JP2009101491A - 高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた潤滑性と耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents

高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた潤滑性と耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具 Download PDF

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Tsutomu Ogami
強 大上
Yusuke Tanaka
裕介 田中
Kazunori Sato
和則 佐藤
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智行 益野
Shinichi Shikada
信一 鹿田
Daisuke Kazami
大介 風見
Yasunori Wada
恭典 和田
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Abstract

【課題】 高速断続切削加工において、硬質被覆層がすぐれた潤滑性と耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具を提供する。
【解決手段】 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、下部層と上部層からなる硬質被覆層が蒸着形成された表面被覆切削工具において、下部層は、(Ti,Al)系複合窒化物あるいは複合炭窒化物層からなり、上部層は、(Cr,Al)系複合窒化物層であって、かつ、該上部層は、立方晶構造からなる薄層Aと、立方晶構造と六方晶構造の混在する薄層Bの交互積層構造として構成されている。
【選択図】 なし

Description

この発明は、硬質被覆層がすぐれた高温硬さ、高温強度、高温耐酸化性を備えるとともに、すぐれた潤滑性をも有し、したがって、高熱発生を伴うと共に、大きな断続的・機械的負荷がかかる軟鋼、ステンレス鋼、高マンガン鋼等の高速断続切削加工に用いた場合にすぐれた耐摩耗性を発揮し、長期に亘ってすぐれた工具特性を示す表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関するものである。
一般に、表面被覆切削工具には、各種の鋼や鋳鉄などの被削材の旋削加工や平削り加工にバイトの先端部に着脱自在に取り付けて用いられるスローアウエイチップ、前記被削材の穴あけ切削加工などに用いられるドリルやミニチュアドリル、さらに前記被削材の面削加工や溝加工、肩加工などに用いられるソリッドタイプのエンドミルなどがあり、また前記スローアウエイチップを着脱自在に取り付けて前記ソリッドタイプのエンドミルと同様に切削加工を行うスローアウエイエンドミル工具などが知られている。
従来、被覆工具の一つとして、例えば、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットで構成された基体(以下、これらを総称して工具基体という)の表面に、硬質被覆層として、均一組成のCrとAlの複合窒化物((Cr,Al)N)層を設けた被覆工具が知られている。
また、上記(Cr,Al)N層に、微量のZr、Y、V、W、Nb、Mo、Tiから選ばれる1種または2種以上の成分(以下、M成分と記す)を添加含有させた(Cr,Al,M)N層を蒸着形成した被覆工具も知られており、硬質被覆層のAlによって高温硬さ、同Crによって高温強度、また、CrとAlの共存含有によって耐熱性が向上すること、さらに、Zr、Y、V等の添加含有させたM成分の種類に応じて、耐摩耗性、高温耐酸化性等の特性が向上することが知られており、そして、これらの被覆工具を各種の一般鋼や普通鋳鉄などの連続切削や断続切削に用いることも知られている。
また、他の被覆工具としては、例えば、工具基体表面に、TiとAlの複合窒化物((Ti,Al)N)層、複合炭窒化物((Ti,Al)(C,N))層、あるいは、これにさらに、Si、B、Y、Zr、V等(以下、M成分と記す)を微量添加含有させたTiとAlを主成分とする複合窒化物層、複合炭窒化物層(以下、これらを総称して、(Ti,Al)系炭窒化物層という)を設けた被覆工具も知られており、上記(Ti,Al)系炭窒化物層がすぐれた高温強度、耐欠損性、耐摩耗性を示すことも知られている。
さらに、上記の各種従来被覆工具が、例えば図2に概略説明図で示される物理蒸着装置の1種であるアークイオンプレーティング装置に工具基体を装入し、装置内を、例えば500℃の温度に加熱した状態で、硬質被覆層の組成に対応した合金がセットされたカソード電極(例えば、(Cr,Al,M)N層を形成するためには、Cr−Al−M合金、また、(Ti,Al)N層を形成するためには、Ti−Al合金)とアノード電極との間に、例えば電流:90Aの条件でアーク放電を発生させ、同時に装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して、例えば2Paの反応雰囲気とし、一方、上記工具基体には、例えば−100Vのバイアス電圧を印加した条件で、前記工具基体表面に、硬質被覆層(例えば、(Ti,Al)N層、(Cr,Al,M)N層)を蒸着することにより製造されることも知られている。
