JP5625867B2 - 表面被覆切削工具 - Google Patents

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Description

この発明は、加熱冷却による熱負荷を受け、かつ、切れ刃に機械的な高負荷が作用する鋼等の湿式高速重切削加工で、硬質被覆層がすぐれた耐熱亀裂性、耐熱性を発揮し、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性、耐熱塑性変形性を発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関するものである。
従来の被覆工具として、炭化タングステン基(以下、WC基で示す)超硬合金または炭窒化チタン基(以下、TiCN基で示す)サーメットで構成された基体(以下、これらを総称して工具基体という)の表面に、
(a)下部層として、TiC、TiN、TiCN等からなるTi化合物層、
(b)上部層として、Al層、
上記(a)、(b)からなる硬質被覆層を蒸着形成した被覆工具がよく知られている。
例えば、特許文献1に示すように、工具基体表面にTiCN層を少なくとも1層被覆形成した被覆工具において、TiCN層を、工具基体表面に対して垂直な方向に成長した筋状結晶から構成し、さらに、すくい面表面に位置する筋状結晶の平均幅を、逃げ面表面に位置する筋状結晶の平均幅よりも狭くすることにより、被覆工具のすくい面における硬質被覆層の耐チッピング性、耐剥離性を高め、切れ刃に強い衝撃がかかる断続切削において、優れた耐欠損性および耐摩耗性を発揮するようにした被覆工具が知られている。
特開2004−216488号公報
近年の切削装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化、省エネ化、高効率化、低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は一段と過酷な条件下で行われる傾向にあるが、上記の従来被覆工具においては、これを鋼や鋳鉄などの通常の条件での連続切削や断続切削に用いた場合には問題はないが、例えば、これを湿式の高速重切削加工に用いた場合には、切刃部には機械的な高負荷がかかるばかりか、加熱冷却に伴う熱負荷が発生し、そのため、切れ刃部には熱亀裂が発生し、また、熱亀裂の進展によるチッピング(微小欠け)も発生するため、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、硬質被覆層として、Ti化合物層からなる下部層と酸化アルミニウム(以下、Alで示す)層からなる上部層を被覆した被覆工具において、耐熱亀裂性にすぐれ長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮する被覆工具を提供すべく鋭意研究を行った結果、以下の知見を得た。
(a)上記従来被覆工具においては、超硬合金からなる工具基体のすくい面に研磨加工を施し、さらに、1〜20Paの真空中、1000〜1300℃にて0.5〜2時間の熱処理を行って、工具基体のすくい面に、超硬合金の結合相成分(Ni,Co)の含有比率が少ない表層領域を形成することにより、TiCNの結晶成長状態を制御し、すくい面表面の筋状結晶のTiCNの平均幅が、逃げ面表面の筋状結晶のTiCNの平均幅よりも狭くなるようにしている。
しかし、上記従来被覆工具の層構造では、例えば、鋼の湿式高速重切削(例えば、高送り)加工を行った場合には、熱負荷により、すくい面に多数の熱亀裂が発生し、これの進展により欠損、剥離が発生しやすくなるという現象がみられ、一方、逃げ面には熱塑性変形による偏摩耗が発生するため、耐チッピング性、耐摩耗性が十分でなく、工具寿命が短命であることを見出した。
(b)そこで、本発明者等は、すくい面の耐熱亀裂性を向上させ、また、逃げ面の耐熱塑性変形性を向上させるため、例えば、逃げ面には研磨加工が施され、一方、すくい面には強靭層が形成された工具基体の表面に、0.1〜1.0μmのTiN層からなる下部層を蒸着形成し、次いで、逃げ面のTiN層の表面にウエットブラスト等を施して表面を平滑化し、通常の縦長成長結晶組織を有するTiの炭窒化物(以下、l−TiCNで示す)層を化学蒸着して下部層を形成した後、上部層として、Al層を蒸着形成することにより、すくい面と逃げ面における上記l−TiCN層の結晶粒界密度を異ならせることができ、そして、工具基体の逃げ面には相対的に結晶粒界密度の高いl−TiCN層を、一方、工具基体のすくい面には相対的に結晶粒界密度が小さいl−TiCN層を形成できることを見出したのである。
そして、上記の如く、すくい面のl−TiCN層の結晶粒界密度が相対的に小さく形成されていることによって、すくい面では切削加工時の加熱冷却によって発生する熱亀裂の発生が少なく、また、熱クラックの進展も抑制されるために耐チッピング性、耐剥離性にすぐれ、一方、逃げ面のl−TiCN層の結晶粒界密度は相対的に高いため、耐熱性にすぐれるとともに、靭性、耐摩耗性にすぐれる。
(c)したがって、硬質被覆層として、少なくとも一層のl−TiCN層を備えたTi化合物層を下部層とし、この上にAl層からなる上部層を蒸着形成し、しかも、逃げ面のl−TiCN層の結晶粒界密度を高く、一方、すくい面のl−TiCN層の結晶粒界密度を小さく形成してある本発明の被覆工具は、加熱冷却による熱負荷を受け、かつ、切れ刃に機械的な高負荷が作用する鋼等の湿式高速重切削加工において、硬質被覆層がすぐれた耐熱亀裂性、耐熱性を発揮することを見出したのである。
