JP2009119551A - 高速高送り切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents
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Abstract
【課題】低中硬度被削材の高速高送り切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具を提供する。
【解決手段】工具基体の表面に、(a)組成式:(Cr1−αAlα)Nあるいは組成式:(Cr1−α−βAlαMβ)N(但し、Mは、Crを除く周期律表4a,5a,6a族の元素、Si、B、Yのうちから選ばれた1種又は2種以上の添加成分を示し、原子比で、0.45≦α≦0.75、0.01≦β≦0.25)を満足するCrとAl(とM)の複合窒化物層からなる下部層、(b)組成式:(Cr1−γYγ)N(但し、原子比で、0.01≦γ≦0.1)を満足するCrとYの複合窒化物層からなる上部層、以上(a)、(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる表面被覆切削工具。
【選択図】 なし
【解決手段】工具基体の表面に、(a)組成式:(Cr1−αAlα)Nあるいは組成式:(Cr1−α−βAlαMβ)N(但し、Mは、Crを除く周期律表4a,5a,6a族の元素、Si、B、Yのうちから選ばれた1種又は2種以上の添加成分を示し、原子比で、0.45≦α≦0.75、0.01≦β≦0.25)を満足するCrとAl(とM)の複合窒化物層からなる下部層、(b)組成式:(Cr1−γYγ)N(但し、原子比で、0.01≦γ≦0.1)を満足するCrとYの複合窒化物層からなる上部層、以上(a)、(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる表面被覆切削工具。
【選択図】 なし
Description
この発明は、特に銅合金、一般鋼、普通鋳鉄などのいわゆるHRC50以下の低中硬度の被削材を、高熱発生を伴うとともに切刃部に対して大きな機械的負荷がかかる高速高送り条件で切削加工した場合に、硬質被覆層がすぐれた潤滑性と耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関するものである。
一般に、被覆工具には、各種の鋼や鋳鉄などの被削材の旋削加工や平削り加工にバイトの先端部に着脱自在に取り付けて用いられるスローアウエイチップ、前記被削材の穴あけ切削加工などに用いられるドリルやミニチュアドリル、さらに前記被削材の面削加工や溝加工、肩加工などに用いられるソリッドタイプのエンドミルなどがあり、また前記スローアウエイチップを着脱自在に取り付けて前記ソリッドタイプのエンドミルと同様に切削加工を行うスローアウエイエンドミル工具などが知られている。
また、被覆工具として、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットで構成された工具基体の表面に、
組成式:(Cr1−PAlP)Nまたは組成式:(Cr1−P−QAlPMQ)N(ここで、Mは、Crを除く周期律表4a,5a,6a族の元素、Si、B、Yのうちから選ばれた1種又は2種以上の添加成分であり、また、P、Qは原子比によるAl成分、M成分の含有割合を示す)
を満足するCrとAlの複合窒化物層あるいはCrとAlとMの複合窒化物層(以下、これらを総称して、(Cr,Al,M)Nで示す)からなる硬質被覆層を物理蒸着してなる被覆工具が知られており、かつ前記被覆工具の硬質被覆層である(Cr,Al,M)N層が、構成成分であるAlによって高温硬さ、同Crによって高温強度、また、CrとAlの共存含有によって耐熱性が向上すること、さらに、M成分として、Crを除く周期律表4a,5a,6a族の元素、Si、B、Yのうちから選ばれた1種又は2種以上を含有させた場合には、硬質被覆層の耐摩耗性、高温耐酸化性等の特性が向上することから、これを各種の一般鋼や普通鋳鉄などの連続切削や断続切削加工に用いた場合にすぐれた切削性能を発揮することも知られている。
組成式:(Cr1−PAlP)Nまたは組成式:(Cr1−P−QAlPMQ)N(ここで、Mは、Crを除く周期律表4a,5a,6a族の元素、Si、B、Yのうちから選ばれた1種又は2種以上の添加成分であり、また、P、Qは原子比によるAl成分、M成分の含有割合を示す)
を満足するCrとAlの複合窒化物層あるいはCrとAlとMの複合窒化物層(以下、これらを総称して、(Cr,Al,M)Nで示す)からなる硬質被覆層を物理蒸着してなる被覆工具が知られており、かつ前記被覆工具の硬質被覆層である(Cr,Al,M)N層が、構成成分であるAlによって高温硬さ、同Crによって高温強度、また、CrとAlの共存含有によって耐熱性が向上すること、さらに、M成分として、Crを除く周期律表4a,5a,6a族の元素、Si、B、Yのうちから選ばれた1種又は2種以上を含有させた場合には、硬質被覆層の耐摩耗性、高温耐酸化性等の特性が向上することから、これを各種の一般鋼や普通鋳鉄などの連続切削や断続切削加工に用いた場合にすぐれた切削性能を発揮することも知られている。
さらに、上記の被覆工具が、例えば図2に概略説明図で示される物理蒸着装置の1種であるアークイオンプレーティング装置に上記の工具基体を装入し、ヒータで装置内を、例えば500℃の温度に加熱した状態で、硬質被覆層の目標組成に対応した所定組成を有するCr−Al合金あるいはCr−Al−M合金(以下、これらを総称して、Cr−Al−M合金で示す)がセットされたカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間に、例えば電流:90Aの条件でアーク放電を発生させ、同時に装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して、例えば2Paの反応雰囲気とし、一方上記工具基体には、例えば−100Vのバイアス電圧を印加した条件で、前記工具基体の表面に、目標組成の(Cr,Al,M)N層からなる硬質被覆層をそれぞれ蒸着することにより製造されることも知られている。
