JP5999350B2 - 高速断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents

高速断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具 Download PDF

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Description

この発明は、例えば、鋼や鋳鉄等の高熱発生を伴うとともに、切刃に対して衝撃的な負荷が作用する高速断続切削加工で、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性および耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関する。
従来、一般に、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットで構成された基体(以下、これらを総称して工具基体という)の表面に、
(a)下部層が、いずれも化学蒸着形成された、Tiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層が、化学蒸着形成された、1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム(以下、Alで示す)層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる被覆工具が良く知られている。
そして、上記の従来被覆工具は、比較的耐摩耗性に優れるものの、高速断続切削条件で用いた場合にチッピング等の異常損耗を発生しやすいことから、硬質被覆層の構造についての種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1に示すように、工具基体の表面に、粒状結晶組織のTiN層、TiCN層からなる密着接合層、縦長成長結晶組織を有するl−TiCN層からなる強靭層、α型の結晶構造および粒状結晶組織を有する酸化アルミニウムからなる強化硬質層を被覆形成した被覆工具において、該酸化アルミニウムからなる強化硬質層について、表面研磨面の法線に対して、酸化アルミニウム結晶粒の結晶面(0001)面の法線がなす傾斜角を測定して傾斜角度数分布グラフを作成した場合、傾斜角度数分布グラフの少なくとも7〜15度の範囲内の傾斜角区分および0〜7度の範囲内の傾斜角区分にピークが存在すると共に、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体に占める割合で、前記7〜15度の範囲内に存在する度数の合計が35〜50%、前記0〜7度の範囲内に存在する度数の合計が25〜40%である強化硬質層を形成することで、高速重切削加工における硬質被覆層の耐チッピング性を向上させることが提案されている。
また、特許文献2に示すように、WC基超硬合金、TiCN基サーメットからなる工具基体表面に、下部層として、Ti化合物層、中間層として、TiとAlの複合炭酸化物または複合炭窒酸化物相中に、微粒柱状酸化アルミニウム相が均一に分散した混合組織層、上部層として、α型酸化アルミニウム層を備えた被覆工具において、上部層について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜90度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成した場合、上部層は、0〜10度の範囲内の傾斜角区分及び80〜90度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜10度及び80〜90度のそれぞれの範囲内に存在する度数が傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の15%以上の割合を占め、さらに、前記0〜10度及び80〜90度のそれぞれの範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の60%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示すα型酸化アルミニウム層とすることによって、耐チッピング性の改善を図ることが提案されている。
また、特許文献3に示すように、工具基体表面に、Ti化合物層からなる下部層、Al層からなる上部層を被覆形成した被覆工具において、上部層について、工具基体表面と平行な表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフにおいて、33〜43度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記33〜43度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示す酸化アルミニウム層を形成することによって、硬質被覆層の耐チッピング性を改善することが提案されている。
さらに、特許文献4に示すように、工具基体表面に、Ti化合物層からなる下部層、Al層からなる上部層を被覆形成した被覆工具において、上部層について、工具基体表面と平行な表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、45〜90度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフにおいて、70〜81度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記70〜81度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示す酸化アルミニウム層を形成することによって、硬質被覆層の耐チッピング性を改善することが提案されている。