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、
「(1) 炭化タングステンとTi、Zr、TaおよびNbの各炭化物のうちの1種または2種以上を含む硬質相と主成分がCoからなる結合相を含有する炭化タングステン基超硬合金で構成された工具基体の表面に、下部層と上部層からなる硬質被覆層を蒸着形成してなる表面被覆切削工具において、
(a)上記下部層は、3〜15μmの合計平均層厚を有し、少なくとも1層の縦長成長結晶組織を有するTiの炭窒化物層を含むTi化合物層からなり、
(b)上記上部層は、3〜15μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層からなり、
(c)工具基体の逃げ面に形成された上記縦長成長結晶組織を有するTiの炭窒化物層の結晶粒界密度は、工具基体のすくい面に形成された上記縦長成長結晶組織を有するTiの炭窒化物層の結晶粒界密度より高いことを特徴とする表面被覆切削工具。
(2) 逃げ面およびすくい面に形成された上記縦長成長結晶組織を有するTiの炭窒化物層のそれぞれについて、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、上記層の縦断面研磨面の幅30(μm)×厚さT(μm)を測定領域とし、該測定領域に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記縦断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定傾斜角から、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度を求め、また、前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を粒界であるとした上で、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、層の縦断面研磨面における上記測定領域について、粒界として識別される部分のうち前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が15度以上の粒界の合計長さ(μm)を求めたとき、逃げ面の上記測定領域で求められた粒界の合計長さG(μm)とすくい面の上記測定領域で求められた粒界の合計長さG(μm)は、G/G>1.5の関係を満足することを特徴とする前記(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3) 工具基体表面と隣接する下部層の最下層として、0.1〜1.0μmの平均層厚を有するTiの窒化物層が形成されていることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
つぎに、この発明について、詳細に説明する。
(a)下部層(Ti化合物層)
少なくとも、TiC層、TiN層、粒状結晶組織のTiCN層(以下、粒状結晶組織のTiCNを、単に、TiCNで示す。)、l−TiCN層、TiCO層、TiCNO層のいずれかからなるTi化合物層は、それぞれが所定の高温強度を有し、これの存在によって硬質被覆層が高温強度を具備するようになるほか、工具基体と上部層のいずれにも強固に密着し、硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用をもつが、その合計平均層厚が3μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その合計平均層厚が15μmを越えると、特に、切刃部に対して高負荷がかかった場合にチッピングを起し易くなることから、その合計平均層厚は3〜15μmと定めた。
(b)下部層のl−TiCN層
本発明では、被覆形成する下部層のうち、少なくとも1つの層はl−TiCN層で構成することを必要とし、しかも、工具基体の逃げ面に形成したl−TiCN層における結晶粒界密度は、工具基体のすくい面に形成したl−TiCN層の結晶粒界密度より高くすることが必要である。
ここで、l−TiCN層における結晶粒界密度とは、次のように定義する。
WC超硬合金からなる工具基体のすくい面及び逃げ面にそれぞれ蒸着形成したl−TiCN層について、図1(a),(b)に概略説明図で例示される通り、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、上記層の縦断面研磨面の幅30(μm)×厚さT(μm)を測定領域(但し、T(μm)は、測定対象であるl−TiCN層の層厚以下である)とし、該測定領域内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記縦断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定傾斜角から、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度を求め、また、前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を粒界であるとした上で、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、層の縦断面研磨面における上記測定領域について、粒界として識別される部分のうち前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が15度以上の粒界の合計長さ(μm)を求めたとき、
