JP5476842B2 - 高速重切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents

高速重切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具 Download PDF

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Description

この発明は、軟鋼、ステンレス鋼などのように溶着性が高い被削材、あるいは、合金鋼、ダイス鋼などのような高硬度難削材の切削加工を、高熱発生を伴うとともに、切刃に対して高負荷が作用する高送り、高切り込みの高速重切削条件で行った場合にも、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関するものである。
一般に、表面被覆切削工具には、各種の鋼や鋳鉄などの被削材の旋削加工や平削り加工にバイトの先端部に着脱自在に取り付けて用いられるスローアウエイチップ、前記被削材の穴あけ切削加工などに用いられるドリルやミニチュアドリル、さらに前記被削材の面削加工や溝加工、肩加工などに用いられるソリッドタイプのエンドミルなどがあり、また前記スローアウエイチップを着脱自在に取り付けて前記ソリッドタイプのエンドミルと同様に切削加工を行うスローアウエイエンドミル工具などが知られている。
また、表面被覆切削工具の一つとして、例えば、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットで構成された基体(以下、工具基体という)の表面に、
組成式:(Al1−αCrα)Nあるいは(Al1−α−βCrαSiβ)N(ただし、α、βは原子比を示す)、
を満足するAlとCrの複合窒化物[以下、(Al,Cr)Nで示す]層あるいはAlとCrとSiの複合窒化物[以下、(Al,Cr,Si)Nで示す]層からなる硬質被覆層を蒸着形成してなる被覆工具(以下、従来被覆工具という)が知られており、かかる従来被覆工具においては、硬質被覆層を構成する前記(Al,Cr)N層あるいは(Al,Cr,Si)N層が、構成成分であるAlによって高温硬さと耐熱性、同Crによって高温強度、さらにCrとAlの共存含有によって高温耐酸化性を有し、また、Siによって高温硬さを備えるようになることから、これを各種の一般鋼や普通鋳鉄などの連続切削や断続切削加工に用いた場合にすぐれた切削性能を発揮することも知られている。
そして、上記の被覆工具は、例えば、物理蒸着装置の1種であるアークイオンプレーティング装置に上記の工具基体を装入し、ヒータで装置内を、例えば500℃の温度に加熱した状態で、アノード電極と所定組成のAl−Cr(−Si)合金がセットされたカソード電極(蒸発源)との間に、例えば電流:90Aの条件でアーク放電を発生させ、同時に装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して、例えば2Paの反応雰囲気とし、一方上記工具基体には、例えば−100Vのバイアス電圧を印加した条件で、前記工具基体の表面に、上記(Al,Cr)N層あるいは(Al,Cr,Si)N層からなる硬質被覆層を蒸着することにより製造されることも知られている。
特許第3027502号明細書 特許第3781374号明細書
近年の切削加工装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は一段と厳しい切削条件下で行われるようになってきているが、上記従来被覆工具においては、これを低合金鋼、炭素鋼、鋳鉄などの通常条件での切削加に用いた場合には、特段の問題はないが、特に、軟鋼、ステンレス鋼などのように溶着性が高い被削材あるいは合金鋼、ダイス鋼などのような高硬度難削材を、高熱発生を伴うとともに、切刃に高負荷が作用する高送り、高切り込みの高速重切削条件下での切削加工に用いた場合には、高熱に加え、高負荷が作用する切刃部で切粉との溶着が生じやすく、その結果として、チッピング(微少欠け)を発生しやすく、また、耐熱塑性変形性も十分でないため、偏摩耗の発生により耐摩耗性が低下しやすく、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、特に、軟鋼、ステンレス鋼、合金鋼、ダイス鋼などの被削材の高速重切削加工で、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具を開発すべく、上記の従来被覆工具の硬質被覆層に着目し、研究を行った結果、以下の知見を得た。
(a)前記の従来被覆工具の(Al,Cr)N層は、Al成分によって高温硬さと耐熱性、同Cr成分によって高温強度、さらにCrとAlの共存含有によって高温耐酸化性を具備するようになることから、従来被覆工具の硬質被覆層はすぐれた高温硬さ、高温強度、耐熱性、高温耐酸化性を備えているが、溶着性の高い被削材の切削加工、高硬度難削材の切削加工、特に、高熱発生を伴い、かつ、切刃部に高負荷が作用する高送り、高切り込みの高速重切削加工では、切粉が溶着しやすくなり、また、熱塑性変形も発生しやすくなり、その結果、チッピングの発生、偏摩耗の発生を抑えることが難しい。
(b)そこで、本発明者等は、上記(Al,Cr)N層を下部層とし、この上に、AlとCrの複合酸化物層(以下、(Al,Cr)層で示す)を蒸着形成したところ、上記(Al,Cr)層は、下部層との密着性にすぐれるばかりか、すぐれた高温硬さと靭性を有するようになることがわかった。
また、上記下部層および(Al,Cr)層の成分として、それぞれ、Siを含有させたところ、(Al,Cr,Si)N層と(Al,Cr,Si)層からなる硬質被覆層は、すぐれた高温硬さ、靭性に加え、すぐれた耐熱塑性変形性をも有するようになることがわかった。
