JP2011011270A - 放射冷却能力に優れた硬質皮膜被覆切削工具 - Google Patents

放射冷却能力に優れた硬質皮膜被覆切削工具 Download PDF

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Abstract

【課題】切削工具を形成する各刃部が被削材と接触する時間が少ない切削加工であっても硬質皮膜の放熱効果を発揮する切削工具を提供する。
【解決手段】超硬合金、高速度工具鋼またはサーメットから成る基材の表層に被覆する硬質皮膜が(AlCr)C100−dからなり、MはSiおよび/またはTiとする。また、Al、Cr、MおよびNの原子比をそれぞれa、b、cおよびdと表した時に、a≧50、a+b≧80、a+b+c=100、およびd≧90の関係を満たす。さらに硬質皮膜の放射率の最大値が赤外線の波長で2μmから7μmまでの範囲に存在し、放射率の最大値を0.90以上とする。
【選択図】図3

Description

本発明は、切削加工中に優れた放射冷却能力を発揮する硬質皮膜を被覆した切削工具に関する。
従来、切削工具の耐摩耗性を高め、工具寿命を延ばすためにTiNをはじめとする硬質皮膜を被覆することが行われてきた。また、研削液を使用しない乾式加工(ドライ加工)や高速加工のためには、より高い耐熱性が必要となり硬質皮膜の主流はAlを含むTiAlNや耐熱性の高いTiSiN、AlCrNなどの硬質皮膜へと移り変わってきている。
例えば、特許文献1には超硬合金、高速度工具鋼またはサーメットから成る基材上に、(AlCr)(C1−d)からなる硬質皮膜であって、Mは1種または2種以上の金属および半金属元素であり、Al、Cr、Mのそれぞれの原子比a、b、cが75≦a≦95、5≦b≦25、a+b+c=100を満たし、かつNの原子比dが50≦d≦100となる硬質皮膜を少なくとも1層以上被覆した切削工具は高速切削が可能で耐熱性に優れている旨が開示されている。
しかし、特許文献1に開示された切削工具ではドライ加工の場合、たとえ耐熱性に優れていても耐熱温度を超えると切削加工中に発生した熱は放熱されない限り、徐々に切削工具に蓄積されて、ついには強度低下や亀裂発生の原因になるという問題があった。
そこで、特許文献2には超硬合金の基材上に平均膜厚が0.8〜5μmであるAlTiNからなる下層の硬質皮膜と、平均膜厚が0.1〜0.5μmであるZrBNからなる中間層の硬質皮膜と、平均膜厚が0.8〜5μmである硼化ジルコニウム(ZrB)からなる上層の硬質皮膜とから成る複合硬質皮膜を被覆した切削工具は、ZrBからなる上層の硬質皮膜の優れた熱伝導性により高速切削時に発生する高熱を速やかに放熱する旨が開示されている。
特開2006−175569号公報 特開2006−1004号公報
しかし、特許文献2に開示された切削工具では熱伝導による放熱効果を利用して切削工具の過熱を抑制しているが、例えば切削工具でホブを用いた加工ではドリルを用いた加工に比べて、ホブを形成する各刃部に着目した場合に被削材と接触する時間が非接触の時間よりも短くなるため、熱伝導による硬質皮膜の放熱効果は低下する。また、エンドミルを用いた加工も側面加工を行う場合は、溝加工を行う場合に比べてエンドミルを形成する各刃部の被削材との接触時間が短くなるので、熱伝導による硬質皮膜の放熱効果は同様に低下する。つまり、切削工具の種類や同一の切削工具でも加工態様の違いによって、切削工具を形成する各刃部と被削材との接触時間が短くなるほど放熱効果が低下するという問題があった。
本発明の課題は、前述した問題点に鑑みて、切削工具を形成する各刃部が被削材と接触する時間が少ない切削加工であっても硬質皮膜の放熱効果を発揮する切削工具を提供することである。
本出願人は、かかる課題を解決するために特許文献2に開示された熱伝導による放熱効果では上述したように切削工具の温度上昇を抑えるには限界があるため、硬質皮膜の熱放射による放熱現象に着目して鋭意研究を重ねた結果、特定の赤外線波長における硬質皮膜が有する放射率を利用することで切削工具の放熱効果を高めることができることを知得した。
