JP5267766B2 - 表面被覆切削工具 - Google Patents
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(a)下部層が、いずれも化学蒸着形成された、チタンの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの1層または2層以上からなり、かつ2〜15μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)中間層が、化学蒸着形成された、1〜3μmの平均層厚を有するチタンとアルミニウムの複合炭窒酸化物(以下、(Ti,Al)CNOで示す)層、
(b)上部層が、化学蒸着形成された、1〜15μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム(以下、Al2O3で示す)層、
以上(a)〜(c)で構成された硬質被覆層を形成してなる被覆工具が知られており、この被覆工具が、例えば各種の鋼や鋳鉄などの連続切削や断続切削に用いられていることも知られている。
(a)従来被覆工具の硬質被覆層を構成する中間層としての(Ti,Al)CNO層(以下、従来(Ti,Al)CNO層という)は、例えば、通常の化学蒸着装置にて、
反応ガス組成:容量%で、TiCl4:1〜2%、AlCl3:0.4〜1.5%、CH3CN:0.1〜0.8%、CO2:0.1〜0.5%、HCl:0.2〜0.7%、N2:1〜10%、H2:残り、
反応雰囲気温度:900〜960℃、
反応雰囲気圧力:6〜7kPa、
の条件(通常条件という)で蒸着形成されるが、
この蒸着条件を変更し、
反応ガス組成:容量%で、TiCl4:2〜10%、AlCl3:1〜5%、CO:1〜5%、N2:50〜60%、H2:残り、
反応雰囲気温度:850〜900℃、
反応雰囲気圧力:10〜22kPa、
の条件、目標層厚(1〜3μm)になるまで蒸着形成すると、このような条件で蒸着形成されたチタンとアルミニウムの複合炭窒酸化物((Ti,Al)CNO。以下、「改質(Ti,Al)CNO」という)層は、高温強度及び耐熱性が一段と向上するために、切削時に発生する高熱によって切刃部が過熱されても耐熱塑性変形にすぐれ、偏摩耗の発生も抑制されるので、改質(Ti,Al)CNO層を硬質被覆層の構成層とする被覆工具は、耐熱合金の高速切削加工で、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を示すようになること。
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、図2(a),(b)に概略説明図で例示される通り、縦断面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記縦断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角(図2(a)には前記結晶面のうち(001)面の傾斜角が0度、(011)面の傾斜角が45度の場合、同(b)には(001)面の傾斜角が45度、(011)面の傾斜角が0度の場合を示しているが、これらの角度を含めて前記結晶粒個々のすべての傾斜角)を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にTi、Al、炭素、窒素および酸素からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度を求めた場合に、前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を粒界であるとして設定し、その上で電界放出型走査電子顕微鏡を用い、上記改質(Ti,Al)CNO層の縦断面研磨面を、例えば、層厚×幅30μmの範囲で測定し、粒界として識別される部分のうち前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が15度以上の粒界の長さ(μm。以下、GBLという)を求め、さらに、このGBLと改質(Ti,Al)CNO層の層厚(μm。以下、Tで示す)の比(即ち、GBL/T)を求めると、前記改質(Ti,Al)CNO層は、表4に示される通り、GBL/Tが250〜500という大きな値を示し、この高いGBL/Tの値は、成膜時の反応ガス組成、反応雰囲気温度、反応雰囲気圧力の組み合わせによって変化すること(なお、前記通常条件で蒸着形成された従来(Ti,Al)CNO層は、表7に示される通り、GBL/Tは小さな値である。)。
以上(a)〜(c)に示される研究結果を得たのである。
「WC基超硬合金またはTiCN基サーメットで構成された工具基体の表面に、
炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層が、いずれも化学蒸着形成された、チタンの炭化物層(TiC層)、窒化物層(TiN層)、炭窒化物層(TiCN層)、炭酸化物層(TiCO層)および炭窒酸化物層(TiCNO層)のうちの1層または2層以上からなり、かつ2〜14μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)中間層が、化学蒸着形成された、1〜3μmの平均層厚を有するチタンとアルミニウムの複合炭窒酸化物((Ti,Al)CNO)層、
(c)上部層が、化学蒸着形成された、1〜15μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム(Al2O3)層、
以上(a)〜(c)で構成された硬質被覆層を形成してなる表面被覆切削工具(被覆工具)において、