逃げ面の上記測定領域で求められたl−TiCNの粒界の合計長さG(μm)を、逃げ面の測定領域の面積で除した割合、即ち、G/(30×T)で表される単位面積当たりの粒界の合計長さを、逃げ面のl−TiCNの結晶粒界密度「ρ」という。
同様に、上記で求めたすくい面の上記測定領域で求められたl−TiCNの粒界の合計長さG(μm)を、すくい面の測定領域の面積で除した割合、即ち、G/(30×T)で表される単位面積当たりの粒界の合計長さを、すくい面のl−TiCNの結晶粒界密度「ρ」という。
本発明で、被覆工具がすぐれた耐熱亀裂性、耐熱塑性変形性を備えるためには、上記l−TiCNの結晶粒界密度ρ,ρ(あるいは、G,G)は、
ρ/ρ
=[G/(30×T)]/[G/(30×T)]
=G/G>1.5
の関係を満足することが必要である。
ρ/ρ(=G/G)の値が1.5以下の場合には、すくい面における耐熱亀裂性が十分でないため、特に、湿式高速重切削加工において、熱亀裂発生防止効果が少なく、これによって、硬質被覆層のチッピング、剥離等の異常損傷が発生するため、ρ/ρ(=G/G)>1.5とすることが必要である。
また、上記l−TiCNの結晶粒界密度ρ,ρについては、
ρ=3.0以上、
ρ=1.7以上であることが望ましく、
ρ=4.5〜5.1、
ρ=2.0〜2.6であることがさらに望ましい。
また、上記結晶粒界密度の比ρ/ρ(=G/G)については、
ρ/ρ(=G/G)=1.6以上であることが望ましく、
ρ/ρ(=G/G)=1.7〜2.1であることがさらに望ましい。
本発明の上記結晶粒界密度ρ,ρ、結晶粒界密度比ρ/ρ(=G/G)を備えるl−TiCN層の形成法は、例えば、次のように行う。
所定の原料粉末と所定の焼結条件によって、硬質相としてWCとTiC、ZrC、TaCおよびNbCのうちの1種または2種以上を含み、また、結合相としてCoを含有するWC基超硬合金焼結体からなる工具基体を作製した後、工具基体のすくい面には強靭層が形成されたままとし、一方、工具基体の逃げ面には研磨加工を施す。
次いで、工具基体をCVD装置内に装入し、工具基体に隣接する第1の下部層として0.1〜1.0μmのTiN層を工具基体のすくい面及び逃げ面に蒸着形成した後、逃げ面に形成したTiN層の表面に、Al23砥粒を配合した研磨液を、0.1〜0.15MPaの噴射圧力で噴射してウエットブラスト等を施して表面を平滑化する。
次いで、CVD装置内で、Ti化合物層を蒸着して下部層を形成(但し、少なくとも1層は、l−TiCN層を蒸着する)し、この上に、Al層を蒸着して上部層を形成することにより、逃げ面とすくい面でのl−TiCNの結晶粒界密度がρ/ρ(=G/G)>1.5
の関係を満足する本発明の被覆工具を製造することができる。
上記の製造方法において、ρ(G),ρ(G)の値は、ウエットブラストの投射圧力、l−TiCN成膜時のTiCl量,CHCN量,N量等の条件を調整することによって、所望の値とすることができる。
(c)上部層(Al層)
上部層のAl層は、基本的に、硬質被覆層の耐摩耗性を維持する作用があるが、その平均層厚が3μm未満では、長期の使用に亘っての耐摩耗性を確保することができず、一方、その一層平均層厚が15μmを越えるとAl結晶粒の粗大化による高温硬さ、高温強度が低下しやすくなり、高送り等の高速湿式重切削加工時の耐チッピング性、耐摩耗性が低下するようになることから、その平均層厚を3〜15μmと定めた。
なお、切削工具の使用前後の識別を目的として、黄金色の色調を有するTiN層を、必要に応じ上部層最表面に蒸着形成してもよいが、この場合の平均層厚は0.1〜1μmでよい。これは0.1μm未満では、十分な識別効果が得られず、一方前記TiN層による前記識別効果は1μmまでの平均層厚で十分であるという理由からである。
また、本発明の被覆工具に対して、上部層のAl層表面または上部層最表面のTiN層表面に、ブラシ、ブラスト等による機械的処理を行うことを何ら妨げるものではない。
この発明の被覆工具は、加熱冷却による熱負荷を受け、かつ、切れ刃に機械的な高負荷が作用する鋼等の湿式高速重切削加工で、硬質被覆層がすぐれた耐熱亀裂性、耐熱性を発揮し、チッピング、剥離、偏摩耗等の発生もなく、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性、耐熱塑性変形性を発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関するものである。
(a)、(b)は、硬質被覆層の下部層のl−TiCN層における、結晶粒の(001)面および(011)面の傾斜角の測定態様を示す概略説明図である。
つぎに、この発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr粉末、TiN粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、ISO・CNMG120412に規定するインサート形状をもち、かつ、その表面に強靭層が形成されたWC基超硬合金製の工具基体A〜Fを製造した。
