JP4483510B2 - 高速断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具 - Google Patents
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Description
(a)下部層が、いずれも化学蒸着形成された、Tiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層が、化学蒸着形成された、1〜15μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム(以下、Al2O3で示す)層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる被覆サーメット工具が知られており、この被覆サーメット工具が、例えば各種の鋼や鋳鉄などの連続切削や断続切削に用いられていることも知られている。
上記の被覆サーメット工具の硬質被覆層の下部層であるTi化合物層のうちのTiCN層(以下、従来TiCN層という)は、通常の化学蒸着装置にて、
反応ガス組成−体積%で、TiCl4:2〜10%、CH3CN:0.5〜3%、N2:10〜30%、H2:残り、
反応雰囲気温度:800〜900℃、
反応雰囲気圧力:6〜20kPa、
の条件で形成されるが、上記従来TiCN層の形成に先だって、
反応ガス組成−体積%で、TiCl4:0.69〜1%、CH4:1〜5%、H2:20〜40%、N2:5〜15%、Ar:残り、
反応雰囲気温度:780〜820℃、
反応雰囲気圧力:4〜8kPa、
成膜時間:0.8〜2.0時間、
の条件で、望ましくは0.8〜1.2μmの平均層厚で種薄膜としてのTiCN薄膜(以下、TiCN種薄膜という)を形成し、このTiCN種薄膜の上に上記の従来TiCN層の形成条件と同じ条件でTiCN層を形成すると、形成時の前記TiCN層は、前記TiCN種薄膜の結晶配列に著しく影響を受け、これを十分に履歴するようになり、しかもこの結果形成されたTiCN層(以下、履歴TiCN層という)は、上記の従来TiCN層に比して、一段とすぐれた高温強度を有し、すぐれた耐機械的衝撃性を具備するようになるので、硬質被覆層の上部層が前記Al2O3層、下部層が上記Ti化合物層で構成され、かつ前記Ti化合物層のうちの1層が前記履歴TiCN層からなる被覆サーメット工具は、特に激しい機械的衝撃を伴なう高速断続切削加工でも、前記硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮し、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を示すようになること。
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、図1(a),(b)に概略説明図で示される通り、表面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射し、電子後方散乱回折像装置を用いて、前記測定範囲を0.1μm/stepの間隔で、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{013}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成した場合、前記従来TiCN層は、図3に例示される通り、{013}面の測定傾斜角の分布が0〜45度の範囲内で不偏的な傾斜角度数分布グラフを示すのに対して、前記履歴TiCN層は、図2に例示される通り、傾斜角区分の特定位置にシャープな最高ピークが現れ、このシャープな最高ピークは、グラフ横軸の傾斜角区分に現れる高さが上記TiCN種薄膜形成時の反応雰囲気温度および反応雰囲気圧力によって変化し、グラフ横軸の傾斜角区分位置が同じく反応ガスのTiCl4含有量によって変化すること。
以上(a)〜(c)に示される研究結果を得たのである。
(a)下部層が、いずれも化学蒸着形成された、TiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層、およびTiCNO層のうちの2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層が、化学蒸着形成された、1〜15μmの平均層厚を有するAl2O3層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる表面被覆サーメット製切削工具において、
上記(a)のTi化合物層のうちの1層を、
反応ガス組成−体積%で、TiCl 4 :0.69〜1%、CH 4 :1〜5%、H 2 :20〜40%、N 2 :5〜15%、Ar:残り、
反応雰囲気温度:780〜820℃、
反応雰囲気圧力:4〜8kPa、
成膜時間:0.8〜2.0時間、
の条件で、0.8〜1.2μmの平均層厚に化学蒸着形成されたTiCN種薄膜を介して、
反応ガス組成−体積%で、TiCl 4 :2〜10%、CH 3 CN:0.5〜3%、N 2 :10〜30%、H 2 :残り、
反応雰囲気温度:800〜900℃、
反応雰囲気圧力:6〜20kPa、
の条件(従来蒸着条件に相当する条件)で、2.5〜15μmの平均層厚に化学蒸着形成してなると共に、
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射し、電子後方散乱回折像装置を用いて、前記測定範囲を0.1μm/stepの間隔で、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{013}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフにおいて、20.00〜24.25度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、20〜30度の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の62〜83%の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示す履歴TiCN層、
で構成してなる、高速断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する被覆サーメット工具に特徴を有するものである。
(a)Ti化合物層(下部層)