(c)しかし、切削条件をより厳しいもの(例えば、高熱発生を伴う高送り、高切り込みの高速重切削条件)としたような場合には、高熱下で切刃に高負荷が作用するようになり、(Al,Cr)層、あるいは、(Al,Cr,Si)層からなる上部層の耐熱性が不十分なものとなるために、チッピング発生、熱塑性変形の抑制効果は未だ満足できるものでないことが判明した。
(d)そこで、本発明者等は更に検討を進め、(Al,Cr)N層を下部層とし、この上に、(Al,Cr)層を中間層として蒸着形成した後、この上に更に、層中のO(酸素)含有割合が、上部層の層表面に向かうに従って小さくなる傾斜組成構造のAlとCrの複合酸化物層を上部層として蒸着形成したところ、表層近傍が低O(酸素)含有割合となる組成傾斜型の(Al,Cr)層は、すぐれた熱伝導性、熱放散性を備え、かつ、溶着性の高い被削材との潤滑性に優れることから、溶着を生じやすい被削材の切削であって、かつ、高熱発生を伴い、切刃に高負荷が作用する高送り、高切り込みの高速重切削加工において、すぐれた耐チッピング性を発揮し、また、中間層は、すぐれた高温硬さと靭性を備えるとともに、上部層、下部層のいずれともすぐれた密着性を有するため、(Al,Cr)N層からなる下部層、(Al,Cr)層からなる中間層及び上記組成傾斜型の(Al,Cr)層からなる上部層を硬質被覆層として備えた被覆工具は、溶着を生じやすい被削材の高速重切削加工において、長期に使用に亘ってすぐれた耐チッピング性を発揮することがわかった。
また、下部層、中間層のそれぞれの成分として、Si成分を含有させるとともに、上部層の成分としてもSi成分を含有させ、(Al,Cr,Si)N層を下部層、また、(Al,Cr,Si)層を中間層とし、この上に、層中のO(酸素)含有割合が、上部層の層表面に向かうに従って小さくなる傾斜組成構造のAlとCrとSiの複合酸化物層を上部層として蒸着形成したところ、熱伝導性、熱放散性、潤滑性に加え、より一段と優れた耐熱塑性変形性を示すようになるため、このような被覆層構造の被覆工具は、合金鋼、ダイス鋼等の高硬度難削材の高速重切削加工において、長期に使用に亘ってすぐれた耐チッピング性と耐摩耗性を発揮することがわかった。
この発明は、上記の知見に基づいてなされたものであって、
「(1) 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、下部層、中間層及び上部層からなる硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
(a)下部層は、2〜10μmの平均層厚を有し、下部層全体における平均組成を、
組成式:(Al1−αCrα)N
で表した場合、0.25≦α≦0.45(但し、αは原子比)を満足するAlとCrの複合窒化物層、
(b)中間層は、1〜3μmの平均層厚を有し、中間層全体における平均組成を、
組成式:(Al1−YCr
で表した場合、0.25≦Y≦0.55(但し、Yは原子比)を満足するAlとCrの複合酸化物層、
(c)上部層は、0.3〜1μmの平均層厚を有し、上部層全体における平均組成を、
組成式:(Al1−YCr1−X
で表した場合、0<X≦0.2,0.25≦Y≦0.55(但し、X,Yはいずれも原子比)を満足し、さらに、上部層におけるO(酸素)含有割合は、中間層側から上部層表面に向かって減少する傾斜組成を有する組成傾斜型のAlとCrの複合酸化物層、
上記(a)〜(c)で構成された硬質被覆層を蒸着形成してなる表面被覆切削工具。
(2) 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、下部層、中間層及び上部層からなる硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
(d) 下部層は、2〜10μmの平均層厚を有し、下部層全体における平均組成を、
組成式:(Al1−α−βCrαSiβ)N
で表した場合、0.25≦α≦0.45、0.01≦β≦0.10(但し、α,βはいずれも原子比)を満足するAlとCrとSiの複合窒化物層、
(e)中間層は、1〜3μmの平均層厚を有し、中間層全体における平均組成を、
組成式:(Al1−Y−ZCrSi
で表した場合、0.25≦Y≦0.55、0.01≦Z≦0.10(但し、Y,Zはいずれも原子比)を満足するAlとCrとSiの複合酸化物層、
(f) 上部層は、0.3〜1μmの平均層厚を有し、上部層全体における平均組成を、
組成式:(Al1−Y−ZCrSi1−X
で表した場合、0<X≦0.2,0.25≦Y≦0.55、0.01≦Z≦0.10(但し、X,Y,Zはいずれも原子比)を満足し、さらに、上部層におけるO(酸素)含有割合は、中間層側から上部層表面に向かって減少する傾斜組成を有する組成傾斜型のAlとCrとSiの複合酸化物層、
上記(d)〜(f)で構成された硬質被覆層を蒸着形成してなる表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
つぎに、この発明の被覆工具の硬質被覆層について詳細に説明する。
(a)下部層を構成するAlとCr(とSi)の複合窒化物層((Al,Cr)N層,(Al,Cr,Si)N層):
(Al,Cr)N層あるいは(Al,Cr,Si)N層におけるAl成分には高温硬さと耐熱性を向上させ、Cr成分には高温強度を向上させ、さらにCrとAlの共存含有によって高温耐酸化性を向上させる作用があり、さらに、Si成分には高温硬さを高めるとともに耐熱塑性変形性を高める作用がある。
下部層を構成するAlとCr(とSi)の複合窒化物層の、下部層全体における平均組成を、
組成式:(Al1−αCrα)N
あるいは
組成式:(Al1−α−βCrαSiβ)N
で表した場合、Al(とSi)との合量に占めるCrの含有割合α(原子比、以下同じ)が0.25未満では、高速重切削加工において最小限必要とされる高温強度を確保することが困難となり、一方、Al(とSi)との合量に占めるCrの含有割合α(原子比)が0.45を越えると、相対的にAlの割合が少なくなり過ぎて、高温硬さの低下、耐熱性の低下が生じ、偏摩耗の発生、熱塑性変形の発生等により耐摩耗性が劣化するようになることから、Al(とSi)との合量に占めるCrの含有割合α(原子比)は、0.25〜0.45と定めた。