この知得により、本発明においては、超硬合金、高速度工具鋼またはサーメットから成る基材の表層に被覆する硬質皮膜が(AlCr)C100−dからなる硬質皮膜であって、MはSiおよび/またはTiであり、Al、Cr、MおよびNの原子比をそれぞれa、b、cおよびdと表した時に、a≧50、a+b≧80、a+b+c=100、およびd≧90を満たし、かつ硬質皮膜の放射率の最大値が赤外線の波長2μmから7μmまでの範囲に存在し、その最大値が0.90以上である切削工具とすることで上記課題を解決した。以下、本発明に係る切削工具に被覆する硬質皮膜の放熱効果について説明する。
物体の温度Tと黒体の放射発散度が最大となる波長λとの積は一定であるという下式に示すウィーンの変位則によれば、物体の温度が高ければその物体から放射する赤外線の波長は短くなることがわかっている。
λT=2897(μm・K)
上式を利用すると、例えばドライ加工中の切削工具の刃先温度を600K(327℃)〜1300K(1027℃)の範囲とした場合、切削工具の刃先に被覆した硬質皮膜から放射する赤外線の波長は2μm〜5μmの範囲にピークが存在し、その範囲の放射エネルギー密度(分光放射発散度)が一番高い領域となる。したがって波長が2μm〜5μmの範囲にある赤外線を積極的に放射させることで切削工具の刃先温度を速やかに低下できる。
また、下式は物体の温度TCENと、その物体が持つ放射エネルギーを2分する赤外線の波長λCENとの積が一定値であることを示す。
λCENCEN=4108(μm・K)
上式を利用すると上述の刃先温度が600K〜1300Kの範囲にある切削工具では、その放射エネルギーを2分する波長の範囲は3μm〜7μmである。したがって波長3μm〜7μmの範囲にある赤外線を積極的に放射させることでも、切削工具の刃先温度を速やかに下げることができる。
さらに、切削工具を含めた全ての物体は、キルヒホッフの法則によると赤外線を放射しており、放射する赤外線と吸収する赤外線の量が同じ時、物体は放射による温度変化をしないことがわかっている。そのため、物体の温度が高いとき、その物体は吸収するよりも多くの赤外線を放射して物体自身の温度が低下する。このとき、赤外線の放射量は物体の温度と物体固有の放射率で決まり、放射率の高い物体ほど赤外線の放射量は多く、温度が低下しやすいことになる。
以上より、600K〜1300Kの温度域で使用する切削工具の場合、切削工具に被覆した硬質皮膜から放射する赤外線の波長のピークが2μm〜7μmの範囲にあり、その範囲の放射率を高くすることで硬質皮膜の放熱効果が発揮されて、結果として切削工具の温度を効率的に低下できる。そこで、請求項1に係る本発明は、切削工具に被覆した硬質皮膜の放射率の最大値が赤外線の波長2μmから7μmまでの範囲に存在し、かつその最大値が0.90以上である硬質皮膜を被覆した切削工具とした。また、本発明に係る硬質皮膜の組成は、特許文献1に開示された硬質皮膜の組成から後述する切削試験結果を行った結果、放熱効果が得られた組成範囲に絞り込み、特定したものである。
本発明によって、例えばフライス切削のようにフライスを形成する各刃部(スローアウェイチップ)が被削材に対して断続切削する切削工具でも、被削材と接触していない時間に各刃部で放熱効果を発揮するため切削工具の温度を低下できる。なお、放射率の最大値を0.90以上に設定した理由は、放射率を高くした鋼や銅の酸化面(放射率0.85)以上の放熱効果を得るためである。
請求項1の切削工具がドリルである場合、切れ刃が連続して被削材と接触しており、加工時間の長短によって切削工具の放熱効果も変化する。そこで、請求項2の発明では、切削工具をエンドミル、スローアウェイチップ、ホブ、ピニオンカッタに限定することで、切削工具を形成する各刃部が被削材と断続接触することで各刃部が被削材と接触していない間に放熱効果が発揮されて、切削加工の時間が長い場合でも放熱効果が得られる。
特定の赤外線波長の領域に対して硬質皮膜の組成のみを限定しても、膜厚が変化すると放射率が変化する。図1は、硬質皮膜を被覆した基材に入射した赤外線の反射と吸収の原理を表した概念図である。図1に示すように外部から入射した赤外線3は、大気8と硬質皮膜1との界面9を透過する赤外線4と界面9にて反射する赤外線5とに別れる。さらに、大気8と硬質皮膜1との界面9を透過する赤外線4は、硬質皮膜1と基材2との界面10を透過する赤外線6と界面10で反射する赤外線7とに別れる。この赤外線7は硬質皮膜1の膜厚が大きい場合には硬質皮膜1に吸収されて、大気8と硬質皮膜1との界面9に到達しないので、赤外線5と干渉することはなく、赤外線の反射率には影響を及ぼさない。
