも、硬質皮膜の最上層として、剥離や異常摩耗を抑制することが可能となるからである。
(実施例2)
実施例1と略同様な手法を用い、表3に示す各種ターゲット材を用いて硬質皮膜を被覆し、皮膜の評価及び、硬質皮膜を切削工具に適用した場合の評価を行った。硬質皮膜の評価結果を表4、5に示し、硬質皮膜を切削工具に適用した場合の評価結果を表6に示した。
表3に示す蒸発源4、5、6、7には夫々所定の組成を有するターゲット材を装着し、図2の様に減圧容器に配置した。ここで、蒸発源4と6及び蒸発源5と7とは夫々対向して配置した。表4、5に最下層の組成、中間積層部のAl及びSiの含有量の最大部と最小部の組成、その積層周期、酸素添加方法、最上層の組成並びにその硬度を示した。中間積層部の各層の組成は、実施例1と同様にTEM−EDS分析により決定した。積層周期の確認は、STEMによる観察像から実測し確認した。硬度測定は、試料断面を5度方向にダイヤモンド粒子を含有したバフにより鏡面研摩処理したものを用い、ナノインデンテーションにより、押込み荷重49mNで10点測定し、その平均値を記載した。最下層、最上層の組成は、TEM付属のEDS、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)分析、エネルギー分散型X線分光(EDX)分析、又は透過電子顕微鏡付属のEDS分析、電子エネルギー損失分光(EELS)分析によっても可能であり、更に、ラザフォード後方散乱(RBS)分析法、電子分光(XPS)分析法、AES分析法等の深さ方向分析により、総合的に決定することも可能である。切削寿命評価用のエンドミルは、Co含有量が8質量%の超微粒超硬合金製、R5mmの2枚刃ボールエンドミルを用いた。本発明の試料の成膜条件は、特に記載がない限り、実施例1に準ずる。また表4に酸素添加方法について記載した。対応の欄にターゲットと記載しているのは、予め酸素を含有するターゲットを用いて酸素を添加したことを示す。一方、ガスと記載しているのは酸素含有ガスを用いて酸素を添加したことを示す。
本発明の硬質皮膜被覆部材の耐摩耗性を評価するために、主な適用例としてエンドミルの性能評価を行った。評価は最大逃げ面摩耗幅が0.1mmに達するまでの切削を測定し、耐摩耗性の評価を行った。切削条件を以下に示す。
(エンドミル性能評価条件)
工具:超硬合金製2枚刃ボールエンドミル
被削材:粉末高速度鋼、HAP40、硬さHRC66
工具回転数:6000回転/分
1刃当りの送り量:0.125mm/刃
軸方向切込み量:0.2mm
ピックフィード:0.2mm
加工方法:乾式切削加工、底面切削、1方向ダウンカット
寿命判定:最大逃げ面摩耗幅が0.1mmに達するまでの切削長
本発明例1から27について述べる。表4、5に示す様に、本発明の硬質皮膜を被覆した工具は高硬度を示し、層間の密着強度に特に優れ、硬度と靭性がバランス良く構成されているため、工具の折損やチッピングが起こり難く、工具として使用した場合、格段に耐摩耗性に優れる結果となった。本発明例1は、実施例1により作成した試料を示し、皮膜の硬度が高く、工具に適用した場合、耐摩耗性に特に優れ好ましい被覆形態である。本発明例1の様に、中間積層部の上層側に最上層を被覆することによって、高硬度を示し、耐摩耗性に優れていた。一方、従来例42、従来例43の様に、中間積層部を有しない場合、同一組成の最上層を被覆しても、高硬度な特性が得られず、耐摩耗性の改善は見られなかった。本発明例2は、実施例1により作成した試料を示し、特に耐熱性に優れ、中間積層部の残留圧縮応力が低く、剥離や異常摩耗の発生が少なく耐摩耗に優れていた。本発明例3は、AlCrSi系ターゲット材とTiSi系ターゲット材を使用した場合を示す。TiAl系ターゲット材と同様に、耐摩耗性の改善が確認された。本発明例4は、AlCrSi系ターゲット材とCrSi系ターゲット材を使用した場合を示すが、同様に耐摩耗性の改善が確認された。本発明例5は、蒸発源4及び蒸発源6にAlCrSi系ターゲット、蒸発源5及び蒸発源7にTi系ターゲットを設置した場合を示す。