特開2006−123031号公報 特開2010−89201号公報 特開2006−43791号公報 特開2006−305686号公報
近年の切削装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は一段と高速化、高効率化の傾向にある。しかし、上記従来の被覆工具においては、特にこれを厳しい切削条件の高速断続切削、すなわち、高熱発生を伴うとともに、切刃部にきわめて短いピッチで繰り返し断続的、衝撃的負荷が作用する高速断続切削で用いると、上部層のAl層は、高温強度、靭性、密着性が十分とはいえないため、切刃部にチッピングが発生しやすく、これが原因で、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、被覆工具の耐チッピング性向上をはかるとともに、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮させるべく、上部層を構成するAl結晶粒の方位形態、方位割合等について着目し、鋭意研究を重ねた結果、次のような知見を得た。
炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、下部層として、3〜20μmの合計平均層厚を有するTiの炭化物(TiC)層、窒化物(TiN)層、炭窒化物(TiCN)層、炭酸化物(TiCO)層および炭窒酸化(TiCNO)物層のうちの1層または2層以上からなるTi化合物層を、また、上部層として、1〜15μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム(Al)層を蒸着形成するにあたり、Ti化合物層からなる下部層を形成した後、この上に、例えば、通常の化学蒸着装置にて、Al層を蒸着形成するにあたり、Al成膜の初期条件として、成膜進行に伴って、反応ガス中のAlCl含有量を異ならせて成膜を行い、また、同時に、CO+Nガスエッチングを繰り返し施すことによって、特定の方位形態、方位割合からなるAl結晶粒を備えた上部層を形成できることを見出した。
さらに、上記初期条件を適切に調整してAl結晶粒を形成した場合には、基体表面の法線に対するAl結晶粒の(0001)面の法線がなす傾斜角度数分布グラフにおいて、最大ピーク、第二ピーク、第三ピークの度数ピークが現れるとともに、それらのピーク強度をそれぞれI1、I2、I3としたとき、I1>I2>I3であって、I3/I1が0.6以上であり、かつ、1〜11度、40〜50度及び65〜75度の傾斜角区分各々にそれらのピークが一つずつ存在し、しかも、それぞれの傾斜角区分内に存在する度数割合が、度数全体の15%以上となる方位形態、方位割合からなるAl結晶粒が形成されることを見出したのである。
そして、上記の方位形態、方位割合を有する上部層は、高温硬さに優れるとともに、高温強度にも優れ、さらに、上部層内部に形成される歪が緩和されることから、このような上部層を備えた被覆工具を、例えば、鋼や鋳鉄などの、高熱発生を伴い、切刃に断続的、衝撃的負荷が作用する高速断続切削加工に用いた場合には、チッピングの発生が抑制されるとともに、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮するのである。
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、
「 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層は、3〜20μmの合計平均層厚を有するTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなるTi化合物層、
(b)上部層は、1〜15μmの平均層厚を有するα型酸化アルミニウム層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる表面被覆切削工具において、
(c)上記(b)のα型酸化アルミニウム層について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜90度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成した場合、該傾斜角度数分布グラフには、最大ピーク、第二ピーク、第三ピークが存在し、それらの強度をそれぞれI1、I2、I3としたとき、I1>I2>I3であって、I3/I1が0.6以上であり、かつ、1〜11度、40〜50度及び65〜75度の傾斜角区分各々にそれらのピークが一つずつ存在し、さらに、それぞれの傾斜角区分内に存在する度数割合が、度数全体の15%以上であることを特徴とする表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
つぎに、この発明の被覆工具の硬質被覆層の構成層について、より具体的に説明する。
Ti化合物層(下部層):