また、AlとCrとの合量に占めるSiの含有割合β(原子比、以下同じ)が0.01未満では、高速重切削加工において高温硬さ、耐熱塑性変形性の向上を期待することはできず、一方、AlとCrとの合量に占めるSiの含有割合β(原子比)が0.10を越えると、相対的にAlの割合が少なくなり過ぎて、高温硬さの低下傾向、耐熱性の低下傾向が生じ、偏摩耗の発生、熱塑性変形の発生等により耐摩耗性が劣化するようになることから、AlとCrとの合量に占めるSiの含有割合β(原子比)は、0.01〜0.10と定めた。
さらに、下部層の平均層厚が2μm未満では、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮することができず、工具寿命短命の原因となり、一方その平均層厚が10μmを越えると、高速重切削加工で切刃部にチッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を2〜10μmと定めた。
(b)中間層を構成するAlとCr(とSi)の複合酸化物層((Al,Cr)層,(Al,Cr,Si)層):
中間層を構成する(Al,Cr)層あるいは(Al,Cr,Si)層は、下部層、上部層のいずれに対しても密着性にすぐれるばかりか、すぐれた高温硬さと靭性を有する。
中間層を構成する(Al,Cr)層あるいは(Al,Cr,Si)層の中間層全体における平均組成を、
組成式:(Al1−YCr
あるいは
組成式:(Al1−Y−ZCrSi
で表した場合、Crの含有割合Y(但し、原子比)が0.25未満であると、溶着性の高い被削材の高速重切削加工において、中間層が十分な耐摩耗性を発揮することができず、一方、Y(原子比)が0.55を超えると、中間層全体としての靭性が低下し、高熱下で切刃に作用する高負荷によって、欠損を発生しやすくなるので、中間層におけるCr含有割合Yを0.25≦Y≦0.55(原子比)と定めた。
また、Siの含有割合Z(原子比、以下同じ)が0.01未満では、高温硬さ、耐熱塑性変形性の向上は期待できず、一方、Siの含有割合Z(原子比)が0.10を越えると、中間層としての靭性が低下し、切刃に作用する高負荷によって欠損を生じ易くなることから、Siの含有割合Z(原子比)は、0.01〜0.10と定めた。
また、中間層の平均層厚が1μm未満では、長期の使用に亘って上記の優れた作用を発揮することができず、一方、平均層厚が3μmを超えると、切刃に作用する高負荷によって、欠損を生じやすくなるので、中間層の平均層厚は1〜3μmと定めた。
(c)上部層を構成する組成傾斜型のAlとCr(とSi)の複合酸化物層:
組成傾斜型のAlとCrの複合酸化物層(以下、中間層と区別するため、組成傾斜型(Al,Cr)層という)あるいは組成傾斜型のAlとCrとSiの複合酸化物層(以下、組成傾斜型(Al,Cr,Si)層という)は、軟鋼、ステンレス鋼などのように溶着性が高い被削材、合金鋼、ダイス鋼等の高硬度難削材の、特に、高熱発生を伴い、かつ、切刃に対して高負荷が作用する高送り、高切り込みの高速重切削加工における、硬質被覆層全体としての熱伝導性、熱放散性、潤滑性を改善するために設けられた上部層である。
上部層の表面近傍において、O(酸素)含有割合が低下するような組成傾斜型(Al,Cr)層あるいは組成傾斜型(Al,Cr,Si)層を上部層として形成すると、上部層表面は、熱伝導性、熱放散性、潤滑性に優れていることから、切刃に高負荷が作用する条件下での高熱発生によっても、溶着を生じやすい被削材の切粉等の溶着発生が防止され、その結果、高送り、高切り込みの高速重切削加工においても、すぐれた耐チッピング性を発揮するようになる。
組成傾斜型(Al,Cr)層、組成傾斜型(Al,Cr,Si)層の上部層全体における平均組成を、
組成式:(Al1−YCr1−X
あるいは
組成式:(Al1−Y−ZCrSi1−X
で表した場合、Al成分とCr成分(とSi成分)の合計含有量に対するO(酸素)含有割合X(但し、原子比)が、0.2を超えると、軟鋼、ステンレス鋼、合金鋼、ダイス鋼等の被削材との滑り性が低下傾向を示し、また、熱伝導性、熱放散性も低下傾向を示し、その結果、耐チッピング性の改善効果が充分発揮されなくなることから、O(酸素)含有割合X(但し、原子比)を0<X≦0.2と定めた。
しかも、上部層におけるO(酸素)含有割合が、中間層側から上部層表面に向かって減少する傾斜組成構造を採用することによって、上部層の高温硬さ、靭性等を著しく低下させることなしに、被削材とのすぐれた潤滑性を上部層表面で確保することが可能となる。
また、Al(とSi)との合量に占めるCrの含有割合Y(但し、原子比)が0.25未満では、中間層の場合と同様、高速重切削加工において、十分な耐摩耗性を発揮することができず、一方、Y(原子比)が0.55を超えると、上部層全体としての靭性が低下し、高熱下で切刃に作用する高負荷によって、欠損を発生しやすくなるので、上部層におけるCr含有割合Yを0.25≦Y≦0.55(原子比)と定めた。
また、AlとCrとの合量に占めるSiの含有割合Z(但し、原子比)が0.01未満では、薄層Bの場合と同様、高速重切削加工において、十分な耐熱塑性変形性を発揮することができず、一方、Z(原子比)が0.10を超えると、上部層としての靭性が低下し、高熱下で切刃に作用する高負荷によって、欠損を発生しやすくなるので、上部層におけるSi含有割合Zを0.01≦Z≦0.10(原子比)と定めた。
さらに、上記組成傾斜型(Al,Cr)層、組成傾斜型(Al,Cr,Si)層の平均層厚が0.3μm未満では、長期の使用に亘って被削材との優れた潤滑性、熱伝導性、熱放散性を確保することができず、一方、平均層厚が1μmを超えると、切刃に作用する高負荷によって、欠損を生じやすくなるので、上記組成傾斜型(Al,Cr)層、組成傾斜型(Al,Cr,Si)層からなる上部層の平均層厚は0.3〜1μmと定めた。
(d)硬質被覆層の蒸着形成