これに対して、硬質皮膜1の膜厚が1μm以下のように小さい場合には界面10で反射する赤外線7が大気8と硬質皮膜1との界面9にまで到達して、光学薄膜における反射防止膜と同じ原理により赤外線5と干渉することで赤外線の反射率が低下する場合がある。そこで、請求項3の発明では硬質皮膜の膜厚を1μm以下とすることで、大気と表層との界面で反射する赤外線および表層と下地層もしくは基材との界面で反射する赤外線が干渉し、赤外線の反射率が低下する。
なお、図1では基材2に被覆される皮膜が硬質皮膜1のみである単層皮膜を想定しているが、硬質皮膜1の下層に別の硬質皮膜が被覆されているような複合被膜の場合には、当該下層の硬質皮膜を基材2と置き換えて本原理を適用できる。
以上述べたように、本発明の請求項1においては、超硬合金等から成る基材の表層に被覆する硬質皮膜が(AlCr)C100−dからなり、MがSiおよび/またはTiであり、Al、Cr、MおよびNの原子比をそれぞれa、b、cおよびdと表した時に、a≧50やa+b≧80等の条件を満たし、硬質皮膜の放射率の最大値が赤外線波長2μmから7μmまでの範囲に存在し、かつその最大値が0.90以上である切削工具とすることにより、ドライ加工において硬質皮膜が放射冷却能力を有するので、600K〜1300Kの温度域で使用する工具の温度上昇を抑制するという効果を奏するものとなった。
また、請求項2に係る発明においては、請求項1に係る切削工具をエンドミル、スローアウェイチップ、ホブ、ピニオンカッタに限定することで、これらの切削工具を形成する各刃部が被削材と断続的に接触するので、切削加工中でも放熱効果が得られるという効果を奏する。
さらに、請求項3に係る発明においては、膜厚を1μm以下とすることで大気と表層との界面で反射する赤外線および表層と下地層もしくは基材との界面で反射する赤外線が干渉するので、赤外線の反射率が低下する。ここで、赤外線の透過率が0の場合、赤外線の反射率と放射率との和は1であることから、赤外線の反射率が低下すれば赤外線の放射率を高めるという効果を奏することになる。
硬質皮膜を被覆した基材に入射した赤外線の反射と吸収の原理を表した概念図である。 本発明に係る硬質皮膜を表層に被覆した切削工具の断面図である。 本発明に係る実施例1における表1に示した本発明材1と比較材1乃至4の硬質皮膜および硬質皮膜が被覆されていない超硬合金の赤外線波長が2〜25μmの範囲における分光反射率である。 本発明に係る実施例1における本発明材2、3および4の硬質皮膜における赤外線波長が2〜25μmの範囲における分光反射率である。 図3の横軸を波長(単位:μm)から波数(単位:cm−1)へ変換した時の表1に示す比較材3の分光反射率である。 本発明に係る実施例2におけるAl80Cr15Ti9010皮膜(膜厚0.48μm)の赤外線波長2〜25μmの範囲における分光反射率である。
本発明の実施の形態の一例を、図面に基いて説明する。図2は本発明に係る硬質皮膜を表層に被覆した切削工具11の断面図である。図2に示すように切削工具11の基材14は、基材14側から下地層を構成する第1の硬質皮膜13、および第1の硬質皮膜13上部で表層を構成する第2の硬質皮膜12を被覆している。
基材14は超硬合金、高速度工具鋼またはサーメットから選択される金属材料とする。また、切削工具11はドリル、エンドミル、エンドミル、スローアウェイチップ、ホブ、ピニオンカッタとし、第1の硬質皮膜13はTiN、TiAlNなどの単層もしくは二以上の異なる硬質皮膜から成る複合層とする。
第2の硬質皮膜12は、(AlCr)C100−dからなる硬質皮膜であって、MはSiおよび/またはTiであり、Al、Cr、MおよびNの原子比をそれぞれa、bおよびcと表した時に、a≧50、a+b≧80、a+b+c=100、およびd≧90を満たす硬質皮膜とする。
