JP4752536B2 - 高硬度材の高速断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具 - Google Patents
高硬度材の高速断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具 Download PDFInfo
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(a)下地層として、1〜10μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式;(Ti1−XCrX)C1−YNY (ただし、原子比で、X:0.01〜0.1、Y:0.35〜0.55)を満足するTiとCrの複合炭窒化物(以下、(Ti,Cr)CNで示す)層、
(b)下部層としてTi炭窒化物層、
(c)上部層として酸化アルミニウム層、かつ、下部層と上部層の合計平均層厚は10〜30μm、
以上(a)〜(c)で構成された下地層、下部層及び上部層からなる硬質被覆層を、工具基体側から順に化学蒸着で形成した表面被覆サーメット製切削工具が知られており、この被覆サーメット工具が、例えば各種の鋼や鋳鉄などの連続切削や断続切削に用いられていることも知られている。
(a)従来被覆サーメット工具の硬質被覆層を構成する下部層としてのTiCN層は、例えば、通常の化学蒸着装置にて、
反応ガス組成:容量%で、TiCl4:2〜10%、CH3CN:0.5〜3%、N2:10〜30%、H2:残り、
反応雰囲気温度:800〜900℃、
反応雰囲気圧力:6〜20kPa、
の条件(通常条件という)で蒸着形成されるが、これを、
反応ガス組成:容量%で、TiCl4:0.1〜0.8%、CH3CN:0.05〜0.3%、Ar:10〜30%、H2:残り、
反応雰囲気温度:930〜1000℃、
反応雰囲気圧力:6〜20kPa、
の条件、すなわち上記の通常条件に比して、反応ガス組成では、TiCl4およびCH3CNを相対的に低く、かつN2ガスに代ってArガスを添加し、さらに雰囲気温度を相対的に高くした条件(反応ガス組成調整高温条件)で蒸着形成すると、この結果の反応ガス組成調整高温条件で形成したTiCN層(以下、「改質TiCN層」という)は、高温強度が一段と向上し、すぐれた耐機械的衝撃性を具備するようになることから、硬質被覆層の下地層が前記(Ti,Cr)CN層、下部層が前記改質TiCN層、上部層が前記Al2O3層、からなる被覆サーメット工具は、特に、合金工具鋼や軸受鋼の焼入れ材等のような高硬度材の激しい機械的衝撃を伴う高速断続切削加工でも、前記硬質被覆層はすぐれた耐チッピング性を発揮し、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を示すようになること。
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、図2(a),(b)に概略説明図で例示される通り、表面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角(図2(a)には前記結晶面のうち(001)面の傾斜角が0度、(011)面の傾斜角が45度の場合、同(b)には(001)面の傾斜角が45度、(011)面の傾斜角が0度の場合を示しているが、これらの角度を含めて前記結晶粒個々のすべての傾斜角)を測定し、この場合前記結晶粒は、上記の通り格子点にTi、炭素、および窒素からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(NはNaCl型面心立方晶の結晶構造上2以上の偶数となる)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表し、個々のΣN+1がΣN+1全体(ただし、頻度の関係でNの上限値を28とする)に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフを作成した場合、いずれのTiCN層もΣ3に最高ピークが存在するが、前記従来TiCN層は、図4に例示される通り、Σ3の分布割合が30%以下の相対的に低い構成原子共有格子点分布グラフを示すのに対して、前記改質TiCN層は、図3に例示される通り、Σ3の分布割合が60%以上のきわめて高い構成原子共有格子点分布グラフを示し、この高いΣ3の分布割合は、反応ガスを構成するTiCl4、CH3CNおよびArの含有量、さらに雰囲気反応温度によって変化すること。
以上(a)〜(c)に示される研究結果を得たのである。
(a)0.5〜2.0μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式;(Ti1−XCrX)C1−YNY (ただし、原子比で、X:0.01〜0.1、Y:0.35〜0.55)を満足するTiとCrの複合炭窒化物層((Ti,Cr)CN層)からなる下地層、
(b)2.5〜15μmの合計平均層厚を有するTi炭窒化物層(TiCN層)からなる下部層、
(c)0.1〜1μmの平均層厚を有する、炭酸化チタン層(TiCO層)および炭窒酸化チタン層(TiCNO層)のうちのいずれか1層、または両層からなる層間密着層、
(d)1〜15μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層(Al2O3層)からなる上部層、
以上(a)〜(d)で構成された硬質被覆層を、工具基体側から下地層、下部層、層間密着層及び上部層の順で化学蒸着により形成してなる表面被覆サーメット製切削工具において、
