JP5176797B2 - 硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents
硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 Download PDFInfo
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Description
(a)下部層が、TiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層およびTiCNO層のうちの1層または2層以上からなり、かつ3〜20μmの全体平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層が、1〜15μmの平均層厚を有し、かつ化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有すると共に、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面および(10-10)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にAlおよび酸素からなる構成原子がそれぞれ存在するコランダム型六方最密晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(ただし、Nはコランダム型六方最密晶の結晶構造上2以上の偶数となるが、分布頻度の点からNの上限を28とした場合、4、8、14、24、および26の偶数は存在せず)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で現した場合、個々のΣN+1がΣN+1全体に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフにおいて、Σ3に最高ピークが存在し、かつ前記Σ3のΣN+1全体に占める分布割合が60〜80%である構成原子共有格子点分布グラフを示す改質α型Al2O3層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を蒸着形成してなる被覆工具(以下、従来被覆工具という)が知られており、この従来被覆工具は、改質α型Al2O3層がすぐれた高温強度を有することから、高速断続切削加工ですぐれた耐チッピング性を発揮することが知られている。
組成式:(Al1−XZrX)2O3、(ただし、原子比で、X:0.003〜0.05)、を満足すると共に、
電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面および(10-10)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にAl、Zr、および酸素からなる構成原子がそれぞれ存在するコランダム型六方最密晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(ただし、Nはコランダム型六方最密晶の結晶構造上2以上の偶数となるが、分布頻度の点からNの上限を28とした場合、4、8、14、24、および26の偶数は存在せず)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で現した場合、個々のΣN+1がΣN+1全体に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフにおいて、Σ3に最高ピークが存在し、かつ前記Σ3のΣN+1全体に占める分布割合が60〜80%である構成原子共有格子点分布グラフを示すAl−Zr複合酸化物層(以下、従来AlZrO層という)、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を蒸着形成してなる被覆工具も知られており、この被覆工具がやはりすぐれた耐チッピング性を発揮することも知られている。
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:6〜10%、CO2:10〜15%、HCl:3〜5%、H2S:0.05〜0.2%、H2:残り、
反応雰囲気温度:1020〜1050℃、
反応雰囲気圧力:3〜5kPa、
の条件で蒸着形成することができる。
そして、上記改質α型Al2O3層は、化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有し、すぐれた高温硬さおよび耐熱性を具備するとともに、Σ3の分布割合が高い構成原子共有格子点形態を有することによって、従来のα型Al2O3層自体が具備するすぐれた高温硬さと耐熱性に加えて、すぐれた高温強度を具備する。
しかし、硬質被覆層として、上記改質α型Al2O3層を備えた被覆工具を、高熱発生を伴い、かつ、切刃に対して高送り、高切込みによる高負荷が作用するような高速重切削加工に用いた場合には、上記改質α型Al2O3層は、その高温強度が不足するため、チッピングの発生を十分満足できる程度に防止することはできなかった。
まず、第1段階として、
(イ)反応ガス組成(容量%):
AlCl3: 6〜10 %、
ZrCl4: 0.1〜0.3 %、
CO2: 10〜15 %、
HCl: 3〜5 %、
H2S: 0.05〜0.2 %、
