JP2010207915A - 溶着生の高い被削材の重切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性と耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットからなる工具基体の表面に、(a)下部層として、平均層厚2〜10μmのAlとTiとSiの複合窒化物層、(b)上部層として、1〜3μmの平均層厚を有し、上部層全体における平均組成を、組成式:(Al1−XSiX)2O3で表した場合、0.01≦X≦0.3(但し、X値は原子比)を満足し、かつ、上部層におけるSi含有割合は、下部層側から上部層表面に向かって減少する傾斜組成を有し、しかも、上部層表面におけるSi含有割合を示すXsurf値が、0≦Xsurf≦0.05(但し、Xsurf値は原子比)を満足する組成傾斜型のAlとSiの複合酸化物層、を蒸着形成する。
【選択図】 なし
Description
組成式:[AlαTi1-(α+β)Siβ]N(ただし、原子比で、αは0.50〜0.65、βは0.01〜0.10を示す)、
を満足する均質組成のAlとTiとSiの複合窒化物[以下、(Al,Ti,Si)Nで示す]層からなる硬質被覆層を0.1〜20μmの平均層厚で蒸着形成してなる被覆工具(以下、従来被覆工具Iという)が知られており、かかる従来被覆工具においては、硬質被覆層を構成する前記(Al,Ti,Si)N層が、構成成分であるAlによって高温硬さ、同Tiによって高温強度、さらに同Siによって耐熱性を有するようになることが知られている。
そして、上記の被覆工具は、例えば図1に概略説明図で示される物理蒸着装置の1種であるアークイオンプレーティング装置に上記の工具基体を装入し、ヒータで装置内を、例えば500℃の温度に加熱した状態で、硬質被覆層である(Al,Ti,Si)N層の組成に対応した組成を有するAl−Ti−Si合金がセットされたカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間に、例えば電流:90Aの条件でアーク放電を発生させ、同時に装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して、例えば2Paの反応雰囲気とし、一方上記工具基体には、例えば−100Vのバイアス電圧を印加した条件で、前記工具基体の表面に、上記(Al,Ti,Si)N層からなる硬質被覆層を蒸着することにより製造されることも知られている。
「炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層として、平均層厚2〜10μmのAlとTiとSiの複合窒化物層、
(b)上部層として、1〜3μmの平均層厚を有し、上部層全体における平均組成を、
組成式:(Al1−XSiX)2O3
で表した場合、Si含有割合の平均組成を示すX値が、0.01≦X≦0.3(但し、X値は原子比)を満足し、かつ、上部層におけるSi含有割合は、下部層側から上部層表面に向かって減少する傾斜組成を有し、しかも、上部層表面におけるSi含有割合を示すXsurf値が、0≦Xsurf≦0.05(但し、Xsurf値は原子比)を満足する組成傾斜型のAlとSiの複合酸化物層、
上記(a)、(b)で構成された硬質被覆層を蒸着形成してなる表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
(a)下部層を構成するAlとTiとSiの複合窒化物層((Al,Ti,Si)N層)
(Al,Ti,Si)N層におけるAl成分には高温硬さを向上させ、Ti成分には高温強度を向上させ、また、Si成分には耐熱性を向上させる作用がある。ただ、TiとSiとの合量に占めるAlの含有割合(原子比、以下同じ)が0.50未満では、相対的にTiの割合が多くなって、硬質被覆層としての高温硬さを確保することができず、摩耗進行が急激に促進するようになり、一方、TiとSiとの合量に占めるAlの含有割合(原子比)が0.65を越えると、相対的にTiの割合が少なくなり過ぎて、高温強度が急激に低下し、この結果チッピング(微少欠け)などが発生し易くなることから、TiとSiとの合量に占めるAlの含有割合(原子比)は、0.50〜0.65と定めることが望ましい。
また、AlとTiの合量に占めるSiの含有割合(原子比)が0.01未満では、所定の耐熱性を確保することができず、一方、Siの含有割合(原子比)が0.10を超えると、高温強度に低下傾向が現れるようになることから、AlとTiの合量に占めるSiの含有割合(原子比)は0.01〜0.10と定めることが望ましい。