つぎに、これらの工具基体A〜Fの逃げ面となる表面に、研磨加工を施し強靭層を除去し、切刃部にR:0.07mmのホーニング加工を施した後、通常の化学蒸着装置を用い、表2に示される条件、かつ、表4に示される組み合わせで、工具基体表面と隣接する第1の下部層としてのTiN層を蒸着形成する。
次いで、逃げ面に蒸着形成したTiN層に対して、表3に示される条件でウエットブラストを施すことによりTiN層表面を平滑化する。
次いで、工具基体表面に形成した上記第1の下部層(TiN層)の上に、表2に示される条件、かつ、表4に示される組み合わせで、Ti化合物層を蒸着し、下部層を形成する。ここで、Ti化合物層のうちの少なくとも1つの層として、l−TiCN層(縦長成長結晶組織を有するTiCN層)を蒸着する。
次いで、上記下部層の上に、Al層を、表2に示される条件、かつ、表4に示される組み合わせで蒸着形成し、
上記下部層と上記上部層からなる硬質被覆層を有する本発明被覆工具1〜10を製造した。
また、比較の目的で、工具基体A〜Fの一部について、すくい面を研磨加工後、本発明被覆工具と同様のブレーカを研磨等で加工し、切刃部にR:0.07mmのホーニング加工を施した後、通常の化学蒸着装置を用い、表2に示される条件、かつ、表5に示される組み合わせで、蒸着形成し、
上記下部層と上記上部層からなる硬質被覆層を有する比較被覆工具1〜10を製造した。
ついで、上記の本発明被覆工具と比較被覆工具の逃げ面及びすくい面に形成された硬質被覆層の下部層のl−TiCN層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用いて、上記各層の縦断面研磨面のG(μm),G(μm)を測定し、ρ,ρ,ρ/ρ(=G(μm)/G(μm))の比の値を求めた。
すなわち、逃げ面及びすくい面の各l−TiCN層の縦断面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記縦断面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、所定測定領域を0.1μm/stepの間隔で、前記縦断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度を求め、さらに、前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を粒界であるとして設定した上で、電界放出型走査電子顕微鏡により、l−TiCN層の縦断面研磨面の測定領域(層厚T(μm)×幅30(μm)の範囲の領域)を走査し、該測定領域内で、粒界として識別される部分のうちで前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が15度以上の粒界について、逃げ面及びすくい面のl−TiCNについて測定された粒界の合計長さG(μm),G(μm)をそれぞれ測定した。
そして、逃げ面及びすくい面のl−TiCNについて、それぞれの結晶粒界密度を、ρ=G(μm)/(層厚T(μm)×幅30(μm)),ρ=G(μm)/(層厚T(μm)×幅30(μm))として求め、結晶粒界密度比ρ/ρの値を算出した。
本発明被覆工具および比較被覆工具の逃げ面及びすくい面における、l−TiCN層についてのG,G,ρ,ρ,ρ/ρ(=G/G)の値を、それぞれ表6、7に示した。
表6、7にそれぞれ示される通り、本発明被覆工具のl−TiCN層は、いずれもρ/ρ(=G/G)の値が1.5を超えているのに対して、比較被覆工具のl−TiCN層は、いずれもρ/ρ(=G/G)の値が1.5以下であった。
さらに、上記の本発明被覆工具1〜10および比較被覆工具1〜10について、これらの硬質被覆層の構成層を電子線マイクロアナライザー(EPMA)およびオージェ分光分析装置を用いて観察(層の縦断面を観察)したところ、両者、目標組成と実質的に同じ組成を有するTi化合物層(l−TiCN層も含む)とAl層からなることが確認された。
また、これらの被覆工具の硬質被覆層の下部層の層厚および上部層の層厚を、走査型電子顕微鏡を用いて測定(同じく縦断面測定)したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均層厚(いずれも、5点測定の平均値)を示した。
つぎに、上記の各種の被覆工具をいずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明被覆工具1〜10および比較被覆工具1〜10について、
被削材:JIS・SCM440の丸棒、
切削速度: 400 m/min、
切り込み: 4.0 mm、
送り: 0.5 mm/rev、
切削時間: 12 分、
の条件(切削条件A)での合金鋼の湿式高速高送り連続切削試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、200m/min、0.25mm/rev)、
被削材:JIS・SNCM439の丸棒、
切削速度: 350 m/min、
切り込み: 4 mm、
送り: 0.5 mm/rev、
切削時間: 12 分、
