JP7205709B2 - 表面被覆切削工具 - Google Patents
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Description
そして、被覆工具の切削性能改善を目的として、従来から、数多くの提案がなされている。
また、特許文献2に示される従来被覆工具においては、層厚方向に組成変化を形成することで高温硬さと耐熱性、靱性を両立せしめることができるが、層内の異方性によって、層厚に垂直方向のクラックの発生・伝播を十分に防止することはできないことがあるという問題がある。
さらに、該層内に工具基体表面の法線とのなす角が35度以上70度以下の方向に高Ti帯状領域が形成されることにより、硬質被覆表面から基材方向に伸展するクラックの伝播を抑制することが分かった。
したがって、この知見に基づいて作成された被覆工具は、高熱発生を伴い、しかも、切刃に対して衝撃的・断続的な高負荷が作用する断続切削加工条件下で、優れた耐チッピング性と耐摩耗性を両立することができるのである。
「(1)WC基超硬合金、TiCN基サーメットおよびcBN焼結体のいずれかからなる工具基体の表面に、0.5~8.0μmの平均層厚のTiとAlの複合窒化物層を少なくとも含む硬質被覆層が設けられた表面被覆切削工具において、
前記TiとAlの複合窒化物層は、その組成を、組成式:(TixAl1-x)Nで表した場合、0.10≦x≦0.35(ただし、xは原子比)を満足する平均組成を有し、
前記TiとAlの複合窒化物層中には、前記Ti成分の平均組成に比してTi成分の組成が相対的に高い帯状領域が、
刃先稜線部以外では、工具基体表面の法線とのなす角度が35度以上70度以下の方向に存在し、かつ、
刃先稜線部においては、工具表面同士の延長線がなす角を2θとするとき、当該角の二等分線となす角が0.7θ度以下となる範囲ですくい面側と逃げ面側にそれぞれ存在すること、
を特徴とする表面被覆切削工具。
(2)前記刃先稜線部において、最大長さが50nm以上の大きさを有する混入溶滴の面積の和(Sdp)の硬質被覆層の面積(Sc)に対する比が0.001以下であることを特徴とする前記(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3)前記Ti成分の平均組成に比してTi成分の組成が相対的に高い帯状領域のTi成分の平均組成をYとした場合、前記TiとAlの複合窒化物層におけるTi成分の平均組成xと前記Yは、(x+0.01)≦Y≦(x+0.05)の関係を満足することを特徴とする前記(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具。
(4)前記刃先稜線部以外では、前記Ti成分の平均組成に比してTi成分の組成が相対的に高い帯状領域が傾斜している角度に対して垂直な方向における平均幅Wは、30~500nmであることを特徴とする前記(3)に記載の表面被覆切削工具。
(5)前記刃先稜線部以外では、前記Ti成分の平均組成に比してTi成分の組成が相対的に高い帯状領域が前記TiとAlの複合窒化物層の縦断面に占める、平均面積割合Stは3~50面積%であることを特徴とする前記(1)~(4)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
(6)前記刃先稜線部以外では、前記TiとAlの複合窒化物層は、立方晶構造の結晶粒と六方晶構造の結晶粒の混合組織からなり、前記TiとAlの複合窒化物層の縦断面に占める立方晶構造の結晶粒の平均面積割合Sは30面積%以上であることを特徴とする前記(1)~(5)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。」
である。
硬質被覆層は、少なくともTiAlN層を含むが、該TiAlN層の平均層厚が0.5μm未満では、TiAlN層によって付与される長期の耐摩耗性向上効果が十分に得られず、一方、平均層厚が8.0μmを超えると、欠損やチッピングが発生しやすくなることがあるため、TiAlN層の平均層厚を0.5~8.0μmとする。
TiAlN層を、
組成式:(TixAl1-x)N