Ti化合物層は、自体が高温強度を有し、これの存在によって硬質被覆層が高温強度を具備するようになるほか、工具基体と上部層であるAl層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用をもつが、その合計平均層厚が3μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その合計平均層厚が20μmを越えると、特に高熱発生を伴う高速断続切削で熱塑性変形を起し易くなり、これが偏摩耗の原因となることから、その合計平均層厚を3〜20μmと定めた。
α型Al層(上部層):
α型Al層は、一般的にすぐれた高温硬さと耐熱性を有し、硬質被覆層の耐摩耗性向上に寄与するが、その平均層厚が1μm未満では、硬質被覆層に十分な耐摩耗性を発揮せしめることができない。一方、その平均層厚15μmを越えて厚くなりすぎると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1〜15μmと定めた。
傾斜角度数分布グラフにおけるピーク強度比および度数割合について、I3/I1が0.6以下では第一ピーク強度に比して第三ピークの強度が十分でないため、方位の異なる結晶粒の歪みを緩和する効果を十分に発揮することが出来ず、また、1〜11度、40〜50度、65〜75度の各傾斜角度区分における度数割合が15%以下では第一、第二、第三ピークの属する傾斜角度区分の割合が十分でなく、各方位の結晶粒が有する高温硬さを十分に発揮することができないため、I1>I2>I3であって、I3/I1>0.6、1〜11度、40〜50度、65〜75度の各傾斜角度区分における度数割合を15%以上と定めた。
なお、I1とI2に関しては、I3とI1の中間値に近い値を取ることにより、各傾斜角度区分における方位の異なる結晶粒の歪みを緩和する効果がより発揮されるという観点から、I2/I1>0.8とすることが更に好ましい。
本発明による、特異な結晶方位形態、方位割合を有するAl層からなる上部層は、例えば、以下に示す≪第1段階≫〜≪第13段階≫の段階からなる方法によって蒸着形成することができる。
即ち、Ti化合物層からなる下部層を通常の化学蒸着法で形成した後、該下部層の上に、例えば、通常の化学蒸着装置を用いて、
≪第1段階≫
反応ガス組成(容量%):AlCl 4%、残りH
反応雰囲気温度:960 ℃、
反応雰囲気圧力:7 kPa、
反応時間:3〜20 min
≪第2段階≫
Arパージ 5 min
≪第3段階≫
反応ガス組成(容量%):CO 2%、N 3%、残りAr、
反応雰囲気温度:960 ℃、
反応雰囲気圧力:7 kPa、
反応時間:3 min
≪第4段階≫
Arパージ 5 min
≪第5段階≫
反応ガス組成(容量%):AlCl 10%、残りH
反応雰囲気温度:960 ℃、
反応雰囲気圧力:7 kPa、
反応時間:3〜20 min
≪第6段階≫
Arパージ 5 min
≪第7段階≫
反応ガス組成(容量%):CO 2%、N 3%、残りAr、
反応雰囲気温度:960 ℃、
反応雰囲気圧力:7 kPa、
反応時間:3 min
≪第8段階≫
Arパージ 5 min
≪第9段階≫
反応ガス組成(容量%):AlCl 15%、残りH
反応雰囲気温度:960 ℃、
反応雰囲気圧力:7 kPa、
反応時間:3〜20 min
≪第10段階≫
Arパージ 5 min
≪第11段階≫
反応ガス組成(容量%):CO 2%、N 3%、残りAr、
反応雰囲気温度:960 ℃、
反応雰囲気圧力:7 kPa、
反応時間:3 min
≪第12段階≫
Arパージ 5 min
≪第13段階≫
反応ガス組成(容量%):AlCl 2.2%、 CO2 6.5%、
HCl 2.2%、 HS 0.2%、 残りH
反応雰囲気温度:960 ℃、
反応雰囲気圧力:7 kPa、
反応時間:(所望の膜厚が形成されるまで)
上記≪第1段階≫〜≪第13段階≫からなる方法によって、本発明の結晶方位形態、方位割合を有するα型Al層からなる上部層を蒸着形成することができる。
そして、結晶方位形態、方位割合の特定は、以下の方法によって行うことができる。
即ち、上部層のAl層の表面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射し、電子後方散乱回折像装置を用いて、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記測定傾斜角のうち、0〜90度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計することにより傾斜角度数分布グラフを作成する。
そして、上記傾斜角度数分布グラフにおいて、最大ピークをI1、二番目に強度の高いピークをI2、三番目に強度の高いピークをI3とし、各ピークの存在する傾斜角区分を求めることによって結晶方位形態を特定することができるとともに、ピークの強度比I3/I1を求めることによって方位割合を特定することができる。
本発明では、上記に例示した≪第1段階≫〜≪第13段階≫からなる蒸着により、最大ピーク、第二ピーク、第三ピークが存在し、それらの強度をそれぞれI1、I2、I3としたとき、I1>I2>I3であって、I3/I1が0.6以上であり、また、好ましくは更にI2/I1>0.8であり、かつ、1〜11度、40〜50度及び65〜75度の傾斜角区分各々にそれらのピークが一つずつ存在し、さらに、それぞれの傾斜角区分内に存在する度数割合が、度数全体の15%以上となるα型Al層からなる上部層を形成することができる。
そして、本発明では、結晶粒方位が大きく傾いたAl結晶粒(傾斜角区分65〜75度)とその間の傾きをもつAl結晶粒(傾斜角区分40〜50度)が存在することによって、上部層内の歪発生を緩和することができるために、高熱発生を伴い、切れ刃に衝撃的・断続的負荷が作用する高速断続切削加工において、傾斜角区分1〜11度のAl結晶粒が具備する優れた耐摩耗性を損なうことなく、優れた耐チッピング性を発揮することができる。