特開平9−41127号公報
特開平10−25566号公報
特開2004−106183号公報
特開2004−269985号公報
特開2005−330539号公報
特開2006−82209号公報
近年の切削加工装置のFA化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削工具には被削材の材種にできるだけ影響を受けない汎用性、すなわち、できるだけ多くの材種の切削加工が可能な切削工具が求められる傾向にあるが、上記の従来被覆工具においては、これを、銅合金、低合金鋼、炭素鋼、ダクタイル鋳鉄、ねずみ鋳鉄などの、いわゆる低中硬度被削材の通常切削速度での切削加工に用いた場合には問題ないが、これらの低中硬度被削材を、高い発熱をともなうとともに、切刃部に局部的に高負荷がかかる高速高送り条件で切削した場合には、切削時の発熱によって被削材および切粉は高温に加熱されて粘性が増大し、これに伴って硬質被覆層表面に対する溶着性が一段と増すようになり、この結果切刃部におけるチッピング(微少欠け)の発生が急激に増加し、これが原因で比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、特に銅合金、低合金鋼、炭素鋼、ダクタイル鋳鉄、ねずみ鋳鉄などのいわゆる低中硬度被削材の切削加工を、高速高送り切削条件で切削加工した場合に、硬質被覆層がすぐれた潤滑性とすぐれた耐チッピング性を発揮する被覆工具を開発すべく、上記の従来被覆工具に着目し、研究を行った結果、
上記従来被覆超硬工具の硬質被覆層である(Cr,Al,M)N層を下部層として1〜5μmの平均層厚で形成し、これの上に上部層として、Crとの合量に占めるYの含有割合が1〜10原子%となるようにY成分を含有させたCrとYの複合窒化物層(以下、(Cr,Y)N層で示す)を形成すると、下部層である(Cr,Al,M)N層はすぐれた高温硬さ、高温強度、耐熱性を示し、また、上部層である(Cr,Y)N層はすぐれた潤滑性を示が、特に、上部層の(Cr,Y)N層中に含有されるY成分によって、(Cr,Y)N層の耐熱性が向上することから、高熱発生を伴う切削加工においても、(Cr,Y)N層のすぐれた潤滑性は維持され、したがって、工具表面に溶着し易い低中硬度被削材の高速高送り切削加工において、切刃部が高温になったとしても被削材との溶着発生が防止され、その結果、切刃部におけるチッピング(微少欠け)の発生が抑制され、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性が発揮されることを見出し、本発明に至ったものである。
上記従来被覆超硬工具の硬質被覆層である(Cr,Al,M)N層を下部層として1〜5μmの平均層厚で形成し、これの上に上部層として、Crとの合量に占めるYの含有割合が1〜10原子%となるようにY成分を含有させたCrとYの複合窒化物層(以下、(Cr,Y)N層で示す)を形成すると、下部層である(Cr,Al,M)N層はすぐれた高温硬さ、高温強度、耐熱性を示し、また、上部層である(Cr,Y)N層はすぐれた潤滑性を示が、特に、上部層の(Cr,Y)N層中に含有されるY成分によって、(Cr,Y)N層の耐熱性が向上することから、高熱発生を伴う切削加工においても、(Cr,Y)N層のすぐれた潤滑性は維持され、したがって、工具表面に溶着し易い低中硬度被削材の高速高送り切削加工において、切刃部が高温になったとしても被削材との溶着発生が防止され、その結果、切刃部におけるチッピング(微少欠け)の発生が抑制され、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性が発揮されることを見出し、本発明に至ったものである。
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、
「(1) 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)1〜5μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Cr1−αAlα)N(但し、αはAlの含有割合を示し、原子比で、0.45≦α≦0.75である)を満足するCrとAlの複合窒化物層からなる下部層、
(b)1〜5μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Cr1−γYγ)N(但し、γはYの含有割合を示し、原子比で、0.01≦γ≦0.1である)を満足するCrとYの複合窒化物層からなる上部層、
以上(a)、(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる、低中硬度被削材の高速高送り切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具。
(2) 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)1〜5μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Cr1−α−βAlαMβ)N(ここで、Mは、Crを除く周期律表4a,5a,6a族の元素、Si、B、Yのうちから選ばれた1種又は2種以上の添加成分を示し、また、αはAlの含有割合、βはMの含有割合をそれぞれ示し、原子比で、0.45≦α≦0.75、0.01≦β≦0.25である)を満足するCrとAlとMの複合窒化物層からなる下部層、
(b)1〜5μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Cr1−γYγ)N(但し、γはYの含有割合を示し、原子比で、0.01≦γ≦0.1である)を満足するCrとYの複合窒化物層からなる上部層、
