JP5286931B2 - 高速重切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性と耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents
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Description
(a)いずれも化学蒸着形成された、Tiの炭化物層(以下、TiC層という)、窒化物層(以下、TiN層という)、炭酸化物層(以下、TiCO層という)、および炭窒酸化物層(以下、TiCNO層という)のうちの1層以上からなり、かつ0.1〜5μmの合計平均層厚を有する密着性Ti化合物層と、2.5〜15μmの平均層厚を有する炭窒化チタン層(以下、改質TiCN層という)からなる下部層、
(b)1〜15μmの平均層厚を有し、かつ化学蒸着形成された状態でα型の結晶構造を有するα型酸化アルミニウム層(以下、従来Al2O3層という)からなる上部層、
以上(a)および(b)で構成し、かつ、
上記(a)の下部層における改質TiCN層は、
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にTi、炭素、および窒素からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(NはNaCl型面心立方晶の結晶構造上2以上の偶数となる)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で現した場合、個々のΣN+1がΣN+1全体(ただし、頻度の関係で上限値を28とする)に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフにおいて、Σ3に最高ピークが存在し、かつ前記Σ3のΣN+1全体に占める分布割合が60%以上である構成原子共有格子点分布グラフ、を示し、さらに、
上記(b)の従来Al2O3層は、
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面および(10-10)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にAlおよび酸素からなる構成原子がそれぞれ存在するコランダム型六方最密晶の結晶構造(図3参照)を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(ただし、Nはコランダム型六方最密晶の結晶構造上2以上の偶数となるが、分布頻度の点からNの上限を28とした場合、4、8、14、24、および26の偶数は存在せず)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で現した場合、個々のΣN+1がΣN+1全体に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフにおいて、Σ3に最高ピークが存在し、かつ前記Σ3のΣN+1全体に占める分布割合が60%以上である構成原子共有格子点分布グラフ、
を示す被覆工具(以下、従来被覆工具という)が知られており、この従来被覆工具を、高硬度鋼の高速断続切削に用いた場合、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を示すことが知られている。
また、WC基超硬合金またはTiCN基サーメットで構成された工具基体の表面に、硬質被覆層として、Ti化合物層からなる下部層およびα型酸化アルミニウム層からなる上部層を備えた被覆工具において、その上部層であるα型酸化アルミニウム層の機械的、熱的耐衝撃性を改善するために、Σ3の分布割合が60〜80%である構成原子共有格子点分布グラフを示し、微量のZrを含有するα型の結晶構造を有する(Al,Zr)2O3層で上部層を構成することも知られている。
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:6〜10%、CO2:10〜15%、HCl:3〜5%、H2S:0.05〜0.2%、H2:残り、
反応雰囲気温度:1020〜1050℃、
反応雰囲気圧力:3〜5kPa、
の条件(従来条件という)で蒸着形成するが、
密着性Ti化合物層および改質TiCN層を下部層とし、この上に、例えば、通常の化学蒸着装置にて、まず、
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:2.3〜4%、ZrCl4:0.02〜0.13%、CO2:1〜5%、HCl:1.5〜3%、H2S:0.05〜0.2%、H2:残り、
反応雰囲気温度:750〜900℃、
反応雰囲気圧力:6〜10kPa、
の条件で、
組成式:(Al1−XZrX)2O3、(ただし、原子比で、X:0.0005〜0.01)を満足するAl−Zr複合酸化物核(以下、(Al,Zr)2O3核で示す)を形成し、この場合前記(Al,Zr)2O3核は20〜200nm(0.02〜0.2μm)の平均層厚を有する(Al,Zr)2O3核薄膜であるのが望ましく、
引き続いて、加熱雰囲気を圧力:3〜13kPaの水素雰囲気に変え、かつ加熱雰囲気温度を1100〜1200℃に昇温した条件で前記(Al,Zr)2O3核薄膜に加熱処理を施した状態で、
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:2.3〜4%、ZrCl4:0.02〜0.13%、CO2:3〜8%、HCl:1.5〜3%、H2S:0.05〜0.2%、H2:残り、
反応雰囲気温度:1020〜1050℃、
反応雰囲気圧力:6〜10kPa、
の条件で、同じく組成式:(Al1−XZrX)2O3、(ただし、原子比で、X:0.0005〜0.01)を満足する(Al,Zr)2O3層を形成すると、
この結果の前記加熱処理(Al,Zr)2O3核薄膜上に蒸着形成された(Al,Zr)2O3層(以下、改質(Al,Zr)2O3層という)は、化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有し、かつ、高温強度と高温硬さが一段と向上し、さらに、下部層との層間付着強度も一段と向上するため、上部層と下部層間での層間剥離の発生を防止し得るようになり、その結果、すぐれた耐チッピング性と耐摩耗性を具備するようになること。