H2:残り、
(ロ)反応雰囲気温度; 1020〜1050 ℃、
(ハ)反応雰囲気圧力; 3〜5 kPa、
の条件で第1段階の蒸着を行った後、
次に、第2段階として、
(イ)反応ガス組成(容量%):
AlCl3: 6〜10 %、
ZrCl4: 0.6〜1.2 %、
CO2: 4〜8 %、
HCl: 3〜5 %、
H2S: 0.25〜0.6 %、
H2:残り、
(ロ)反応雰囲気温度; 920〜1000 ℃、
(ハ)反応雰囲気圧力; 6〜10 kPa、
の条件で蒸着を行うことにより、1〜15μmの平均層厚を有し、かつ、Al成分との合量に占めるZr成分の含有割合が0.002〜0.01(但し、原子比)を満足し、化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有しZr含有酸化アルミニウム層(以下、改質AlZrO層という)を形成することができる。
なお、前記改質AlZrO層の蒸着形成に際して、より限定した蒸着条件(例えば、第1段階における反応ガス中のH2Sを0.15〜0.2容量%、反応雰囲気温度を1020〜1030℃とし、さらに、第2段階における反応ガス中のZrCl4を0.6〜0.9容量%、H2Sを0.25〜0.4容量%、反応雰囲気温度を960〜980℃とした条件)で蒸着を行うと、図1(c)に示されるように、層厚方向に垂直な面内で見た場合に、大粒径の平坦六角形状であり、かつ、層厚方向に平行な面内で見た場合に、図1(b)に示されるのと同様、層表面はほぼ平坦であり、層厚方向にたて長形状を有する結晶粒が、層厚方向に垂直な面内において全体の35%以上の面積割合を占める組織構造が形成される。
この測定結果から、隣接する結晶格子相互の結晶方位関係を算出し、結晶格子界面を構成する構成原子のそれぞれが前記結晶格子相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(但し、Nはコランダム型六方最密晶の結晶構造上2以上の偶数となるが、分布頻度の点からNの上限を28とした場合、4、8、14、24および26の偶数は存在せず)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表した場合に、
図2に示されるように、電界放出型走査電子顕微鏡で観察される改質AlZrO層を構成する平板多角形たて長形状の結晶粒の内、面積比率で60%以上の上記結晶粒の内部は、少なくとも一つ以上の、Σ3で表される構成原子共有格子点形態からなる結晶格子界面(以下、Σ3対応界面という)で分断されている組織を示すようになる。
以上(a)〜(i)の研究結果を得たのである。
「(1) 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層が、いずれも化学蒸着形成された、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ、3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)中間層が、1〜5μmの平均層厚を有し、化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有する酸化アルミニウム層、
(c)上部層が、1〜15μmの平均層厚を有し、化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有するZr含有酸化アルミニウム層、
上記(a)〜(c)からなる硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
上記(b)の中間層は、
電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、六方晶結晶格子からなる結晶格子面のそれぞれの法線が基体表面の法線と交わる角度を測定し、この測定結果から、隣接する結晶格子相互の結晶方位関係を算出し、結晶格子界面を構成する構成原子のそれぞれが前記結晶格子相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(但し、Nはコランダム型六方最密晶の結晶構造上2以上の偶数となるが、分布頻度の点からNの上限を28とした場合、4、8、14、24および26の偶数は存在せず)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表した場合に、個々のΣN+1がΣN+1全体に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフにおいて、Σ3に最高ピークが存在し、かつ前記Σ3のΣN+1全体に占める分布割合が60%以上である構成原子共有格子点分布グラフを示す酸化アルミニウム層であり、
また、上記(c)の上部層は、
電界放出型走査電子顕微鏡で組織観察した場合に、層厚方向に垂直な面内で平板多角形状、また、層厚方向に平行な面内で層厚方向にたて長形状を有する結晶粒からなる組織構造を有するZr含有酸化アルミニウム層であり、
さらに、上記(c)の上部層について、