以上(a)、(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる、低中硬度被削材の高速高送り切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
「(1) 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)1〜5μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Cr1−αAlα)N(但し、αはAlの含有割合を示し、原子比で、0.45≦α≦0.75である)を満足するCrとAlの複合窒化物層からなる下部層、
(b)1〜5μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Cr1−γYγ)N(但し、γはYの含有割合を示し、原子比で、0.01≦γ≦0.1である)を満足するCrとYの複合窒化物層からなる上部層、
以上(a)、(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる、低中硬度被削材の高速高送り切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具。
(2) 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)1〜5μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Cr1−α−βAlαMβ)N(ここで、Mは、Crを除く周期律表4a,5a,6a族の元素、Si、B、Yのうちから選ばれた1種又は2種以上の添加成分を示し、また、αはAlの含有割合、βはMの含有割合をそれぞれ示し、原子比で、0.45≦α≦0.75、0.01≦β≦0.25である)を満足するCrとAlとMの複合窒化物層からなる下部層、
(b)1〜5μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Cr1−γYγ)N(但し、γはYの含有割合を示し、原子比で、0.01≦γ≦0.1である)を満足するCrとYの複合窒化物層からなる上部層、
以上(a)、(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる、低中硬度被削材の高速高送り切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
つぎに、この発明の被覆工具の硬質被覆層の構成層に関し、上記の通りに数値限定した理由を説明する。
(a)下部層の組成および平均層厚
下部層を構成する(Cr,Al,M)Nの構成成分であるAl成分には硬質被覆層における高温硬さを向上させ、同Cr成分には高温強度を向上させ、また、CrとAlの共存含有によって耐熱性を向上させる作用があり、さらに、M成分のうちの、Crを除く周期律表4a,5a,6a族の元素、Si、B、には硬質被覆層の耐摩耗性を向上させる作用があり、また、Yには硬質被覆層の高温耐酸化性を向上させる作用があるが、Alの割合を示すα値がCrとの合量あるいはCrとMの合量に占める割合(原子比、以下同じ)で0.45未満になると、所定の高温硬さを確保することができず、これが耐摩耗性低下の原因となり、一方Alの割合を示すα値が同0.75を越えると、相対的にCrの含有割合が減少し、高速高送り切削加工で必要とされる高温強度を確保することができず、チッピングの発生を防止することが困難になり、さらに、M成分の含有割合を示すβ値がCrとの合量に占める割合(原子比、以下同じ)で0.01未満では、M成分を含有させたことによる耐摩耗性、高温耐酸化性等の特性向上が期待できず、一方同β値が0.25を超えると、高温強度に低下傾向が現れるようになることから、α値を0.45〜0.75、β値を0.01〜0.25と定めた。
下部層を構成する(Cr,Al,M)Nの構成成分であるAl成分には硬質被覆層における高温硬さを向上させ、同Cr成分には高温強度を向上させ、また、CrとAlの共存含有によって耐熱性を向上させる作用があり、さらに、M成分のうちの、Crを除く周期律表4a,5a,6a族の元素、Si、B、には硬質被覆層の耐摩耗性を向上させる作用があり、また、Yには硬質被覆層の高温耐酸化性を向上させる作用があるが、Alの割合を示すα値がCrとの合量あるいはCrとMの合量に占める割合(原子比、以下同じ)で0.45未満になると、所定の高温硬さを確保することができず、これが耐摩耗性低下の原因となり、一方Alの割合を示すα値が同0.75を越えると、相対的にCrの含有割合が減少し、高速高送り切削加工で必要とされる高温強度を確保することができず、チッピングの発生を防止することが困難になり、さらに、M成分の含有割合を示すβ値がCrとの合量に占める割合(原子比、以下同じ)で0.01未満では、M成分を含有させたことによる耐摩耗性、高温耐酸化性等の特性向上が期待できず、一方同β値が0.25を超えると、高温強度に低下傾向が現れるようになることから、α値を0.45〜0.75、β値を0.01〜0.25と定めた。
また、その平均層厚が1μm未満では、自身のもつすぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するには不十分であり、一方その平均層厚が5μmを越えると、上記の高速高送り切削では切刃部にチッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1〜5μmと定めた。
(b)上部層の組成
