JP5854321B2 - 高速断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents
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Description
(a)下部層が、いずれも化学蒸着形成された、Tiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層が、化学蒸着形成された、1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム(以下、Al2O3で示す)層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる被覆工具が良く知られている。
そして、上記の従来被覆工具は、比較的耐摩耗性に優れるものの、高速断続切削条件で用いた場合にチッピング等の異常損耗を発生しやすいことから、硬質被覆層の構造についての種々の提案がなされている。
「 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層が、3〜20μmの合計平均層厚を有するTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなるTi化合物層、
(b)上部層が、2〜25μmの平均層厚を有し、六方晶の結晶構造を有する酸化アルミニウム層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層が形成されている表面被覆切削工具において、
(c)上記酸化アルミニウム層は、それぞれ、平均領域厚さが0.5〜3μm、0.5〜3μmおよび1〜20μmの下部領域、中間領域および上部領域の3領域から構成され、
(d)上記酸化アルミニウム層のそれぞれの領域について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜90度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成した場合、
上記下部領域は、80〜90度の範囲内に存在する度数の合計が、該下部領域について作成した傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の60%以上の割合を占め、
上記中間領域は、70〜80度の範囲内に存在する度数の合計が、該中間領域について作成した傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の60%以上の割合を占め、
上記上部領域は、0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、該上部領域について作成した傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の60%以上の割合を占めることを特徴とする表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
Ti化合物層は、自体が高温強度を有し、これの存在によって硬質被覆層が高温強度を具備するようになるほか、工具基体と上部層であるAl2O3層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用をもつが、その合計平均層厚が3μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その合計平均層厚が20μmを越えると、特に高熱発生を伴う高速断続切削で熱塑性変形を起し易くなり、これが偏摩耗の原因となることから、その合計平均層厚を3〜20μmと定めた。
上部層を構成するAl2O3層は、一般的に、すぐれた高温硬さと耐熱性を有し、硬質被覆層の耐摩耗性向上に寄与するが、その平均層厚が2μm未満では、硬質被覆層に十分な耐摩耗性を発揮せしめることができない。一方、この発明によれば、工具寿命の延命化のため、その平均層厚25μmまでの厚膜化は可能であるが、平均層厚が25μmを越えて厚くなりすぎると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を2〜25μmと定めた。
即ち、Ti化合物層からなる下部層を通常の化学蒸着法で形成した後、該下部層の上に、例えば、通常の化学蒸着装置を用いて、
≪下部領域の成膜≫
反応ガス組成(容量%):AlCl3 5〜8%、CO2 3〜8%、HCl 6〜10%、TiCl4 0.1〜0.6%、残りH2、
反応雰囲気温度:750〜900℃、
反応雰囲気圧力:6〜10kPa、
の条件で、膜厚が0.5〜3μmになるまで下部領域を成膜し、
≪中間領域の成膜≫
反応ガス組成(容量%):AlCl3 1〜5%、CO2 3〜8%、HCl 2〜5%、TiCl4 0.4〜1.0%、H2S 0.05〜0.10%、残りH2、
反応雰囲気温度:750〜900℃、
反応雰囲気圧力:6〜10kPa、
の条件で、膜厚が0.5〜3μmになるまで中間領域を成膜し、
≪上部領域の成膜≫
反応ガス組成(容量%):AlCl3 2〜5%、CO2 3〜8%、HCl 6〜10%、H2S 0.25〜0.6%、残りH2、
反応雰囲気温度:960〜1020℃、
反応雰囲気圧力:3〜10kPa、
の条件で、膜厚が1〜20μmになるまで上部領域を成膜する。
上記の三段階で、Al2O3を成膜することによって、膜厚方向の結晶方位差が徐々に緩和される下部領域、中間領域および上部領域の3領域からなる本発明のAl2O3層を形成することができる。
(イ)下部領域においては、80〜90度の範囲内に存在する度数の合計が、該下部領域について作成した傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の60%以上の割合を占め、
(ロ)中間領域においては、70〜80度の範囲内に存在する度数の合計が、該中間領域について作成した傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の60%以上の割合を占め、
(ハ)上部領域においては、0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、該上部領域について作成した傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の60%以上の割合を占めた。
つまり、上部層の各領域間において膜厚方向の結晶方位差が徐々に緩和されていることが分かる。