電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、六方晶結晶格子からなる結晶格子面のそれぞれの法線が基体表面の法線と交わる角度を測定し、この測定結果から、隣接する結晶格子相互の結晶方位関係を算出し、結晶格子界面を構成する構成原子のそれぞれが前記結晶格子相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(但し、Nはコランダム型六方最密晶の結晶構造上2以上の偶数となるが、分布頻度の点からNの上限を28とした場合、4、8、14、24および26の偶数は存在せず)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表した場合に、
上記(c)の上部層を構成する結晶粒の内、面積比率で60%以上の結晶粒の内部は、少なくとも一つ以上のΣ3で表される構成原子共有格子点形態からなる結晶格子界面(Σ3対応界面)により分断されているZr含有酸化アルミニウム層である、
ことを特徴とする表面被覆切削工具。
(2) 前記(c)の上部層を電界放出型走査電子顕微鏡で組織観察した場合に、層厚方向に垂直な面内で平坦六角形状、また、層厚方向に平行な面内で層厚方向にたて長形状を有する結晶粒が、層厚方向に垂直な面内において全体の35%以上の面積割合を占める前記(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3) 前記(c)の上部層について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用いて解析し構成原子共有格子点形態を求めた場合、Σ3で表される構成原子共有格子点形態からなる結晶格子界面が、全結晶格子界面の構成原子共有格子点分布グラフにおいて75%以上の分布割合を占める前記(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
(a)Ti化合物層(下部層)
Tiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの1層または2層以上からなるTi化合物層は、基本的には中間層である改質α型Al2O3層の下部層として存在し、自身の具備するすぐれた高温強度によって硬質被覆層の高温強度向上に寄与するほか、工具基体と改質α型Al2O3層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上にも寄与する作用を有するが、その合計平均層厚が3μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その合計平均層厚が20μmを越えると、特に断続的・衝撃的な高負荷が繰り返し作用する断続重切削条件では熱塑性変形を起し易くなり、これが偏摩耗の原因となることから、その合計平均層厚を3〜20μmと定めた。
下部層の上に化学蒸着された改質α型Al2O3層の構成原子共有格子点分布グラフにおけるΣ3の分布割合は、反応ガスを構成するAlCl3、CO2、およびHClの含有割合、さらに雰囲気反応圧力を調整することによって60%以上とすることができる。この場合Σ3の分布割合が60%未満では、高速重切削加工で、硬質被覆層にチッピングが発生しない、すぐれた高温強度向上効果を確保することができず、したがってΣ3の分布割合は高ければ高いほど望ましいが、Σ3の分布割合を80%を越えて高くすることは層形成上困難であることから、Σ3の分布割合は60%以上、実際上は60〜80%、と定めた。
改質α型Al2O3層は、従来のα型Al2O3層自体のもつすぐれた高温硬さと耐熱性に加えて、さらに一段とすぐれた高温強度を有するようになるが、その平均層厚が1μm未満では改質α型Al2O3層の有する前記の特性を硬質被覆層に十分に具備せしめることができず、一方その平均層厚が5μmを越えると、切削時に発生する高熱と高送り、高切込みによる高負荷によって、偏摩耗の原因となる熱塑性変形が発生し易くなり、摩耗が加速するようになることから、その平均層厚を1〜5μmと定めた。
中間層の上に化学蒸着された改質AlZrO層からなる上部層は、その構成成分であるAl成分が、層の高温硬さおよび耐熱性を向上させ、また、層中に微量(Alとの合量に占める割合で、Zr/(Al+Zr)が0.002〜0.01(但し、原子比))含有されたZr成分が、改質AlZrO層の結晶粒界面強度を向上させ、高温強度の向上に寄与するが、Zr成分の含有割合が0.002未満では、上記作用を期待することはできず、一方、Zr成分の含有割合が0.01を超えた場合には、層中にZrO2粒子が析出することによって粒界面強度が低下するため、Al成分との合量に占めるZr成分の含有割合(Zr/(Al+Zr)の比の値)は0.002〜0.01(但し、原子比)であることが望ましい。
即ち、まず、
(イ)反応ガス組成(容量%):
AlCl3: 6〜10 %、
ZrCl4: 0.1〜0.3 %、
CO2: 10〜15 %、
HCl: 3〜5 %、
H2S: 0.05〜0.2 %、
H2:残り、
(ロ)反応雰囲気温度; 1020〜1050 ℃、
(ハ)反応雰囲気圧力; 3〜5 kPa、
の条件で第1段階の蒸着を約1時間行った後、
次に、
(イ)反応ガス組成(容量%):
AlCl3: 6〜10 %、
ZrCl4: 0.6〜1.2 %、
CO2: 4〜8 %、
HCl: 3〜5 %、
H2S: 0.25〜0.6 %、
H2:残り、
(ロ)反応雰囲気温度; 920〜1000 ℃、
(ハ)反応雰囲気圧力; 6〜10 kPa、
の条件で第2段階の蒸着を行うことによって、1〜15μmの平均層厚の蒸着層を成膜すると、Zr/(Al+Zr)の比の値が原子比で0.002〜0.01である改質AlZrO層を形成することができる。