特開2003−34859号公報 特開2006−82209号公報 特許第2793773号明細書 特許第2793696号明細書 特開平8−199338号公報
近年の切削加工装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は高速化の傾向にあるが、例えば、硬質被覆層として、(Cr,Al,M)N層等を蒸着形成した従来被覆工具においては、これを鋼や鋳鉄の通常条件での切削に用いた場合には格別問題はないが、特に、切削時に高熱発生を伴い、かつ、切刃部に対して大きな衝撃的・機械的負荷がかかる軟鋼、ステンレス鋼、高マンガン鋼等の高速断続切削条件で用いた場合には、硬質被覆層の高温強度および潤滑性が不足するために、硬質被覆層には欠損、偏摩耗、チッピング等が発生しやすく、また、硬質被覆層として、(Ti,Al)系炭窒化物層を蒸着形成した従来被覆工具においては、軟鋼、ステンレス鋼、高マンガン鋼等の高速断続切削条件下では、耐摩耗性が満足できるものではないため、いずれの従来被覆工具においても、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、特に軟鋼、ステンレス鋼、高マンガン鋼等の難削材の高速断続切削加工で、硬質被覆層がすぐれた高温硬さ、高温強度、高温耐酸化性を備えるとともに、すぐれた潤滑性と耐摩耗性を発揮する被覆工具を開発すべく、上記従来被覆工具の硬質被覆層に着目し、研究を行った結果、以下の知見を得た。
(a)硬質被覆層が、(Cr,Al,M)N層で構成された従来被覆工具において、硬質被覆層の構成成分であるAlは高温硬さと耐熱性を向上させ、Crは高温強度を向上させると共に、CrとAlが共存含有した状態で高温耐酸化性を向上させる作用があり、また、添加成分MがZrの場合は耐熱塑性変形性向上、Yは高温耐酸化性向上、Vは潤滑性向上、Wは放熱性向上、Nbは高温耐摩耗性向上、Moは耐溶着性向上、Tiはさらなる高温硬度向上というように、M成分の種類に応じて、硬質被覆層の特性の改善が図られ、そして、硬質被覆層は、これらM成分を含有することによって、耐欠損性、耐溶着性、耐酸化性および耐摩耗性という特性を発揮すること。
(b)ところで、上記従来被覆工具の硬質被覆層を構成する(Cr,Al,M)N層のCrとAlの含有割合を、組成式:(Cr1-X−YAl)Nで表した場合、Alの含有割合Xが少ない場合(例えば、0.65≧X)には、(Cr,Al,M)N層は立方晶構造の(Cr,Al,M)N層(以下、fcc(Cr,Al,M)N層で示す)であるが、Al含有割合Xを、例えば、X≧0.75というように増加させてやると、その結晶構造は、立方晶構造と六方晶構造の混在した結晶構造に変化し、そして、このような立方晶構造と六方晶構造の混在した結晶構造を有する(Cr,Al,M)N層(以下、fcc/hcp(Cr,Al,M)N層で示す)は、潤滑特性が向上するようになるが、上記fcc/hcp(Cr,Al,M)N層は、fcc(Cr,Al,M)N層に比して十分な高温硬さを備えていないため、fcc/hcp(Cr,Al,M)N層を、硬質被覆層として単独で蒸着形成することによっては、高速断続切削加工条件下では満足できる耐摩耗性を得ることはできないこと。
(c)そこで、すぐれた高温硬さを有する上記fcc(Cr,Al,M)N層を薄層Aとし、また、すぐれた潤滑特性を有する上記fcc/hcp(Cr,Al,M)N層を薄層Bとし、薄層Aと薄層Bとを交互に積層し、薄層Aと薄層Bの交互積層構造からなる硬質被覆層を構成すると、薄層Aと薄層Bは、それぞれの特性を害することなく、硬質被覆層全体として、すぐれた潤滑性を備え所定の耐摩耗性を発揮するようになるが、切刃部に大きな衝撃的・機械的負荷が加わる高速断続切削という厳しい条件の切削加工では、特に工具基体と硬質被覆層間の密着強度が十分でないために、硬質被覆層の剥離、欠損、チッピングが発生しやすいこと。
(d)そこで、さらに、上記薄層Aと薄層Bからなる交互積層と工具基体との間に、高温強度にすぐれる(Ti,Al)系炭窒化物層を下部層として介在形成したところ、(Ti,Al)系炭窒化物層はそれ自体すぐれた高温強度を備え、さらに、工具基体と交互積層のいずれに対してもすぐれた高密着力を有するため、硬質被覆層として、(Ti,Al)系炭窒化物層を下部層として蒸着形成し、そして、薄層Aと薄層Bの交互積層を上部層として蒸着形成した被覆工具は、高熱発生を伴うと共に、大きな断続的・機械的負荷がかかる軟鋼、ステンレス鋼、高マンガン鋼等の難削材の高速断続切削加工に用いた場合でも、硬質被覆層全体として、すぐれた高温強度を有するとともにすぐれた潤滑性を示し、剥離、欠損、チッピングを発生することなくすぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するようになること。
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、
「 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、硬質被覆層として下部層と上部層が蒸着形成された表面被覆切削工具において、
(a)上記下部層は、0.1〜1.5μmの層厚を有し、
組成式:(Ti1−Q−RAl1R)(C,N)
で表した場合に、0.4≦Q≦0.65、0≦R≦0.1(但し、Qは原子比によるAlの含有割合、Rは原子比による成分Mの合計含有割合であり、また、成分Mは、Si、B、Zr、Y、V、W、NbまたはMoから選ばれる1種または2種以上の元素を示す)を満足するTiとAlとMの複合窒化物層または複合炭窒化物層、