図1(a)は下部領域、(b)は中間領域、(c)は上部領域について測定した傾斜角度数分布グラフである。
したがって、本発明では、Al2O3層からなる上部層の下部領域は、80〜90度の範囲内に存在する度数の合計が、該下部領域について作成した傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の60%以上の割合を、また、中間領域は、70〜80度の範囲内に存在する度数の合計が、該中間領域について作成した傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の60%以上の割合を、さらに、上部領域は、0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、該上部領域について作成した傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の60%以上の割合を占めるように、上部層各領域におけるAl2O3結晶粒の配向割合を定めた。
ついで、上部層としてのAl2O3層を、表4に示される条件にて、かつ、表6に示される目標層厚で蒸着形成することにより、
本発明被覆工具1〜13をそれぞれ製造した。
ついで、上部層としてのAl2O3層を、表4に示される条件にて、かつ、表7に示される目標層厚で蒸着形成することにより、
比較例被覆工具1〜13をそれぞれ製造した。
まず、傾斜角度数分布グラフは、上部層のAl2O3層の縦断面(下部領域、中間領域、上部領域のいずれかの縦断面)を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記縦断面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射し、電子後方散乱回折像装置を用いて、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、工具基体の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記測定傾斜角のうち、0〜90度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計することにより作成した。
また、上記測定は、Al2O3層の下部領域、中間領域、上部領域のそれぞれの領域について行った。
なお、比較例被覆工具については、Al2O3層は単一の領域であって、上記各領域が形成されていないことから、Al2O3層の層厚を、層厚方向に8等分し、それぞれ工具基体の側から、第1領域、第2領域、第3領域、第4領域、第5領域、第6領域、第7領域、第8領域とし、第1領域が本発明の下部領域に対応する領域、第2領域が本発明の中間領域に対応する領域、第3〜第8領域が本発明の上部領域に対応する領域であるとして、各領域における傾斜角度数分布グラフをそれぞれ作成した。
図1(a)〜(c)に、一例として、本発明被覆工具1について作成した傾斜角度数分布グラフを示す。
これに対して、比較例被覆工具においては、各領域の度数割合が60%以下であり、また領域間で傾斜構造とはなっていないことを示した。
被削材:JIS・S30Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:360m/min、
切り込み:1.3mm、
送り:0.2mm/rev、
切削時間:5分、
の条件(切削条件A)での炭素鋼の湿式高速断続切削試験(通常の切削速度は、200m/min)、
被削材:JIS・SCM415の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:350m/min、
切り込み:2.0mm、
送り:0.32mm/rev、
切削時間:5分、
の条件(切削条件B)での合金鋼の湿式高速断続高送り切削試験(通常の切削速度は、200m/min)、
被削材:JIS・FCD450の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:400m/min、
切り込み:2.4mm、
送り:0.32mm/rev、
切削時間:5分、
の条件(切削条件C)でのダクタイル鋳鉄の乾式高速断続高送り切削試験(通常の切削速度は、180m/min)、
を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
この測定結果を表7に示した。
これに対して、比較例被覆工具1〜13については、いずれも、高速断続切削加工では硬質被覆層にチッピングが発生し、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層が、3〜20μmの合計平均層厚を有するTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなるTi化合物層、
(b)上部層が、2〜25μmの平均層厚を有し、六方晶の結晶構造を有する酸化アルミニウム層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層が形成されている表面被覆切削工具において、
(c)上記酸化アルミニウム層は、それぞれ、平均領域厚さが0.5〜3μm、0.5〜3μmおよび1〜20μmの下部領域、中間領域および上部領域の3領域から構成され、
(d)上記酸化アルミニウム層のそれぞれの領域について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜90度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成した場合、
上記下部領域は、80〜90度の範囲内に存在する度数の合計が、該下部領域について作成した傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の60%以上の割合を占め、
上記中間領域は、70〜80度の範囲内に存在する度数の合計が、該中間領域について作成した傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の60%以上の割合を占め、
上記上部領域は、0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、該上部領域について作成した傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の60%以上の割合を占めることを特徴とする表面被覆切削工具。
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