JP2008114331A - 高耐酸化性硬質皮膜被覆工具及び硬質膜被覆方法 - Google Patents

高耐酸化性硬質皮膜被覆工具及び硬質膜被覆方法 Download PDF

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Abstract

【課題】従来の硬質皮膜に対し、更に耐酸化性、耐摩耗性を改善し、単層で十分な耐酸化性及び耐摩耗性を発揮し、切削加工の乾式化、高速化に対応した硬質皮膜被覆工具及び硬質膜被覆方法を提供。
【解決手段】高速度鋼、超硬合金、サーメット、セラミックスの何れかを母材とし、金属成分のみの原子%で、Si が60%を越え85%以下、Si ,Ti ,Cr 以外の金属、半金属元素が10%以下、残り:Ti およびCr で構成される窒化物、炭窒化物、酸窒化物、酸炭窒化物のいずれかからなる層を単層又は複層被覆した。
【選択図】なし

Description

本発明は、金属材料等の切削加工に使用される硬質皮膜被覆工具及び硬質膜被覆方法に関する。
従来はTi N、Ti CN等を被覆した切削工具が汎用的かつ一般的であった。しかしながら、金属加工の高能率化を目的とした切削速度の高速化傾向に対し、上記硬質皮膜では、十分な耐酸化性、耐摩耗性を示さなくなった。この様な背景から、皮膜の耐酸化性、耐摩耗性をより向上させる研究がなされ、その結果、特許文献1、2に代表されるTi Al N皮膜が開発され切削工具に適用されている。
特開昭62−56565号 特開平2−194159号 特許第2644710号 特許第3347687号 特開2004−338008号
Ti Al N皮膜は、その皮膜中に含有するTi とAl の成分比率により異なるものの、概略2300〜2800のビッカース硬さを有すだけではなく、耐酸化性が、前記Ti N、Ti CNに比べ優れるため、刃先が高温に達する切削条件下においては、切削工具の性能を著しく向上させる。しかしながら、近年では切削速度が更に高速化する傾向に加え、乾式での切削加工が環境問題上重要視され、切削工具の使用環境はますます苛酷なものとなってきている。大気中におけるTi Al N皮膜の酸化開始温度は、Ti Nの 450°Cに対し、Al の添加量に依存して 750〜 900°Cに向上することが、特許文献3に記載されている。しかしながら、前述の乾式高速切削加工においては、使用する工具の刃先温度が 900°C以上の高温に達するため、前記Ti Al N皮膜では、十分な工具寿命が得られないのが現状である。
そこで、近年Ti Al Nよりも耐酸化性の高い皮膜として特許文献4にはTi Al Hf Cr NとTi Si Nとを重複した被覆した皮膜が開発されている。特許文献5にはTi Si Cr N皮膜を、Si 最高含有点とSi 最低含有点とが所定間隔あけてかつSi 含有割合が連続的に変化させて重層被覆するものが開示されているが、Si の含有量は60%を上限に、多くは20%程度であり、単層で十分な耐酸化性及び耐摩耗性を発揮するには至っていない。
本発明の課題は、かかる従来の硬質皮膜に対し、更に耐酸化性、耐摩耗性を改善し、単層で十分な耐酸化性及び耐摩耗性を発揮し、切削加工の乾式化、高速化に対応した硬質皮膜被覆工具及び硬質膜被覆方法を提供することにある。
このため本発明は、高速度鋼、超硬合金、サーメット、セラミックスの何れかを母材とし、金属成分のみの原子%で、Si が60%を越え85%以下、Si ,Ti ,Cr 以外の金属、半金属元素が10%以下、残り:Ti およびCr で構成される窒化物、炭窒化物、酸窒化物、酸炭窒化物のいずれかからなる層を単層又は複層被覆したことを特徴とする硬質皮膜被覆工具を提供することにより上記課題を解決した。
発明者は、硬質皮膜の耐酸化性、耐摩耗性および密着性に及ぼす、様々な元素の影響および皮膜の層構造について詳細な検討を行った結果、Si を主成分としてTi およびCr を適量含有した窒化物、炭窒化物、酸窒化物もしくは酸炭窒化物(以下、Si Ti Cr 系窒化物等と記す)が、乾式の高速切削加工において、切削工具の性能が極めて良好となることを見出し本発明に到達した。即ち本発明は、Si が60%を越え85%以下、Si ,Ti ,Cr 以外の金属、半金属元素が10%以下、残り:Ti およびCr で構成される窒化物、炭窒化物、酸窒化物、酸炭窒化物のいずれかからなる層を単層又は複層被覆したことにより、従来の被覆工具に比べ単層で十分な耐酸化性及び耐摩耗性を発揮し、乾式超高速切削加工において格段に長い工具寿命が得られ、切削加工における生産性の向上だけでなく環境問題に対応できる硬質皮膜被覆工具を提供するものとなった。
好ましくは、高速度鋼、超硬合金、サーメット、セラミックスの何れかを母材とし、金属成分のみの原子%で、Si が60%を越え85%以下、Si ,Ti ,Cr 以外の金属、半金属元素が10%以下、残り:Ti およびCr で構成される窒化物、炭窒化物、酸窒化物、酸炭窒化物のいずれかからなる層で、Si の濃度が上記範囲内で母材側から表面側に向かって連続的に増加、または増加したのち減少する傾斜組成層を単層又は複層被覆した硬質皮膜被覆工具、さらに前記傾斜組成層で、金属成分のみの原子%で、Si の含有割合が最大の点で70%以上85%以下、最小の点で40%以上60%以下である傾斜組成層を単層又は複層被覆した硬質膜被覆工具がより耐酸化性及び耐摩耗性を増進する。さらに好ましくは、かかる硬質膜を被覆した硬質膜被覆工具表面の 0.1mm四方の任意の範囲に直径1μm以上の母材形状によらない凹凸が10個以下であることが好ましい。
