JP5748125B2 - 高速断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents
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Description
(a)下部層が、いずれも化学蒸着形成された、Tiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層が、化学蒸着形成された、1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム(以下、Al2O3で示す)層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる被覆工具が良く知られている。
そして、上記の従来被覆工具は、比較的耐摩耗性に優れるものの、高速断続切削条件で用いた場合にチッピング等の異常損耗を発生しやすいことから、硬質被覆層の構造についての種々の提案がなされている。
そして、このようなAl2O3層から構成される上部層は、上部層が優れた高温強度と靭性を示すとともに、さらに、層内の歪が局所化されて存在するために、層内に発生したクラックの伝播・進展が抑制され、その結果として、耐チッピング性が向上することを見出したのである。
「 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層が、3〜20μmの合計平均層厚を有するTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなるTi化合物層、
(b)上部層が、1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる表面被覆切削工具において、
(c)上記(b)の酸化アルミニウム層について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜90度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成した場合、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の20〜50%の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示し、
(d)上記(b)の酸化アルミニウム層について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、隣接する測定点からの測定傾斜角の角度差が5度以上である場合に異なる結晶粒であるとし、さらに、0〜90度の範囲内にある前記測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して、結晶粒個々の結晶粒内平均方位差を求めた場合、上記0〜10度の範囲内の傾斜角区分に存在する結晶粒の結晶粒内平均方位差の平均は5度未満を示し、一方、上記0〜10度の範囲を外れる傾斜角区分に存在する結晶粒の結晶粒内平均方位差の平均は5度以上を示すことを特徴とする表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
Ti化合物層は、自体が高温強度を有し、これの存在によって硬質被覆層が高温強度を具備するようになるほか、工具基体と上部層であるAl2O3層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用をもつが、その合計平均層厚が3μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その合計平均層厚が20μmを越えると、特に高熱発生を伴う高速断続切削で熱塑性変形を起し易くなり、これが偏摩耗の原因となることから、その合計平均層厚を3〜20μmと定めた。
Al2O3層は、一般的にすぐれた高温硬さと耐熱性を有し、硬質被覆層の耐摩耗性向上に寄与するが、その平均層厚が1μm未満では、硬質被覆層に十分な耐摩耗性を発揮せしめることができない。一方、工具寿命の延命化を図るため、その平均層厚25μmまでの厚膜化は可能であるが、平均層厚が25μmを越えて厚くなりすぎると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1〜25μmと定めた。
即ち、Ti化合物層からなる下部層を通常の化学蒸着法で形成した後、該下部層の上に、例えば、通常の化学蒸着装置を用いて、
≪第1段階≫
反応ガス組成(容量%):AlCl3 6〜10%、CO2 3〜8%、C2H4 0.5〜0.8%、HCl 6〜10%、残りH2、
反応雰囲気温度:930〜980℃、
反応雰囲気圧力:3〜10kPa、
の条件(核薄膜形成条件という)で、層厚が20〜200nmになるまで核薄膜を形成する。
≪第2段階≫
反応ガス組成(容量%):AlCl3 2〜5%、CO2 3〜8%、HCl 6〜10%、H2S 0.05〜0.10%、残りH2、
反応雰囲気温度:960〜1020℃、
反応雰囲気圧力:3〜10kPa、
の条件(一次成膜条件という)で、目標上部層厚の30〜60%の層厚となるまでAl2O3を蒸着成膜する。
≪第3段階≫
反応ガス雰囲気:Ar、
反応雰囲気温度:1100〜1200℃、
反応雰囲気圧力:3〜13kPa、
反応時間:5〜30分、
の条件(加熱処理条件という)で、Al2O3皮膜の加熱処理を行う。
≪第4段階≫
反応ガス組成(容量%):AlCl3 2〜5%、CO2 3〜8%、HCl 6〜10%、H2S 0.25〜0.6%、残りH2、