で表した場合、0.10≦x≦0.35(ただし、xは原子比)を満足する平均組成を有することが必要である。
Ti成分の平均組成を表すxが0.10未満である場合には、六方晶構造のTiAlN結晶粒が形成されやすくなり、TiAlN層の硬度が低下し高速切削において十分な耐摩耗性を得ることができない。
一方、Ti成分の平均組成を表すxが0.35を超える場合には、Al成分の組成割合が減少するため、TiAlN層の高温硬さおよび高温耐酸化性が低下する。
したがって、Ti成分の平均組成xは、0.10≦x≦0.35とする。
なお、工具基体表面の汚染の影響などで不可避的に検出される炭素や酸素などの元素を除いてTi、Al、Nの含有割合の原子比を定量し、TiとAlとNの含有割合の原子比の合計に対するNの含有割合が0.45以上0.65以下の範囲であれば、前記xの範囲が満足される限り、同等の効果が得られ特に問題はない。
本発明のTiAlN層では、Al成分の平均組成割合1-x(ただし、1-xは原子比)を0.65~0.90と高くしているため、TiAlN層は、立方晶構造の結晶粒と六方晶構造の結晶粒の混合組織からなるが、TiAlN層の縦断面に占める立方晶構造の結晶粒の平均面積割合S(面積%)は30面積%以上とすることが望ましい。
これは、立方晶構造の結晶粒の平均面積割合Sが30面積%未満では、相対的に、六方晶構造の結晶粒の面積割合が増加するためTiAlN層の硬さが低下し、その結果、耐摩耗性が低下することがあるためである。
なお、立方晶構造の結晶粒の平均面積割合Sは、例えば、後述するように、電界放出型走査電子顕微鏡と電子線後方散乱回折装置を用いて、TiAlN層の工具基体表面に垂直な方向の断面を測定することにより求めることができる。
TiAlN層中に、Ti成分の平均組成xに比して、Ti成分の平均組成xが相対的に高い高Ti帯状領域は、次の(1)~(6)のとおりである。
本発明では、工具基体表面(逃げ面、すくい面:刃先稜線部以外)の法線とのなす角度が35度以上70度以下の方向となるように形成する(図1を参照)。
この角度範囲とした理由は、35度未満であると、高切込み等の切れ刃に高負荷が掛かる切削において硬質被覆層の表面のクラック発生・進展が生じやすく、一方、70度を超えると硬質被覆層が積層膜であるときと同様の層厚方向の剥離が生じやすくなるためである。
なお、本発明の知見に先行する知見において、30度以下であれば、層厚方向の異方性がないためTiAlN層の剥離が生じることはなく、しかも、高Ti帯状領域の存在によって靱性が向上し、切削加工時に断続的・衝撃的負荷が作用しても、TiAlN層のチッピング発生、欠損発生が抑制されることがわかっているため、前記35度未満とは、30度以下を除くものである。
この角度の測定は、高Ti帯状領域の特定がなされた後に行うものであるから、後述する高Ti帯状領域の特定の欄で説明する。
この刃先稜線部の高Ti帯状領域が存在することにより、硬質被覆層の剥離がより一層確実になる。
なお、この角の二等分線(13)となす角度の測定は、高Ti帯状領域の特定がなされた後に行うものであるから、後述する高Ti帯状領域の特定の欄で説明する。
ここで、本発明でいう刃先稜線部とは、以下に定義されるものである。すなわち、図2および図3(図2および図3の縦横比、縮尺は正確ではない)に示されるように、
本発明の被覆工具の厚さ方向に垂直な硬質皮膜(2)を含む断面(縦断面)において、すくい面(3)、逃げ面(4)をそれぞれ近似する直線(以下、それぞれを、「すくい面の近似直線(5)」、および、「逃げ面の近似直線(6)」といい、総称するときは、「工具表面同士の延長線」という)同士の交点(7)と、この交点(7)に最も近い前記断面の硬質皮膜上の点(M)とを通る直線を「刃先法線(8)」といい、
前記すくい面の近似直線(5)が前記すくい面(3)との接触がなくなる点を「すくい面の屈曲点(9)」といい、
前記逃げ面の近似直線(6)が前記逃げ面(4)との接触がなくなる点を「逃げ面の屈曲点(10)」というとき、
前記刃先法線(8)と前記すくい面の屈曲点(9)との距離をr1、
前記刃先法線(8)と前記逃げ面の屈曲点(10)との距離をr2、
R=(r1+r2)/2とすると、