また、第2の硬質皮膜12の分光放射率の最大値が赤外線反射スペクトルで波長2μmから7μmまでの範囲に存在し、かつその最大値は0.90以上とする。分光放射率は直接測定して求めることができないため、まず赤外線の吸収スペクトルを測定して赤外線の分光反射率を求めた後、放射率(=吸収率)と反射率との和が1であることを利用して、放射率を算出した。赤外線の吸収スペクトル測定は、反射FTIR(フーリエ変換赤外分光光度計)を用いて金ミラーの反射率を1として、第2の硬質皮膜12の赤外線反射スペクトルを400〜5000cm−1すなわち2μm〜25μmの範囲で行った。
なお、第1の硬質皮膜13および第2の硬質皮膜12の各硬質皮膜の被覆は、ホロカソード放電による電子ビームを用いてターゲットを構成する金属を蒸発およびイオン化して基材14上に硬質皮膜12および13を被覆する溶融蒸発型イオンプレーティング法(溶解法)、またはアーク放電によりターゲットを構成する金属を蒸発およびイオン化して基材14上に硬質皮膜12および13を被覆するアーク放電方式イオンプレーティング物理蒸着法(アーク法)により行うことができる。
前述した方法を用いて各種硬質皮膜の膜組成と膜厚による分光反射率への影響を調査したので、その結果を表1、図3および図4に示す。表1は、分光反射率の測定対象とした本発明に係る4種類の硬質皮膜および比較材とした4種類の硬質皮膜の各々の膜組成と膜厚を示す。
表1に示すように本発明に係る硬質皮膜は、膜厚2.5μmのTi50Al509010皮膜と膜厚0.5μmのAl80Cr15Ti9010皮膜から成る硬質皮膜(本発明材1)、膜厚2.7μmのTi50Al5095皮膜と膜厚0.7μmのAl70Cr20Si1095皮膜から成る硬質皮膜(本発明材2)、膜厚3.0μmのTi50Al5098皮膜と膜厚0.4μmのAl60Cr20Ti15Cr98皮膜から成る硬質皮膜(本発明材3)、膜厚2.0μmのTi50Al40Cr10100皮膜と膜厚0.6μmのAl70Cr30100皮膜から成る硬質皮膜(本発明材4)、の4種類とした。
また、比較材としては膜厚2.8μmのTi100100皮膜(比較材1)、膜厚3.5μmのTi50Al509010皮膜(比較材2)、膜厚0.4μmのTi50Al509010皮膜と膜厚2.8μmのAl80Cr15Ti9010皮膜から成る硬質皮膜(比較材3)、膜厚5.4μmのAl50Cr50100皮膜(比較材4)の計4種類を用いた。
図3は表1に示した本発明材1と比較材1乃至4の硬質皮膜および硬質皮膜が被覆されていない超硬合金の赤外線波長が2〜25μmの範囲における分光反射率を示す。また、図4は本発明材2、3および4の各硬質皮膜における赤外線波長が2〜25μmの範囲における分光反射率を示す。
図3に示すように、本発明に係る硬質皮膜(本発明材1)は赤外線波長4.2μmの時に分光反射率が最低値の4%を示している。これは、本発明材1に係る硬質皮膜は波長2〜7μmの範囲に放射率の最大値が存在し、その値が96%であることを示している。また、図4に示すように本発明材2、3および4も本発明材1と同様に赤外線波長2〜7μmの間に反射率の最小値が存在し、その値は1.4〜2.8%である。すなわち赤外線波長2〜7μmの間に放射率の最大値が存在して、その値は97.2〜98.6%であった。
これに対して、硬質皮膜が被覆されていない超硬合金、比較材1および2は測定した波長の範囲ではいずれも分光反射率が50%以上であったことから、放射率が50%以下であることを示す。また、比較材3および4は赤外線波長に応じて分光反射率が大きく変化していた。比較材3は分光反射率の最小値が赤外線波長が約8μmと約11μmの位置に存在し、本発明の赤外線波長の範囲である2〜7μmの範囲から外れている。比較材4は
赤外線波長2〜7μmの範囲に分光反射率の最小値が存在するが、その値は10%を超えており放射率にすると90%未満となる。
次に、本発明に係る硬質皮膜の放射率に対する膜厚の影響について比較材3を用いて試験したので、その結果を図5および図6を用いて説明する。図5は、図3の横軸を波長(単位:μm)から波数(単位:cm−1)へ変換した時の表1に示す比較材3の分光反射率である。一般的に特定の波長での固有振動による吸収や屈折率の分散等が無ければ、横軸を波数にした時の干渉の山−山あるいは谷−谷の間隔は等間隔になる。図5に示すように、比較材3の分光反射率は分散の影響によって長波長側へ行くにつれて山−山間が狭くなっている。
