JP5088477B2 - 表面被覆切削工具 - Google Patents
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Description
硬質被覆層として、炭化チタン(以下、TiCで示す)、窒化チタン(以下、TiNで示す)、炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)、炭酸化チタン(以下、TiCOで示す)、窒酸化チタン(以下、TiNOで示す)、炭窒酸化チタン(以下、TiCNOで示す)等のTi化合物層、TiとZrの複合炭窒化物層(以下、(Ti,Zr)CN層で示す)、TiとZrの複合炭窒酸化物層(以下、(Ti,Zr)CNO層で示す)、Zrの炭窒化物層(以下、ZrCN層で示す)、アルミニウムの酸化物(Al2O3)層を蒸着形成した被覆工具が知られており、この被覆工具が、例えば各種の炭素鋼や合金鋼などの連続切削に用いられ、すぐれた耐酸化性、耐クラック性を示すことが知られている。
(a)従来被覆工具の硬質被覆層のTi化合物層を構成するTiCNO(以下、従来TiCNOという)層は、例えば、通常の化学蒸着装置にて、
反応ガス組成:容量%で、TiCl4:2〜10%、CO:1〜5%、CH4:0.1〜5%、N2:5〜30%、H2:残り、
反応雰囲気温度:950〜1050℃、
反応雰囲気圧力:6〜25kPa、
の条件(通常条件という)で蒸着形成されるが、
この蒸着条件を変更し、
反応ガス組成:容量%で、TiCl4:2〜10%、CO:1〜5%、N2:50〜60%、H2:残り、
反応雰囲気温度:850〜900℃、
反応雰囲気圧力:10〜22kPa、
の条件、即ち、通常条件に比して、メタン無添加の高窒素ガス組成かつ低温の蒸着条件で目標層厚(1〜8μm)になるまで蒸着形成すると、このような条件で蒸着形成されたTiCNO(以下、「改質TiCNO」という)層は、高温強度が一段と向上し、切削加工時、断続的かつ繰り返しかかる機械的衝撃に起因するチッピング発生を防止することができ、さらに、耐熱性も向上し、切削時に発生する高熱によって切刃部が過熱されても耐熱塑性変形にすぐれ、偏摩耗の発生が抑制されるので、改質TiCNO層を硬質被覆層の構成層とする被覆工具は、高速高送り断続切削加工ですぐれた耐チッピング性を発揮し、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を示すようになること。
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、図2(a),(b)に概略説明図で例示される通り、縦断面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記縦断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角(図2(a)には前記結晶面のうち(001)面の傾斜角が0度、(011)面の傾斜角が45度の場合、同(b)には(001)面の傾斜角が45度、(011)面の傾斜角が0度の場合を示しているが、これらの角度を含めて前記結晶粒個々のすべての傾斜角)を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にTi、炭素、窒素および酸素からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度を求めた場合に、前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を粒界であるとして設定し、その上で電界放出型査電子顕微鏡を用い、上記改質TiCNO層の縦断面研磨面を、例えば、層厚×幅30μmの範囲で測定し、粒界として識別される部分のうち前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が15度以上の粒界の長さ(μm。以下、GBLという)を求め、さらに、このGBLと改質TiCNO層の層厚(μm。以下、Tで示す)の比(即ち、GBL/T)を求めると、前記改質TiCNO層は、表5、6に示される通り、GBL/Tが320〜600という大きな値を示し、この高いGBL/Tの値は、成膜時の反応ガス組成、反応雰囲気温度、反応雰囲気圧力の組み合わせによって変化すること(なお、前記通常条件で蒸着形成された従来TiCNO層は、表7、8に示される通り、GBL/Tは小さな値である。)。
「 炭化タングステン基(WC基)超硬合金または炭窒化チタン基(TiCN基)サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)2〜15μmの合計平均層厚を有し、少なくとも、TiとZrの複合炭窒化物((Ti,Zr)CN)層およびZrの炭窒化物(ZrCN)層のうちの1層または2層以上と、少なくとも、1層以上の炭窒酸化チタン(TiCNO)層とからなる下部層、
(b)1〜15μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム(Al2O3)層からなる上部層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる表面被覆切削工具において、
(c)上記下部層を構成する炭窒酸化チタン(TiCNO)層は、1〜8μmの平均層厚を有し、かつ、該炭窒酸化チタン(TiCNO)層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、上記層の縦断面研磨面の幅30μmの測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記縦断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定傾斜角から、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度を求め、また、前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を粒界であるとして設定した上で、電界放出型査電子顕微鏡を用い、層の縦断面研磨面における測定領域について、粒界として識別される部分のうち前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が15度以上の粒界の長さ(μm)を求め、この粒界の長さ(μm)と測定した炭窒酸化チタン(TiCNO)層の層厚(μm)との比の値が320〜600を示す炭窒酸化チタン(TiCNO)層である、
