JP5287383B2 - 高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性と耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents
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Description
「(1) 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層として、1〜5μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Ti1−αAlα)N
で表した場合、0.45≦α≦0.75(但し、αはAlの含有割合を示す原子比)を満足するTiとAlの複合窒化物層、
(b)上部層として、1〜5μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Cr1−γYγ)O
で表した場合、0.01≦γ≦0.1(但し、γはYの含有割合を示す原子比)を満足するCrとYの複合酸化物層、
上記(a)、(b)からなる硬質被覆層を蒸着形成してなる表面被覆切削工具。
(2) 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層として、1〜5μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Ti1−α−βAlαMβ)N
で表した場合、0.45≦α≦0.75、0.01≦β≦0.25、α+β<1.00(但し、Mは、Tiを除く周期律表4a,5a,6a族の元素、Si、B、Yのうちから選ばれた1種又は2種以上の添加成分を示し、また、αはAlの含有割合を示す原子比、βはMの含有割合を示す原子比)を満足するTiとAlとMの複合窒化物層、
(b)上部層として、1〜5μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Cr1−γYγ)O
で表した場合、0.01≦γ≦0.1(但し、γはYの含有割合を示す原子比)を満足するCrとYの複合酸化物層、
上記(a)、(b)からなる硬質被覆層を蒸着形成してなる表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
(Ti,Al,M)N薄層の構成成分であるAl成分には硬質被覆層における高温硬さを向上させ、同Ti成分には高温強度を向上させる作用があり、さらに、M成分のうちの、Tiを除く周期律表4a,5a,6a族の元素、Si、B、には硬質被覆層の耐摩耗性を向上させる作用があり、また、Yには硬質被覆層の高温耐酸化性を向上させる作用があるが、Alの割合を示すα値がTiとの合量あるいはTiとMの合量に占める割合(原子比、以下同じ)で0.45未満になると、所定の高温硬さを確保することができず、これが耐摩耗性低下の原因となり、一方Alの割合を示すα値が同0.75を越えると、相対的にTiの含有割合が減少し、高速切削加工で必要とされる高温強度を確保することができず、チッピングの発生を防止することが困難になり、さらに、M成分の含有割合を示すβ値がTiとの合量に占める割合(原子比、以下同じ)で0.01未満では、M成分を含有させたことによる耐摩耗性、高温耐酸化性等の特性向上が期待できず、一方同β値が0.25を超えると、高温強度に低下傾向が現れるようになることから、α値を0.45〜0.75、β値を0.01〜0.25、かつ、(α+β)の値を1.00未満と定めた。
また、その平均層厚が1μm未満では、自身のもつすぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するには不十分であり、一方その一層平均層厚が5μmを越えると、切刃部にチッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1〜5μmと定めた。
CrとYの複合酸化物層((Cr,Y)O層)は、すぐれた高温硬さ、靭性を有するとともに、その構成成分であるY成分によって、すぐれた熱安定性、潤滑性を備え、そのため、(Ti,Al,M)N層からなる下部層に不足する潤滑性を補完し、さらに、高熱発生を伴う高速切削条件下でも、すぐれた高温硬さ、靭性を保持するとともに、すぐれた耐溶着性を有し、高温に加熱された切粉が溶着することによって生じるチッピングの発生を抑える。
ただ、Yの含有割合を示すγ値がCrとの合量に占める割合(原子比、以下同じ)で0.01未満になると、高温硬さ、靭性、耐溶着性の向上による耐チッピング性、耐摩耗性の改善効果を期待することができず、一方、Yの割合を示すγ値が同0.10を越えると、相対的にCrの含有割合が減少し、潤滑性が低下傾向を示すようになることから、γ値を0.01〜0.10(原子比、以下同じ)と定めた。
また、(Cr,Y)O層の平均層厚が1μm未満では、耐チッピング性、耐摩耗性を長期の使用に亘って充分に発揮することはできず、一方、平均層厚が5μmを越えると、上部層全体としての高温強度、靭性が低下し、高速条件下の切削加工で切刃部にチッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1〜5μmと定めた。
上記(Ti,Al,M)N層からなる下部層と(Cr,Y)O層からなる上部層とで構成される硬質被覆層は、例えば図1に概略説明図で示される物理蒸着装置の1種であるアークイオンプレーティング(AIP)装置で蒸着形成することができる。
まず、図1に示されるアークイオンプレーティング(AIP)装置に工具基体を装入し、ヒーターで装置内を、例えば500℃の温度に加熱した状態で、装置内に所定組成のTi−Al−M合金からなるカソード電極(蒸発源)と、所定組成のCr−Y合金からなるカソード電極(蒸発源)とを配置し、
まず、アノード電極とTi−Al−M合金からなるカソード電極(蒸発源)との間に、例えば電流:90Aの条件でアーク放電を発生させ、同時に装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して、例えば2Paの反応雰囲気とし、一方、上記基体には、例えば−100Vのバイアス電圧を印加した条件で、基体表面に所定層厚の(Ti,Al,M)N層を下部層として蒸着形成し、アーク放電を停止した後、
引き続いて、装置内に反応ガスとして酸素ガスを導入して、例えば2Paの反応雰囲気とし、工具基体には、例えば−100Vのバイアス電圧を印加した条件で、アノード電極とCr−Y合金からなるカソード電極(蒸発源)との間に、前記と同様にアーク放電を行わせ、基体に形成した(Ti,Al,M)N層からなる下部層の表面に、所定層厚の(Cr,Y)O層からなる上部層を蒸着することによって、
下部層としての(Ti,Al,M)N層及び上部層としての(Cr,Y)O層からなる硬質被覆層を蒸着形成することができる。
(b)まず、装置内を排気して0.1Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつカソード電極の前記Ti−Al−M合金とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって工具基体表面を前記Ti−Al−M合金によってボンバード洗浄し、
(c)次に、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して4Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加し、かつカソード電極の前記Ti−Al−M合金とアノード電極との間に120Aの電流を流してアーク放電を発生させ、前記工具基体の表面に、表3、表4に示される目標組成、目標層厚の(Ti,Al,M)N層からなる下部層を蒸着形成した後、前記Ti−Al−M合金のカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間のアーク放電を停止し、
