JP6139057B2 - 高速断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents
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Description
(a)下部層が、いずれも化学蒸着形成された、Tiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層が、化学蒸着形成された、1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム(以下、Al2O3で示す)層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる被覆工具が良く知られている。
そして、上記の従来被覆工具は、比較的耐摩耗性に優れるものの、高速断続切削条件で用いた場合にチッピング等の異常損耗を発生しやすいことから、硬質被覆層の構造についての種々の提案がなされている。
「(1)炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層が、3〜20μmの合計平均層厚を有するTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ、その内の少なくとも1層は2〜20μmの平均層厚を有する改質Ti炭窒化物層からなるTi化合物層、
(b)上部層が、1〜15μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる表面被覆切削工具において、
(c)上記(a)の改質Ti炭窒化物層について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、縦断面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(112)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成した場合、0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の20〜80%の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示し、
(d)上記(a)の改質Ti炭窒化物層について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、縦断面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、個々の結晶格子間の方位差(回転角)を測定し、隣接する測定点の結晶格子間の方位差(回転角)が5度以上である場合に、相互に隣接する測定点の境界は結晶粒界であるとし、結晶粒界に囲まれ、他の結晶粒界に分断されていない範囲を同一の結晶粒として特定し、さらに、結晶粒個々の結晶粒内平均方位差を求めた場合、結晶粒の結晶粒内平均方位差が5度未満を示す結晶粒の面積割合が20〜80%を占め、一方、結晶粒の結晶粒内平均方位差が5度以上を示す結晶粒の面積割合が20〜80%を占めることを特徴とする表面被覆切削工具。
(2)前記(1)(c)に記載の結晶粒の結晶面である(112)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成し、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に存在する結晶粒の結晶粒内平均方位差の平均は5度未満を示し、一方、上記0〜10度の範囲を外れる傾斜角区分に存在する結晶粒の結晶粒内平均方位差の平均は5度以上を示すことを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
Ti化合物層は、自体が高温強度を有し、これの存在によって硬質被覆層が高温強度を具備するようになるほか、工具基体と上部層であるAl2O3層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用をもつが、その合計平均層厚が3μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その合計平均層厚が20μmを越えると、特に高熱発生を伴う高速断続切削で熱塑性変形を起し易くなり、これが偏摩耗の原因となることから、その合計平均層厚を3〜20μmと定めた。
ここで、例えば、改質TiCN層は、まず、
反応ガス組成(容量%):TiCl42〜10%、CH3CN0.5〜3%、CH41〜5%、N210〜30%、残りH2、
反応雰囲気温度:820〜920℃、
反応雰囲気圧力:6〜20kPa、
という条件で該TiCN層を目標層厚の30〜60%の層厚となるまで成膜し、続けて、
反応ガス雰囲気:Ar、
反応雰囲気温度:900〜1000℃、
反応雰囲気圧力:3〜13kPa、
反応時間:5〜30分、
という条件(加熱処理条件という)中で加熱処理を行い、ついで、目標層厚になるまで前記条件で成膜することによって改質TiCN層を形成することができる。
上記の工程にしたがって成膜することによって、特異な(112)面傾斜角度分布割合と粒内平均方位差を有する、耐クラック伝播性にすぐれた改質TiCN層を形成することができる。
なお、上記の工程で、特異な(112)面傾斜角度分布割合と粒内平均方位差が形成される機構は未だ解明されていないが、上記加熱処理によって、成長面に変化が生じ結晶粒内方位変化が起こるものと考えられる。