ことを特徴とする表面被覆切削工具(被覆工具)。」
に特徴を有するものである。
(a)下部層の(Ti,Zr)CN層、ZrCN層
硬質被覆層の下部層の構成層である(Ti,Zr)CN層、ZrCN層は、それぞれが所定の高温硬さ、高温強度を有し、これの存在によって硬質被覆層がすぐれた高温硬さ、高温強度を具備するようになるほか、工具基体と上部層であるAl2O3層のいずれにも強固に密着し、硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用をもつ。ただ、(Ti,Zr)CN層においては、Zrの含有割合が0.05未満では、高温硬さ向上効果を期待できず、一方、Zrの含有割合が0.3を超えると、層の靭性が低下し、チッピングが発生しやすくなるため、Tiとの合量に占めるZrの含有割合(但し、原子比)は、0.05〜0.3とすることが望ましい。
また、この発明では、下部層を構成する必須の層として、(Ti,Zr)CN層および/またはZrCN層を挙げたが、これ以外の層として、従来から知られているTiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層等のTi化合物層を、さらに下部層として設けることを何ら妨げるものではない。しかし、後記改質TiCNO層の層厚も含め、これらの下部層の層厚は、その合計平均層厚が2μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その合計平均層厚が15μmを越えると、特に、切刃部に対して繰り返し断続的に大きな衝撃的負荷がかかる高速高送り断続切削でチッピングを起し易くなることから、下部層の合計平均層厚は2〜15μmとすることが望ましい。
通常条件に比してメタン無添加の高窒素ガス組成かつ低温の蒸着条件、
即ち、
反応ガス組成:容量%で、TiCl4:2〜10%、CO:1〜5%、N2:50〜60%、H2:残り、
反応雰囲気温度:850〜900℃、
反応雰囲気圧力:10〜22kPa、
の条件で化学蒸着することにより形成される改質TiCNO層は、縦長成長結晶組織を有するとともに、格子点にTi、炭素、窒素および酸素からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有しており、さらに、この改質TiCNO層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、縦断面研磨面の測定範囲内に存在する改質TiCNO層の結晶粒個々に電子線を照射して、前記縦断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この結果得られた測定傾斜角から、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度を求め、さらに、前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を粒界であるとして設定した上で、電界放出型査電子顕微鏡により、改質TiCNO層の縦断面研磨面を、測定領域、例えば、層厚×幅30μmの範囲、で測定し、粒界として識別される部分のうちで前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が15度以上の粒界(以下、大傾角粒界という)についてその粒界の長さGBL(μm)を求め、そして、GBL(μm)と、改質TiCNO層の層厚T(μm)との比を求めると、GBL/Tは320〜600という値を示し、そして、GBL/Tがこのように大きな値を示す改質TiCNO層は、一段とすぐれた高温強度を備えるようになるため、高速高送り断続切削加工により、切刃部に対して大きな熱的・衝撃的負荷が加わったとしても、硬質被覆層にチッピングが発生する危険性を大幅に低減することができる。
しかし、GBL/T値が600を超えるようになると、改質TiCNO層自体に脆化傾向がみられるようになり、一方、GBL/T値が320未満の小さな値(通常条件で蒸着形成した従来TiCNO層のGBL/T値は320未満である)になると、高温強度が不足し、耐チッピング性の改善を期待することはできないため、GBL/Tの値を320〜600と定めた。
なお、GBL/Tの値は、反応ガス組成、反応雰囲気温度によって影響され、例えば、改質TiCNO層の蒸着条件より、低窒素ガス組成かつ高温条件で蒸着形成された従来TiCNO層におけるGBL/Tの値は、100〜200程度の小さな値(表7、8参照)であって、高温強度の改善が図られていないため、高速高送り断続切削という厳しい切削条件では硬質被覆層にチッピングの発生が見られた(表9参照)。
なお、前記改質TiCNO層は、従来TiCNO層に比して一段とすぐれた高温強度を有するようになるのであるが、その平均層厚が1μm未満では十分な高温強度向上効果を期待できず、一方、その平均層厚が8μmまでであれば十分な耐チッピング性を発揮できることから、その平均層厚を1〜8μmとすることが望ましい。
Al2O3層からなる上部層は、すぐれた高温硬さと耐熱性を有し、硬質被覆層の耐摩耗性向上に寄与するが、その平均層厚が1μm未満では、硬質被覆層に十分な耐摩耗性を付与せしめることができず、一方その平均層厚が15μmを越えて厚くなりすぎると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1〜15μmとすることが望ましい。
