JP5999350B2 - 高速断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents
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Description
(a)下部層が、いずれも化学蒸着形成された、Tiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層が、化学蒸着形成された、1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム(以下、Al2O3で示す)層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる被覆工具が良く知られている。
そして、上記の従来被覆工具は、比較的耐摩耗性に優れるものの、高速断続切削条件で用いた場合にチッピング等の異常損耗を発生しやすいことから、硬質被覆層の構造についての種々の提案がなされている。
さらに、上記初期条件を適切に調整してAl2O3結晶粒を形成した場合には、基体表面の法線に対するAl2O3結晶粒の(0001)面の法線がなす傾斜角度数分布グラフにおいて、最大ピーク、第二ピーク、第三ピークの度数ピークが現れるとともに、それらのピーク強度をそれぞれI1、I2、I3としたとき、I1>I2>I3であって、I3/I1が0.6以上であり、かつ、1〜11度、40〜50度及び65〜75度の傾斜角区分各々にそれらのピークが一つずつ存在し、しかも、それぞれの傾斜角区分内に存在する度数割合が、度数全体の15%以上となる方位形態、方位割合からなるAl2O3結晶粒が形成されることを見出したのである。
「 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層は、3〜20μmの合計平均層厚を有するTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなるTi化合物層、
(b)上部層は、1〜15μmの平均層厚を有するα型酸化アルミニウム層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる表面被覆切削工具において、
(c)上記(b)のα型酸化アルミニウム層について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜90度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成した場合、該傾斜角度数分布グラフには、最大ピーク、第二ピーク、第三ピークが存在し、それらの強度をそれぞれI1、I2、I3としたとき、I1>I2>I3であって、I3/I1が0.6以上であり、かつ、1〜11度、40〜50度及び65〜75度の傾斜角区分各々にそれらのピークが一つずつ存在し、さらに、それぞれの傾斜角区分内に存在する度数割合が、度数全体の15%以上であることを特徴とする表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
Ti化合物層は、自体が高温強度を有し、これの存在によって硬質被覆層が高温強度を具備するようになるほか、工具基体と上部層であるAl2O3層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用をもつが、その合計平均層厚が3μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その合計平均層厚が20μmを越えると、特に高熱発生を伴う高速断続切削で熱塑性変形を起し易くなり、これが偏摩耗の原因となることから、その合計平均層厚を3〜20μmと定めた。
α型Al2O3層は、一般的にすぐれた高温硬さと耐熱性を有し、硬質被覆層の耐摩耗性向上に寄与するが、その平均層厚が1μm未満では、硬質被覆層に十分な耐摩耗性を発揮せしめることができない。一方、その平均層厚15μmを越えて厚くなりすぎると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1〜15μmと定めた。
傾斜角度数分布グラフにおけるピーク強度比および度数割合について、I3/I1が0.6以下では第一ピーク強度に比して第三ピークの強度が十分でないため、方位の異なる結晶粒の歪みを緩和する効果を十分に発揮することが出来ず、また、1〜11度、40〜50度、65〜75度の各傾斜角度区分における度数割合が15%以下では第一、第二、第三ピークの属する傾斜角度区分の割合が十分でなく、各方位の結晶粒が有する高温硬さを十分に発揮することができないため、I1>I2>I3であって、I3/I1>0.6、1〜11度、40〜50度、65〜75度の各傾斜角度区分における度数割合を15%以上と定めた。
なお、I1とI2に関しては、I3とI1の中間値に近い値を取ることにより、各傾斜角度区分における方位の異なる結晶粒の歪みを緩和する効果がより発揮されるという観点から、I2/I1>0.8とすることが更に好ましい。
即ち、Ti化合物層からなる下部層を通常の化学蒸着法で形成した後、該下部層の上に、例えば、通常の化学蒸着装置を用いて、
≪第1段階≫
反応ガス組成(容量%):AlCl3 4%、残りH2、
反応雰囲気温度:960 ℃、
反応雰囲気圧力:7 kPa、
反応時間:3〜20 min
≪第2段階≫
Arパージ 5 min
≪第3段階≫
反応ガス組成(容量%):CO2 2%、N2 3%、残りAr、
反応雰囲気温度:960 ℃、
反応雰囲気圧力:7 kPa、
反応時間:3 min
≪第4段階≫
Arパージ 5 min
≪第5段階≫
反応ガス組成(容量%):AlCl3 10%、残りH2、
反応雰囲気温度:960 ℃、
反応雰囲気圧力:7 kPa、
反応時間:3〜20 min
≪第6段階≫
Arパージ 5 min
≪第7段階≫
反応ガス組成(容量%):CO2 2%、N2 3%、残りAr、
反応雰囲気温度:960 ℃、
反応雰囲気圧力:7 kPa、
反応時間:3 min
≪第8段階≫
Arパージ 5 min
≪第9段階≫
反応ガス組成(容量%):AlCl3 15%、残りH2、
反応雰囲気温度:960 ℃、
反応雰囲気圧力:7 kPa、
反応時間:3〜20 min
≪第10段階≫
Arパージ 5 min
≪第11段階≫
反応ガス組成(容量%):CO2 2%、N2 3%、残りAr、
反応雰囲気温度:960 ℃、
反応雰囲気圧力:7 kPa、
反応時間:3 min
≪第12段階≫
Arパージ 5 min
≪第13段階≫
反応ガス組成(容量%):AlCl3 2.2%、 CO2 6.5%、