(b)上記上部層は、1〜8μmの合計層厚を有するとともに、それぞれ25〜100nmの一層層厚を有する薄層Aと薄層Bの交互積層からなるCrとAlの複合窒化物層であって、さらに、
(c)上記薄層Aは、
組成式:(Cr1−α−βAlα2β)N
で表した場合に、0.25≦α≦0.65、0<β≦0.1(但し、αは原子比によるAlの含有割合、βは原子比による成分Mの合計含有割合であり、また、成分Mは、Zr、Y、V、W、Nb、MoまたはTiから選ばれる1種または2種以上の元素を示す)を満足する立方晶構造のCrとAlとMの複合窒化物層であり、
(d)上記薄層Bは、
組成式:(Cr1−γ−δAlγ3δ)N
で表した場合に、0.75≦γ≦0.95、0<δ≦0.1(但し、γは原子比によるAlの含有割合、δは原子比による成分Mの合計含有割合であり、また、成分Mは、Zr、Y、V、W、Nb、MoまたはTiから選ばれる1種または2種以上の元素を示す)を満足し、さらに、上記薄層Bについて測定した立方晶結晶格子の(200)面からのX線回折強度のピーク強度I(f)と、六方晶結晶格子の(100)面からのX線回折強度のピーク強度I(h)の比の値I(f)/I(h)が、0.1≦I(f)/I(h)≦10.0を満足する立方晶構造と六方晶構造の混在するCrとAlとMの複合窒化物層である、
ことを特徴とする表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
つぎに、この発明の被覆工具の硬質被覆層に関し、より詳細に説明する。
(a)上部層の薄層A
薄層Aを構成する立方晶構造のCrとAlとMの複合窒化物層(fcc(Cr,Al,M)N層)は、高熱発生を伴う高速断続切削加工において、硬質被覆層の耐摩耗性を担保する層として作用する。
既に述べたように、(Cr,Al,M)N層の組成を、
組成式:(Cr1-(α+β)Alα2β)N、
で表した場合、Alの含有割合αの値を、α≦0.65とすることによって、立方晶構造(fcc)の層として形成することができ、このfcc構造によって耐摩耗性が維持されるが、Alの含有割合αの値がα<0.25となると、相対的にCrの含有割合が増加し、結晶構造がfccであったとしても、fcc(Cr,Al,M)N層自体の高温硬さが急激な低下傾向を示し、難削材の高速断続切削加工において最小限必要とされる耐摩耗性を確保することが困難になることから、薄層AにおけるAlの含有割合αは、0.25≦α≦0.65と定めた。
また、fcc(Cr,Al,M)N層の構成成分であるCr成分は、薄層Aの高温強度を向上させ、硬質被覆層の耐チッピング性・耐欠損性に寄与するとともに、Al成分との共存含有によって、高温耐酸化性向上にも寄与し、また、添加成分MがZrの場合は耐熱塑性変形性向上、Yは高温耐酸化性向上、Vは潤滑性向上、Wは放熱性向上、Nbは高温耐摩耗性向上、Moは耐溶着性向上、Tiはさらなる高温硬度向上というように、M成分の種類に応じて、硬質被覆層の特性の改善が図られるが、M成分の含有割合βの値(M成分の含有割合の合計値)が0.1を超えると薄層Aの高温強度が低下することから、薄層AにおけるM成分の含有割合βは、0<β≦0.1と定めた。
(b)上部層の薄層B
薄層Bを構成する、立方晶構造と六方晶構造の混在する薄層BのCrとAlとMの複合窒化物層(fcc/hcp(Cr,Al,M)N層)は、高熱発生を伴う高速断続切削加工において、fcc(Cr,Al,M)N層からなる薄層Aに不足する潤滑性を補完することにより、結果としてより一層耐摩耗性を向上させる層として作用する。
fcc/hcp(Cr,Al,M)N層からなる薄層Bの構成成分であるCr、M成分の作用は、薄層AのCr、Mのそれと同様である。
ただ、上記薄層Bの構成成分であるAlについて言えば、fcc/hcp(Cr,Al,M)N層の組成を、
組成式:(Cr1-(γ+δ)Alγ3δ)N、
で表した場合、
Alの含有割合γの値を、γ≧0.75とすることによって、立方晶構造(fcc)と六方晶構造(hcp)の混在する結晶構造(fcc/hcp)の薄層Bを形成することができ、このfcc/hcp構造によって高熱発生を伴う高速断続切削加工条件下での潤滑性が確保されるが、Alの含有割合γの値がγ>0.95となると、相対的なCr含有割合の減少によって、fcc/hcp(Cr,Al,M)N層の高温強度が低下し、チッピング・欠損等を発生しやすくなることから、薄層BにおけるAlの含有割合γは、0.75≦γ≦0.95と定めた。
また、Alの含有割合γを、0.75≦γ≦0.95の範囲内としたfcc/hcp(Cr,Al,M)N層からなる薄層BについてX線回折を行ったところ、立方晶構造の(200)面からの回折ピーク強度I(f)と、六方晶構造の(100)面からの回折ピーク強度I(h)との比の値I(f)/I(h)は、表3、4、8、10にも示されるように、0.1≦I(f)/I(h)≦10.0であった。
なお、薄層Bの構成成分であるM成分(Zr、Y、V、W、Nb、MoまたはTiから選ばれる1種または2種以上の元素)は、薄層AのM成分の場合と同様、Zrは耐熱塑性変形性向上、Yは高温耐酸化性向上、Vは潤滑性向上、Wは放熱性向上、Nbは高温耐摩耗性向上、Moは耐溶着性向上、Tiはさらなる高温硬度向上という作用を有するが、薄層Bの耐摩耗性を向上させつつ同時に薄層Bの高温強度低下を防止するためには、薄層Aの場合と同様、薄層BにおけるM成分の含有割合δは、0<δ≦0.1とする必要がある。
(c)薄層Aと薄層Bの交互積層
