JP5625867B2 - 表面被覆切削工具 - Google Patents
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Description
(a)下部層として、TiC、TiN、TiCN等からなるTi化合物層、
(b)上部層として、Al2O3層、
上記(a)、(b)からなる硬質被覆層を蒸着形成した被覆工具がよく知られている。
例えば、特許文献1に示すように、工具基体表面にTiCN層を少なくとも1層被覆形成した被覆工具において、TiCN層を、工具基体表面に対して垂直な方向に成長した筋状結晶から構成し、さらに、すくい面表面に位置する筋状結晶の平均幅を、逃げ面表面に位置する筋状結晶の平均幅よりも狭くすることにより、被覆工具のすくい面における硬質被覆層の耐チッピング性、耐剥離性を高め、切れ刃に強い衝撃がかかる断続切削において、優れた耐欠損性および耐摩耗性を発揮するようにした被覆工具が知られている。
しかし、上記従来被覆工具の層構造では、例えば、鋼の湿式高速重切削(例えば、高送り)加工を行った場合には、熱負荷により、すくい面に多数の熱亀裂が発生し、これの進展により欠損、剥離が発生しやすくなるという現象がみられ、一方、逃げ面には熱塑性変形による偏摩耗が発生するため、耐チッピング性、耐摩耗性が十分でなく、工具寿命が短命であることを見出した。
そして、上記の如く、すくい面のl−TiCN層の結晶粒界密度が相対的に小さく形成されていることによって、すくい面では切削加工時の加熱冷却によって発生する熱亀裂の発生が少なく、また、熱クラックの進展も抑制されるために耐チッピング性、耐剥離性にすぐれ、一方、逃げ面のl−TiCN層の結晶粒界密度は相対的に高いため、耐熱性にすぐれるとともに、靭性、耐摩耗性にすぐれる。
「(1) 炭化タングステンとTi、Zr、TaおよびNbの各炭化物のうちの1種または2種以上を含む硬質相と主成分がCoからなる結合相を含有する炭化タングステン基超硬合金で構成された工具基体の表面に、下部層と上部層からなる硬質被覆層を蒸着形成してなる表面被覆切削工具において、
(a)上記下部層は、3〜15μmの合計平均層厚を有し、少なくとも1層の縦長成長結晶組織を有するTiの炭窒化物層を含むTi化合物層からなり、
(b)上記上部層は、3〜15μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層からなり、
(c)工具基体の逃げ面に形成された上記縦長成長結晶組織を有するTiの炭窒化物層の結晶粒界密度は、工具基体のすくい面に形成された上記縦長成長結晶組織を有するTiの炭窒化物層の結晶粒界密度より高いことを特徴とする表面被覆切削工具。
(2) 逃げ面およびすくい面に形成された上記縦長成長結晶組織を有するTiの炭窒化物層のそれぞれについて、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、上記層の縦断面研磨面の幅30(μm)×厚さT(μm)を測定領域とし、該測定領域に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記縦断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定傾斜角から、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度を求め、また、前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を粒界であるとした上で、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、層の縦断面研磨面における上記測定領域について、粒界として識別される部分のうち前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が15度以上の粒界の合計長さ(μm)を求めたとき、逃げ面の上記測定領域で求められた粒界の合計長さGF(μm)とすくい面の上記測定領域で求められた粒界の合計長さGC(μm)は、GF/GC>1.5の関係を満足することを特徴とする前記(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3) 工具基体表面と隣接する下部層の最下層として、0.1〜1.0μmの平均層厚を有するTiの窒化物層が形成されていることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
少なくとも、TiC層、TiN層、粒状結晶組織のTiCN層(以下、粒状結晶組織のTiCNを、単に、TiCNで示す。)、l−TiCN層、TiCO層、TiCNO層のいずれかからなるTi化合物層は、それぞれが所定の高温強度を有し、これの存在によって硬質被覆層が高温強度を具備するようになるほか、工具基体と上部層のいずれにも強固に密着し、硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用をもつが、その合計平均層厚が3μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その合計平均層厚が15μmを越えると、特に、切刃部に対して高負荷がかかった場合にチッピングを起し易くなることから、その合計平均層厚は3〜15μmと定めた。
本発明では、被覆形成する下部層のうち、少なくとも1つの層はl−TiCN層で構成することを必要とし、しかも、工具基体の逃げ面に形成したl−TiCN層における結晶粒界密度は、工具基体のすくい面に形成したl−TiCN層の結晶粒界密度より高くすることが必要である。
ここで、l−TiCN層における結晶粒界密度とは、次のように定義する。