HCl 2.2%、 H2S 0.2%、 残りH2、
反応雰囲気温度:960 ℃、
反応雰囲気圧力:7 kPa、
反応時間:(所望の膜厚が形成されるまで)
上記≪第1段階≫〜≪第13段階≫からなる方法によって、本発明の結晶方位形態、方位割合を有するα型Al2O3層からなる上部層を蒸着形成することができる。
即ち、上部層のAl2O3層の表面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射し、電子後方散乱回折像装置を用いて、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記測定傾斜角のうち、0〜90度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計することにより傾斜角度数分布グラフを作成する。
そして、上記傾斜角度数分布グラフにおいて、最大ピークをI1、二番目に強度の高いピークをI2、三番目に強度の高いピークをI3とし、各ピークの存在する傾斜角区分を求めることによって結晶方位形態を特定することができるとともに、ピークの強度比I3/I1を求めることによって方位割合を特定することができる。
そして、本発明では、結晶粒方位が大きく傾いたAl2O3結晶粒(傾斜角区分65〜75度)とその間の傾きをもつAl2O3結晶粒(傾斜角区分40〜50度)が存在することによって、上部層内の歪発生を緩和することができるために、高熱発生を伴い、切れ刃に衝撃的・断続的負荷が作用する高速断続切削加工において、傾斜角区分1〜11度のAl2O3結晶粒が具備する優れた耐摩耗性を損なうことなく、優れた耐チッピング性を発揮することができる。
したがって、本発明の被覆工具は、高熱発生を伴い、切れ刃に衝撃的・断続的負荷が作用する高速断続切削加工において、優れた耐チッピング性を示すとともに、長期の使用に亘って優れた耐摩耗性を発揮することができる。
ついで、上部層としてのα型Al2O3層を、表4に示される条件(上部層種別(A))にて、かつ、表5に示される目標層厚で蒸着形成することにより、
本発明被覆工具1〜13をそれぞれ製造した。
ついで、上部層としてのα型Al2O3層を、表4に示される条件(上部層種別(B))にて、かつ、表6に示される目標層厚で蒸着形成することにより、
比較例被覆工具1〜13をそれぞれ製造した。
まず、傾斜角度数分布測定は、上部層のα型Al2O3層の表面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射し、電子後方散乱回折像装置を用いて、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記測定傾斜角のうち、0〜90度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計することにより作成した。
また、上記傾斜角度数分布グラフにおいて、最大ピークの高さをI1、二番目に強度の高いピークの高さをI2、三番目に強度の高いピークの高さをI3とし、各ピークの存在する傾斜角区分および強度比I3/I1を求めた。
表5、表6に、上記で求めたI1、I2、I3の存在する傾斜角区分および強度比、さらに、傾斜角区分1度以上11度以下、40度以上50度以下、65度以上75度以下の範囲内の傾斜角区分の度数割合の値を示す。
また、図1には、本発明被覆工具の一例として、本発明被覆工具1について傾斜角度数分布測定で得られた傾斜角度数分布グラフを示す。
これに対して、比較例被覆工具1〜3においては、一つの傾斜角区分にしかピークが観察されておらず、また、その他の比較例被覆工具4〜13のいずれも、本発明で規定した要件から外れる結晶方位形態、方位割合を示している。
被削材:JIS・S30Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:460m/min、
切り込み:1.2mm、
送り:0.15mm/rev、
切削時間:6分、
の条件(切削条件A)での炭素鋼の湿式高速断続切削試験(通常の切削速度は、300m/min)、
被削材:JIS・SCM415の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:440m/min、
切り込み:2.1mm、
送り:0.15mm/rev、
切削時間:6分、
の条件(切削条件B)での合金鋼の湿式高速断続切削試験(通常の切削速度は、250m/min)、
被削材:JIS・FC300の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:450m/min、
切り込み:1.4mm、
送り:0.25mm/rev、
切削時間:6分、
の条件(切削条件C)での普通鋳鉄の乾式高速断続切削試験(通常の切削速度は、300m/min)、
を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
この測定結果を表7に示した。
これに対して、本発明で規定する要件から外れる上部層を備える比較例被覆工具は、チッピング等の異常損傷発生を原因として短時間で寿命に至るため、高速断続切削加工では、長期の使用に亘って、すぐれた切削性能を発揮することはできない。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層は、3〜20μmの合計平均層厚を有するTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなるTi化合物層、
(b)上部層は、1〜15μmの平均層厚を有するα型酸化アルミニウム層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる表面被覆切削工具において、
(c)上記(b)のα型酸化アルミニウム層について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜90度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成した場合、該傾斜角度数分布グラフには、最大ピーク、第二ピーク、第三ピークが存在し、それらの強度をそれぞれI1、I2、I3としたとき、I1>I2>I3であって、I3/I1が0.6以上であり、かつ、1〜11度、40〜50度及び65〜75度の傾斜角区分各々にそれらのピークが一つずつ存在し、さらに、それぞれの傾斜角区分内に存在する度数割合が、度数全体の15%以上であることを特徴とする表面被覆切削工具。
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