さらに、下部層の平均層厚が2μm未満では、自身のもつすぐれた高温硬さを硬質被覆層に長期に亘って付与できず、工具寿命短命の原因となり、一方、その平均層厚が10μmを越えると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を2〜10μmと定めた。
上部層の層厚方向に亘って均一組成の(Al,Si)2O3層は、下部層との密着性にすぐれるばかりか、すぐれた高温硬さを有し、熱的安定性、酸化進展抑制効果に優れるが、軟鋼、ステンレス鋼などのように溶着性が高い被削材の、特に、切刃に対して高負荷が作用する高送り、高切り込みの重切削加工においては、耐チッピング性が不十分である。
しかし、上部層のSiの含有割合を層厚方向に沿って変化させ、上部層の表面近傍において、Si含有割合を低減した組成傾斜型の上部層を形成すると、この上部層の表面(組成はAl2O3層に近い)は、溶着性の高い被削材との滑り性に優れていることから、切刃に高負荷が作用する溶着を生じやすい被削材の高送り、高切り込みの重切削加工において、すぐれた耐チッピング性を発揮するようになる。
組成式:(Al1−XSiX)2O3
で表した場合、Si含有割合の平均組成を示すX値が、0.01≦X≦0.3(但し、X値は原子比)を満足し、かつ、上部層におけるSi含有割合は、下部層側から上部層表面に向かって減少する傾斜組成を有し、しかも、上部層表面におけるSi含有割合を示すXsurf値が、0≦Xsurf≦0.05(但し、Xsurf値は原子比)を満足する組成傾斜型の上部層として構成すると、(Al,Ti,Si)N層からなる下部層が備えるすぐれた高温硬さ、高温強度及び耐熱性と相俟って、軟鋼、ステンレス鋼などのように溶着性が高い被削材の重切削加工で、長期の使用に亘って、すぐれた耐チッピング性及び耐摩耗性を発揮する。
ここで、(Al,Si)2O3層からなる上部層におけるSi含有割合の平均組成を示すX値(但し、X値は原子比)が 0.01未満であると、溶着性の高い被削材の重切削加工において、上部層が十分な耐摩耗性を発揮することができず、一方、X値(原子比)が0.3を超えると、上部層全体としての靭性が低下し、切刃に作用する高負荷によって、欠損を発生しやすくなるので、上部層におけるSi含有割合の平均組成を示すX値を0.0≦X≦0.3(原子比)と定めた。
さらに、重切削加工における被削材とのすべり性を高め、切粉との溶着等に起因するチッピング発生を防止するために、上部層表面におけるSi含有割合を示すXsurf値が、0≦Xsurf≦0.05(但し、Xsurf値は原子比)を満足するように傾斜組成構造を形成することが必要である。上部層の表面におけるSi含有割合Xsurf値が0.05を超えるようになると、被削材とのすべり性が低下傾向を示し、切粉との溶着によるチッピングが発生しやすくなる。
また、上記組成傾斜型の上部層の平均層厚が1μm未満では、長期の使用に亘って被削材との優れたすべり性を確保することができず、一方、平均層厚が3μmを超えると、切刃に作用する高負荷によって、欠損を生じやすくなるので、上部層の平均層厚は1〜3μmと定めた。
(Al,Si)2O3層からなる組成傾斜型の上部層は、例えば、図1にその概略平面図を示すように、アークイオンプレーティング(以下、AIPという)装置とスパッタリング(以下、SPという)装置とを併設した物理蒸着(PVD)装置で蒸着することによって形成することができる。
例えば、図1において、一方のAIP装置(図1右側)には基体洗浄用のTi電極からなるカソード電極、他方のAIP装置(図1左側)には、(Al,Ti,Si)N層からなる下部層形成用の所定成分組成のAl−Ti−Si合金カソード電極を設け、上記AIP装置のカソード電極とは異なる位置(図1下側)に、SP装置の上部層蒸着用のAlカソード電極及びSiカソード電極をそれぞれ設け、
まず、例えば、炭化タングステン基超硬合金からなる工具基体を洗浄・乾燥し、図1に示されるPVD装置内の回転テーブル上に装着し、基体洗浄用のTi電極とアノード電極との間にアーク放電を発生させて、工具基体表面をボンバード洗浄し、
ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入し、工具基体にバイアス電圧を印加しつつ、下部層形成用Al−Ti−Si合金とアノード電極との間にアーク放電を発生させ、工具基体表面に所定層厚の(Al,Ti,Si)N層を下部層として蒸着形成し、
ついで、装置内に反応ガスとしての酸素ガスを導入し、最初は、SP装置のAlカソード電極とSiカソード電極を同時に放電させ、上記下部層の表面に(Al,Si)2O3層を形成し、その後、上記Alカソード電極の出力を維持したままで、Siカソード電極の出力電圧を徐々に低下させながら上部層を蒸着する、ことによって、Si含有割合が層厚方向に沿って徐々に減少し、上部層表面において所定のSi含有割合(Xsurf値)を有する、所定層厚の傾斜組成構造の上部層を蒸着形成することができる。
