JP5077743B2 - 硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性と耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents
硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性と耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具 Download PDFInfo
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Description
組成式:(Al1−(P+Q)CrPMQ)N(ここで、Mは、Crを除く周期律表4a,5a,6a族の元素、Si、B、Yのうちから選ばれた1種又は2種以上の添加成分であり、また、P、Qは原子比によるCr成分、M成分の含有割合を示す)
を満足するAlとCrとMの複合窒化物(以下、(Al,Cr,M)Nで示す)層からなる硬質被覆層を物理蒸着してなる被覆工具が知られており、かつ前記被覆工具の硬質被覆層である(Al,Cr,M)N層が、構成成分であるAlによって高温硬さ、同Crによって高温強度、また、CrとAlの共存含有によって耐熱性が向上すること、さらに、M成分として、Crを除く周期律表4a,5a,6a族の元素、Si、B、Yのうちから選ばれた1種又は2種以上を含有させた場合には、硬質被覆層の耐摩耗性、高温耐酸化性等の特性が向上することから、これを各種の一般鋼や普通鋳鉄などの連続切削や断続切削加工に用いた場合にすぐれた切削性能を発揮することも知られている。
(a)上記従来被覆超硬工具の硬質被覆層である(Al,Cr,M)N層を下部層として2〜10μmの平均層厚で形成し、これの上に上部層として、0.3〜1μmの平均層厚でAl−Cr−M合金層を蒸着形成すると、このAl−Cr−M合金層は熱伝導性がよくすぐれた熱放散性を有し、切削加工時に硬質被覆層が高温に加熱されても熱が直ちに放散され、硬質被覆層が過熱されることがないため、被削材および切粉の切刃部表面に対する溶着が著しく低減され、その結果、下部層である(Al,Cr,M)N層は十分に保護され、長期に亘ってすぐれた耐チッピング性と耐摩耗性を発揮すること。
まず、前記Al−Cr−M合金のカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間にアーク放電を発生させて、前記工具基体の表面に、下部層として(Al,Cr,M)N層を2〜10μmの平均層厚で蒸着形成した後、
前記Al−Cr−M合金のカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間のアーク放電を継続させたまま、装置内雰囲気を窒素雰囲気からAr雰囲気へと徐々に切り替え、最終的にAr雰囲気中で、カソード電極(蒸発源)である前記Al−Cr−M合金とアノード電極との間にアーク放電を発生させて、上部層としてのAl−Cr−M合金層を0.3〜1μmの平均層厚で蒸着形成することにより、
所定平均層厚の(Al,Cr,M)N層からなる下部層と、所定平均層厚のAl−Cr−M合金層からなる上部層を蒸着で形成できること。
「 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層として、2〜10μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Al1−(X+Z)CrXMZ)N(ここで、Mは、Crを除く周期律表4a,5a,6a族の元素、Si、B、Yのうちから選ばれた1種又は2種以上の添加成分を示し、また、XはCrの含有割合、ZはMの含有割合をそれぞれ示し、原子比で、0.10≦X≦0.54、0.01≦Z≦0.25、0.25≦X+Z≦0.55である)を満足するAlとCrとMの複合窒化物層((Al,Cr,M)N層)、
(b)上部層として、0.3〜1μmの平均層厚を有する蒸着形成された、
組成式:Al1−(X+Z)CrXMZ(ここで、Mは、Crを除く周期律表4a,5a,6a族の元素、Si、B、Yのうちから選ばれた1種又は2種以上の添加成分を示し、また、XはCrの含有割合、ZはMの含有割合をそれぞれ示し、原子比で、0.10≦X≦0.54、0.01≦Z≦0.25、0.25≦X+Z≦0.55である)を満足するAlとCrとMの合金層(Al−Cr−M合金層)、
上記(a)、(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる表面被覆切削工具(被覆工具)。」
に特徴を有するものである。
下部層を構成する(Al,Cr,M)Nの構成成分であるAl成分には硬質被覆層における高温硬さを向上させ、同Cr成分には高温強度を向上させ、また、CrとAlの共存含有によって耐熱性を向上させる作用があり、さらに、M成分のうちの、Crを除く周期律表4a,5a,6a族の元素、Si、B、には硬質被覆層の耐摩耗性を向上させる作用があり、また、Yには硬質被覆層の高温耐酸化性を向上させる作用があるが、Crの割合を示すX値がAlとMの合量に占める割合(原子比、以下同じ)で0.10未満になると、難削材の高速高送り切削加工で必要とされる高温強度を確保することができず、チッピングの発生を防止することが困難になり、一方、Crの割合を示すX値が同0.54を越えると、相対的にAlの含有割合が減少し、所定の高温硬さを確保することができず、これが耐摩耗性低下の原因となり、さらに、M成分の含有割合を示すZ値(Z値は、Crを除く周期律表4a,5a,6a族の元素、Si、B、Yのうちから選ばれた1種又は2種以上の添加成分の含有量の合計値)がAlとCrとの合量に占める割合(原子比、以下同じ)で0.01未満では、M成分を含有させたことによる耐摩耗性、高温耐酸化性等の特性向上が期待できず、一方同Z値が0.25を超えると、高温強度に低下傾向が現れるようになることから、X値を0.10〜0.54、Z値を0.01〜0.25と定めた。