特許文献4には、Ti Al NとTi Si 系窒化物等との耐酸化性の違いについて詳しく述べられている。それによれば、『一般にTi Al N皮膜は、大気中で酸化テストを行うと、皮膜表面近傍のAl が最表面に外向拡散し、そこでアルミナ層を形成する。このことが耐酸化性向上の理由と考えられるが、この時、アルミナ層直下には、Al を含有しない非常にポーラスなTi 酸化物が形成する。静的である酸化テストにおいては、最表面に形成されたアルミナ層が、酸化の進行である酸素の内向拡散に対し、酸化保護膜として機能するものの、動的な切削加工においては、最表面のアルミナ層は、その直下のポーラスなTi 酸化物層より容易に剥離してしまい、酸化の進行に対し十分な効果を発揮しない。しかしながら、Ti Si 系窒化物等は皮膜自体の耐酸化性が極めて高いだけでなく、最表面に酸化保護膜となるSi を含有する非常に緻密な複合酸化物層が形成され、また、その直下には酸化保護膜の剥離原因となるポーラスなTi 酸化物が形成されないことを確認した。』とある。しかし、上記効果を最大限に発揮するには、Si が皮膜の金属成分のみの原子%で、40%以上含有されていなければならない。特許文献4では、Si 含有量が60%を越えると、皮膜の延性ないしは硬さの低下が顕著になり、切削工具としての使用に耐えられなくなるとあるが、発明者らの研究ではSi を85%まで増加させても、硬さの低下はほとんど見られず、切削工具としても良好な性能を示した。
本発明の実施形態の硬質皮膜被覆工具は、高速度鋼、超硬合金、サーメット、セラミックスの何れかを母材とし、金属成分のみの原子%で、Si が60%を越え85%以下、Si ,Ti ,Cr 以外の金属、半金属元素が10%以下、残り:Ti およびCr で構成される窒化物、炭窒化物、酸窒化物、酸炭窒化物のいずれかからなる層を単層又は複層被覆したことを特徴とするものである。
本発明の実施形態の硬質皮膜被覆工具は、原子%でTi が25%以上45%以下、Cr が5%以上25%以下、Si ,Ti ,Cr 以外の金属、半金属元素が10%未満、残りSi で構成され、Ti粉末、Cr粉末および二珪化チタン粉末を主な原料とし、圧粉成型により作製する、相対密度即ち同体積の完全固体に対する質量が50%以上70%以下である蒸発用ターゲットを使用し、溶融蒸発型イオンプレーティング法により、超硬合金、高速度工具鋼、セラミック及びサーメット工具母材上に、Si が60%を越え85%以下、Si ,Ti ,Cr 以外の金属、半金属元素が10%以下、残り:Ti およびCr で構成される窒化物、炭窒化物、酸窒化物、酸炭窒化物のいずれかからなる層を単層又は複層被覆したことにより、従来の被覆工具に比べ単層で十分な耐酸化性及び耐摩耗性を発揮し、乾式超高速切削加工において格段に長い工具寿命が得られ、切削加工における生産性の向上だけでなく環境問題に対応できる硬質皮膜被覆工具を提供するものとなった。
特許文献4と本発明の実施形態の硬質皮膜被覆工具で、Si を60%を越えて含む場合の工具性能について差が生じた原因は、コーティング方法の違いにあると考えられる。特許文献4ではTi Si 系窒化物等を製造する方法としてアークイオンプレーティング法( 以下、アーク法) を採用しているが、アーク法はドロップレットと呼ばれる未反応金属の塊が母材表面に相当量付着する。この未反応金属中にSi が60%を越えて含まれることにより、膜の延性や硬さが低下する原因となると考えられる。別の言い方をすれば、ドロップレットを減らすことにより、Si を60%を越えて含むSi Ti Cr 系窒化物等で良好な切削性能を発揮することができる。即ち、工具表面の 0.1mm四方の任意の範囲に直径1μm以上の母材形状によらない凹凸が10個以下であることを特徴とする硬質膜被覆工具によって、上記問題を解決した。上記条件を満足するためには、ファインカソード等の特殊なアーク法やスパッタ法を用いることも可能であるが、成膜速度、ターゲット原料費等の工業上の理由により、溶融蒸発型イオンプレーティング法を用いるのが最も好ましい。
また、Si ,Ti ,Cr 以外の金属、半金属元素を添加することにより、硬さあるいは潤滑性が改善される場合がある。したがって、必要に応じSi ,Ti ,Cr 以外の金属半金属元素を微量添加しても良い。しかしながら皮膜の金属成分のみの原子%で10%以上添加すると、前述したSi含有による耐酸化性向上効果が得られなくなる。よって、Si ,Ti ,Cr 以外の金属、半金属元素は、10%未満とする。
本発明の硬質皮膜被覆工具は、その被覆方法については、特に限定されるものではないが、被覆母材への熱影響、工具の疲労強度、皮膜の密着性等を考慮した場合、比較的低温で被覆でき、被覆した皮膜に圧縮応力が残留するアーク放電方式イオンプレーティング、スパッタリングおよび溶融蒸発型イオンプレーティング法( 以下溶解法) といった物理蒸着法により形成することが好ましく、ドロップレットが少なく、表面性状に優れる溶解法を用いるのがより好ましい。さらに、溶解法に用いる蒸発源即ちターゲット原料はTi粉末、Cr粉末、二珪化チタン粉末を主な原料とし、圧粉成型によって作製することが好ましい。