(b)まず、装置内を排気して0.1Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ一方側のAIP装置のTiカソード電極とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって工具基体表面をボンバード洗浄し、
(c)ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して3Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ前記下部層形成用Al−Ti−Si合金カソード電極とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記工具基体の表面に、表3,4に示される目標組成および目標平均層厚の(Al,Ti,Si)N層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成し、
(d)ついで、装置内に反応ガスとして酸素ガスを導入して1Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加した状態で、SP装置のAlカソード電極(蒸発源)及びSiカソード電極(蒸発源)にパルス電源から5kWのパルス電力を印加してAl及びSiをスパッタし、下部層の上に(Al,Si)2O3層を蒸着し、
(e)ついで、SP装置のSiカソード電極(蒸発源)の出力電力を5kWから徐々に低減させ、一方、Alカソード電極(蒸発源)の出力電力は5kWに維持したままで蒸着を継続し、表3,4に示される目標平均層厚、目標X値かつ目標Xsurf値の組成傾斜型の上部層を形成することにより、
本発明被覆工具としての表面被覆スローアウエイチップ(以下、本発明被覆チップと云う)1〜16をそれぞれ製造した。
なお、目標X値は、上部層全体におけるSi含有割合の目標平均組成、また、目標Xsurf値は、上部層表面におけるSi含有割合の目標組成を示す
まず、装置内を排気して0.1Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ一方側のAIP装置のTiカソード電極とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって工具基体表面をボンバード洗浄し、
ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して3Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ前記下部層形成用Al−Ti−Si合金カソード電極とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記工具基体の表面に、表5,6に示される目標組成および目標層厚の(Al,Ti,Si)N層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成し、
ついで、装置内に反応ガスとして酸素ガスを導入して1Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加した状態で、SP装置のAlカソード電極(蒸発源)及びSiカソード電極(蒸発源)にパルス電源から5kWのパルス電力を印加してAl及びSiをスパッタし、下部層の上に表5,6に示される目標均一組成の(Al,Si)2O3層を蒸着し、所定の平均層厚になるまでこれを継続することにより、
比較被覆工具としての表面被覆スローアウエイチップ(以下、比較被覆チップと云う)1〜16をそれぞれ製造した。
被削材:JIS・S10Cの丸棒、
切削速度: 150 m/min.、
切り込み: 2.5 mm、
送り: 0.5 mm/rev.、
切削時間: 10 分、
の条件(切削条件Aという)での軟鋼の乾式連続高送り・高切込み切削加工試験(通常の送り及び切り込みは、それぞれ、0.3mm/rev、1.5mm)、
被削材:JIS・SUS304の丸棒、
切削速度: 160 m/min.、
切り込み: 1.5 mm、
送り: 0.45 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件Bという)でのステンレス鋼の乾式断続高送り切削加工試験(通常の送りは0.3mm/rev.)、
被削材:JIS・S55Cの丸棒、
切削速度: 180 m/min.、
切り込み: 2.5 mm、
送り: 0.2 mm/rev.、
切削時間: 10 分、