薄層Aは、その一層層厚が25nm(0.025μm)未満では、自身のもつすぐれた耐摩耗性を長期に亘って十分発揮することができず、工具寿命短命の原因となり、一方その一層層厚が100nm(0.1μm)を越えると、チッピングが発生し易くなることから、その一層層厚を25〜100nm(0.025〜0.1μm)とすることが必要である。
また、薄層Bについても、その一層層厚が25nm(0.025μm)未満では、薄層Aの潤滑性不足を補完することはできず、一方その一層層厚が100nm(0.1μm)を越えると、チッピングが発生し易くなることから、その一層層厚を25〜100nm(0.025〜0.1μm)とすることが必要である。
さらに、薄層Aと薄層Bを交互に積層して形成した交互積層について、その合計層厚が1μm未満では、自身のもつすぐれた潤滑性とおよびすぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮することができないため工具寿命短命の原因となり、一方、その合計層厚が8μmを越えると、チッピングが発生し易くなることから、その合計層厚は1〜8μmとする。
なお、fcc(Cr,Al,M)N層からなる薄層Aと、fcc/hcp(Cr,Al,M)N層からなる薄層Bとは同一あるいは類似成分系の硬質被覆層であるため、異成分系の薄層Aと薄層Bとの交互積層に比して、薄層Aと薄層B間の付着強度も大であり、硬質被覆層全体としての高温強度向上に寄与するばかりか、層間剥離等の生じる恐れもない。
(d)下部層
薄層Aと薄層Bの交互積層構造からなる上部層は、前記のとおり、すぐれた潤滑性を備え、かつすぐれた耐摩耗性を備えた層であるが、工具基体表面に直接このような交互積層を蒸着形成した被覆工具は、切刃部に大きな衝撃的・機械的負荷が加わる高速断続切削という厳しい条件の切削加工では、特に工具基体と交互積層からなる上部層との間の密着強度が十分でないために、上部層の剥離が生じやすいという欠点があるが、それ自体高温強度にすぐれる(Ti,Al)系炭窒化物層を下部層として介在形成したところ、(Ti,Al)系炭窒化物層がすぐれた高温強度を備えることに加え、(Ti,Al)系炭窒化物層が、工具基体と交互積層のいずれに対してもすぐれた高密着力を有するため、(Ti,Al)系炭窒化物層を工具基体と交互関相との間に下部層として蒸着形成した硬質被覆層を備える被覆工具は、高熱発生を伴うと共に、大きな断続的・機械的負荷がかかるステンレス鋼等の高速断続切削加工に用いた場合でも、硬質被覆層全体として、すぐれた高温強度を有し、また、すぐれた潤滑性を示し、剥離、欠損、チッピングを発生することなくすぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するようになる。
ここで、(Ti,Al)系炭窒化物層を、
組成式:(Ti1−Q−RAl1R)(C,N)
で表した場合に、Alの含有割合を示すQ値が0.4未満では、高温硬さが低下するため耐摩耗性の劣化を招き、また、Q値が0.65を超えると、相対的なTi含有割合の減少により、十分な高温強度を確保することができなくなることから、Alの含有割合Q値を、0.4≦Q≦0.65と定めた。また、(Ti,Al)系炭窒化物に、M成分(但し、成分Mは、Si、B、Zr、Y、V、W、NbまたはMoから選ばれる1種または2種以上の元素を示す)を添加含有させた場合、M成分の含有割合R値が0.1を超えると、Ti含有割合あるいはAl含有割合の相対的な減少によって、下部層に必要とされる高温硬さと高温強度をバランス良く確保することが困難になるので、R値(M成分の合計含有割合)は、0≦R≦0.1と定めた。
なお、M成分であるSi成分は、耐熱塑性変形性、B成分は熱伝導性、Zr成分は耐熱塑性変形性、Y成分は高温耐酸化性、V成分は潤滑性、W成分は放熱性、Nb成分は高温耐摩耗性、Mo成分は耐溶着性、をそれぞれ向上させ、いずれも下部層の特性向上に寄与する。
また、下部層の層厚が0.1μm未満では、交互積層からなる上部層と工具基体間の密着強度向上効果を期待することはできず、一方、その層厚が1.5μmを超えると熱塑性変形による偏摩耗を発生しやすくなるので、下部層の層厚は0.1〜1.5μmと定めた。
この発明の被覆工具は、硬質被覆層の上部層が、少なくとも、fcc(Cr,Al,M)N層からなる薄層Aと、fcc/hcp(Cr,Al,M)N層からなる薄層Bの交互積層構造として構成され、すぐれた高温硬さ、高温強度、高温耐酸化性に加え、すぐれた潤滑性をも有し、さらに、硬質被覆層の下部層が、(Ti,Al)N層、(Ti,Al)CN層、(Ti,Al,M)N層、(Ti,Al,M)CN層などの(Ti,Al)系炭窒化物層で構成され、すぐれた高温強度とすぐれた密着強度を有することから、特に高熱発生を伴い、大きな断続的・機械的負荷がかかる軟鋼、ステンレス鋼、高マンガン鋼等の難削材の高速断続切削加工でも、硬質被覆層が剥離、欠損、チッピング等を発生することなく、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するものである。
つぎに、この発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr32粉末、TiN粉末、TaN粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、ボールミルで72時間湿式混合し、乾燥した後、100MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を6Paの真空中、温度:1400℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.03のホーニング加工を施してISO規格・CNMG120408のチップ形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A−1〜A−10を形成した。