上部層を構成するCrとYの複合窒化物(以下、(Cr,Y)Nと略記する)層は、所定の高温硬さ、高温強度、潤滑性を有するとともに、その構成成分であるY成分によって、すぐれた耐熱性を備えるようになり、そのため、高温切削条件下でも低摩擦係数が維持され、すぐれた潤滑性を発揮するようになるが、Yの含有割合を示すγ値がCrとの合量に占める割合(原子比、以下同じ)で0.01未満になると、耐熱性を確保することができないために潤滑効果を期待することはできず、一方、Yの割合を示すγ値が同0.10を越えると、相対的にCrの含有割合が減少し、低中硬度で溶着性が高い被削材の高速高送り切削加工で必要とされる高温強度を確保することができないばかりか、潤滑性も低下し、チッピング発生を防止することが困難になることから、γ値を0.01〜0.10(原子比、以下同じ)と定めた。
上部層を構成するCrとYの複合窒化物(以下、(Cr,Y)Nと略記する)層は、所定の高温硬さ、高温強度、潤滑性を有するとともに、その構成成分であるY成分によって、すぐれた耐熱性を備えるようになり、そのため、高温切削条件下でも低摩擦係数が維持され、すぐれた潤滑性を発揮するようになるが、Yの含有割合を示すγ値がCrとの合量に占める割合(原子比、以下同じ)で0.01未満になると、耐熱性を確保することができないために潤滑効果を期待することはできず、一方、Yの割合を示すγ値が同0.10を越えると、相対的にCrの含有割合が減少し、低中硬度で溶着性が高い被削材の高速高送り切削加工で必要とされる高温強度を確保することができないばかりか、潤滑性も低下し、チッピング発生を防止することが困難になることから、γ値を0.01〜0.10(原子比、以下同じ)と定めた。
(c)上部層の平均層厚
硬質被覆層を構成する(Cr,Y)N層の平均層厚が1μm未満では、自身のもつすぐれた耐熱性、潤滑性を長期に亘って発揮するには不十分であり、一方その平均層厚が5μmを越えると、銅合金、炭素鋼等の低中硬度で溶着性が高い被削材の高速高送り切削加工では切刃部にチッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1〜5μmと定めた。
硬質被覆層を構成する(Cr,Y)N層の平均層厚が1μm未満では、自身のもつすぐれた耐熱性、潤滑性を長期に亘って発揮するには不十分であり、一方その平均層厚が5μmを越えると、銅合金、炭素鋼等の低中硬度で溶着性が高い被削材の高速高送り切削加工では切刃部にチッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1〜5μmと定めた。
そして、上記(Cr,Al,M)N層、(Cr,Y)N層は、例えば図1に概略説明図で示される物理蒸着装置の1種であるアークイオンプレーティング装置に基体を装入し、ヒータで装置内を、例えば500℃の温度に加熱した状態で、装置内に所定組成のCr−Al−M合金からなるカソード電極(蒸発源)と、所定組成のCr−Y合金からなるカソード電極(蒸発源)とを配置し、アノード電極とCr−Al−M合金からなるカソード電極(蒸発源)との間に、例えば電流:90Aの条件でアーク放電を発生させ、同時に装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して、例えば2Paの反応雰囲気とし、一方上記基体には、例えば−100Vのバイアス電圧を印加した条件で蒸着することにより、上記(Cr,Al,M)層をまず下部層として蒸着形成し、その後、Cr−Y合金カソード電極とアノード電極の間に、前記同様アーク放電を発生させることにより、(Cr,Y)N層からなる上部層を蒸着形成することができる。
この発明の被覆工具は、硬質被覆層を構成する下部層の(Cr,Al,M)N層が、すぐれた高温硬さ、耐熱性、高温強度を有し、あるいは、さらにすぐれた耐摩耗性、高温耐酸化性を有し、また、上部層の(Cr,Y)N層が、すぐれた潤滑性と耐熱性を兼ね備えていることから、硬質被覆層は全体として、すぐれた高温硬さ、耐熱性、高温強度等に加え、すぐれた潤滑性を備えたものとなり、その結果、特に銅合金、一般鋼、普通鋳鉄などのいわゆるHRC50以下の低中硬度被削材の、大きな発熱を伴い、かつ、高負荷のかかる高速高送り切削加工であっても、すぐれた耐チッピング性を示し、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮するものである。
つぎに、この発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr3C2粉末、TiN粉末、TaN粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、ボールミルで72時間湿式混合し、乾燥した後、100MPa の圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を6Paの真空中、温度:1400℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、ISO規格・CNMG120408のチップ形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A−1〜A−10を形成した。
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比で、TiC/TiN=50/50)粉末、Mo2C粉末、ZrC粉末、NbC粉末、TaC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、100MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を2kPaの窒素雰囲気中、温度:1500℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、ISO規格・CNMG120408のチップ形状をもったTiCN基サーメット製の工具基体B−1〜B−6を形成した。
(a)ついで、上記の工具基体A−1〜A−10およびB−1〜B−6のそれぞれを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、図1に示されるアークイオンプレーティング装置内の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部にそって装着し、前記回転テーブルを挟んで相対向する両側にカソード電極(蒸発源)を配置し、その一方にはカソード電極(蒸発源)として所定組成の下部層形成用のCr−Al−M合金を配置し、また、その他方にはカソード電極(蒸発源)として所定組成の上部層形成用のCr−Y合金を配置し、