(d)引き続いて、装置内に反応ガスとして酸素ガスを導入して装置内雰囲気を4Paの酸素雰囲気に保持し、カソード電極(蒸発源)であるCr−Y合金カソード電極とアノード電極との間に120Aの電流を流してアーク放電を発生させて、表3、表4に示される目標組成、目標層厚の(Cr,Y)O層を上部層として蒸着形成し、
本発明被覆工具としての本発明表面被覆スローアウエイチップ(以下、本発明被覆チップと云う)1〜39をそれぞれ製造した。
被削材:JIS・SKD11(HRC20)の丸棒、
切削速度: 200 m/min.、
切り込み: 1.5 mm、
送り: 0.2 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件A)での工具鋼の乾式連続高速切削加工試験(通常の切削速度は、120m/min.)、
被削材:JIS・SKD61(HRC60)の丸棒、
切削速度: 180 m/min.、
切り込み: 1.5 mm、
送り: 0.25 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件B)での高硬度鋼の乾式連続高速切削加工試験(通常の切削速度は、100m/min.)、
被削材:JIS・SUS440Bの丸棒、
切削速度: 110 m/min.、
切り込み: 1.3 mm、
送り: 0.2 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件C)での高硬度ステンレス鋼の乾式連続高速切削加工試験(通常の切削速度は、60m/min.)、
を行い、いずれの高速切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表7、表8に示した。
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SKD11(HRC20)の板材、
切削速度: 90 m/min.、
溝深さ(切り込み): 0.5 mm、
テーブル送り: 520 mm/分、
の条件(切削条件D)での工具鋼の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は、60m/min.)、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SKD61(HRC60)の板材、
切削速度: 90 m/min.、
溝深さ(切り込み): 0.5 mm、
テーブル送り: 430 mm/分、
の条件(切削条件E)での焼入れ鋼の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は、60m/min.)、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SUS440Bの板材、
切削速度: 60 m/min.、
溝深さ(切り込み): 0.5 mm、
テーブル送り: 410 mm/分、
の条件(切削条件F)での高硬度ステンレス鋼の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は、40m/min.)、
をそれぞれ行い、いずれの高速溝切削加工試験でも切刃部の外周刃の逃げ面摩耗幅が使用寿命の目安とされる0.1mmに至るまでの切削溝長を測定した。この測定結果を表9、表10にそれぞれ示した。
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SKD11(HRC20)の板材、
切削速度: 100 m/min.、
送り: 0.6 mm/rev、
穴深さ: 5 mm、
の条件(切削条件G)での工具鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は、50m/min.)、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SKD61(HRC60)の板材、
切削速度: 80 m/min.、
送り: 0.4 mm/rev、
穴深さ: 5 mm、
の条件(切削条件H)での焼入れ鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は、40m/min.)、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SUS440Bの板材、
切削速度: 100 m/min.、
送り: 0.5 mm/rev、
穴深さ: 6 mm、
の条件(切削条件I)での高硬度ステンレス鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は、40m/min.)、
をそれぞれ行い、いずれの湿式高速穴あけ切削加工試験(水溶性切削油使用)でも先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまでの穴あけ加工数を測定した。この測定結果を表11、表12にそれぞれ示した。
しかるに、硬質被覆層が(Ti,Al,M)N層とCrO層で構成された比較被覆工具においては、これを前記被削材の高速切削加工に用いた場合には、高熱発生により、被削材および切粉と前記硬質被覆層との粘着性および反応性が一段と高くなり、また、高温硬さ、靭性も不十分であるため、切刃部にチッピングが発生し、また、摩耗進行も促進するため、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
Claims (2)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層として、1〜5μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Ti1−αAlα)N
で表した場合、0.45≦α≦0.75(但し、αはAlの含有割合を示す原子比)を満足するTiとAlの複合窒化物層、
(b)上部層として、1〜5μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Cr1−γYγ)O
で表した場合、0.01≦γ≦0.1(但し、γはYの含有割合を示す原子比)を満足するCrとYの複合酸化物層、
上記(a)、(b)からなる硬質被覆層を蒸着形成してなる表面被覆切削工具。 - 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層として、1〜5μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Ti1−α−βAlαMβ)N
で表した場合、0.45≦α≦0.75、0.01≦β≦0.25、α+β<1.00(但し、Mは、Tiを除く周期律表4a,5a,6a族の元素、Si、B、Yのうちから選ばれた1種又は2種以上の添加成分を示し、また、αはAlの含有割合を示す原子比、βはMの含有割合を示す原子比)を満足するTiとAlとMの複合窒化物層、
(b)上部層として、1〜5μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Cr1−γYγ)O
で表した場合、0.01≦γ≦0.1(但し、γはYの含有割合を示す原子比)を満足するCrとYの複合酸化物層、
上記(a)、(b)からなる硬質被覆層を蒸着形成してなる表面被覆切削工具。
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