最上層にTi(CN)系皮膜を成膜した場合、同様に耐摩耗性に優れていた。本発明例5は、ドリルの耐摩耗性改善に特に効果を発揮することも確認した。本発明例6から本発明例9は、中間積層部の酸素含有量が異なる場合を示す。中間積層部を被覆する場合、酸素含有量の異なる金属ターゲットを用いて被覆した。中間積層部の酸素含有量が非金属元素のみの原子%で0.2%であっても、その効果が十分に発揮された。しかし、15%のものは若干切削寿命が低下した。中間積層部に適量な酸素を含有させるためには、金属ターゲット中の酸素含有量は、2000ppm以上であることが好ましい。本発明例10は、中間積層部がホウ酸窒化物の場合を示す。本発明例11は、中間積層部が炭酸窒化物の場合を示す。何れも耐摩耗性に優れていた。本発明例12及び13は、中間積層部の酸素添加をガスによって行った場合を示す。ガス添加の場合も優れた耐摩耗性を示した。しかし、表6の切削評価結果から、酸素含有の金属ターゲットによる添加手法の方が、より好ましい。本発明例14は、最下層に蒸発源4、6を用いて被覆し、中間積層部に蒸発源4、6、5を同時に用いて被覆し、最上層に、蒸発源7を用いて被覆した。この場合、中間積層部の耐熱性向上と低残留圧縮応力化を達成した。更に最上層の高硬度化も同時に達成され、優れた耐摩耗性を発揮した。本発明例14は、特にスクエアエンドミルにおいても顕著な効果が確認された。本発明例15及び16は、最下層に蒸発源4、6を用いて被覆し、中間積層部に蒸発源4、6、5を同時に用いて被覆し、最上層に蒸発源5、7を用いて被覆した。ここで、蒸発源7は、スパッタ蒸発源であり、蒸発源4、5、6はAIP蒸発源であった。従って、最上層の被覆は、スパッタリング法とAIP法を同時に被覆した場合である。この場合も、優れた耐摩耗性を示した。本発明例17、18、19は、蒸発源4、6のターゲットに夫々Si、Nb、Yを添加した場合を示す。本発明例7と比較して切削寿命に優れ、好ましい被覆形態であった。本発明例20、21、22、7は、最下層、中間積層部、最上層の膜厚が夫々異なる場合を示す。最下層が最も薄く、中間積層部、最上層の順に厚膜化することが、切削寿命に優れ、好ましい層構造であった。また、スクエアエンドミルとドリルにおいては、最上層を最も薄く設定し、最下層、中間積層部を同じ比率で構成した構造が最も優れた耐摩耗性を示した。本発明例23は、中間積層部のSi含有量が層厚方向に異なり、表層側程Si含有量が多くなる傾斜構造の場合を示す。特に最上層の高硬度化に有効であり、優れた耐摩耗性を示した。本発明例24は、蒸発源4、6がAIP蒸発源、蒸発源5、7がスパッタ蒸発源とした場合を示す。本発明例25は、全ての蒸発源がスパッタ蒸発源に接続された場合を示す。本発明例26は、最上層の最表面から膜厚方向に100nm未満の領域で酸素含有量が最大値を示すように構成した場合を示す。何れも耐摩耗性に優れていた。本発明例27は、中間積層部と最上層の被覆条件を変化させ、最上層の皮膜硬度を高めた場合を示す。本発明の層構造の採用により、最上層を72GPaまで高硬度化させても、剥離や異常摩耗が発生することも無く、安定した耐摩耗性を示した。本発明例の様に、スパッタ蒸発源及び/又はAIP蒸発源を用い、これらを併用する場合の被覆条件は、減圧容器内雰囲気をArガスとNガスの雰囲気とし、ArガスとNガスとの流量比を、Arを90%、Nを10%、全体の圧力は0.5Paに設定した。スパッタ蒸発源は9kWの電力を供給した。
比較例28から36について述べる。比較例28は、中間積層部が炭酸化物の場合を示す。比較例29は、中間積層部がホウ酸化物の場合を示す。比較例30は、中間積層部に酸素を含有しない場合を示す。中間積層部の各層間において、密着強度が十分ではまく、硬質皮膜の剥離が確認された。比較例31は、中間積層部の(Al+Si)組成の変動周期が50nmから100nmの場合を示す。比較例32は、中間積層部にAl及びSiを含有しない場合を示す。比較例33は、中間積層部にAlを含有しない場合を示す。比較例34は、最下層が存在しない場合を示す。比較例35は、中間積層部が存在しない場合を示す。比較例36は、最上層が存在しない場合を示す。上記比較例は何れも耐摩耗性を改善するには至らなかった。