の条件(切削条件B)での合金鋼の湿式高速高送り連続切削試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、200m/min、0.25mm/rev)、
被削材:JIS・S45Cの丸棒、
切削速度: 400 m/min、
切り込み: 4.5 mm、
送り: 0.5 mm/rev、
切削時間: 12 分、
の条件(切削条件C)での炭素鋼の湿式高速高送り連続切削試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、200m/min、0.3mm/rev)、
を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表8に示した。
Figure 0005625867
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表6〜8に示される結果から、本発明被覆工具1〜10は、いずれも硬質被覆層の下部層の逃げ面に形成されたl−TiCN層の結晶粒界密度ρが、工具基体のすくい面に形成されたl−TiCN層の結晶粒界密度ρより高いことから、加熱冷却による熱負荷を受け、かつ、切れ刃に機械的な高負荷が作用する湿式高速重切削加工で、硬質被覆層がすぐれた耐熱亀裂性、耐熱性を発揮し、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性、耐熱塑性変形性を発揮する。
これに対して、硬質被覆層の下部層の逃げ面に形成されたl−TiCN層の結晶粒界密度ρが、工具基体のすくい面に形成されたl−TiCN層の結晶粒界密度ρと同程度あるいは小さいものは、湿式高速重切削加工において、短時間で熱亀裂が発生し、あるいは、熱亀裂の進展によりチッピング、剥離が発生したり、偏摩耗の発生により、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
上述のように、この発明の被覆工具は、各種鋼や鋳鉄などの通常の条件での連続切削や断続切削は勿論のこと、加熱冷却による熱負荷を受け、かつ、切れ刃に機械的な高負荷が作用する湿式高速重切削加工でも硬質被覆層がすぐれた耐熱亀裂性、耐熱性を示し、長期に亘ってすぐれた切削性能を発揮するものであるから、切削装置の高性能化並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。

Claims (3)

  1. 炭化タングステンとTi、Zr、TaおよびNbの各炭化物のうちの1種または2種以上を含む硬質相と主成分がCoからなる結合相を含有する炭化タングステン基超硬合金で構成された工具基体の表面に、下部層と上部層からなる硬質被覆層を蒸着形成してなる表面被覆切削工具において、
    (a)上記下部層は、3〜15μmの合計平均層厚を有し、少なくとも1層の縦長成長結晶組織を有するTiの炭窒化物層を含むTi化合物層からなり、
    (b)上記上部層は、3〜15μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層からなり、
    (c)工具基体の逃げ面に形成された上記縦長成長結晶組織を有するTiの炭窒化物層の結晶粒界密度は、工具基体のすくい面に形成された上記縦長成長結晶組織を有するTiの炭窒化物層の結晶粒界密度より高いことを特徴とする表面被覆切削工具。
  2. 逃げ面およびすくい面に形成された上記縦長成長結晶組織を有するTiの炭窒化物層のそれぞれについて、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、上記層の縦断面研磨面の幅30(μm)×厚さT(μm)を測定領域とし、該測定領域内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記縦断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定傾斜角から、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度を求め、また、前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を粒界であるとした上で、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、層の縦断面研磨面における上記測定領域について、粒界として識別される部分のうち前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が15度以上の粒界の合計長さ(μm)を求めたとき、逃げ面の上記測定領域で求められた粒界の合計長さG(μm)とすくい面の上記測定領域で求められた粒界の合計長さG(μm)は、G/G>1.5の関係を満足することを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
  3. 工具基体表面と隣接する下部層の最下層として、0.1〜1.0μmの平均層厚を有するTiの窒化物層が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の表面被覆切削工具。
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