反応ガス組成:容量%で、TiCl4:0.1〜0.8%、CH3CN:0.05〜0.3%、Ar:10〜30%、H2:残り、
反応雰囲気温度:930〜1000℃、
反応雰囲気圧力:6〜20kPa、
の条件で形成することができるが、この改質TiCN層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、図2(a),(b)に概略説明図で例示される通り、皮膜断面研磨面の測定範囲内に存在する面心立方晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角(図2(a)には前記結晶面のうち(001)面の傾斜角が0度、(011)面の傾斜角が45度の場合、同(b)には(001)面の傾斜角が45度、(011)面の傾斜角が0度の場合を示しているが、これらの角度を含めて前記結晶粒個々のすべての傾斜角)を測定し、この場合前記結晶粒は、図1(a),(b)に示される通り、格子点にTi、炭素、および窒素からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(NはNaCl型面心立方晶の結晶構造上2以上の偶数となる)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で現し、個々のΣN+1がΣN+1全体(ただし、頻度の関係でNの上限値を28とする)に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフを作成した場合、Σ3の分布割合(比率)は60%以上のきわめて高い構成原子共有格子点分布グラフを示すこと。
さらに、改質(Al,Zr)2O3層からなる上部層についても、上記と同様、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、図4(a),(b)に概略説明図で例示される通り、皮膜断面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面および(10−10)面の法線がなす傾斜角(図4(a)には前記結晶面の傾斜角が0度の場合、同(b)には傾斜角が45度の場合を示しているが、これらの角度を含めて前記結晶粒個々のすべての傾斜角)を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にAl、Zrおよび酸素からなる構成原子がそれぞれ存在するコランダム型六方最密晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、それぞれ隣接する結晶粒相互間で前記(0001)面の法線同士および(10−10)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を結晶粒界であると定義し、そして、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)間に構成原子を共有しない格子点が2個存在する構成原子共有格子点形態を有する結晶粒界であって、かつ、下部層との界面に臨んで存在する結晶粒界(以下、上部層Σ3対応粒界という)の数と位置を測定した時、
下部層と上部層との界面で、上部層との界面に臨んで存在する下部層Σ3対応粒界のうちの30〜70%の割合の下部層Σ3対応粒界に対して、上部層Σ3対応粒界が連続する結晶粒界として形成されている結晶粒界構造を有し(図5(a)参照)、上部層と下部層の層間付着強度が著しく向上すること。
つまり、上部層である改質(Al,Zr)2O3層に隣接して、改質TiCN層上に(Ti,Al,Zr)CNO層が形成されている場合には、改質TiCN層の上記(Ti,Al,Zr)CNO層との界面に形成されたΣ3対応粒界は、そのまま上記(Ti,Al,Zr)CNO層に引き継がれる。
したがって、上記改質TiCN層上に直接上部層を蒸着形成するのではなく、改質TiCN層表面に、上記TiCN層、TiCO層、TiCNO層、(Ti,Al,Zr)CNO層等のいずれか一層以上からなるTi化合物層の薄層を蒸着形成し、この薄層を介して上部層を蒸着形成した場合であっても、下部層と上部層との界面で、上部層との界面に臨んで存在する下部層Σ3対応粒界のうちの30〜70%の割合の下部層Σ3対応粒界に対して、上部層Σ3対応粒界が連続する結晶粒界として形成される場合には、下部層と上部層間での層間付着強度が向上するため下部層と上部層間での層間剥離の発生を防止し得るようになり、その結果、すぐれた耐チッピング性を発揮するようになること。
「(1) 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、炭窒酸化物層およびTiとAlとZrの複合炭窒酸化物層のうちの少なくとも1層以上からなり、化学蒸着形成された密着性Ti化合物層と、2〜15μmの平均層厚を有し、化学蒸着形成された改質炭窒化チタン層とからなる下部層、
(b)1〜15μmの平均層厚を有し、化学蒸着形成された状態でα型の結晶構造を有し、さらに、
組成式:(Al1−XZrX)2O3
で表した場合、0.0005≦X≦0.01(但し、原子比)を満足する改質(Al,Zr)2O3層からなる上部層、
上記(a)、(b)からなる硬質被覆層を形成した表面被覆切削工具において、
上記(a)の下部層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、皮膜断面研磨面の測定範囲内に存在する面心立方晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、NaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士および(011)面の法線同士の交わる角度を求め、前記(001)面の法線同士および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を結晶粒界であるとし、そして、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点が2個存在する構成原子共有格子点形態をΣ3で表し、上部層との界面に臨んで存在する下部層Σ3対応粒界の数と位置を測定し、