ここで光学薄膜における入射光と反射光の位相差と光路差(膜厚)について説明する。光学薄膜において図1の大気8と硬質皮膜1との界面9での反射光5と、硬質皮膜1と基材2との界面10での反射光7との光学的経路差(光路差)が波長の整数倍となる場合に反射光5と反射光7の位相が一致して光は強めあう。この理論を用いると分光反射スペクトルにおいて反射率が極大値を持つ波長λ(波数σ=1/λ)では硬質皮膜1の屈折率をn、膜厚をtとすると、mを任意の整数として下式の関係が成立する。
2nt=mλ=m/σ
σ=m/2nt
すなわち任意の極大値を持つ波数σとその隣の極大値を持つ波数σとの差、すなわち分光反射スペクトルの山−山の間隔は、上式を用いると下式に変形できる。
|σ−σ|=(m+1)/2nt−m/2nt=1/2nt
n=1/2t(σ−σ
実際には屈折率nは波長λの関数であるが、赤外線では一般的に分散が小さく、この区間での屈折率変化(分散)は小さいので波長λの影響は無視できる。上式を用いると分光反射スペクトルの山−山の間隔(σ−σ)と硬質皮膜1の膜厚tより硬質皮膜1の屈折率nが算出できる。
ここで、比較材3の膜厚をいくらに設定すれば反射率を最小にできるかを検討する。 仮に赤外線波長λが4μmの場合、波数σは2500cm−1となり、その付近での山−山間隔(σ−σ)は図5に示すように800cm−1である。また、膜厚tは表1に示すように2.9μmすなわち0.00029cmである。したがって波長λが4μmにおける屈折率n4μmは、上式を利用すると2.16になる。
4μm=1/(2×0.00029×800)=2.16
また、波長λにおける反射率を最小にするためには反射防止膜の位相条件を利用できる。すなわち、屈折率n、膜厚tとして、mを任意の整数とすると下式が成立する。
nt=(2m+1)λ/4
波長4μmとその周辺の反射率を最小にするには上式でm=0の場合が望ましいので、波長4μmとその周辺での反射率を最小にする膜厚をttarは、上式を利用すると0.46μmになる。
4μmtar=(2m+1)λ/4=(2×0+1)4/4=1
tar=1/n4μm=1/2.16=0.46(μm)
そこで、表1に示す比較材3の皮膜構成と同様にTi50Al509010皮膜を被覆した超硬合金製のインサート表面上にAl80Cr15Ti9010膜を目標膜厚0.46μmとして被覆して、図3と同様に分光反射率を測定した。図6は、膜厚0.48μmのAl80Cr15Ti9010皮膜の赤外線波長2〜25μmの範囲における分光反射率である。Al80Cr15Ti9010皮膜の成膜時は0.46μmの膜厚を目標としたが、実際の膜厚は0.48μmとなった。図6に示すように赤外線波長2〜7μmの範囲で分光反射率が極小値を持ち、その値は2%であったことから放射率は98%となり、図3および図4に示す本発明材1乃至4と同様の特性が得られた。
次に、表1に示した本発明材1乃至4の硬質皮膜および比較材1乃至4の硬質皮膜をそれぞれ被覆した切削工具を用いて、切削試験を行ったのでその結果について説明する。表2は、上述の各硬質皮膜を被覆した切削工具による切削試験結果を膜厚3.5μmのTi50Al509010皮膜(比較材2)の工具寿命を1とした相対的な工具寿命を示す。ここで硬質皮膜の剥離、切削工具の磨耗および被削材のバリ発生などが確認できた時を以って工具寿命と判断した。
表2に示すように、本発明材1の硬質皮膜であるAl80Cr15Ti9010皮膜をTi50Al509010皮膜被覆工具上に0.5μm被覆し、切削試験を行った結果、ドリルによる穴加工では膜厚3.5μmのTi50Al509010皮膜(比較材2)と比較した工具寿命は1.8倍に留まったが、エンドミル溝加工においては1.9倍、エンドミル側面加工においては2.4倍の工具寿命が得られた。これは、ドリルによる穴加工では1穴についてほぼ連続切削となるため切削工具の刃部における放射冷却効果は小さいが、エンドミルによる溝加工や側面加工では全加工時間に対する各刃部と被削材との接触時間の割合が減少し、放射冷却効果が大きくなるためと考えられる。