WC超硬合金からなる工具基体のすくい面及び逃げ面にそれぞれ蒸着形成したl−TiCN層について、図1(a),(b)に概略説明図で例示される通り、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、上記層の縦断面研磨面の幅30(μm)×厚さT(μm)を測定領域(但し、T(μm)は、測定対象であるl−TiCN層の層厚以下である)とし、該測定領域内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記縦断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定傾斜角から、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度を求め、また、前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を粒界であるとした上で、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、層の縦断面研磨面における上記測定領域について、粒界として識別される部分のうち前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が15度以上の粒界の合計長さ(μm)を求めたとき、
逃げ面の上記測定領域で求められたl−TiCNの粒界の合計長さGF(μm)を、逃げ面の測定領域の面積で除した割合、即ち、GF/(30×T)で表される単位面積当たりの粒界の合計長さを、逃げ面のl−TiCNの結晶粒界密度「ρF」という。
同様に、上記で求めたすくい面の上記測定領域で求められたl−TiCNの粒界の合計長さGC(μm)を、すくい面の測定領域の面積で除した割合、即ち、GC/(30×T)で表される単位面積当たりの粒界の合計長さを、すくい面のl−TiCNの結晶粒界密度「ρC」という。
ρF/ρC
=[GF/(30×T)]/[GC/(30×T)]
=GF/GC>1.5
の関係を満足することが必要である。
ρF/ρC(=GF/GC)の値が1.5以下の場合には、すくい面における耐熱亀裂性が十分でないため、特に、湿式高速重切削加工において、熱亀裂発生防止効果が少なく、これによって、硬質被覆層のチッピング、剥離等の異常損傷が発生するため、ρF/ρC(=GF/GC)>1.5とすることが必要である。
また、上記l−TiCNの結晶粒界密度ρF,ρCについては、
ρF=3.0以上、
ρC=1.7以上であることが望ましく、
ρF=4.5〜5.1、
ρC=2.0〜2.6であることがさらに望ましい。
また、上記結晶粒界密度の比ρF/ρC(=GF/GC)については、
ρF/ρC(=GF/GC)=1.6以上であることが望ましく、
ρF/ρC(=GF/GC)=1.7〜2.1であることがさらに望ましい。
所定の原料粉末と所定の焼結条件によって、硬質相としてWCとTiC、ZrC、TaCおよびNbCのうちの1種または2種以上を含み、また、結合相としてCoを含有するWC基超硬合金焼結体からなる工具基体を作製した後、工具基体のすくい面には強靭層が形成されたままとし、一方、工具基体の逃げ面には研磨加工を施す。
次いで、工具基体をCVD装置内に装入し、工具基体に隣接する第1の下部層として0.1〜1.0μmのTiN層を工具基体のすくい面及び逃げ面に蒸着形成した後、逃げ面に形成したTiN層の表面に、Al2 O3砥粒を配合した研磨液を、0.1〜0.15MPaの噴射圧力で噴射してウエットブラスト等を施して表面を平滑化する。
次いで、CVD装置内で、Ti化合物層を蒸着して下部層を形成(但し、少なくとも1層は、l−TiCN層を蒸着する)し、この上に、Al2O3層を蒸着して上部層を形成することにより、逃げ面とすくい面でのl−TiCNの結晶粒界密度がρF/ρC(=GF/GC)>1.5
の関係を満足する本発明の被覆工具を製造することができる。
上記の製造方法において、ρF(GF),ρC(GC)の値は、ウエットブラストの投射圧力、l−TiCN成膜時のTiCl4量,CH3CN量,N2量等の条件を調整することによって、所望の値とすることができる。
上部層のAl2O3層は、基本的に、硬質被覆層の耐摩耗性を維持する作用があるが、その平均層厚が3μm未満では、長期の使用に亘っての耐摩耗性を確保することができず、一方、その一層平均層厚が15μmを越えるとAl2O3結晶粒の粗大化による高温硬さ、高温強度が低下しやすくなり、高送り等の高速湿式重切削加工時の耐チッピング性、耐摩耗性が低下するようになることから、その平均層厚を3〜15μmと定めた。
また、本発明の被覆工具に対して、上部層のAl2O3層表面または上部層最表面のTiN層表面に、ブラシ、ブラスト等による機械的処理を行うことを何ら妨げるものではない。
次いで、逃げ面に蒸着形成したTiN層に対して、表3に示される条件でウエットブラストを施すことによりTiN層表面を平滑化する。
次いで、工具基体表面に形成した上記第1の下部層(TiN層)の上に、表2に示される条件、かつ、表4に示される組み合わせで、Ti化合物層を蒸着し、下部層を形成する。ここで、Ti化合物層のうちの少なくとも1つの層として、l−TiCN層(縦長成長結晶組織を有するTiCN層)を蒸着する。
次いで、上記下部層の上に、Al2O3層を、表2に示される条件、かつ、表4に示される組み合わせで蒸着形成し、
上記下部層と上記上部層からなる硬質被覆層を有する本発明被覆工具1〜10を製造した。
上記下部層と上記上部層からなる硬質被覆層を有する比較被覆工具1〜10を製造した。