この発明の下部層、中間層、上部層からなる硬質被覆層は、通常の物理蒸着装置(例えば、アークイオンプレーティング(以下、AIPという)装置)を用いて蒸着形成することができる。
例えば、AIP装置の一方には基体洗浄用のTi電極からなるカソード電極、他方にはAl−Cr(−Si)合金からなるカソード電極を設け、
まず、例えば、炭化タングステン基超硬合金からなる工具基体を洗浄・乾燥し、AIP装置内の回転テーブル上に装着し、基体洗浄用のTi電極とアノード電極との間にアーク放電を発生させて、工具基体表面をボンバード洗浄し、
ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入し、工具基体にバイアス電圧を印加しつつ、Al−Cr(−Si)合金カソード電極とアノード電極との間にアーク放電を発生させ、工具基体表面に所定層厚の(Al,Cr)N層あるいは(Al,Cr,Si)N層を下部層として蒸着形成し、
ついで、装置内に反応ガスとしての酸素を含有する雰囲気ガスを導入し、Al−Cr合金カソード電極とアノード電極との間にアーク放電を発生させ、工具基体表面に所定層厚の(Al,Cr)層あるいは(Al,Cr,Si)層を中間層として蒸着形成し、
ついで、Al−Cr(−Si)合金カソード電極とアノード電極との間にアーク放電を維持したままで、雰囲気ガス中の酸素含有量を次第に低減することによって、酸素含有割合が中間層側から上部層表層に向かうにしたがって徐々に減少する、所定層厚の組成傾斜型(Al,Cr)層あるいは組成傾斜型(Al,Cr,Si)層からなる上部層を蒸着形成することができる。
この発明の表面被覆切削工具は、硬質被覆層の下部層を構成する(Al,Cr)N層あるいは(Al,Cr,Si)N層が、すぐれた高温硬さ、高温強度、耐高温酸化性を有し、さらに、この上に形成された(Al,Cr)層あるいは(Al,Cr,Si)層からなる中間層が、すぐれた高温硬さ、靭性を有し、さらにこの上に形成された組成傾斜型(Al,Cr)層あるいは組成傾斜型(Al,Cr,Si)層からなる上部層が、すぐれた高温硬さ、靭性とともに、溶着性の高い被削材とのすぐれた滑り性を備え、さらに、優れた熱伝導性、熱放散性を備えていることから、軟鋼、ステンレス鋼などのように溶着性が高い被削材、合金鋼、ダイス鋼等の高硬度難削材の、特に、高熱発生条件下で切刃に対して高負荷が作用する高送り、高切り込みの高速重切削加工において、すぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮し、その結果、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮するものである。
つぎに、この発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr32粉末、TiN粉末、TaN粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、ボールミルで72時間湿式混合し、乾燥した後、100MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を6Paの真空中、温度:1400℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.03のホーニング加工を施してISO規格・CNMG120408のチップ形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A−1〜A−10を形成した。
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(重量比でTiC/TiN=50/50)粉末、Mo2C粉末、ZrC粉末、NbC粉末、TaC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、100MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を2kPaの窒素雰囲気中、温度:1500℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.03のホーニング加工を施してISO規格・CNMG120408のチップ形状をもったTiCN基サーメット製の工具基体B−1〜B−6を形成した。
(a)上記の工具基体A−1〜A−10およびB−1〜B−6のそれぞれを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、AIP装置(図示せず)の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部にそって装着し、AIP装置の一方にボンバード洗浄用のTiカソード電極(蒸発源)を、他方側に所定組成のAl−Cr(−Si)合金カソード電極(蒸発源)を配置し、
(b)まず、装置内を排気して0.1Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ、Tiカソード電極とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって工具基体表面をボンバード洗浄し、
(c)ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して3Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ前記Al−Cr(−Si)合金カソード電極とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記工具基体の表面に、表3〜6に示される目標組成および目標平均層厚の(Al,Cr)N層あるいは(Al,Cr,Si)N層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成し、