前記刃先法線(8)と前記すくい面(3)との距離が3Rとなる前記すくい面上の点(11)と、前記刃先法線(8)と前記逃げ面(4)との距離が3Rとなる前記逃げ面上の点(12)とを結んだ硬質被膜(2)上の領域をいう。
高Ti帯状領域のTi成分の平均組成をYとした場合、TiとAlの複合窒化物層におけるTi成分の平均組成xとYは、(x+0.01)≦Y≦(x+0.05)の関係を満足することが好ましい。
これは、Yが(x+0.01)未満であると、TiAlN層全体に対して高Ti帯状領域の靱性が十分ではないため衝撃の吸収・緩和が不十分なときがあり、(x+0.05)を超えると、高Ti帯状領域が必要な硬度を得ることができず、TiAlN層全体の耐摩耗性が低下してしまうことがあるためである。
高Ti帯状領域の幅とは、図1に示すように、高Ti帯状領域が傾斜している角度に対して垂直な方向における幅をいい、刃先稜線部以外では、その平均幅Wは30~500nmであることが望ましい。
これは、前記Wが30nm未満では、TiAlN層が全体としてほぼ均質な組成となるため、靱性向上効果、衝撃の吸収・緩和効果を期待することができないときがあり、一方、前記Wが500nmを超えると、TiAlN層中に部分的な低硬度領域が形成され、偏摩耗発生等により耐摩耗性が低下することがあるという理由による。
なお、高Ti帯状領域の平均幅とは、後記するように、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いたエネルギー分散型X線分析法(EDS)(以下、「TEM-EDS」という)によりTiAlN層の縦断面のTi成分の組成を測定した場合に、Ti成分の平均組成Yが、例えば、前記した(x+0.01)≦Y≦(x+0.05)の関係を満たすTi帯状領域の平均幅である。
刃先稜線部以外において、高Ti帯状領域がTiAlN層に占める平均面積割合Stは、3~50面積%であることが望ましい。
これは、Stが3面積%未満の場合には、高Ti帯状領域を形成したことによる靱性向上効果、衝撃の吸収・緩和効果が少ないため、耐チッピング性の改善度合いが低いことがあり、一方、Stが50面積%を超える場合には、高Ti帯状領域が低硬度領域として形成され、その結果、偏摩耗発生等により耐摩耗性が低下することがある、という理由による。
少なくとも500nmの帯状の幅が入る視野で測定したTEM-EDSによる測定像において、
刃先稜線部以外では、基体表面の法線とのなす角が35度以上70度以下である直線上の複数の測定点におけるTi成分の組成Yが、
刃先稜線部(すくい面側と逃げ面側の両方)では、工具表面同士の延長線がなす角を2θとするとき、当該角の二等分線となす角が0.7θ度以下となる直線上の複数の測定点におけるTi成分の組成Yが、
それぞれ、所定のTiの濃度の高い領域、例えば、(x+0.01)以上(x+0.05)以下の範囲内(なお、xは、既述したTiAlN層全体におけるTi成分の平均組成)にあるか否かによって、該直線が高Ti帯状領域に属するか直線であるか否かを判定する。
ついで、前記直線が高Ti帯状領域に属する場合には、該直線に直交する方向にTi成分の組成を測定し、測定したTi成分の組成が、当該所定のTiの濃度の高い領域、例えば、(x+0.01)≦Y≦(x+0.05)の関係から外れる位置を、高Ti帯状領域の境界として特定する。
それから、前記で特定された高Ti帯状領域の複数位置においてTi成分の組成を測定し、これらを平均することによって、高Ti帯状領域におけるTi成分の平均組成Yを求めることができる。
また、前記で特定された高Ti帯状領域の輪郭を確定し、複数位置における幅を測定し、これらを平均することによって、高Ti帯状領域の平均幅Wを求めることができる。
そして、この確定された高Ti帯状領域の輪郭を当該高Ti帯状領域の境界線とする。刃先稜線部以外では、工具基体表面の法線となす角度を測定し、この測定した角度を高Ti帯状領域ごとに平均したものを工具基体の法線となす角度とする。また、刃先稜線部では、この境界線と工具表面同士の延長線がなす角の二等分線(13)となす角度を測定して高Ti帯状領域ごとに平均したものを前記角の二等分線となす角度とする。
