JP4756453B2 - 高速重切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具 - Google Patents
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Description
(a)下部層が、いずれも化学蒸着形成された、Tiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層が、1〜15μmの平均層厚、および化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有するα型酸化アルミニウム(以下、α型Al2O3で示す)層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる被覆サーメット工具が知られており、この被覆サーメット工具が、例えば各種の鋼や鋳鉄などの連続切削や断続切削に用いられていることも知られている。
(a)従来被覆サーメット工具の硬質被覆層において、下部層を構成するTi化合物層のうちのTiCN層(以下、従来TiCN層という)は、例えば、通常の化学蒸着装置にて、
反応ガス組成:容量%で、TiCl4:2〜10%、CH3CN:0.5〜3%、N2:10〜30%、H2:残り、
反応雰囲気温度:800〜900℃、
反応雰囲気圧力:6〜20kPa、
の条件(通常条件という)で蒸着形成されるが、
反応ガス組成:容量%で、TiCl4:2〜10%、CrCl3:0.01〜0.5%、CH3CN:0.5〜3%、N2:30〜45%、Ar:残り、
反応雰囲気温度:900〜1020℃、
反応雰囲気圧力:6〜20kPa、
の条件、すなわち上記の通常条件に比して、反応ガスのキャリアガスであるH2ガスをArガスに代えると共に、N2ガスの相対量を増加させ、かつCrCl3ガスをきわめて少量加え、さらに反応雰囲気温度を相対的に高くした条件で蒸着形成して、
組成式:(Ti1−XCrX)C1−YNY(ただし、原子比で、X:0.005〜0.05、Y:0.45〜0.55)、
を満足するTi系炭窒化物層を形成すると、この結果のTi系炭窒化物層(以下、「改質Ti系CN層」で示す)は、上記の従来TiCN層と同様の結晶構造、すなわち格子点にTi、Cr、炭素(C)、および窒素(N)からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有するが、前記従来TiCN層に比して一段とすぐれた高温強度を有すること。
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、図1(a),(b)に概略説明図で例示される通り、表面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射し、電子後方散乱回折像装置を用い、所定領域を0.1μm/stepの間隔で、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{112}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成した場合、前記従来TiCN層は、図3に例示される通り、{112}面の測定傾斜角の分布が0〜45度の範囲内で不偏的な傾斜角度数分布グラフを示すのに対して、前記改質Ti系CN層は、図2に例示される通り、傾斜角区分の特定位置にシャープな最高ピークが現れ、このシャープな最高ピークは、グラフ横軸の傾斜角区分に現れる高さおよび傾斜角区分位置が前記改質Ti系CN層におけるCrの含有割合を調整することにより変化すること。
さらに、上記改質Ti系CN層のCr成分には、上記の作用の他に、層中にCr成分を含有しない上記従来TiCN層に比して、層自体の高温強度を向上させる作用もあり、この場合その含有割合がTiとの合量に占める原子比で0.005(0.5原子%)未満では所望の高温強度向上効果が現れず、一方その含有割合が同0.05(5原子%)を越えると、急激に軟化し、高熱発生を伴なう高速切削では切刃部に偏摩耗の原因となる熱塑性変形が発生し易くなることからも、その含有割合はTiとの合量に占める原子比で0.005〜0.5とする必要がある。
以上(a)〜(d)に示される研究結果を得たのである。
(a)いずれも化学蒸着形成された、TiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層、およびTiCNO層のうちの1層または2層以上からなり、かつ0.1〜5μmの合計平均層厚を有する密着性Ti化合物層と、2.5〜15μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Ti1−XCrX)C1−YNY(ただし、原子比で、X:0.005〜0.05、Y:0.45〜0.55)、
を満足する改質Ti系CN層からなる下部層、
(b)1〜15μmの平均層厚を有するα型Al2O3層からなる上部層、
以上(a)および(b)で構成し、かつ、上記(a)の下部層における改質Ti系CN層は、
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射し、電子後方散乱回折像装置を用い、所定領域を0.1μm/stepの間隔で、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{112}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフにおいて、0.75〜10.00度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45〜80%の割合を占める傾斜角度数分布グラフ、
を示してなる、高速重切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する被覆サーメット工具に特徴を有するものである。
(a)下部層の密着性Ti化合物層
密着性Ti化合物層は、工具基体と上部層であるα型Al2O3層および改質Ti系CN層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用をもつが、その合計平均層厚が0.1μm未満では、所望のすぐれた密着性を確保することができず、一方前記密着性は5μmまでの合計平均層厚で充分であることから、その合計平均層厚を0.1〜5μmと定めた。