(d)ついで、装置内に反応ガスとして酸素ガスを導入して1Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加した状態で、Al−Cr(−Si)合金カソード電極(蒸発源)とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、下部層の上に(Al,Cr)層あるいは(Al,Cr,Si)層からなる中間層を蒸着し、
(e)ついで、Al−Cr(−Si)合金カソード電極(蒸発源)とアノード電極との間のアーク放電を継続させつつ、酸素含有量が徐々に低減するように雰囲気を調整し、表3〜6に示される目標平均層厚、目標酸素含有割合X値の組成傾斜型(Al,Cr)層あるいは組成傾斜型(Al,Cr,Si)層からなる上部層を形成することにより、
本発明被覆工具としての表面被覆スローアウエイチップ(以下、本発明被覆チップと云う)1〜16,21〜36をそれぞれ製造した。
比較例1:
比較の目的で、これら工具基体A−1〜A−10およびB−1〜B−6を、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、図1に示されるAIP装置に装入し、
まず、装置内を排気して0.1Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ、Tiカソード電極とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって工具基体表面をボンバード洗浄し、
ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して3Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ、Al−Cr(−Si)合金カソード電極とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記工具基体の表面に、表7,8に示される目標組成および目標層厚の(Al,Cr)N層あるいは(Al,Cr,Si)N層(本発明でいう下部層に相当)を蒸着し、
比較被覆工具としての表面被覆スローアウエイチップ(以下、比較被覆チップと云う)1〜16,21〜36をそれぞれ製造した。
つぎに、上記の各種の被覆チップを、いずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明被覆チップ1〜16および比較被覆チップ1〜16について、
被削材:JIS・S10Cの丸棒、
切削速度: 250 m/min.、
切り込み: 3.0 mm、
送り: 0.45 mm/rev.、
切削時間: 10 分、
の条件(切削条件Aという)での軟鋼の乾式連続高速高送り・高切込み切削加工試験(通常の切削速度、送り及び切り込みは、それぞれ、150mm/min.、0.25mm/rev、1.5mm)、
被削材:JIS・S55Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 220 m/min.、
切り込み: 1.5 mm、
送り: 0.5 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件Bという)での炭素鋼の乾式断続高速高送り切削加工試験(通常の切削速度及び送りは、それぞれ、120m/min.、0.25mm/rev.)、
被削材:JIS・SUS304の丸棒、
切削速度: 250 m/min.、
切り込み: 2.8 mm、
送り: 0.2 mm/rev.、
切削時間: 10 分、
の条件(切削条件Cという)でのステンレス鋼の乾式連続高速高切込み切削加工試験(通常の切削速度及び切り込みは、それぞれ、160 m/min.、1.5mm)、
を行い、いずれの高速重切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表9に示した。
また、同様に、本発明被覆チップ21〜36および比較被覆チップ21〜36については、
被削材:JIS・S55Cの丸棒、
切削速度: 280 m/min.、
切り込み: 3.0 mm、
送り: 0.45 mm/rev.、
切削時間: 10 分、
の条件(切削条件Dという)での炭素鋼の乾式連続高速高送り・高切込み切削加工試験(通常の切削速度、送り及び切り込みは、それぞれ、150m/min、0.25mm/rev、1.5mm)、
被削材:JIS・SUS304の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 240 m/min.、
切り込み: 1.5 mm、
送り: 0.55 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件Eという)でのステンレス鋼の乾式断続高速高送り切削加工試験(通常の切削速度及び送りは、それぞれ、120m/min、0.25mm/rev.)、
被削材:JIS・S10Cの丸棒、
切削速度: 300 m/min.、
切り込み: 3.0 mm、
送り: 0.2 mm/rev.、
切削時間: 10 分、
の条件(切削条件Fという)での軟鋼の乾式連続高速高切込み切削加工試験(通常の切削速度及び切り込みは、それぞれ、160m/min、1.5mm)、
を行い、いずれの高速重切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表10に示した。
Figure 0005476842