本発明のTiAlN層は、立方晶構造の結晶粒と六方晶構造の結晶粒の混合組織からなるが、結晶構造と面積割合は、例えば、電界放出型走査電子顕微鏡と電子線後方散乱回折装置を用いて、TiAlN層の工具基体表面に垂直な方向の断面を測定することにより求めることができる。
より具体的に言えば、TiAlN層の工具基体表面に垂直な方向の断面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記断面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に照射し、工具基体と水平方向に長さ100μm、工具基体表面と垂直な方向の断面に沿って層厚以下の距離の測定範囲内について0.01μm/stepの間隔で、電子線後方散乱回折像を測定し、個々の結晶粒の結晶構造を解析することで、立方晶構造の結晶粒の面積割合を測定することができる。
前記測定を5箇所の測定範囲で行い、これらの平均値として、立方晶構造の結晶粒の平均面積割合Sを算出する。なお、0.01μm/stepの間隔とした測定点は、より詳細には、測定範囲内を充填するように一辺が0.01μmの正三角形を配置して、その各々の正三角形の頂点を測定点としており、一つの測定点での測定結果はこの正三角形一つの面積の測定結果を代表する測定結果となっている。従って、前記に示したように、測定点数の割合から面積割合が求められる。
混入溶滴とは、例えば、AIP装置により成膜された硬質皮膜に一般的に存在するドロップレットともいわれるもので、アーク放電により溶融したターゲット成分が液滴として飛散し、硬質被覆層中に取り込まれた粒のことである。本発明では、混入液滴について、以下に定義する。すなわち、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いたエネルギー分散型X線分析法(EDS)(以下、「SEM-EDS」という)のマッピング分析によりTiAlN層の縦断面のAl、Ti、N成分の組成を測定したときに、Alおよび/またはTiが検出され、かつN成分が検出されない領域とする。
前記混入溶滴に関して、刃先稜線部(すくい面側と逃げ面側の両方)のTiAlN層の縦断面をSEM-EDSマッピング分析により倍率10000倍で観察し、混入液滴の最大長さが50nm以上である粒の面積の和をSdpとし、前記刃先稜線部のTiAlN層の縦断面の面積をScとした場合に、SdpのScに対する比、Sdp/Scが0.001以下を満足することが好ましい。
その理由は、0.001を超えると、刃先稜線部のTiAlN層全体に対して混入液滴の比率が大きくなり、被覆工具として使用され硬質被覆層が摩耗したときに、露出する混入溶滴が脱落することによる硬質被覆層の剥離が増加してしまうためである。
ここでいう最大長さとは混入液滴の輪郭線上の任意の2点間の最大値を指す。
前記特徴を備える本発明のTiAlN層は、例えば、以下の方法によって成膜することができる。
図4(a)、(b)に示すアークイオンプレーティング(AIP)装置内に、所定組成のTi-Al合金ターゲットを配置するとともに、WC基超硬合金、TiCN基サーメットおよびcBN焼結体のいずれかからなる工具基体をAIP装置の回転テーブル上に載置し、工具基体に対するボンバード前処理および工具基体の温度(成膜温度)、N2ガス圧、成膜時のバイアス電圧、バイアス電圧上昇速度を制御してアーク放電を発生させることにより、本発明のTiAlN層を成膜することができる。
特に、低バイアス電圧による処理から高バイアス電圧の処理に漸次変化させることで、自発的にTi成分の組成分布を形成させ、低温から高温へと処理温度を漸次変化させ、さらに、工具基体の温度(成膜温度)とN2ガス圧、バイアス電圧、バイアス電圧上昇速度の制御により、
刃先稜線部以外では、工具基体表面の法線とのなす角度が35度以上70度以下の方向に平行な結晶方位に沿う原子の積層関係(高Ti帯状領域)を、
刃先稜線部(すくい面側と逃げ面側の両方)では、工具表面同士の延長線がなす角を2θとするとき、当該角の二等分線となす角が0.7θ度以下となる方向に沿う原子の積層関係(高Ti帯状領域)を、それぞれ、形成することができる。