(d)上記中間層を構成するチタンとアルミニウムの複合炭窒酸化物((Ti,Al)CNO)層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、上記層の縦断面研磨面の幅30μmの測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記縦断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定傾斜角から、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度を求め、また、前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を粒界であるとして設定した上で、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、層の縦断面研磨面における測定領域について、粒界として識別される部分のうち前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が15度以上の粒界の長さ(μm)を求め、この粒界の長さ(μm)と、測定したチタンとアルミニウムの複合炭窒酸化物((Ti,Al)CNO)層の層厚(μm)との比の値が250〜500を示す、ことを特徴とする表面被覆切削工具(被覆工具)。」
に特徴を有するものである。
(a)下部層(Ti化合物層)
TiC層、TiN層、TiCN層(l−TiCN層も含む)、TiCO層およびTiCNO層のうちの1層または2層以上からなるTi化合物層は、それ自体が高温強度を有し、これの存在によって硬質被覆層が高温強度を具備するようになるほか、工具基体と中間層である改質(Ti,Al)CNO層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用をもつが、その合計平均層厚が2μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その合計平均層厚が14μmを越えると、チッピングを起し易くなることから、その合計平均層厚を2〜14μmと定めた。
通常の化学蒸着装置にて、例えば、
反応ガス組成:容量%で、TiCl4:2〜10%、AlCl3: 1〜5%、CO:1〜5%、N2:50〜60%、H2:残り、
反応雰囲気温度:850〜900℃、
反応雰囲気圧力:10〜22kPa、
の条件で化学蒸着することにより形成される改質(Ti,Al)CNO層は、Tiとの合量に占める割合(Al/(Ti+Al))で、0.10〜0.70(但し、原子比)のAlを含有し、そして、格子点にTi、Al、炭素、窒素および酸素からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有しており(図1参照)、さらに、この改質(Ti,Al)CNO層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、縦断面研磨面の測定範囲内に存在する改質(Ti,Al)CNO層の結晶粒個々に電子線を照射して、前記縦断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角(図2参照)を測定し、この結果得られた測定傾斜角から、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度を求め、さらに、前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を粒界であるとして設定した上で、電界放出型走査電子顕微鏡により、改質(Ti,Al)CNO層の縦断面研磨面を、測定領域、例えば、層厚×幅30μmの範囲、で測定し、粒界として識別される部分のうちで前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が15度以上の粒界(以下、大傾角粒界という)についてその粒界の長さGBL(μm)を求め、そして、GBL(μm)と、改質(Ti,Al)CNO層の層厚T(μm)との比を求めると、GBL/Tは250〜500という値を示し、そして、GBL/Tがこのように大きな値を示す改質(Ti,Al)CNO層は、一段とすぐれた耐熱性と高温強度を備えるようになるため、耐熱合金の高速切削加工により、切刃部が過熱されたとしても、硬質被覆層に偏摩耗、熱塑性変形が発生することを抑え、耐摩耗性が低下することを防止することができる。
しかし、GBL/T値が500を超えるようになると、改質(Ti,Al)CNO層自体に脆化傾向がみられるようになり、一方、GBL/T値が250未満の小さな値になると、耐熱性、高温強度が不足し、耐摩耗性の低下を防止することはできないため、GBL/Tの値を250〜500と定めた。
なお、GBL/Tの値は、反応ガス組成、反応雰囲気温度・圧力によって影響され、例えば、従来(Ti,Al)CNO層におけるGBL/Tの値は、50〜150程度の小さな値(表7参照)であって、耐熱性、高温強度の改善が図られていないため、耐熱合金の高速切削という厳しい切削条件では硬質被覆層の耐摩耗性に大幅な低下が見られた(表8参照)。
また、前記改質(Ti,Al)CNO層は、従来(Ti,Al)CNO層に比して一段とすぐれた高温強度を有するようになるとともに、上部層および下部層との層間密着強度も改善し、硬質被覆層全体としての強度向上に寄与するが、その平均層厚が1μm未満では十分な高温強度向上効果を期待できず、一方、その平均層厚が3μmまでであれば十分な耐チッピング性を発揮できることから、その平均層厚を1〜3μmと定めた。
Al2O3層からなる上部層は、すぐれた高温硬さと耐熱性を有し、硬質被覆層の耐摩耗性向上に寄与するが、その平均層厚が1μm未満では、硬質被覆層に十分な耐摩耗性を発揮せしめることができず、一方その平均層厚が15μmを越えて厚くなりすぎると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1〜15μmと定めた。