そして、この改質TiCN膜は、すぐれた高温強度と密着性に加え、層内に発生したクラックの伝播・進展を抑制する作用を有するので、改質TiCN層を少なくとも1層有するTi化合物層からなる下部層は、高速断続切削加工においてすぐれた耐チッピング性を発揮する。
図1に、(112)面の法線がなす傾斜角を測定した傾斜角度数分布グラフの一例を示す。
上記の(112)面の傾斜角度分布割合について検討したところ、傾斜角度数分布グラフにおいて、0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、度数全体の20%未満、望ましくは40%未満の割合の場合には、TiCN層の具備する耐摩耗性を十分に発揮することができず、一方、これが80%、望ましくは70%を超えると、改質TiCN層は、すぐれた高温強度を十分に発揮することができなくなることから、本発明では、(112)面の傾斜角度分布割合が、傾斜角度数分布グラフにおいて度数全体の20〜80%、好ましくは40〜70%の割合を占めるようにした。
また、上記で成膜した下部層の改質TiCN層の層厚について、層厚が2μm以下ではひずみの局所化が十分に起こらないため、改質TiCN層の具備するすぐれた耐チッピング性を十分に発揮することができず、一方これが20μmを超えると、特に高熱発生を伴う高速断続切削で熱塑性変形を起し易くなり、これが偏摩耗の原因となることから、その平均層厚を2〜20μmと定めた。
図2に、結晶粒内平均方位差の概念図を示す。即ち、図2(a)、(b)のいずれにおいても、結晶粒内(結晶粒界内部)のマス目で示される各測定点における測定角度の大きさを、それぞれのマス目の矢印で表示しているが、「結晶粒内平均方位差が5度未満の結晶粒」を示す(a)においては、いずれの測定点においても同程度の測定角度を示し、一方、「結晶粒内平均方位差が5度以上の結晶粒」を示す(b)においては、測定点によって次第に測定角度が変化しており、結晶粒の結晶粒内平均方位差が大きくなっている(5度以上)ことを示している。
つまり、結晶粒の結晶粒内平均方位差の平均が5度以上である結晶粒内部に、下部層の改質TiCN層のひずみが局所的に偏在分布し、その結果として、下部層の改質TiCN層に発生・伝播したクラックがひずみの多い箇所に優先的に進展し、その後ひずみの少ない箇所への伝播・進展を抑制することができるため、チッピング等の異常損傷の発生を防止することができる。
上記結晶粒内平均方位差の割合について検討したところ、結晶粒内平均方位差が5度以上を示す結晶粒の面積割合が20%未満の場合、または80%以上の場合には、クラック伝播を抑止する歪みの局所化が十分に起こらず、すぐれた耐チッピング性を発揮することができなくなるため、結晶粒内平均方位差が5度以上を示す結晶粒の面積割合が20〜80%を占めるようにした。
これは、上記0〜10度の範囲内の傾斜角区分に存在する結晶粒の結晶粒内平均方位差の平均が5度未満であり、かつ、0〜10度の範囲を外れる傾斜角区分に存在する結晶粒の結晶粒内平均方位差の平均が5度以上である場合には、下部層の改質TiCN層のひずみがより局所的に発生し、耐チッピング性、耐異常損傷性の向上を図ることができるためである。
Al2O3層は、一般的にすぐれた高温硬さと耐熱性を有し、硬質被覆層の耐摩耗性向上に寄与するが、その平均層厚が1μm未満では、硬質被覆層に十分な耐摩耗性を発揮せしめることができない。一方、平均層厚が15μmを越えて厚くなりすぎると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1〜15μmと定めた。
なお、Al2O3層の成膜は、従来から良く知られているCVD法等によって行うことができ、その成膜法について特段制限されるものではない。
したがって、この発明の被覆工具は、高熱発生を伴うとともに、切刃部に断続的、衝撃的負荷が作用する高速断続切削に用いた場合でも、チッピング等の異常損傷を発生することなく、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮するものである。
なお、下部層のうちの少なくとも1つの層として、改質TiCN層を蒸着したが、改質TiCN層の加熱処理条件は表4に示す。
ついで、上部層としてのAl2O3層を、表3に示される条件にて、かつ、表5に示される目標層厚で蒸着形成することにより、
本発明被覆工具1〜13をそれぞれ製造した。
ついで、上部層としてのAl2O3層を、表3に示される条件にて、かつ、表6に示される目標層厚で蒸着形成することにより、
比較例被覆工具1〜13をそれぞれ製造した。
まず、傾斜角度数分布グラフは、下部層の改質TiCN層の縦断面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記断面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射し、電子後方散乱回折像装置を用いて、基体表面方向に幅50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(112)面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計することにより作成した。
表5、表6に、上記で求めた傾斜角度数分布グラフにおいて、度数全体に占める0〜10度の範囲内の傾斜角区分に存在する度数割合を示す。
図1に、一例として、本発明被覆工具1について作成した傾斜角度数分布グラフを示す。