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原料粉末として、平均粒径:5.5μmを有する中粗粒WC粉末、同0.8μmの微粒WC粉末、同1.3μmのTaC粉末、同1.2μmのNbC粉末、同1.2μmのZrC粉末、同2.3μmのCr粉末、同1.5μmのVC粉末、同1.0μmの(Ti,W)C[質量比で、TiC/WC=50/50]粉末、および同1.8μmのCo粉末を用意し、これら原料粉末をそれぞれ表11に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、100MPaの圧力で所定形状の各種の圧粉体にプレス成形し、これらの圧粉体を、6Paの真空雰囲気中、7℃/分の昇温速度で1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に昇温し、この温度に1時間保持後、炉冷の条件で焼結して、直径が8mm、13mm、および26mmの3種の工具基体形成用丸棒焼結体を形成し、さらに前記の3種の丸棒焼結体から、研削加工にて、表10に示される組合せで、切刃部の直径×長さがそれぞれ6mm×13mm、10mm×22mm、および20mm×45mmの寸法、並びにいずれもねじれ角30度の4枚刃スクエア形状をもったWC基超硬合金製の工具基体(エンドミル)C−1〜C−8をそれぞれ製造した。
ついで、これらの工具基体(エンドミル)C−1〜C−8の表面をアセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じくAIP装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、表12,13に示される目標組成および目標層厚の(Al,Cr)N層あるいは(Al,Cr,Si)N層を下部層として形成し、同じく、目標組成および目標層厚の(Al,Cr)層あるいは(Al,Cr,Si)層を中間層として形成し、さらに、同じく表12,13に示される目標平均層厚、目標酸素含有割合X値の組成傾斜型(Al,Cr)層あるいは組成傾斜型(Al,Cr,Si)層からなる上部層を形成することにより、
本発明被覆工具としての本発明被覆超エンドミル(以下、本発明被覆エンドミルと云う)1〜8,11〜18をそれぞれ製造した。
比較例2:
比較の目的で、上記の工具基体(エンドミル)C−1〜C−8の表面をアセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じくAIP装置に装入し、上記比較例1と同一の条件で、表14に示される目標平均層厚および目標組成の(Al,Cr)N層あるいは(Al,Cr,Si)N層(本発明でいう下部層に相当)を蒸着することにより、
比較被覆工具としての比較被覆エンドミル(以下、比較被覆エンドミルと云う)1〜8,11〜18をそれぞれ製造した。
つぎに、上記本発明被覆エンドミル1〜8および比較被覆エンドミル1〜8のうち、
本発明被覆エンドミル1〜3および比較被覆エンドミル1〜3については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SUS304の板材、
切削速度: 120 m/min.、
溝深さ(切り込み): 5 mm、
テーブル送り: 130 mm/分、
の条件でのステンレス鋼の湿式高速高切込み溝切削加工試験(通常の切削速度及び切り込みは、それぞれ、70m/min.、3mm.)、
本発明被覆エンドミル4〜6および比較被覆エンドミル4〜6については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S55Cの板材、
切削速度: 150 m/min.、
溝深さ(切り込み): 8 mm、
テーブル送り: 450 mm/分、
の条件での炭素鋼の乾式高速高切込み溝切削加工試験(通常の切削速度及び切り込みは、それぞれ、100m/min.、5mm.)、
本発明被覆エンドミル7,8および比較被覆エンドミル7,8については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S10Cの板材、
切削速度: 150 m/min.、
溝深さ(切り込み): 15 mm、
テーブル送り: 250 mm/分、
の条件での軟鋼の乾式高速高切込み溝切削加工試験(通常の切削速度及び切り込みは、それぞれ、100m/min.、10mm.)、
をそれぞれ行い、いずれの高速高切込み溝切削加工試験でも切刃部の外周刃の逃げ面摩耗幅が使用寿命の目安とされる0.1mmに至るまでの切削溝長を測定した。この測定結果を表12,14にそれぞれ示した。
また同様に、上記本発明被覆エンドミル11〜18および比較被覆エンドミル11〜18のうち、
本発明被覆エンドミル11〜13および比較被覆エンドミル11〜13については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S55Cの板材、
切削速度: 140 m/min.、
溝深さ(切り込み): 5 mm、
テーブル送り: 140 mm/分、
の条件での炭素鋼の乾式高速高切込み溝切削加工試験(通常の切削速度及び切り込みは、それぞれ、70m/min.、3mm.)、
本発明被覆エンドミル14〜16および比較被覆エンドミル14〜16については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S10Cの板材、
切削速度: 180 m/min.、
溝深さ(切り込み): 8 mm、
テーブル送り: 460 mm/分、
の条件での軟鋼の乾式高速高切込み溝切削加工試験(通常の切削速度及び切り込みは、それぞれ、100m/min.、5mm.)、
本発明被覆エンドミル17,18および比較被覆エンドミル17,18については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SUS304の板材、
切削速度: 180 m/min.、
溝深さ(切り込み): 16 mm、
テーブル送り: 270 mm/分、
の条件でのステンレス鋼の乾式高速高切込み溝切削加工試験(通常の切削速度及び切り込みは、それぞれ、100m/min.、10mm.)、
をそれぞれ行い、いずれの高速高切込み溝切削加工試験でも切刃部の外周刃の逃げ面摩耗幅が使用寿命の目安とされる0.1mmに至るまでの切削溝長を測定した。この測定結果を表13、14にそれぞれ示した。
Figure 0005476842
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Figure 0005476842