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(重量比でTiC/TiN=50/50)粉末、Mo2C粉末、ZrC粉末、NbC粉末、TaC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、100MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を2kPaの窒素雰囲気中、温度:1500℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.03のホーニング加工を施してISO規格・CNMG120408のチップ形状をもったTiCN基サーメット製の工具基体B−1〜B−6を形成した。
(a)ついで、上記の工具基体A−1〜A−10およびB−1〜B−6のそれぞれを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、図1に示されるアークイオンプレーティング装置内の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部にそって装着し、一方側のカソード電極(蒸発源)として、所定成分組成の薄層A形成用Cr−Al−M合金、他方側のカソード電極(蒸発源)として、同じく所定成分組成をもった薄層B形成用Cr−Al−M合金を前記回転テーブルを挟んで対向配置し、さらに、上記両カソード電極(蒸発源)のいずれからも90°離れた位置に、下部層形成用Ti−Al(−M)合金からなるカソード電極(蒸発源)を配置し、
(b)まず、装置内を排気して0.1Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ前記下部層形成用Ti−Al(−M)合金とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって工具基体表面を前記Ti−Al(−M)合金によってボンバード洗浄し、
(c)ついで装置内に導入する反応ガスとしての窒素ガスの流量を調整して2Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加した状態で、前記下部層形成用Ti−Al(−M)合金のカソード電極とアノード電極との間に50〜100Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させて、前記工具基体の表面に表3に示される所定組成、所定層厚の下部層を形成し、
(d)引き続き、薄層A形成用Cr−Al−M合金のカソード電極とアノード電極との間に50〜100Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させて、下部層の表面に所定層厚の薄層Aを形成し、薄層A形成後、アーク放電を停止し、代って前記薄層B形成用Cr−Al−M合金のカソード電極とアノード電極間に同じく50〜100Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させて、所定層厚の薄層Bを形成した後、アーク放電を停止し、再び前記薄層A形成用Cr−Al−M合金のカソード電極とアノード電極間のアーク放電による薄層Aの形成と、前記薄層B形成用Cr−Al−M合金のカソード電極とアノード電極間のアーク放電による薄層Bの形成を交互に繰り返し行い、もって前記工具基体の表面に、層厚方向に沿って表4、5に示される組成および層厚の薄層Aと薄層Bの交互積層からなる硬質被覆層を蒸着形成することにより、
硬質被覆層が、(Ti,Al)系炭窒化物層からなる下部層と、fcc(Cr,Al,M)N層とfcc/hcp(Cr,Al,M)N層の交互積層からなる上部層とで構成された本発明表面被覆切削工具としての本発明表面被覆超硬製スローアウエイチップ(以下、本発明被覆超硬チップと云う)1〜16をそれぞれ製造した。
また、比較の目的で、これら工具基体A−1〜A−10およびB−1〜B−6を、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、それぞれ図2に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、カソード電極(蒸発源)としてCr−Al−M合金を装着し、まず、装置内を排気して0.1Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつカソード電極の前記Cr−Al−M合金とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって工具基体表面を前記Cr−Al−M合金でボンバード洗浄し、ついで装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して3Paの反応雰囲気とすると共に、前記工具基体に印加するバイアス電圧を−100Vに下げて、前記Cr−Al−M合金のカソード電極とアノード電極との間にアーク放電を発生させ、もって前記工具基体A−1〜A−10およびB−1〜B−6のそれぞれの表面に、表6に示される組成および層厚の単一相・単一結晶構造を有するfcc(Cr,Al,M)N層からなる硬質被覆層を蒸着形成することにより、比較表面被覆超硬製スローアウエイチップ(以下、比較被覆超硬チップと云う)1〜16をそれぞれ製造した。