なお、従来AlZrO層では、その表面の結晶面が、該層の層厚方向に垂直な面内における結晶面(例えば、(0001))と異なった配向(例えば、(1−102)を有するため、(層厚方向に平行な面内で見た場合、)図3(b)に示されるように、層表面に角錐状の凹凸が存在し、これが故に、耐チッピング性の劣るものとなっている。
この測定結果から、隣接する結晶格子相互の結晶方位関係を算出し、結晶格子界面を構成する構成原子のそれぞれが前記結晶格子相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(但し、Nはコランダム型六方最密晶の結晶構造上2以上の偶数となるが、分布頻度の点からNの上限を28とした場合、4、8、14、24および26の偶数は存在せず)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表すと、
図2に示すように、電界放出型走査電子顕微鏡で観察される改質AlZrO層を構成する平板多角形たて長形状の結晶粒の内、上記平板多角形(平坦六角形を含む)たて長形状結晶粒の内、面積比率で60%以上の結晶粒の内部は、少なくとも一つ以上の、Σ3対応界面で分断されていることがわかる。
そして、改質AlZrO層の平板多角形(平坦六角形を含む)たて長形状結晶粒の内部に、上記のΣ3対応界面が存在することによって、結晶粒内強度の向上が図られ、その結果として、高速重切削加工時に改質AlZrO層中にクラックが発生することが抑えられ、また、仮にクラックが発生したとしても、クラックの成長・伝播が妨げられ、耐チッピング性、耐欠損性、耐剥離性の向上が図られる。
ただ、改質AlZrO層からなる上部層の層厚が1μm未満では、上記上部層のすぐれた特性を十分に発揮することができず、一方、上部層の層厚が15μmを超えると偏摩耗の原因となる熱塑性変形が発生しやすくなり、また、チッピングも発生しやすくなることから、上部層の平均層厚を1〜15μmと定めた。
また、結晶粒の構成原子共有格子点形態については、従来AlZrO層を構成する凹凸多角形たて長形状の結晶粒の内部にΣ3対応界面が存在する結晶粒の面積比率は40%以下と少なく、また、結晶粒界面についても、Σ3対応結晶粒界面は60〜80%の間で形成されているが、結晶粒内強度の向上が図られているとはいえなかった。
したがって、硬質被覆層の上部層が従来AlZrO層で構成された被覆工具(前記特許文献2に開示された被覆工具)は、高熱発生を伴うとともに、切刃に対して高負荷が作用する高速重切削加工において、チッピング、欠損、剥離等の発生を防止することはできず、また、熱塑性変形、偏摩耗等も発生し、工具性能は劣るものであった。
(a)まず、表3(表3中のl−TiCNは特開平6−8010号公報に記載される縦長成長結晶組織をもつTiCN層の形成条件を示すものであり、これ以外は通常の粒状結晶組織の形成条件を示すものである)に示される条件にて、表7に示される目標層厚のTi化合物層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成し、
(b)ついで、表4に示される条件にて、表7に示される目標層厚の改質α型Al2O3層を硬質被覆層の中間層として蒸着形成し、
(c)次に、表5に示される蒸着条件により、同じく表7に示される目標層厚の改質AlZrO層を硬質被覆層の上部層として蒸着形成することにより本発明被覆工具1〜15をそれぞれ製造した。
すなわち、改質α型Al2O3層について、まず、それぞれの表面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記表面研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、それぞれの前記表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、前記結晶粒の各結晶面のそれぞれの法線が基体表面の法線と交わる角度を測定し、この測定結果から、隣接する結晶格子相互の結晶方位関係を算出し、結晶格子界面を構成する構成原子のそれぞれが前記結晶格子相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(但し、Nはコランダム型六方最密晶の結晶構造上2以上の偶数となるが、分布頻度の点からNの上限を28とした場合、4、8、14、24および26の偶数は存在せず)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表した場合に、構成原子共有格子点分布グラフを作成し、個々のΣN+1がΣN+1全体に占める分布割合を求め、Σ3の値(分布割合)を表7、表8に示した。
なお、この発明でいう“表面”とは、基体表面に平行な面ばかりでなく、基体表面に対して傾斜する面、例えば、層の切断面、をも含む。
表7、表8から分かるように、本発明被覆工具1〜15、比較被覆工具1〜10および参考被覆工具11〜15のいずれについても、改質α型Al2O3層は、ΣN+1全体(上記の結果からΣ3、Σ7、Σ11、Σ13、Σ17、Σ19、Σ21、Σ23、およびΣ29のそれぞれの分布割合の合計)に占めるΣ3の分布割合は60%以上(60〜80%)である。