上記の改質Ti系CN層の傾斜角度数分布グラフの傾斜角区分における最高ピーク位置および前記最高ピークが存在する所定の傾斜角区分内に存在する度数割合は、上記の通り層中のCr含有割合(X値)をTiとの合量に占める原子比で、0.005〜0.5とすることによって、0.75〜10.00度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークを存在させ、かつ0〜10度の範囲内に存在する度数割合を、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45〜80%とすることができるものであり、したがって、その含有割合が0.005未満でも、0.05を越えても、前記最高ピーク位置の現れる傾斜角区分が0.75〜10.00度の範囲内から外れ、さらに0〜10度の範囲内に存在する度数割合は45%未満となってしまい、高速重切削加工で、硬質被覆層にチッピングが発生しない、すぐれた高温強度向上効果を確保することができないものとなる。
また、改質Ti系CN層におけるC成分には層の硬さを向上させ、一方N成分には高温強度を向上させる作用があり、これら両成分を共存含有することにより高い硬さとすぐれた強度を具備するようになるものであり、したがって、層中のN成分の含有割合(Y値)がC成分との合量に占める原子比で0.45未満では所望の強度を確保することができず、一方その含有割合(Y値)が同じく0.55を越えると、相対的にC成分の含有割合が少なくなり過ぎて、所望の高硬度が得られなくなることから、Y値を原子比で0.45〜0.55と定めた。
このように前記改質Ti系CN層は、上記の通り従来TiCN層に比して、一段とすぐれた高温強度を有するようになるが、その平均層厚が2.5μm未満では所望のすぐれた高温強度向上効果を硬質被覆層に十分に具備せしめることができず、一方その平均層厚が15μmを越えると、偏摩耗の原因となる熱塑性変形が発生し易くなり、摩耗が加速するようになることから、その平均層厚を2.5〜15μmと定めた。
α型Al2O3層は、すぐれた高温硬さと耐熱性を有し、硬質被覆層の耐摩耗性向上に寄与するが、その平均層厚が1μm未満では、硬質被覆層に十分な耐摩耗性を発揮せしめることができず、一方その平均層厚が15μmを越えて厚くなりすぎると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1〜15μmと定めた。
すなわち、上記傾斜角度数分布グラフは、上記の改質TiCN層および従来TiCN層の表面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記表面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{112}面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計することにより作成した。
なお、図2は、本発明被覆サーメット工具5の改質Ti系CN層の傾斜角度数分布グラフ、図3は、従来被覆サーメット工具5の従来TiCN層の傾斜角度数分布グラフをそれぞれ示すものである。
被削材:JIS・SNCM415の丸棒、
切削速度:360m/min、
切り込み:4mm、
送り:0.3mm/rev、
切削時間:8分、
の条件(切削条件Aという)での合金鋼の湿式連続高速高切り込み切削試験(通常の切削速度および切り込み量は、それぞれ200m/minおよび1.5mm)、
被削材:JIS・FC350の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:380m/min、
切り込み:2mm、
送り:0.55mm/rev、
切削時間:8分、
の条件(切削条件Bという)での鋳鉄の湿式断続高速高送り切削試験(通常の切削速度および送りは250m/minおよび0.3mm/rev)、
被削材:JIS・S25Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:420m/min、
切り込み:5mm、
送り:0.25mm/rev、
切削時間:8分、
の条件(切削条件Cという)での炭素鋼の湿式断続高速高切り込み切削試験(通常の切削速度および切り込み量は、それぞれ280m/minおよび1.5mm)を行い、いずれの切削試験(水溶性切削油使用)でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表6に示した。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に蒸着形成した硬質被覆層を、
(a)いずれも化学蒸着形成された、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、および炭窒酸化物層のうちの1層以上からなり、かつ0.1〜5μmの合計平均層厚を有する密着性Ti化合物層と、2.5〜15μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Ti1−XCrX)C1−YNY(ただし、原子比で、X:0.005〜0.05、Y:0.45〜0.55)、
を満足する改質Ti系炭窒化物層からなる下部層、
(b)1〜15μmの平均層厚を有し、かつ化学蒸着形成された状態でα型の結晶構造を有するα型酸化アルミニウム層からなる上部層、
以上(a)および(b)で構成し、かつ、上記(a)の下部層における改質Ti系炭窒化物層は、
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射し、電子後方散乱回折像装置を用い、所定領域を0.1μm/stepの間隔で、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{112}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフにおいて、0.75〜10.00度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45〜80%の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示すこと、
を特徴とする高速重切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具。
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