ターゲット原料に圧粉成型体を用いることによって、PCT WO 2005 /001154 A1 公報に開示されているように、圧粉成型体中の適度な空隙が溶融の際に断熱効果を生み、ターゲット原料に未溶融部位を残したまま、溶融部分を蒸発させることができる。そのことにより、融点の異なる2種類以上の金属をそれぞれ望みの組成で母材上に成膜することが可能となる。即ち、たとえばTi 、Cr 、二珪化チタンの顆粒状材料やSi −Ti −Cr の合金を用いた場合には、成膜初期に蒸発原料の全体が溶融する。その中から蒸発しやすいCr が先に蒸発し、次いでSi 、最後にTi が蒸発する。この方法では若干の傾斜組成になるものの、それぞれCr、Si 、Ti が金属成分のほとんどを占める3層構造となり、密着性および硬さの上で切削工具としては適さない。
原料としてSi 単体粉末をTi 粉末とともに圧粉成型して用いた場合、溶融初期においてTi粉末とSi 粉末が激しく反応し、全体が溶融して上記断熱効果が期待できなくなるほか、反応の際に生じる突沸によって未反応金属のスプラッシュ(はね)が生じ、母材表面に付着して表面性状を著しく低下させる。このため、Si 粉末を用いるのは好ましくなく、二珪化チタン粉末を用いるのが良い。Ti 粉末と二珪化チタン粉末の混合圧粉成型体を用いた場合にも、突沸によるスプラッシュが若干発生し、膜中に欠陥を生じさせる。スプラッシュの発生を抑制するためには昇華金属であるCr の添加が有効であり、原料の原子%で5%以上添加することにより、膜中の欠陥数を10分の1以下に減らすことができる。
溶融蒸発型イオンプレーティング装置を用い、金属成分の蒸発源である圧粉体ターゲット、ならびに反応ガスであるN2 ガス、C2 H2 ガス、Ar ガスおよびO2 ガスから目的の皮膜が得られるものを選択し、被覆基体温度 400°C、反応ガス圧力 0.1Pa の条件下にて、被覆基体である超硬インサート(12×12×6 mm)、超硬合金製2枚刃エンドミル(外径10mm)および超硬合金製6枚刃エンドミル(外径10mm)に、成膜を行った。得られた超硬インサート断面を電子線プローブ微小分析器(EPMA)にてSi 、Ti 、Cr の原子%を測定した。この結果を表1に示した。この超硬インサートを大気中、1100°Cで1時間保持し、自然冷却した後取り出した。加熱前後の膜厚を測定し、加熱前の膜厚から加熱後の膜厚を差し引いたものを、酸化膜厚とした。加熱前の膜厚に対する酸化膜厚の割合を%で表1に示した。得られた硬質皮膜被覆エンドミルを用い、次に示す乾式の高速切削条件にて、加工を行い、その時の逃げ面摩耗を測定した。切削試験結果を表1に示す。
Figure 2008114331
2枚刃エンドミル切削条件は、工具として超硬合金製2枚刃エンドミル、外径10mmを用いて、側面切削をダウンカットで、被削材は SKD61(53 HRC)、切り込み量Ad =10mm、Rd = 0.2mm、切削速度(V)=300m/min、送り量0.07mm/t00th、切削長=50m、切削油=なし、但し、エアーブロー使用で行った。次に、6枚刃エンドミル切削条件は、工具として超硬合金製6枚刃エンドミル、外径10mmを用いて、側面切削をダウンカットで、被削材は SKD61(53 HRC)、切り込み量Ad =10mm、Rd = 0.2mm、切削速度(V)= 800m/min 、送り量0.07mm/tooth、切削長=75m 、切削油=なし、但し、エアーブロー使用で行った。表1の本発明品16および17については、あらかじめ従来例12および13でTi NおよびTi Al Nを被覆した工具上に本発明のSi Ti Cr Nを被覆した例である。今回は従来例との比較のため、Ti NおよびTi Al Nと、Si Ti Cr Nは2回に分けて被覆しているが、同一の装置で連続して被覆しても良い。表1より、本発明例は、V= 300m/min の高速条件ではTi Al N、Al Cr Nと同等、V= 800 m/minの超高速条件では比較例ならびに従来例と比べて工具摩耗量が少なくなっており、乾式高速切削加工に十分対応することがわかる。
以上の如く、本発明の硬質皮膜被覆工具は、従来の被覆工具に比べ優れた耐酸化性、耐摩耗性を有すことから、乾式超高速切削加工において格段に長い工具寿命が得られ、切削加工における生産性の向上だけでなく環境問題への対応にも極めて有効である。
好ましくは、高速度鋼、超硬合金、サーメット、セラミックスの何れかを母材とし、金属成分のみの原子%で、Si が60%を越え85%以下、Si ,Ti ,Cr 以外の金属、半金属元素が10%以下、残り:Ti およびCr で構成される窒化物、炭窒化物、酸窒化物、酸炭窒化物のいずれかからなる層で、Si の濃度が上記範囲内で母材側から表面側に向かって連続的に増加、または増加したのち減少する傾斜組成層を単層又は複層被覆した硬質皮膜被覆工具、さらに前記傾斜組成層で、金属成分のみの原子%で、Si の含有割合が最大の点で70%以上85%以下、最小の点で40%以上60%以下である傾斜組成層を単層又は複層被覆した硬質膜被覆工具がより耐酸化性及び耐摩耗性を増進する。