の条件(切削条件Cという)での炭素鋼の乾式連続高切り込み切削加工試験(通常の切込みは1.5mm)、
を行い、いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表7に示した。
本発明被覆工具としての本発明被覆超エンドミル(以下、本発明被覆エンドミルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
比較被覆工具としての比較被覆エンドミル(以下、比較被覆エンドミルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
本発明被覆エンドミル1〜3および比較被覆エンドミル1〜3については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SUS304の板材、
切削速度: 75 m/min.、
溝深さ(切り込み): 4.5 mm、
テーブル送り: 130 mm/分、
の条件でのステンレス鋼の湿式高切込み溝切削加工試験(通常の切り込みは、3mm.)、
本発明被覆エンドミル4〜6および比較被覆エンドミル4〜6については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S55Cの板材、
切削速度: 100 m/min.、
溝深さ(切り込み): 8 mm、
テーブル送り: 450 mm/分、
の条件での炭素鋼の乾式高切込み溝切削加工試験(通常の切り込みは、5mm.)、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S10Cの板材、
切削速度: 100 m/min.、
溝深さ(切り込み): 15 mm、
テーブル送り: 250 mm/分、
の条件での軟鋼の乾式高切込み溝切削加工試験(通常の切り込みは、10mm.)、
をそれぞれ行い、いずれの高切込み溝切削加工試験でも切刃部の外周刃の逃げ面摩耗幅が使用寿命の目安とされる0.1mmに至るまでの切削溝長を測定した。この測定結果を表9、10にそれぞれ示した。
本発明被覆工具としての本発明被覆ドリル(以下、本発明被覆ドリルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
比較被覆工具としての比較被覆ドリル(以下、比較被覆ドリルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S55Cの板材、
切削速度: 80 m/min.、
送り: 0.25 mm/rev、
穴深さ: 8 mm、
の条件での炭素鋼の湿式高送り穴あけ切削加工試験(通常の送りは、0.15mm/rev)、
本発明被覆ドリル4〜6および比較被覆ドリル4〜6については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S10Cの板材、
切削速度: 80 m/min.、
送り: 0.35 mm/rev、
穴深さ: 15 mm、
の条件での軟鋼の湿式高送り穴あけ切削加工試験(通常の送りは、0.25mm/rev)、
本発明被覆ドリル7、8および比較被覆ドリル7、8については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SUS304の板材、
切削速度: 80 m/min.、
送り: 0.32 mm/rev、
穴深さ: 28 mm、
の条件でのステンレス鋼の湿式高送り穴あけ切削加工試験(通常の送りは、0.25mm/rev)、
をそれぞれ行い、いずれの湿式高送り穴あけ切削加工試験(水溶性切削油使用)でも先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまでの穴あけ加工数を測定した。この測定結果を表11、12にそれぞれ示した。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層として、平均層厚2〜10μmのAlとTiとSiの複合窒化物層、
(b)上部層として、1〜3μmの平均層厚を有し、上部層全体における平均組成を、
組成式:(Al1−XSiX)2O3
で表した場合、Si含有割合の平均組成を示すX値が、0.01≦X≦0.3(但し、X値は原子比)を満足し、かつ、上部層におけるSi含有割合は、下部層側から上部層表面に向かって減少する傾斜組成を有し、しかも、上部層表面におけるSi含有割合を示すXsurf値が、0≦Xsurf≦0.05(但し、Xsurf値は原子比)を満足する組成傾斜型のAlとSiの複合酸化物層、
上記(a)、(b)で構成された硬質被覆層を蒸着形成してなる表面被覆切削工具。
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