上記(b)のTi炭窒化物層(TiCN層)は、
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にTi、炭素、および窒素からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(NはNaCl型面心立方晶の結晶構造上2以上の偶数となる)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で現した場合、個々のΣN+1がΣN+1全体(ただし、頻度の関係で上限値を28とする)に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフにおいて、Σ3に最高ピークが存在し、かつ前記Σ3のΣN+1全体に占める分布割合が60%以上である構成原子共有格子点分布グラフを示すTi炭窒化物層、
で構成したことを特徴とする高硬度材の高速断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する被覆サーメット工具に特徴を有するものである。
(a)(Ti,Cr)CN層(下地層)
組成式;(Ti1−XCrX)C1−YNY (ただし、原子比で、X:0.01〜0.1、Y:0.35〜0.55)を満足するTiとCrの複合炭窒化物層((Ti,Cr)CN層)は、複合炭窒化物中のTi成分が高温硬さの向上に寄与し、また、同Cr成分が高温強度の向上に寄与し、さらに、C成分には層の硬さを向上させ、N成分には層の強度を向上させる作用があり、したがって、層中のCr成分の含有割合(X値)が0.01未満あるいは層中のN成分の含有割合(Y値)が0.35未満では、下地層に所望の高温強度を付与することができず、一方、X値が0.1を越えたり、Y値が0.55を越えたりすると、所望の高温硬さを確保することが難しくなることから、X値を0.01〜0.1に、また、Y値を0.35〜0.55に定めた。X値、Y値を上記のとおり定めたことにより、(Ti,Cr)CN層は、すぐれた高温硬さとすぐれた高温強度を備えた下地層となるが、同時に、上記組成割合の(Ti,Cr)CN層は、熱膨張特性がTiCN層よりも大きいため、下地層上に改質TiCN層からなる下部層を成膜した際に、下部層に圧縮残留応力を付与し、改質TiCN層(下部層)へのクラックの導入を抑制することができ、その結果として、改質TiCN層からなる下部層の高温強度をさらに向上させることができる。ただ、(Ti,Cr)CN層からなる下地層の平均層厚が0.5μm未満では、すぐれた高温硬さとすぐれた高温強度を期待することはできず、一方、その平均層厚が2.0μmを越えると偏摩耗の原因となる熱塑性変形が発生しやすくなり、耐摩耗性が低下することから、下地層の平均層厚を0.5〜2.0μmと定めた。
上記の改質TiCN層の構成原子共有格子点分布グラフにおけるΣ3の分布割合は、上記の通り反応ガスを構成するTiCl4、CH3CNおよびArの含有量、さらに雰囲気反応温度を調整することによって、60%以上とすることができるが、この場合Σ3の分布割合が60%未満では、高速断続切削加工で、硬質被覆層にチッピングが発生しない程度にすぐれた高温強度向上効果を確保することができず、したがってΣ3の分布割合は高ければ高いほど望ましい。ただ、Σ3の分布割合を80%を越えて高くすることは層形成上困難であることから、実施上のΣ3の分布割合の上限値は80%程度となる。このように改質TiCN層は、下地層として(Ti,Cr)CN層を設けたことと相俟って、通常条件で蒸着形成した従来TiCN層のもつ高温硬さと高温強度に加えて、さらに、一段とすぐれた高温強度を有するようになるが、その平均層厚が2.5μm未満では所望のすぐれた高温強度向上効果を硬質被覆層に十分に具備せしめることができず、一方その平均層厚が15μmを越えると、偏摩耗の原因となる熱塑性変形が発生し易くなり、摩耗が加速するようになることから、その平均層厚を2.5〜15μmと定めた。
TiCO層およびTiCNO層は、下部層である改質TiCN層および上部層であるAl2O3層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用をもつが、その平均層厚が0.1μm未満では、所望の密着性を確保することができず、一方前記のすぐれた密着性は1μmの平均層厚で十分確保できることから、その平均層厚を0.1〜1μmと定めた。
Al2O3層は、すぐれた高温硬さと耐熱性を有し、硬質被覆層の耐摩耗性向上に寄与するが、その平均層厚が1μm未満では、硬質被覆層に十分な耐摩耗性を発揮せしめることができず、一方その平均層厚が15μmを越えて厚くなりすぎると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1〜15μmと定めた。
(a)まず、硬質被覆層の下地層である(Ti,Cr)CN層を、
反応ガス組成:容量%で、TiCl4:3〜10%の範囲内の所定量、CrF5:0.1〜0.4%の範囲内の所定量、CH3CN:0.5〜3%の範囲内の所定量、N2:20〜40%の範囲内の所定量、H2:残り、
反応雰囲気温度:800〜900℃の範囲内の所定温度、
反応雰囲気圧力:6〜20kPaの範囲内の所定圧力、
の表3に示される条件で、かつ、表6に示される組み合わせと目標平均層厚で蒸着形成し、
(b)つぎに、下部層である改質TiCN層を、
反応ガス組成:容量%で、TiCl4:0.1〜0.8%の範囲内の所定量、CH3CN:0.05〜0.3%の範囲内の所定量、Ar:10〜30%の範囲内の所定量、H2:残り、
反応雰囲気温度:930〜1000℃の範囲内の所定温度、
反応雰囲気圧力:6〜20kPa、