改質TiCNO層を、
反応ガス組成:容量%で、TiCl4:2〜10%の範囲内の所定量、CO:1〜5%の範囲内の所定量、N2:50〜60%の範囲内の所定量、H2:残り、
反応雰囲気温度:850〜900℃の範囲内の所定温度、
反応雰囲気圧力:10〜22kPaの範囲内の所定圧力、
の条件(具体的には、表4参照)で、表5、6に示される組み合わせで、かつ同じく表5、6に示される目標層厚で蒸着形成し、その後同じく表3に示される条件にて、上部層としてのAl2O3層を同じく表5、6に示される目標層厚で蒸着形成することにより本発明被覆工具1〜20をそれぞれ製造した。
すなわち、上記の改質TiCNO層および従来TiCNO層の縦断面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記縦断面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、所定測定領域を0.1μm/stepの間隔で、前記縦断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度を求め、さらに、前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を粒界であるとして設定した上で、電界放出型走査電子顕微鏡により、改質TiCNO層の縦断面研磨面の測定領域(層厚×幅30μmの範囲の領域)を走査し、該測定領域内で、粒界として識別される部分のうちで前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が15度以上の粒界についてその粒界の長さGBL(μm)を求めた。そして、GBL(μm)と、改質TiCNO層の層厚T(μm)との比の値(改質TiCNO層の単位層厚当たりの粒界の長さに相当)を求めた。
また、これらの被覆工具の硬質被覆層の構成層の厚さを、走査型電子顕微鏡を用いて測定(同じく縦断面測定)したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均層厚(5点測定の平均値)を示した。
被削材:JIS・SCM420Hの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 450 m/min、
切り込み: 1.5 mm、
送り: 0.5 mm/rev、
切削時間: 8 分、
の条件(切削条件A)での合金高の乾式高速高送り断続切削試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、250m/min、0.25mm/rev)、
被削材:JIS・SCM440の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 500 m/min、
切り込み: 1.5 mm、
送り: 0.55 mm/rev、
切削時間: 7 分、
の条件(切削条件B)での合金鋼の湿式高速高送り断続切削試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、250m/min、0.3mm/rev)、
被削材:JIS・FCD700の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 450 m/min、
切り込み: 2.0 mm、
送り: 0.6 mm/rev、
切削時間: 8 分、
の条件(切削条件C)でのダクタイル鋳鉄の湿式高速高送り断続切削試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、200m/min、0.3mm/rev)、
を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表9に示した。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)2〜15μmの合計平均層厚を有し、少なくとも、TiとZrの複合炭窒化物層およびZrの炭窒化物層のうちの1層または2層以上と、少なくとも、1層以上の炭窒酸化チタン層とからなる下部層、
(b)1〜15μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層からなる上部層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる表面被覆切削工具において、
(c)上記下部層の炭窒酸化チタン層は、1〜8μmの平均層厚を有し、かつ、該炭窒酸化チタン層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、上記層の縦断面研磨面の幅30μmの測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記縦断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定傾斜角から、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度を求め、また、前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を粒界であるとして設定した上で、電界放出型査電子顕微鏡を用い、層の縦断面研磨面における測定領域について、粒界として識別される部分のうち前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が15度以上の粒界の長さ(μm)を求め、この粒界の長さ(μm)と測定した炭窒酸化チタン層の層厚(μm)との比の値が320〜600を示す炭窒酸化チタン層である、
ことを特徴とする表面被覆切削工具。
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