すなわち、まず、上記の本発明被覆工具1〜15の改質AlZrO層および参考被覆工具11〜15の従来AlZrO層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用いて観察したところ、本発明被覆工具1〜15では、図1(a)、(b)で代表的に示される平板多角形(平坦六角形を含む)状かつたて長形状の大きな粒径の結晶粒組織構造が観察された(なお、図1(a)は、層厚方向に垂直な面内で見た本発明被覆工具1の組織構造模式図、また、図1(c)は、層厚方向に垂直な面内で見た本発明被覆工具11の、平坦六角形状かつたて長形状の大きな粒径の結晶粒からなる組織構造模式図)。
一方、参考被覆工具11〜15では、図3(a)、(b)で代表的に示されるように、多角形状かつたて長形状の結晶粒組織が観察されたが、各結晶粒の粒径は本発明のものに比して小さく、かつ、図3(b)からも明らかなように、層表面には角錐状の凹凸が形成されていた(なお、図3(a)、(b)は、参考被覆工具11の組織構造模式図)。
まず、上記の本発明被覆工具1〜15の改質AlZrO層について、その表面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記表面研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、それぞれの前記表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、前記結晶粒の各結晶格子面のそれぞれの法線が基体表面の法線と交わる角度を測定し、この測定結果から、隣接する結晶格子相互の結晶方位関係を算出し、結晶格子界面を構成する構成原子のそれぞれが前記結晶格子相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(但し、Nはコランダム型六方最密晶の結晶構造上2以上の偶数となるが、分布頻度の点からNの上限を28とした場合、4、8、14、24および26の偶数は存在せず)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表した場合に、改質AlZrO層の測定範囲内に存在する全結晶粒のうちで、結晶粒の内部に、少なくとも一つ以上のΣ3対応界面が存在する結晶粒の面積比率を求め、その値を、Σ3対応界面割合(%)として表7に示した。
次に、参考被覆工具11〜15の従来AlZrO層についても、本発明被覆工具の場合と同様な方法により、従来AlZrO層の測定範囲内に存在する全結晶粒のうちで、結晶粒の内部に、少なくとも一つ以上のΣ3対応界面が存在する結晶粒の面積比率を求め、その値を、Σ3対応界面割合(%)として表8に示した。
すなわち、改質AlZrO層、従来AlZrO層について、まず、それぞれの表面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記表面研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、それぞれの前記表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、前記結晶粒の各結晶面のそれぞれの法線が基体表面の法線と交わる角度を測定し、この測定結果から、隣接する結晶粒相互の結晶方位関係を算出し、結晶粒界面を構成する構成原子のそれぞれが前記結晶粒界面相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(但し、Nはコランダム型六方最密晶の結晶構造上2以上の偶数となるが、分布頻度の点からNの上限を28とした場合、4、8、14、24および26の偶数は存在せず)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表した場合に、構成原子共有格子点分布グラフを作成し、個々のΣN+1がΣN+1全体に占める分布割合を求め、結晶格子界面のΣ3の分布割合を、Σ3対応界面割合(%)として表7、表8に示した。
表7、表8から分かるように、本発明被覆工具1〜15の改質AlZrO層においては、Σ3対応界面割合は75%以上であるのに対して、参考被覆工具11〜15の従来AlZrO層では、いくつか、Σ3対応界面割合は75%以下となっており、結晶粒相互の界面にΣ3対応界面が存在する率の下限値が小さいことがわかる。
なお、ここで言う「大粒径の平坦六角形状」の結晶粒とは、
「電界放出型走査電子顕微鏡により観察される層厚方向に垂直な面内に存在する粒子の直径を計測し、10粒子の平均値が3〜8μmであり、頂点の角度が100〜140°である頂角を6個有する多角形状である。」
と定義する。
被削材:JIS・S30Cの丸棒、
切削速度: 450 m/min.、
切り込み: 2.5 mm、
送り: 0.7 mm/rev.、
切削時間: 8 分、
の条件(切削条件Aという)での炭素鋼の乾式高速連続重切削試験(通常の切削速度、送り量および切込み量は、それぞれ、250m/min.,0.2mm/rev.,1.5mm)、
被削材:JIS・SCr420Hの丸棒、
切削速度: 430 m/min.、
切り込み: 5 mm、
送り: 0.35 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件Bという)でのクロム鋼(熱処理あり)の乾式高速連続重切削試験(通常の切削速度、送り量および切込み量は、それぞれ、250m/min.,0.2mm/rev.,1.5mm)、