すなわち、逃げ面及びすくい面の各l−TiCN層の縦断面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記縦断面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、所定測定領域を0.1μm/stepの間隔で、前記縦断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度を求め、さらに、前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を粒界であるとして設定した上で、電界放出型走査電子顕微鏡により、l−TiCN層の縦断面研磨面の測定領域(層厚T(μm)×幅30(μm)の範囲の領域)を走査し、該測定領域内で、粒界として識別される部分のうちで前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が15度以上の粒界について、逃げ面及びすくい面のl−TiCNについて測定された粒界の合計長さGF(μm),GC(μm)をそれぞれ測定した。
そして、逃げ面及びすくい面のl−TiCNについて、それぞれの結晶粒界密度を、ρF=GF(μm)/(層厚T(μm)×幅30(μm)),ρC=GC(μm)/(層厚T(μm)×幅30(μm))として求め、結晶粒界密度比ρF/ρCの値を算出した。
また、これらの被覆工具の硬質被覆層の下部層の層厚および上部層の層厚を、走査型電子顕微鏡を用いて測定(同じく縦断面測定)したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均層厚(いずれも、5点測定の平均値)を示した。
被削材:JIS・SCM440の丸棒、
切削速度: 400 m/min、
切り込み: 4.0 mm、
送り: 0.5 mm/rev、
切削時間: 12 分、
の条件(切削条件A)での合金鋼の湿式高速高送り連続切削試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、200m/min、0.25mm/rev)、
被削材:JIS・SNCM439の丸棒、
切削速度: 350 m/min、
切り込み: 4 mm、
送り: 0.5 mm/rev、
切削時間: 12 分、
の条件(切削条件B)での合金鋼の湿式高速高送り連続切削試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、200m/min、0.25mm/rev)、
被削材:JIS・S45Cの丸棒、
切削速度: 400 m/min、
切り込み: 4.5 mm、
送り: 0.5 mm/rev、
切削時間: 12 分、
の条件(切削条件C)での炭素鋼の湿式高速高送り連続切削試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、200m/min、0.3mm/rev)、
を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表8に示した。
これに対して、硬質被覆層の下部層の逃げ面に形成されたl−TiCN層の結晶粒界密度ρFが、工具基体のすくい面に形成されたl−TiCN層の結晶粒界密度ρCと同程度あるいは小さいものは、湿式高速重切削加工において、短時間で熱亀裂が発生し、あるいは、熱亀裂の進展によりチッピング、剥離が発生したり、偏摩耗の発生により、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
Claims (3)
- 炭化タングステンとTi、Zr、TaおよびNbの各炭化物のうちの1種または2種以上を含む硬質相と主成分がCoからなる結合相を含有する炭化タングステン基超硬合金で構成された工具基体の表面に、下部層と上部層からなる硬質被覆層を蒸着形成してなる表面被覆切削工具において、
(a)上記下部層は、3〜15μmの合計平均層厚を有し、少なくとも1層の縦長成長結晶組織を有するTiの炭窒化物層を含むTi化合物層からなり、
(b)上記上部層は、3〜15μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層からなり、
(c)工具基体の逃げ面に形成された上記縦長成長結晶組織を有するTiの炭窒化物層の結晶粒界密度は、工具基体のすくい面に形成された上記縦長成長結晶組織を有するTiの炭窒化物層の結晶粒界密度より高いことを特徴とする表面被覆切削工具。 - 逃げ面およびすくい面に形成された上記縦長成長結晶組織を有するTiの炭窒化物層のそれぞれについて、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、上記層の縦断面研磨面の幅30(μm)×厚さT(μm)を測定領域とし、該測定領域内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記縦断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定傾斜角から、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度を求め、また、前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を粒界であるとした上で、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、層の縦断面研磨面における上記測定領域について、粒界として識別される部分のうち前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が15度以上の粒界の合計長さ(μm)を求めたとき、逃げ面の上記測定領域で求められた粒界の合計長さGF(μm)とすくい面の上記測定領域で求められた粒界の合計長さGC(μm)は、GF/GC>1.5の関係を満足することを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
- 工具基体表面と隣接する下部層の最下層として、0.1〜1.0μmの平均層厚を有するTiの窒化物層が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の表面被覆切削工具。
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