Ti化合物層は、自体が高温強度を有し、これの存在によって硬質被覆層が高温強度を具備するようになるほか、工具基体と上部層であるAl2O3層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用をもつが、その合計平均層厚が3μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その合計平均層厚が20μmを越えると、特に高熱発生を伴なう高速断続切削で熱塑性変形を起し易くなり、これが偏摩耗の原因となることから、その合計平均層厚を3〜20μmと定めた。
上記の通り、上記TiCN種薄膜形成に際して、上記反応ガスにおけるTiCl4の含有量を0.69〜1%とすることにより、傾斜角度数分布グラフで、シャープな最高ピークが傾斜角区分の20.00〜24.25度の範囲内に現れ、かつ、反応雰囲気温度を780〜820℃、反応雰囲気圧力を4〜8kPaとすることにより、20〜30度の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の62〜83%の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示す履歴TiCN層が形成されるようになり、この結果として前記履歴TiCN層はすぐれた高温強度を具備するようになるが、その平均層厚が2.5μm未満では所望のすぐれた高温強度を硬質被覆層に具備せしめることができず、一方その平均層厚が15μmを越えると、偏摩耗の原因となる熱塑性変形が発生し易くなり、摩耗が加速するようになることから、その平均層厚を2.5〜15μmと定めた。
Al2O3層は、すぐれた高温硬さと耐熱性を有し、硬質被覆層の耐摩耗性向上に寄与するが、その平均層厚が1μm未満では、硬質被覆層に十分な耐摩耗性を発揮せしめることができず、一方その平均層厚が15μmを越えて厚くなりすぎると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1〜15μmと定めた。
すなわち、上記傾斜角度数分布グラフは、上記の履歴TiCN層および従来TiCN層の表面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記表面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{013}面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計することにより作成した。
なお、図2は、本発明被覆サーメット工具4の履歴TiCN層の傾斜角度数分布グラフ、図3は、従来被覆サーメット工具4の従来TiCN層の傾斜角度数分布グラフをそれぞれ示すものである。
被削材:JIS・SCM440の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:360m/min、
切り込み:1.5mm、
送り:0.20mm/rev、
切削時間: 分、
の条件(切削条件A)での合金鋼の乾式高速断続切削試験(通常の切削速度は220m/min)、
被削材:JIS・S50Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:360m/min、
切り込み:2.0mm、
送り:0.25mm/rev、
切削時間:10分、
の条件(切削条件B)での炭素鋼の乾式高速断続切削試験(通常の切削速度は250m/min)、
被削材:JIS・FCD450の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:360m/min、
切り込み:2.0mm、
送り:0.40mm/rev、
切削時間:10分、
の条件(切削条件C)でのダクタイル鋳鉄の乾式高速断続切削試験(通常の切削速度は220m/min)を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表7に示した。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層が、いずれも化学蒸着形成された、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、および炭窒酸化物層のうちの2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層が、化学蒸着形成された、1〜15μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる表面被覆サーメット製切削工具において、
上記(a)のTi化合物層のうちの1層を、
反応ガス組成−体積%で、TiCl 4 :0.69〜1%、CH 4 :1〜5%、H 2 :20〜40%、N 2 :5〜15%、Ar:残り、
反応雰囲気温度:780〜820℃、
反応雰囲気圧力:4〜8kPa、
成膜時間:0.8〜2.0時間、
の条件で、0.8〜1.2μmの平均層厚に化学蒸着形成された種薄膜としての炭窒化チタン薄膜を介して、
反応ガス組成−体積%で、TiCl 4 :2〜10%、CH 3 CN:0.5〜3%、N 2 :10〜30%、H 2 :残り、
反応雰囲気温度:800〜900℃、
反応雰囲気圧力:6〜20kPa、
の条件(従来蒸着条件に相当する条件)で、2.5〜15μmの平均層厚に化学蒸着形成してなると共に、
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射し、電子後方散乱回折像装置を用いて、前記測定範囲を0.1μm/stepの間隔で、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{013}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフにおいて、20.00〜24.25度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、20〜30度の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の62〜83%の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示す炭窒化チタン層、
で構成したことを特徴とする高速断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具。
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