なお、上記に例示した≪第1段階≫〜≪第13段階≫からなる蒸着において、≪第1段階≫の時間が長いほど傾斜角区分1〜11度の範囲内に存在するピークの強度が高くなり、≪第5段階≫の時間が長いほど傾斜角区分40〜50度の範囲内に存在するピークの強度が高くなり、≪第9段階≫の時間が長いほど傾斜角区分65〜75度の範囲内に存在するピークの強度が高くなる傾向があるので、I1>I2>I3であって、I3/I1を0.6以上(あるいは、更に、I2/I1>0.8以上)とするためには、≪第1段階≫、≪第5段階≫および≪第9段階≫の反応時間を適切に調整することが必要である。
硬質被覆層として、Ti化合物層からなる下部層とα型Al層からなる上部層を蒸着形成したこの発明の被覆工具は、上部層のα型Al層について、(0001)面の法線の傾斜角度数分布測定を行った場合、最大ピーク、第二ピーク、第三ピークが存在し、それらの強度をそれぞれI1、I2、I3としたとき、I1>I2>I3であって、I3/I1が0.6以上(好ましくは、I2/I1が0.8以上)であり、かつ、1〜11度、40〜50度及び65〜75度の傾斜角区分各々にそれらのピークが一つずつ存在し、さらに、それぞれの傾斜角区分内に存在する度数割合が、度数全体の15%以上となる結晶方位形態、方位割合を有することから、上部層内の歪発生が緩和され、しかも、上部層が高硬度、高強度を備える。
したがって、本発明の被覆工具は、高熱発生を伴い、切れ刃に衝撃的・断続的負荷が作用する高速断続切削加工において、優れた耐チッピング性を示すとともに、長期の使用に亘って優れた耐摩耗性を発揮することができる。
本発明被覆工具1の硬質被覆層の上部層を構成するAl層の(0001)面の法線についての傾斜角度数分布グラフである。
つぎに、この発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr32粉末、TiN粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、切刃部にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO規格・CNMG120408に規定するインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A〜Dをそれぞれ製造した。
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比でTiC/TiN=50/50)粉末、Mo2C粉末、ZrC粉末、NbC粉末、TaC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、98MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を1.3kPaの窒素雰囲気中、温度:1540℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO規格・CNMG120412のインサート形状をもったTiCN基サーメット製の工具基体a〜dを形成した。
つぎに、これらの工具基体A〜Dおよび工具基体a〜dの表面に、通常の化学蒸着装置を用い、硬質被覆層の下部層として、表3に示される条件で、かつ、表5に示される組み合わせ及び目標層厚でTi化合物層を蒸着形成し、
ついで、上部層としてのα型Al層を、表4に示される条件(上部層種別(A))にて、かつ、表5に示される目標層厚で蒸着形成することにより、
本発明被覆工具1〜13をそれぞれ製造した。
また、比較の目的で、硬質被覆層の下部層として、表3に示される条件で、かつ、表5に示される組み合わせ及び目標層厚で、本発明被覆工具1〜13と同じTi化合物層を蒸着形成し、
ついで、上部層としてのα型Al層を、表4に示される条件(上部層種別(B))にて、かつ、表6に示される目標層厚で蒸着形成することにより、
比較例被覆工具1〜13をそれぞれ製造した。
ついで、上記の本発明被覆工具と比較例被覆工具の硬質被覆層の上部層を構成するα型Al層について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用いて、傾斜角度数分布測定を行った。
まず、傾斜角度数分布測定は、上部層のα型Al層の表面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射し、電子後方散乱回折像装置を用いて、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記測定傾斜角のうち、0〜90度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計することにより作成した。
また、上記傾斜角度数分布グラフにおいて、最大ピークの高さをI1、二番目に強度の高いピークの高さをI2、三番目に強度の高いピークの高さをI3とし、各ピークの存在する傾斜角区分および強度比I3/I1を求めた。
表5、表6に、上記で求めたI1、I2、I3の存在する傾斜角区分および強度比、さらに、傾斜角区分1度以上11度以下、40度以上50度以下、65度以上75度以下の範囲内の傾斜角区分の度数割合の値を示す。
また、図1には、本発明被覆工具の一例として、本発明被覆工具1について傾斜角度数分布測定で得られた傾斜角度数分布グラフを示す。