(b)まず、装置内を排気して0.1Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつカソード電極の前記下部層形成用Cr−Al−M合金とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって工具基体表面を前記Cr−Al−M合金によってボンバード洗浄し、
(c)次に、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して4Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加し、かつカソード電極の前記Cr−Al−M合金とアノード電極との間に120Aの電流を流してアーク放電を発生させ、前記工具基体の表面に、表3、表4に示される目標組成、目標層厚の下部層としての(Cr,Al,M)N層を1〜5μmの平均層厚で蒸着形成した後、前記Cr−Al−M合金のカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間のアーク放電を停止し、
(d)引き続いて装置内雰囲気を2Paの窒素雰囲気に保持したままで、カソード電極(蒸発源)であるCr−Y合金電極とアノード電極との間に120Aの電流を流してアーク放電を発生させて、表3、表4に示される目標層厚の(Cr,Y)N層を蒸着形成し、
上記(a)〜(d)により硬質被覆層を蒸着形成し、本発明被覆工具としての本発明表面被覆スローアウエイチップ(以下、本発明被覆チップと云う)1〜39をそれぞれ製造した。
(b)まず、装置内を排気して0.1Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつカソード電極の前記下部層形成用Cr−Al−M合金とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって工具基体表面を前記Cr−Al−M合金によってボンバード洗浄し、
(c)次に、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して4Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加し、かつカソード電極の前記Cr−Al−M合金とアノード電極との間に120Aの電流を流してアーク放電を発生させ、前記工具基体の表面に、表3、表4に示される目標組成、目標層厚の下部層としての(Cr,Al,M)N層を1〜5μmの平均層厚で蒸着形成した後、前記Cr−Al−M合金のカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間のアーク放電を停止し、
(d)引き続いて装置内雰囲気を2Paの窒素雰囲気に保持したままで、カソード電極(蒸発源)であるCr−Y合金電極とアノード電極との間に120Aの電流を流してアーク放電を発生させて、表3、表4に示される目標層厚の(Cr,Y)N層を蒸着形成し、
上記(a)〜(d)により硬質被覆層を蒸着形成し、本発明被覆工具としての本発明表面被覆スローアウエイチップ(以下、本発明被覆チップと云う)1〜39をそれぞれ製造した。
また、比較の目的で、これら工具基体A−1〜A−10およびB−1〜B−6を、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、それぞれ図2に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、カソード電極(蒸発源)として所定組成のCr−Al−M合金を装着し、まず、装置内を排気して0.1Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつカソード電極のCr−Al−M合金とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって工具基体表面を前記Cr−Al−M合金でボンバード洗浄し、ついで装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して3Paの反応雰囲気とすると共に、前記工具基体に印加するバイアス電圧を−100Vに下げて、前記所定組成の各カソード電極とアノード電極との間にアーク放電を発生させ、もって前記工具基体A−1〜A−10およびB−1〜B−6のそれぞれの表面に、表5、表6に示される目標組成および目標層厚の(Cr,Al,M)N層で構成された硬質被覆層を蒸着形成することにより、比較被覆工具としての表面被覆スローアウエイチップ(以下、比較被覆チップと云う)1〜16をそれぞれ製造した。
つぎに、上記の各種の被覆チップを、いずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明被覆チップ1〜39および比較被覆チップ1〜16について、
被削材:JIS・FC400の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 180 m/min.、
切り込み: 2 mm、
送り: 0.4 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件A)での鋳鉄の乾式断続高速高送り切削加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、100m/min.、0.15mm/rev.)、
被削材:JIS・C1100の丸棒、
切削速度: 200 m/min.、
切り込み: 2 mm、