つぎに、上記の各種の被覆超硬チップを、いずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明被覆超硬チップ1〜16および比較被覆超硬チップ1〜16について、
被削材:JIS・SUS316の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 250 m/min.、
切り込み: 2.5 mm、
送り: 0.25 mm/rev.、
切削時間: 4 分、
の条件(切削条件A)でのステンレス鋼の乾式連続高速切削加工試験(通常の切削速度は、150m/min.)、
被削材:JIS・SS400の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 220 m/min.、
切り込み: 3.0 mm、
送り: 0.15 mm/rev.、
切削時間: 6 分、
の条件(切削条件B)での軟鋼の乾式連続高速切削加工試験(通常の切削速度は、180m/min.)、
被削材:JIS・SCMnH2の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 250 m/min.、
切り込み: 2.0 mm、
送り: 0.25 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件C)での高マンガン鋼の乾式連続高速切削加工試験(通常の切削速度は、150m/min.)を行い、いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表7に示した。
Figure 2009101491
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Figure 2009101491
Figure 2009101491
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原料粉末として、平均粒径:5.5μmを有する中粗粒WC粉末、同0.8μmの微粒WC粉末、同1.3μmのTaC粉末、同1.2μmのNbC粉末、同1.2μmのZrC粉末、同2.3μmのCr32粉末、同1.5μmのVC粉末、同1.0μmの(Ti,W)C[質量比で、TiC/WC=50/50]粉末、および同1.8μmのCo粉末を用意し、これら原料粉末をそれぞれ表8に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、100MPaの圧力で所定形状の各種の圧粉体にプレス成形し、これらの圧粉体を、6Paの真空雰囲気中、7℃/分の昇温速度で1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に昇温し、この温度に1時間保持後、炉冷の条件で焼結して、直径が8mm、13mm、および26mmの3種の超硬基体形成用丸棒焼結体を形成し、さらに前記の3種の丸棒焼結体から、研削加工にて、表8に示される組合せで、切刃部の直径×長さがそれぞれ6mm×13mm、10mm×22mm、および20mm×45mmの寸法、並びにいずれもねじれ角30度の4枚刃スクエア形状をもったWC基超硬合金製の工具基体(エンドミル)C−1〜C−8をそれぞれ製造した。
ついで、これらの超硬基体(エンドミル)C−1〜C−8の表面をアセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図1に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、層厚方向に沿って表9に示される組成、層厚の下部層および表10に示される組成、層厚の交互積層からなる上部層を蒸着形成することにより、硬質被覆層が、(Ti,Al)系炭窒化物層からなる下部層と、fcc(Cr,Al,M)N層とfcc/hcp(Cr,Al,M)N層の交互積層からなる上部層とで構成された本発明表面被覆切削工具としての本発明表面被覆超硬製エンドミル(以下、本発明被覆超硬エンドミルと云う)1〜8を製造した。
また、比較の目的で、上記の工具基体(エンドミル)C−1〜C−8の表面をアセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図2に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、同じく表11に示される組成および層厚の単一相・単一結晶構造を有する(Cr,Al,M)N層からなる硬質被覆層を蒸着することにより、比較表面被覆超硬製エンドミル(以下、比較被覆超硬エンドミルと云う)1〜8を製造した。
つぎに、上記本発明被覆超硬エンドミル1〜8および比較被覆超硬エンドミル1〜8のうち、
本発明被覆超硬エンドミル1〜3および比較被覆超硬エンドミル1〜3については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法のJIS・SS400の板材、
切削速度: 50 m/min.、
溝深さ(切り込み): 3 mm、
テーブル送り: 350 mm/分、
の条件での軟鋼の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は、30m/min.)を行い、