従来例37から46について述べる。従来例による被覆は、従来技術に記載された被覆条件を参考にした。従来例37は、TiNを最下層とし、その上層側に(TiAl)N系皮膜を被覆した場合を示す。従来例38は、(TiAl)N皮膜の単一層の場合を示す。従来例39は、(AlCrSi)N系皮膜の単一層の場合を示す。従来例40は、(TiSi)N系皮膜単一層の場合を示す。従来例41は、(AlSi)N系皮膜単一層の場合を示す。これらの従来例は何れも切削初期に硬質皮膜の剥離が認められ、最大逃げ面摩耗幅は大きくなった。従来例42は、(TiAl)N系皮膜の上層側に(TiSi)N系皮膜を被覆した場合を示す。(TiAl)N系単一層の場合に比べ、耐摩耗性が改善されているものの、約70mで最大逃げ面摩耗幅が0.1mmに達した。従来例43は、(TiAl)N系皮膜の上層側に(TiSi)N系皮膜を被覆した場合を示す。(TiSi)N系皮膜が自己破壊を起こさない程度に負バイアス電圧を高くし、(TiSi)N系皮膜の硬度を向上させた場合である。ボールエンドミルによる耐摩耗性の評価では、従来例42に比べ、硬度向上の効果が確認された。従来例44は、TiNを最下層とし、その上層側に(TiSi)N系皮膜と(TiCr)N系皮膜を積層周期5nmで被覆した積層皮膜の場合を示す。従来例45は、(TiAl)N系の積層皮膜の場合を示す。従来例46は、(TiAlSi)N系皮膜と(TiSi)N系皮膜の積層膜の場合を示す。これらの従来例は何れの場合も、切削長100m前後で、最大逃げ面摩耗幅が0.1mmに達した。
図1は、本発明の硬質皮膜について積層構造の模式図を示す。 図2は、本発明の実施例に用いた成膜装置の概略図を示す。 図3は、本発明例1のAES分析結果を示す。 図4は、本発明例1の中間積層部のSTEM像を示す。 図5は、図4と同一視野における中間積層部のTEM像を示す 図6は、図5の分析位置1に対応した微小部電子線回折結果を示す。 図7は、図5の分析位置2に対応した微小部電子線回折結果を示す。 図8は、本発明例2の中間積層部のSTEM像を示す。 図9は、本発明例1のXPSによるスペクトルを示す。 図10は、本発明例1のXPSによるスペクトルを示す。 図11は、本発明例1の硬質皮膜の評価結果を示す。 図12は、本発明例1の硬質皮膜の評価結果を示す。
符号の説明
1:被覆用のターゲット材
2:被覆用のターゲット材
3:減圧容器
4:蒸発源
5:蒸発源
6:蒸発源
7:蒸発源
8:基体ホルダー
9:基体
10:回転機構

Claims (4)

  1. 基体表面から、最下層、中間積層部、最上層とからなる硬質皮膜被覆部材において、該中間積層部は、金属元素としてAl及びSiを含有し、残部Ti、Cr、Nb、Yから選択される1種以上の金属元素からなる酸窒化物、ホウ酸窒化物、炭酸窒化物からなる少なくとも2層以上の積層部であり、該中間積層部は層厚方向にAl及びSiの含有量が0.5nm以上、50nm未満の周期で変動していることを特徴とする硬質皮膜被覆部材。
  2. 請求項1記載の硬質皮膜被覆部材において、該中間積層部の層厚方向におけるAl及びSiの含有量は最小部と最大部とからなる変動を有し、金属元素のみの原子%で、該最小部は35%未満、該最大部は35%以上、65%未満であることを特徴とする硬質皮膜被覆部材。
  3. 請求項2記載の硬質皮膜被覆部材において、該中間積層部の金属元素のみの原子%で、該最小部は30%以上、70%未満、該最大部は70%以上、99%未満であることを特徴とする硬質皮膜被覆部材。
  4. 請求項1乃至3何れかに記載の硬質皮膜被覆部材において、該中間積層部の酸素含有量Xが、非金属元素のみの原子%で、0<X<14であることを特徴とする硬質皮膜被覆部材。
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