反応雰囲気温度:960〜1020℃、
反応雰囲気圧力:3〜10kPa、
の条件(二次成膜条件という)で、目標上部層厚になるまでAl2O3を蒸着成膜する。
上記の4段階で、Al2O3を成膜することによって、特異な(0001)面配向割合と粒内平均方位差を有するAl2O3層からなる上部層を形成することができる。
なお、上記4段階でのAl2O3の成膜によって、特異な(0001)面配向割合と粒内平均方位差が形成される機構は未だ解明されていないが、第1段階における核薄膜形成と第3段階における加熱処理によって、成長面に変化が生じ結晶粒内方位変化が起こるものと考えられる。
そして、この上部層は、すぐれた高温強度と靭性に加え、層内に発生したクラックの伝播・進展を抑制する作用を有するので、高速断続切削加工においてすぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する。
図1に、(0001)面の法線がなす傾斜角を測定した傾斜角度数分布グラフの一例を示す。
上記の(0001)面の結晶配向割合ついて検討したところ、傾斜角度数分布グラフにおいて、0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、度数全体の20%未満の割合の場合には、Al2O3層の具備する耐摩耗性を十分に発揮することができず、一方、これが50%を超えると、Al2O3層は、すぐれた高温強度と靭性を発揮することができなくなることから、本発明では、(0001)面の結晶配向割合が、傾斜角度数分布グラフにおいて度数全体の20〜50%の割合を占めるようにした。
上記の結晶粒内平均方位差の測定から、傾斜角度数分布グラフにおいて、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に存在する結晶粒の結晶粒内平均方位差の平均は5度未満であり、その一方、0〜10度の範囲を外れる傾斜角区分に存在する結晶粒の結晶粒内平均方位差の平均は5度以上であることから、本発明で成膜された上部層のAl2O3層には、Al2O3層に内在する歪が局所化して存在することが分かる。
図2に、結晶粒内平均方位差の概念図を示す。即ち、図2(a)、(b)のいずれにおいても、結晶粒内(結晶粒界内部)のマス目で示される各測定点における測定角度の大きさを、それぞれのマス目の明暗で表示しているが、「『0〜10度の範囲内』の傾斜角区分に存在する結晶粒」を示す(a)においては、いずれの測定点においても同程度の明度(即ち、測定角度)を示し、『0〜10度の範囲内』の傾斜角区分に存在する結晶粒の結晶粒内平均方位差は小さく(5度未満)、一方、「『0〜10度の範囲を外れる』傾斜角区分に存在する結晶粒」を示す(b)においては、測定点によって次第に明度(即ち、測定角度)が変化してグラデーションを示しており、『0〜10度の範囲を外れる』傾斜角区分に存在する結晶粒の結晶粒内平均方位差が大きくなっている(5度以上)ことを示している。
つまり、上記0〜10度の範囲を外れる傾斜角区分に存在し、結晶粒の結晶粒内平均方位差の平均が5度以上である結晶粒内部に、上部層のひずみが局所的に偏在分布し、その結果として、上部層に発生したクラックがひずみの多い箇所に優先的に進展し、その後ひずみの少ない箇所への伝播・進展を抑制することができるため、チッピング等の異常損傷の発生を防止することができる。
ただ、上記0〜10度の範囲内の傾斜角区分に存在する結晶粒の結晶粒内平均方位差の平均が5度以上である場合、あるいは、0〜10度の範囲を外れる傾斜角区分に存在する結晶粒の結晶粒内平均方位差の平均が5度未満である場合には、上部層のひずみの局所化が十分でないため、耐チッピング性、耐異常損傷性の向上を図ることはできない。
なお、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用いた結晶粒内方位差と、有限要素法を用いたAl2O3内の応力については、例えば、以下の参考文献に開示されている
(参考文献)H.Chien,Z.Ban,P.Prichard,Y.Liu,G.S.Rohrer,“Influence of Microstructure on Residual Thermal Stresses in TiCXN1−Xand α−Al2O3 Coatings on WC−Co Tool Inserts”Proceedings of the 17th Plansee Seminar 2009(Editors:L.S.Sigl.P.Rodhammer,H.Wildner,Plansee Group.Austrial)Vol.2,HM42/1−11
したがって、この発明の被覆工具は、高熱発生を伴うとともに、切刃部に断続的、衝撃的負荷が作用する高速断続切削に用いた場合でも、チッピング等の異常損傷を発生することなく、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮するものである。
ついで、上部層としてのAl2O3層を、表4に示される条件にて、かつ、表5に示される目標層厚で蒸着形成することにより、
本発明被覆工具1〜13をそれぞれ製造した。
ついで、上部層としてのAl2O3層を、表4に示される条件にて、かつ、表6に示される目標層厚で蒸着形成することにより、
比較例被覆工具1,3〜13をそれぞれ製造した。
まず、傾斜角度数分布グラフは、上部層のAl2O3層の表面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射し、電子後方散乱回折像装置を用いて、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記測定傾斜角のうち、0〜90度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計することにより作成した。