送り: 0.3 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件B)での銅合金の乾式連続高速高送り切削加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、120m/min.、0.15mm/rev.)、
被削材:JIS・SCM440の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 220 m/min.、
切り込み: 2 mm、
送り: 0.3 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件C)での合金鋼の乾式断続高速高送り切削加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、130m/min.、0.15mm/rev.)、
を行い、いずれの高速高送り切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表7、表8に示した。
被削材:JIS・FC400の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 180 m/min.、
切り込み: 2 mm、
送り: 0.4 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件A)での鋳鉄の乾式断続高速高送り切削加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、100m/min.、0.15mm/rev.)、
被削材:JIS・C1100の丸棒、
切削速度: 200 m/min.、
切り込み: 2 mm、
送り: 0.3 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件B)での銅合金の乾式連続高速高送り切削加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、120m/min.、0.15mm/rev.)、
被削材:JIS・SCM440の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 220 m/min.、
切り込み: 2 mm、
送り: 0.3 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件C)での合金鋼の乾式断続高速高送り切削加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、130m/min.、0.15mm/rev.)、
を行い、いずれの高速高送り切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表7、表8に示した。
実施例1と同様、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr3C2粉末、TiN粉末、TaN粉末、およびCo粉末からなる原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、ボールミルで72時間湿式混合し、乾燥した後、100MPa の圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を6Paの真空中、温度:1400℃に1時間保持の条件で焼結し、直径が13mmの工具基体形成用丸棒焼結体を形成し、さらに前記の丸棒焼結体から、研削加工にて、切刃部の直径×長さが10mm×22mmの寸法、並びにねじれ角30度の4枚刃スクエア形状をもったWC基超硬合金製の工具基体(エンドミル)A−1〜A−10をそれぞれ製造した。
ついで、これらの工具基体(エンドミル)A−1〜A−10の表面をアセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図1に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、表10に示される目標組成および目標層厚の(Cr,Al,M)N層、および、同じく表9に示される目標層厚の(Cr,Y)N層からなる硬質被覆層を蒸着形成することにより、本発明被覆工具としての本発明表面被覆超硬製エンドミル(以下、本発明被覆エンドミルと云う)1〜27をそれぞれ製造した。
また、比較の目的で、上記の工具基体(エンドミル)A−1〜A−10の表面をアセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図2に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、表10に示される目標組成および目標層厚の(Cr,Al,M)N層からなる硬質被覆層を蒸着することにより、比較被覆工具としての表面被覆超硬製エンドミル(以下、比較被覆エンドミルと云う)1〜10をそれぞれ製造した。
つぎに、上記本発明被覆エンドミル1〜27および比較被覆エンドミル1〜10について、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・FC400の板材、
切削速度: 50 m/min.、
溝深さ(切り込み): 2.5 mm、
テーブル送り: 180 mm/分、
の条件(切削条件D)での鋳鉄の乾式高速高送り溝切削加工試験(通常の切削速度およびテーブル送りは、それぞれ、30m/min.、120mm/分)、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・C1100の板材、
切削速度: 60 m/min.、
溝深さ(切り込み): 3.0 mm、
テーブル送り: 180 mm/分、
の条件(切削条件E)での銅合金の乾式高速高送り溝切削加工試験(通常の切削速度およびテーブル送りは、それぞれ、30m/min.、120mm/分)、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SCM400の板材、