上部層を構成するAl−Cr−M合金層は、切削加工時に硬質被覆層が高温に加熱されても熱が直ちに放散され、硬質被覆層が過熱されることがないため、被削材および切粉の切刃部表面に対する溶着が著しく低減されるというすぐれた熱伝導性・熱放散性を備えるが、切削加工時のピッチング発生防止を図るためには所定の高温強度を有する必要もあるところ、Al−Cr−M合金層中のCrの含有割合を示すX値が0.10未満になると熱伝導性・熱放散性が極端に低下し、また、X値が0.54を超えると、高温硬さが低下してしまうので、Al−Cr−M合金層中のCrの含有割合(X値)は0.10〜0.54とする必要がある。また、Al−Cr−M合金層におけるM成分の含有割合を示すZ値(Z値は、Crを除く周期律表4a,5a,6a族の元素、Si、B、Yのうちから選ばれた1種又は2種以上の添加成分の含有量の合計値)がAlとCrとの合量に占める割合で0.01未満では、所望の高温強度を確保することができず、一方、Z値が0.25を超えると、高温での皮膜靭性を確保することができず、チッピングの発生を防止することが困難になることから、Al−Cr−M合金層中のM成分の含有割合(Z値)は0.01〜0.25とする必要がある。
この発明では、Al−Cr−M合金層を蒸着形成するにあたって、例えば、下部層である前記(Al,Cr,M)N層を蒸着形成するのに使用したのと同じカソード電極(蒸発源)を用い、装置内雰囲気を窒素ガスからArガスへと徐々に切り替えることによってAl−Cr−M合金層を蒸着形成しているため、蒸着形成されたAl−Cr−M合金層中には、下部層における含有割合とほぼ同じような割合でAl,Cr,Mが含有されることから、Al−Cr−M合金層の蒸着形成にあたっては、合金層の組成については特に厳密に管理しなくても、すぐれた熱伝導性・熱放散性と所定の高温強度を備えた所定組成のAl1−(X+Z)CrXMZ(X、Zは、原子比で、0.10≦X≦0.54、0.01≦Z≦0.25、0.25≦X+Z≦0.55)を蒸着形成することができる。
ただ、Al−Cr−M合金層の平均層厚が0.3μm未満であると、すぐれた熱伝導性・熱放散性という特性を十分発揮することができず、また、その平均層厚が1μmを超えると、被削材との間で溶着を生じやすくなり、切削特性を劣化させることになるので、Al−Cr−M合金層の平均層厚は0.3〜1μmと定めた。
(b)まず、装置内を排気して0.1Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつカソード電極の前記ボンバード用の金属Tiとアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって工具基体表面を前記金属Tiによってボンバード洗浄し、
(c)次に、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して3Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加し、かつカソード電極の前記Al−Cr−M合金とアノード電極との間に120Aの電流を流してアーク放電を発生させ、前記工具基体の表面に、表3、表4に示される目標組成、目標層厚の下部層としての(Al,Cr,M)N層を2〜10μmの平均層厚で蒸着形成した後、前記Al−Cr−M合金のカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間のアーク放電を停止し、
(d)前記カソード電極(蒸発源)とアノード電極との間のアーク放電を継続させつつ、同時に、装置内雰囲気を窒素ガス雰囲気からアルゴンガス雰囲気へと徐々に切り替え、最終的には0.5Paのアルゴンガス雰囲気中で、カソード電極(蒸発源)とアノード電極との間に120Aの電流を流してアーク放電を発生させて、表3、表4に示される目標組成、目標平均層厚のAl−Cr−M合金層を上部層として蒸着形成することにより、
本発明被覆工具としての本発明表面被覆超硬製チップ(以下、本発明被覆チップと云う)1〜16をそれぞれ製造した。
従来被覆工具としての従来表面被覆超硬製チップ(以下、従来被覆チップと云う)1〜16をそれぞれ製造した。
被削材:JIS・FC250の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 380 m/min.、
切り込み: 1.5 mm、
送り: 0.35 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件A)での鋳鉄の乾式高速断続高送り切削加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、250m/min.、0.25mm/rev.)、
被削材:JIS・S55Cの丸棒、
切削速度: 350 m/min.、
切り込み: 1.2 mm、
送り: 0.40 mm/rev.、
切削時間: 10 分、
の条件(切削条件B)での炭素鋼の乾式高速連続高送り切削加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、200m/min.、0.25mm/rev.)、
被削材:JIS・SCM440の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 380 m/min.、
切り込み: 1.5 mm、
送り: 0.35 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件C)での合金鋼の乾式高速断続高送り切削加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、250m/min.、0.25mm/rev.)、