さらに、上記(b)の上部層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、皮膜断面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面および(10−10)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にAl、Zrおよび酸素からなる構成原子がそれぞれ存在するコランダム型六方最密晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(0001)面の法線同士および(10−10)面の法線同士の交わる角度を求め、前記(0001)面の法線同士および(10−10)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を結晶粒界であるとし、そして、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点が2個存在する構成原子共有格子点形態をΣ3で表し、下部層との界面に臨んで存在する上部層Σ3対応結晶粒界の数と位置を測定した場合に、
下部層と上部層との界面で、上部層との界面に臨んで存在する下部層Σ3対応粒界のうちの30〜70%の割合の下部層Σ3対応粒界に対して、上部層Σ3対応粒界が連続する結晶粒界として形成されていることを特徴とする表面被覆切削工具。
(2) 下部層と上部層との界面から、少なくとも基体表面側に1μmまでの深さ領域にわたる下部層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、皮膜断面研磨面の測定範囲内に存在する面心立方晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、NaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士および(011)面の法線同士の交わる角度を求め、前記(001)面の法線同士および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を結晶粒界であるとし、そして、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(ただし、頻度の点からNの上限を28とする)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表し、個々のΣN+1がΣN+1全体に占める比率を求めた場合、上記領域におけるΣ3のΣN+1全体に占める比率は60%以上である前記(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3) 上部層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、皮膜断面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面および(10−10)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にAl、Zrおよび酸素からなる構成原子がそれぞれ存在するコランダム型六方最密晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(0001)面の法線同士および(10−10)面の法線同士の交わる角度を求め、前記(0001)面の法線同士および(10−10)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を結晶粒界であるとし、そして、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(ただし、Nはコランダム型六方最密晶の結晶構造上2以上の偶数となるが、分布頻度の点からNの上限を28とした場合、4、8、14、24および26の偶数は存在せず)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表し、個々のΣN+1がΣN+1全体に占める比率を求めた場合、上部層におけるΣ3のΣN+1全体に占める比率は60%以上である前記(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
Tiの炭化物(TiC)層、窒化物(TiN)層、炭窒化物(TiCN)層、炭酸化物(TiCO)層、炭窒酸化物(TiCNO)層およびTiとAlとZrの複合炭窒酸化物((Ti,Al,Zr)CNO)層のうちの少なくとも1層以上からなる密着性Ti化合物層は、工具基体と上部層である改質(Al,Zr)2O3層、さらに下部層の構成層の一つである改質TiCN層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用をもつ。
下部層を構成する一つの層である改質TiCN層は、通常の化学蒸着装置で、例えば、
反応ガス組成:容量%で、TiCl4:0.1〜0.8%、CH3CN:0.05〜0.3%、Ar:10〜30%、H2:残り、
反応雰囲気温度:930〜1000℃、
反応雰囲気圧力:6〜20kPa、
の条件で化学蒸着することによって形成することができる。
そして、このような条件で形成された改質TiCN層には、特定の構成原子共有格子点形態を示すΣ3が高い比率で形成される。
なお、Σ3の比率は、化学蒸着時の反応ガス中のTiCl4、CH3CN、Ar含有量、さらに雰囲気反応温度等を調整することによって60%以上とすることができるが、鋼や鋳鉄などの高速重切削加工で、下部層にすぐれた高温強度を付与するためには、Σ3の比率は60%以上とすることが望ましい。