の表4に示される条件で、かつ、表6に示される組み合わせと目標平均層厚で蒸着形成し、
(c)ついで、層間密着層としてのTiCO層およびTiCNO層のいずれか、または両方を、表3に示される条件で、かつ、表6に示される組み合わせと目標平均層厚で蒸着形成し、
(d)最後に、上部層としてのAl2O3層を、表3に示される条件で、かつ、表6に示される組み合わせと目標平均層厚で蒸着形成することにより本発明被覆サーメット工具1〜13をそれぞれ製造した。
反応ガス組成:容量%で、TiCl4:2〜10%の範囲内の所定量、CH3CN:0.5〜3%の範囲内の所定量、N2:10〜30%の範囲内の所定量、H2:残り、
反応雰囲気温度:800〜900℃の範囲内の所定温度、
反応雰囲気圧力:6〜20kPaの範囲内の所定圧力、
の表5に示される条件で、かつ、表7に示される組み合わせと目標平均層厚で蒸着形成し、従来被覆サーメット工具1〜13をそれぞれ製造した。なお、下地層、層間密着層および上部層の形成条件(即ち、上記手順(a)、(c)、(d))は、本発明被覆サーメット工具1〜13の場合と全く同様である。
すなわち、上記構成原子共有格子点分布グラフは、上記の改質TiCN層および従来TiCN層の表面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記表面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(NはNaCl型面心立方晶の結晶構造上2以上の偶数となる)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で現した場合、個々のΣN+1がΣN+1全体(ただし、頻度の関係で上限値を28とする)に占める分布割合を求めることにより作成した。
なお、図3は、本発明被覆サーメット工具6の改質TiCN層の構成原子共有格子点分布グラフ、図4は、従来被覆サーメット工具6の従来TiCN層の構成原子共有格子点分布グラフをそれぞれ示すものである。
被削材:JIS・SKD8の焼入れ材(硬さ:HRC53)の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:240 m/min、
切り込み:0.7 mm、
送り:0.12 mm/rev、
切削時間:7 分、
の条件(切削条件A)での合金工具鋼の乾式高速断続切削試験(通常の切削速度は130m/min)、
被削材:JIS・SKT6の焼入れ材(硬さ:HRC58)の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:230 m/min、
切り込み:0.65 mm、
送り:0.13 mm/rev、
切削時間:7 分、
の条件(切削条件B)での合金工具鋼の乾式高速断続切削試験(通常の切削速度は120m/min)、
被削材:JIS・SUJ3の焼入れ材(硬さ:HRC55)の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:220 m/min、
切り込み:0.68 mm、
送り:0.13 mm/rev、
切削時間:7 分、
の条件(切削条件C)での軸受鋼の乾式高速断続切削試験(通常の切削速度は100m/min)を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表8に示した。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)0.5〜2.0μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式;(Ti1−XCrX)C1−YNY (ただし、原子比で、X:0.01〜0.1、Y:0.35〜0.55)を満足するTiとCrの複合炭窒化物層からなる下地層、
(b)2.5〜15μmの合計平均層厚を有するTi炭窒化物層からなる下部層、
(c)0.1〜1μmの平均層厚を有する、炭酸化チタン層および炭窒酸化チタン層のうちのいずれか1層、または両層からなる層間密着層、
(d)1〜15μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層からなる上部層、
以上(a)〜(d)で構成された硬質被覆層を、工具基体側から下地層、下部層、層間密着層及び上部層の順で化学蒸着により形成してなる表面被覆サーメット製切削工具において、
上記(b)のTi炭窒化物層は、
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にTi、炭素、および窒素からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(NはNaCl型面心立方晶の結晶構造上2以上の偶数となる)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で現した場合、個々のΣN+1がΣN+1全体(ただし、頻度の関係で上限値を28とする)に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフにおいて、Σ3に最高ピークが存在し、かつ前記Σ3のΣN+1全体に占める分布割合が60%以上である構成原子共有格子点分布グラフを示すTi炭窒化物層、
で構成したことを特徴とする高硬度材の高速断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具。
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