切削速度: 70 m/min.、
溝深さ(切り込み): 3 mm、
テーブル送り: 190 mm/分、
の条件(切削条件F)での合金鋼の乾式高速高送り溝切削加工試験(通常の切削速度およびテーブル送りは、それぞれ、30m/min.、120mm/分)、
をそれぞれ行い、いずれの高速高送り溝切削加工試験でも切刃部の外周刃の逃げ面摩耗幅が使用寿命の目安とされる0.1mmに至るまでの切削溝長を測定した。この測定結果を表9、表10にそれぞれ示した。
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・FC400の板材、
切削速度: 50 m/min.、
溝深さ(切り込み): 2.5 mm、
テーブル送り: 180 mm/分、
の条件(切削条件D)での鋳鉄の乾式高速高送り溝切削加工試験(通常の切削速度およびテーブル送りは、それぞれ、30m/min.、120mm/分)、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・C1100の板材、
切削速度: 60 m/min.、
溝深さ(切り込み): 3.0 mm、
テーブル送り: 180 mm/分、
の条件(切削条件E)での銅合金の乾式高速高送り溝切削加工試験(通常の切削速度およびテーブル送りは、それぞれ、30m/min.、120mm/分)、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SCM400の板材、
切削速度: 70 m/min.、
溝深さ(切り込み): 3 mm、
テーブル送り: 190 mm/分、
の条件(切削条件F)での合金鋼の乾式高速高送り溝切削加工試験(通常の切削速度およびテーブル送りは、それぞれ、30m/min.、120mm/分)、
をそれぞれ行い、いずれの高速高送り溝切削加工試験でも切刃部の外周刃の逃げ面摩耗幅が使用寿命の目安とされる0.1mmに至るまでの切削溝長を測定した。この測定結果を表9、表10にそれぞれ示した。
上記の実施例2で製造した直径が13mmの丸棒焼結体を用い、この丸棒焼結体から、研削加工にて、溝形成部の直径×長さがそれぞれ8mm×22mmの寸法、並びにねじれ角30度の2枚刃形状をもったWC基超硬合金製の工具基体(ドリル)A−1〜A−10をそれぞれ製造した。
ついで、これらの工具基体(ドリル)A−1〜A−10の切刃に、ホーニングを施し、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図1に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、表11に示される目標組成および目標層厚の(Cr,Al,M)N層、および、同じく表11に示される目標組成および目標層厚の(Cr,Y)N層からなる硬質被覆層を蒸着形成することにより、本発明被覆工具としての本発明表面被覆超硬製ドリル(以下、本発明被覆ドリルと云う)1〜27をそれぞれ製造した。
また、比較の目的で、上記の工具基体(ドリル)A−1〜A−10の表面に、ホーニングを施し、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図2に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、表12に示される目標組成および目標層厚を有する(Cr,Al,M)N層からなる硬質被覆層を蒸着形成することにより、比較被覆工具としての表面被覆超硬製ドリル(以下、比較被覆ドリルと云う)1〜10をそれぞれ製造した。
つぎに、上記本発明被覆ドリル1〜27および比較被覆ドリル1〜10について、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・FC400の板材、
切削速度: 60 m/min.、
送り: 0.4 mm/rev、
穴深さ: 10 mm、
の条件(切削条件G)での鋳鉄の湿式高速高送り穴あけ切削加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、30m/min.、0.2mm/rev.)、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・C1100の板材、
切削速度: 70 m/min.、
送り: 0.5 mm/rev、
穴深さ: 10 mm、
の条件(切削条件H)での銅合金の湿式高速高送り穴あけ切削加工試験((通常の切削速度および送りは、それぞれ、30m/min.、0.2mm/rev.)、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SCM440の板材、
切削速度: 80 m/min.、
送り: 0.4 mm/rev、
穴深さ: 10 mm、
の条件(切削条件I)での合金鋼の湿式高速高送り穴あけ切削加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、30m/min.、0.2mm/rev.)、
をそれぞれ行い、いずれの湿式高速穴あけ切削加工試験(水溶性切削油使用)でも先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまでの穴あけ加工数を測定した。この測定結果を表11、表12にそれぞれ示した。
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・FC400の板材、
切削速度: 60 m/min.、
送り: 0.4 mm/rev、
穴深さ: 10 mm、
の条件(切削条件G)での鋳鉄の湿式高速高送り穴あけ切削加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、30m/min.、0.2mm/rev.)、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・C1100の板材、