ついで、中間層としての改質(Ti,Al)CNO層を、表4に示される条件で、表6に示される組み合わせ、かつ、同じく表6に示される目標層厚で蒸着形成し、その後、同じく表3に示される条件にて、上部層としてのAl2O3層を同じく表6に示される目標層厚で蒸着形成することにより本発明被覆工具1〜13をそれぞれ製造した。
ついで、中間層としての従来(Ti,Al)CNO層を、表5に示される条件で、表7に示される組み合わせ、かつ、同じく表7に示される目標層厚で蒸着形成し、その後、同じく表3に示される条件にて、上部層としてのAl2O3層を同じく表7に示される目標層厚で蒸着形成することにより従来被覆工具1〜13をそれぞれ製造した。
すなわち、上記の改質(Ti,Al)CNO層および従来(Ti,Al)CNO層の縦断面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記縦断面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、所定測定領域を0.1μm/stepの間隔で、前記縦断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度を求め、さらに、前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を粒界であるとして設定した上で、電界放出型走査電子顕微鏡により、(Ti,Al)CNO層の縦断面研磨面の測定領域(層厚×幅30μmの範囲の領域)を走査し、該測定領域内で、粒界として識別される部分のうちで前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が15度以上の粒界についてその粒界の長さGBL(μm)を求めた。そして、GBL(μm)と、(Ti,Al)CNO層の層厚T(μm)との比の値((Ti,Al)CNO層の単位層厚当たりの粒界の長さに相当)を求めた。
また、これらの被覆工具の硬質被覆層の構成層の厚さを、走査型電子顕微鏡を用いて測定(同じく縦断面測定)したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均層厚(5点測定の平均値)を示した。
被削材: Ni:54%、Cr:19%、Mo:3%、Nb:5%、Fe:18.5%を含有するNi基耐熱合金の丸棒、
切削速度: 100 m/min、
切り込み: 2.5 mm、
送り: 0.2 mm/rev、
切削時間: 8 分、
の条件(切削条件A)でのNi基耐熱合金の湿式高速連続切削試験(通常の切削速度は、50m/min)、
被削材: Ni:42.7%、Cr:13.5%、Mo:6.2%、Fe:34%を含有するFe基耐熱合金の丸棒、
切削速度: 150 m/min、
切り込み: 1.0 mm、
送り: 0.5 mm/rev、
切削時間: 8 分、
の条件(切削条件B)でのFe基耐熱合金の湿式高速連続切削試験(通常の切削速度は、80m/min)、
被削材: Co:61%、Ni:3%、Cr:28%、W:4%、Fe:3%を含有するCo基耐熱合金の丸棒、
切削速度: 130 m/min、
切り込み: 2.5 mm、
送り: 0.25 mm/rev、
切削時間: 8 分、
の条件(切削条件C)でのCo基耐熱合金の湿式高速連続切削試験(通常の切削速度は、60m/min)、
を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表8に示した。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層が、いずれも化学蒸着形成された、チタンの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ2〜14μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)中間層が、化学蒸着形成された、1〜3μmの平均層厚を有するチタンとアルミニウムの複合炭窒酸化物層、
(c)上部層が、化学蒸着形成された、1〜15μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層、
以上(a)〜(c)で構成された硬質被覆層を形成してなる表面被覆切削工具において、
(d)上記中間層を構成するチタンとアルミニウムの複合炭窒酸化物層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、上記層の縦断面研磨面の幅30μmの測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記縦断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定傾斜角から、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度を求め、また、前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を粒界であるとして設定した上で、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、層の縦断面研磨面における測定領域について、粒界として識別される部分のうち前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が15度以上の粒界の長さ(μm)を求め、この粒界の長さ(μm)と、測定したチタンとアルミニウムの複合炭窒酸化物層の層厚(μm)との比の値が250〜500を示す、ことを特徴とする表面被覆切削工具。
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