Claims (5)

  1. 高速度鋼、超硬合金、サーメット、セラミックスの何れかを母材とし、金属成分のみの原子%で、Si が60%を越え85%以下、Si ,Ti ,Cr 以外の金属、半金属元素が10%以下、残り:Ti およびCr で構成される窒化物、炭窒化物、酸窒化物、酸炭窒化物のいずれかからなる層を単層又は複層被覆したことを特徴とする硬質皮膜被覆工具。
  2. 高速度鋼、超硬合金、サーメット、セラミックスの何れかを母材とし、金属成分のみの原子%で、Si が60%を越え85%以下、Si ,Ti ,Cr 以外の金属、半金属元素が10%以下、残り:Ti およびCr で構成される窒化物、炭窒化物、酸窒化物、酸炭窒化物のいずれかからなる層で、Si の濃度が上記範囲内で母材側から表面側に向かって連続的に増加、または増加したのち減少する傾斜組成層を単層又は複層被覆したことを特徴とする硬質皮膜被覆工具。
  3. 請求項2記載の傾斜組成層で、金属成分のみの原子%で、Si の含有割合が最大の点で70%以上85%以下、最小の点で40%以上60%以下である傾斜組成層を単層又は複層被覆したことを特徴とする硬質膜被覆工具。
  4. 請求項1、請求項2又は請求項3記載の硬質膜を被覆した硬質膜被覆工具表面の 0.1mm四方の任意の範囲に直径1μm以上の母材形状によらない凹凸が10個以下であることを特徴とする硬質膜被覆工具。
  5. 原子%でTi が25%以上45%以下、Cr が5%以上25%以下、Si ,Ti ,Cr 以外の金属、半金属元素が10%未満、残りSi で構成され、Ti 粉末、Cr 粉末および二珪化チタン粉末を主な原料とし、圧粉成型により作製する、相対密度即ち同体積の完全固体に対する質量が50%以上70%以下である蒸発用ターゲットを使用し、溶融蒸発型イオンプレーティング法により、超硬合金、高速度工具鋼、セラミック及びサーメット工具母材上に、請求項1乃至請求項5のいずれか1に記載の硬質膜を形成することを特徴とする硬質膜被覆方法。
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