表5、表6に、上記で求めた傾斜角度数分布グラフにおいて、度数全体に占める0〜10度の範囲内の傾斜角区分に存在する度数割合を示す。
図1に、一例として、本発明被覆工具1について作成した傾斜角度数分布グラフを示す。
具体的には、上記のAl2O3層の表面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記表面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、隣接する測定点からの測定傾斜角の角度差が5度以上である場合に、相互に隣接する測定点は異なる結晶粒に属する測定点であるとして結晶粒を特定し、それぞれの結晶粒内方位差を測定し、得られた結晶粒内方位差を平均し、これをその結晶粒における結晶粒内平均方位差とした。
表5、表6に、上記で求めた結晶粒内平均方位差を示す。
なお、表5、表6の「粒内平均方位差の平均(度)」の欄において、「(0001)が0〜10度の範囲内の結晶粒」の欄の数値は、「傾斜角度数分布グラフにおいて、(0001)面の法線がなす傾斜角が、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に存在する結晶粒の結晶粒内平均方位差の平均の値」を示し、「その他」の欄の数値は、前記傾斜角が0〜10度の範囲を外れる傾斜角区分に存在する結晶粒の結晶粒内平均方位差の平均の値」を示す(表5、表6の下方の(注2)参照)。
これに対して、比較例被覆工具においては、(0001)面配向割合は本発明被覆工具と同等であるが(傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の20〜50%以上の割合)、傾斜角度数分布グラフにおいて0〜10度の範囲内の傾斜角区分に存在する結晶粒の結晶粒内平均方位差の平均が5度以上、または、上記0〜10度の範囲を外れる傾斜角区分に存在する結晶粒の結晶粒内平均方位差の平均が5度未満を示した。
被削材:JIS・S30Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:415m/min、
切り込み:1.5mm、
送り:0.3mm/rev、
切削時間:6分、
の条件(切削条件A)での炭素鋼の湿式高速断続高送り切削試験(通常の切削速度は、250m/min)、
被削材:JIS・SCM415の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:390m/min、
切り込み:2.0mm、
送り:0.25mm/rev、
切削時間:6分、
の条件(切削条件B)での合金鋼の湿式高速断続高送り切削試験(通常の切削速度は、200m/min)、
被削材:JIS・FCD450の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:395m/min、
切り込み:2.5mm、
送り:0.32mm/rev、
切削時間:6分、
の条件(切削条件C)でのダクタイル鋳鉄の乾式高速断続高送り切削試験(通常の切削速度は、180m/min)、
を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
この測定結果を表7に示した。
これに対して、比較例被覆工具1,3〜13については、いずれも、高速断続切削加工では硬質被覆層にチッピングが発生し、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層が、3〜20μmの合計平均層厚を有するTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなるTi化合物層、
(b)上部層が、1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる表面被覆切削工具において、
(c)上記(b)の酸化アルミニウム層について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜90度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成した場合、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の20〜50%の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示し、
(d)上記(b)の酸化アルミニウム層について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、隣接する測定点からの測定傾斜角の角度差が5度以上である場合に、相互に隣接する測定点は異なる結晶粒に属する測定点であるとして結晶粒を特定し、さらに、0〜90度の範囲内にある前記測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して、結晶粒個々の結晶粒内平均方位差を求めた場合、上記0〜10度の範囲内の傾斜角区分に存在する結晶粒の結晶粒内平均方位差の平均は5度未満を示し、一方、上記0〜10度の範囲を外れる傾斜角区分に存在する結晶粒の結晶粒内平均方位差の平均は5度以上を示すことを特徴とする表面被覆切削工具。
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