を行い、いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表7に示した。
本発明被覆工具としての本発明表面被覆超硬製エンドミル(以下、本発明被覆エンドミルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
従来被覆工具としての従来表面被覆超硬製エンドミル(以下、従来被覆エンドミルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
本発明被覆エンドミル1〜3および従来被覆エンドミル1〜3については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・FC250の板材、
切削速度: 140 m/min.、
溝深さ(切り込み): 5 mm、
テーブル送り: 580 mm/分、
の条件での鋳鉄の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、90m/min.、400mm/分)、
本発明被覆エンドミル4〜6および従来被覆エンドミル4〜6については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S55Cの板材、
切削速度: 130 m/min.、
溝深さ(切り込み): 8 mm、
テーブル送り: 600 mm/分、
の条件での炭素鋼の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、80m/min.、450mm/分)、
本発明被覆エンドミル7,8および従来被覆エンドミル7,8については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SCM440の板材、
切削速度: 140 m/min.、
溝深さ(切り込み): 16 mm、
テーブル送り: 450 mm/分、
の条件での合金鋼の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、80m/min.、300mm/分)、
をそれぞれ行い、いずれの溝切削加工試験でも切刃部の外周刃の逃げ面摩耗幅が使用寿命の目安とされる0.1mmに至るまでの切削溝長を測定した。この測定結果を表9、表10にそれぞれ示した。
本発明被覆工具としての本発明表面被覆超硬製ドリル(以下、本発明被覆ドリルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
従来被覆工具としての従来表面被覆超硬製ドリル(以下、従来被覆ドリルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S55Cの板材、
切削速度: 140 m/min.、
送り: 0.25 mm/rev.、
穴深さ: 8 mm、
の条件での炭素鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、100m/min.、0.15mm/rev)、
本発明被覆ドリル4〜6および従来被覆ドリル4〜6については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SCM440の板材、
切削速度: 130 m/min.、
送り: 0.40 mm/rev.、
穴深さ: 15 mm、
の条件での合金鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、80m/min.、0.25mm/rev)、
本発明被覆ドリル7,8および従来被覆ドリル7,8については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・FC250の板材、
切削速度: 120 m/min.、
送り: 0.40 mm/rev.、
穴深さ: 28 mm、
の条件での鋳鉄の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、60m/min.、0.25mm/rev)、
をそれぞれ行い、いずれの湿式高速穴あけ切削加工試験(水溶性切削油使用)でも先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまでの穴あけ加工数を測定した。この測定結果を表11、表12にそれぞれ示した。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層として、2〜10μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Al 1−(X+Z) Cr X M Z )N(ここで、Mは、Crを除く周期律表4a,5a,6a族の元素、Si、B、Yのうちから選ばれた1種又は2種以上の添加成分を示し、また、XはCrの含有割合、ZはMの含有割合をそれぞれ示し、原子比で、0.10≦X≦0.54、0.01≦Z≦0.25、0.25≦X+Z≦0.55である)を満足するAlとCrとMの複合窒化物層、
(b)上部層として、0.3〜1μmの平均層厚を有する蒸着形成された、
組成式:Al1−(X+Z)CrXMZ(ここで、Mは、Crを除く周期律表4a,5a,6a族の元素、Si、B、Yのうちから選ばれた1種又は2種以上の添加成分を示し、また、XはCrの含有割合、ZはMの含有割合をそれぞれ示し、原子比で、0.10≦X≦0.54、0.01≦Z≦0.25、0.25≦X+Z≦0.55である)を満足するAlとCrとMの合金層、
上記(a)、(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる表面被覆切削工具。
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