本発明被覆超硬エンドミル4〜6および比較被覆超硬エンドミル4〜6については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法のJIS・SUS304の板材、
切削速度: 55 m/min.、
溝深さ(切り込み): 4 mm、
テーブル送り: 350 mm/分、
の条件でのステンレス鋼の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は、40m/min.)を行い、
本発明被覆超硬エンドミル7,8および比較被覆超硬エンドミル7,8については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法のJIS・SCMnH2の板材、
切削速度: 45 m/min.、
溝深さ(切り込み): 8 mm、
テーブル送り: 200 mm/分、
の条件での高マンガン鋼の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は、35m/min.)を行い、
上記のいずれの溝切削加工試験でも、切刃部の外周刃の逃げ面摩耗幅が使用寿命の目安とされる0.1mmに至るまでの切削溝長を測定した。
上記の測定結果を表10、11にそれぞれ示した。
Figure 2009101491
Figure 2009101491
Figure 2009101491
Figure 2009101491
上記の実施例2で製造した直径が8mm(超硬基体C−1〜C−3形成用)、13mm(超硬基体C−4〜C−6形成用)、および26mm(超硬基体C−7、
C−8形成用)の3種の丸棒焼結体を用い、この3種の丸棒焼結体から、研削加工にて、溝形成部の直径×長さがそれぞれ 4mm×13mm(超硬基体D−1〜D−3)、 8mm×22mm(超硬基体D−4〜D−6)、および16mm×45mm(超硬基体D−7、D−8)の寸法、並びにいずれもねじれ角30度の2枚刃形状をもったWC基超硬合金製の工具基体(ドリル)D−1〜D−8をそれぞれ製造した。
ついで、これらの工具基体(ドリル)D−1〜D−8の切刃に、ホーニングを施し、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図1に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、表12に示される組成、層厚の下部層および表13に示される組成、層厚の交互積層からなる上部層を蒸着形成することにより、硬質被覆層が、(Ti,Al)系炭窒化物層からなる下部層と、fcc(Cr,Al,M)N層とfcc/hcp(Cr,Al,M)N層の交互積層からなる上部層とで構成された本発明表面被覆切削工具としての本発明表面被覆超硬製ドリル(以下、本発明被覆超硬ドリルと云う)1〜8を製造した。
また、比較の目的で、上記の工具基体(ドリル)D−1〜D−8の表面に、ホーニングを施し、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図2に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、同じく表14に示される組成および層厚の単一相・単一結晶構造を有する(Cr,Al,M)N層からなる硬質被覆層を蒸着することにより、比較表面被覆超硬製ドリル(以下、比較被覆超硬ドリルと云う)1〜8を製造した。
つぎに、上記本発明被覆超硬ドリル1〜8および比較被覆超硬ドリル1〜8のうち、
本発明被覆超硬ドリル1〜3および比較被覆超硬ドリル1〜3については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法のJIS・SUS316の板材、
切削速度: 45 m/min.、
送り: 0.2 mm/rev、
穴深さ: 12 mm、
の条件でのステンレス鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は、25m/min.)を行い、
本発明被覆超硬ドリル4〜6および比較被覆超硬ドリル4〜6については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法のJIS・SCMnH2の板材、
切削速度: 50 m/min.、
送り: 0.3 mm/rev、
穴深さ: 25 mm、
の条件での高マンガン鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は、30m/min.)を行い、
本発明被覆超硬ドリル7,8および比較被覆超硬ドリル7,8については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法のJIS・SS400の板材、
切削速度: 55 m/min.、
送り: 0.15 mm/rev、
穴深さ: 50 mm、
の条件での軟鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は、35m/min.)を行い、
上記いずれの湿式高速穴あけ切削加工試験(水溶性切削油使用)でも、先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまでの穴あけ加工数を測定した。この測定結果を表13、14にそれぞれ示した。
Figure 2009101491
Figure 2009101491