被削材:JIS・FC250の丸棒、
切削速度: 550 m/min.、
切り込み: 6.0 mm、
送り: 0.45 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件Cという)での鋳鉄の湿式高速連続重切削試験(通常の切削速度、送り量および切込み量は、それぞれ、400m/min.,0.3mm/rev.,2.5mm)、
を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表9に示した。
これに対して、硬質被覆層の上部層として改質AlZrO層が形成されていない比較被覆工具1〜10および硬質被覆層の上部層として従来AlZrO層が形成された参考被覆工具11〜15においては、チッピング発生、摩耗促進等によって、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
Claims (3)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層が、いずれも化学蒸着形成された、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ、3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)中間層が、1〜5μmの平均層厚を有し、化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有する酸化アルミニウム層、
(c)上部層が、1〜15μmの平均層厚を有し、化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有するZr含有酸化アルミニウム層、
上記(a)〜(c)からなる硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
上記(b)の中間層は、
電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、六方晶結晶格子からなる結晶格子面のそれぞれの法線が基体表面の法線と交わる角度を測定し、この測定結果から、隣接する結晶格子相互の結晶方位関係を算出し、結晶格子界面を構成する構成原子のそれぞれが前記結晶格子相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(但し、Nはコランダム型六方最密晶の結晶構造上2以上の偶数となるが、分布頻度の点からNの上限を28とした場合、4、8、14、24および26の偶数は存在せず)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表した場合に、個々のΣN+1がΣN+1全体に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフにおいて、Σ3に最高ピークが存在し、かつ前記Σ3のΣN+1全体に占める分布割合が60%以上である構成原子共有格子点分布グラフを示す酸化アルミニウム層であり、
また、上記(c)の上部層は、
電界放出型走査電子顕微鏡で組織観察した場合に、層厚方向に垂直な面内で平板多角形状、また、層厚方向に平行な面内で層厚方向にたて長形状を有する結晶粒からなる組織構造を有するZr含有酸化アルミニウム層であり、
さらに、上記(c)の上部層について、
電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、六方晶結晶格子からなる結晶格子面のそれぞれの法線が基体表面の法線と交わる角度を測定し、この測定結果から、隣接する結晶格子相互の結晶方位関係を算出し、結晶格子界面を構成する構成原子のそれぞれが前記結晶格子相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(但し、Nはコランダム型六方最密晶の結晶構造上2以上の偶数となるが、分布頻度の点からNの上限を28とした場合、4、8、14、24および26の偶数は存在せず)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表した場合に、
上記(c)の上部層を構成する結晶粒の内、面積比率で60%以上の結晶粒の内部は、少なくとも一つ以上のΣ3で表される構成原子共有格子点形態からなる結晶格子界面により分断されているZr含有酸化アルミニウム層である、
ことを特徴とする表面被覆切削工具。 - 前記(c)の上部層を電界放出型走査電子顕微鏡で組織観察した場合に、層厚方向に垂直な面内で平坦六角形状、また、層厚方向に平行な面内で層厚方向にたて長形状を有する結晶粒が、層厚方向に垂直な面内において全体の35%以上の面積割合を占める請求項1に記載の表面被覆切削工具。
- 前記(c)の上部層について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用いて解析し構成原子共有格子点形態を求めた場合、Σ3で表される構成原子共有格子点形態からなる結晶格子界面が、全結晶格子界面の構成原子共有格子点分布グラフにおいて75%以上の分布割合を占める請求項1または請求項2に記載の表面被覆切削工具。
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