具体的には、上記の改質TiCN層あるいはTiCN層の縦断面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記断面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、基体表面方向に幅50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、個々の結晶格子間の方位差(回転角)を個々の結晶格子のオイラー角の差から測定し、隣接する測定点の結晶格子間の方位差(回転角)が5度以上である場合に、相互に隣接する測定点の境界は結晶粒界であるとし、結晶粒界に囲まれ、他の結晶粒界に分断されていない範囲を同一の結晶粒として特定し、それぞれの結晶粒内方位差を測定し、得られた結晶粒内方位差を平均し、これをその結晶粒における結晶粒内平均方位差とした。
表5、表6に、上記で求めた結晶粒内平均方位差を示す。
これに対して、比較例被覆工具においては、(112)面傾斜角度分布割合は本発明被覆工具と同等であるが(傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の20〜80%の割合)、結晶粒の結晶粒内平均方位差が5度未満を示す結晶粒の面積割合が80%を超えて占め、または20%未満を占め、一方、結晶粒の結晶粒内平均方位差が5度以上を示す結晶粒の面積割合が20%未満を占め、または80%を超えて占めることを示した。
被削材:JIS・S30Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:360m/min、
切り込み:1.2mm、
送り:0.25mm/rev、
切削時間:6分、
の条件(切削条件A)での炭素鋼の湿式高速断続切削試験(通常の切削速度は、200m/min)、
被削材:JIS・SCM415の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:370m/min、
切り込み:2.0mm、
送り:0.25mm/rev、
切削時間:6分、
の条件(切削条件B)での合金鋼の湿式高速断続切削試験(通常の切削速度は、200m/min)、
被削材:JIS・FCD450の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:380m/min、
切り込み:2.5mm、
送り:0.3mm/rev、
切削時間:6分、
の条件(切削条件C)でのダクタイル鋳鉄の湿式高速断続切削試験(通常の切削速度は、180m/min)、
を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
この測定結果を表7に示した。
これに対して、比較例被覆工具1〜13については、いずれも、高速断続切削加工では硬質被覆層にチッピングが発生し、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
Claims (2)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層が、3〜20μmの合計平均層厚を有するTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ、その内の少なくとも1層は2〜20μmの平均層厚を有する改質Ti炭窒化物層からなるTi化合物層、
(b)上部層が、1〜15μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる表面被覆切削工具において、
(c)上記(a)の改質Ti炭窒化物層について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、縦断面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(112)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成した場合、0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の20〜80%の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示し、
(d)上記(a)の改質Ti炭窒化物層について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、縦断面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、個々の結晶格子間の方位差(回転角)を測定し、隣接する測定点の結晶格子間の方位差(回転角)が5度以上である場合に、相互に隣接する測定点の境界は結晶粒界であるとし、結晶粒界に囲まれ、他の結晶粒界に分断されていない範囲を同一の結晶粒として特定し、さらに、結晶粒個々の結晶粒内平均方位差を求めた場合、結晶粒の結晶粒内平均方位差が5度未満を示す結晶粒の面積割合が20〜80%を占め、一方、結晶粒の結晶粒内平均方位差が5度以上を示す結晶粒の面積割合が20〜80%を占めることを特徴とする表面被覆切削工具。 - 請求項1(c)に記載の結晶粒の結晶面である(112)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成し、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に存在する結晶粒の結晶粒内平均方位差の平均は5度未満を示し、一方、上記0〜10度の範囲を外れる傾斜角区分に存在する結晶粒の結晶粒内平均方位差の平均は5度以上を示すことを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
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