反応ガス組成:容量%で、TiCl4:2〜4%、AlCl3:0.1〜0.5%、ZrCl4:0.1〜0.5%、CO2:0.02〜0.05%、N2:15〜20%、H2:残り、
反応雰囲気温度: 980〜1020 ℃、
反応雰囲気圧力: 5〜8 kPa、
の条件で蒸着形成することができるが、改質TiCN層と上部層間に介在して(Ti,Al,Zr)CNO層が存在する下部層構造においても、上記(Ti,Al,Zr)CNO層は改質TiCN層のΣ3対応粒界構造を引き継いでいるため、上記(Ti,Al,Zr)CNO層の、上部層との界面に臨んで存在する下部層Σ3対応粒界のうちの30〜70%の割合の下部層Σ3対応粒界が、上部層Σ3対応粒界と連続する結晶粒界を形成していれば、上部層と下部層間でより一層すぐれた層間付着強度が確保される。
また、密着性Ti化合物層と改質TiCN層からなる下部層の合計平均層厚が3μm未満では、所定の耐摩耗性を確保することができず、一方、合計平均層が20μmを超えると、急激に耐チッピング性が低下するようになることから、下部層の合計平均層厚は3〜20μmとすることが望ましい。
上部層の改質(Al,Zr)2O3層は、密着性Ti化合物層、改質TiCN層を下部層とし、この上に、例えば、通常の化学蒸着装置にて、
まず、
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:2.3〜4%、ZrCl4:0.02〜0.13%、CO2:1〜5%、HCl:1.5〜3%、H2S:0.05〜0.2%、H2:残り、
反応雰囲気温度:750〜900℃、
反応雰囲気圧力:6〜10kPa、
の条件で、
組成式:(Al1−XZrX)2O3、(ただし、原子比で、X:0.0005〜0.01)を満足する20〜200nm(0.02〜0.2μm)の平均層厚を有する(Al,Zr)2O3核薄膜を形成し、
引き続いて、加熱雰囲気を圧力:3〜13kPaの水素雰囲気に変え、かつ加熱雰囲気温度を1100〜1200℃に昇温した条件で前記(Al,Zr)2O3核薄膜に加熱処理を施した状態で、
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:2.3〜4%、ZrCl4:0.02〜0.13%、CO2:3〜8%、HCl:1.5〜3%、H2S:0.05〜0.2%、H2:残り、
反応雰囲気温度:1020〜1050℃、
反応雰囲気圧力:6〜10kPa、
の条件で、同じく組成式:(Al1−XZrX)2O3、(ただし、原子比で、X:0.0005〜0.01)を満足する(Al,Zr)2O3層を形成すると、
前記加熱処理(Al,Zr)2O3核薄膜上に改質(Al,Zr)2O3層が蒸着形成される。
ここで、上記改質(Al,Zr)2O3層において、Alとの合量に占めるZrの含有割合X(ただし、原子比)が0.0005未満であると、上部層と下部層のΣ3対応粒界の連続割合が30%未満となり、一方、Zrの含有割合Xが0.01を超えると、上記改質(Al,Zr)2O3層のΣ3対応粒界比率が60%未満となるから、Alとの合量に占めるZrの含有割合Xは0.0005〜0.01であることが必要である。
また、電界放出型走査電子顕微鏡を用いた測定によれば、上部層と下部層間での層間付着強度の向上は、上部層(改質(Al,Zr)2O3層)と下部層(上部層に隣接して存在する改質TiCN層または密着性Ti化合物層)との界面で形成されるΣ3対応粒界の結晶粒界構造の連続性によってもたらされ、上部層Σ3対応粒界が、上部層との界面に臨んで存在する下部層Σ3対応粒界のうちの30〜70%の割合の下部層Σ3対応粒界と連続する結晶粒界を形成していない場合には、層間付着強度の向上を確保することができず(30%未満の場合)、あるいは、下部層と上部層のそれぞれの層における残留応力のギャップが大きくなりすぎて、層間付着強度が低下傾向を示す(70%を超える場合)ようになる。
次に、改質(Al,Zr)2O3層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、図4(a),(b)に概略説明図で例示される通り、皮膜断面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面および(10−10)面の法線がなす傾斜角(図4(a)には前記結晶面の傾斜角が0度の場合、同(b)には傾斜角が45度の場合を示しているが、これらの角度を含めて前記結晶粒個々のすべての傾斜角)を測定し、この場合前記結晶粒は、上記の通り格子点にAl、Zrおよび酸素からなる構成原子がそれぞれ存在するコランダム型六方最密晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、前記(0001)面の法線同士および(10−10)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を結晶粒界であると定義し、相互に隣接する結晶粒界で、構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を求め、構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点が2個存在する構成原子共有格子点形態をΣ3で表した場合、改質(Al,Zr)2O3層に形成されているΣ3の構成原子共有格子点形態を有する結晶粒界であって、かつ、下部層との界面に臨んで存在する結晶粒界(上部層Σ3対応粒界)の数と位置を求める。
そして、前記下部層について特定した下部層Σ3対応粒界の位置と、改質(Al,Zr)2O3層について求めた上部層Σ3対応粒界の位置とをつき合わせ、上部層と下部層の界面で、上部層との界面に臨んで存在する下部層Σ3対応粒界のうちの30〜70%が、上部層Σ3対応粒界と連続する結晶粒界を形成している結晶粒界構造を備える場合(図5(a)参照)には、上部層はすぐれた高温硬さ、高温強度および耐熱性を有するばかりか、上部層(改質(Al,Zr)2O3層)と下部層との層間付着強度が著しく向上する。