ここで、特に、刃先稜線部における高Ti帯状領域は、低温から高温へと処理温度を漸次変化させることよって形成できると推察している。
図4に示すアノード電源の一つを高出力パルススパッタ電源に替えた大出力パルススパッタ装置を用い、工具基体を回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部にそって装着し、該装置内に、所定組成のTi-Al合金ターゲット(カソード電極)を配置し、工具基体表面をボンバード洗浄し、次いで、該装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入し、スパッタガスとしてアルゴンガスを導入して、前記工具基体の温度を低温処理温度から、横軸を時間、縦軸を処理温度(設定温度)としたグラフに表したときに、温度変化が直線状または階段状となるように、高温処理温度まで上昇させて、この温度に保持し、Ti-Al合金ターゲット(カソード電極)に所定スパッタ条件を印可してプラズマ放電を発生させ、直流の低バイアス電圧を前記工具基体に対して所定時間に印可して、直線状もしくは階段状に順次バイアス電圧を上昇させ、直流の高バイアス電圧を印加して、本発明の刃先稜線部の混入液滴の面積率が所定値以下のTiAlN層を成膜することができる。
なお、具体的な説明としては、WC基超硬合金を工具基体とする被覆工具について説明するが、TiCN基サーメットあるいはcBN焼結体を工具基体とする被覆工具についても同様である。
原料粉末として、いずれも0.5~5μmの平均粒径を有する、Co粉末、TaC粉末、NbC粉末、VC粉末、Cr3C2粉末、WC粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてボールミルで72時間湿式混合し、減圧乾燥し後、100MPaの圧力でプレス成形し、これらの圧粉成形体を焼結し、所定寸法となるように加工して、ISO規格SEEN1203AFENのインサート形状をもったWC基超硬合金工具基体1~2を製造した。
まず、装置内を排気して真空に保持しながら、ヒータで工具基体を表2に示すボンバード条件の工具基体温度に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に表2に示す直流バイアス電圧を印加し、かつ、Ti-Al合金ターゲット(カソード電極)に表2に示すアーク電流を流してアーク放電を発生させ、もって工具基体表面をボンバード洗浄し、
次いで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して表2に示すN2ガス圧とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体の温度を表2に示す低温処理温度から、横軸を時間、縦軸を処理温度(設定温度)としたグラフに表したときに、温度変化が直線状または階段状となるように、高温処理温度まで上昇させて、この温度に保持し、Ti-Al合金ターゲット(カソード電極)に表2に示すアーク電流を流してアーク放電を発生させ、表2に示す直流の低バイアス電圧を工具基体に対して表2に示す所定時間印加して、ついで表2に示す上昇速度に沿うように、横軸を時間、縦軸をバイアス電圧(-V)としたグラフに表した際に直線状もしくは階段状に順次バイアス電圧を上昇させ、ついで、表2に示す直流の高バイアス電圧を印加して、TiAlN層を成膜することにより、表4に示す平均層厚、Ti成分の平均組成x、立方晶構造の結晶粒の平均面積割合S、所定の高Ti帯状領域(Ti成分の平均組成Y、平均幅W、平均面積割合St)を有する本発明被覆工具1~10(以下、本発明工具1~10という)をそれぞれ製造した。
また、TiAlN層におけるTi成分の組成を、TEM-EDSにより3箇所の膜厚方向に0.4μm以上、基体表面に平行な方向に1μm以上の視野範囲で測定し、その測定値の平均値を、TiAlN層のTi成分の平均組成xとして求めた。
表4、表5に、それぞれの値を示す。
具体的には、図1~3に示すようなTiAlN層の縦断面について、少なくとも500nmの帯状の幅が入る視野で測定したTEM-EDSによる測定像をもとに、