切削速度: 70 m/min.、
送り: 0.5 mm/rev、
穴深さ: 10 mm、
の条件(切削条件H)での銅合金の湿式高速高送り穴あけ切削加工試験((通常の切削速度および送りは、それぞれ、30m/min.、0.2mm/rev.)、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SCM440の板材、
切削速度: 80 m/min.、
送り: 0.4 mm/rev、
穴深さ: 10 mm、
の条件(切削条件I)での合金鋼の湿式高速高送り穴あけ切削加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、30m/min.、0.2mm/rev.)、
をそれぞれ行い、いずれの湿式高速穴あけ切削加工試験(水溶性切削油使用)でも先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまでの穴あけ加工数を測定した。この測定結果を表11、表12にそれぞれ示した。
この結果得られた本発明被覆工具としての本発明被覆チップ1〜39、本発明被覆エンドミル1〜27、および本発明被覆ドリル1〜27の硬質被覆層を構成する(Cr,Al,M)N層(下部層)および(Cr,Y)N層(上部層)の組成、並びに、比較被覆工具としての比較被覆チップ1〜16、比較被覆エンドミル1〜10、および比較被覆ドリル1〜10の(Cr,Al,M)N層からなる硬質被覆層の組成を、透過型電子顕微鏡を用いてのエネルギー分散X線分析法により測定したところ、それぞれ目標組成と実質的に同じ組成を示した。
また、上記の硬質被覆層を構成する各層の平均層厚を走査型電子顕微鏡を用いて断面測定したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均値(5ヶ所の平均値)を示した。
表7〜12に示される結果から、本発明被覆工具は、いずれも特に銅合金、一般鋼、普通鋳鉄などのいわゆる低中硬度の被削材の高速高送り切削加工でも、硬質被覆層の下部層である(Cr,Al,M)N層が工具基体表面に強固に密着接合した状態で、すぐれた高温硬さ、耐熱性、高温強度、あるいは、これに加えてさらにすぐれた耐摩耗性、高温耐酸化性を有し、かつ、耐熱性にすぐれた(Cr,Y)N層からなる上部層によって、前記被削材および切粉との間のすぐれた潤滑性が確保されていることによって、チッピングの発生なく、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮するのに対して、硬質被覆層が(Cr,Al,M)N層で構成され、(Cr,Y)N層を備えない比較被覆工具においては、いずれも前記被削材の高速高送り切削加工では被削材(難削材)および切粉と前記硬質被覆層との粘着性および反応性が一段と高くなるために、切刃部にチッピングが発生するようになり、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
上述のように、この発明の被覆工具は、一般的な被削材の切削加工は勿論のこと、特に上記の低中硬度の被削材の高速高送り切削加工でもすぐれた耐チッピング性と耐摩耗性を発揮し、長期に亘ってすぐれた切削性能を示すものであるから、切削加工装置のFA化、並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
Claims (2)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)1〜5μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Cr1−αAlα)N(但し、αはAlの含有割合を示し、原子比で、0.45≦α≦0.75である)を満足するCrとAlの複合窒化物層からなる下部層、
(b)1〜5μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Cr1−γYγ)N(但し、γはYの含有割合を示し、原子比で、0.01≦γ≦0.1である)を満足するCrとYの複合窒化物層からなる上部層、
以上(a)、(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる、低中硬度被削材の高速高送り切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具。 - 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)1〜5μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Cr1−α−βAlαMβ)N(ここで、Mは、Crを除く周期律表4a,5a,6a族の元素、Si、B、Yのうちから選ばれた1種又は2種以上の添加成分を示し、また、αはAlの含有割合、βはMの含有割合をそれぞれ示し、原子比で、0.45≦α≦0.75、0.01≦β≦0.25である)を満足するCrとAlとMの複合窒化物層からなる下部層、
(b)1〜5μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Cr1−γYγ)N(但し、γはYの含有割合を示し、原子比で、0.01≦γ≦0.1である)を満足するCrとYの複合窒化物層からなる上部層、
以上(a)、(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる、低中硬度被削材の高速高送り切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具。
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-
2007
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