同様に、本発明材2乃至4についてもドリルによる穴加工では、1.2〜1.6倍の工具寿命であったが、エンドミルによる切削加工では溝切削では1.6〜1.9倍、側面切削では2〜2.4倍の工具寿命が得られた。以上より、エンドミルの側面加工では膜厚3.5μmのTi50Al509010皮膜(比較材2)と比較して、いずれも2倍以上の工具寿命が得られたことから、本発明に係る硬質皮膜被覆工具がエンドミルの側面加工において著しい効果を発揮した。
これに対して、比較材1および3は、ドリルによる穴加工、エンドミルによる溝加工および側面加工で工具寿命は1以下であったので、総合的に比較材2以下の工具寿命となった。また、比較材4はドリルによる穴加工では比較材2以下の工具寿命であったが、エンドミルによる溝加工、側面加工ともに1.5倍の工具寿命が得られたが、本発明材1乃至4を用いたエンドミルの側面加工時の工具寿命である2倍には及ばなかった。
よって、本発明に係る切削工具の表層に被覆する硬質皮膜を赤外線波長2〜7μmの範囲において、その最大放射率を90%以上とすることで、切削工具を形成する各刃部が被削材と接触する時間が少ない切削加工であっても硬質皮膜の放熱効果を発揮した。その結果、切削工具の刃部が効率よく熱放射されて、刃先の温度上昇を抑制して硬質皮膜の剥離や切削工具の磨耗も長時間にわたり防止できた。
なお、光学モニター等でモニタリングしながら成膜する光学薄膜と異なり、本発明に係る硬質皮膜の膜厚は条件管理で行われ、大きさや形状の異なる製品をひとつのチャージで処理する工具や部品等のコーティングでは膜厚の精度は低く、有効数字2桁以上の膜厚制御は困難である。
通常の光学薄膜における反射防止膜では透過率を上げるために光を吸収しない膜材料が使用されるが、本発明に係る硬質皮膜は反射させないことが目的であるので硬質皮膜内で光の吸収があっても構わない。また、分光反射率の極小値は光の吸収が無い場合は図1に示すように大気8と硬質皮膜1との界面9と硬質皮膜1と基材2との界面10における反射率の関係で決まるが、硬質皮膜1で光が吸収される場合には硬質皮膜1の膜厚も極小値に影響する。したがって硬質皮膜1の光の吸収率が高い場合、硬質皮膜1の膜厚が大きすぎると硬質皮膜1と基材2との界面10での反射光が、大気8と硬質皮膜1との界面9に到達せず、反射防止効果は得られない。
ここで、実施例1の図3に示すように比較材1および比較材2の2〜7μmにおける分光反射率の極小値が本発明材1および本発明材2と比較して大きくなった原因は、上述のように図1に示す硬質皮膜1と基材2との界面10での反射光7が硬質皮膜1によって吸収されて減衰し、大気8と硬質皮膜1との界面9での反射光5を干渉により打ち消す量が得られない、すなわち反射防止効果が不足していたためと考えられる。
すなわち、特定の波長において反射防止効果が現れるのは、光路差(膜厚)が波長の1/4、3/4、5/4等である時であるが、硬質皮膜1の膜厚が大きい場合には光の吸収により反射防止効果が弱まる。そのため、波長2〜7μmにおいてなるべく広範囲で低反射率を得るためにも、膜厚は波長の1/4であることが望ましい。
1 硬質皮膜
2、14 基材
11 切削工具
12 第2の硬質皮膜
13 第1の硬質皮膜

Claims (3)

  1. 超硬合金、高速度工具鋼またはサーメットから成る基材の表層に被覆された硬質皮膜が(AlCr)C100−dからなり、前記MはSiおよび/またはTiであり、Al、Cr、MおよびNの原子比をそれぞれa、b、cおよびdと表した時に、a≧50、a+b≧80、a+b+c=100、およびd≧90の関係を満たし、かつ前記硬質皮膜の放射率の最大値が赤外線の波長で2μmから7μmまでの範囲に存在し、前記放射率の最大値が0.90以上であることを特徴とする放射冷却能力に優れた硬質皮膜被覆切削工具。
  2. 前記切削工具は、エンドミル、スローアウェイチップ、ホブ、ピニオンカッタの中から選ばれた一の工具であることを特徴する請求項1に記載の放射冷却能力に優れた硬質皮膜被覆切削工具。
  3. 前記硬質皮膜の膜厚が1μm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の放射冷却能力に優れた硬質皮膜被覆切削工具。
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