Figure 0005476842
上記の実施例2で製造した直径が8mm(工具基体C−1〜C−3形成用)、13mm(工具基体C−4〜C−6形成用)、および26mm(工具基体C−7、C−8形成用)の3種の丸棒焼結体を用い、この3種の丸棒焼結体から、研削加工にて、溝形成部の直径×長さがそれぞれ4mm×13mm(工具基体D−1〜D−3)、8mm×22mm(工具基体D−4〜D−6)、および16mm×45mm(工具基体D−7、D−8)の寸法、並びにいずれもねじれ角30度の2枚刃形状をもったWC基超硬合金製の工具基体(ドリル)D−1〜D−8をそれぞれ製造した。
ついで、これらの工具基体(ドリル)D−1〜D−8の切刃に、ホーニングを施し、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、AIP装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、表15,16に示される目標組成および目標層厚の(Al,Cr)N層あるいは(Al,Cr,Si)N層を下部層として形成し、同じく、目標組成および目標層厚の(Al,Cr)層あるいは(Al,Cr,Si)層を中間層として形成し、さらに、同じく表15,16に示される目標平均層厚、目標酸素含有割合X値の組成傾斜型(Al,Cr)層あるいは組成傾斜型(Al,Cr,Si)層からなる上部層を形成することにより、
本発明被覆工具としての本発明被覆ドリル(以下、本発明被覆ドリルと云う)1〜8,11〜18をそれぞれ製造した。
比較例3:
比較の目的で、上記の工具基体(ドリル)D−1〜D−8の表面に、ホーニングを施し、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、AIP装置に装入し、上記比較例1と同一の条件で、表17に示される目標平均層厚および目標組成の(Al,Cr)N層あるいは(Al,Cr,Si)N層(本発明でいう下部層に相当)を蒸着することにより、
比較被覆工具としての比較被覆ドリル(以下、比較被覆ドリルと云う)1〜8、11〜18をそれぞれ製造した。
つぎに、上記本発明被覆ドリル1〜8および比較被覆ドリル1〜8のうち、本発明被覆ドリル1〜3および比較被覆ドリル1〜3については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S55Cの板材、
切削速度: 120 m/min.、
送り: 0.30 mm/rev、
穴深さ: 8 mm、
の条件での炭素鋼の湿式高速高送り穴あけ切削加工試験(通常の切削速度及び送りは、それぞれ、80m/min.、0.15mm/rev)、
本発明被覆ドリル4〜6および比較被覆ドリル4〜6については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S10Cの板材、
切削速度: 140 m/min.、
送り: 0.40 mm/rev、
穴深さ: 15 mm、
の条件での軟鋼の湿式高速高送り穴あけ切削加工試験(通常の切削速度及び送りは、それぞれ、80m/min.、0.25mm/rev)、
本発明被覆ドリル7、8および比較被覆ドリル7、8については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SUS304の板材、
切削速度: 120 m/min.、
送り: 0.35 mm/rev、
穴深さ: 28 mm、
の条件でのステンレス鋼の湿式高速高送り穴あけ切削加工試験(通常の切削速度及び送りは、それぞれ、80m/min.、0.25mm/rev)、
をそれぞれ行い、いずれの湿式高速高送り穴あけ切削加工試験(水溶性切削油使用)でも先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまでの穴あけ加工数を測定した。この測定結果を表15、17にそれぞれ示した。
同様に、上記本発明被覆ドリル11〜18および比較被覆ドリル11〜18のうち、本発明被覆ドリル11〜13および比較被覆ドリル11〜13については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S10Cの板材、
切削速度: 150 m/min.、
送り: 0.30 mm/rev、
穴深さ: 8 mm、
の条件での軟鋼の湿式高速高送り穴あけ切削加工試験(通常の切削速度及び送りは、それぞれ、80m/min.、0.15mm/rev)、
本発明被覆ドリル14〜16および比較被覆ドリル14〜16については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SUS304の板材、
切削速度: 160 m/min.、
送り: 0.42 mm/rev、
穴深さ: 15 mm、
の条件でのステンレス鋼の湿式高速高送り穴あけ切削加工試験(通常の切削速度及び送りは、それぞれ、80m/min.、0.25mm/rev)、
本発明被覆ドリル17、18および比較被覆ドリル17、18については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S55Cの板材、
切削速度: 150 m/min.、
送り: 0.38 mm/rev、
穴深さ: 28 mm、
の条件での炭素鋼の湿式高速高送り穴あけ切削加工試験(通常の切削速度及び送りは、それぞれ、80m/min.、0.25mm/rev)、
をそれぞれ行い、いずれの湿式高速高送り穴あけ切削加工試験(水溶性切削油使用)でも先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまでの穴あけ加工数を測定した。この測定結果を表16、17にそれぞれ示した。
Figure 0005476842
Figure 0005476842
Figure 0005476842