しかし、上部層Σ3対応粒界と連続して形成されている下部層Σ3対応粒界が、全下部層Σ3対応粒界のうちの30%未満にすぎないような場合(図5(b)参照)、あるいは、70%を超えるような場合には、下部層と上部層での結晶粒界の連続性が少ないため、層間付着強度の向上を確保することができず、あるいは、下部層と上部層での結晶粒界の連続性が多すぎるために下部層と上部層のそれぞれの層における残留応力のギャップが大きくなりすぎて、層間付着強度が低下傾向を示すようになるため、上部層との界面に臨んで存在する下部層Σ3対応粒界のうちの30〜70%が、上部層Σ3対応粒界と連続する結晶粒界を形成していることが必要である。
すなわち、上記構成原子共有格子点分布グラフは、上部層に隣接して存在する改質TiCN層、密着性Ti化合物層と、改質(Al,Zr)2O3層および従来Al2O3層の、例えば、基体表面に対し垂直な切断断面を皮膜断面研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、前記断面研磨面の法線に対して、前記改質TiCN層、密着性Ti化合物層については結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面、前記改質(Al,Zr)2O3層および従来Al2O3層については、結晶粒の結晶面である(0001)面および(10−10)面の法線がなす傾斜角をそれぞれ測定し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(この場合、改質TiCN層、密着性Ti化合物層に関しては、NはNaCl型面心立方晶の結晶構造上2以上の偶数となり、一方前記改質(Al,Zr)2O3層および従来Al2O3層については、Nはコランダム型六方最密晶の結晶構造上2以上の偶数となるが、分布頻度の点からNの上限を28とした場合、4、8、14、24、および26の偶数は存在しないことになる)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表した場合、個々のΣN+1がΣN+1全体に占める分布割合を求めることにより作成した。これらの値を、表6、7に示す。
次に、上部層との界面に臨んで存在する下部層Σ3対応粒界の数と位置については、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士および(011)面の法線同士の交わる角度を求め、この測定傾斜角に基づいて、前記(001)面の法線同士および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を結晶粒界であるとして、上部層との界面に臨んで存在する全ての下部層Σ3対応粒界の数と位置を求めた。
また、上部層Σ3対応粒界の数および位置については、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(0001)面の法線同士および(10−10)面の法線同士の交わる角度を求め、この測定傾斜角に基づいて、前記(0001)面の法線同士および(10−10)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を結晶粒界であるとして、下部層との界面に臨んで存在する全ての上部層Σ3対応粒界の数と位置を求めた。
そして、上記の通り求めた上部層との界面に臨んで存在する下部層Σ3対応粒界について、下部層との界面に臨んで存在する上部層Σ3対応粒界の位置と対応させ、上部層と下部層との界面において、上部層Σ3対応粒界と連続した結晶粒界を形成している下部層Σ3対応粒界の、全ての下部層Σ3対応粒界に占める割合(数)を求めた。この値を表6、7に、Σ3対応粒界連続割合(%)として示す。
なお、下部層のΣ3比率は、下部層と上部層との界面から、基体表面側に1μmまでの深さ領域にわたって求めたΣ3の比率の平均値であり、上部層のΣ3比率は、上部層全体にわたって求めたΣ3の比率の平均値である。
一方、同じく表6、7に示されるように、上部層Σ3対応粒界と連続した結晶粒界を形成している下部層Σ3対応粒界の、全ての下部層Σ3対応粒界に占める割合をあらわすΣ3対応粒界連続割合については、本発明被覆工具においては、30〜70%の範囲を示しており、その結果、すぐれた層間付着強度を有するのに対して、従来被覆工具においては、その値が30%未満の値となっているため層間付着強度が不満足なものとなっている。
被削材:JIS・SS400の丸棒、
切削速度: 480 m/min、
切り込み: 4.5 mm、
送り: 0.8 mm/rev、
切削時間: 10 分、
の条件(切削条件A)での軟鋼の乾式高速連続高切込み・高送り切削試験(通常の切削速度、切り込みおよび送りは、それぞれ、300m/min、1.5mm、0.3mm/rev)、
被削材:JIS・SCr420Hの丸棒、
切削速度: 450 m/min、
切り込み: 1.7 mm、
送り: 0.6 mm/rev、
切削時間: 10 分、
の条件(切削条件B)での合金鋼の乾式高速高送り切削試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、280m/min、0.25mm/rev)、
被削材:JIS・FC250の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 400 m/min、
切り込み: 1.7 mm、
送り: 0.6 mm/rev、
切削時間: 10 分、
の条件(切削条件C)での鋳鉄の湿式高速断続高送り切削試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、230m/min、0.3mm/rev)、
を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
この測定結果を表7に示した。
これに対して、硬質被覆層の上部層が従来Al2O3層で構成された従来被覆工具1〜13においては、上部層と下部層の層間付着強度が不十分であり、また、上部層の高温硬さも十分でないため、高速重切削加工で作用する高温下での高負荷により、硬質被覆層に剥離、チッピング等が発生し、また、耐摩耗性も不足し、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