表5、表6にそれぞれ示される通り、本発明被覆工具のα型Al層は、傾斜角度数分布測定において、にそれぞれ最大ピーク、第二ピーク、第三ピークが1〜11度、40〜50度及び65〜75度の傾斜角区分いずれかに観察され、また、それぞれの傾斜角区分内に存在する度数割合は、いずれも、度数全体の15%以上であり、さらに、ピーク強度比の値I3/I1は0.6以上(また、I2/I1は0.8以上)となっている。
これに対して、比較例被覆工具1〜3においては、一つの傾斜角区分にしかピークが観察されておらず、また、その他の比較例被覆工具4〜13のいずれも、本発明で規定した要件から外れる結晶方位形態、方位割合を示している。
また、上記の本発明被覆工具1〜13および比較例被覆工具1〜13の各層の層厚を、走査型電子顕微鏡を用いて縦断面測定したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均層厚(5点測定の平均値)を示した。






つぎに、上記の各種の被覆工具をいずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明被覆工具1〜13および比較例被覆工具1〜13について、
被削材:JIS・S30Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:460m/min、
切り込み:1.2mm、
送り:0.15mm/rev、
切削時間:6分、
の条件(切削条件A)での炭素鋼の湿式高速断続切削試験(通常の切削速度は、300m/min)、
被削材:JIS・SCM415の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:440m/min、
切り込み:2.1mm、
送り:0.15mm/rev、
切削時間:6分、
の条件(切削条件B)での合金鋼の湿式高速断続切削試験(通常の切削速度は、250m/min)、
被削材:JIS・FC300の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:450m/min、
切り込み:1.4mm、
送り:0.25mm/rev、
切削時間:6分、
の条件(切削条件C)での普通鋳鉄の乾式高速断続切削試験(通常の切削速度は、300m/min)、
を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
この測定結果を表7に示した。

表5〜7に示される結果から、本発明被覆工具1〜13は、上部層のα型Al層が、(0001)面の法線についての傾斜角度数分布測定において、1〜11度、40〜50度及び65〜75度の傾斜角区分に、ピーク強度がI1、I2、I3のピーク(但し、I1>I2>I3)が存在し、しかも、I3/I1が0.6以上(好ましくは、I2/I1が0.8以上)であり、また、それぞれの傾斜角区分に存在する度数割合が、度数全体の15%以上であることから、上部層内の歪が緩和されるとともに、すぐれた高温硬さ、高温強度を備え、高熱発生を伴い、切れ刃に衝撃的・断続的負荷が作用する高速断続切削加工において、長期の使用に亘って、すぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮するものであった。
これに対して、本発明で規定する要件から外れる上部層を備える比較例被覆工具は、チッピング等の異常損傷発生を原因として短時間で寿命に至るため、高速断続切削加工では、長期の使用に亘って、すぐれた切削性能を発揮することはできない。
上述のように、この発明の被覆工具は、各種鋼や鋳鉄などの通常の条件での連続切削や断続切削は勿論のこと、特に高熱発生を伴い、切刃部に断続的、衝撃的負荷が作用する高速断続切削に用いた場合でも、すぐれた耐チッピング性を示し、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮するものであるから、切削装置の高性能化並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。





Claims (1)

  1. 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
    (a)下部層は、3〜20μmの合計平均層厚を有するTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなるTi化合物層、
    (b)上部層は、1〜15μmの平均層厚を有するα型酸化アルミニウム層、
    以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる表面被覆切削工具において、
    (c)上記(b)のα型酸化アルミニウム層について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜90度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成した場合、該傾斜角度数分布グラフには、最大ピーク、第二ピーク、第三ピークが存在し、それらの強度をそれぞれI1、I2、I3としたとき、I1>I2>I3であって、I3/I1が0.6以上であり、かつ、1〜11度、40〜50度及び65〜75度の傾斜角区分各々にそれらのピークが一つずつ存在し、さらに、それぞれの傾斜角区分内に存在する度数割合が、度数全体の15%以上であることを特徴とする表面被覆切削工具。







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