(1)刃先稜線部以外では、基体表面の法線とのなす角が35度以上70度以下である直線上の複数の測定点におけるTi成分の組成を測定し、
(2)刃先稜線部(すくい面側と逃げ面側の両方)では、工具表面同士の延長線がなす角を2θとするとき、当該角の二等分線となす角が0.7θ以下度となる直線上の複数の測定点におけるTi組成を測定し、
それぞれの測定値が(x+0.01)以上(x+0.05)以下の範囲内にあるか否かによって、該直線が高Ti帯状領域に属するか直線であるか否かを判定する。
次に、前記直線が高Ti帯状領域に属する直線であると判定された場合には、該直線に直交する方向にTi成分の組成を測定し、測定したTi成分の組成が、(x+0.01)≦Y≦(x+0.05)の関係から外れる位置を、高Ti帯状領域の境界として特定する。
次いで、前記で特定された高Ti帯状領域の複数位置においてTi成分の組成を測定し、これらを平均することによって、高Ti帯状領域におけるTi成分の平均組成Yを求める。
つづいて、前記で特定された高Ti帯状領域の輪郭を確定し、複数位置における幅を測定し、これらを平均することによって、高Ti帯状領域の平均幅Wを求める。
さらに、前記で求めた高Ti帯状領域の輪郭から、測定視野の面積中に存在する高Ti帯状領域の合計面積を求めることにより、TiAlN層の縦断面に占める高Ti帯状領域の平均面積割合Stを算出する。
そして、この確定された高Ti帯状領域の輪郭を当該高Ti帯状領域の境界線とする。刃先稜線部以外では、工具基体表面の法線となす角度を測定し、この測定した角度を高Ti帯状領域ごとに平均したものを工具基体の法線となす角とする。また、刃先稜線部では、この境界線と工具表面同士の延長線がなす角の二等分線となす角度を測定して高Ti帯状領域ごとに平均したものを前記角の二等分線となす角とする。
表4、表5に、それぞれの値を示す。なお、これら表において、「工具基体表面の法線となす角度(度)」および「工具表面同士の延長線がなす角(2θ)の二等分線に対する高Ti帯状領域の平均角度(θに対する比)は、それぞれ、「工具基体表面の法線と35~75度の高Ti帯状領域」であるものの角度の平均、「工具表面同士の延長線がなす角(2θ)の二等分線に対して0.7θ度以内の高Ti帯状領域」であるものの平均である。
具体的には、工具基体表面に垂直な方向のTiAlN層の断面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記断面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に照射し、工具基体と水平方向に長さ100μm、工具基体表面と垂直な方向の断面に沿って層厚以下の距離の測定範囲内について0.01μm/stepの間隔で、電子線後方散乱回折像を測定し、個々の結晶粒の結晶構造を解析することで、立方晶構造の結晶粒の面積割合を測定した。
前記測定を5箇所の測定範囲で行い、これらの平均値として、TiAlN層全体に占める立方晶構造の結晶粒の平均面積割合Sを算出した。
表4、表5に、その値を示す。
切削試験:乾式高速正面フライス、センターカット切削加工
カッタ径: 125 mm
被削材: JIS・SCM445幅100mm、長さ365mmのブロック材
切削速度: 360 m/min
切り込み: 2.5 mm
一刃送り量: 0.23mm/刃
切削時間: 7分
表6に、試験結果を示す。
すなわち、まず、装置内を排気して真空に保持しながら、ヒータで工具基体を表7に示すボンバード条件の工具基体温度に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に表7に示す直流バイアス電圧を印加し、かつ、Ti-Al合金ターゲット(カソード電極)に表7に示すアーク電流を流してアーク放電を発生させ、もって工具基体表面をボンバード洗浄し、