Figure 2009101491
この結果得られた本発明表面被覆切削工具としての本発明被覆超硬チップ1〜16、本発明被覆超硬エンドミル1〜8および本発明被覆超硬ドリル1〜8の硬質被覆層を構成する下部層、薄層Aおよび薄層Bそれぞれの組成を、また、比較表面被覆切削工具としての比較被覆超硬チップ1〜16、比較被覆超硬エンドミル1〜8および比較被覆超硬ドリル1〜8の硬質被覆層の組成を、透過型電子顕微鏡を用いてのエネルギー分散型X線分析法により測定したところ、それぞれ目標組成と実質的に同じ組成を示した。
また、上記の硬質被覆層の構成層の平均層厚を透過型電子顕微鏡を用いて断面測定したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均値(5ヶ所の平均値)を示した。
さらに、本発明表面被覆切削工具の薄層A、薄層Bを構成する組成の(Cr,Al,M)N層、(Cr,Al,M)N層および比較表面被覆切削工具の硬質被覆層を構成する組成の(Cr,Al,M)N層について、各層の結晶構造をX線回折により求め、その結果を表4〜6、10、11、13、14に示した。
また、本発明表面被覆切削工具の薄層Bを構成する組成の(Cr,Al,M)N層については、X線回折により測定した立方晶構造の(200)面からの回折ピーク強度I(f)と、六方晶構造の(100)面からの回折ピーク強度I(h)との比の値I(f)/I(h)についても、表4、5、10、13に示した。
表3〜7、9〜14に示される結果から、本発明表面被覆切削工具は、硬質被覆層が、下部層と、薄層Aと薄層Bの交互積層構造の上部層とからなり、上部層は層間付着強度が大であるとともに、特に、薄層Aがすぐれた耐摩耗性を、また、薄層Bがすぐれた潤滑性を備え、また、下部層はすぐれた高温強度を備えると共に工具基体への硬質被覆層の密着強度を高めているので、硬質被覆層は全体としてこれらのすぐれた特性を兼ね備えたものとなり、その結果、高熱発生を伴うとともに、切刃部に対して大きな衝撃的・機械的負荷がかかる軟鋼、ステンレス鋼、高マンガン鋼等の難削材の高速断続切削加工でも、すぐれた耐摩耗性を発揮するのに対して、硬質被覆層が単一相・単一結晶構造の(Cr,Al,M)N層からなる被覆工具は、特に硬質被覆層の潤滑性不足、高温強度不足が原因で切刃部にチッピング、欠損が生じたり、また、摩耗の進行が速くなり、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
上述のように、この発明の表面被覆切削工具は、各種の鋼や鋳鉄などの通常の切削条件での切削加工は勿論のこと、特に高熱発生を伴うとともに、切刃部に対して大きな衝撃的・機械的負荷がかかる軟鋼、ステンレス鋼、高マンガン鋼等の難削材の高速断続切削加工でも、すぐれた耐摩耗性を発揮し、長期に亘ってすぐれた切削性能を示すものであるから、切削加工装置の高性能化、並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
本発明表面被覆切削工具を構成する硬質被覆層を形成するのに用いたアークイオンプレーティング装置を示し、(a)は概略平面図、(b)は概略正面図である。 通常のアークイオンプレーティング装置の概略説明図である。

Claims (1)

  1. 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、硬質被覆層として下部層と上部層が蒸着形成された表面被覆切削工具において、
    (a)上記下部層は、0.1〜1.5μmの層厚を有し、
    組成式:(Ti1−Q−RAl1R)(C,N)
    で表した場合に、0.4≦Q≦0.65、0≦R≦0.1(但し、Qは原子比によるAlの含有割合、Rは原子比による成分Mの合計含有割合であり、また、成分Mは、Si、B、Zr、Y、V、W、NbまたはMoから選ばれる1種または2種以上の元素を示す)を満足するTiとAlとMの複合窒化物または複合炭窒化物層、
    (b)上記上部層は、1〜8μmの合計層厚を有するとともに、それぞれ25〜100nmの一層層厚を有する薄層Aと薄層Bの交互積層からなるCrとAlの複合窒化物層であって、さらに、
    (c)上記薄層Aは、
    組成式:(Cr1−α−βAlα2β)N
    で表した場合に、0.25≦α≦0.65、0<β≦0.1(但し、αは原子比によるAlの含有割合、βは原子比による成分Mの合計含有割合であり、また、成分Mは、Zr、Y、V、W、Nb、MoまたはTiから選ばれる1種または2種以上の元素を示す)を満足する立方晶構造のCrとAlとMの複合窒化物層であり、
    (d)上記薄層Bは、
    組成式:(Cr1−γ−δAlγ3δ)N
    で表した場合に、0.75≦γ≦0.95、0<δ≦0.1(但し、γは原子比によるAlの含有割合、δは原子比による成分Mの合計含有割合であり、また、成分Mは、Zr、Y、V、W、Nb、MoまたはTiから選ばれる1種または2種以上の元素を示す)を満足し、
    (e)さらに、上記薄層Bについて測定した立方晶結晶格子の(200)面からのX線回折強度のピーク強度I(f)と、六方晶結晶格子の(100)面からのX線回折強度のピーク強度I(h)の比の値I(f)/I(h)が、0.1≦I(f)/I(h)≦10.0を満足する立方晶構造と六方晶構造の混在するCrとAlとMの複合窒化物層である、
    ことを特徴とする表面被覆切削工具。
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