Claims (3)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、炭窒酸化物層およびTiとAlとZrの複合炭窒酸化物層のうちの少なくとも1層以上からなり、化学蒸着形成された密着性Ti化合物層と、2〜15μmの平均層厚を有し、化学蒸着形成された改質炭窒化チタン層とからなる下部層、
(b)1〜15μmの平均層厚を有し、化学蒸着形成された状態でα型の結晶構造を有し、さらに、
組成式:(Al1−XZrX)2O3
で表した場合、0.0005≦X≦0.01(但し、原子比)を満足する改質(Al,Zr)2O3層からなる上部層、
上記(a)、(b)からなる硬質被覆層を形成した表面被覆切削工具において、
上記(a)の下部層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、皮膜断面研磨面の測定範囲内に存在する面心立方晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、NaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士および(011)面の法線同士の交わる角度を求め、前記(001)面の法線同士および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を結晶粒界であるとし、そして、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点が2個存在する構成原子共有格子点形態をΣ3で表し、上部層との界面に臨んで存在する下部層Σ3対応粒界の数と位置を測定し、
さらに、上記(b)の上部層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、皮膜断面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面および(10−10)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にAl、Zrおよび酸素からなる構成原子がそれぞれ存在するコランダム型六方最密晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(0001)面の法線同士および(10−10)面の法線同士の交わる角度を求め、前記(0001)面の法線同士および(10−10)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を結晶粒界であるとし、そして、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点が2個存在する構成原子共有格子点形態をΣ3で表し、下部層との界面に臨んで存在する上部層Σ3対応結晶粒界の数と位置を測定した場合に、
下部層と上部層との界面で、上部層との界面に臨んで存在する下部層Σ3対応粒界のうちの30〜70%の割合の下部層Σ3対応粒界に対して、上部層Σ3対応粒界が連続する結晶粒界として形成されていることを特徴とする表面被覆切削工具。 - 下部層と上部層との界面から、少なくとも基体表面側に1μmまでの深さ領域にわたる下部層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、皮膜断面研磨面の測定範囲内に存在する面心立方晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、NaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士および(011)面の法線同士の交わる角度を求め、前記(001)面の法線同士および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を結晶粒界であるとし、そして、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(ただし、頻度の点からNの上限を28とする)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表し、個々のΣN+1がΣN+1全体に占める比率を求めた場合、上記領域におけるΣ3のΣN+1全体に占める比率は60%以上である請求項1に記載の表面被覆切削工具。
- 上部層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、皮膜断面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面および(10−10)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にAl、Zrおよび酸素からなる構成原子がそれぞれ存在するコランダム型六方最密晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(0001)面の法線同士および(10−10)面の法線同士の交わる角度を求め、前記(0001)面の法線同士および(10−10)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を結晶粒界であるとし、そして、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(ただし、Nはコランダム型六方最密晶の結晶構造上2以上の偶数となるが、分布頻度の点からNの上限を28とした場合、4、8、14、24および26の偶数は存在せず)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表し、個々のΣN+1がΣN+1全体に占める比率を求めた場合、上部層におけるΣ3のΣN+1全体に占める比率は60%以上である請求項1または2に記載の表面被覆切削工具。
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