次いで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して表7に示すN2ガス圧とすると共に、スパッタガスとしてアルゴンガスを導入して表7に示すArガス圧とし、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体の温度を表7に示す低温処理温度から、横軸を時間、縦軸を処理温度(設定温度)としたグラフに表したときに、温度変化が直線状または階段状となるように、高温処理温度まで上昇させて、この温度に保持し、Ti-Al合金ターゲット(カソード電極)に表7に示すスパッタ投入電力、ピーク電流、パルス周波数、パルス印加時間を持つスパッタ条件を印加してプラズマ放電を発生させ、表7に示す直流の低バイアス電圧を工具基体に対して表7に示す所定時間印加して、ついで表7に示す上昇速度に沿うように、横軸を時間、縦軸をバイアス電圧(-V)としたグラフに表した際に直線状もしくは階段状に順次バイアス電圧を上昇させ、ついで、表7に示す直流の高バイアス電圧を印加して、TiAlN層を成膜することにより、表8に示す平均層厚、Ti成分の平均組成x、立方晶構造の結晶粒の平均面積割合S、所定の高Ti帯状領域(Ti成分の平均組成Y、平均幅W、平均面積割合St)を有する本発明被覆工具11~16(以下、本発明工具11~16という)をそれぞれ製造した。
2:硬質被膜
3:すくい面
4:逃げ面
5:すくい面の近似直線
6:逃げ面の近似直線
7:交点
8:刃先法線
9:すくい面の屈曲点
10:逃げ面の屈曲点
11:刃先法線とすくい面との距離が3Rとなるすくい面上の点
12:刃先法線と逃げ面との距離が3Rとなる逃げ面上の点
13:角の二等分線
14:角の二等分線に平行な直線
M:交点に最も近い硬質皮膜上の点
Claims (6)
- WC基超硬合金、TiCN基サーメットおよびcBN焼結体のいずれかからなる工具基体の表面に、0.5~8.0μmの平均層厚のTiとAlの複合窒化物層を少なくとも含む硬質被覆層が設けられた表面被覆切削工具において、
前記TiとAlの複合窒化物層は、その組成を、組成式:(TixAl1-x)Nで表した場合、0.10≦x≦0.35(ただし、xは原子比)を満足する平均組成を有し、
前記TiとAlの複合窒化物層中には、前記Ti成分の平均組成に比してTi成分の組成が相対的に高い帯状領域が、
刃先稜線部以外では、工具基体表面の法線とのなす角度が35度以上70度以下の方向に存在し、かつ、
刃先稜線部においては、工具表面同士の延長線がなす角を2θとするとき、当該角の二等分線となす角が0.7θ度以下となる範囲ですくい面側と逃げ面側にそれぞれ存在すること、
を特徴とする表面被覆切削工具。 - 前記刃先稜線部において、最大長さ50nm以上の大きさを有する混入溶滴の面積の和(Sdp)の硬質被覆層の面積(Sc)に対する比が0.001以下であることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
- 前記Ti成分の平均組成に比してTi成分の組成が相対的に高い帯状領域のTi成分の平均組成をYとした場合、前記TiとAlの複合窒化物層におけるTi成分の平均組成xと前記Yは、(x+0.01)≦Y≦(x+0.05)の関係を満足することを特徴とする請求項1または2に記載の表面被覆切削工具。
- 前記刃先稜線部以外では、前記Ti成分の平均組成に比してTi成分の組成が相対的に高い帯状領域が傾斜している角度に対して垂直な方向における平均幅Wは、30~500nmであることを特徴とする請求項3に記載の表面被覆切削工具。
- 前記刃先稜線部以外では、前記Ti成分の平均組成に比してTi成分の組成が相対的に高い帯状領域が前記TiとAlの複合窒化物層の縦断面に占める、平均面積割合Stは3~50面積%であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
- 前記刃先稜線部以外では、前記TiとAlの複合窒化物層は、立方晶構造の結晶粒と六方晶構造の結晶粒の混合組織からなり、前記TiとAlの複合窒化物層の縦断面に占める立方晶構造の結晶粒の平均面積割合Sは30面積%以上であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
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