この結果得られた本発明被覆チップ、本発明被覆エンドミル、本発明被覆ドリルの硬質被覆層の下部層を構成する(Al,Cr)N層あるいは(Al,Cr,Si)N層の組成、中間層を構成する(Al,Cr)N層あるいは(Al,Cr,Si)N層の組成、並びに、比較被覆チップ、比較被覆エンドミル、比較被覆ドリルの硬質被覆層(本発明の下部層に相当)を構成する(Al,Cr)N層あるいは(Al,Cr,Si)N層の組成、さらに、上記本発明被覆チップ、本発明被覆エンドミル、本発明被覆ドリルの硬質被覆層の上部層を構成する組成傾斜型(Al,Cr)層あるいは組成傾斜型(Al,Cr,Si)層の組成を、透過型電子顕微鏡を用いてのエネルギー分散X線分析法により測定したところ、それぞれの目標組成と実質的に同じ組成を示した。
また、本発明被覆チップ、本発明被覆エンドミル、本発明被覆ドリルの硬質被覆層の上部層の層厚方向における組成傾斜型(Al,Cr)層中のO(酸素)含有割合の変化、また、組成傾斜型(Al,Cr,Si)層中のO(酸素)含有割合の変化については、オージェ分光分析法により、上部層表層に向かうにしたがって、O(酸素)含有割合が低減していることを確認した。
また、上記本発明被覆工具および上記比較被覆工具の硬質被覆層の各構成層の平均層厚を走査型電子顕微鏡を用いて断面測定したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均値(5ヶ所の平均値)を示した。
表9,10,12〜17に示される結果から、本発明被覆工具は、(Al,Cr)N層あるいは(Al,Cr,Si)N層からなる下部層が、すぐれた高温硬さ、耐熱性および高温強度を有し、かつ、(Al,Cr)層あるいは(Al,Cr,Si)層からなる中間層が、すぐれた高温硬さ、靭性を有し、さらに、組成傾斜型(Al,Cr)層あるいは組成傾斜型(Al,Cr,Si)層からなる上部層が、すぐれた熱伝導性、熱放散性を有することに加え、溶着性の高い被削材との潤滑性に優れていることから、軟鋼、ステンレス鋼などのように溶着性が高い被削材、合金鋼、ダイス鋼などの高硬度難削材の、特に、高熱条件下で切刃に対して高負荷が作用する高送り、高切り込みの高速重切削加工において、すぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮するのに対して、硬質被覆層が(Al,Cr)N層あるいは(Al,Cr,Si)N層からなる比較被覆工具においては、被削材との潤滑性が不十分であるため溶着が発生しやすく、また、耐熱性も十分でないため、切粉の溶着に起因するチッピングの発生、偏摩耗の発生により、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
上述のように、この発明の被覆工具は、一般鋼や普通鋳鉄など通常条件での切削加工は勿論のこと、溶着性が高い被削材、高硬度難削材の高速重切削加工においても、長期に亘ってすぐれた切削性能を示すものであるから、切削加工装置のFA化、並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。

Claims (2)

  1. 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、下部層、中間層及び上部層からなる硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
    (a)下部層は、2〜10μmの平均層厚を有し、下部層全体における平均組成を、
    組成式:(Al1−αCrα)N
    で表した場合、0.25≦α≦0.45(但し、αは原子比)を満足するAlとCrの複合窒化物層、
    (b)中間層は、1〜3μmの平均層厚を有し、中間層全体における平均組成を、
    組成式:(Al1−YCr
    で表した場合、0.25≦Y≦0.55(但し、Yは原子比)を満足するAlとCrの複合酸化物層、
    (c)上部層は、0.3〜1μmの平均層厚を有し、上部層全体における平均組成を、
    組成式:(Al1−YCr1−X
    で表した場合、0<X≦0.2,0.25≦Y≦0.55(但し、X,Yはいずれも原子比)を満足し、さらに、上部層におけるO(酸素)含有割合は、中間層側から上部層表面に向かって減少する傾斜組成を有する組成傾斜型のAlとCrの複合酸化物層、
    上記(a)〜(c)で構成された硬質被覆層を蒸着形成してなる表面被覆切削工具。
  2. 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、下部層、中間層及び上部層からなる硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
    (d) 下部層は、2〜10μmの平均層厚を有し、下部層全体における平均組成を、
    組成式:(Al1−α−βCrαSiβ)N
    で表した場合、0.25≦α≦0.45、0.01≦β≦0.10(但し、α,βはいずれも原子比)を満足するAlとCrとSiの複合窒化物層、
    (e)中間層は、1〜3μmの平均層厚を有し、中間層全体における平均組成を、
    組成式:(Al1−Y−ZCrSi
    で表した場合、0.25≦Y≦0.55、0.01≦Z≦0.10(但し、Y,Zはいずれも原子比)を満足するAlとCrとSiの複合酸化物層、
    (f) 上部層は、0.3〜1μmの平均層厚を有し、上部層全体における平均組成を、
    組成式:(Al1−Y−ZCrSi1−X
    で表した場合、0<X≦0.2,0.25≦Y≦0.55、0.01≦Z≦0.10(但し、X,Y,Zはいずれも原子比)を満足し、さらに、上部層におけるO(酸素)含有割合は、中間層側から上部層表面に向かって減少する傾斜組成を有する組成傾斜型のAlとCrとSiの複合酸化物層、
    上記(d)〜(f)で構成された硬質被覆層を蒸着形成してなる表面被覆切削工具。
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